逆引きの楽しみ〜この人がみつけたクワガタ虫〜  by Erie


はじめに
ワガタ愛好家のみなさんはなにがしかの図鑑あるいはカタログをもっていることと思います. わたしも,図鑑にはだいぶお金を掛けてしまいました.確かに,見ているだけで楽しいことは楽しいのですが,いつも決まった順番で,あるいはただ写真を眺めているだけでは物足りない!というのが我ら大馬鹿者の大馬鹿者たるゆえんであります.
2月号,3月号では2回にわたって「ラテン語で表記される学名の読み方」というものにこだわってみました.今回は「図鑑を逆さまに使って楽しみましょう」がテーマです.「図鑑にはこんな使い道があったのか」と思っていただければ私の目論見は成功というわけです.
さて,お手持ちの図鑑をちょっと見直してみましょう.
学名のあとになにか書いてありませんか?

【例】
和名:コクワガタ(原名亜種)
学名:Dorcus rectus rectus (Motschulsky, 1857)

丸括弧のなかに人の名前年号が書いてありますね?
これは新種の基準標本がMotschulskyという人によって,1857年に記載されたことを意味します.ときには括弧のなかではなく「,」によって区切られれて記述されることもあります.それは原記載に依存するわけですが,学名のあとの記述が記載者と記載年だということはおそらく誰でも知っていることでしょう.

コクワガタの記載者Motschulskyさんはお名前からするとどうもロシア人のようですね.でも,1857年といえば明治維新の10年前ではないですか.どうやって日本にやってきたのでしょう?
考えられるのは函館経由で日本に入ってきたということですね.でも,髷をゆって刀差してる人がいる日本で,青い目の外国人が虫を採集してたのかと思うとなんか不思議というかなんというか・・・.もっとも本人が捕まえたのかどうかはわかりません.種の記載というのは記載者が手元のある一つの標本(「holotype」あるいは単に「type」標本といいます)をもとにその種の形態的特徴を書き記したというだけで,本人が採取せずとも,誰かが捕まえたものが彼の手に渡ったという可能性があるわけです.また,江戸末期ならば虫に興味をもつような「物好きお侍」がいてもおかしくはないでしょう.

このように,馴染みの深い日本産の鍬形虫を記載した見知らぬ外つ国の人,遠い時代を思うとまたひとつクワガタ虫の世界が広がるように感じるのは私だけででしょうか?できることならば,type標本がどこの博物館に所蔵されているか,記載者の歴史,記載に到った経緯などを調べてみたいと思いましたが,今回は資料集めをする時間もないので,記載者別に「誰がどのクワガタ虫を見つけたのか?だれが最も多く新種・新属として記載したのか?」ということをまとめてみました.


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