−”売れないもの”は「商品」じゃない!
『製 造 業 に お け る 開 発 型 中 小 企 業 の 市 場 戦 略 の 課 題』
わが国中小企業をめぐる状況は、一段と深刻の度を増している。
この事態は製造業において、より厳しく現れている。自動車や電子機器などの輸出の堅調な展開も、中小企業にはまだ十分な牽引力とはなっていない。また、この間の円安進行にもかかわらず、従来からアジア製品などとの競争にさらされてきた生活用品などの製造分野では、依然「価格競争力の逆転には至らず」(新潟・金属ハウスウエア製造業)、あるいは「資材は輸入依存のため、仕入れコスト高となっている」(福岡県・家具)といった状況がすでに報告されている(中小企業庁「第69回中小企業景況調査」、1997年)。
これに加えて、韓国、タイ、インドネシアなどと広がる東アジア諸国の通貨危機と経済混乱も、今後の大きな不安要因である。第一に、すでに現地法人や合弁企業体を設け、活動を展開してきた企業にとっては、大きな打撃となっている。第二に、これらの地域を有力な市場としてきた企業、とりわけ、日系大手企業などの生産拠点の「後方支援部隊」として、「東アジア経済圏」を支え、素材、部品、生産設備などを供給し、あるいは生産維持のための生産技術や保守サービスを提供してきた、数多くの国内企業にとっては、受注の顕著な低下が懸念される。また上記のように、従来の円高対応策として、輸入原材料への依存を高めてきた業種には、円安が痛手となっている。さらに、従来アジア製品との直接の競合に苦しんできた各産地などでは、大幅に切り下げられた現地通貨レートを武器にしての、アジア企業からの今後の厳しい攻勢に、内外市場でさらされることも予想される。
96年から97年前半にかけての景気回復基調のもとでも、中小企業の景況回復は遅々としてすすまなかった。その背景には、バブル期の過剰投資や事業拡大の行き詰まりの痛手、またその結果招来された、自己資本比率低下などの全般的な経営体質の弱体化が、ボディブローとして次第に効いてきていることがあげられる。のみならず、『平成9年版 中小企業白書』が指摘するように、「大企業から中小企業への生産に係る波及効果が伸び悩みを見せており、中小企業の設備投資の回復力の弱さの要因となっている。このように大企業と中小企業の相乗的な発展をもたらす企業間の関係に構造的な変容が生じていることがうかがえる」(中小企業庁編『平成9年版 中小企業白書』大蔵省印刷局、1997年、581n)のである。つまり、「情報化」「国際化」「需要動向の変化」といった局面変化のもとで、高度成長以来のメカニズムとなってきた、国内の大企業部門と中小企業部門の直接的な相互補完関係ないしは結びつきが崩れ、中小企業は多くの業種・分野で、独自の可能性を求めていかなければならなくなっているのである。「下請分業構造」における内製化や海外調達化の進行と、それに伴う徹底した選別化、「地域産業集積」のもとでの競争基盤の低下、「流通業」での激しい再編と「システム間競争」の様相、いずれを見ても、中小企業にとっては試練の時である。
こうした試練の厳しさに直面し、また、「後継者難」や熟練技能工の不足、先行き不安などを抱え、中小企業の廃業の傾向は高まり、一方開業率は低下し、特に小規模な企業でその傾向は強い。「事業所統計」によれば、1991年から96年までの5年間に、4万事業所が減少するという、はじめての事態が生じた。しかも1〜4人規模層では、-3.3%、13.5万事業所の減少である。減少の目立つ業種は、「卸売・小売業、飲食店」と並んで、「製造業」であることも見落とせない。この間に製造業事業所は-2.1%、8.5万事業所も減っている。また、従来増勢が続いていたサービス業でも、事業所数は頭打ち気味になっている。
まさしく状況は、戦後日本の中小企業全般の存立にかかわっての「大転換期」という様相を呈してきているのである。そして、中小企業の経営には、基本的な発想の転換が求められているのである。
