6月7日

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サッカー
FIFAコンフェデレーションズカップ2001
日本×オーストラリア
(横浜国際総合競技場)

日本 オーストラリア
1 前半 1 前半 0 0
後半 0 後半 0
43分:中田英寿

交代出場
<日本>

22分:上村健一(森岡隆三)
55分:服部年宏(小野伸二)
80分:森島寛晃(西澤明訓)
<オーストラリア>

60分:アロイーシ(チッパーフィールド)
60分:ステリョビスキ(ブレッシャーノ)
70分:トンプソン(ズドリリッチ)
 A代表では7度目の対戦となるオーストラリア戦に決勝進出をかける日本は試合開始と同時に降り始めた集中豪雨(管区内には大雨洪水警報が発令された)、スタジアムを舞う風に苦戦しながら序盤に入った。

 開始10分、豪雨のために、逆サイドが雨煙で霞んでしまうような雨に集中力をそがれたのか、DFラインがミスを繰り返し、再三ボールをゴール前に運ばれる。これにはトルシエ監督もベンチを飛び出して叱咤。20分過ぎには、その前のプレーで相手と接触、足を痛めた森岡隆三(清水)が、同じ個所を強打したために早くも負傷退場というアクシデントに見舞われる。ここで上村健一(広島)を投入。守備がチグハグになりかねない時間帯を建て直して、逆にチャンスまで持っていったのはこの試合を無得点で終われば日本代表Aマッチ完封試合が最多となるGK川口能活(横浜)だった。

 GKにとってもっとも嫌なコンディションとなった試合で、川口は前半、最初のタッチとなったプレーから丁寧に両手でボールを抱き込むなど基本に忠実にプレーを続ける。35分過ぎから3分で3本も続いたオーストラリアの猛攻に対しファインセーブですべてを跳ね返す。こうしたプレーが前半の終盤に勝機を呼び込んだ。

 41分、FW鈴木隆行(鹿島)がペナルティエリア外への突進で相手ファールを誘う。ほぼゴール正面の絶好のポジションで得たFKを前に、初戦のカナダでFKを決めた小野伸二(浦和)、この日は自身初、トルシエジャパンとしては11人目のキャプテンとして起用された中田英寿(ASローマ)が壁の前に立った。中田は壁の間を抜くコースに、雨でピッチがぬかるんだことを計算に入れた上で、グラウンダーのボールをインステップで振り抜く。ゴール前でGKサポートしたDFマスカットがこのボールをクリアしようと触ったが、ボールはそのままDFの足を越えてゴールへ。これが先制点となって、日本は前半を1−0と、最悪の条件下で先制する展開で折り返した。

 後半も、川口の安定した堅守に支えられ、森岡に代わってセンターに入った松田直樹(横浜)が奮起。中盤も押し上げる積極的な守備でまったく運動量を落とすことはなかった。ノックダウン方式となる準決勝だけに、1点を守り切りたい局面に、監督は小野に代えて服部年宏(磐田)を投入。守備的布陣を徹底させる。

 しかしこの直後の54分、FWの鈴木が相手への悪質なファールからレッドカードを受けて退場。早い時間に数的不利を背負うことに。ボールをキープされる時間が増えていく中、稲本潤一(G大阪)が中盤で積極的な守備を展開。75分過ぎには、稲本から中田に出たロングパスに、中田が追いつきGKと1対1に持ち込む。右足からのシュートは惜しくもサイドネットを揺らしたが、人数が少ない中での有効なカウンターとなり、主導権は渡さない形で試合を運ぶ。

 80分過ぎには、またも稲本から、代わったばかりの森島寛晃(C大阪)にラストパス。シュートはバーを越える。また、85分過ぎには、オーストラリアに退場者が出て、これで10対10に。直後には、傘にかかるように、中田が右サイドからゴール前でフリーだった森島へ。地面にたたきつけたヘディングはGKに阻まれたが、最後尾の川口から前線まで終始積極的な姿勢とミスをしない安定性を維持し、日本は豪州を1−0で下して決勝に進出。準決勝第2試合目の勝者フランスと10日、決勝を戦う。なお、日本が、FIFA(国際サッカー連盟)の主管大会で決勝進出を果たしたのは、1999年のユース世界選手権(ナイジェリア、準優勝)以来で、A代表としては初の快挙となった。また、動向が注目されていた中田英寿は決勝戦へは出場せず、セリエA対ナポリ戦に出場するためイタリアへ帰国することとなった。

●試合後のコメント:

