三井のロンドン絵日記(13)

ユーゴスラビア侵略の危機と、「西欧世界支配」





英国にみる「軍国教育」

 NATO軍の「政治代理部」と化した、西欧「社民党政権」=英国労働党、フランス社会党、ドイツ社民党、イタリア「左翼民主党」等々、そしてそのプロパガンダマシーンである「西欧マスコミ」、これだけでなく、なんと、学校で、「草の根レベル」からの「軍国教育」が行われているということを知りました。

 こんなことを知るひとは、おそらくほとんどないでしょうが、地元の「ローカルペーパー」の小さな記事で見つけたのです。


 ちなみに、英国をはじめ、西欧のマスコミ、特に新聞については、基本的に政治的社会的プロパガンダ(自らは「キャンペーン」と称するのでしょうが)と、それを合理化する「大言壮語」としての「寄稿」や「論説」と、あとはばかばかしい「ゴシップ記事」や「芸能批評」くらいで、まあ、政府機関、「政治家」や「財界人」がなにを言ったとか、なにを発表したといったことを記録する以外は、われわれが「常識」としてきた「報道」というものはなきに等しいものです。その「構成の差」で、「クオリティ・ペーパー」(高級紙)と、「タブロイド」(大衆紙)といった色分けがされている程度のもので、「現実になにがおこっているか」を知る手段にはまったくなりません。

 たとえば、さまざまな「事件」や「事故」、これはどの新聞を見ても、よほど興味を引く「猟奇事件」や「残虐事件」、「大惨事」でないと、まず載りません。ですから、こうした新聞−The Times、The Guradian、Daily Telegraph、Daily Mail、The Sun、Daily Mirrorなど−を見ている限り、事件も事故もほとんどなく、英国社会は平穏無事そのものです。ところが現実には、悲惨きわまりない交通事故や残虐な殺人事件、凶暴な強盗事件などは、至るところでいつも頻発しているのですが、それは「報道」されないだけなのです。

 どこを調べれば何とかわかるか、それは、結局それぞれの地元の「ローカルペーパー」を見るしかありません。これらの新聞は、日本の「地方紙」とはまったく違い、広告で食べているだけで、本来「報道」は二の次なのですが、それではネタがないので、地元の話題を大小さまざま、ばかばかしいようなものまで含めて取り上げます。そこで初めて、すぐ近所でおこった、死傷者何人の交通事故とか、電車内での強盗事件とか、街頭での老人からのひったくりとかがわかるのです。

 この夏、私もよく通る、キングストンの中心部近くの、テムズ川沿いの公園で、韓国人の学生が殺されるという事件が起きました。キングストンの南のニュー・モルデンというところは大きな韓国人コミュニティになっていて、そこに住む韓国人の学生のひとり、といってもすでに妻子もあったのですが、それが夏の夜を涼みに知人たちと出かけ、この公園で争いとなり、相手方に刺し殺されたのです。彼は全政権時代の韓国を逃れて英国に住み、英国の大学で成績優秀、今度はケンブリッジの博士課程に進学を予定していました。前途有望な青年が、こんな形で命を奪われたわけです。

 犯人側は、やはり地元の黒人青年グループで、こちらも家族連れであり、事態は勢いを頼んでの偶発的な喧嘩のようなものであったようです。ただ、こちら側はナイフを持っており、こんな悲惨な事件になってしまったわけで、事件後あまり日をおかず、犯人たちも自首し、一応の解決を見ました。でも、奪われた韓国青年の命、そしてその家族の悲しみは取り返しようもありません。

 こんな事件、日本だったら少なくとも「全国紙」の社会面記事でしょうが、この国では、ローカルペーパーに載っただけでした。そのため、キングストン大学の知人たちも、自分たちの足下でおきた悲惨な事件のことを誰も知らなかったのです。韓国人住民も増えたし、大学に入る韓国人留学生も今後増えるのじゃないか、なんて楽観的な話をしていましたから、いやとんでもない、キングストンは危険きわまりないところと、みんな敬遠するんじゃないですかと、水を差してやりました。おそらく、韓国内では「大事件」として報道されたでしょうに。

