二重・三重の派遣ということになれば、この建て前が崩れることになってしまうからです。労働者派遣法は、あくまでも、当事者が3人の三面関係を前提にしています。
こうした四面関係以上になると、職業安定法第44条が禁止する労働者供給事業となり、派遣元A、派遣先Bは禁止された労働者供給事業の供給元となり、Cは供給先ということになります。
職業安定法第44条は、いわゆる「人貸し請負」(請負としての実体を伴わずに、
労働者だけを供給することを約束する請負)を、「労働者供給事業」として禁止しています。その条文は、次の通りです。
職業安定法法第44条(労働者供給事業の禁止)
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。 |
これを受けて、職業安定法施行規則第4条は、次のように規定しています。
職業安定法施行規則第4条(請負と労働者供給の基準)
「労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者は、たとえその契約の形式が請負契約であっても、次の各号のすべてに該当する場合
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ここでは、請負という形式であっても、実体を伴わないものを労働者供給と考えることと、その区別の基準を示しています。二重派遣のときには、労働者派遣法に基づく「労働者派遣契約」という形式をとらずに、「請負契約」の形式をとることが多いので、この職業安定法第44条・同施行規則第4条違反ではないかと点検をする必要があります。
労働省の解説書では、二重派遣について、次のように指摘しています。
「いわゆる『二重派遣』とは、派遣先が派遣元事業主から労働者派遣を受けた労働者をさらに業として派遣することをいいますが、この場合、派遣先は当該派遣労働者を雇用している訳ではないため、労働者派遣を業として行うものとはいえず、形態としては労働者供給を業として行うものとして、職業安定法第四四条の規定により禁止されます。」
(労働省職業安定局編著『改訂新版 人材派遣法の実務解説』45頁) |
職業安定法第44条違反ということが確定すれば、第64条では罰則の適用もあり
ます。A、B、Cのいずれもが懲役か罰金の刑罰の対象となります。
職業安定法第64条(罰則)
次の各号の一に該当する者は、これを一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。 四 第四十四条の規定に違反した者 |
また、A、Bは、Wが就業するのに介入して不当な利益を得ることになりますので、
労働基準法第6条の賃金の中間搾取禁止の規定に違反することになります。
労働基準法第6条(中間搾取の排除)
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。 |
要するに、二重・三重派遣については実態としては広がっていても、法的には、違法なものですので、これを常に問題にする可能性があるということです。
実際には、公共職業安定所から告発して、警察・検察が取り締まるということが筋ですが、公共職業安定所はきわめて弱腰で、ほとんど違法派遣の取締りに動くことはありません。しかし、違法があれば行政指導をするなどで動いてくれる可能性はあります。
警察は、公共職業安定所とは独自に、職業安定法第44条違反の摘発を進めています。
しかし、それは、労働者を保護するということが目的というよりも、入国管理や暴力団対策といった治安政策からの対応です。
少年を無許可雇用 岡山西署、容疑の組員ら逮捕 /岡山
発行年月日 94 年 11 月 11 日
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このように、労働者供給というのは、労働者にとっては過酷な労働を強いることになりますので、あまりにも悪質な場合には、刑事的な告発も必要ではないかと思います。
ただし、労働者は職がかかっていますので、それが難しいので、こうした思い切った対応が出来ないというのが実情です。
賃金の支払が、2ヶ月から3ヶ月後というのは、明らかに労働基準法違反です。
労働基準法第24条は、次のように賃金支払の原則を定めています。
第2項では、「毎月一回以上」払いを求めています。
「賃金の支払いが、2ヶ月から3ヶ月後のため」というのは明らかに同法違反です。
労働基準法第24条(賃金の支払)
1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
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二重派遣の弊害のなかに、給与の支払が遅いというのもあるのですね。
実際の被害にあっている方の訴えで初めて、こうした弊害が明らかになります。
派遣110番のネットワークは、主に電話で7月に全国一斉に相談を受けていますが、相談が多いので、インターネットで常設することになりました。
派遣110番では、これまでの経験から、問題解決のためには個別の相談だけでは不可能だと承知してます。実際の解決、長期的な解決のためには、労働組合の力しかないと考えています。
一人ではなかなか問題を提起できないとしても、労働組合に加入したり、労働組合を結成したりすることによって、仲間と連帯して、違法な状態を集団的に改善することが可能となります。個人であれば、不満は個人の特殊性のせいだということになりますが、何十人から何百人の集団になれば、その訴えは社会的に大きな意味をもつことになるからです。そして、憲法や労働組合法は、こうした社会的集団である労働組合に、多くの権利を認めました。
つまり、労働組合を結成すれば、労働組合法などによって、一挙に有利な条件が拡大します。
派遣労働者は、あちこちにバラバラに派遣されていますので、労働組合を結成することが困難なことが労働条件改善ができない一番の理由です。これまでのように、企業ごとに労働組合を結成するのではなく、地域単位にできれば産業別に労働組合を結成したり、加入を拡大して、派遣会社と団体交渉をすることができれば、状況は大きく変わると思います。
派遣110番の相談を受けていて、あちこちに何とかしたいという思いをもった派遣労働者の方が増えていると確信しています。こうした思いを一つにするには、労働組合に結集することが一番だと思います。労働組合は、組合費を収入の1%として、300人から400人の組合員で一人の専従者を置くことができます。派遣労働者の労働組合の場合には、どのようになるか検討する必要がありますが、派遣労働者の権利や雇用を守るための専従者を置ければ、一挙に労働組合としての力は強くなります。一つの企業単位では難しくても、東京地区や京阪神地区など一定地域単位であれば十分に可能だと思います。
大阪では、派遣労働者の組織化に本格的に取組む労働組合の動きが活発になりつつあります。これまでにも、労働組合への駆込み的な加入や相談があり、違法な派遣をしていた派遣会社に対して、労働組合のベテラン役員から問い合わせをしただけで社会的に告発されることを恐れた派遣会社の担当者がすぐに改善の約束をしたという例も出ています。もちろん、派遣会社からの報復も考えられますので、なかなか問題にできない事例もありますが、公共職業安定所などへの申告など改善方法の工夫もしています(公共職業安定所も個人の訴えでは中々動いてくれなくても、労働組合からの訴えであればすぐに動く傾向があります)。
現在、二重派遣が多いコンピュータ関係では、電算労という組合があります。
個人加盟の産業別の労働組合です。他にも各地に地域労連や全国一般などの個人加盟の労働組合が派遣労働者の組織化に動いています。
この電算労は、労働組合として労働者供給事業を運営しています。まだまだ少数ですが、こうした労働者供給事業による自主的(協同組合的)な雇用保障は、もっとも弊害の少ないものとして今後の発展が望まれるものです。
実際には、労働組合を結成するのがまだまだ困難な段階ですので、現在、大阪地区では、派遣労働者の権利を守る取組みを勧めています。派遣110番的な相談だけではなく、実際に、違法・不当な扱いをする派遣会社などを告発すること、労働者の権利や雇用を守ることがその目的です。悪質な派遣会社名を公表するなど、社会的な監視をすることによって、違法派遣の弊害をなくす仕組みを作っていきたいと思います。
是非、派遣労働者として声をあげて下さい。