タメ息が出るのはなぜか

昔、何かの本で「つらい時にタメ息が出るワケ」というのを読んだ記憶がある。深呼吸すると頭の中で気分をラクにする物質が分泌されるのです、というようなことが書かれていたような気がする。それから10年以上(だと思う)たって、最近読んだ「心や意識は脳のどこにあるのか(ニコラス・ウェイド編)」という本によると、我々が興奮している時には血液中にアドレナリンが分泌され、寝ている時のようにとりとめない意識状態の時はコリン化合物なる物質が分泌されている、とのことである。このコリンというのがタメ息と関係しているんじゃないか、と僕は思うに至った。

アドレナリンというのは動物が逃走したり闘争したりするような状況で分泌される物質だ。アドレナリンが出ると心臓がドキドキする。身体を素早く動かすためには血液を循環させて筋肉に酸素をたくさん供給しなくてはならないからだ。アドレナリンは出血を早く止める作用もあるそうだ。アドレナリンが出るのは、怪我をしそうな状況なのだ。そういう状況に対応してドキドキしているときは、全身に多くの酸素を供給するためにハアハアと息も荒くなる。つまり、興奮すると呼吸が「深く速く」なる。

一方、コリンは睡眠中に分泌され、認知と行動に使われる神経のネットワークを分断するのだそうだ。それで、夢というのはイメ−ジが混乱しているのだ。睡眠中はあまり筋肉を動かす必要がないから、心臓の鼓動は遅く、呼吸もゆっくりである。ということは、(ここからは僕の仮説なのだが)タメ息のようにゆっくりと呼吸するとコリンが出るんじゃないだろうか。それで、意識と身体の力が抜けて楽になるのだと考えると、辻褄が合う。何か不安なことなどがあって、そのことに意識が集中していると、それにつられて身体も緊張して力が入る。そういうときに深呼吸をすると、精神的にも肉体的にも緊張がほぐれて少しは気分がマシになる。タメ息が出るのは、身体がリラックスを求めて勝手に深呼吸しているのだ。

僕のリラックス理論でいうと、「興奮と緊張」は頭と身体が一つのことに集中している状態であり、「リラックスとク−ル」は頭と身体が分断され、頭の中と身体全体も力が抜けた状態である。そう考えると「興奮と緊張」はアドレナリンが関係し、「リラックスとク−ル」にはコリンが関係しているようにも思える。

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それぞれの状態で呼吸がどうなっているかを考えると、興奮した時には「深くて速く」、緊張状態では運動が伴わない分「浅くて速い」。リラックスした状態では深呼吸だから「深く遅く」、ク−ルな状態では、正確で無駄のない行動をするために呼吸は「浅く遅く」しなければならない(呼吸が激しいと、行動も感情もブレてしまう)。僕が思うには、呼吸の速さはアドレナリンとコリンのどちらが分泌されているかに対応していて、アドレナリンが「緊張と興奮」をもたらし、コリンが「リラックスとク−ル」をもたらすのだ。そして、呼吸の深さに比例して、それらの化学物質が供給されるのではないだろうか。

そうだとすると(ホントかどうか知らないが)、「緊張、興奮」状態と「リラックス、ク−ル」状態というのは、身体のリズムが違うということになる。そして、身体のリズムによって気分も変わってくるわけだ。タメ息が出る時は、身体がリズムを変えたがっているのだ。それも、今より遅い方にである。深呼吸しましょう。ふううう