「怪説・世界のクワガタ」 第3回 オオクワガタ (1)

A.CHIBA


 前回に続いてオオクワガタである。流れからすると今回は頭部に突起の無いグル−プと言う事になるが、小型種とアンタエウス、シェンクリングにアルキデス、ユ−リケファルス、トラキクスも含めてみた。ヒラタクワガタ属 (Serrognthus) とオオクワガタ属 (Dorcus) は完全には区別出来ないとされ、「世界のクワガタムシ大図鑑」では近いと思われる種は全てDorcusに統一されている。確かに成虫の外見的(♀を含めるとなおさら)なものだけ見ると Sorroganthus と Dorcus を完全に分ける事は無理であるが、日本ではオオクワに対する思い入れが激しい為なのか、両属を区別して考えたい人が多いようである。

fig1

 まずはfig1、台湾産クワガタムシの中で最大の種とされている Dorcus schenklingi で、2♂1♀を図示したが左のペアは六亀産の個体♂83o♀47o、右は高尾県産。一見すると正に巨大なコクワガタである。台湾の特産種で元々非常に稀であるとされていたが、近年この種は益々採集が難しくなっているらしく、大きい個体は殆ど採れないと言う。幼虫での採集もまだ聞いた事が無い。最大のものは90oに達すると言われるが、そのサイズは実際には存在しないとも噂され、85o以上は極めて稀である。

 台湾は非常に興味あるところで、九州程度の面積の中に日本を凌ぐ種類のクワガタが分布しており、尚かつ同一の種(Lucanus formosanusタイワンミヤマ)において北部、中部、南部で型が違うと言うのだからこれまた凄い。シェンクリンも北部から南部にかけて採集されており、比較的多い場所では灯火にも集まるが♀と小型♂が多いという。今までに見た個体(但しそう多くはない)では地域によっての形態差は殆ど見られなかった。

 現在シェンクリンの大型個体を入手する事は非常に難しくクワガタ屋にとってはあこがれの種のひとつとなっている。この種とDorcus formosanus 及びOdontolabis sibaはクワガタの飼育で有名な小島啓史氏の手により現地(台湾)において累代飼育された事(月刊むしNo244,1991他)があり、幼虫の形態、飼育における生態等が紹介されており、非常に興味深いものがある。また、シェンクリンが台湾最大とされると書いたが、Odontolabis siba オニツヤクワガタもかなり大きくなり全長はシェンクリンを凌ぐものがいる。
 

fig2

  次はfig2、Dorcus antaeus3頭。アンタエウスはガッチリとした体型と大型種である事から人気は高く、以前この種があまり入ってこなかった時代には、今より高値で売られる事が多かった。左はNE India Darjeeling産84oこの産地のものが平均的に一番大きくなるようである。他の産地より大腮の湾曲が緩やかで大型になると内歯が前方に向く傾向が強く、体に艶がある個体が多い。人気はとても高く、標本は入って来ているようだが、大型個体は高価である。最大で86〜87oぐらいだろうか!

  真ん中はN Thailand Chiang Mai 近郊で採れた79o。前回も書いたが、以前アンタエウスはどの産地も少数しか来なかったのだが、このタイランドのものが一番最初にまとまった数、標本が入って来た。他の産地と比べると体の割に大腮の発達が悪い個体が多いように感じる。80o以上は以外と少ないようで、あまり見たことが無い。現在はラオス産ものが多く入って来ており、この産地の方が大きい個体をよく見る。

 右はマレ−半島産、70oラベルはMalaysia Ipoh になっているが、大抵はカメロンハイランズとだけ書いてある事が多い。マレ−シアの中央高地にあるこのあたりは標本商が多く昔から有名なところでよく紹介されている。タイ産やラオス産が入って来る前はアンタエウスと言えば殆どこの産地だった。ここで採れるサイズは他の産地よりも平均的に小さいようだが、以前は75〜78o程度までは採れたらしい。近年になり大きな個体は少なくなったと言われるが、80oに達する個体は昔の標本も含めて今まで見たことがない。現在この産地で手に入るものは60〜65oぐらいのサイズが殆どだが、大腮の湾曲は他の産地よりも激しく、また太くなるものが多い。特に大型になると内歯のカタチも他の地域との差が明確になる。このマレ−半島産の個体はとても重厚な感じがして非常に良が、現在75o以上のサイズはなかなか手に入れる事はむずかしい。  

「 怪説・世界のクワガタ」第3回 オオクワガタ(2)へ

目次へ戻る