かずえの鈴鹿日記 (下)

Chapt. 4 スズカの直線は根性で走るのよ!?

朝である。11月も終わりとなると、6時ではまだ薄暗い。アラームに起こさ れ、眠い目をこすりつつ、ベッドから這い出す。まごまごしてると置いてかれ てしまうのだ。40分で交通教育センターの集合場所まで行かないと、サーキッ トに連れていってもらえない。何とか間にあったが、着いた時には既に皆来て いて、走行前点検を始めている。私たちもあわてて始めるが、全部終わらない 内に移動開始となる。うわあ、待ってくれ〜・・・。指導員の車を先頭に、ぞ ろぞろと構内を抜け、サーキットへと移動。あ、パドックの裏だ。あ、ピット だ。う、わあ・・・本当にサーキットだあ。てなわけで、いよいよ走るのであ ります。1人5周、決して指導員を抜かないこと(!)、シケインやヘアピン につっこむ前には充分に減速すること、車間距離は30〜40mを保ち遅れないこ と(もし周回遅れになったら待っていればまた帰ってくるから無理せず待って いること、トラブルが起きたら、とりあえず車から降りて安全な場所に避難し ていること、等々、先日の注意を思い出しつつ、しかし、寒いぜ。エアコン全 開、リアのヒーターもかけて、車を暖め・・・でもタイヤはまだ暖まっていな いよな。いきなりってのも何だし、とりあえず最初はHさんに譲っといて様子 を見るか。(なんてずるいやつ。)というわけで、「お先にどうぞ。」とにっ こり微笑み、自分は助手席へ。Hさん、緊張しつつも、最後尾からのスタート。 (並んでいた順で、こうなってしまったのでした。深い意味はない。)朝日を 浴びて、車は走る走る・・・しかし、鈴鹿サーキットの一周5.86403kmという のは結構長い。ホームストレートを加速して1コーナーへ突入し、S字を駆け 上がって逆バンクからダンロップコーナーへ。そこからデグナーカーブへ突っ 込み(突っ込み過ぎるといつかどこかのだれかさんみたいになる・・・)、勢 いをつけてヘアピンへ。ここは直前で充分減速しておいて、クリッピングポイ ントを過ぎたら思いっきり加速。続いてスプーンカーブをクリアしたら、あと は全力でバックストレートをひた走る。130Rを過ぎるとシケインが待っている ので40km/hに減速・・・。「鈴鹿のシケインは根性で曲がるのよ。」いつか聞 いたフレーズが耳をよぎる。よっこらせ、とシケインを抜けると後は長い長い ストレート・・・これが!速いのだ、みんな。たかがシビックといえども(プ レリュードもいたけどさ)、あっと言う間に140km/h位出している。でも、F-1っ てもっとずっと早いんだよね。TVで見ていると皆淡々と走っているように見え るんだけど。

・・・てなこと考えてる間に5周終わり、次は私の番である。うー、やっ ぱり緊張。傍らで出走準備をしているバイクを横目で見ながら(HMS:ホンダ モーターサイクリストスクールの参加者の体験走行も同じ時間枠で行われた。) ピットを出てホームストレートへ。おおっと・・・ちょ、ちょっと待ってよ、 なんでいきなりこんなに速いの?おとなしく走ってなんかいられない。あっと 言う間に皆1コーナーへ突っ込んでいく。よっしゃ、こいつはちと気合い入れ て走らんといかんな。ほな、いってみるか・・・。右足のペダルを全力で床ま で踏み込み、1コーナーから2コーナーへと駆け上がる。S字を抜けて逆バン ク、思ったほどは恐くない。デグナーへの進入も、きっちりラインをとれば大 丈夫。お砂場が呼んでも、行きっこなしよ。お次はヘアピン・・・あ、ここっ てこんなんなってるんだ、知らなかった。シフトダウンして外側からカーブの 真ん中めがけてよっこらしょっと。そこからゆるい上り坂、思いきりアクセル を踏んでスピードアップ。スプーンを抜けるとバックストレート、ここはもう 目一杯・・・と思っていると130Rが待っている。その先はシケイン。流石の(?) 指導員もきっちり減速。しかし、シケインを抜けるとあとは速い。半端じゃな い。あっと言う間にはるか彼方にいってしまう。私も全力でアクセルを踏むの だが(踏んでるつもりなのだが)、追いつけない。何故だ・・・?ふと、筑波 サーキットの走行会を思い出す。同じ車に乗っているのに、うちのダンナとは 明らかにスピードが違う。ダンナは「やっぱ踏み方が違うんじゃん?」と言っ ていたけど、結局男と女の力の差なのかしらん。それとも根性が足らんのか?

