スイスの指揮者、シャルル・デュトワ

 今やシャルル・デュトワの名前を知らない日本のクラシック音楽ファンはいないのではないでしょうか?彼はNHK交響楽団初の音楽監督として、日本最高レベルの音楽アンサンブルの構築と、意欲的なプログラム、それに始めて欧米のメジャー・レーベルにレコーディング・デビューさせるなど、かつてなら考えられないほどの成果を上げています。
 彼はローザンヌ音楽院、ジュネーヴ音楽院で指揮、ヴァイオリン、ヴィオラ、打楽器、作曲を学び、アンセルメにも師事、タングルウッド(ボストン近郊)でシャルル・ミュンシュにも学んでいます。ミュンシュにもというところは、我らが小沢征爾氏とも同じですね。
 修行時代を終えて最初の大きなポストは、三十一才の時についたベルン交響楽団の首席指揮者でした。スウェーデンのエーテボリ交響楽団の首席指揮者にも同年就任しています。指揮者としてはなかなか出世の早い方ではないでしょうか?
 レコーディングもこの頃からはじまり、エラートなどへのストラヴィンスキーの録音で世界的に名を知られるようになっていったのです。
 アルゲリッチと結婚して、夫婦で来日、大喧嘩して帰国後離婚というニュースも、この頃じゃなかったっけ。
 とは言え、彼の名声を確固としたものにしたのは、カナダのモントリオール交響楽団の音楽監督に一九七八年、四十二才の時に就任し、単なるカナダの田舎オケをトップ・クラスのオーケストラに変身させたことであります。

 レパートリーはアンセルメとほとんどダブっていて、ストラヴィンスキー、ラヴェル、ドビュッシーといった近代物からチャイコフスキー、プロコフィエフといったロシア物、協奏曲などの合わせ物も大変上手く、つい最近の鎌倉での定期ではティモシー・ハッチンズというモントリオール交響楽団の顔とでも言って良い素晴らしいフルーティストを招いてのコンチェルトもありました。
 更に、ドリーブ、オッフェンバック、アダンといったバレエ音楽なども得意であります。この辺りは、ヨーロッパの指揮者の多くと同じように歌劇場でも修行時代、それにバレエ音楽の神様と言われた先生のアンセルメの影響もあるのでしょうか?

 N響の音が変わったと言われるほど、その音楽作りの個性を持っているデュトワですから、今後、N響が更にスイス・ロマンド化していくのは、ちょっと楽しみですね。それにアンセルメ時代のスイス・ロマンド管よりもずっと優秀な演奏力を個々にもっているN響ですから、その成果は大変大きいものを期待できると確信しているのですが、皆さんはいかが考えられますか?

 スイス・ファンの私としては、それもいいのですが、いつの日か彼がスイス・ロマンド管弦楽団の建て直しをしてくれないかなと、密かに期待しているのです。シュタイン、サヴァリッシュと、別に悪くはないのですが、見事にスイス・ロマンドの魅力をかき消してしまい、アンセルメ時代を懐かしむ声は日増しに高くなるばかりであります。アルミン・ジョルダンに期待したものの、充分な成果を見ないで(聞くことなく)去ってしまい、ルイーニというイタリア人が今、スイス・ロマンドの指揮台に立っています。それが悪いのではありませんが、ちょっと個人的期待を述べてみただけです…。

 ともかく、アンセルメの指揮芸術の継承者としてのデュトワの存在は、世界の音楽シーンの中でも大きな存在であり、「売れる指揮者」であることは、間違いないのですから、これからもっともつと彼の活動にみなさん注意をはらってほしいなぁと思います。