女性を中心に期限付きの雇用が拡大しています。女子若年定年制は、性による差別を禁止した憲法や労働基準法に違反し、公序良俗に反するものとして無効であるという判決が確定しています。しかし、現実には、若年定年と同じ機能をもつ有期契約が拡大しています。常用雇用の原則に反するこうした雇用について、早い段階で警告を発したのが、下記の意見書です。私は、そのなかで外国の法理の部分を分担執筆しました。古くなっている部分がありますが、基本的にはまだ有効だと思います。新たな動きについては、OECDの文献を要約紹介していますので参考にしてください。


【資料】女子有期雇用契約制度と男女差別

南海放送女子有期契約従業員制度に関する鑑定意見書

(労働法律旬報第1225号、1989年10月p.10-25掲載の一部)


意見書

 「有期労働契約に関する外国の法理」

1987・3・1 脇田 滋



 現在、先進資本主義諸国は、期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)について、判例によるか、あるいは特別の立法によって厳しい制限を加えていく点で共通した傾向を示している。そこで、以下、各国の有期雇用契約に対する法的規制について特徴的な内容を紹介・検討することにしたい。

 (1)第二次大戦後とくに、各国で解雇保護の判例、立法が展開される中で期間の定めのない雇用契約については使用者の解雇の自由の制限が強まっていくのに対して、この解雇規制を潜脱する方法の一つとして有期雇用契約に注目が集まるようになっていく。すなわち、使用者は、短期の有期雇用契約を本来の臨時的な必要に対応して締結するのではなく、それを反覆更新することにより、実際上期間の定めのない雇用契約によるのと同様に労働者を使用する一方で、解雇制限法理・法規の適用を免脱しようとするのである。このような反覆更新による有期雇用契約は、ドイツでは「連鎖契約(Kettenvertrag)」、フランスでは「継続的有期契約(Contrat a duree determinee successifs)」、イギリスでは「連続有期契約(a series of fixed term contracts)」と呼ばれ、各国で共通した現象として見られるのである。
 以上のように解雇制限法理・法規を潜脱しようとする有期雇用契約の濫用的な利用が拡大するのに対して、契約の形式にとらわれることなく、実質的に労働者を保護していこうとする動きが生まれていく。労働協約によって臨時労働に対する規制(労働者の保護と臨時労働利用の制限)が進む一方で、個別のケースの解決を通じて判例法が蓄積され、さらに一九六〇年代以降は有期雇用契約に関する特別立法の制定が増加してきた。

 (2)まず、判例法によって有期雇用契約について厳しい規制の法理を形成している国として注目できるのが、西ドイツである。
 ドイツでは、ボン基本法第二条、民法典(BGB)第二四一条、第三〇五条、第六二〇条によって「契約自由の原則」に基づき、原則として、期間満了によって解約告知なしに自動的に終了する有期労働契約を締結することは承認されている。この原則は、解雇制限立法が制定されたにもかかわらず、変更されることなく適用されているのである。
 しかし、戦前からライヒ労働裁判所は、使用者が解雇制限法規を潜脱する目的で締結した連鎖契約は違法であると判決し、戦後も法理構成は別として判例の基本的な立場に変化はなかった。
 そして、一九五一年、解雇制限(解約告知保護法)法が制定され、期間を定めない労働契約が望ましいという法規制の原則が確立する中で、一九六〇年一〇月一二日の連邦労働裁判所は、有期契約について次のような現在至る先例となる判決を下した。すなわち、
 「解雇(解約告知)保護法の適用を免れるためには契約に正当かつ十分な理由が必要であり、期間の定めについて客観的な理由が欠ける場合、または口実にすぎない場合には、かかる契約を保護する利益はない。そして、法律の回避があると認められる場合は、期間の定めのある労働契約は濫用的なものと判断される。労働契約に期間を定めることができるという形式的な権利にも、合理的・客観的に法秩序の一般目的に合致するようにのみ行使されるべきである、という内的制約が認められなければならない。
 それが欠ける場合に、被用者が期間を定めることによって強行的な解雇(解約告知)保護規定の保護を剥奪されるときは、使用者は被用者に対して期間の定めを主張することができない」と。
 その後の判例から、契約に期間を定めることが許されるためには以下の点について判断されなければならないとされている。
 すなわち、〔1〕契約に期間を定めることが、法的に公正と評価できる理由によって当該分野で慣行となっているか(この場合、実際上の慣行では不十分であり、労働協約による承認が必要とする判例がある)。〔2〕個別の事情に応じて期間が定められているか。〔3〕被用者の一部についてのみ期間を定めるときは、それについて正当理由のある全体的規則が存在するかの三点である。
 これまでの判例によって期間を定めることが認められる場合は、(a)被用者が希望する場合、(b)試用を目的とする場合、(c)臨時的な必要による場合(臨時の手伝い、病気になった労働者の代替、季節労働など)、(d)特定分野(演芸、音楽家、俳優、歌手など)、(e)解雇の有効性を争う訴訟を終了させる裁判上の和議の場合の四類型に区分されている。
 また、期間を定めることにつき理由があるとしても、期間の長さは、実際上の根拠、労働慣行及び個別の事情によって決められなければならないとされ、偽装的あるいは形式的で一律の期間を定めることは許されていない。
 さらに、訴訟法の面でも当該労働者は、期間を定めない労働関係の存在確認の訴えが認められる。そして、期間を定めることが無効であるときは、期間を定めた労働契約の締結をしようとする使用者は、通常の規制から逸脱して契約に期間を定めることについて前提となる諸要件を立証しなければならないとされている。
 さらに、西欧諸国では、オーストリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、スペイン等の諸国も判例法によって継続的な有期雇用契約を期間の定めのない契約として扱っていこうとしているとされている(外尾健一東北大学教授・季刊労働法一一〇号論文)。
 とくに、フランスでは、@契約期間一年で、三ヵ月前の予告がない限り自動更新の定めがある場合、次の更新の期間が契約上約されていても期間の定めのない労働契約であるとする判決、A黙示の更新をともなう日雇い契約は、更新の数が限定されていない限り期間の定めのない契約とする判決、B労働者が同一使用者の下で期間の定めのある契約を数回更新しているときには、全体として期間の定めのない契約とみなし、法によって定められた解雇予告期間を遵守しなければならないとする判決が一九四〇年代はじめまでに確立していた。
 また、オランダの判例でも、当初は、二回以上の反覆更新という事実から解雇保護法規潜脱(脱法の意図)を認定し、有期契約を期間の定めのない契約とみなしていこうとしていたが、後にはさらに、一回の更新でも期間の定めのない契約として扱っていこうとする動きがあるとされている。

