98.08.30
イプソフォン
日本で留守番電話が急速に普及しだしたのは、電電公社が民営化され、電話機が一般に開放された1985年以降だそうです。
それ以前は、主に企業が連絡用に使い、形も箱形で電話の下に置くものだった。1970年代の半ばごろ、自営業だった父の事務所にも入ったのを覚えています。こういった留守番電話は、昭和30年代の初めにはあったというから、ずいぶん古い話です。
ところが、留守番電話の発明自体は、もっとずっと早い。なにしろ、敗戦の翌年、1946年までさかのぼるらしいから、驚くじゃないですか。
当時の新聞を見ると、「電話ロボット登場 留守中の御用は私が 主人が帰つたら伝へます」という記事があって、次のように書き始められています。
〔ベルン特電十日発〕とんでもない電話機械がスイスで発明された、それは「あなたのために相手の話を聴きとり、そしてあとでそのまゝあなたに話してくれる電話機」で、人間の役割を人間よりはもつと忠実に、正確無比にやり、しかも厳重に秘密を守る驚異的なものである、その名前をイプソフオンといひ、高さ約二尺〔注・約60cm〕に足らず、ビール箱を立てたくらゐのもので、〔下略〕(「朝日新聞」1946.03.12 p.2)
イプソフォンというのは、事典を見ても出てこないのですが、間違いなく留守番電話のことでしょう。「とんでもない電話機械」とか「驚異的な」とあるので、新聞記者がいかに驚きをもって伝えていたかが分かります。
記事によれば、この「電話機械」は、スイスのエリコン工作機械会社が開発したものだそうです。電話の持ち主は、帰ってきてからしかるべきパスワードを電話機に打ち込むと、留守中の録音が聞ける、という仕組みのようです。ただし、どのようにして音声を記録・再生するのか等々の細かいことはまだ発表しないとあります。
今の感覚からすれば、電話を掛けた人の音声を録音するわけだろうから、「正確無比」であるのは当たり前、言い間違えたりするほうがむしろ不思議な気がします。
でも、なにしろ50年以上前のことですからね。ついこの間まで戦時下にあって耐乏生活を強いられていた身にとっては、「我々が竹槍の練習をしていたときに、海の向こうではこんなすごいものが研究されていたのか」と、慨嘆したくなるのも分かるような気がします。
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