一方での「開業率の減少」、また他方での「中小企業の従来の存立基盤の動揺」、こうした事態に対し、「創業支援策」「新規事業育成策」が数々、国や地域レベルで展開されてきた。しかしそうした支援策実施の効果が十分あがってきているとはいまだ言い難い。また、施策の現場で痛感されている問題点の一つは、とりわけ創業にかける起業家たちの大きな弱点として、事業アイディアや製品などのイメージを練ること、あるいは資金調達方法の工夫に傾き、「誰に、どのように売るのか」という、ビジネスの基本への関心が乏しいことがあげられる(鹿住倫世「創業支援におけるインキュベーターの役割と機能」日本中小企業学会編『インターネット時代と中小企業』同友館、1997年中小企業総合研究機構編『中小企業の創業支援に関する研究』、1996年、中小企業研究センター編『新規事業の育成に求められる施策』、1997年)。こうした姿勢は、開業後の経営の安定的発展に大きな障害となっている。最近は、開業年次の比較的浅い企業の残存率が低下していると、『中小企業白書』も指摘しているのである(前掲『平成9年版 中小企業白書』、313n)。
このような問題点は、もちろん新規開業企業に限られるものではない。これまで見てきたように、中小企業をめぐる経営環境が厳しさを増し、従来の経営基盤に安住できなくなってくれば、多くの企業が生き残りのために、新しい事業分野を開拓したり、新製品新市場への展開を図ったりしてきている。たとえば、従来は大手メーカからの「下請受注」に全面的に依存し、その成長に支えられてきたような部品サプライヤ企業や加工企業は、「親企業」の生産体制の再編、海外生産化や海外調達化、あるいは新技術新製品への転換などの影響を被り、これまでの関係に頼ることができなくなり、新たな取引先を求め、あるいは独自の製品などの販売を模索せざるを得なくなる。産地問屋や卸問屋、商社の販売力に依存し、伝統的な製品の製造一本でやってきた産地の製造業者が、アジア製品などとの競合や、消費需要の変化、流通構造の再編などのあおりを受け、新たな販路や市場を独力で開拓せざるを得なくなる。こうした現象は、いまや至るところで見いだされている事例である。
たとえば、バブル崩壊以降の不況下に、東京都が行った都内中小製造企業に関する調査の結果では、回答企業の実に86.8%が、何らかの意味で、「開発活動を行っている」と回答している(東京都労働経済局『都内中小製造業の研究(技術)開発の動向に関する調査報告書』、1996年、3人以下規模を除く)。先の中小企業金融公庫「中小企業設備投資動向調査」でも、平成7、8年度の設備投資では、「省力化・合理化」目的が大きく減り、「新製品・新規事業・研究開発」目的が急増して、これを上回るほどに達していた。
しかしそうした事例においても、実際の事業展開には多くの困難がある。『平成8年版 中小企業白書』(1996年刊)では、中小製造企業の生きる道として、技術開発への積極的な取り組みの意義を強調しているが、その「技術開発を成功させるポイント」の第一は、「市場ニーズをふまえた開発」の必要性である。同白書の調査によると、開発した製品を市場に投入するうえでの問題点として回答されているのは、「販路の開拓」が67.5%、「市場ニーズの動向把握」が59.4%と、図抜けて高い。従って、「中小製造業者が製品開発を通じて発展を遂げるためには、着実な技術開発への取り組みとともに、開発した製品のマーケティング戦略等の充実を図ることが重要である」(『平成8年版 中小企業白書』、390〜391n)とされるのである。
また、『平成9年版 中小企業白書』(1997年刊)での、新分野進出の動きの調査によれば、その問題点の第一位は「必要な技術(能力)を有する人材の確保」であるが、第二位は「経営ノウハウの不足」である(前掲『平成9年版 中小企業白書』、340n)。それは、企画開発や生産、仕入れなどにかかわる面も含まれるだろうが、多くは、「なにを、どこで、誰に、どのようにして売っていったらいいのか」といった基本的なノウハウの部分を相当に含むものと考えられよう。
それのみならず、新技術を応用し、新製品を開発し、あるいは新事業に果敢に挑戦するような企業でも、大手メーカや海外企業との圧倒的な販売力の格差に阻まれ、思うような成果をあげられずに悩んでいる例が少なくない。中小企業庁が「中小創造法」認定企業に対して行った調査では、「初期段階」での問題点として、「資金不足」「組織の未確立」に続いて、「マーケティング力の不足」があげられている(前掲『平成9年版 中小企業白書』、352n)。中小企業研究センターの行った調査においても、従来から開業において最も難しさを感じた点は、「人材の確保・管理・育成」に次いで、「販売ルートの確保」であり、さらに「取引先との関係づくり」、「売れ筋や顧客ニーズの獲得」となっているのである(前掲『新規事業の育成に求められる施策』、75〜76n)。
