私の自然観について(1)
TVで紹介される地球の奥地にいる昆虫とか動物の生態を見て、自然界のことを何でも知っているような気分になる。でも触れもしない、匂いもしない、噛まれもしない、そんなTVでの映像なんて、つまらないと思いませんか?
そこには誇張された演出が目立ちます。簡単に言えば実際の自然観察からはほど遠い話しばかりなのです。そんなTVを見て情報だけで頭でかっちになった子供達、またそんな自然感を当然として受けとめて育った大人達。これは核戦争より恐ろしいことです。
輸入物のトカゲをこれまた輸入物のコオロギで飼育する。それはそれでいいんだけど、子供の頃裏通りで普通に見かられたトカゲを捕まえたり、飼育したり、可愛くていじり殺してしまったようなこともなく、TVで見た自然界の動物を金を払って買う。そしてその人気度を自慢する。この考えは何とかしなくてはいけない。動物は人気とマニュアルを基準として育てるものではないのです。
こんな異常に偏った自然界の情報。またそんな情報で得た価値感は人間の本当の意味での自然観察眼を衰えさせます。そして子供達も大人達もますます身近な自然から遠ざける結果になるのです。
だけどちょっとだけ周りを見てください。
よく見れば身近に沢山の昆虫とか小動物達を発見します。また昔から慣れ親しんでいる生き物達もいます。そして少しの好奇心を持ってさえすれば、そこには信じられないほど面白い世界が広がっているんです。それが自然と言う世界なのです。まだ私達の周りには、劣悪な環境にも負けずに生き残った生き物が沢山います。それを見逃す手はないのです。
ハワイへ行ってクジラの自然環境保護とかをメディアでカッコつけて言う芸能人に憧れる前に、まずは自分の身近な、ご近所の共存者達をしっかりと観察してみましょう。それが地球の自然を保つための初めの一歩なのです。
さて、この連載はそんな心意気で始めた日常の中での自然観察日記です。
場所は横浜の片田舎にある団地。そこの裏山を中心に繰り広げられる私達家族の自然観察日記。もしあなたにも同じ様な体験があるならどんどん面白い話を聞かせて下さい。ここで紹介させてもらいます。また興味を持ったらすぐにでも近所の自然観察を始めて見て下さい。そうすれば少しは世界を見る目が変わるかもしれません。
夕食後、カブト虫に餌をあげている佑太(5才)と杏奈(2才)を見ていた妻が、TVを見ている私に言った。
「ねぇ、夜中にカブト虫うるさくない?」
そうなのだ最近、夜になると腐葉土を入れてある虫かごの中でカブト虫がブンブン飛び回り、うるさいのだ。そして、羽に煽(あお)られた腐葉土が虫かごの隙間から飛び散り、冷蔵庫の上は腐葉土だらけなのだ。それが少々妻の癇に触っているようだ。
それにしても何故冷蔵庫の上かって?つまりそこが家の中で一番温度が安定していてかつ暖かいのだ。そんな訳で、昨年の9月の末頃に卵から孵った幼虫を入れた虫かごをその上に置いたのだった。そしてその安定した温度の影響なのか、幼虫どもは腐葉土をもくもくと食べ急速に成長し、さらに4月初めには蛹(さなぎ)となって、5月の連休前にいきなり成虫になってしまったのだ。まさに超早生(わせ)カブト虫だ。きっと市場では高値を呼ぶに違いにないだろう。『そんなわけないかぁ』それが今佑太達が餌をあげているカブト虫なのだ。
「そう言えば、うるさいなぁ」
私はワールドカップサッカーの日本対アルゼンチンが始まる直前なので、カブト虫どころじゃない。顔をTVの方向から1cmも動かさずに答えた。
「そうでしょう。うるさいでしょう。ねぇ、それに冷蔵庫の上が腐葉土だらけだよ」
