幻想とは何か

想というのは情報の一種で、機能だけが存在して実体としての構造がともなわないもののことです。幻想は我々の内部に機能だけが存在するので、外的世界と内的世界の不一致から生じると言えます。外的世界のごく一部である我々の内的世界が外的世界と完全に一致することはありえません。外的世界と内的世界の不一致は、いわば実世界に対するシミュレーションの誤差です。我々はそのシミュレーションに基いて行動しており、誤差は我々の行動の結果に悪影響を及ぼすので、外的世界と内的世界の不一致は解消する必要があります。

不一致を外的世界(現実)に即して解消しようとするとき、我々の内的世界には現実の世界を反映した情報が付け加えられ、内的世界は変化することになります。つまり外的世界と内的世界の差異が情報を生むわけです。しかし、その情報は内的世界を否定するものであり、我々にとって心地よいものではありません。そのため、我々は内的世界を不変に保とうとする傾向があります。

内的世界を不変に保つ方向で外的世界との不一致を解消しようとするとき、我々は内的世界に一致するように外的世界を変化させなくてはなりませんが、それは不可能です。我々が内的世界を不変に保とうとすると、現実的情報を否定することになります。つまり、現実的情報が抑圧されるわけです。しかし、現実に不都合が生じていることは否定できないので、それには恣意的な説明をつけて内的世界を正当化することになります。恣意的な説明というのは非現実的情報であり、それが幻想です。

人間は他の動物と違って食料や安全を確保したので、現実と内的世界の不一致を継続的に保つことができます。つまり、幻想を抱いて暮らしていることが人間の特徴であることになります。ところで、我々が外的世界として何かを思い浮かべるとき、思い浮かべたものは我々の内部にあります。したがって、真の外的世界は知りえないわけです。真の外的世界というものは内的世界との不一致によって生じる不都合から想像されるだけです。そして、心地よさをもたらすための幻想がその不都合をもたらしていると言えます。幻想を抱いている人間にとって、現実というのは不都合や不愉快として現れるものだと考えられます。