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 ことばをめぐるひとりごと  その11

プラッチック

 関西に住む友人が、大阪ではプラスチックを「プラッチック」というのだと教えてくれました。
 「昨日な、飯食いに行ったとこの食器なあ、プラッチックやってん」
 などと使い、あえていうなら、「安物の」という感じが込められているところが「プラスチック」と違うのだそうです。
 大阪弁では「スッチャデス」(←スチュワーデス)などという訛形もありますね。また独特の外来語「モータープール」(駐車場)というのもあります。英語では motor pool は配車センターに駐車している軍用・官庁用の自動車の群のことをいい、駐車場の意味はないとか。
 外来語が地方において、中央とは違った語形・意味で使われる例はたまにあります。
 北海道ではキャベツが「カイベツ」となるのは有名。これは「ダイコン(大根)」が「デャーコン」といわれるように、キャベツもまたナマっているのだろうと類推された結果、「カイベツ」という新しい語形ができたわけです。
 戦前の富山には、ゴムを「ゴミ」、ボーイを「ボオヤ」、トラホームを「トラホーメ」とする方言があったそうです。「ゴミ」はゴムで消すとごみが出ること、「ボオヤ」は「坊や」、「トラホーメ」は「目」への類推があるらしいということです(楳垣実『日本外来語の研究』)
 また、弘前市ではバツ印(×)のことを「イッケシ」と言います。これは使っている人にも語源が分からなくなっているようですが、周辺で「エキシ」「エッキス」などと言っているところからすると、「エックス(X)」でしょう。「×」をアルファベットのエックスに見立ててそう言ったのが、方言として残っているものと思われます。
 古い時代に入ってきた外来語が、方言として使われている場合もあります。橘正一の文章(方言と外来語「國語研究」3-1、1936)によれば、たとえば「カルサン(軽袗)」。中部地方などで野良仕事のときにはく「もんぺ」のことで、近世初期にポルトガル語から到来。また同じくポルトガル語で、岡山・広島・九州各地で使われる「バンコ」。腰掛け・縁台のことで、長崎では踏み台のことも指すようです。また、「バッテラ」はサバ寿司のことも言いますが、もとは「ボート(小舟)」を指し、長崎・種子島のほか、山口・愛媛・香川にも残っています。
 オランダ語経由の方言としては、「ターフル」(テーブル)、「フラフ」(旗)、「フルイト」(汽笛)などがあります。いずれも、近世に長崎の港を経由して入ってきたもので、長崎をはじめ各地で使われるようです。

(1997年記)

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