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98.09.22

日本語力測定試験

 明治書院内にある日本語学研究所というところが、1998.10.25に第1回の「日本語力測定試験」を行います。その記事が「朝日新聞」1998.09.15 p.30に載っていました。
 記事によれば、「読む」「書く」「話す」「聞くのコミュニケーション能力をみる、いわばことばの体力テスト」とのこと。
 出題例を見ると、「家具のたんすの正しい数え方は」(答え・棹)、「おっとり刀ということばの正しい使い方は」(答え・おっとり刀で現場に急行した)などというのに混じって、

●次の文は、Aさんが年上の人にちょっとした贈り物を手渡したところ、その年長者が「(略)何かお返しを(略)」といい、それに対してAさんが口にした言葉である。そのなかで敬語の使い方としてまちがっているのはどれか。
(1)とんでもないことです。
(2)とんでもありません。
(3)とんでもございません。
(4)とんでもない。

という出題がありました(記事では数字は括弧でなく丸囲み)
 正解を見ると「(3)」とあって、「とんでもございません」が誤りになっている。「あれっ、(3)が間違いなら、(2)も間違いじゃないの?」と思っていたら、案の定、4日後の1998.09.19 p.34に訂正が出ました。

十五日付「日本語の『腕試し』いかが?」の記事で、例題としてあげた四題のうち、最後の問題の解答が「(3)」とあるのは「(2)と(3)」の誤りでした。「とんでもない」という言葉の敬語の誤りを問う問題でしたが、(2)の「とんでもありません」も誤用です。

 朝日の記者が正解の「(2)と(3)」を「(3)」と誤記したとは思われないので、日本語学研究所の報道向け資料がすでに間違っていたと覚しい。この研究所に携わっているらしい先生方は身近にもいられるはずなので、はなはだ申し上げにくいのですが……。
 いちおう説明しますと、「とんでもない」というのはそれ自体で一つのことばだと言われます。「だらしない」が「だらしございません」とは言えないのと同じく、この「ない」は接尾語で、「とんでもありません」や「とんでもございません」は誤用とされる。「滅相もありません/滅相もございません」も同じ理由でダメといわれるだろう。
 たしかに、「あどけない・おぼつかない・かたじけない・しどけない・せわしない・はしたない・切ない・勿体ない」のように、「ない」が接尾語であって、「ございません」に言い換えられない場合はいろいろあります。古典語でいえば「あたじけない(ケチだ)・いらなし(苦痛だ)・うしろめたなし(気懸かりだ)・おぢなし(拙劣だ)」などがそう。
 ただ、これら接尾語の「ない・なし」が誕生したとき、形容詞「無い」がまったく意識されなかったかというと、そうすっぱり割り切れません。「とんでもない」ぐらいになると、かなりグレーゾーンという感じがします。
 文化庁が1995.06に発表したアンケート調査では、「とんでもございません」を正しい語形だと回答した人は78.7%にも上るのだそうで、こうなると、もう認知されていると考えることもできそうです。
 ことほどさように、ことばの正誤を断じることは難しい。そういうことは「研究所」のやるべき仕事ではないということもできます。いわゆる「ゆれ」ていることばのうちどれかが、こういった試験によって「正しい」と権威づけされることがないように願いたいものです。

  参考 浜田敦「肯定と否定」(「国語学」1 1948.10)

関連文章=「使うべし、「とんでもございません」

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