トルシエ監督「とてもうれしい。今回の大会はもちろん、2002年への準備として重要な大会だが、私たちは非常にいいサッカーをして、知性を保ってすばらしい状態で決勝へ行くことができた。鈴木の退場については、大きな誤算ではあったが、ダメージを与えるようなものじゃなかったし、私たちは我慢、忍耐といったものをあの局面から学んだと思う。1人少なくても、特に言うことはなく彼らが目と目とでお互いに苦しいところをどう乗り越えるかを確認したはずだ。中田は決定的な仕事をしてくれた。私が望んでいた通りの仕事をしてくれたと思う。よく動き、点を取り、そして勝った。イタリアでのプレーそのままを出し切ってくれた。フランスとの一戦を楽しみにしたい。フランス、ブラジルともすばらしいが、個人的にはリベンジと呼べる試合を選手も意識しているし、私もしっかり借りを返したいと思う」

豪州・ファリナ監督「大変なコンディションの中だったが、私たちのサッカーは決して悪くはなかったし、チャンスは、日本よりもはるかに多く作った(日本のシュート9、豪州17、ボールキープ率日本37.1%、豪州62.9%)と確信している。ただし、中田が非常に頭脳的なシュートを放ったことを称賛したい。警告が大変多かったが、決して諦めずに3位決定戦に望みたい。日本は非常にいいチームだった。特に忍耐強さを感じている」

日本代表で初のキャプテンマークをつけ、虎の子の1点を頭脳的なFKで奪った中田英寿(試合後のミックスゾーンで会見)

──初めてのキャプテンマークの印象を
中田 印象はマークがズレてしまうので困ったことです。

──決勝は出るのですか
中田 もう一度監督と話し合って決めます。

──この大会で日本のW杯の可能性がどうなると思うか
中田 まだ一年後のことなので、今はまだいえないと思う。けれども準備期間はあるのでいい準備をしたい。

──フランスに5−0で負けているので、そのフランスとみんなは決勝を戦いたいか
中田 みんなのことは聞いていないのでわからないが、ブラジルもフランスもいいチームでやりがいはどちらもある。個人的には、前回(0−5)のこともあるので、フランスとのほうがやりたいという気持ちはあります。

──これだけの雨の中でプレーしたことは
中田 プレーをしたことは何度かあります。今日は(雨でも)グラウンドの状態は非常に良かったというのはあるが、雨があまりにひどくて視界が悪くなった面がある。

──パルマ、アーセナルなどからの移籍オファーにについて教えてください
中田 まだどこまでの(具体的な)話かは全然考えていないし、どちらのクラブもまだよく知りません(外国人の記者から、だったらパルマに来てください、と言われて苦笑)。

──再び、決勝はどうするのでしょう
中田 (イタリアの)優勝が大事だと思っていたけれども、コンフェデレーションズの優勝も両方大事だと思う。もう一度話し合って答えを出したい。コンディションも、向こうからこちらに来ると良くない次期もあるし、やって行くうちに少しずつ良くなっていくというのはあると思います。

──ピッチで試合後、監督と長く話していましたが
中田 特にこれという話ではなくて、チームの勝利を祝って、という感じの話でした。

──FKについて
中田 こういうコンディション(豪雨)だったこともあるし、相手のDFがGK以外にもう一人(ペナルティエリア内に)立っていたので、(小野と)普通に話をして壁を越して強いシュートを打つんだったら僕が蹴ったほうがいいということで決めた。

──スタジアムはホームということで有利でしたか
中田 横浜はこれが初めてではないし、特に印象はないです。

──この決勝進出の意味は
中田 この大会は小さなW杯ともいうべき大会だし、FIFAの大会で決勝に出たのはユースの決勝のほか初めて、僕自身も初めてになる。今後の自信になったし、価値があると思う。

──ゴールの感想は
中田 あの場面は両チームとも膠着していたし、押されている状況だったので(局面を打破するには)思い切り強く蹴っておこうと思っていた。

──ホームはやりやすいか
中田 ぼくらにとってはやりやすいけれど、一番やりにくいのはレフリーではないか。1人退場になってしまったけれど、相手も退場になったし、何らかの影響(主審にはプレッシャーがかかるということ)はあると思う。

前半は絶好のポジションでFKを奪う働きをしながら後半11分に退場してしまった鈴木隆行「本当にすみません。話すこともないんで(と、負傷した森岡を楢崎と共に肩で支えて、頭を下げながらミックスゾーンを去った)」

