![]() |
98.11.03 果てしのない ![]() 堀辰雄『風立ちぬ』を読んでいて、「果てしのないような」という言い方が出てくるのに気がつきました。
私達の乗った汽車が、何度となく山を攀(よ)じのぼったり、深い渓谷に沿って走ったり、又それから急に打ち展(ひら)けた葡萄畑の多い台地を長いことかかって横切ったりしたのち、漸(や)っと山岳地帯へと果てしのないような、執拗な登攀をつづけ出した頃には、(『風立ちぬ・美しい村』新潮文庫 p.96) 「別に違和感ないじゃないか」と思った人は正常な言語感覚の持ち主です。テレビでも、 そこには果てしのない未知の世界が広がっているのです。(NHKスペシャル「アマゾンの果てまでも」1997.09.15)
のように言っています。 正にこれ、垠(はてし)も知らぬ失恋の沙漠は、濛々たる眼前に、麗き一望のミレエジは清絶の光を放ちて、甚だ饒に、甚だ明に浮びたりと謂はざらん哉。(『金色夜叉』新潮文庫 p.456)
というように、「はてし」に漢字を宛てており、まったく名詞と考えていたのが分かります。
御遺骸(ごいがい)はすでにお引取りいたしました、あの立派なお人柄、さだめしお歎(なげ)きの種とは存じますが、それでは果てしがございませぬ。(シェイクスピア・福田恆存訳『マクベス』新潮文庫 p.117) こうなると、もう元の「果てなし」の面影はほとんど薄れていますね。 |
![]() | ||||
| ||||
![]() |