炭鉱町変容モデル


■炭鉱町の誕生

炭鉱町は石炭の採掘が始まると同時に誕生します。 炭鉱は今までほとんど人の住まない土地に突然形成されることが多いので、 周囲の土地はほとんどを企業の私有地が占めてしまう場合が多く、その土地利用も企業の意思で決定されていきます。 企業は炭鉱労働者のための炭鉱住宅、そしてその居住者のための企業的商業施設などを配置していきます。 企業的商業施設は小さな炭鉱では生協などの日常品の購買施設のみですが、炭鉱の規模が大きくなるほど娯楽的施設も多数配置されていきます。

一般の個人商店はわずかに存在する企業の私有地以外の土地、もしくは企業の私有地を借用する形で立地が進みます。 炭鉱住宅の集中する中には入り込む余地はなく若干離れた主要幹線道路に立ち並ぶのが一般的です。

公共施設も企業の生産活動には直接的な利益をもたらさないため、炭鉱住宅の縁辺部に学校が、主要幹線道路沿いに役所が造られる場合がほとんどです。

炭鉱を中心にした同心円状の炭鉱町がこうして生まれ、炭鉱が生産活動を拡大すればするほど、その炭鉱町は拡大を続けます。 無論、山間の炭鉱町も多いので正確には同心円状にはなりません。

■閉山後の縮小

炭鉱町は炭鉱が唯一の産業である場合がほとんどです。 そのため閉山はその炭鉱町の存在意義を失わせます。

そしてそれまでサブ的な立場であった地方自治体がその町を維持するために重要になっていきます。 この地方自治体の中心地がその炭鉱町に存在しない場合、炭鉱町の衰退は急速に進んでいきます。

企業の影響を受けていた地区のほとんどは短い期間で縮小、消滅していきます。 炭鉱住宅は個人への払い下げ、地方自治体への払い下げが利便性の高い炭鉱住宅を主に行われ、 それ以外の炭鉱住宅は消滅していきます。 企業的商業地区も炭鉱住宅の縮小と同時に閉鎖されます。

一般商業地区は意思決定が個人に委ねられるため、急速な炭鉱町の衰退に一歩遅れをとる形で縮小していきます。 最終的には娯楽施設などではなく、わずかに日常品を売る店が残るだけになります。 炭鉱住宅の場合は取り壊しは企業、もしくは地方自治体の手により行われていきますが、 商店は個人の所有物なのでなかなか取り壊しが行われず長期間放置されるゴーストタウンの様相を呈することさえもあります。

■閉山後の施策

炭鉱町の衰退を食い止めるために地方自治体は様々なことを行っていきます。 バブル期には第3セクターによってレジャー施設が建設されました。 しかしながらレジャー施設の多くは一時的には観光客を呼び込むのですが、 恒久的には集めることはできず、観光客は減少していきました。 レジャー施設の中には閉鎖されるものもでてきています。

また地方自治体、地域公団などの手による工業団地への企業誘致なども行われてきました。 旧産炭地の工業団地への誘致には優遇措置もとられ、利便性の良い工業団地には企業も進出し、一定の効果をあげています。

また炭鉱住宅の老朽化が進んでいくため、それに変わる公営住宅の建設等も行われていきます。 急激な人口減少に伴い、地方自治体も財政の悪化が進むため、それらの住宅は集約が進みます。

閉山時の急激な衰退とそれ以後のゆるやかな衰退の中で、取るべき施策は難しいものがあります。 しかしながら今、その地に残る人にやさしい町であって欲しいと私は常に考えています。


