ハルキ、タミオ、イチロー

小脳論的世界観(つまり、僕の独断ですけど)における3大ヒーローは村上春樹奥田民生イチローである。3人とも身体性を重視する表現者だ。超一流のスポーツ選手であるイチローはもちろんだが、村上春樹が言うには「小説を書くのは格闘技」だし、奥田民生の歌や演奏も身体表現である。

彼らはそれぞれ「カジュアルな服装」が印象的であり、そこになんとなくポリシーのようなものが感じられる点でも共通している。自らの服装を「どうでもいい系」と称している村上春樹。いわゆるビジュアル系ばやりのJ−ポップ業界で気楽な格好が目立つ奥田民生。ブランド物のスーツを着るプロ野球選手が多い中、セーターで記者会見に臨み普段はストリートファッションのイチロー。身体を基本に生活すれば、服装は気楽な方がいいに決まっている。きっちりした格好というのは無駄に疲れるのである。

身体性を重視するというのは頭で考えることを軽視するということでもある。イチローは記録なんか意識したくないというし、村上春樹は難しいことなんか考えずにスラスラ書くというし、奥田民生は自分の歌詞に意味なんかないという。また、難しいことを頭で考えて表現しようとするとどんどん難しくなるが、身体は難しいことをシンプルに表現することができる。イチローは難しいことを簡単そうにやって見せるし、奥田民生の詞も曲も簡単そうで深いし、村上春樹は「すごく難しいことをすごく簡単な文章で表現するのが理想だ」と言う。

彼らのスタイルはわりと(というよりかなり)変則的である。最初は通好みな存在として出発し、ある時突然有名になってしまったというのも似ている。村上春樹の小説は最初の頃「こんなのは小説ではない」というような評価も受けたが、「ノルウェイの森」が唐突に数百万部売れた。奥田民生はユニコーンというバンドをやっていた時「働く男」「大迷惑」という2曲(どちらもサラリーマンに関する歌詞で、ちょっと今までのロックに無い感じの曲)がヒットしたものの、超有名にはならず、ソロになってから作詞作曲プロデュースしたパフィーが百万枚売れた。イチローは変則フォームのせいで2軍に落とされたりしていたが、200本安打でヒーローになった。

彼らは天才なのだから我々凡人が生きる上での参考にはならないのだろうか。そんなことはないと思う。村上春樹は「(流されないためには)自分がこの世界で一番強く求めているものは何かを知ることです」と言っている。奥田民生は「うまくいってもダメになってもそれがあなたの生きる道」と歌っている。そして、イチローは「あなたの一番好きなことをずっと続けて下さい」と言っている。身体性を深く追求して得たものを彼らがシンプルに表現するのは、我々凡人のためなのだ。

(98.8.29)

 → 村上春樹奥田民生