あっと言う間に5周が過ぎてしまった。走っている間は夢中で必死だった けど、終わってみるとあっけなくて「もっと走りたい!」と思った。(それで も時間にして30分近く走っていたのだけど。)自分が鈴鹿サーキットを走った ということが、半分信じられなくて、でもうれしかった。早く帰ってダンナに 自慢したかった。「あたし、本物のサーキット走ったんだよ!この間シューマッ ハが走ったとこを!」(所詮はミーハーなのね。)登りきった朝日の中に、観 覧車がまぶしかった。

Chapt. 5 そしていきなりジムカーナってか?

かくして。生まれてはじめてのサーキット走行体験の興奮も醒めやらぬま ま、プログラムは次へと進んで行く。この後はスラローム、スキッド旋回と控 えており、まずは朝飯を食わねばならぬ。これが・・・ホテルの結婚式場内の レストランのリッチな朝食バイキングだったりするんだな〜。けれど時間は限 られており、1時間半の間に行って食べてホテルをチェックアウトして戻って こないといけない。おまけに連休のせいかどうか知らんが、子供連れ年寄り連 れのご家族様で入り口には長蛇の列ができている・・・どーせいっちゅーんじゃ、 われ!

名残を残しつつも(ほんとはもっとのんびり優雅に食べたかったよー・・・ おいしかったのに)「食べ過ぎてスラロームで気分悪くなっても知りませんよ。」 という指導員の言葉を思い出して朝食は控えめにすませ(そのわりとよく食べ た気がする?)、慌ただしく荷物を持ってセンターへと戻る。次に連れて行か れたのは・・・あの、教習所でS字とかクランクとかやりますよね、あれが延々 とつながったコースを御想像ください。スラロームと言われて、ただ単にパイ ロンの間をうねうねと抜けていくだけの練習を思い浮かべていた私が甘かった。 そんな生易しいものではありませんでした。目の前に連なるS字、クランク、 パイロンコース、そこをいかに早く、ミスせずに抜けるかという、これがジム カーナでなくてなんだっちゅーの!ハンドルの模型を前に、指導員が3種類の ハンドル操作を説明。普通に腕をクロスさせてハンドルを切る方法、内掛けハ ンドル、送りハンドル。それぞれの方法でハンドル操作しながらコースを抜け、 各操作方法の長所、短所を体得せよと言う。私の記憶では、自動車学校では、 内掛けハンドルや送りハンドルをすると怒られたはずなのだけれど。しかし、 やってみると、これらのほうが良い場合もあるということがわかる。それはジ ムカーナのような細かいハンドル操作を要求されるときもそうだし、サーキッ トのような高速走行においてもそうであったのだけれど、要は状況に応じて適 切な操作が出来ることが大切ということなのだ。(まあ、えらそー!)

しかし、実際、この練習はハードだった!何本走ったか忘れてしまったけ れど、最後は腕はへろへろ、頭はぼーぜん、とりあえず走り抜けるのが精一杯 だった。脱輪し放題、パイロンタッチも数知れず(ほんとはダメなんですよ)、 無我夢中でハンドルを切っていたような気がする。いつぞやの筑波サーキット の走行会なんて、なんてかわいいものなんだろうと思えてしまう自分が恐い・・・。 けれど、おかげでハンドルの切り返しは相当早くなったのではないだろうか。 実際の日常走行でこれがどの程度役立つかわからないが、次の走行会のために は結構いい練習になってたりして・・・。

Chapt. 6 ビートに乗ったよ!(でも、アンダーってなに?)