用語解説


■炭鉱
地図上の炭鉱とは炭鉱の生産に関わる施設全般を指しています。 炭鉱の場合は精練施設などは存在しないため、炭鉱採掘及び輸送関連が大部分になります。 石炭の輸送は鉄道に委ねられる場合が多く、国鉄、炭鉱鉄道の専用線が炭鉱に一般的には隣接しています。
■炭鉱住宅
炭鉱住宅は炭鉱に働く人のための居住の施設でした。 水道などのサービスも企業が安価で供給する場合がほとんどで、企業に大きく依存した住宅群です。 初期の住宅は炭鉱長屋と呼ばれる平屋の細長いものが主体でしたが、 時代を経るにつれコンクリート2階建てのものも多数現れ、3〜4階建てのものも存在します。 土地利用に制限が多い場所では特に高層化が進み、高層住宅建設の先駆け的なものもあります。 また企業の思惑により住宅の良さに差があったのも事実です。
■企業的商業地区
企業的商業地区は企業の手により行われるサービス施設全般を指しています。 生協のような小売りスーパー、銭湯などが炭鉱住宅の中心部に集中して立地する場合が多いです。 炭鉱住宅に住み、日常の買い物などをこれらの施設ですると、本当に一企業に依存した生活をすることになります。 大きな炭鉱町では映画館、ボーリング場などの娯楽施設さえもがありました。
■一般的商業地区
一般的商業地区は炭鉱町において企業の支配の隙間をぬってできた空間です。 炭鉱町へ向かう主要道路沿いなどに立地します。
■公共施設
公共施設には大きく分けて役所の中枢機構とその関連の学校などの施設があります。 役所の中枢機構は炭鉱の中心地からは離れた主要道路沿いに配置されます。 しかしながらひとつの炭鉱町にひとつの行政区画があてはまらない場合もあります。 炭鉱町が大きくなるほどその炭鉱町のみで一地方自治体を独立させようとの動きも現れます。 学校等の施設は生活には必要な施設ですが炭鉱の生産活動には直接には利益をもたらさないため、 炭鉱住宅の拡大において常に縁辺部に立地していきます。
■レジャー施設
炭鉱町の縮小過程において企業の影響力は弱まり、地方自治体が新たに地域を守る存在として浮かび上がります。 地方自治体は第3セクターなどの手法でレジャー施設などを建設していきました。 夕張の石炭歴史の村、芦別のカナディアンワールドなどいろいろな施設が乱立していきました。 しかしながら観光という波動の大きい商売はその地域ごとに正否が別れ、ほとんどの場合は失敗していきました。 芦別のカナディアンワールドの一般公園化などがその代表例でしょう。 札幌から至近距離にあり、知名度があり、魅力のある施設のみが競争の中で残っていきました。

地方自治体と炭鉱町


炭鉱の閉山後の炭鉱町の縮小過程において最も重要な因子があります。 それが地方自治体の中枢機能がその炭鉱町の行政区画においてどこに立地しているかということです。

地方自治体の中枢機能がその炭鉱町の中に存在する場合、炭鉱町は閉山時は激しい縮小が起こりますが、 その流れは少しづつ緩やかになっていきます。 これは地方自治体の存在意義がその炭鉱町の存在と同一なため、炭鉱町の縮小を防ぐために様々な施策をとるためです。

しかしながら逆に地方自治体の中枢機能がその炭鉱町の中に存在しない場合、炭鉱町は閉山時の激しい縮小が長期間続き、 最後にはその炭鉱町がなくなってしまう場合さえもがあります。 これは地方自治体が炭鉱町を守る必要性がなく、かつ地方自治体の財政悪化の中で、地方自治体としての活動を効率化したいとの欲求が起こるためです。 効率化は炭鉱町にわずかな人々が残るよりも、地方自治体の中心地への移住を促します。

羽幌では羽幌炭鉱のあった内陸部の炭鉱町は消失しました。 炭鉱住宅の何らかの再利用は構想されましたが実現はせず、 学校の再利用は一時的には行われましたが最終的には不便さと老朽化により閉鎖されました。

また夕張における大夕張はダムによる水没という理由はあるにせよ、 結果的にはには夕張市の選択の中で非効率的な大夕張の住民を中心市街地の清陵町などへ移住させることになりました。

逆に歌志内、上砂川などは山奥の比較的小さな炭鉱町にも関わらず、地方自治体が地域を守るための施策を多様にとっていくことになります 商店街の再整備、研究施設、工場の誘致、日帰り温泉の建設などが行われ、 現在でも炭鉱町が若干の性格を変えながらも残っていくのです。


北海道旅情報巻頭  3-1.炭鉱町を旅する
3-1-5.炭鉱町変容のメカニズム