MITSUI's monologue


東京都営TV局、「MXTV」は面白い!


 何を間違えたか、バブル崩壊で絶不調のニッポンの首都に新規開業したTV局、「東京メトロポリタンTV」(MXTV)は、超低視聴率下に、危ない低空飛行をまだ続けています。

 それでもまだ保っているのは、ひとえに、東京都が相当のゼニを出しているせいでしょう。

 いまじゃあ一つの国ぐらいの財政規模と、職員総数を誇る東京都、また、「臨海副都心」なんかに莫大なゼニをつぎ込んじゃって、アップアップしている東京都、それへの批判ムードに乗って、「誰も想像だにしなかった」当選を果たした都知事(さあ、誰が現在の都知事か、みんなで考えてみよう!)、どこをとっても問題ありすぎ、東京都なんて廃止した方がいいんじゃないのかな、などとも思えてはきます。その都が、何の「道楽」か、事実上の「都営TV局」を持っている、いい加減にせーよ、とも言いたくはなります。


 でも、このつぶれそうな都営TV局MXTV、意外に面白い、見る価値があります。もちろん、いかにもお役所の片棒担いだような、見ているだけで白ける、興ざめの官製番組もありますが、それだけじゃあありません。「ワイド画面」が主になっているからでもありません(うちじゃあ、まだ「標準画面」ですから)。ちょっと危ない、米国通販ものも流れていますが、まあご愛敬。

 まず、ニュースなどがなかなかよろしい。在京のメジャー他局6社(某国営放送、巨人軍放送、むかーし「報道とドラマ」の東京放送、おもしろお笑い富士ヤマ放送、ニッポンエロテレビ、日系株やTV)並みに張り合おうというのは、ちょっと無理という思いもしますが、ともかく健闘中、ヤッパ東京ローカルのつよみで、「ドブ板踏んで、横丁を歩く」ルポや報道ものになれば、なかなか見所あり、です。私のように、東京の経済に何かとかかわり、調査に駆け回ってきた経験あるものには、なにかと「そう、そこ!」と言いたくなるような場面、ストーリーも大いにあり、です。それに、ニュースの時間を含めて、頻繁に字幕でのニュース情報を流しているのもよろしい。

 先日の関東豪雪の際も、MXTVのニュースは懸命に情報を流し続けていました。


 ちなみに、全国各地にローカルTV局はずいぶんできましたが、それはほとんど「ローカル」の意味をなしていません。せいぜい、「地元企業」の低予算売り込み番組(底の割れちゃった)か、VSOPな「地元の行事」ものか、当然過ぎる地元自治体の「広報」を垂れ流しているというだけのことです。一番大事な、「地元にとって意味ある情報」がまったくありません。リアルタイム性がゼロです。ローカルTV局でも「順調」と言われる、私の地元のTVKテレビ神奈川に至っては驚きました。この豪雪騒ぎで、みんなが道路や交通機関の状態や、降雪見通しなどの情報を心底知りたい、切迫したそのときに、なんと、予定の「降雪で中止になったラグビー試合決勝戦」の中継録画の代わりに、「去年の試合」を、延々と流し続けていたのです。この「局」はこの時間、きっと無人君なんでしょう。想像するだにすごいですね、これで大地震でもおこったら、周囲が大混乱、阿鼻叫喚の巷にあって、「TV局」内では、ひとかげもなく、ひとりコンピュータとビデオレコーダが、予定通りのテープを延々送り出し続けている、これなら立派に、ブラッドベリの世界です。

 さすが、MXTVは違いました。



 それから、ご予算不足のため、外国の安い映画を流しています。と言っても、色の変わっちゃったような、古色蒼然時代錯誤なアメTVドラマなんかじゃなく、チョー時代遅れのハリウッド準B級ものばっかでもなく、実はすごい映画なんだけど、ニッポンのメジャーTVやさんのとこじゃあ、まれに深夜遅くに何かの間違いで流すような、そうでなければ、視聴率コンマゼロ以下の、国営放送教育チャネルで流れるような、そういったマイナーなタイトルです。

 先日、中国の「胡同模様」を、偶然見ることができました。あの、朱旭(言うまでもないですが、あの「大地の子」の)が主演です。泰然とした、そして時代の荒波をしたたかに生きていく、けなげな人間を描いています(ニッポンでは間違っても作られない類の映画)

 また、このあいだは、英国映画「Riff Raff」をやっていました。Ken Loachの、現代working class movieです。Robert Carlyleの主演と言えば、最近は日本でも人気がありましょう。


 こんな映画は、マイナー劇場で見損なったら、自主上映でもない限り、見る機会はありませんから。もちろん、ビデオもディスクもありません。


 ちなみに、working class movie というのは、ニッポンではまず作られない作品ジャンルです。あっても、「拳を振り上げ、闘う」ものでないといけないと思われがちです。だって、「労働者階級の映画」でしょうが?

 そこが間違いです。working class というのは、「労働運動」にも「階級闘争」にも無縁な、欧米社会での日常用語なのです。その生活、仕事、家族、仲間、馬鹿騒ぎ、怒り、喜び、酒、セックス、ずるさ、したたかさ、卑しさ、友情、あらゆることが一つのidentity =「文化的体系」として表現される、そんな作品が、演劇や映画や音楽の中での一大ジャンルを構成しています(小説などは言うまでもありません)。もちろん、それが「インテリ」(middle class)の目を通じて表現されるという、自己矛盾もありますが。

 ですから、英国はもちろんのこと、イタリアにも、フランスにも、まさしくそうした「class movie」が少なからずあります。アメリカ合州国にも、相当数が存在するのです。ハリウッドの、こけおどしと「文化侵略」のための底の浅いみせものばかりが「アメリカ映画」じゃあありません。

 Ron Haward の、「Gung Ho」、いかにも出来過ぎのお手軽「日米経済摩擦喜劇」のようにも見えましたが、これは実はやはり、working class movie なのです。論より証拠、エンドタイトルに流れる曲は、「he's the working class man」と歌っています。



 ともかく、そうしたworking class movie、中国現代社会劇、そんなものを次々やってくれる「MXTV」、有り難いじゃありませんか。「カネの切れ目が縁の切れ目」で、スポンサーの東京都が「降りる」前に、こうしたものを見られる機会、大いに生かしておきたいものです。

 ことによると、当選したとたんに「官僚の操り人形」と化してしまったと言われる、元TVタレントの都知事、せめてもの罪滅ぼしで、密かにこんなTV局の存在を演出していたりして(ありそうもない話しか)。ちなみに、Riff Raff は、英国の民放「CHANNEL 4」がスポンサーです。


 みなさん、MXTVをぜひ見ましょう。なに、うちじゃあ映らんって?なんとか工夫をしてみて下さいよ。



東京メトロポリタンTV