ICSB国際中小企業協議会第54回世界大会(ソウル)へ行ってきました (5) |
6月24日 |
その後の質疑応答まで含め、井出氏は本当に三日間お疲れ様でした。
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昼は、ランチ(ローストチキンでした)とともに閉会式です。
韓国の郭会長の総括スピーチののち、のべ4日間を支えた大会スタッフへの感謝、そのうちの功労者への記念品贈呈が行われました。特に「裏方」の主役だった李ジョンホKOSBI研究員には特別賞が贈られました。こうしたセレモニーを閉会式冒頭に持ってくるところは気配りと申せましょう。その後、最優秀ペーパーの表彰式が行われました。最優秀賞はウィルフォードホワイトフェロー記念賞という名称で、元会長らの組織する委員会の賞のかたちになっており、ジョージ・ソロモン氏から手渡されます。
最優秀実証研究賞は、デンジル・ウィリアムズ氏とデリック・デスランデス氏(ジャマイカ)の「新興経済国における地域マイクロ・小企業の国際化」(Densil A. Williams and Derrick D. Deslandes,“Internationalization of Micro and Small Locally-Owned Firms from Emerging Economies: The Role of Personal Factors")、最優秀理論研究賞は、チョイ・ヨンクン氏とチャン・セゥングワ氏(韓国)の「上層部、資源活用と企業成長」(Young Keun Choi and Seungwha (Andy) Chung “The Upper Echelon, Resource Mobilization and Firm Growth”)に、それぞれ贈られました。
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そのあとは、2010年大会開催地の米国シンシナティ市のPRです。シンシナティはマシューズ会長の出身地なのだそうで、これを誇りに、マシューズ氏自ら、宣伝に大いに力が入っていました。また、会場で集められた参加者の名刺を使ったくじ引きが行われ、当選者にはレッズの野球帽など、シンシナティからの記念品が鳴り物入りで渡され、ぬかりないところでした(もっとも、当選者で会場にいなかった人がかなり多くて、ちょっと拍子抜けですが −ブライアンおじさんなど)。
次回は第55回という記念すべき大会でもあり(大会は2010年6月24-27日に、シンシナティヒルトンホテル会場で開催)、ICSB発祥の地、米国での開催は重要なステップとなりましょう。ちなみに、シンシナティの売りは、「米国ど真ん中」(日本で言えば、米国の「へそ」?)なのだそうで、プロモーションビデオなどから見ると、ハブ性・コンベンションシティ性がつよいようです。
すべての行事の最後に、ICSB韓国のJi-Jong Chang会長が閉会宣言と謝辞を述べ、ICSBソウル大会は終わりを告げました。実に盛りだくさんでしたが、あっという間であったような気もします。
大会のべ参加者数などについては、Chang会長の閉会挨拶で50カ国より約700人と発表されていました。配布された公式の参加者名簿には624名の名がありましたが、地元からの当日参加者もかなり多かったので、そういった数字になりましょう。ともかく韓国の熱の入れようは明らかで、若い人たちの姿が目立っていたのも印象的でした。
19年ぶりの韓国ソウルには、いろいろな印象があります。すでに記したもののほか、思いつくとこをあげてみますと、「ホテルの歯ブラシ、歯磨きは有料!」なんて些末なものも触れておきましょう。
ホテルの歯ブラシは有料です
ホテルは立派なものでしたが、バスルームに備え付けの歯ブラシなどがないので、探したら、ミニバーの入ったワードローブに並んでいました。なかなかしっかりしたものだったので、それをずっと使っていたのですが、もう帰国近しというところで、ガイドブックの中の重要な記述を見つけてしまいました!「ホテルの歯ブラシ歯磨きは有料」なのだそうです。しかもこれは法律で決まっているとか。ミニバーの中のドリンクやつまみなどと同じ扱いなのです。
どういう理屈でそう決まっているのか、よくわかりませんが、バスルームのシャンプーなどは当然備え付け・無料なのでちょっと奇異です。他の国でもあまり目にしたことのない方式です。はじめからなければ、持参の歯ブラシなど使ったので、ちょっとだまされたような気分ですが(ほかの日本からの参加者でも同じへまをした人がいました)、「使い捨て」を排する理念なのでしょうか。いまいましいので、ちゃんと持ち帰りました。もちろんホテルの請求書にはばっちり、13,750ウォン也がついていました。
開戦近し?「緊張感」はありません
正直には、ソウルに行く前には、ミサイル発射、核実験など暴走を続けるお隣の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の、もう狂ったような言動にはかなりの危機感を覚えていました。「ソウルを火の海にしてやる」とか、「あらゆる手段で瞬時に報復壊滅させる」などという、街のごろつきでもきょうびなかなか口にしないようなことを、政府機関やプロパガンダ放送が堂々述べるのですから、心配にならないはずがありません。60年近く前には、冗談ではなく南北が実際に全面戦争を行い、全土で120万人以上が亡くなり、韓国は壊滅的な被害を被っているのですし、両者の「休戦ライン」(もちろん「国境」ではない)は、首都ソウルからわずかわずか50qほどしか離れていないのです。その向こうには、金王朝(どこに、「世襲君主」をいただく、「社会主義」だの「共和国」だのがあるのでしょうか)の飢えた軍隊が、南をいつでも攻撃しようと待ち構えているのです。
しかし、日本では政府やプロパガンダ機関が過度に「危機感」をあおっているとしても、南でのこの「静けさ」は何なんだろというほどの落差に驚きます。軍は戦争に備えているのでしょうが、街中にはそういった緊張感などかけらもありません。軍が路頭に出ているわけでもなく、土曜日には軍服の兵士たちを盛り場でおおぜい見かけましたが、それぞれ自由に彼女連れで、休暇で外出しているのだろうと思われます。徴兵制のある韓国ですから、若者たちは軍隊に行かねばならないので、まあ休みにはデートに励んでいるのでしょう。少なくとも、「コンディションレッド」で「全軍休暇取り消し、待機命令」が出ているようには思えません。
この「緊張感のなさ」はまた極端ではないか、その辺を韓国の人たちにも折に触れ聞いてみたのですが、「もうずっとこういう対立緊張だからね、慣れてしまったと言えるのかな」という反応も聞かれました。北の暴言や脅迫も聞きあきた、こけ脅かしの本音は見えている、そんな思いもあるのかも知れません。また、「北を核保有国として認めるべきだ」と真剣に言う人もいて、少々驚きました。まあ、そんなことを日本で口にしたら、おもてを歩けない、マスコミからは永久追放になりましょう。私は「現実主義」としてもそういう政策は決して正しくないと思いますが、少なくとも韓国の人たちの方がよほど冷静であるのは確かです。
唯一目にしたのは、街中で「金正日の暴政批判」(と使っている写真などから思われる)といったキャンペーンを、看板を並べて行っているグループの存在くらいでした。帰路の金浦空港でさえ、銃を携えた兵が二人でパトロールをしているのみで、これは「平時」となにも変わらないでしょう。
韓国「ベンダーキャピタリズム」?