前半22分に負傷退場した森岡隆三(右足首の打撲の可能性)「打撲ですね。何とか走ってみたんですが、足がかくかくして力が入らなくなってしまいました。今は冷やしているんで感覚がない。控え室でずっとモニターを見ていました。でもあんなに時間が経つのが遅い試合ははじめてでした。決勝はまだわかりませんが、韓国に行かない分、(足の治療に)時間があると思うんでなんとか治したい」

絶好のシュートチャンス2本を外した森島寛晃「すみません(と気を付けの姿勢で頭を下げて)。雨のせい? 全然そんなことはありません。関係ないですよ、そんな条件は。あれを入れないとちゃんと評価して認めてもらえないんですから、入れないといけない。途中から出て、きょうは役割もはっきりしていました。決勝まで準備ができるので(移動がなくなって)いい準備をして勝ちたいと思う。豪州は中盤もうまく、加えてタフ、という感じでした」

右サイドでフル出場の波戸康広「オーストラリアは速いという感じではなかった。けれども体の使い方はとてもうまかったですね。雨があまりにもひどくて最初はちょっと戸惑ったけれど、チームも自分も最後まで落ち着いて、我慢ができたことが勝利につながったと思う。(代表の試合に慣れてきたか? と聞かれて)まだまだですね」

守備固めで入ったところ、すぐに退場者が出てしまった服部年宏「計算違ったけれどね。でもこういう真剣勝負って本当に楽しい。充実感あるししんどいし、それでまた決勝があるって終わりじゃないのがまた楽しいよね。同じ左サイドといっても伸二とは違う役割だから、守備をしっかりやろうという気持ちはあるし、長めのボールをうまく出していこうと思った」

前線でボールを追い、チームに貢献した西澤明訓「(鈴木の退場は)あれはマズかったねえ、(チームに)こたえた。けれどもああいう時にも耐えてカウンターというのもできる強さは感じてました。こういうゲームで1−0で勝てたことはものすごい自信になったんじゃなかと思う。体ですか? うーんかなり疲れてますが、しっかり休養をして決勝でいいプレーをしたい」

4試合で左サイド先発出場の小野伸二「今日は何もしてません! あのFKは、中田さんが中にもう一人いるんだから、強いキックを蹴ったほうがいいということでああなりました。今日はあまりにも(雨が)ひどくてびっくりしましたけど、ハーフタイムに雨用(取り替え式のスパイク)に履き替えました。ただ、1戦ごとに、持ち味がなくなっているような……」(なお、移籍についてはオランダからのオファーは確認しているそうだ)

今大会の陰のMVPか、中盤での攻守をコントロールした稲本潤一「オーストラリアは中盤から回してくるとわかっていたんで、パスカットを狙っていきました。中盤の勝負だと思ったし、(カウンターからのゴールは)これからの課題ですね。森島さんへのパスは、自分でも打てたんですが、あれは疲れてしまって……、パスにしました。0−5の試合をしたんで、フランスと是非やってみたいと思う」

これでAマッチの完封19試合でトップに、名実ともにNo.1GKとなった川口能活「あれだけの雨になると日ごろのトレーニングの成果が問われますね。内容を求めてもダメで、とにかく結果の試合だった。どの時間帯も苦しかったけれど、ブラジル戦を休んだことでリフレッシュし、集中力も非常に高いまま保ったのではないかと思います。ハイボールを上げられていなかったのは、DFの勝利。みんながんばりましたからね。決勝にむけて、やはりかなり厳しい日程の余波が出てきてると思うんでゆっくり休養して臨みたい。体重は落ちていませんが、かなりきついとみんな思っているんじゃないでしょうか」

森岡退場後、DFラインを率いた松田直樹「雨なのでヨシカツと連携してミスをしないように心がけた。1試合やっていないし体調は大丈夫。疲れもないです。フランスとやりたいと思うけれど、今は試合に出ることで精一杯。でもこの大会で決勝に出られて本当に良かった」