 (3)このように、各国の判例では全体として、反覆更新する有期契約を基本的に脱法的なものとみなし、期間の定めのない契約として扱う明確な傾向を示していると言えるが、いくつかの国では、さらに進んで有期雇用契約を特別の立法によって法的規制を加えるようになっている。
 こうした立法としては、イタリアの一九六二年法、ベルギーの一九六二年雇用契約法、イギリスの一九六三年雇用契約法以降の一連の雇用保護法とその改正法、フランスの一九七九年法、一九八二年法が挙げられる。
 フランスでは、前述の判例の基調が一九七〇年代に至るまで受け継がれていたが、労働市場の柔軟化の政策の下で成立した一九七九年一月三日法は逆に、こうした判例の立場を牽制し、有期契約についてその法的な性格を法解釈によって期間の定めのない契約に変更する可能性を否定した。
 しかし、ミッテラン政権のもとで一連の労働法改革が進められた、オルー法(一九八二年二月五日オルドナンス)によって、労働者保護の視点から、それ以前の労働市場の柔軟化を規制する方向が明確になった。有期契約については、多くの要件が設定されたが、とくに、期間の定めのある労働契約を利用することができる事由を、後述するイタリア法と類似して特定の非永続的な臨時の業務等に限定していることが注目される。
 イギリスでは、「雇用の継続」が被用者(employee)を保護する重要な原理とされている。そして、臨時的ないし一時的に雇用された者についても被用者として、雇用契約保護法の保護が与えられる。期間の定めのある雇用契約が更新されて五二週以上継続雇用されている場合には、期間の定めのない契約とみなされて不公正解雇の救済申立権を認められている。雇用期間の計算方法は技術的なものであるが、原則として雇用は継続しているものと推定されるので、契約を更新しないという点については使用者に挙証責任が負わされる。
 期間を定めた契約をもつ必要が存在するときは(一時的な必要、特殊な目的による場合等)契約を期間満了後更新しないことに理由があると考えられる。、とくに、重要だと考えられるのは判例によって、通常の常用雇用によるべき業務(Job)が、期間を定めた契約による業務と偽装されることによって被用者が制定法上の権利を剥奪されることがあってはならないという原理が認められていることである(テリー対イーストサセックスカウンティ評議会事件)。

 (4)次に、イタリア法について、詳しく紹介したい。時期的にも内容的にも各国の法規制のモデルになったと思われるからである。イタリアの有期労働契約規制法は、一九六〇年代の一連の労働者保護目的の立法の一環として一九六二年四月一八日に成立した。
 この法律の基礎になったのは、「イタリアにおける労働者の実態」に関する上院下院合同調査委員会(ルビナッチ委員会・一九五五年設置)による全国調査である。この調査の中でとくに注目されるのは、有期雇用契約の形態が利用される理由が、次のように整理され、実例も詳しく報告されていることである。

