哀愁のヨーロッパ オーストリア・ドイツ篇 第11話

ブンデスリーガを見た。

あの奥寺康彦が

ケルンといえば、「1FCケルン」を思い出す人もいるのではないだろうか。あの奥寺康彦が、左ウィングで出ていた、あの1FCケルンだ。彼がサイドラインを駆け上がると、「オク、オク!」と歓声があがった、あのチームである。ヨーロッパでプロサッカー選手として初めてプレーした奥寺選手の功績は大きい。日本サッカーが世界の舞台でどれだけのことができるのか、彼が残した足跡があとにつづく多くの選手の励みになっているのは確かだ。

日程が合ったぞ

いままで、ヨーロッパでもアメリカでも、サッカーと競馬にはシーズンが合わなかったり、日程が取れずにあきらめていたが、今回の旅行で初めてチャンスが巡ってきた。ドイツ・ブンデスリーガを自分の目で見れる機会を、逃さずにはいるものか。

チケットは取れるか?

最初の難問は、どこでチケットを入手できるか、果たして席はとれるのか、だった。入手出来る限りの情報では、よほどのことがない限り、席はとれそうだった。あとは、ケルンに行ってから、だ。

あった、あった!

9月26日、木曜日、ケルンに入った。トイレ探しに入ったデパートで、チケットブースを見つけた。行ってみれば、目当ての「1FCケルン 対 Vflボッフム」のゲームのポスターが張ってあった。これ幸いと、チケットを求めた。最初に聞かれたのは、「standing or seat?」だった。不審に思いつつ、「seat」を頼む。つづいて競技場の図面で、どこいらへんかということを聞かれたので、ホーム側、中央、上の方を指し示す。56マルク(約4308円)。ついでに、スタジアムへの行き方を尋ねると、「route train」の1番で終点だということだった。これは、あとで、路面電車のことだと分かった。当日になれば、大勢が乗るだろうから、人波についていけばいいだろう、と軽く考えていた。

揺れる人波

当日、27日、金曜日。地下鉄でNeumarkt(新市場)駅へ。ここで、路面電車1番に乗り換える。予想通り、ケルンの赤いマフラーを巻いた若者たちが、蛮声を響かせている。足を踏みならし、大声で歌う。フーリガンほどではないが、相当にけたたましい。やがて、Stadionに着いた。途中で、私も赤いマフラーを買う。これで、私もケルンファンの仲間入りだ。12-16-20の席について競技場を見おろした時、「standing or seat?」の意味がわかった。ゴール後方のサポーター席は、全員が立って踊っている。旗がなびき、応援歌をわめき、騒乱状態。所持品検査をするわけだ。発煙筒がないぶん、イタリアのセリエAよりいいかもしれないが、熱狂の度合いは肩を並べるだろう。試合開始の1時間以上から、盛り上がり放しだ。陸上競技場を兼ねる設計のため、スタンドとやや距離があるが、芝はものすごくきれいだ。

シュート!

午後8時、キックオフ。ケルンがやや優勢だが、得点には至らない。ディフェンスがボールをクリアしたり、前にいいパスがつながると、拍手と歓声があがる。シュートの場面では立ち上がらんばかりの大歓声だ。爆竹、足を踏み鳴らす。

ちびっ子のループシュート

0:0のまま、ハーフタイム。この間に、子どもたちによる1対1のゲームがあった。一人が、ドリブルでボールを持ち込み、キーパーがシュートを防ぐ。3人目の子がきれいなループシュートを決めると大きな拍手が起きた。

ゴール! ゴール!

後半、遂にゴールが生まれる。コーナーキックから、中央でヘディングシュート、キーパーが前にこぼしたところを詰めて1点。スタンドがみんな立ち上がり、大騒ぎ。つづいて、またケルンにチャンスが訪れる。中盤でボールを奪って左サイドをドリブル突破を図ったところを、ペナルティエリアの中で敵が足を出してしまい、イエローカード、PK。

ゴールのあとの喜びのシーンゴール、そしてコーナーへと喜びのラン

慎重に決めて、またまた、歓喜の渦。写真で、手を挙げて立ち上がって喜んでいるのがおわかりいただけるだろうか。さらに、またまたパスカットから右へはたき、センタリングしてきれいなゴールゲットと思いきや、オフサイドの判定。結局2:0でケルンが勝利。

ドイツらしいぜ

全体に、ディフェンスの技術の高さが目についた。適切な間合い、スライディングタックルのタイミング、抜かれた時のサポートなど、さすがと思われた。ただし、全体にスピード感に欠けた感じがする。勝利のあと、選手全員がサポーター席に向けて感謝のスライディングでお返しをしていた。熱心なサポーターが、チームを支えているという認識があるからだろう。

大騒ぎさ

帰りの電車の中でも、若者たちのテンションは高かった。床を揺らし、ものすごい騒ぎだ。もし、負けていたら、どうなるんだろうと考えると恐ろしくなった。

いつの日か、日本も世界の強国に互して戦える日が来ることを祈って、帰路に着いた。

哀愁のヨーロッパ オーストリア・ドイツ篇 第11話 【ブンデスリーガを見た。】 完

text & photography by Takashi Kaneyama 1997

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