みるくは、ねずみです。一般には「ハムスター」と言うけれど、やっぱりねずみでした。でも、みるくはねずみとも違っていました。
人間にすり寄り、甘え、あるいは噛みついて、いたずらばかりしていました。
ねずみですから、何でも囓ります。そのあとバレそうになると、あわてて隠れます。その現場をぱっと押さえられば、二本足で立ったまま、前足をちょこっと胸の前に丸めて、はてどうしたものかと、フリーズしてしまいました。
被害防止のために、障害物の柵をめぐらすと、今度はどのように突破するか知恵をめぐらせます。そのたびにつかまえると、もがいて、あばれて、そして性懲りもなくまた突進します。でも、それは遊びなのです。同じ道筋をあきることなく、とことこと走り、囓れるもののある物陰に飛びこもうとします。人間が遊んでやらないと、すり寄ってきて、遊んでくれとせがみました。ふすまを閉じて、突破を防止すれば、人間の膝からはい上がってきて、開けてくれるものと誘いをかけました。
みるくは「運挺」はへたで、かごの天井の格子にぶら下がっては、足をぶらぶらさせるだけ、つぎの格子をつかむ手が逆手になって、体がねじれ、落っこってばかりでした。かなり大きな音を立てて、どさっと落ちるので、けがでもしないかとはらはらさせますが、ねずみの体は柔らかくできているようで、けろっとしていました。でも、さすがに恥ずかしそうに、寝床にもぐり込んだりしていました。
みるくは「自己主張」するねずみでした。ねずみは夜行性ですから、昼間眠いのに、人間の気まぐれでおこされると、おこって声をあげました。ハムスターが鳴くなんて、あまり知られてないでしょうが、「ちゅん、ちゅん!」と叫びます。それはきげんが悪い証拠なのです。そしてまた寝床に深くもぐって、丸くなってしまいます。
夜になって目が覚めればさっそく、遊びにいくから出せ、と騒ぎます。かごの格子に噛みつき、力まかせにかみまくります。がりがりと音が響き、扉をあけて出してやるまで、いくらとめてもしかっても、止めようとしませんでした。でも、おとなになってくるとあまり騒がなくなりましたが、夜もふけると、さあ、と動きだすのはいつも同じでした。せいいっぱい遊んで、くたびれると、自分から寝床に戻って、ことりと眠ってしまいます。
まじめになれば、じっと人間の目を見つめました。鼻をひくつかせながら、丸い目をこらして、この人間はなにを考えているんだろうと、うかがっているようでした。
そのみるくも、昨夏、二年あまりの命を終えました。おいしいものを食べ過ぎて、脳出血をおこしたのか、急にぐったりし、床につき、一週間の闘病後、朝には力つきて死んでいました。その前、一晩だけ、元気をちょっと取り戻し、精一杯の芸をみせて、去ってしまいました。
庭に埋められたみるくの墓に、好きだったひまわりの種をまきました。そこから大輪のひまわりが夏空に向かって花を開きました。
みるくの兄弟(姉妹)の元気は、名前通りの元気者、向こうっ気が強くて暴れまくっていました。しょっちゅうみるくと兄弟喧嘩をし、血だらけになりました。かごを別にしても、網ごしにお互いに相手を挑発するのですから。
その元気は、あんまり暴れすぎて、秋、一歳にならないうちに、自分でかみ切った2階の窓の網戸から、勢い余ってそのまま下に落ち、死にました。まだ生きているように暖かいままで、コンクリートのうえで動かなくなっていました。みるくとちがって、運挺も得意、みがるで器用だった元気は、もう帰れない高さから飛んでしまいました。
いま、元気とみるくは、並んで眠っています。また、夏が来ます。
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