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01.04.02

八丈島の方言辞典

 浅沼良次氏の『八丈島の方言辞典』を手にしました。浅沼氏は、都立八丈高校で日本史の教師をしていた人で、もう何十年にもわたって、地元八丈島の民俗やことばなどを研究していられるそうです。
 僕は、この本の存在を朝日新聞の地方版東京面(1999.11.14)で知りました。ところが、この本は自費出版のため通常の流通ルートには乗っておらず、店頭では入手しにくかったのです。「そのうち、そのうち」と思っているうちに、月日が経ってしまいました。
 最近、NHK教育テレビ「ふるさと日本のことば」で八丈島のことばが紹介されていたのを見ながら、ふと「そうそう、方言辞典を出した人がいたっけ」と思い出しました。
 出版元の朝日新聞出版サービスに電話で問い合わせてみると、「著者の元から直接購入することになります」との返事。
 著者は八丈島にお住まいということで、生まれて初めて八丈島に電話を掛けてみました。すると、奥さんが出て
 「もう、うちには残りはありません。本屋さんに置いてもらったら、そばから売り切れてしまって、今はもう……ちょっと前までは、お土産屋さんに2、3冊あったと思いますけど、今はどうかしら」
 とのことでした。
 方言辞典がお土産屋さんに置いてあるというのも妙な感じですが、自分の行動の遅さを悔やみましたね。2年前に早いところ買っておけばよかった。
 だめでもともとと思い、そのお土産屋さん「吉田南光園」に電話をしました。すると店の女性が
 「あ、浅沼先生のご本ですね。ありますよ」
 とうれしい返事をくれました。
 さっそく、住所を言って代引き郵便で送ってもらいました。
 八丈島って、けっこう近いんですね。2日で本が到着しました。本は、いかにもお土産店らしい包装紙に包まれていました。

 この辞典は、全302ページ、3,800円。収録語数は約2,000語で、巻末には対話記録「カッペタ織りの話」「養蚕の話」が収録されています。
 収録語は、名詞・動詞・形容詞が中心。名詞は動植物に重点が置かれています。また、連語も多く、たとえば形容詞「ショッキャ」(知っている)のほかに「ショカンノージャ」(知っているだろう)なども見出し語として採用されています。よく使われるフレーズなのでしょう。
 例文が豊富なのもありがたい。

イソガシクテ スワロ マモ ナッケホド タチマーロワ(いそがしくて、座る間もなくて仕事をする)。

のように、八丈方言では「すわる間も」→「スワロマモ」、「なきほど」→「ナッケホド」となるようです。これは、万葉集の東歌にみられる東国方言、「降ろ雪」(降る雪)、「かなしけ子」(かなしき子)などの系譜を引いているわけです。こういう実例(正確には作例らしいですが)が多く盛り込まれていて、圧倒されます。

 八丈島の方言を集めた本は、すでにいくつかありますが、本書に推薦の辞をよせた金田一春彦氏によると、
 「今まで出されたどの方言集よりも方言語彙の数も多く、さすがに地元の人が発表された方言辞典だけのことはある」
 とのことですから、貴重な本には違いないと思います。
 お礼かたがた、ふたたび著者のお宅にお電話をし、辞典を見ながら疑問に思ったところを2、3お尋ねしました。浅沼氏は快く答えてくださいました。
 吉田南光園にも、小包到着のお礼をはがきで出しておきました。

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