気にはなっていた。昨日から。建物の前に停めてある数台のビート。しか も教習車ナンバー付けてたりする。何に使うんだろう?乗れるんかな、これ・・・? ナゾはここで明らかになった。スキッド旋回という、要は濡れた路面の上でク ルクル回って遊ぼう(?)というお話なのだが、そこでシビックとビート、特 性の違う2種類の車で、ブレーキを踏んだ時の挙動の違いを体験しようという ものなのだ(そうだ)。指導員車を先頭に、連れて行かれたのは山の中・・・ いきなり目の前が開け、そこには、水の流れるまあるい路面がぽっかりと私た ちを待っていた。ここで、路面に描かれた円に沿って走り、走りながらブレー キを踏むと、FF車であるシビックはずりずりと外へ滑っていき(これがアンダー ステア)、ビートはリア駆動なので内側へ切り込んでいく(オーバーステア) はずなのだ。説明によると。しかし、現実は・・・難しいよ、これ!!シビッ クはまだしも、ビートは全然思う様に走れない。指導員は「もっと思い切って 踏んで!、もっと!」と言うのだけれど、滑るのが恐くて踏み込めない。結局 何がなんだかわからないままに終わってしまった。「土屋さん、ちょっと横乗っ てみて。」と言って、指導員が模範演技(?)を示してくれる。「こう踏むと・・・」 ぐいん!ずりずりずり・・・「こう入っていくでしょ?あれ?でもなんかグリッ プ変だなあ・・・。」え〜、こんなに滑っているのに?「もいっぺんね。こう やって、ハンドルそのままで踏み込んでやると・・・」ぎゅいん、つるつるつ る〜、くるん。スピンのおまけ付き。「本当はもっと滑るはずなんだけどね・・・ 知らない間にタイヤ新しくしちゃったみたいで、ちょっと予定が違いましたね え。思ったほど出なかったねえ。」う〜ん、そういうもんかい?まあ、違いを体験するのが目的だし、特性がはっきり出てくれないと、ましてや素人の私な んかにはわかんないんだけど・・・充分ですよ、これで。いずれにしても、積 極的に味わいたい走り方ではないな、私には。こーいうのは、その筋の方々に おまかせします。

それにしても、もう一つのショックは、ビートってあんなクルマだったの!?っ てこと。ひところうちのダンナが乗りたがっていたこともあり、どんな車なん だろうと興味津々だったのだけれど、あんな乗りにくい、扱いにくい車だとは 思わなかった。車内は狭いし、シフトは変な位置に付いてるし、ステアリング はめちゃ重い!・・・あたし、いいです。こないだダンナが車買い換えた時、 ビートにしていなくてよかった。あんなのだったら私乗れないわ。(ごめんな さいね、ビートのドライバーの皆さん。でも、本音。)

いやいや。なんとまあ、実に色々な体験をさせてくれる今回の講習会であ ることよ。もうこれで充分堪能した、と思うのだが、昼食のあとはもう一度、 昨日と同じブレーキ体験が待っていた。でも、これは、2回目ということもあ り、慣れたこともあってもうそんなに恐くない。Hさんも余裕の表情。60km/h、 70km/hと3本づつこなしてフィニッシュ。車を連ねて建物の方へと引き揚げる。

最後は教室にもどって閉校式を行い、記念のキーホルダーをもらってお開 きとなった。みなそれぞれの車で家路をたどる。(電車で来たのは私一人だっ た。)私は名古屋にその夜の宿を取っていたこともあり、同じく名古屋までレ ンタカーを返しに帰るHさんに乗せてもらうことにして、二人して鈴鹿を後に したのであった。