と妻は言った。ついに本題に触れてきたようだ。
さすがに私もTVから10cm程顔を妻の方向に向けた。
「ああ、今度大きい虫かごに入れ替えて、ベランダにでも置くよ」
と答えた。一応これで、妻の攻撃はかわせるだろう。あとの話しには適当に相づちをうっていればいい。これでゆっくりサッカーが見られる。
当然妻はしゃべり続けた。
「そうだ、今日ね面白いこと聞いたの。カブト虫の飛ぶ音でさぁ、ネモトケイタのママの旦那が夜中に金縛りにあったんだって」
「え?」
さすがに私も、その唐突な話題に驚きつ、いに妻に顔を向けた。今日の試合、日本は駄目かもしれない。ちなみにネモトケイタは佑太が行っている幼稚園の同級生だ。私は言った
「何でだろう? でもそう言えば、あの羽音や鳴き声はオカルトっぽいかもね、寝ぼけていれば、霊の音かと思ってしまうかも・・いやどうかなぁ」
「ねぇ?話しは違うけどカブト虫って、臭いでしょう、独特のにおいがするでしょう」
「ああ、そう言えば臭いなぁ。カブト虫は昔から臭いよ」
そろそろキックオフだ、早く話しを切り上げなければと私は思った。しかし妻は話し続けた。
「きっとさぁ、あの臭いに何か成分があって悪夢を見させるんじゃない?」
「ああぁ」
私はおざなりな返事になった。
「ねぇ、聞いてる」
妻のテンションが上がって来た。その間、佑太と杏奈は虫かごの中に手を突っ込み、腐葉土を居間にまき散らしながらカブト虫をいじくっている。
「佑太、なにやってるの!もう寝る時間でしょう!」
妻がそれに気づき怒った。
『あっ!キックオフだ』
私は、またもや楽しくはらはらドキドキしながらサッカーを見る楽しみを奪われたようだ。
さて、次の週の土曜日、今日は楽しく日本対クロアチア戦を見ようと、ネックとなるカブト虫の世話を午後4時頃から始めた。まず現在手狭になった虫かごの入れ替え作業だ。これでカブトも狭い虫かごで飛び回ることもなくなるだろう。
まずカブト虫だけをとりあえずバケツに移し、腐葉土を手で移動しようとする。するとなんと驚いたことに卵が・・・ある。慌てて探すと20個以上もあった。『卵かよ、季節が3ヶ月早いぞ。何故だ?日本が温暖化しているのか?』
佑太と杏奈は「卵、卵」と騒いでいる。
「しかし参ったなぁ」
これはきっと冷蔵庫の圧縮ポンプの放熱のせいだろう。この暖かい環境によりカブト虫の季節感がきっと狂ったのだ。それにしてもカブトの体内時計は暖かさによるものなのだろうか?一般的には日照時間が基準になるはずだ。
それと通常のカブト虫のライフサイクルだと8月頃産みとされた卵が9月頃に幼虫になる。私は考えてみた。
『よーし、やってみよう』私は卵を別の容器に腐葉土と一緒にいれ、冷蔵庫の上においた。これでカブト虫の2毛作にチャレンジだ。上手く言ったら最高の実験報告になる。しかし卵から成虫までにはおよそ8ヶ月かかる。これはかなり栄養のある腐葉土を与えないとすぐに大きくならないだろう。でもやってみる価値はある。それがカブト虫ブリーダーの心意気だ。日本サッカーの心意気だ!
・カブト虫の飼育は意外と簡単です。一度子供達と一緒に飼育してみて下さい。
幼虫をお店で買ってもいいんですが、つがいでカブト虫を飼育して交尾から観察し、卵から育てる方がとってもワクワクすると思います。試して見て下さい。
★わが家のカブト虫のホームーページです。
カブト虫友の会

| 作者紹介:Masahiro Ikezaki 団地住まいなので、犬や猫などが飼えないのが寂しい。 密かに団地脱出を計画中である。子供2人のオヤジなのさぁ。 |