9月5日


キリンチャレンジ2000
シドニー五輪サッカー日本代表壮行試合
日本×モロッコ
(東京・国立競技場)
キックオフ:19時05分、観衆:54,861人
天候:雨、気温:21.5度、湿度:83%

日本 モロッコ
3 前半 1 前半 1 1
後半 2 後半 0
17分:オウンゴール
49分:オウンゴール
59分:本山雅志
  エルブラジ:8分

 

先発メンバー
交代出場
46分:中澤佑二(松田直樹)
46分:酒井友之(三浦淳宏)
46分:本山雅志(平瀬智行)
71分:宮本恒靖(中田浩二)
73分:高原直泰(柳沢 敦)
82分:西 紀寛(稲本潤一)
 シドニー五輪に向けて最後の試合となるモロッコ戦で、日本五輪代表は前半、昨年の11月五輪最終予選カザフスタン戦以来となる先制点を許して試合をスタートした。
 立ち上がりの8分、DFのミスから割られたスペースにシュートを決められたが、この後、GK楢崎正剛(名古屋)を中心として守備陣は崩れず、逆に前半17分、復帰した三浦淳宏(横浜)のCKからボールは稲本潤一(G大阪)の頭上へ。記録上は稲本が触っていなかったためにオウンゴール。同点とし、流れを引き寄せた。
 後半開始4分も、またもクリアミスからオウンゴールを誘い、14分には、2日のクウェート戦(長居)同様、後半から投入された本山雅志(鹿島)が、中村俊輔(横浜)からの折り返しのパスをダイレクトでシュート。ゴールポスト内側に巻き込まれる豪快な右足からのシュートで試合を決定づけた。
 代表は、この後9日にシドニー経由でキャンベラに入り、14日の南アフリカ戦に備える。

試合後のコメント

中村俊輔(横浜)「ハッサン(国王杯)のときのように、すごい刺激を受けることができたのがよかった。相手はやっぱりレベルも高いし、すごくうまかった。(攻撃の)形がないとか言われることもあるかもしれないけれど、そんなに簡単にできるものでもないし……。そういうなかで決定機が作れたことはよかったと思う。前半、好き勝手にやらせてもらったんで、後半は相手がマンマークできた分、ヒデさん(中田英寿)をフリー動かすことができるようにしたつもり。流れの中で、前半の起点と後半の起点を変えられることができたのがよかった。僕は後ろ、ヒデさんは前、スペースを走り抜けるような動きを、ということを心がけた。ここにきて、ポジションが間に合った(定まった)。まあただ、アツさん(三浦淳宏)が右をやって、僕が左に入るかもしれないし、どこをやっても自分らしいプレーをしたい。自分が目立たなくてもいいから、人を活かすことができる、そういうプレーが勉強になったと思う。オリンピックでどうとかは、思わないね。ただ自分のレベルを上げたいだけ」

後半開始時のフォーメーション
試合終了時のフォーメーション
三浦淳宏(横浜)
「きょうはあまりボールが来なかったから、何か仕掛けるといっても、そうできなかった。相手がプレッシャーをかけてきている分、全体的にミスが多かった。とにかくミスを減らすことだと思う。ただ、雨でサイドチェンジがうまくいかないところがあったので、無理はできなかったと思う。(「8月16日のUAE戦以来の出場になるが?」の問いに)相手をつけてやるのはやるのはそれ以来だけれど、足は痛くなかったし心配もなかった。足が完璧なら、右ウイングでいろいろ試してみる手もあったかもしれない」

明神智和(柏)「2試合を戦って、うまくなれたという自信をすごく持てたと思う。僕がというんじゃなく、チーム全体にそういう雰囲気がある。2試合の目標は勝って自信を得ることだった。(右サイドに入った)前半は、イナ(稲本潤一)のワンボランチに全体的にとまどってしまった。サイドの仕事もできなかったし、ボランチ的な動きもできなかった。両方が悔やまれます。本番までいい体調でいきたい」

本山雅志(鹿島)「いつも通り、後半から行けと言われれば、そこでいい仕事をしようと思っていた。とくにきょうのプレーでこだわったりとかしたところはありません。自分に求められていることは、後半から入って、いいプレーをし、全体的なリズムを、新鮮にすることだと思う。こういう役割でも、先発出場でも変わりなくやりたいと思う」

中田浩二(鹿島)「相手はこちらのやり方をやはりよく研究していたと思う。そうは言ってもオリンピックに行けば、全部(のチームが)僕たちのことを研究しているわけですからね。2試合やってみて、ディフェンスに関してはうまく連携を保つことができたと思う。ただ1点目を取られたところなどは、もう少しお互いにコーチングをしっかりしたほうがよかった」

楢崎正剛(名古屋)「国立競技場は雨が降ると、ものすごくスリッピーになるんです。少し慎重にプレーをした。ある程度、ディフェンスとの連携はうまくいったと思うが、失点の場面などはどちらの間合いなのかもっと徹底させるべきだった、きょうはお客さんがとても多かったので、コーチング(の声)がお互いにしっかり聞こえない場面があった。もっと存在感をも持ってプレーしろと監督には言われているので、やはりコーチングは徹底させていきたい」

