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第5回
「紅白歌合戦」はNHKの専有物にあらず

 「紅白歌合戦」がNHKのものでない、と言うと、びっくりされるかもしれません。もちろん、第1回(1951年)から一貫して「紅白」はNHKで放送されており、制作スタッフもNHKの職員なら、会場もNHKホール(ただし1973年以降)です。NHKの象徴的番組だと目され、民放各局は打倒「紅白」を旗印に年末番組に心血をそそいでいます。

 ところが、繰り返しているように、「紅白」は一方で国民的祝祭の場でなければなりません。祝祭を一部の団体が牛耳るのはよくないことです。たとえばの話、コカコーラがオリンピック大会に今よりもっと膨大な額を出資し、「コカコーラスポーツ大会」と改称して、「コーラびん輪投げ競争」だの「アクエリアス早飲み競争」だのを競技に取り入れたらどうなるでしょうか。考えるだけで身の毛がよだちます。ちょうど、大阪の象徴・通天閣を、日立が宣伝媒体に利用しているみたいなものです(ちょっと例がヘンか)。

 「では、お前は『紅白』の運営をNHKの手からもぎ取れと主張するのかね」と言われそうです。決してそうではない。ここが難しいところでしてネ……。NHK・全民放合同で「紅白」を制作したとしても、けっして良いものはできないと確信します。

 民放が「紅白」に関与したら大変だ。アトラクションで野球拳をやるわ、ビキニの女の子を熱湯に入らせるわ、新人タレントを観客の前でいじめの対象にするわで、「紅白」の質はがた落ちになり、国民から見放されるでしょう(ちょっと民放に偏見入ってるかもしれませんが)。「紅白」の質を保つには、どうしてもNHKならではの見識で制作してもらう必要があります。

 ただ、それと「紅白」の私物化は別問題なのですね。僕が言う「私物化」とは以下のようなことです。

 まず、出場する歌手。「NHKへの貢献度」によって選抜されるというのは、よく批判されるところです。僕はそのへんの詳しいことは知らないので、深く追及はしません。

 ただ、昨年まで数年間、「紅白」には「NHK新人歌謡コンテスト」の優勝者が出場できるという特別枠がありました。田川寿美、石嶺聡子、門倉有希、岩本公水はその枠で出たのです。彼女たちの歌唱力は確かですし、特に田川寿美はその後も順調で、「紅白」にも出場しています。また、僕は石嶺聡子の「涙はいらない」という歌が好きだったので、彼女が「紅白」で「花」を歌うのを楽しみにしていました。しかし、初めから枠が用意されているのはやはりまずい。コンテストの優勝者が、後に必ずしも成功するとは限らないからです。「新人歌謡コンテスト」は、1997年をもって廃止になり、1998年からこの枠がなくなったのは、良い判断だったと言えるでしょう。

 また、毎年「特別審査員」として、各界を代表する著名人が招かれます。近年は、どの特別審査員も見せ場を任され、「紅白」の見どころになりつつあります。ところが、ほぼ10人の審査員の中に、必ず「大河ドラマ」「連続テレビ小説」(朝ドラ)の主演者や脚本家が2人ほど含まれているんですね。これはかなり昔から続いている慣例です。でも、ちょっとどうかと思う。

 「大河ドラマ」などNHKのドラマがそれこそ国民的人気を得ていた当時なら、観客・視聴者も「人気番組のあの俳優が出ている」ということで喜んだかもしれません。でも今や、残念ながら国民のドラマの好みは多様化しています。フジテレビの恋愛ドラマしか見ていない視聴者がたまたま「紅白」を見て、そこで大河ドラマの宣伝を見せつけられるとしたら、けっしていい気持ちはしないでしょう。

 それから、歌手の応援に、NHKの番組の出演者が出てくることがあります。たとえば1996年には、「バラエティ生活笑百科」「クイズ日本人の質問」のメンバーらが駆けつけました。司会の上沼恵美子・古舘伊知郎の出演する番組だったから、「友情出演」は自然だともいえます。しかし、これに加えて朝ドラ「ふたりっ子」のメンバーのショー、「お江戸でござる」出演者の応援まであったので、どうも宣伝臭がふんぷんでした。

 1997年はこれほどの応援がなくなって、結構ではありました。オーロラ輝子(河合美智子)が「夫婦みち」を歌ったときに「ふたりっ子」の出演者が応援に来ましたが、これはこの歌が同番組から出た以上は当然でしょうかね。

 その代わり、特別審査員に本木雅弘(「徳川慶喜」)、佐藤夕美子(「甘辛しゃん」)、吉行あぐり女史(「あぐり」)と、NHKドラマ関係の人が3人も出ていました。これは目立ってしまいました。佐藤夕美子ちゃんには悪いが、「この人だれ」と思った視聴者は全体の80%以上だったでしょう。

 視聴率の高い「紅白」の場を借りて、NHKの番組を大いに宣伝しようという気持は分かるのです。しかし、何かの目的のために「紅白」を利用するというのは非常にさもしい考えです。「紅白」はそれ自体が目的なのであって、何かのために「紅白」があるわけではないんですから。

 「紅白」を単なる「NHKを宣伝する媒体」のレベルにおとしめてはいけません。「紅白」はNHKに従属するものではない、みんなのものなのです。

(1998.11.11)


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