深みがありながらも微妙な諧調を有する漆黒、淡い純白の中のわずかなディテール、このようなファインプリントはどのようにすればできるのでしょうか。ここではモノクロ写真における諧調再現の基本的な原理を考えてみます。
一般の被写体において、非常に明るいものと非常に暗いものとの輝度比は1:4098(212)にもなります。これはカメラの露出計では12段に相当します。一方で印画紙の濃度は最高でも2.5位で、これは被写体輝度域を1:316の明るさの比で表現できることを示しています。最高濃度2.2程度の印画紙が最も多く出回っており、この場合は1:160の被写体輝度比しか再現できないことになります。
前ページの図は、コダックT-Max
400の特性曲線です。モノクロフィルムでは被写体輝度域の10段以上が十分記録できることを示しています。(T-MAX
Deberopper 1:9希釈現像液で24℃ 12分)
図―2
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発光体と真の暗黒を同時に写すのでない限り、一般的な被写体輝度域を有する被写体は、現在のモノクロフィルムには十分に記録をすることができることが分かります。
ではどのようにして印画紙の1:160程度の再現幅に1:1000以上の輝度比が表現できるのでしょうか。
図-2は、フィルムの特性曲線を左側に、印画紙の特性曲線を+90度回転させて右側においてプリント再現を理解しやすくした図です。
被写体のシャドー部は、フィルムの特性曲線上の「脚」部に記録されますが、脚部は被写体の明るさの変化に比べてフィルム濃度の変化は小さい。つまりシャドー部はフィルムには圧縮して記録されます。そしてこのネガに露光されたシャドー部の画像は、印画紙上では印画紙の特性曲線の「肩」の部分で再現されることになります。
一方で、被写体のハイライト部は、フィルムの直線部もしくは肩部で記録されますが、印画紙上では「脚」部に圧縮されて再現されることになります。こうして、ハイライト・シャドー部が圧縮されて記録されることで、見た目が不自然でない画像として表現できるのです。
また、光源などの高輝度被写体は真っ白く飛んでしまってもよく、シャドー部もつぶれてもよい部分があります。結果として、被写体輝度域の中のシャドー部とハイライト部はそれぞれ圧縮されて再現されることになり、1:160程度の印画紙の再現幅であっても、被写体の1:1024程度の輝度比を表現できるのです。
フィルムと印画紙のこの特性を理解して、シャドー部に十分な情報を与えるような露出で撮影し、ハイライト部が再現できるような露光時間と現像条件を管理することによって、被写体輝度域を完全に再現した作品を作ることができます。
フィルムのISO感度の設定はシャドー部を決定するための重要なファクターとなります。モノクロフィルムのラチチュードは広いとはいっても、シャドー部とハイライト部の完全な再現を考えた場合、リバーサルフィルムほどではないにしても、カラーネガフィルムよりはシビアに露出を決めて撮影しなければなりません。
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