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サッカー
前半には、中山雅史がゴール前キーパーとの1対1となったが、これを札幌のGK佐藤洋平が足で正確にセーブ。また30分過ぎには右サイドの西が放ったシュートがポストにあたり、これで流れたボールを藤田俊哉がシュートしたものの、これは場外に。絶好ともいえる3本を外して磐田は自滅し、逆に札幌のGK佐藤を勢いに乗せてしまった。 0−1のままベンチ前にはロスタイム表示が「3分」と出される。おそらくこれがラストワンプレーというとき、磐田はこの日初めて「磐田」になったかのように、DF最後方から大岩剛が左の服部年宏へ。服部がこのボールに左から巻き込んでゴール前に入るカーブ回転をかけて、このボールに中山、高原がラッシュをかけた。ゴール前直前で中山がDFを連れて転倒、キーパーとDFと3人になった高原直泰がワンバウンドになったボールを頭で札幌のゴールに転がす、高原の奇跡的な今季7得点目で延長に持ち込んだ。 延長前半12分、またも服部の直接フリーキックから、この2試合セットプレーからの得点を逃がしていたというDFの大岩がヘディングでゴールを奪って苦しい試合をようやくものにした。磐田は連敗を何とか回避し、これで勝ち点26で首位でJリーグ休止期間に入る。22日からはアジアクラブ選手権(試合は24日、26日)のためにソウルに出発する。 磐田・鈴木監督「きょうの勝利は苦しい中だっただけに価値があるが、一方ではチャンスをものにできなかったり、退場もあるなど、自分たちで自分たちの試合を潰してしまったようなものだった。これでアジアクラブ選手権と休むことはないが、代表も含めて、高いモチベーションと、フィジカルを持続して2試合を戦ってきたいと思う」 札幌・岡田監督「サッカーとはこういうものだ。89分を自分たちのチームのために戦っておきながら20秒でひっくり返されてしまう。きょうは98%の力では勝てない、100%でなければダメなんだと選手に言い、(闘争心を持つために)プロレスラーの悪役のような気持ちで行こうと言った。そうしたら、本当に悪役になってしまった……(イエローカード6枚)」
「たぶん、微笑む数は同じ」 残り時間はおそらくもうなかったのではないか。このワンプレーで試合も終了するだろう、とスタンドの観客も席を立ち、通路に向かう。磐田のDF・服部の表現でたとえるならば「自分たちはいつだって点が取れるんだっていう、いってみればふんぞりかえった試合」にほとんど救いはないはずだった。 札幌は一人多いはずが、残り10分を切ってからも一向にボールをタッチラインやサイドに流してキープしようとはしない。服部は、こうした指示をしながら時間を稼ぐ、あるいはそういうことに気が付いて動こうとしているのがアウミールとビジュだけであることに気が付いていた。これが最初のキャリアの差である。 もうひとつ、ロスタイムになってから両者入り混じってのいざこざが2度あった。この時も服部は、倒れた札幌の播戸を助けるかのように「早く出せよ」と声を出しながら担架に乗せてしまった。播戸は自分たちの時間を失うための時間稼ぎをし、服部は自分たちの時間を増やすために時間を稼がせなかった。 「札幌は詰めがあまかった。どうしてサイドに逃げたりしないのか、なぜボールを回さないのか、見ていて、これは最後まで何があるかわからないな、と自分に言い聞かせた。あのボールは、(FW)2人に何とかしてくれ、という願いを込めて、うまく行けば、ゴンちゃんは抜けてくれるかな(DFの間を)と思った。まあ抜けないでスッ転んでいましたけどね」 驚いたのはGK佐藤だったはずだ。ワンバウンドで自らの目前、これを両手でキャッチしようと手を胸の近辺で揃えていたとき、高原の坊主頭とすれ違ったからである。キャッチングの直前になってあのボールをヘッディング打ってくるようストライカーは、高原以外に見つけることはできないはずだ。 「服部さんのボールが来ることはわかっていました。これでもう終わりだと思い、ホイッスルが鳴るまで、と決めていた。勝ち点よりも雰囲気が悪くなってはいけないと思っていた。(同点ゴール後、笑いもしなくてポーズもなかったのはと聞かれて)脚も痛いし、疲れていたんで、無駄に動きたくありませんでしたから」 冗談ではなかった。 「まったく覚えていません。軌跡も見てなかったし、ただ、ゴール前がごちゃごちゃだった(全部で5人)ことはわかったし、GKがちょっと前に出たのが見えました。自分が転がって頭で決めたときに初めて、ボールを見ることができてああ入ったと……」 高原は試合中、何度も何度も、声にならないような雄叫びをあげ、イラ立った様子でアクションをしていた。その姿の理由は、チームメートや相手、局面に対してではなく、チャンスをものにできず、そして諦めかけてしまう自分自身への怒りだったのだろう。 気持ちのわずかな揺れは、ここまでサッカーに影響するのかとあらためて思い知らされるゲームでもあった。今夏、レアルと対戦するなど選手にとっては高いモチベーションのひとつでもあった世界クラブ選手権中止が、試合前ロッカーで伝えられている。 「自分の力でどうすることもできない話。やってくれと言ってやってくれるのなら言うけれど、正直、カクっとは来たでしょう」
2度目の微笑みをもらったはずの磐田は、西、藤田が続けて外して、せっかくの笑顔をないがしろにした。札幌に2度目の微笑みを提供したのが田中の退場である。 大岩が後半、GKのミスから放たれたシュートをすんでのところでクリアに持ち込んだことは、中山がフリーを外し、田中が退場してしまったことにご立腹だった女神のご機嫌を直させるものだったのだろう。 中山は言う。
「絶対にあきらめない」 「同部屋だし、いいボールが来るのを信じていました」 「中山雅史の“武器”」 Jリーグ200試合出場を「あくまでも通過点」という中山雅史は、「とにかく絶対負けないという気持ちでやっていた」と土壇場での逆転劇を振り返った。チームの勝利を自らのゴールで飾ることはできなかったが、ロスタイムでの服部のロングボールにいち早く反応し、ディフェンスを引き連れて「つぶれ役」となったプレーがスペースを生み、DFを消し、高原の同点弾を生んだ。
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