このような意味で、今日の構造転換期における企業経営の大きな課題の一つは、どのようにして、新事業を成功させるかであり、そのカギは、新たな市場や販売先をどのように開拓し、確保し、自社としての売り上げを実現していくかにあると言うことができよう。黙っていても、「いいもの」を作っていれば、並べていれば、売り上げが確保できるという時代は終わった。「成長経済」の前提が失われたもとでは、個々の企業が自ら努力をしなければ、生き残っていくことはおぼつかないのであり、また、従来の市場や顧客にのみ頼り、安住することもできないのである。
こうした市場の開拓と売り上げの実現の方法は、基本的に「マーケティング」の課題である。そしてマーケティングとは、単に売り方ではなく、またこうした市場や販売先の確保方法に尽きるのではなく、それ自体が戦略的な企業行動をなすのであり、さまざまな内外の経営資源を動員し、結びつけ、企業の諸部門諸機能を動かし、「売れるしくみ」を作り上げていく総合的な活動全般である。そしてその前提条件となるのは、「市場における競争」の存在である。別の見方をすれば、マーケティングにかかる諸活動は、その市場と、そこに存在する、消費者や、ユーザ企業や、流通企業、その他もろもろの経済主体それぞれの存在を、いかにして的確に認識把握できるか、そしてそれらを、いかにしてコントロールするか、つまり目的意識的・戦略的に「動かし」、自社の目的とする売り上げの実現にもっていくかという主題を、客観的に担っているのである。
このような意味での「マーケティング戦略」は、今日の大企業の活動の主要部分を構成している。製品の開発から製造、販売に至るあらゆる部門と活動が、マーケティング戦略を軸に展開され、その効果を測られている。その方法はきわめて緻密であり、総合的多面的であり、資金をはじめとする多大な経営資源が投じられている。しかもその対象領域は今日世界規模にまで広がってきている。
これに対し、従来中小製造企業などにあっては、「マーケティング戦略」の志向はきわめて乏しかった。「下請型企業」の場合、いったん親企業との取引関係が成立してしまえば、その求めるだけの生産を維持・向上させることのみが経営課題となり、「マーケティング部門」どころか「営業担当者」も置いていないといった例も珍しくなかった。親企業の意向を汲むことが最優先であり、自社やその製品を、市場のドメインの中でどこに位置づけ、どの方向をめざすのかといった戦略志向は、ほとんど意味を持たなかった。
けれども、中小企業が新たな事業を志向し、新製品を世に問い、あるいは新たな販路や市場を求めるといったことになれば、「マーケティング戦略」の考え方は不可欠のものとならざるを得ない。しかもそれは、中小企業の制約と不利を前提とした、一定の条件下のものである必要がある。先の『中小企業白書』の考え方にもとづけば、この構造転換期をこれから乗り切ろうとする中小企業にとっての経営課題は、「変化への『即応性』の向上」、「優位性をもつ『経営資源』の涵養」、「他企業等との『戦略的な連携』構築による、外部経営資源の獲得」にあるということになる。これらは、一見「マーケティング」に無関係のように思えても、実はそうではない。今後は、中小企業にとってはこれらの課題すべてが、マーケティング戦略の展開を軸に構成される必要があり、また、その構成要素ともなってくるのである。
とりわけ、「外部経営資源の獲得」は重要である。中小企業がその規模的制約と、競争上のさまざまな不利を抱えながら、他の経済主体を「動かそう」とする行動自体が、さまざまの形態を有した「戦略的連携」と不可分の性格をもたざるを得ない。他の主体を一方的に動員し、組織し、コントロールしていくことは、中小企業にとってはきわめて困難であり、むしろ、最終消費者をどう動かすかということをとりあえず別とすれば、取引相手をはじめとする他の主体との利害の共通化、協力と相互の補完関係をベースにした、「戦略的連携」を図っていく中で、自社の目的が実現されると見るべきものである。言いかえれば、そうした関係をどこまで広げられ、あるいはどこまで有効に働くものとして機能させられるかが、制約と不利のもとでの中小企業のとれる道である。また、「戦略」実行のための必要経営資源の確保と動員のためにも、「連携」は欠かせないものとも言えるのである。
