6月19日


岡野会長のトルシエ代表監督の契約に関する会見
(渋谷区・日本サッカー協会、午後3時)

 日本サッカー協会・岡野俊一郎会長は19日、協会内で会見を行い、フィリップ・トルシエ監督との契約を「オプション通り、10月まで延長したい」と、明らかにした。
 18日のボリビア戦後、行われた強化推進本部の会議でトルシエ監督続投で意見が一致したことを岡野会長に報告。それを受けて当初の予定通り、岡野会長の判断で決定を下した。また、岡野会長は「もちろん2002年を見据えてもらうことになる」などとも語った。


 岡野会長の会見より(午後3時から約50分間。一部抜粋)


撮影・KM
<始めに>
本日、強化推進本部からの報告を受けて、理事会からの一任通りわたくしが(監督の契約について)最終的な判断をした。契約通り、10月までのオプションを履行するということです。2002年(のW杯)を見据えたうえでお願いすることになる。

──監督とは話しましたか。また要請はするのか。
会長 いいえ、まだです。それと監督ご自身、自分の契約は10月までと言っていたのでその通りということです。

──どのように伝達するのか
会長 大仁・技術委員長から本日すでに伝えてもらっている。あす監督と私とで食事をするつもりです。

──本人が受けるのですか
会長 監督は10月まで、と言っている。

──2002年を見据えて、10月には再契約をすることも決まっているのか
会長 仮定の話はできません。10月からの契約(更新)については、これから本人と話あったうえで行なうもの。私としてはそのためにも、アジアカップ、シドニーでいい成績をあげてくれることを期待しています。

──続投を決定した理由は
会長 強化推進本部の報告を受け私が決断した。(本部と会長の)意見はほぼ一致したものであったし、監督の指導力を高く評価したわけです。

──今後さまざまな契約があると思うが
会長 契約というものはお互いに話し合い、合意したときに一致してはじめて結ぶものを指すのです。これからお互いに話し合うわけですし、2002年を前提とするからこそ、話し合いをしなければならない。契約をきちっとやっていこう、それが原則です。もっとも重要なことは(合意した)契約を守ることです。

──釜本本部長とは
会長 昨日ときょう電話でゆっくり話しました。

──今回、リポートという形は出ていませんが。今後どのような形で推進本部が存在するのか
会長 強化推進本部はあくまでもサポート組織ですから、評価はまた別の組織でしなければならないと考えます。

──10月の目標はあるのか
会長 細かいものはありません。ただ彼は彼なりに、メダル圏内に行けるという自信は持っているようだ。

──強化推進本部の役割を確認したい
会長 監督の評価は、ある固定した委員会などでなされるものではないということです。

──昨日は、横浜国際競技場でかなり辛らつな協会批判がサポーターからも出ていました
会長 今の日本代表チームは多くの関心を集めている存在。自覚しているし、サポーターの声は今すぐ何を具体的にというのではなく、大事にしたい。

──ベンゲル監督との交渉はどうなるのか
会長 技術委員会が(次期候補として)接触することなどは制約していません。自由にやれるものですし、大仁委員長からもそういう報告を受けていたので、交渉の具体的な話を聞いていたものではない。この前も、ベンゲル監督にシーズン中の大変な時にご迷惑をおかけしたので謝罪する、と報告を受けました。

──3役会議の後、監督はオプションがある、と主張し、協会は本契約が6月で終了すると見解の相違があった。それが修正されたのは
会長 本契約はあくまでも6月で、その上でオプションを取ることが契約に入っていたのですから、それを履行したうえで(2002年までの)再契約を考える(ので相違はない)。

──結局、どこが判断し、どこが決断するのか構図が不明ですが
会長 強化推進本部は、推進の言葉通り、サポート組織であることを釜本本部長とも電話で確認しました。現場の(代表に関する)体制を調整し、推進することです。今回はこういう(評価するかのような)ことになったけれども、(仕事の内容の)原点に帰ってほしいと思う。釜本自身、ことあるごとにサポートする、と言っていたはずですから。

