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 ことばをめぐるひとりごと  その29

カラオケスタジオ

 なぜか僕には、ふと思いついてニュース番組をビデオテープに録画しておく癖があります。ある時、古いテープを再生していたら、不思議なニュースに出くわしました。それは1988年12月6日に放送された「NHKナイトニュース」の高松ローカル枠で、

コンテナ改造のスタジオ
   住民の反対で撤去

というのです。「コンテナ改造のスタジオ」とは何ぞや。アナウンサーのことばを引用してみますと、こうなります。

 高松市屋島西町の住宅地に、コンテナを改造して作ったカラオケスタジオが出現し、地元の住民が反対していた問題は、住民側の運動が実って、スタジオは撤去されることになりました。
 この問題は、今年の8月、岡山県の音響システム会社が、カラオケが歌えるように改造した貨物用のコンテナ7個を、高松市屋島西町の住宅街の空き地に設置したことから、地元の自治会などが反対していたものです。

 これはまさに、今隆盛を誇るカラオケボックス発祥期のニュースなのですね。「カラオケスタジオ」ということばを聞いても、僕はピンときませんでした。わずか(?)9年ほど前のニュースではありますが、ひどく違和感があるのです。昔は自然に聞き流していたが、今では忘れてしまったことばなのかもしれない。今、「カラオケスタジオ」などと普通に使う人がいるのでしょうかね。
 手許には、パイオニア(株)広報部が発行した「92年度版 ニューメディアカラオケ白書」なる資料がありますが、これによれば、カラオケボックスの発祥は、上記のニュースにもあったように1988年夏のことらしいです。岡山県のカラオケ業者が空き地に、コンテナを改造した屋外型カラオケボックスを設置した。一方、「カラオケルーム」のほうは、同時期に滋賀県で、自販機との併設によるロードサイドでの営業が最初、ということです。
 「カラオケボックス」「スタジオ」「ルーム」と、いろいろ呼び名が出てきますが、これは新しい娯楽であるために呼称が一定しないのかもしれません。「ボックス」が屋外コンテナ型、「ルーム」が室内型という区別もあるように思いますが、今では室内で歌う施設であっても「ボックス」というのが普通でしょう。このほか、「カラオケハウス」というのもあります。
 試みに、朝日新聞のデータベースで上記の4呼称が使われた記事を検索してみると、次のような結果になりました。

カラオケボックス  709件 該当年・1989〜97年
カラオケスタジオ   34件 該当年・1989〜97年
カラオケルーム   118件 該当年・1989〜97年
カラオケハウス    46件 該当年・1989〜96年

 これを見ると、「カラオケボックス」の語を使った記事が断然多く、ぐっと下がって「カラオケルーム」が次いでいます。「ハウス」「スタジオ」はあまり使われていないことが分かります。でも、滅びたわけではなく、今でも細々と使われてはいるようです。ただ、僕にとっては、この2つはちょっと馴染みがないことばです。88年、ボックス発祥の年には、いずれのことばも記事に使われていないようで、新聞のことばの初出というのは遅いことが分かります。
 初めのニュースに戻りますが、高松の住民たちにとって、カラオケボックスなるものは、1988年夏の時点ではまったく未知の存在だったわけです。空き地にとつぜんヘンテコな施設が出現したことで、本能的な恐怖を感じたんでしょうね。ニュースはある主婦のコメントをこう伝えています。

「スタジオの中を見て、改めて密室だという感じがした。早く気が付いて反対運動をしたのが良かったと思うが、とにかく撤去されることになってほっとしました」

 そりゃあ、密室だわなあ。いかにも、当時ならではの反応という気がする。反対署名は2000名分も集まったといいますが、今なら、かえって喜ぶ人が多いんじゃないか?

(1997.06.09)

追記 読売テレビの道浦俊彦氏「平成ことば事情 347」によれば、「カラオケ店」という言い方が「最近ニュースで定着しかけている」とのことです。(2001.07.01)

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