以下は、知り合いの編集者の依頼で健康雑誌に記事を書いたものの、雑誌社の意向に沿わずに没になったという幻の原稿なり。私もたまに足が細くなるなどという広告に釣られ、あやしげなハーブの錠剤を通販で買ってしまうこともありますが、それはそれ。サイエンス・ライターとして、サトリは、やせグスリには懐疑的なのである。

しかし、仲介してくださった編集者が、な、な、なんと、親切にもこの記事を買ってくださった。ということは、この記事は、人目に触れることもなくひっそりと終わってしまうことになる。それは惜しい、というわけで、どなたの目に触れるかは存じませんが、作成以来、銀河系のかなたにぽつんと存在している当ホームページに載せてみることにしました。そういう没原稿を、書き始めてからこれまでに3つ抱えています。これは、フリーランスのライターでは少ないほうではないだろうかと思うのです。

サトリは、寝る間を惜しみ、可愛い子どもとのふれあいの時間を削って記事を書いています。その分、記事への愛着も深いのです。たかがサイエンス記事、されどサイエンス記事。ゆけ、われらのサイエンス記事!

 

 

やせグスリ? おもな成分の期待される効果と副作用=2P(約3000字)

written by 佐鳥麻美

 

 

 ダイエットの盛んな欧米では、減量を助けるものとして、さまざまなサプリメントやダイエットに効く食品が利用されています。その動機として、社会的なイメージが悪いこと、健康に悪いことのほかに、「魔法のやせ薬願望」というものが、米国の医師らに取り上げられています。肥満の特効薬があれば、食事量や運動量の調節で生活習慣を改善するよりも簡単にやせられます。誰でも買えるので、専門家にあれはダメ、これもダメとうるさい指導を受けずに済みます。また、自然のもの、天然のものであれば安全という思い込みも強いと考えられます。

 

太りすぎることはもちろん不健康なのですが、逆に普段よりも食欲が落ちたり急にやせたりすることも、本来、不健康なサインです。そうした状態をわざわざ作り出すための薬にもし本当に効果があるのならば、じゅうぶん注意して使わなくてはなりません。やせ薬の副作用や、品質管理の悪い商品への混入物で命を落とす人もいるのです。

 

 やせるためのサプリメントを使うのは冒険です。値段も、安いものばかりではありません。高ければよいのかといえば、そうとも言い切れません。本当に効果があるのかどうか、効果があるのならばその副作用のことも知って、自分でさじ加減を調整しながら、おそるおそる使ってみるくらいがちょうど良いでしょう。

 

 よく広告で使われている動物実験の結果は、人に対する毒性の参考にはなっても、その確実な効果を検証することはできません。やせるための食品やサプリメントの成分について、人を対象にした試験はまだまだ不足しています。これまでに、欧米の栄養学や内科学の分野で報告されている範囲で、期待される効果と副作用をまとめてご紹介します。

 

 

I エネルギー消費アップを期待

マオウ(麻黄)、ダイダイ、カントリー・マロウ(アオイ科の植物)、カフェイン、ガラナ、マテ草)

 

マオウ(麻黄)は中国・モンゴルの常緑の低木。アルカロイド系の交感神経を興奮させるエフェドリンが有効成分です。ダイダイとカントリー・マロウ(アオイ科の植物)も同様の関連物質を含みます。カフェインや、ガラナ、マテ草などに含まれる植物由来のカフェインとともに使われると、体重を減少させる効果があることがわかっています。臨床試験では、エフェドリンを投与したグループでは、偽薬を投与したグループに比べ1ヶ月で平均0.9kg体重が減ったという報告があります。長期投与の結果はわかりません。一方、精神障害、自律神経障害、胃腸の障害、心拍異常のリスクは、投与グループで2.2から3.6倍高くなりました。エフェドリン関連の副作用の報告が多いため、米国食品医薬品局は2004年4月、その販売を禁止しました。日本では医薬品であり、サプリメントの輸入は禁止されています。

 

II 炭水化物の代謝を調節

クロムと朝鮮人参

 ミネラルであるクロムは、インスリンを活発にする作用があり、炭水化物、たんぱく質、脂質の代謝を調節できると期待されます。しかし、残念ながら、クロムやその加工物であるクロム・ピコリネートでたしかに体重が落ちるという根拠は今のところありませんし、特段の副作用も報告されていません。

また、日本ではおなじみの朝鮮人参には、グルコースの耐性を改善し血糖値を下げる作用があるという初歩的なデータがありますが、体重が減ることを示した臨床データはまだありません。

 

 

III 満腹感を演出

グルコマンナン、シリウム、グアーガム

 コンニャク由来のグルコマンナン、シリウム、インドの豆グアー由来のガラクトマンナンは、いずれも水溶性の食物繊維で、理論的には水分を吸収して胃で膨らむため、満腹感が得られ、摂取カロリーが減ることでダイエットできると考えられます。糖尿病や高脂血症予防も期待できます。

ガラクトマンナンはかなり安全性は高いと考えられますが、臨床試験では体重減少効果はありませんでした。

グルコマンナンを1日3−4グラム摂取したグループでは、たいした副作用なく体重がゆるやかに落ちました。やせる効果の最終的な確認には、もっと大規模な追試験が必要です。肥満気味の2型糖尿病患者に対するシリウム投与試験では、グルコース耐性改善効果はみられましたが、体重は変わりませんでした。

 