──一般的には世間に、協会が監督を解任したいと思っている、という印象を与えたが
会長 代表への関心、とりわけ2002年をどう戦うかという問題について個人個人がそれぞれの意見を持つことは重要です。しかし今回は、それがそれぞれの立場での発言として外に出てしまったことが残念です。議論は多いに結構ですが、あくまでも立場をわきまえた発言であってほしい。代表の監督で100点満点を取るような監督はいません。ですから議論は多いにするべきです。

──細かいオファーはいつ出すのですか
会長 あす監督と飯を食いますが、そこではここまでの話の経緯などを話すだけで、そこでワーッと契約の話をするつもりはない。監督の契約の中にはさまざまなものが含まれています。その中にトルシエ監督は2年間で2回、1年で1回は1か月の休暇を取ることになっている。今回は気持ちよく休暇に入ってもらって、7月に向こうからもいろいろな条件が出てくるでしょう。そこで話をする。

──指導力を評価したということですが、もう少し具体的に
会長 代表に戦う意志というか、厳しさを植え付けてくれた。一言で言うなら環境の変化への対応です。厳しさということを改めて植え付けてくれた。

──今後の窓口、そして技術委員会と推進本部の任務に重複はないのか
会長 技術委員会は、すべてのレベルにおける技術の向上、レベルアップを考えるもので、推進本部は、あくまでも代表がどうしたらいい形で強化できるか、スタッフの選出も含めてナショナルチームに関する、これは各年代ありますが、これを考えるところです。そして実際の(監督の)窓口は、最初に監督をお願いし招聘した技術委員会であり、これが本来の姿であると思う。

──2002年への再契約はいつになるか。ま10月に問うのは結果なのか、内容なのか
会長 これは、契約の終わらない時期に次の契約を進めておく、空白は作らないというのがスムーズで理想でしょう。今の契約(オプション)が終わらないうちに、次の更改をしたいと思う。大事なのは、中身でしょう。結果というのはサッカーである以上、常に番狂わせもある。

<最後に> これだけの報道陣に集まっていただき本当に感謝したい。関心の高さは受け止めている。登録者だけで100万人を超える団体として、今後も協会への意見などあればできるだけ明確な形でそれに答えて行きたいと思っています。

「自己批判と自己矛盾」

 最後は「契約遵守の原則」を盾にした恰好で、岡野会長が2月のカールスバーグ杯(香港)以降4か月にも渡って続いた監督問題の迷走に一応の終止符を打った。しかし一方では、協会組織における自己矛盾を抱えている「負の側面」を露呈した恰好となってしまったのではないか。契約通り、と主張するのならなおさら、ではなぜ、契約通りに進まなかったのか、そこに大きな問題点が2点ある。
 1点目は、岡野会長自らが設置、推進してきた釜本邦茂氏を本部長とする「強化推進本部」の存在意義である。
 98年のフランスW杯後、当時の長沼会長の後任として岡野俊一郎副会長が会長に就任。常時、代表の支援をする組織がないことをフランスW杯の反省材料とし、釜本氏を強化担当の副会長として代表強化にあたるよう会長自らが発案している。この中で「副会長それぞれに任務を負っていただき、成熟した分業責任制の中でみなで力を合わせたい」(98年就任会見での声明)とした。
 そうした流れの中で釜本氏には昨年、強化推進本部が預けられ、代表に関するさまざまな点でのサポート、支援スタッフの選出、日程の調整、なども含んだ組織として立ち上げた。この際には、「ナショナルチームについての支援、相談や様々な意味での評価を含む委員会」としており、「代表監督のお目付け役」といった要素が強いものだった。