中小企業が「戦略的マーケティング」を、独力で全面的に図ることはあまりに困難であるとしても、これを連携関係の中で実施していくことは十分可能である。そしてそれでもなお、主体としての中小企業にとって欠かせないことは、「市場」への認識であり、その把握であり、「市場」へのアプローチの方法、「市場」に対する企業としての行動のあり方である。そしてひいては、その「市場」を意識しての、商品の開発・生産の段階への情報フィードバックの流れと、「市場」を前提とした、開発と生産ポリシーならびに方法の確立である。そして、以下事例研究が教えるように、そうした点にすでに、中小企業経営の基本的問題点が少なからず発見されざるを得ないものでもある。
このことは、中小企業の「市場戦略」の推進に、きわめて多様で、幅広い方向と方法とを賦与してくれる。その点を積極的に問うてこそ、より積極的な「戦略論」の可能性が広がるのである。
このような、中小企業におけるマーケティングと「市場戦略」の重要性とその方法、問題点について、当センターでは従来から調査研究を重ねてきた。『中小企業のマーケティング (流通チャネル政策を中心に)』(1979年)、『中小企業における共同化とマーケティング (事例集)』、(1979年)、『中堅企業における新市場進出のメカニズム (特質と成功の条件)』(1980年)、『生産財マーケティング戦略とユーザーの購買行動』(1981年)、『80 年代中小企業の流通チャネル戦略』(1981年)、『中小企業の国際化戦略 − マーケティング・アプローチ −』(1984年)、『中小企業の成長戦略 − マーケティングにおけるソフト要因の研究 −』(1985年)、『中小企業におけるダイレクト・マーケティング戦略 − 課題と展望 −』(1986年)、『情報化対応の中小企業マーケティング戦略 − 情報創造の試み −』(1987年)、『中小企業における市場開拓に関する研究』(1989年)、『消費市場の変化と中小企業のマーケティング』(1991年)、『中小メーカーにおける多品種多量型マーケティングの実態と問題点』(1992年)、『企業間マーケティングの研究 − 新業態創造による市場開拓 −』(1995年)、などである。
このうち、『生産財マーケティング戦略とユーザーの購買行動』においてはいち早く、従来「受動的」な受注の姿勢にあると見られてきた生産財生産分野の中小企業が、ユーザーニーズに応えられるマーケティングコンセプトの確立や、営業活動の差別化、コンサルティングセールスの必要性などを通じ、ユーザーニーズを「先取り」していく戦略の課題をもつことを指摘している。『企業間マーケティングの研究』においては、市場テーマに応じた、新たな企業間の連携が生み出す新業態の構築、市場創造の可能性を検討している。
また、『中小企業の 「知的財産権」 戦略とネットワーク企業間関係の課題』(1995年)では、中小企業の開発活動の展開と、「市場ニーズ主導型」での開発と市場開拓の必要性関連性を指摘している。
これらの従来の調査研究は、主には大きな枠組みや一般的な方法の問題を取り上げ、また、分野別の事例研究を行ってきた。当研究にあっては、今日性の高い16社の事例研究を通じ、先進的な「市場戦略」展開の特徴と教訓を探るとともに、またいわば「発展途上」の事例における問題点や課題も検討し、「脱下請化」や「産地業種からの転換」、「自社製品開発」、「自社ブランド製品の販売」「川上から川下へ」など、今日の転換期でのわが国中小企業が直面している経営課題の数々の領域を極力カバーし、「中小企業の市場戦略」に関する普遍的な位置づけと概念の再構成を行うことを試みている。