IV 脂肪燃焼、減量効果を期待

1)ヒドロキシクエン酸(HCA):インドなどで採れるトロピカルフルーツであるガルシニア・カンボジアから抽出されたHCAには、糖質を材料にして脂肪が合成されるときに活躍する酵素の作用を邪魔する働きがあります。結果として、脂肪の蓄積が減り、ひいては体重減少につながるのではないかと期待されます。しかし、残念ながら、HCAの効果をみる臨床試験の結果はまちまちです。肥満気味の女性を対象にした試験で、1日750mgのHCAを投与したグループで、偽薬のグループに比べ3ヶ月で平均1.3kg減ったという結果があります。一方、肥満の男女を対象に、別のHCAを1日1,500mg投与した試験では、偽薬のグループと副作用も体重の変化も変わらなかったという結果でした。副作用としてのどや胃腸の不良、頭痛をうったえる人がいました。やせる効果は確認されてはいません。

2)共役リノール酸(CLA):肥満マウスを使った動物実験で、脂肪の蓄積を抑える効果が示されました。CLAが脂肪の酸化を促進し、脂肪細胞に中性脂肪が取り込まれるのを防ぐためと考えられています。1日に3.4から6.8グラムのCLAを補給した3ヶ月間の臨床試験では、偽薬投与グループとの体重変化の差がなく、CLA摂取グループで胃腸関連の副作用がみられたという報告があります。やせることを目的とした使用で、CLAの効果を示した人を対象とした試験の結果は、いまのところありません。

3)緑茶など:緑茶による脂肪燃焼効果を10人の肥満患者で示した研究がありますが、体重減少は評価されていなかったため、やせるかどうかは不明です。リコライス(甘草)は正常体重の15人の体重を変えずに体脂肪を減らしたという報告があります。しかし、リコライスには高血圧や低カリウム血症のリスクを上昇させる副作用があります。ピルビン酸塩を1日当たり6gの6週間投与で、体重が1.2kg落ちたという報告があります。他にも、ビタミンBやL-カルニチンに、いわゆる脂肪燃焼効果によるダイエット効果が期待されていますが、臨床試験の結果はありません。

 

 

V 脂肪の吸収を妨げる効果を期待

キトサン:キトサンは、エビの甲羅、貝類にふくまれているキチンから作られました。プラスに帯電している高分子化合物であり、マイナスに帯電している脂肪分子に胃腸で結合し、脂肪の吸収を妨げる効果が期待されています。キトサンでやせたという臨床試験結果を5つも発表している研究チームがあります。しかし一方で、別の研究チームによる臨床試験ではいずれも偽薬グループと体重変化が変わらなかったことが示されました。さらに、健康なボランティアがキトサンを摂取しても、脂肪の排泄量には変化がみられませんでした。キトサン摂取の副作用には、便秘やガス、胸焼けなどがあげられます。やせる効果は期待できないのではないかと考えられます。

 

VI 水太りを解消する効果を期待

水太りを解消するというダンデライオン(西洋タンポポ)には利尿効果があり、カスカラという植物には緩下剤としての効果があります。どちらも、やせることを目的とした使用での臨床試験は、まだ行われていません。長期にわたる使用で、一般的な利尿剤、下剤と同様の脱水や電解質異常といった副作用があると思われます。

 

VII その他

他にも、セントジョンズウォートのように抗うつ効果のあるハーブは、やせることを目的としたサプリメントにもよく含まれていますが、その役割はわかっていません。ガッグルやアップルサイダービネガーには、ビタミンやミネラルが豊富ですが、それでやせるかどうかはまだ臨床試験がありません。

 

追加記事

 

L-カルニチン:人の体内で作られる物質。たんぱく質食品にも含まれる。

運動中に脂肪酸をミトコンドリアに効率よく運び、エネルギー源とする。心臓や血管機能の改善、筋肉増強、疲労減退。活発な運動プログラムに組み込んで使うと、体脂肪を減らすのではないかと考えられる。

まだ、L-カルニチン含有のやせ薬で貯蔵脂肪が減るという根拠は示されていない。また、もともとL-カルニチンを作ることができない体質という人、つまり投与による大幅な脂肪減少効果が期待できる人が多いという根拠もない。

 

 

アルファリポ酸:抗酸化物質

(期待される効果):脂肪をエネルギーに変える細胞中のミトコンドリアを、活性酸素による損傷から守り、老化させないようにする。糖尿病患者で血糖値を改善し、神経障害を和らげる効果が報告されている。動物実験では、減量効果も期待できるのではないかという結果もある。食欲を抑えるという報告もある。しかし、実際にどのように働くのか解明されていない。減量効果や安全性をラットで確認中であり、人での臨床試験の結果はまだない。

 

 

TOPICS: 動物実験で若返り:

2002年、L-カルニチンとアルファリポ酸を投与した年寄りラットが、記憶や体力の面で若返ったという報告がありました。これらのサプリメントには、ミトコンドリアを保護し、よく働くようにする効果があるためではないかと、研究者はコメントしています。

ただし、最近、アルファリポ酸を投与したラットの心筋で、抗酸化作用ではなく酸化促進作用が確認されたという報告もあります。サプリメントは諸刃の剣なのです。食物繊維の豊富な食品やフルーツでお腹いっぱいにするとやせるという報告もあります。ぱっとしないけれど安全な選択がある場合には、目新しいサプリには飛びつかず、十分な根拠を待つ余裕が必要です。

 

 

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