(A)生産組織の客観的な必要
  @欠勤労働者の一時的な代替
  A季節的労働
  B新たな事業・見込がまだたたない事業
  C多様な種類の労働者が連係して行なう作業

(B)労働協約や労働者保護法の規定の潜脱
  @見習労働者保護法を潜脱する見習労働の代用
  A解雇の自由を留保できること
  B業務上傷病等の場合に自由に解雇できること
  C女子労働者を自由に解雇できること
  D労働者から高密度の労働を引き出せること
  E労働者に対してより支配を強めることができること
  F労働者を組合活動や政治活動の面で差別することができること
  G退職手当及び解雇予告手当を支払わないでよいこと
  H労働協約や法律に基づく年次有給休暇、病気休暇など長期勤続による有
   利な労働条件を付与しなくてもよいこと
  Iその他常用雇用労働者に対して不利な待遇を目的としてたに対して厳格
   な規制を加えること

 これらの理由は、イタリアに限らずわが国を含む他の諸国に共通したものとしても注目できるが、この調査を基にしてイタリアでは、不安定な雇用形態の規制、とくに雇用の継続を基本的な理念として有期労働契約の規制のための法律が制定されることになった。
 この法律の主な内容は、次の通り整理できる。
 〔1〕有期契約の原則的禁止
 まず、有期労働契約を容認していた従来の民法典第二〇九七条の規定を廃止し、一般的な原則として労働契約に期間を定めることを禁止している(第一条第一項)。
 〔2〕有効要件としての書面による約定
 この場合、期間の定めは、書面によらなければ効力を有しないとされ、使用者から労働者にこの書面が付与されなければならず、この書面がない場合には当該契約は、期間の定めのない契約として扱われることになる。
 〔3〕有期契約労働者(臨時労働者)と常用労働者の同等待遇
 また、有期契約による労働者には、年次有給休暇とクリスマス休暇及びボーナスが付与されるとともに、その他の労働条件についても期間を定めない契約による労働者に対して当該事業所で適用されるすべての労働条件が、労働提供の期間に比例してではあるが、与えらなければならないとしている(第五条)。この義務違反には、罰則が適用される。
 〔4〕期間の延長・更新の厳格な規制
 さらに、期間を定めた契約の期間の延長・更新は、労働者との合意によって、例外的に、延長が偶発的かつ予測不可能な必要が生じたときに限って、一度に限ってかつ最初の契約期間を超えない期間に限ってしか延長・更新することができないとしている。
 〔5〕特定業務業種に限定した有期契約の容認
 次に、例外として有期契約が認められるのは、以下のような特定の業務業種に限られる。
 (イ)季節的な性格をもつ特別な作業 六三年の大統領令第一五二五号によって五二種類の作業が細かく限定的に示されている。
 (ロ)欠勤・休職中の労働者の代替 兵役、業務上傷病、産休、一般疾病を理由とする欠勤・休職には職場保持権(雇用の継続)が認められ、使用者は当該労働者を解雇することができない。この場合に代替労働者の利用が認められる。ただし、代替の対象となる労働者の氏名と代替の理由が明示されなければならない。
 (ハ)臨時的な偶発的な作業  例えば、文書の特別な再整理、転居等。
 (ニ)多種類の労働者を必要とする工程作業で、当該事業所では継続性がない補完的作業
 (ホ)演劇、芸能もしくはラジオテレビ番組製作 一九七七年五月二三日法第二六六号で修正追加された。
 〔6〕有期契約に対する厳しい規制
 そして、これらの有期契約による労働者採用が認められる諸条件及び諸期間は県労働監督官によって決定されることになっている。いずれにしても、これらの要件を満たさない有期契約は、すべて期間を定めない契約として扱われる。
 さらに、期間を定めることとその延長の根拠となる諸条件が客観的に存在することに関する立証責任は使用者の負担とされている。

 (5)以上の検討から西欧諸国は、雇用の安定、または、雇用の継続が個別労働法上の基本原則として承認され、一方で解雇制限の法理、立法として形成、確立してきた。
 しかし、各国それぞれの規制の違いはあるが、他方で脱法的な有期契約の反覆更新等の利用が増加することに対しては、有期契約を、@利用し得る事由を限定すること、A利用し得る業務を限定すること、B期間を限定すること、C反覆更新を認めないか、更新の回数、事由について限定すること、D有期契約利用が脱法的でないこと等について使用者側に挙証責任を転換、E刑事的処罰を背景にして行政的な監督の下におくことなどの各側面から可能な限り限定し、期間を定めない契約を原則として違法な有期契約を期間を定めない契約として取り扱おうとしているといえる。


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