『バロンの末裔/グランド・ベル・フォリー』 ¢月組東京宝塚公演公演初日¢ | ||
1997年4月4日5時半。宝塚月組東京公演が初日を開けた。ということは、つまりのんちゃん(久世星佳)の本当に本当のラスト公演の幕が開いたということだ。 2月の千秋楽にはまだバウも東京もあると思えた。青年館の「Non-STOP!!」の時はまだ4月があると思っていた。月日の流れるのはなんとはやいことだろう。 それでも、いつも彼女の舞台を観る時は期待で胸が高鳴る。どんな芝居を見せてくれるのだろう。また一段とその人物が憑依したかのような演技になっているのでは、と。最後の初日であるにもかかわらず、わくわくして劇場へ。 | ||
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東宝の舞台は来年から立て直されるというぐらいだから、勿論新しくなってそれ程経っていない大劇場と比べるのは酷だ。しかし、初日はちょっとあんまりだった。 冒頭の蝋燭が電気仕立てになっていたのは安全面から仕方ないとしても(灯り消すタイミングが大切よ)。朝のボールトン家の居間にとんかちぶら下げたお兄さんがテーブルや椅子を運んでちゃ。リチャードの部屋にもゴミ箱持ったお兄さんが見えたし。ショーの方でもいつまでたってもやまないショパン幻影の雨とか。大道具さんの打ち合わせる声が2階席まで聞こえてくると芝居も興醒めになるので気をつけてほしい。DRをやったとは思えない状態だったが、ま、これも2,3日で直ると思いたい。 しかしながら、出演者は皆、大劇場よりも感情移入がしっかりできていたように思う。ちゃんと役柄に見えました。 | ||
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初日にまず目を引いたのはゆうこ(風花舞)ちゃん。大劇場よりもはるかに表情が良くなっている。おまけにめちゃくちゃハイテンションで、今からそんなんで千秋楽まで持ちますか?と言いたいほど。雉撃ちの丘の場面ではひょっとしてのんちゃんを食ってたかもしれない。そして、最後のダンスでは悲壮な想いを顔に表すまいとする貴族女性の表情(これはのんちゃんとの別れを実感しているのかもしれない)。 それにしても彼女は芝居も歌ものんちゃんと組んで格段に上達したと思う。 ずんこ(姿月あさと)くんも大劇場の時のようにただ怒鳴るだけではなくなって、父親のしたことを恥じるというオックスフォード出のフェアな真面目エリートらしさが出るようになっていた。滑舌はやはり課題として残るが。 マミ(真琴つばさ)さんの定番になってしまった感があるが、リチャードのキャラクターも活きている。この3人(+ブリンクリー君)の男の友情と信頼っていいねってとこですか。 ヘンリー親子の泣かせる芝居は言うまでもない。それにしてもこう(汐風幸)ちゃんは見せるねぇ。 組長(汝鳥伶)さん以下じゅり(樹里咲穂)ちゃん&なる(成瀬こうき)ちゃんのコンビも健在。まや(未沙のえる)さんのトーマちゃんも更に磨きがかかっております。 内容は台詞が所々元に戻ったようで、特にそれが必要とは思えなかったが、すごく気になる程ではなかった。しかし、ボールトン家の居間でのローレンスとリチャードの掛け合いは直す必要はなかったのでは? 大劇場のままで、後はあのお二人にまかせてしまっても良かったようにも思われる。直した脚本でこれから更にエスカレートするとどうも芝居から浮いてしまうような気がする。「ミイラ」の件りは最後のリチャードの台詞に活かせたかったのだろうが。 衣裳もキャサリンがちゃんと部屋着から外出用に着替えて銀行帰りのエドワードを迎えているのにホッとした。リチャードもどこかのや〜さんのような光沢背広から普通のスーツになっていたし。 | ||
のんちゃんのエドワードの演技がまた深みを増した。 雉撃ちの丘での「軽蔑するなら自分自身だ」や最後の「楽しみに見てるよ」という台詞が以前より自然な感じを与える。最後のテラスでふと自分の指輪に気がつくときの表情、そして「兄は知らない」と口づけするその熱っぽさ。ゆうこちゃんのテンションが高いだけに、これからの二人の芝居はますます目が離せない。 最後に雉撃ちの丘から旅立っていくエドワードの「I WISH」はやっぱり聴かせてくれる。キャサリンのイメージとのデュエットは決して触れあうことのないダンスでありながら二人の表情がとても清々しく柔らかい。それだけに触れあわない事実が少し哀しい。大劇場では後半になって、センターへ出るときに後ろ向きに歩いて舞台に別れを告げていたのんちゃん。東宝ではどうなるんだろう。 いずれにせよ、少ない登場人物の誰もがとてもいい演技をしているこの「バロンの末裔」。「BLUFF」のような小気味よさや群像劇のおいしさはないし、筋が取り立てて凝っているわけでもないが、「朝を抜いたので腹が減った」なんてさりげない台詞をさりげなく言えるような役者の妙に感じるところのある人ならきっとお楽しみいただけると信じている。 初日を観劇してすぐなので、感想もまとまらない。ちょっと舞台に入り込めないミスもあったので。これからどんどん変わっていくだろうから、またしっかり目に焼き付けて感じたことをゆっくり思い出したいと思う。 | ||
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