 かくのごとく、「ローカル・ペーパー」は貴重な「情報源」なのです。


 その一角に載った記事です。「Cold War Secrets Unveiled 」と、例によって大げさな題で、何ごとかと思えば、Atlantic Council Education Scheme なるプロジェクトがあり、これが支援して、トウィッケナムのある学校の高校生たちに「模擬討論」をやらせ、NATOがこれまで「どれほど大きな役割を果たしてきたか」ということを認識させるという成果をあげた、というわけです。「冷戦勝利」への偉大な貢献を知れ、というのでしょう。もちろん、Atlantic Council というのは、NATO軍を構成する各国で作る「理事会」のことで、ここがカネと資料を提供しているわけです。

 すごいですね、「軍」の役割を認識徹底させるために、NATO軍は学校にまで侵入しているのです。こんなことは実は珍しくもないので、日常的に軍国キャンペーンが教育の中に取り入れられているのでしょう。これなら、「NATO軍は正義の味方、悪人どもをやっつけて、地球の平和を守る」なんて、ちいさいうちから全国民にたたき込めるわけです。

 日本では、「軍国教育」への反省から、「平和教育」がさまざま求められ、こころみられてきました。ですから、地球の裏側で、多くの日本人たちが「お手本」と信じてきた国で、「軍国教育」が大手を振って行われているなんて、誰も想像だにしなかったでしょう。しかし、これが事実なのです。そして、「反差別教育」や「自然愛好教育」は確かに熱心なこの国の学校で、「平和教育」が行われたという話は聞いたこともありません。



戦争の危機 (1998年10月8日「掲示板」再掲)

 米・英国並びに「NATO軍」の、宣戦布告なき侵略戦争開始を、世界の世論でなんとしてもやめさせよう。

 セルビアで、コソボでどんなことがおこっているからといっても(パレスチナやトルコ領クルドなどでそれ以上のことが おこっていても、平気で「知らぬふり」だが)、主権国家への勝手気ままな爆撃・ミサイル攻撃などということが、 誰に許されるというのか?

 クリントン(不倫トン)やブレアには、世界の裁判官兼死刑執行人の特権がいつ与えられたというのか?

 今、声を大にして言いたい、世界はこの50年来最悪の戦争危機にあると。そして、それを無責任きわまりない 「西欧マスコミ」があおり立てているということを。



「西欧社会」への訣別 (1998年10月11日「掲示板」再掲))

 私はこの二度目の英国滞在の機会を与えてくれた、駒澤大学に深く感謝しております。

  この機会に、私は「西欧幻想」を完全に捨てることができました。「西欧的価値観」こそは、 世界滅亡へのよこしまで卑劣な「独善主義」「唯武器主義」「世界支配の欲望」です。このことを、 今回の米英枢軸ならびにこれを支える独・仏・伊らの「社民主義政権」の、国際法も減ったくれも あったものじゃない、凶暴なテロリズム(「テロ」とは、武力暴力による脅迫を言います)そのもの の、「セルビア侵略」によって十二分に知ることができました。

 「セルビア内・コソボのアルバニア人を救う人道援助」?爆弾とミサイルがどのような「人道」をめざす というのでしょうか?世界各地でおこっているさまざまな民族対立や内戦、それに伴っておこった虐殺行為 (トルコ内クルド人やイスラエル占領地内パレスチナ人は言うまでもなく)のたびに、NATO軍は「ミサイル 攻撃」に出たというのでしょうか?

 第一、西欧マスコミが激昂し、「セルビアに復讐を!」と叫びだした、コソボでの「住民虐殺事件」、その遙か 何ヶ月も前から、「NATO軍の攻撃」を盛んににおわせていたのですから、これが「口実」であることはあまりにも 明白でしょう(その「住民虐殺」がどの程度報道の通りなのかも、誰も確かめません。少なくとも、当のセルビアの 放送は、「西側メディアのでっち上げ」と反論しているそうです。そして、「現場スクープ」というTV報道には、 なぜか必ず、「軍・治安部隊の激しい攻撃にあっている」はずの、KLAコソボ解放軍なる武装グループが写っているのです)。

 実際に、セルビアの連邦軍や治安部隊が「住民虐殺」のような行為をおこっなったとしても、それを裁くのは 当の政府の責任であり、それを放置しているなら、それこそ国際社会のルールに従い、厳格に対処すべきものです。