1997年の通貨危機とIMFショック以後、韓国は政府をあげて「ベンチャー企業支援政策」を展開し、実際に大手企業で職を失った人などが、ITなどを生かして新企業おこしに走りました。その様子は今度のICSBでもよくうかがえます。ただもちろん、そういった「ベンチャーブーム」はすでに過去のものとなり、近年は政府公認の「ベンチャー企業」数も減少気味です。
こうした動きをとらえ、「韓国ヴェンチャーキャピタリズム」といった本を著した日本の研究者もいました。企業家精神と創意・新技術新知識などに満ちた人たちの新企業が大企業を圧倒するくらいの勢いで、経済活性化の主役になっているのであれば、これはなかなかおもしろい事実となりましょうが、残念ながら依然として、目立つのは「現代」「三星」などの財閥系、大企業グループの姿です。これらが建設、不動産、商業などあらゆる業種に手を広げているのは以前と同じですが、特に金融保険などの分野でそういった名前が目立ちます。やっぱり「財閥資本主義」の色彩はぬぐえないのではないでしょうか(走っている車や家電製品、PCなどはほとんどすべて、韓国大手企業のブランドですし)。
しかしまた、街中で目につくもう一つのものは、屋台や露天商らの姿です。日本ではこうした存在をほとんど一掃することが望ましい「公共の秩序」であるとされてきましたが、どうやらソウルでは、屋台もなかば公認のものとなっているようで、至る所で堂々営業をしています。地下鉄の駅そばで、飲食から雑誌や雑貨の販売、実にいろいろやっており、帰宅時間ともなると、帰りがけのサラリーマンらが立ち寄って、焼き鳥片手に一杯やっていたりしています。もちろん、きちんとした店構えで、おもてにいすやテーブルを並べ、オープンカフェ宜しく賑わっている飲食店はどこにもあふれています。また、地下鉄の駅構内や階段に勝手に店を広げ、衣料品など売りまくっている「露天商」(?)もあちこちに見られますが、いかにも通りにくそうなのに、誰が文句を言うでもありません。自動車での移動路上販売も珍しくありません。
こうした屋台や露天商がどれほど存在するのか、またどれだけの売り上げをGDPのうちで稼いでいるのか、確認できる資料も持ち合わせていませんが、まあ決して小さくはないでしょう。これに加えて東大門市場などでの、数え切れないほどの衣料品や雑貨卸、食料品の店、飲食店などは明らかに「強力な」流通・サービス経済を担っています。COEX地下ショッピングモールのようなところに並ぶ、世界中どこにでもありそうな店の数々も韓国経済の重要な一部なのでしょうが、それだけではないのも韓国の実相なのでしょう。
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「市場経済」(「いちば」経済じゃなくっても)と企業家精神、その原点はこうしたところの「商人」「オヤジ」「おばさん」たちや「すばっしっこい若造」のたくましさにあるのではないでしょうか(もちろん、「職人の世界」などもありますが)。それらの人たちが経済の「主役」になるのはもう難しくても、その活力とエネルギーとしたたかさを象徴し、多くの人々の生活を支え、文字通り「生活の質」を実現しているのではないでしょうか。
美麗なパッケージの商品群が整然とならび、隙ない建物空間にすべてがマネージされマニュアル化された巨大ショッピングセンターや、PCを前にカネと情報相手に大もうけを企む「トレーダー」、研究室に閉じこもり、ハイテクの先端をきわめて事業の将来性を嘱望される頭脳明晰「大学発ヴェンチャ−起業家」などの姿だけが、「市場経済」を構成しているのではありません。韓国はその意味、「ヴェンチャーキャピタリズム」の面もあるかも知れないけど、むしろ「ベンダーキャピタリズム」じゃないの、などと私は想像しました。「ベンダー」は卸商人、さらには「ストリートベンダー」として、露天商などの意味を持ちます。市場を、街中を、路地裏を舞台にたくましくあきないに精出す「名もなき」企業家たちこそが、もっと注目されてよいのではないでしょうか。
企業家精神と中小企業の未来に注目するICSB国際中小企業協議会の世界大会を迎えたソウルに、そんなものを見ていました。