年忘れ megu 杯争奪 タイム「ラブ」アタック大会 (野暮なまえがき)

楽しい話 (になる筈なのだが) を書く前に, どうしても書いておかないといけないことがある. 先にことわっておくが, 以下に出てくる事故の全ての関係者について, 誹謗中傷する意図は全く無い. また, 不正確な事実認識があった場合, それは一次情報 (つまり判決原文) を確認しなかった私に責任がある. これを読んだ方で, 判決文を手に入れるつもりになった方がおられたら, 私に連絡してほしい. ある程度の価格であれば, ぜひ買いたいと思う.

98年 12月 16日に一つの判決が金沢地裁で下された. 以下, 12月 17日付けの読売新聞(茨城版) 27面 の記事を要約するとこうなる.

97年 4月 20日に福井県のカート場で行なわれたレースで事故が発生. 事故を起こした車は分離帯 (高さ30センチ, 幅 3メートル) を越えて反対側を走っていた別の車と衝突. 衝突されていた車に乗っていた参加者が死亡した. 参加者が主催者の (事故の際の損害賠償責任の) 免責条項に同意していたため, 主催者は遺族からの損害賠償請求を拒否し, 裁判となった. 裁判官は「コースに瑕疵があったことなどから本件は (この) 免責条項の対象外」とし, また「同コースの設備では, 高速で走るカートが隣接コースに侵入することを防止するのは困難」 だったと認定. 被告側に損害賠償を命令した.

さて.

私が走行会を主催する時, 参加者には誓約書を書いてもらっている. これは「たとえコースに問題があって事故が発生した場合にも, 責任は事故当事者にあって, 主催者 (つまり私) には無い」ということに 同意してもらうためである. もし私に責任があるとすると, 私が損害賠償請求される可能性がある. せっかく遊ぶ場所を (ボランティアで) 提供しているのに, 勝手に事故を起こされた上に損害賠償だけ請求されるなんてやってられねーので, こういう文書を書いてもらっている. これは別に私だけじゃなく, アマチュアでこういうこと (走行会とか, ジムカーナとか) を主催する人はほぼ例外なくやっていることであり, これで十分であると思っていた. 各参加者は自分の自由意思で参加するのであって, 危いと思ったら参加しなければ良い. それで事故を起こしたらそれは本人の責任においてやったことの結果であって, 自分で全責任を負うべきである. 私はそういうつもりで誓約書を書いてもらっていたし, 自分が参加者になる時もそういうつもりで誓約書を書いていた. コース設定が危いと思って, 主催者にコース変更を要求したこともある (ジムカーナで). モータースポーツとはそういうものであって, 要するに責任の持てる, 大人の遊びだと思っていた.

ところが.

読売新聞の記事が正確であるとすると, どうも誓約書ってものはそういうものでは無いらしい. コースに欠陥があれば, それは単なる紙切れでしかないようである.

誓約書を一種の契約ととらえ, その契約に瑕疵があった, つまり参加者が 「このコースは死亡事故が起きないように安全対策がしてある」と誤認し, その結果誤って誓約書を書いてしまった, というのであれば, その誓約書を無効と認定するのは良いと思う. それならば, 誓約書に「このコースには XXX や OOO といった危険性があり, 死亡事故が発生する可能性があります」と書いた上で, 主催者免責に同意してもらえば良い. 「それでも走る」という人だけが走れば良いのである.

そうではなく, 「コースそのものに瑕疵があるのだから, そのようなコースでレースを行った主催者は免責されない」ということであれば, これは大問題である. そもそもカートはフェンダーが無いため, 他の車のタイヤに乗り上げれば飛ぶのである. 「だから分離帯を乗り越えることは予見できた」とも言えるが, そんなことを言ったら飛んで裏返って, 首の骨を折ることも予見できるのである. 公道で良くある事故原因, つまり「ハンドル操作を誤ってガードレールに衝突」というのだって 予見できるのである. 要するにカートレースなんてものは, ボクシングの試合と一緒で死ぬときは死ぬのである. それを「コースに欠陥がある場合は主催者は免責されない」 「カートに欠陥がある場合は主催者は免責されない」と言われたのでは, レースの主催なんて絶対できないのである.

カートだけではない.

成田モーターランドのようなコースでも, 危険が全く無い訳ではない. 成田の場合, 第一コーナーの先には土堤がある. 土堤の先は崖である. 第一コーナーで曲がらず, 土堤を乗り越えれば崖から転落するのである. 私は未だそういう事故を見たことは無いのだが, 大沢師匠は見たことがあるそうである. 何でも, 土堤は乗り越えそうだったのだが, 土堤の上に立っているダンロップの看板の足に当って止まり, 転落は免れたそうである. 足が無ければ死んでいた, とか.

だから師匠はいつも「第一コーナーのところは無理しても仕方ない (あまりタイムアップにはならない) のだから, 突っこまないようにして下さい」と言うのである. そう言われても, 雨で路面が濡れていて滑りやすかったりすると, 第一コーナー入り口でブレーキ掛けたとたんにロックして, そのまままっすぐ逝きそうになる奴がいるのである (実は私だ). それで参加者が逝っちゃった時に, 「危険なコースで走行会を開催した」という理由で責任を問われるのであれば, 走行会の主催なんてできないのである.

本当は読売新聞なんてものに頼らず, 判決文を直接読めばイイのだが, にっぽん国の司法制度は判決や, 裁判の過程を広く公開するようにはできていないので, その為には金沢まで行って判決文の閲覧を申請しないといけないらしい (そして, これは予想だが, コピーは取れないか, 取れても 1枚 100円とかであろう).

まぁ, それはともかくとして.

判決の中身がはっきりしないので, 我々アマチュア主催者としては, 当面走行会を主催するのを止めるか, もしくは保険を掛けるかしか無いのである. モータースポーツ (と, それに類する行為) では通常の自動車保険は効かないから, スポーツ障害保険かイベント保険 (あるのか?) かなにか, そういうものを探さないといけないのである.

そういえば, 私の会社に営業に来ていた安田生命のおねーちゃんの持っていたパンフレットで, モータースポーツをカバーする障害保険があったような気がするが, あれは事故の相手もカバーするのかね?

さもなくば, 走行会を主催することを止めるか.

大沢師匠は, カートのレースの主催を止めるらしい.

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