復興したジュネーヴのヴィクトリア・ホールのオルガン

 

 一九八四年の不幸な火災の後、復興したヴィクトリア・ホールに、新しくオルガンが設置されたのは確か一九九三年のことではなかったでしょうか?

 The van den Heuvel organ,Victoria Hall,Geneva の音は、今はいくつかのCDで聞くことができます。それはスウェーデンのBISレーベルにジュネーヴの巨匠ライオネル・ロッグが録音したブルックナーの交響曲第八番の(ロッグ自身による)オルガン編曲版とスイスのCASCAVELLE というレーベルにロッグが録音したフランク、ヴィエルネ、ヴィドールといったフランス近代オルガン音楽とバッハのBWV.547の前奏曲とフーガ、そしてブラームスのハイドンの主題による変奏曲のロッグ編曲によるオルガン版というプログラムのCDであります。

 かつてはカヴァイエ・コルの名器と呼ばれたオルガンがここに設置されていて、ヴィドールなどのフランス近代を代表するオルガニスト、作曲家たちがここでよく演奏していたそうですから、ヴィクトリア・ホールのオルガンは、大変由緒のある楽器でもあったようです。

 一九八四年の火災は、大変美しい内装も灰にしてしまい、アンセルメの名盤や、バックハウスのベートーヴェンのソナタ全集などで知っていた美しい響きと、リヒターの演奏やアンセルメの指揮したサーンサーンスのオルガン交響曲で聞かれたヴィクトリア・ホールのオルガンの音は、永遠に失われたのであります。

 さて、その再生ヴィクトリア・ホールの響き、オルガンの音はどうでしょうか?

 聞いた印象をまず述べるならば、大変反応の良い、キビキビとした音で、ホールの残響も美しいものであると思います。
 オルガンの響きが豊かな残響に支えられて、運動性に富む作品でその真価を発揮するのは、快感ですらあります。
 有名なヴィトールのトッカータ(オルガン交響曲第五番のフィナーレ)のダイナミックな広がりは、ハーフォードのウェストミンスター(だったと思うのですが…うろ覚えです。スミマセン!!)の演奏のテンポの良い演奏よりもやや重い足取りながら、それ故のスケール感がよく出ていると思います。
 バッハはいつもながらの端正なロッグ節で聞かせますが、ハイドン変奏曲はちょっとオルガンには不向きなように私には思えました。確かにポリフォニックな作品であるので、最後のフーガ風の展開はなかなかよく合っているのですが、あまりにオーケストラや二台のピアノ版などで聞きすぎたためか違和感を憶えました。
(CASCAVELLE/VEL-1028)
 その点、ブルックナーの交響曲第八番は、何故かオルガンでほとんど違和感を憶えない、なかなかの出来となっているのが印象的です。
 曲そのものがオルガン的とでも言える作りであるためでしょうか?ロッグの端正な演奏ぶり(本当にロッグという人はこれ見よがしの身振りが皆無です!!)と相まって、作品自体に語らせるといった演奏態度で、これもまたブルックナーに合うようです。
 こういった試みがこれ以前にも数多く行われていたようですが、ここまで成功したのはあまりないのではないでしょうか?
(BIS/CD-946)

 このBISレーベルには、他にもロッグのCDがいくつかあり、その中には、彼の作曲したもののCDもあるようですから、興味のある方はどうぞ。
 しかし、ヴィクトリア・ホールのオルガンのCDはこれだけのようです。
 教会でなく、ホールに設置されたオルガンは、演奏会用の機能を持たなくてはなりません。当然オーケストラと共演することもあるでしょうし、オルガン・コンサートも行われることでしょう。その意味で、近代的な多くの機能と、華麗なレジストレーションを誇るオルガンとなるのは当然で、その意味でこのホールのオルガンは、実に良い響きと弾き手に恵まれていると言えるでしょう。
 そして、この新しい楽器がより使い込まれてより良い響き(まだ新しさが響きのキツサになっているところもあるようです)となって楽器とホールが育っていくのを、楽しみに見守って行きたいと思います。