- 今回は4人パーティだった。中房温泉から大天井岳巻道までは順調に歩いた。貧乏沢の下り途中で軽装の4人組が登ってくるのに出会った。独標手前で時間切れになったと話していた。天上沢に出たところでテントを張った。先客の男女二人組がツエルトを張っていた。
- 天上沢で各自6-7リットルの水を背負い、北鎌沢を登り始めた。すぐに水量の多い左股と少ない右股に分かれた。右股を進んだ。やがて沢が二つに分岐していた。左手の沢を登っていくと、やたらに浮き石が多くなった。先頭のTリーダが落石を起こすごとに「らっく(落)」と声をかけた。
- 高度計では、あと50mで北鎌コルなのに、まだ100m以上あった。間違えに気付き、右手の草付の斜面を下り気味に慎重にトラバースした。沢に出た。下から50代の単独行が登ってきたので聞くと、「ここで99%間違いない」とのことだった。15分程登ると北鎌コルに着いた。暑さで疲労困憊だった。水を1.5リットル消費していた。
- ゆっくりと岩稜帯を進んでいった。先に行ってもらった50代の単独行は時々我々のことを振り返りながら登っていた。自信がなさそうに見えた。何個めかのコルで雪渓がすぐ下にあったので、それ以上登る気力を無くし、幕営することにした。狭いコルはテント1張り分しか場所が無く、2-3人用テントに4人で寝た。
- 翌朝、朝食中にヘリコプターが飛んできた。北鎌尾根を行ったり来たりしていた。遭難者を捜している様子だった。しばらく我々のそばでホバリングしていたが、遭難者ではないと分かったらしく、飛んで行った。
- ヘルメットを着け、北鎌経験のあるTリーダーを先頭に出発した。わずかの登りでテント2-3張りスペースの独標のコルに着いた。独標基部を右側から巻き、途中から登って、独標に着いた。槍ガ岳山頂が見えた。
- 独標からは、Tリーダの先導にもかかわらず何度もルートを見失った。Tリーダが急坂を下って見えなくなってから、がらがらと岩の崩れる音が聞こえ、あわてて「ルートが違うのでは」と声をかけたりした。こんな時はロッククライミングのベテランN氏が「こっちだ」と一見ルートでなさそうな岩をするすると登り、何度か助けられた。
- 北鎌平からは、ようやく悪場も少なくなった。近づく穂先を見ていると喜びがこみ上げてきた。最後の煙突(チムニー)状の数メートルの壁を登ると穂先の直下に着いた。穂先にはTリーダ、O氏が先に登った。N氏が、次に登るようにとゆずってくれた。山頂のほこらの横からひょっこり顔を出すと、記念撮影に夢中な登山者20-30人がいた。我々闖入者に気付いた人はわずかだった。
- 帰りの山小屋で「北鎌で50代の男性がレスキューされた」と話していた。前を歩いていた単独行だと思った。