エピローグ・・・そして鈴鹿に行くのよ、あたしたち。

かくして、長くて短い鈴鹿での2日間は終わった。鈴鹿サーキットを走れ るという、それだけにつられて参加した講習会だったが、得られたものは想像 以上に多かった。公道では決して体験できないであろう(体験したくない!) 色々な現象や、自分の運転の弱点を知ることが出来たこと。車を通じて新しい 友人が増えたこと。そして自分の中で、クルマに対する様々な興味が大きくわ き上がってきた。運転するって面白い。物事がわかるって、こんなに面白いこ となんだと、今更ながら、感動していた。自分ではわからなかったが、運転の しかたも多少変わったらしい。鈴鹿から戻って1週間ほどしたある日、ダンナ を横に乗せて買い物に出た時、走り出してしばらくして、ダンナが一言。「お ねえさん、なんか3速4速のシフトの入りがえらくいいねえ。」う〜ん、これっ てサーキット講習のたまもの?冗談はともかく、運転に対する意識が変わった ことは事実である。自分の運転を意識するようになったし、考えながら運転す るようになったと思う。所詮はただの主婦にすぎないし、普段は通勤と買い物 の足として車を利用しているくらいだが、そのような普段の運転こそ、きっち りと出来るようでありたいと思うのです。そして、時には走行会で思いっきり ぶっちゃけて走りまくったりして・・・。そんなわけで、私も当分、クルマに のめり込みそうです。

読んで下さってありがとうございました。みなさんも、興味があったら是 非参加してみてください。鈴鹿だけでなく、ツインリンクもてぎでも同じ様な プログラムが設けられています。私は目下、ダンナをそそのかして、もう一度 鈴鹿サーキットを一緒に走りにいこうともくろんでいるところです。そーね、 来年の秋あたり・・・。


おまけのあとがき:

この講習会に参加して1カ月後の12月22日の夜、勤め先から家路を急いで いた私は、市内中心部の大通りの交差点で衝突事故を起こしてしまいました。 相手は左端車線を直進してきた HILUX SURF で、右折しようとした私が車線を 充分確認しなかったための事故でした。幸いなことに相手方に怪我は無く、私 も車は大破しましたが、本人は軽いむちうちと打撲だけで済みました。迎えに きてくれたダンナは一言、「おそまつ。」その通りです。「何故事故ったんで すか?土屋さんほどの人が。」とHさんに聞かれましたが、事故は起きるとき には起きてしまうのです。運転技術があれば回避したり軽減したりはできるで しょうが、事故を起こす要素はまた別にあると思います。私の場合、それは気 のゆるみです。何かに気を取られてそのことしか考えていないとき、特に自分 のことしか考えていないとき、事故を起こしています。せめてもの幸いは、こ れまで他人に被害を与えていないことですが、決してえらそうに言うことでは ありません。今回も、相手の方が私と同じ様な研究所勤めの同年代の女性で、 大変理解のある優しい方だったので、その部分で救われたところは大いにあり ました。ですが、これがもしも・・・と、いろいろと考えていくにつけ、本当 に、この程度で済んでよかったと思います。

ダンナ(笑)註: 「車は大破」ってのは, 「車両保険 (70万円) の範囲ではとうていなおらない」という意味です. 具体的には左ストラット, ロアアームが曲がってフレームも逝っちゃいました, という状態でした.
もう一つ註: 「運転技術で事故を回避する」という考え方は邪道だと思います. そういう状態 (回避技術が必要となる状態) にならないように走行することが, 公道での安全確保の王道ではないでしょうか?

事故は恐いです。私が今更言うことでもないでしょうが、皆さん充分承知 のことでしょうが、それでも、最後に蛇足ながら一言。「どうかくれぐれも気 を付けてください。」

1998 Copyright (C) Kazue Tsuchiya. All rights reserved.

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