雇用保険未加入問題について
 派遣会社C社を訴え勝利的和解

 雇用保険に関する派遣会社の違法な対処により、派遣労働者が失業手当を受給できなくなった問題に対し、このたび訴えました。
 その結果、(1) 損害額に上乗せした金額の賠償、(2) 謝罪文、(3) 問題当時の雇用・社会保険保険料の労働者負担分をも派遣会社が負担するといった勝利的和解を得ました。
M. Kyouko(仮名)

 私は派遣社員として人材派遣会社C社で、1997年10月から1998年4月まで6ヵ月以上就労していました。

 フルタイムの就労で、期間は1997年10月半ばから同年いっぱいまでと約2ヵ月半でした。雇用・社会保険についてC社営業担当者の説明では、「当社の規定では、社会保険の加入は就労2カ月を経過した後から雇用保険とセット加入です」とのことでした。

 雇用契約は数回の契約更新の後、翌1998年4月に満了しました。次の仕事の紹介もありませんでしたが離職票の発行もなく、私は「加入は就労2ヵ月を経過してから」の説明のせいで、事実は6ヵ月以上の就労にもかかわらず、加入期間が4ヵ月であるため失業手当は受けられないものと、その後も長く信じ込んでいました。

 その後1年以上経った1999年8月末、目にとまった新聞記事がきっかけでふと疑問を持ち、労働条件相談センターや職安に問い合わせたところ、C社が故意に違法な対処を行っていたことが分かり、大きな衝撃を受けました。

 C社が雇用保険の手続きを正しく行っていれば、私は離職当時失業手当を受給できたこと、2年前まで遡り訂正加入はできるが、離職日から1年以上経過したためにもはや失業手当は受給できないこと、社会保険は当初から2ヵ月以上就労見込みの場合は初日からの強制加入であることを知りました。

 雇用保険は国が労働者の生活を保護するため定めたものですから、どれほど法律に不案内な労働者に対しても会社は自発的に手続きを行うべきです。そして派遣労働者は不安定雇用労働者であるため、なおのこと雇用保険を必要とするものです。

 9月、私はC社に雇用・社会保険の虚偽の届出の訂正と、失業手当損害額の賠償を要求しましたが、「不満があるんやったら訴えるなり何なりしたらええわ」と反省も謝罪もないまま放置されました。

 そのため10月、社会保険については管轄の東京都庁福祉局社会保険管理部企画課に通報、行政指導を依頼して『健康保険・厚生年金被保険者資格確認請求』により訂正させ、雇用保険については大阪府労働部雇用保険課適用係に相談、管轄の職安からC社に調査と行政指導が入りました。

 私の損害に対してC社が放置を続けるため、11月にインターネットで知った『派遣労働者の悩み110番』にEメールで相談したところ、派遣労働者の集会の案内をいただいて弁護士に相談にのっていただくことができました。雇用・社会保険に関する派遣会社の違法行為は1997年以前から社会問題化していた重大な問題でした。最初、内容証明で要求書を出しましたが誠意ある回答がなかったため、大阪府労働部から「訴えて賠償請求することもできますよ」「このようなことをくりかえすと、会社の派遣業務許可の取り消しもあり得る」といわれていたことに意を強くして、弁護士と相談した結果、2000年7月末、C社を訴えました。

 たちまち12月にC社は和解案として、失業手当損害額を賠償すると述べてきました。しかし、C社の違法性や労働者としての口惜しい思いを裁判官に懸命に訴えた結果、本年2001年1月、さらに、(1)損害額に上乗せした金額の賠償、(2)謝罪文、(3)問題当時の雇用・社会保険保険料の労働者負担分をもC社が負担する、といった勝訴的和解を得ました。

 就労当時、C社はわずかな雇用保険料負担を惜しんだたため、今回、失業手当額以上を賠償する結果となりました。雇用・社会保険料労働者負担分の会社負担は、適正な時期に加入させなかったことへの反省の表れであり、謝罪文言に関して裁判官は、「会社が謝罪するということはめったにないことです」と言われました。

 雇用・社会保険の問題について、周囲には「小さな問題、しょうもないことにこだわって」と言う人もありました。しかし、これは金額的な問題ではありません。私は労働者にとって重大な問題だと考えます。

 訴訟の請求額は小さいのに派遣労働者の声に真摯に耳を傾け、民主法律協会の3人弁護士の方々に弁護団を組んでいただいて感激でした。この和解結果が派遣会社の猛省を促し、私自身のためだけではなく、派遣会社の劣悪な環境改善のための一歩前進となればこれほどの喜びはありません。
 ほんとうにありがとうございました。

(弁護団は、渡辺和恵・村田浩治・河村学の各弁護士です)
民主法律時報No.345(2001.2.28)、p.2-3

派遣110番回答者の感想

 相談者は、派遣会社が法律上義務づけられた雇用保険加入をしていなかったために、本来なら受けられるはずの失業給付を受けられませんでした。労働者を大切にしない、派遣会社の杜撰な労務管理が原因でした。被害回復は実際にはなかなか困難でした。しかし行政機関や裁判を最大限に活用して本来の権利をほぼ回復・実現することができました。何よりもご本人の強い確信とがんばりが解決できた大きな力だったと思います。
 1999年の派遣法改正では、派遣就労の前に派遣会社で労働・社会保険への加入が基本となりました。しかし、まだ基本に従った労務管理をしていない派遣会社が少なくありません。上の記事にもありますように、派遣会社担当者には労働・社会保険不加入が違法であることを再確認し「猛省」していただきたいと思います。
 労働者としては、派遣就労する際に、しっかりと自分の労働条件を確認することが重要です。トラブルを未然に避けることにもなります。ただ、実際には問題があっても派遣就労中は、なかなか声を上げられないことがあるかも知れません。その場合でも今回のように、事後的ですが、知識と力(地域労組や弁護士の支援など)を蓄えれば「がんばってよかった」という結果を生むことを回答者としても改めて確認できました。
(S.Wakita, 2001.3.4記)

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Last update: Mar. 4 2001