 この意向に沿った形で釜本氏の活動がスタートしたが、国会議員である同氏には練習見学の余裕もない。この点からトルシエ監督からは「現場にもっと来て練習を見てもらわないと」との要求が出る。要求通りに現場へ大仁技術委員長(強化推進本部委員兼任)が常時帯同する。ここが窓口になる。しかし評価をするのは強化本部だと言う。そして試合ごとに、監督の戦術を批判するかのようなコメントが強化本部から出る……。こうなると、「組織のねじれ」を増長するだけのために、技術委員会と強化推進本部2つの組織が存在したようなものである。

 岡野会長は19日の会見で、「強化推進本部は推進の言葉でもおわかりの通り、代表をサポートするものであって今後は原点に返ってほしい」としたが、最終的には、この1年と少しの期間に活動してきた同本部の仕事内容を否定する形でしか、事態を収拾できなかったわけだ。
 レポートはするが評価ではない、参考にはするが判断ではない、大仁氏のように兼任する委員がいるが、監督の評価の窓口は技術委員会……。こうした極めて曖昧な前提で自分たちの組織の中に「矛盾」を抱えている点は、過去、加茂周監督の評価を強化委員会(当時、加藤久委員長)が下したものの、幹部会でその結果が覆り、ネルシーニョ監督(当時、川崎監督)が「協会は腐ったみかん」と発言した一件以来、何も改善されていないと言える。自分たちで作った組織の任務を、最後は自分たちで否定することでのみ事態を収拾したのは、組織全体の失態である。

 次の問題点は「身から出た錆」、つまり内部の人間による発言で事態がより一層混乱を深めた、という点である。
 会長は会見の中で「議論はおおいに結構、しかしそれぞれの立場でそれぞれの意見を言ったことが外に漏れたのは残念」と非常に遠まわしながらも、内部、つまり協会の自己批判をした。釜本氏だけではなく、各委員がそれぞれの「思惑」を口にしたこと、それが報道されたことで、言葉の通じない監督の不信感が増大した。マスコミが大げさだ、などという言い訳は今回に限っては通用しないはずである。
 この時期、監督の本契約の終了時と岡野会長の再選時期と重なっていたことも、それぞれの勝手な発言を許した「操縦士不在」の状況を生む原因にもなった。


撮影・KM
 会長はことさら原則にこだわり(任期は2年、岡野氏は98年からで今年5月末が任期だった)、「2002年の会長が(自分なのかどうかも)はっきりしないのにリーダーシップも何も取りようがない」とし、その中でベンゲル監督との交渉や監督解任への動きが活発になっていった。トルシエ監督は再選の決まらない会長と話すことはできず、さらに技術委員会は技術委員会でベンゲル監督との交渉を水面下で始め、強化推進本部はA代表で結果の出なかった監督を解任しようと言う。まったくバラバラであった。
 トルシエ監督が「一体誰と契約や代表の日程を話せばいいのか」と、こうした「リーダー不在」の状態にイラ立ったのも当然である。
 5月末、会長再選が投票で決まったと同時に「監督問題は私に一任を」と、岡野会長が極端に強いリーダーシップを強調し始めたのはこうした事情からである。

 結局、19日の1時間に及ぶ会見でも、監督の続投の理由は「厳しさを植え付けてくれた」との会長見解以外、明らかにされなかった。強化推進本部が「見解をまとめられない」としてこの4試合まで先延ばしした理由も、レポートを出すとした意義も、技術委員会・大仁委員長の任務も結局は一体「何のため」だったのか。
 確かに紙の上では「10月までのオプション履行」は契約通りである。しかし2002年をどう戦うのか、もっとも大事な命題はまたも先送りされただけに過ぎない。
 欠点も明らかにならない代わり長所も明確ではない。成果もはっきりと誇るものではない代わりに、2年で当然生まれるべき課題も何も明らかにならない。解任派も続投派も首をかしげたままではないか。
 このまま「なぜこの人なのか」がわからないまま、2002年のW杯を指揮する代表監督が決まることなどないようにせめて、願いたい。

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