*この報告書に関心のおありの方は、上記/中小企業研究センター(電話03-3567-4311、ファックス03-3562-0189、e-mail:chukiken@tpost1.netspace.or.jp)、または三井逸友へお問い合わせ下さい。
1 厳しさます中小企業の経営環境
短期的に見ても、97年後半での、金融不安とアジア経済の混乱、国内景気の後退は、中小企業経営にとっては新たな試練となった。たとえば、商工中金調べの「中小企業月次景況観測」によると、97年11月の時点で中小企業の景況判断指数は42.1にまで低下し、92年9月以来の最低値となった。また売上高も前年同月比で平均1.9%減となっている。採算性も「悪化」が増加している。これに伴い、92年中頃を底とし、以後回復基調にあった中小企業の設備投資意欲は、再び大きく低下している(中小企業金融公庫調べ)。
そして今日は、日本経済全体の大きな構造転換期でもある。「低成長期」を含め、いわゆる「右肩上がり」の成長経済の前提は崩れた。従来の成長発展のメカニズムは「制度疲労」をきたし、行財政制度、経済政策運営、企業経営など全般にわたっての見直しが今日では迫られている。昨日の優良企業が、たちまちに経営危機に瀕するのも珍しくなくなってしまった。経済と企業経営の「国際化」「グローバリゼーション」が迫られ、「金融ビッグバン」に見られるように、グローバルスタンダードにかなうような構造改革を避けて通ることはできなくなっている。このことは、中小企業経営にとっては、直接にも間接的にもいっそう大きい試練でもある。
2 中小企業の新展開の試みと問題点
3 中小企業の「市場戦略」の必要性
中小企業がそのような意味での「市場戦略」をうち立てていくについては、不利ばかりがつきまとうものとも言えない。規模が小さいゆえに、大規模な資源投入を図ることなく、戦略を立案実施することも可能だし、またニッチ的な市場を前提とした商品戦略も、中小企業なら実行できる。さらに、今日の情報化・技術革新や企業組織の変化のもとでは、インフラ利用を効果的に図り、よりオープンな関係に依拠して、省資源で機動的な戦略展開を行うことも積極的な意味を持ってきている。「組織は戦略に依存する」ものならば、「戦略的連携」は、むしろ新しい選択の可能性なのである。
4 当報告書の意義、構成とねらい
本書第2章では、「中小企業の『開発活動』の特徴と問題点」を主題として、調査事例の研究にもとづき、中小企業の製品開発の大切さとともに、そのための経営能力の発揮、技術的蓄積と、開発のプロセス確立、その中における他企業などとの「連携・協力」関係の展開と経営資源有効活用の必要性を考察する。また、こうした「開発活動」を、戦略的な行動に高め、「市場戦略」を軸に編成していくことの重要性が指摘される。「開発活動」は、市場とそこにおけるニーズの存在とに強くリンクされた、一つのループをなすものでなければならない。
第3章では、「中小企業の『市場戦略』の特徴と問題点」を主題として、経営戦略と市場戦略の基本的課題をまず明らかにする。そのうえで、開発と製品政策、価格設定、流通政策、販売促進などの各側面における中小企業の制約条件を考察しながら、これを克服し、市場のニーズを的確にとらえた戦略展開を図る可能性を、事例を通じて検討している。中小企業にあっては、経営資源の制約を免れないが、また意思決定の迅速さという大きなアドバンテージを有している。それを踏まえて、効率的効果的な手段と方法の選択が可能なことを、事例が示している。
第4章では、「中小企業の開発活動と市場戦略の類型化」を主題として、市場条件、企業の地位、戦略選択、市場に対する働きかけの「システム」の形成構築、市場戦略の発展段階といった各側面を指摘し、これに関して調査企業事例の比較検討を行っている。市場戦略にも一定の類型性があり、また共通した課題がある。要は、主体客体の状況を十分認識したうえで、適切な市場選択と展開を行い、その中で、どのようにして市場および顧客との距離を縮め、密着していく仕組みを作り上げていくか、それとともに、それまでの「開発」一本にこだわるばかりでなく、戦略発展と環境変化が求める「転換」を、どのように大胆機敏に乗り切っていくか、である。
*この報告書については、共同研究者の大石芳裕教授(明治大学)のページでも紹介をされています。
社団法人中小企業研究センターホームページへ