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99.02.11

最後の?「E電」

 小矢野哲夫氏の『ワードウオッチング―現代語のフロッピィ―(私家版・1999.01)を、ファミリーレストランでねばりながら夢中で読了しました。著者の現代語採集の蓄積をもとに、新語の発生や推移などについてエッセイ風に論じた本です。
 「オヤジギャル」から「アメダス」に至るまで、取り上げられたことばはさまざまですが、僕自身も、昔を思い出して懐かしく感じた次第。
 たとえば「げろげろ(p.141)なんてことばがあったんですね、以前は。同書には「一九八九年初め当時、非常に流行っている言葉であった。」とありますが、僕はこれを1988.12.05に早稲田大学文学部の大教室で聞いています。本を読んでいたら女子学生のグループが話しながら入って来て

「あたし今日げろげろだよー」
「汚いからその表現やめろよ」

なんて話している。《最悪》という意味で「げろげろ」と言っているようでした。僕はその言語感覚に驚いたのですが、何が《最悪》なのかと聞いていたら、「中央線が混んでさ」「どうしたの」「事故みたい」。
 その時は分からなかったのですが、下宿に帰って夕刊を見ると、1面トップにカラー写真。東中野駅で電車追突事故があり、2人死亡、多くの人が重軽傷を負ったということでした……。
 「E電(p.104)というのもあったっけ。国鉄分割(1987.04)に伴って「国電」もなくなったことから、JR東日本が新名称を募集して「E電」に決めたのでした。僕はそのニュースを聞いて「何じゃそりゃ」と思った。
 その後、友人などと話していても、「E電」ということばが出たことはまずありませんでした。駅の案内板に、黒地に青い電光文字で「E電」とひっそり書かれていたことだけを記憶しています。
 同書では1993.06.11の「朝日新聞」「青鉛筆」欄を引いて、このころに「E電」の文字が駅から消えたことを記していますが、ちょうど、そのころの雑誌「AERA」に「E電」が使われています。

 広告料金は、例えばE電(京浜{けいひん}、中央・総武{そうぶ}、山手{やまのて}線)全線の場合、二日で必要なポスターはB3サイズ約六千枚、三百三十四万円ほどかかり、営団地下鉄全線だと、約三千二百枚、二百六十万円。私鉄各社は料金にバラつきがあるが、多くの場合、E電と営団に私鉄数社を加え、一回につき二万枚のポスターを吊り出す、という。(「AERA」1993.11.15 p.73)

 車内広告についての記事ですが、もう死語となったと思っていた「E電」が使われていたので、珍しくて切り抜いておきました。もっとも、ただ「E電」と書いては読者に分からないだろうから(!)、「京浜、中央・総武、山手線」と注釈をつけています。
 「朝日新聞記事データベース」によれば、1993年以来今日まで「E電」は4件(たったの!!)使われていますが、いずれも「○○という新語は、あのE電のように定着しないのではないか……」というように、鉄道の区間を指すことばではなく、「はやらないことば」の代表として出てきます。
 どうやら、上記の「AERA」の記事は、活字媒体で「E電」を区間を指すことばとして用いた最後の例、とはいわないまでも、それに近い例の一つではないでしょうか。


追記 東京駅の案内表示には、まだ(細々と?)「E電」が使われているようですね(冒頭の写真参照、撮影者は僕)。また、時刻表を見ると「E電」の文字はありますね。ですから、「AERA」の例は、「JR関係以外の活字媒体で」と言い直しておきましょうか。(2000.11.08)

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