ローザンヌのカテドラルのオルガン

 ローザンヌと言えば、バレエの町、オリンピックの町、ヴォー州の州都、ジュネーヴと並ぶレマン湖畔の大都市として広く知られています。
 
 ローザンヌの駅を降りて高台の方に登って行くと、市役所前の賑わい(私たちが昨年訪れた時=1999には市がたっていました)の横を更に登ると、屋根付きの階段があり、それをフーフー言いながら登り詰めると大きなカテドラルに出ます。
 ここのカテドラルの塔からは夜、時刻を告げる叫び声が聞こえるという大変ユニークな古い習慣を残した町であります。
 このカテドラルはサン・メール城(現在州庁舎として使用)と共に、ローザンヌの象徴でもあるのです。(だからこんな面白い風習をわざわざ残している?のでしょうね)

 ローザンヌのカテドラルには、他の大きな聖堂同様、入り口の上に大きなオルガンが備えられています。そして、会堂の中央右手(だったと思いますが)に小さなオルガンが設置されていて、それぞれの特徴を生かした使い方がされています。(大体この辺りが聖歌隊席ではないでしょうか?)
 両方とも随分新しい(と言っても四十五年ほど前のものですが)オルガンで、近代的なオルガン曲の演奏にはとても良い楽器だと思います。
 
 小さなオルガンは日常の聖務日課の際の聖歌を皆で歌う際の伴奏用として、そして大きなオルガンは祝日のミサなどの伴奏や即興演奏による典礼の伴奏に使用されるようです。
 小さなオルガンは人を圧倒するような個性的な音色は備わっていませんが、 歌の伴奏に適した音で挽かれるうに設計されていますし、大オルガンはソロとしても圧倒できる音量と個性的なリード管のストップの数々を備えており、華麗な音色を聞かせます。
 大きな教会、大聖堂などには、このように二つ以上のオルガンがそれぞれの目的のために備えられているわけですが、この二つのオルガンの特徴を生かした作曲もロマン派以降の音楽家たちが色々と試みています。
 その中の傑作、フランスのヴィエルヌの四声の混声合唱と二つのオルガンの為の荘厳ミサ曲嬰ハ短調、フランスのオルガン一家の父、アルベール・アランの四声の混声合唱、ユニゾンの男声合唱と二つのオルガンの為の聖王ルイ記念ミサ曲、デュカ(魔法使いの弟子の作曲家)の高弟にして盲人の大オルガニストだったラングレ(聖クロチルド教会オルガニスト)の四声の混声合唱と二つのオルガンの為の荘厳ミサ曲を一枚に収めたCDが十年ほど前に日本でも売られていました。
 今はどこを探してもありませんので、中古を探すしかありません。やっと先月か先々月あたりにコルボのバッハ四大宗教音楽を再発するようなお国柄ですから、これは多分再発はされないだろうな。曲も地味で、知らない人が大半だろうし…。

 そのCDはフリブールの生んだ大音楽家、ミシェル・コルボ指揮ローザンヌ声楽アンサンブルの合唱、アルベール・アランの娘、マリー=クレール・アランの大オルガン、第二オルガン(合唱用の小さなオルガン)はアンドレ・リュイが担当した、類い希な名演であると私は考えているのですが、廃盤とは何ともし難いものであります。(ERATO/WPCC-3787)
 先のコルボ指揮ローザンヌ室内管弦楽団とローザンヌ声楽アンサンブルの面々のバッハ四大宗教音楽はこのカテドラルでは録音されていません。
 このカテドラルのオルガンを用いた他の録音と言えば、グノーのコラール・ミサ曲とサン=サーンスのミサ曲Op.4の録音で同じマリー=クレール・アランとミシェル・コルボ指揮ローザンヌ声楽アンサンブル、そしてスイスの主立った声楽家たちとの録音が思い出されます。(ERATO/R32E-1093)

 ローザンヌのカテドラルでは、オルガンのCDも売っています。昨年(1999)にはそこで、ツビンデンのオルガン作品集を見つけて買ってきました。
 これが「聖しこの夜」による変奏曲(冗談かと思ったら結構まじめに”現代音楽”してます)や、ワーグナーのトリスタンの主題によるインターリュード、トロンボーンとオルガンの「対話」、もちろんオルガン音楽なら定番となっているバッハの伝統を受け継ぐツビンデンの前奏曲とフーガもありますし、トランペットとオルガンの作品やこのカテドラルの為に一九九二年に作られた組曲「カテドラル」なんてのも入っています。
 これがそれなりに面白いし、このオルガンを想定して書かれた音楽だけに、その機能をふんだんに使った作品で、カテドラルのオルガンの特徴を知るのにとても良かったと思っています。
 オルガンを弾いているのはジャン=クリストフ・ガイザーで、ベルン生まれのスイスのオルガニスト。現在はこのローザンヌのカテドラルのオルガニストとして活躍していて、ローザンヌ音楽院で後進の指導にもあたっているそうです。
 聞いたかぎりでは、なかなか堅実な演奏で、現代音楽なのに充分にロマンチックでメロディアスでというツビンデンの特徴をよく表現していると思います。
 ローザンヌにお出かけの際は、聖堂内の売店(?と言ったら良いのでしょうか?)を覗いてみてはいかがでしょうか。