もっとも、僕の「潔癖性」は徹底を欠いた部分もあったようです。 ある朝、僕が小学校の教室で無意識に「ルパンIII世」のテーマソングをはな歌で歌っていたら、さっそく友人が聞きとがめました。 「おいお前、ゆうべ『ルパンIII世スペシャル』を見たやろ。あれは民放の番組やないんか?」 「ん? い、いや、見てない。見てないよ」 「嘘をつけ。見たから、はな歌を歌っとったんやろ」 これは友人が図星を指していました。「全員集合」も見なくなっていた僕でしたが、まれには民放で見たい番組があり、主義に反して「浮気」をすることがありました。 「NHKしか見ない」ということは常々クラスでも公言していましたから、僕が「ルパンIII世」を見た、という事実はたちまち大スキャンダルとしてクラスじゅうに知れ渡り、批判の矢面に立たされました。よく考えれば、何も悪いことはしていないのですが。 これをきっかけに、心を改めた僕は、より「NHK色」を強めてゆくことになります。
中学時代は、ほぼNHK一色でした。そのころ人気の高かった民放のテレビ番組は、ほとんど見た覚えがありません。「3年B組金八先生」も、どういうストーリーだか知らない。 これでは友人と話が合いませんが、その代わり、「NHKのことならあいつに聞けば分かる」という妙な評価を得ました。 たまに、友人が相談に来ます。 「あのさ、NHKでこないだまで『いのち燃ゆ』というのをやっていたろ」 「ああ、水曜時代劇な。それがどうかした?」 「おれ、あの番組のテーマソングが好きだったんだけど、お前、もしかして録音してたらテープ貸してくれない?」 「うん、してるよ」 というわけで、驚くべし、NHKに関する要望ならたいていのことには対応できてしまったのでした。
家族は、やりにくかったろうと思います。夕食の時に、みんなが民放の番組を見ていると、僕はすぐにNHKに回してしまいます(回す、というのはチャンネル切り替えがダイヤル式だったころの言い方)。 「ちょっとちょっと。人が見てるのにチャンネル替えないでよ」 「僕は、NHKでないと飯が食えんのだよ」 「その性格、直さないと。民放も見なくちゃ、物の見方が偏ってしまうよ」 「偏るったって、今見てたのは『スターどっきりマル秘報告』でしょうが。これを見れば物の見方の釣り合いがとれるわけ?」 理屈は僕のほうが筋が通っています。ちょうど反抗期で、言い出したら聞かないし、家族は泣く泣く引き下がるのでした。
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