7月6日
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サッカー
C大阪の練習に西澤明訓が合流
(大阪市西成区・C大阪練習場所)
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スペイン一部のエスパニョールでプレーしていた西澤明訓がこの日、第1ステージいっぱいの移籍交渉期限中の一時預かり先となった古巣C大阪の練習に約7か月ぶりに合流した。西澤の移籍に関しては、C大阪と西澤サイドが、7月いっぱい(第1ステージ終了)をひとつのデッドラインとして、この間に移籍がまとまらない場合はC大阪に第2ステージから復帰することで合意している。新たな移籍先からのオファーと話し合いの間(登録が可能になるのも第2ステージからになる)、西澤に練習環境を整えておくというC大阪の「親心」でもあり、西澤はこの日、照れくさそうに、しかし謙虚に、「しばらくお世話になります」と挨拶。第1ステージへの出場はできないものの、最下位にあえぐチームにとっては心強い「シャドーメンバー」(陰の選手)となりそうだ。
◆一問一答:
西澤 大変ご無沙汰しておりました(とまず報道陣に挨拶)。
──久しぶりのC大阪、感想は
西澤 知らないというか、新入団の選手など顔も知らないので、ミーティング前にはごっつう緊張してたんですが(笑)。でも一番感じたのは、このチームが最下位にいるようなチームではないし、雰囲気もまったく悪くはないということでした。どうしたんだろうってずっと心配でしたから。最下位なんて経験してませんから、どんなもんだろうなとちょっと不安もありましたがホッとしました。きょうは自分のロッカーでずっと緊張してまして、モリシ(森島)がなんかちょろちょろとして声かけに来てくれました。(ロッカーあったんですねと聞かれて)ええ、一応、一番端っこにかろうじて(笑)。最後の1個、35番でした。
──今日は監督やチームメイトにはどんな挨拶を
西澤 まあ、しばらくお世話になります、というくらいで。(副島監督は)お、元気か、とその程度です。今後の練習の仕方など監督やフィジコと話をするつもりでいます。
──欧州でやりたいという気持ちには変化はありますか。C大阪がこんな状況で、自分が何とかしようとか
西澤 欧州でやりたいという気持ちに変わりはありませんね。もちろんC大阪がこういう状況だから行って何とかしたいと思うこともあります。ただ、そもそも自分がいなくなったから負けてるわけではないし、そんなチームではありません。みんなも欧州に行けるんだったら挑戦したらと言ってくれる。
──今後のことですが
西澤 正式なオファーが来なかった場合、C大阪が受け入れてくださるという温かい言葉を頂いていることは感謝してます。それに行きたいからとって行けるものではないです。ある程度条件があるし、C大阪と代理人と相談してもらってます。新聞にはC大阪入り濃厚と書かれていますが……、見せていただいてます。まあ暖かく見守ってください。
──体のほうはどうですか
西澤 (間髪いれず)しんどいです(笑)。でもこのオフ、ゆっくりと休ませてもらいまして、本当に久々のオフ、という感じで精神的にはリフレッシュをしました。3週間弱くらいですか、まったく動いてなかったんで、プロ意識ない、とか言われそうですね、今日はグラウンドのランニングで正直気持ち悪かったです。
「チャンスはどのピッチにも」

この日、パルマへの移籍を発表した中田英寿 |
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中田英寿がイタリアでは3チーム目となるパルマへの移籍が決定し、21歳の稲本がアーセナル、小野がフェイエノールトへの移籍をそれぞれまとめた日、西澤は実に対照的な構図を描いて古巣に戻った。
「ごっつう緊張した」とシャイなストライカーは盛んにはにかんでいたが、心の中は決して安穏とした状態ではなかったはずだ。若手がそれぞれ欧州マーケットへ参戦する中、オファーはまだ届かないという。3月のフランス戦からコンフェデレーションズ杯と日本代表のFWとして戦った西澤には、しかし、どこか圧倒的な「雰囲気」が備わったように見えた。
こうした独特の雰囲気は、以前とはまったく違う。もっと言えば、4年前、フランスW杯の前の国内合宿に選ばれた当時とはまるで違う選手がかもし出す雰囲気、一言で表現するなら「強さ」があった。4年もあれば、人は変わるが、それでも選手としてこの4年でどれだけの選手がどのくらいのステップアップをはかれたかといえば、それはまったく難しい取材が必要だ。ただ4年という時間だけを使い切った選手も多いのが現実だ。
理由はいくつもあるだろう。現地では日本からスペインに取材に行った記者たちに実に丁寧に接したという。「パイオニア」扱いされることを嫌い、こうした華やかで、商業的な扱いの一切を拒否した。思えば25歳、しかも夫人と息子を日本に置いての単身移籍は周囲が見ていたほど華々しいものではなかっただろうし、半端な覚悟ではできなかった辛い体験だったはずだ。不遇だったベンチでの日々をどう解釈したのか、もう少し時間が経過したら聞いてみたい。そういえばこれだけ移籍が新聞を賑わしていても、家族を持っているのは西澤だけである。
今後は約1年半ぶりのオフからどうやって体を作り直すかをテーマに、しばらくオファーを待つことになる。非公式ではギリシャなどといった強豪からもオファーはあるようだ。
ピッチのどこにもチャンスはある。それを見つけるだけの冷静さや落ち着き、待てる強さが重要なのだ。
この日、約20分の会見を終えて席を立ったとき、雨中の練習のために汚れてしまった自らのジャージが、椅子を汚したことを見つけた。西澤はそれをバスタオルで何度もていねいに拭いてから、部屋を去って行った。飛ぶ鳥、後を濁さず。もしかすると渡鳥も、後は濁さないのだろうか。

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