1月28日


大阪国際女子マラソン招待選手記者会見
(大阪府豊中市内のホテルにて)

 シドニー五輪出場権をかけた大阪国際女子マラソンを前に、内外の招待選手8人による記者会見が行われた。
 女子マラソン選考は熾烈を極め、すでに市橋有里(住友VISA)が内定、さらに昨年11月の東京国際女子マラソンで、山口衛里(天満屋)が2時間22分12秒の好タイムで優勝を果たしているため、今回のレースは記録、順位、その両方が求められる、非常に難易度の高い選考レースとなる。
 3度目の五輪出場を狙い、9年ぶり3度目の大阪を走る有森裕子(リクルートAC)、シドニー五輪1万メートルの内定と引き換えにマラソンへの不参加を求められたがそれを蹴って大阪に出場する弘山晴美(資生堂)、4年前のアトランタ選考会では蚊帳の外だった小幡佳代子(営団地下鉄)、世界陸上の惨敗から復帰する浅利純子(ダイハツ)など、実績と年齢をも十分に積んだランナーによるレベルの高いレースとなりそうだ。
 当日の天候に大きく左右されるが、弘山、小幡は奄美大島で、また浅利も「2時間22分」をターゲットにした練習を積んでおり、有森も「2時間23分台をクリアしなければ話にならない」と話しているだけに、絶好調と宣言しているシモン(ルーマニア)を中心とした優勝争いはスタートから「様子見」をする間もなく、2時間22分から24分を照準とした速い展開で進んで行くことになりそうだ。

優勝候補で今大会に3連覇をかけるリディア・シモン(ルーマニア)「(タイムを聞かれて)私は予想できないものをレース前に予想するような真似はしない。当日になればすべてが分かるのだから。ここまでの練習は、1月5日までボルダー(米国)で十分な練習を積むことができた。今回も是非強い走りで3連覇を狙いたい」
(注)シモンは昨年のセビリア世界陸上の結果ですでにシドニー五輪代表に決定している。また世界陸上2日後に、盲腸が判明し内視鏡による手術を行い、そのまま3ケ月間黒海の有名な治療施設で「泥」による疲労回復療法などを受けて来た。「競技生活の中であれほどリラックスしてあれほどゆとりのある時間を過ごしたのは初めてだった」と話す。休養明けの強さを見せるか。

ケニアの五輪代表がこのレースにかかっているエスタ・ワンジロ(日立)「記録は走ってみなければ分からないでしょう。ケニアには世界最高(2時間20分43秒)を持ったロルーペさんがいます。彼女の記録に並べるかどうかは別としても、彼女とシドニーでいい対決ができるようなレースをここでやりたいと思う」

浅利純子「大阪は地元でもある。秋田の実家のみなさんや、会社のみなさんの応援に恥ずかしくないように走りたい」

安部友恵「いつもの通り普段のマラソンと同じ練習をしてきた。ここ数回大きく外してますので、30日はしっかり最後まで元気に走りたい」

「彼が勝手に、中の上と……」

 記者会見は、マラソンの記者会見としては異例ともいえるほど100人以上ものメディア関係者が集まる中で行われた。
 緊張もするだろうし、ほかのランナーの動きや発言も気になる。会見は、記者にとって情報収集の場所であるばかりでなく、選手にとっても唯一、相手陣営のことを知るチャンスになる。
 ここまでは、「誰がどこの練習の40キロを何分で行った」とか「30キロを何回やった」とか、こういったいわば風評が選手やコーチの耳に入るわけだ。
 しかし、こういった「積んできた練習」という調整と同時に、「レースで練習をどう発表するか」という最後の最後に残る調整もある。会見はこの2つの調整のちょうど中間に位置する日に行われるものゆえに、「選手が話している内容ではなくて、表情とか声の調子とか、選んでいる言葉とか、そういうものをお互いに探る場所でもあるんです」と、以前トップランナーに教えられたことがある。
 むしろ、このレベルになると積んでくる練習の力はほとんど拮抗しており、本当に大切なのはレースを迎える直前1週間、10日の調整力や安定性にかかってくる。
 マラソンが経験による、と言われるのは、実はこの直前調整の安定力が、やはり年齢を重ねると増してくるから、とされる。この日の会見では、その「直前調整力」の明暗が、かなり明確に分かれていた。
 積水化学の宮崎は「直前に足を(右の長径じん帯)を痛めてしまい、小出監督からは『とにかくスタートラインに立とう』と言われここにやって来ました」と話す。1月10日前後までは距離も踏め、しかもいい練習ができていただけに、こうした事態が起こることは気の毒だ。
 しかし、マラソンの調整では、平均台の幅が、レースに近くなれば近くなるほど狭くなって行くものである。
 宮崎と対照的なのは、弘山だった。現在の調子を聞かれると、「私が知らないうちにですね……」と笑い出し、「彼が(勉氏=夫でコーチ)私の知らないうちに、大会のアンケートに『調子は中(チュウ)の上(ジョウ)』と書いてたんです。だから私も、そうか、中の上だ、って思っています」と話し、どこかのどかな笑いを振り撒いていた。
「中の上、ってちょうどいい所ですからね。やっぱり上の上というと力が入りますしね」と夫・勉氏も会見後話し、自らも選考レースを経験しているだけに、練習をいかに発揮させるかこの1週間を「尻上がり」にするためのサポートを十分にしているようだ。
 小幡も、「マラソンだけは外さない小幡、をアピールします」と笑わせ会見後も丁寧に取材に応じるなど、やはりある種の「落ち着き」を持っていた。
 こうした直前調整の上手さ、安定性では有森の力は見逃せない。絶対的なスピードはほかのランナーには及ばないが、レースだけは必ず「まとめて」見せる。ボルダーで取材をした10日前よりも、さらに調子を上げ、同行するパートナーやトレーナーたちを驚かせている。
 経験を持つ浅利純子のレースも計算されたものになるだろう。
 選考会になれば、もっとも避けなくてはならないのはやはり「自滅」で、スタートラインに立つ以前に、自滅して終わる選手も多い。  
「いい顔でスタートラインに立ちたい」と誰もが願い、そう口にする。
 選手の表情や仕草、そして言葉は、バックグラウンドになった何ケ月かの練習だけではなく、本当に様々なものを映し出している。

    大阪国際女子マラソン 主な招待選手
    No. 名前 年齢 所属 自己ベスト
    1 リディア・シモン 26歳 ルーマニア 2'23"24
    2 ソニア・オベレム 26歳 ドイツ 2'28"02
    31 エスタ・ワンジロ 22歳 日立 2'25"40
    32 安部友恵 28歳 旭化成 2'26"09
    33 浅利純子 30歳 ダイハツ 2'26"10
    34 小幡佳代子 28歳 営団地下鉄 2'26"18
    35 有森裕子 33歳 リクルートAC 2'26"39
    36 弘山晴美 31歳 資生堂 2'28"12
    39 宮崎安澄 24歳 積水化学 2'30"06

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