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 旅行に出て楽しいと思うのは、その土地の方言が聞けるときだ。とはいっても、土地の人とそう話し込むチャンスもないのが普通なのだが、大阪では黙っていても耳に大阪弁が飛び込んでくる。

 千日前を歩いていたら、ひときわ大きな声が聞こえてきた。見ると、「株式会社ディー・シー・エム 千日前マルエイ」と書かれた店舗の前に人垣ができている。中でおっちゃん(写真中央)が威勢よくタンカバイをやっているのだ。

 売っている品物はすべてバッタ物らしい。垂れ幕には「国産舶来ネクタイ」(?)「風に強いバーナーライター」などという怪しげな品物の名が書いてある。「歯ブラシの会社が倒産したんや。この歯ブラシ、1つ100円でどや?」などと調子よく口上を述べながら売っている。

 しばらく見ていると、おっちゃんに代わって塩辛声の老人が売り始めた。この店の主人らしい。落語の真打ち、という雰囲気で、すこぶる高度な話芸で客をくすぐっていた。

国際地下劇場 ふと視線を横に移すと、なんとピンク映画上映館があるではないか=写真。こういうものは、ひと昔前ぐらいに滅びたのではなかったか。今や新宿の歓楽街に行っても、ピンク映画上映館などというものは存在しないと思う。いや、僕が見落としているだけかもしれないが、よしんば東京にこの種のものがあったとしても、わざわざこうやってペンキ絵まで描いて客寄せをしているところはないだろう。

 近くに、もう一軒似たようなピンク映画上映館があった。まるで70年代にもどったかのようで、なんだかなつかしい。といって、僕が昔通っていたという意味ではありません。

通天閣タワー 大阪マップ  千日前から堺筋に入り、「でんでんタウン」をひたすら南下する。ここは東京でいえば秋葉原に相当する電気街だ。秋葉原よりも商店街の全長が長いように思うが、実際はどうなのだろう。

 商店街が尽きたあたりで彼方を見上げると、名高い通天閣が立っている=写真。東京でいえば東京タワーなのだろうが、大阪のシンボルといわれるタワーに「日立」のマークと広告がでかでかと書かれているのは大胆というべきだろう。

 先のNHKドラマ「ふたりっ子」でも、通天閣を映しつつ日立の広告は隠れるように苦心していたようだ。この日立の広告はいつごろから掲げられているのか。戦後に通天閣を再建したとき以来ずっとなのだろうか。茨城県日立市の中心企業であるはずの日立が、どういういきさつで大阪のシンボルになっているのか。他の企業が通天閣に広告を掲載する余地はないのか。等々、疑問は尽きない。

モータープール  ドボルザークの音楽とともに、新世界から天王寺動物園を過ぎて天王寺駅へ向かった。今日の漫歩でやたら目に付くのは「モータープール」の看板である。前々から、駐車場のことを大阪ではこう称するのだという報告は聞いていたが、ようやく実例を目にしたわけだ。もっとも普通に「パーキング」というところもあるのであって、新世界の北口には「上田パーキング」というビルがあった。

 天王寺駅についたころには夕暮れが迫っていた。天王寺駅はショッピングプラザを兼ねた駅ビルになっていて、向かいには近鉄百貨店がある。それらは歩道橋でつながっている。歩道橋からはさきほどの〈都庁〉や通天閣、それからたぶん建築中のフェスティバルゲートではないかと思うがピラミッドの建物などが見える。冒頭タイトルの夕暮の写真は、その風景を撮影したものだ。

ユーゴー 贔屓屋  本を買いたいと思い、やや南に行った所にある「ユーゴー書店」へ入る=写真左。これは土地の古老が「大阪で最も大きい書店のひとつや」と勧めてくれたので訪ねたのである。しかしそんな書店は聞いたことがない。ユーゴー書店を知らない大阪人はもぐりなのだろうか。むしろ、ショッピングプラザに入っている旭屋とか、駸々堂とかのほうが有名ではないかと思うが、天王寺の旭屋・駸々堂はごく小さな店だった。

 ともあれ、ユーゴー書店で大阪関連の書籍をあさって、夕飯へと急ぐ。夕飯は近鉄百貨店の9階で摂ることにした。ここで僕は、写真右のような奇妙な名のイタリア料理店に出会うこととなる。「ひいきや」と読むのだろうが、僕の知っている「贔屓」という字とは違うのだ。〈雁だれ〉に「贔」という字を書いているが、ちゃんとした字なのかな。看板屋の誤字ではないかと思ったので、いちおう写真を撮ってきたわけである。

(終わり)

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