平瀬智行(鹿島)「まあいい場面を外してしまいました……。フォワードだから、入れなくちゃいけない。長居で1点取ったとはいえ、やはりもっともっと得点を取りたかった。ただチーム全体の流れはうまくいっているので、このままオリンピックにいい状態で臨みたい」

トルシエ監督
(会見より抜粋)「中田(英寿)、中村のコンビについては、狙った通りだ。中田のパワフルさ──他とは違うというパワーを十分見せつけてくれた。中村もサイドで、人のプレーを活かすということができている。これによって本山、明神らとのバランスが保てるようになった。レベルが上がったと思う。稲本をワンボランチにしたのは、稲本の力を見てみたかったからだ」

釜本邦茂サッカー協会副会長「(2試合を終わって)自信にさえなれば、形うんぬんなんかなんでもいいんだよ。ま、なんでもいいってことはないけれど(笑)。(「メダルは見えたか」の問いに)メダルは遠いんじゃない。遥か彼方だよ。もちろんチームがダメと言っているんじゃないよ」

川淵三郎サッカー協会副会長「僕は個人的にはとても楽しみなチームになっている。今が一番、選手の信頼感が伝わってくるところだ。中盤と前の連携、あるいは後ろと中盤との連携、こういうところでいろいろな工夫が見られていると思う。オリンピックではぜひとも予選を突破してほしいと思うし、その力はもう十分示したんじゃないかなぁ」

「忘れ物は……」

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 修学旅行、あるいは遠足、持ち物が書かれたプリントとにらめっこしながら、忘れ物がないのか何度も何度も確認した思い出は誰にもあるだろう。
 クウェート、モロッコと用意された2試合の壮行試合は、いわば、こうした荷物チェックにも似た作業であったはずだ。
 実際のところ、監督にとって、荷物チェックはもう終わっていたのかもしれない。しかしさらに慎重に、自主的に「持って行っておいたほうがいいもの」を探し、あるいは無駄と思える荷物(カード)を置いていく、さらにレベルが一段上の確認作業が、このモロッコ戦に集約されていた。

 この日の「持ち物チェック」の第一は、三浦の復帰だろう。この日は雨でスリッピーだったために右足首をかばう場面があったが、それでも前半に見せたCKには、三浦の持ち味がいかんなく発揮されていた。右足で巻いて入ってくるボールは、三浦がいつも細心の注意を払う回転のキックとなった。ボールにやや下をこするように蹴りだすために、ボールが落ちる。GKはこの「落ちるボール」に錯覚し、これに飛び込んだ稲本との交錯の判断ミスからオウンゴールを導き出したものである。
「足首は痛くなかったが、雨もあり多少慎重にはなった。もしできれば右ウイングでもガンガン攻撃的なプレーを試したかった」と、すでに足首への不安はなく、さらに上の攻撃的なプレーを見据えていることを明言した。

 不安も抱える選択肢のチェックも行なった。
 前半、稲本をワンボランチにして使うことで、監督は「稲本個人の攻守両方の能力を試したかった」と試合後に話した。守備的な部分と攻撃的な要素を、明神と縦に並ぶことで解決していたが、ワンボランチでは全体のバランスも崩れ、稲本も持ち味が半減した。右サイドを務めた明神も「サポートもできていなかった」と、反省する。左に三浦の選択もあれば、右に三浦の選択もある。こうした選択肢をできるだけシェイプする狙いが、この持ち物チェックではなかったか。

 最後は、単純な持ち物リストに大きなプラスアルファとなるものだ。
 中田英寿(ASローマ)、中村のコンビの連携だ。
 中村にしてみれば、歯がゆいものもあったかもしれない。ここまでボランチ、左サイド、中盤と様々なポジションをこなすゼネラリストとして代表を過ごし、しかしスペシャリストとどう戦うのか、こうした問題を常に抱えていた中村には「今になってポジションがこう落ち着いてね。間に合ったって感じだけど、どこでもまずは自分らしい動きをしたい」と話した。
 しかし、中田との連携で特筆すべきは、中田がいわば表で盾になり突破をし、全体を切り開く万能型として「太陽的」な役割を担い、中村は、全体のスペースを見渡しながら、他人を生かし、その中で得点につなげていく「月的」な役割を分担している点だ。双方が互いを見事に生かした中盤の連携は、成熟度はまだまだだろうが、フランスW杯を戦った、中田、山口、名波たちの中盤が、お互いを生かし、相手を倒すためにどうするかを徹底し考え、実行したシンプルで力強い関係に近づく可能性を大いに示している。
 互いにしか見えぬボールと聞こえぬ声でつないで行く様には、スリリングさえ感じる。

 壮行試合2試合での持ち物チェックを終えた監督のリストには、プラスアルファの持ち物が加わったようだ。
「信頼、ハーモニー、自信」
 監督は言った。
 忘れ物は、ない。

試合データ
日本   モロッコ
25 シュート 11
10 GK 13
7 CK 1
19 直接FK 25
5 間接FK 3
5 オフサイド 3
0 PK 0

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