生保裁判連ニュース

第5号 1997・7
発行 生保裁判連事務局
竹下法律事務所(075−241−2244)

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宮岸年金訴訟東京地裁判決の意義と課題
 国のミスによる年金の払い過ぎ分は返さなくてよい
 

     金沢大学大学院 田中明彦




 宮岸年金訴訟の判決が、一九九七年二月二七日に東京地裁で出されました。宮岸訴訟は、資力調査を伴い人間の尊厳を侵害しやすい生活保護ではなく、資力調査を伴わない、より人の尊厳を大切にした年金による健康で文化的な最低生活保障を正面から求めた訴訟です。皆年金体制の下、年金が国民生活にとって不可欠な存在になっている現代において、すべての人に適用される基礎年金の意味を最低生活保障確立の観点から問うものでもあります。判決自体は、原告官岸さんの請求をすべて棄却しましたが、過払金について天引き(内払調整)や返還請求ができないことを付言したり、年金制度や生活保護制度の問題点を指摘するなど、極めて注目に値する内容です。

宮岸訴訟の経過

官岸さんは、金沢市に住む七二歳の男性です。宮岸さんは、年金担当窓口での二度の確認をえて、八五年以降、障害福祉年金(八六年四月以降は障害基礎年金に裁定替え)と厚生年金の通算老齢年金を五年にわたって受給してきました。九〇年三月、社会保険事務所に行ったときに、年金が二重支給(併給)されないこと、年金の過払いを指摘され、五年前に遡った障害福祉・基礎年金の一部支給停止(併給調整)、障害基礎年金の過払金(一八〇万円強)に対する一方的な天引き(内払調整)が行われました。併給調整・内払調整処分の結果、年金月額は半分の五万円弱となり、生活保護の受給を余儀なくされました。また、六五歳になったことから受けられるようになった国民年金の通算老齢年金についても、九一年に、併給調整と内払調整の処分が行われました。それら一連の併給調整・内払調整処分の取消しを求めて、審査請求・再審査請求しましたが、却下又は棄却されました。そこで、生活保護ではなく年金による健康で文化的な最低生活保障を実現するために、併給調整処分の取消しを求めて、金沢地裁に提訴しました。しかし、裁判管轄の問題で東京地裁に移送されてしまいました。

判決の内容

 判決は、原告の請求をすべて棄却しました。

1 憲法二五条違反について

 憲法二五条が規定する最低生活は、公的扶助を含む所得保障や医療保障、租税軽減措置等により、法制度全体で実現されるのでありまた、給付要件・内容をどのように定めるかの選択決定は立法府の広い裁量に委ねられているとしたうえで、「併給調整規定が、立法裁量の範囲を逸脱し不合理であると認めることはできない」と判断しました。

2 憲法一四条違反について

 公的年金受給制限額(約六九万円)と所得制限額(約三一〇万円)との格差、増加恩給などの障害基礎年金との併給を認める規定と本件各併給調整規定との格差は、不合理な差別に当たらないとしました。

3 憲法三一条(適正手続)違反について

 併給調整処分は受給権者からの届け出を要件とするものではなく告知・聴聞等の手続をしなかったとしても、適正手続に違反しないと判断しました。



「憲法施行50年。いま、生存権はどうなっている?」

全国生活保護裁連絡会

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第3回総会のご案内

 *日 程 9月7日(日)午前9時半開場
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 *会 場 横浜市健康福祉総合センター
     【住所】横浜市中区桜木町1−1 
     【電話】045‐201‐2060

 *プログラム
  10:00 開会あいさつ    
    ★経過報告 生保裁判連事務局    
    ★記念講演 「憲法50年と朝日訴訟」
       新井章氏(朝日訴訟主任弁護人)
    ★特別報告「市民から見た生活保護」 
    1 NHKドラマ制作部ディレクター
      菅野高至氏(NHK「いのちの事件簿(ケースファイル)制作)
    2 鶴見区・生活と健康を守る会  
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    1 あなたにもできる生活保護争訟
    2 新しい生活問題と生活保護  
  16:00 閉会        

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