「視界ゼロ、音なしの恐怖」

 雨でもっとも厳しい局面にさらされるのはゴールキーパーである。
 横浜国際総合競技場はただでさえ、コーナーフラッグすべてが違う風向きを示すほど風が安定しない、GK泣かせのやりにくいスタジアムだ。
「視界がまったく無くなりましたね。それと風が滅茶苦茶に吹くから、目の中に雨がどんどん吹き込んでも来る。(水泳のゴーグルをかけたかったのでは? と聞かれて)本当ですよね。泳いでいるほうがまだマシって感じでした」
 真っ先にミックスゾーンに現われた川口は、そう言いながら苦笑した。キックオフとほぼ同時に大雨洪水警報が出されるような状態となった中で、川口は日ごろの練習の成果をひたすら信じていたという。
 カクテル光線には、まるでカーテンが引かれたように雨の壁ができ、足元は滑る。当然のことながらグローブも、ボールも濡れて重量を増すし、命ともいえる視界が遮られる。川口は中でも、あまりの雨音にまったくお互いの声が聞こえなくなったことを「恐怖感ががありますよね」と振り返る。
 応援や楽器の音とはまるで違う、たたきつける雨音、ある意味での不気味な静寂は、DFとの連携をする上でもっとも大きな障害となったはずだ。
 日ごろの成果、とはここに出る。
「こういう時こそ、絶対にプレーを省略しないことです。何か言うことがあれば、できるだけDFの傍に行って手間をかけても必ず意志を疎通させておく。こういうのは、日ごろから注意していないとできないです。こういう時こそ基本を大切にしてしっかりキャッチングをする。視界が悪くても、カンでプレーができるんです。なぜかというとそういう練習をしてきたから」

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 GKがボールを抱え込む姿勢は、鳥が卵を安定感を保ってかかえているような恰好から「ネスティング」(鳥の巣の意味)と呼ぶ。川口がひとつひとつのボールを抱え込むたびに、日本は安定感を持って、攻撃的な姿勢を維持できた。もはやシュートコースもパスも見えないような状態の中、カンで動くから大丈夫、と言い切るGKの自信を支えているのは、やはり練習の苦しさしかない。 元代表GKの松永成立はかつて「ヨシカツがすでに自分を超えるGKだということには間違いがない。よくやっているし、世界にどこまで近づけるかという点でも、楢崎と2人いいライバルとして磨き合っていって欲しい」と話していた。
 川口はこの試合で、A代表の完封試合19試合と歴代No.1になったという。
「それは結果。結果は後からついて来るだけですから」
 ならば「先」に行くは、何だろう。
「今だけは喜びます。今だけは」
 シュート17本、ボール支配率はこれまで4試合でもっとも低い37.1%。しかしゲームと豪雨を支配したのは、間違いなくこの人であった。


「キャプテンマークはズレても……」

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 前半43分、中田と小野がフリーキックを前に話をしている時、オーストラリアのDFマスカットがゴール前に歩み寄って、GKをサポートするために、並んだポジションに立った。中田はこの時、おそらくほかにもあったかもしれないキックのオプションを捨て、シュートコースをすでにイメージしていたに違いない。
 雨の場合、GKのミスをも含めてグラウンダーに打って「何か」の可能性を待つのは鉄則だ。鉄則だが、一方ではシュートするほうの足元にもさまざまなハンディは生まれる。ましてこのときのフリーキックは20メートル少しの長い距離を残す。「強いキックを蹴るなら僕のほうが」と、いわば力仕事? を引き受けたところに、イタリアセリエAでの血のにじむような経験が凝縮されていた。
 豪雨の中でのプレーを聞かれて、「何度かあります」と答えていたが、そのうちのひとつであろう1試合で見た中田のシュートは印象的なものだった。名波浩がヴェネツィアに在籍していた99年10月、日本選手同士初のセリエA対決がペルージャで行われたときにも、集中豪雨の警報が出されていた。
 粘土質のペルージャのピッチで、それでも2人は踏みこたえ「日本人選手」の本当の意味での存在感を存分に見せつけた。中田がこの試合で見せた、決して浮かさないシュート、ゆるがない軸足について、後に教えられた。 
「条件の悪い時こそ、当たり前に普通にプレーをすることが大事なんだと思う。イタリアに来て、どこもみんなピッチも違うし、足元がよくない。どうすればいいか、それは経験で覚えていくものだけど、忘れてはいけないのは、あらゆる可能性にかける気持ちだと思う」
 フリーキック直後、両手を肩のところであげるガッツポーズを見せていたように、「どこかに当たれば」という可能性にかけた、見事なコース取りだった。中田はこんな条件下のゲームで、これまで最多となる5本、チーム最多でもあるシュートを放っている。もちろん、当たって入る確率は低いほうだろう。オーストラリアのファリナ監督は「あそこで狙ってくるところにインテリジェンスを感じる」と話していた。
 実際のところ、あらゆる可能性にかける、とは、あの局面でのフリーキックについてを表すと同時に、中田が海外でかけてきたすべての、ほんのわずかな「可能性」をも示しているのではなかっただろうか。
試合後、監督の合意のもと、中田はローマに帰ることが決定した。
 会見後ミックスゾーンを走りぬけながら、中田は笑っていた。



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