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98.08.14

「偏継ぎ」という遊び

 平安時代、室内で流行していた遊びに「偏継(へんつ)ぎ」というのがあります。「偏」は「のぎへん・にんべん」なんていうあの「偏」。漢字を使って遊ぶゲームです。
 どんな遊びか詳しくは分かっていないようです。(1)漢字の旁(つくり)に偏をつけて字を完成する遊戯、(2)旁を隠して偏を見て文字を当てる遊戯、(3)ある偏の字を、いくつ知っているかを競う遊戯、などいろいろな説があります。
 どれが正解なのか。
 「源氏物語」「栄花物語」などに描かれているところでは、主に少女がする遊びのようで、男はまあそれに付き合う程度です。

はかなき御碁・双六(すぐろく)・偏継がせたまふなど、(岩波文庫『栄花物語 中巻』p.200。文字遣い改める)

とあって、囲碁やすごろくなどのように対戦形式で遊べるものらしいですね。
 囲碁は男も女もやったようですが、男性の場合はほかに漢詩の韻の当てっこをする「韻ふたぎ」という遊びをやった。これはかなり難しい遊びです。その点、「偏継ぎ」は、いわばお子様用で、簡単にできる遊びだったはず。
 真相はどうせ分からないので、上記の説のうち、どのルールが一番面白いかで決めてしまおう。
 (1)の説は、たとえば「苗」という字にいろいろな偏をつけて、「猫・描・錨」などの漢字を作るというわけ。しかし、これではすぐに候補が尽きてしまわないか。僕の持っているATOK11の「文字パレット」で「苗」を検索してみても、この3つぐらいしか使えるものは出てきません。
 (2)はどうか。これはたぶん、漢詩の文句の一部を抜き出してきて、その偏を隠して当てさせるということだろう。子どもには難しすぎる。漢詩をある程度知っていなければならないし、第一、漢詩の字句は、そう都合よく偏と旁に分けられるものばかりではありません。
 (3)はどうか。これはけっこう面白いし、間が持つんですね。たとえば「木へん」の漢字を替わりばんこに出していって、出てこなくなった方が負け、というルール。
 僕も友だちとやったことがあります。初めは「村・杉・松……」などの思い出しやすい漢字から始まって、だんだん候補が尽きてきて、敵も味方も苦しくなってくる。そこから佳境に入るのです。
 これでは「偏継ぎ」ではなく「旁継ぎ」ではないかという気もするけれど、このルールが一番面白そうなので、僕としてはこの説を支持したいです。

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