お化けが夏に出るのはなぜか

当たり前のことながら、夏は暑い。空気も水も土も温度が高い。温度が高いと自然現象は活発になる。夏の日差しは痛く、蝉の鳴き声はうるさく、入道雲は盛り上がり、草は伸び放題で、虫は刺す。そういった自然の諸々のパーツが我々の五感に様々な刺激を送り込んでくるのが夏である。

あんまり暑いと意識が朦朧としてくる。暑さは意識活動のレベルを低下させるのだ。そして、我々の意識というのは想像力のフタなので、意識が鈍くなるに従って想像力が活発になる。それでも昼間は活発な自然からの情報が我々の想像力の活動を上回っている。ところが、夜になると昼間よりも涼しくて静かだし景色も見えない。想像力をつなぎ止めていた自然からの情報が激減する。すると、想像力が独り歩きを始めるのだ。それでお化けが出る。

船の上で釣りをしたりサーフボードの上で揺られたりした日の夜、寝転がっていると床が揺れているように感じたりする。波に揺れながらバランスを取っていた時のイメージが身体に残っているのだ。そのイメージを床のせいにするから床が揺れているように感じてしまう。夏の夜にお化けが出るのはそれと同じである。夏の活発な自然に向き合っていた時のイメージが夜になっても我々の身体に残っていて、それを何かのせいにするから何かを感じてしまうのだ。

夏の夜は放っとくとお化けが出るので、色々と想像力を引きつけておくものが必要になる。それで、夏祭りの夜店とか盆踊りとか花火とかキャンプファイアというような行事があるわけだ。想像力をそういうものでつなぎ止めないでいることにどれだけ耐えられるかというので「肝試し」なんかもする。肝試しに弱いのは昼間活発なヤツである。昼間活発なヤツは現実にうまく適応しているのだが、適応力のある人間ほど想像力は野放しなのだ。現実に適応ばかりしていると、見えないものに弱くなる。

見えないものを見ようとするのが想像力である。文明社会では、想像力は現実への適応力と違ってあまり用が無い。だから、意識によってフタをされる。しかし、自分の想像力をきちんと育てずにただフタをしているだけだと、フタがとれた時にお化けが出てきてしまうのである。