 分かりやすく言ってみましょう、たとえば、当の英国こそが長年悩まされてきた「北アイルランド問題」、これを 悪化させるきっかけになったのは、アイルランド系=リパブリカンの武装組織IRAなどの「テロ」攻撃にさらされた 英国政府軍が、リパブリカン・カソリック系住民のデモに発砲、多数の死傷者を出した、70年代末の「虐殺事件」が きっかけでした。以来、IRA、ユニオニスト系武装組織、英国政府軍・警察入り乱れての殺傷事件がごく最近まで続いてきたわけです。

 この「虐殺」に対し、「NATO軍」は、直ちに爆撃機を派遣して、駐留英国軍に厳しい「懲罰」を加えたのでしょうか? あるいは逆に、IRAによる無差別大量テロ虐殺攻撃に対し、その本拠地にミサイル攻撃でもしたというのでしょうか(それはほんの 2ヶ月前にもおこったことです。この爆弾テロ攻撃で、20人以上の女性やこどもが殺されました。それを実行したグループの 「本拠地」というのも−もちろん国境の南にあるのですが-、ちゃんと「報道」されているのです)。

 このように、「懲罰」だの、「人道」だのが勝手気ままにくっつけた「理由」であり、その「理由」からして、爆弾やミサイルで 「解決」に向かうものではないことは、冷静になってみれば、いまの「北アイルランド問題」同様、誰の目にも明らかでしょう。

 そして、このようなかたちで、少なくとも「戦後世界」の秩序と問題解決の場とされてきた「国連」も飛び越え、いまや 「世界最強の戦力=暴力」を握っているというだけで、米国を総司令官とする「NATO軍」の思うがままに、主権国家を一方的に攻撃できる、 これは正真正銘、戦後史でもまれにみる、悪質きわまりない侵略そのものです。かつてクリントンが、「米国大使館がテロ攻撃を受けた」 報復として、アフガニニスタンとスーダンにミサイル攻撃を行った、それさえも、「自衛と報復だ」という理由がつきました。イラクの クウェート占領という事態があればこそ、「多国籍軍」による攻撃は正当化されました。しかし、いま、米英を始め、NATOのどの国が、 セルビア・ユーゴスラビアからの攻撃を受けたり、占領されたり、危機にさらされているというのでしょうか?


 今、言わねば大変なことになります。今後世界各国は、米国と英国政府の「判断」によって、いつでもどこででも、「人道に反する弾圧」だの、 「テロを支援」だの、「周辺に危機を及ぼしている」だのといった理由により、NATO軍の攻撃にさらされることになります。まさしく世界は、 19世紀に戻ったのです。

 「ソ連の崩壊」と「冷戦の終結」は、「世界の平和につながる」と考えたおめでたい人たちが、世界のどこにも多数いました。その人たちに問いたい、 今、このようなあからさまな侵略行為が、堂々と計画準備されている、爆撃とはそのもとで大勢の人間が殺されることだ、ということに一慮もせず、 「人道」の名の下に戦争が始められようとしている、これに対し、頭に血がのぼって、「あそこをやれ」などとしたり顔で「戦術解説」までやっている、 正真正銘の戦争翼賛プロパガンダとしての「西欧マスコミ」のみならず、「戦争はやめろ」、「平和的解決を」ともとめる声はまったくありません。

 それもそうです、かつては「平和運動」を展開し、「米国の戦争戦略」を批判してきた、西欧の社民政党が、英・仏・独・伊など多くの国で政権につき、 NATO軍を支えているのですから。まさに、「国境を超える社会帝国主義」の時代です。

 目前の戦争にひたすら熱狂し、「平和」の言葉を完全に失った西欧社会に対し、私は完全に愛想が尽きました。私は100年前の歴史に戻ることができた、 タイムトラベルの幸運児なのか、否、これこそが「西欧的価値観」の独善の行き着くところと言わねばならないのでしょう。


 私はこの10年来、西欧の「統合」の動きに注目し、その経済的社会的意味を追ってきました。しかし、その裏にある、凶暴にして自己中心な世界、これを 見過ごすことはできません。

 私のこれからは、この偽りの招く、これからの世界危機を忠実に追っていくことです。今、ここで私個人がどんなに叫んでも、 この邪悪凶暴な戦争陰謀と世界脅迫の進行をとどめることはまずできないでしょう。しかし、せめてもその「共犯」にならないために、 私の「学問的良心」と「人間的な本能」は、叫び続けます。

 こうしたときに、西欧世界の真実を見せてくれた、この機会に深く感謝しております。



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