ICSB国際中小企業協議会第54回世界大会(ソウル)へ行ってきました (2)





 

 
6月21日、政策フォーラム

 6月21日は日曜日でしたが、朝から「政策フォーラム」がCOEXコンベンションホールの一室で開かれました。


 ICSBでは本大会の前に、こうしたものを開催国の責任で開く慣例のようです。3年前のメルボルンでもありました。ただ、その際は「政策」を正面から論じるというにはちょっと不十分で、地元などの各プレゼンテーターが勝手なことを言っておしまいという観もあり、ICSBに政策関係者の積極的参加を求めるには問題多しと感じました。




 今回はさすがに、韓国の開催ということもあり、相当インテンシブで内容のある議論になりました。一つには今年が、GEM世界アントレプレナーシップモニターコンソーシアムの発足10年ということになるのをかけて、GEMのこれまでの発展と役割、今後の展開の方向、そしてGEMの示すところをどのように政策立案や政策評価に生かすか、というようなことが主題とされ、その意味でもねらいが絞られていたことを指摘できましょう。



 GEMは米国バブソン大学などを拠点とする、あくまで研究機関・研究者の自主的な国際ネットワークなのですが、「企業家精神・活動」の共通ベースでの国際比較指標を示すという役割を果たし、その数字や動向が各国での研究や政策論の相当重要な根拠となってきているのは事実です。


 このフォーラムでは基調スピーチを、国際開発研究センター(IDRC)の中東北アフリカ事務所副所長のルイス・スティーブンソン氏が行いました。彼女はほかの機会でも見た記憶があり、発展途上国支援と企業家活動推進を結びつける役割を多方面から果たしている重要人物のようです。元ICSB会長でもあります。ただ、あくまで欧米の人間です。


 彼女は、企業家といっても実にさまざまであり、一つのタイプに限定することはできない、また政策の目的や対象もさまざまであり、さらに研究のあり方も多様であることを指摘しながら、それでもなお、企業家を重視し、企業家を支援する政策の意義のあることを、GEMの示すところに依りながら確認しました。しかしまた、「企業家政策」には多くの問題と困難のあることも認め、対象や方法の整理、諸政策の接近統合の推進、背景やコンテクストの違いの重視、政策効果の測定、さらには研究者・政策立案者・実践家間の連携強化などが今後必要であると主張しました。




 このほかのパネリストらも含めて、GEMの示すところなどにより、いまや共通認識となってきている観のある点は、以下のようにまとめられましょう。「企業家政策」と「中小企業政策」の異同性、企業家的活動と起業における3つのタイプ<必要型/機会型/テクノ型>の区分、企業家指数におけるU字曲線性、企業家における持続可能性と、企業家的「態度」「活動」「自覚」といったものの区別、などです。
 ちなみに、3つのタイプとは、第一の「必要型」(necessary)の場合、ほかに就業の機会がないので、という、日本的には「窮迫的自立」(江口英一)、「非自発的起業」(小嶌正稔)といった起業の概念に近いものでしょう。第二には、積極的に事業機会をとらえようとする、opportunityの型です。経済が発展して、いろいろ就業の可能性もあるが、あえて起業する機会を重視しているということになりましょう。そして第三には、経済社会に新しいものを生み出そうとする、新技術を基礎にしたイノベーション志向のものということになります。こういったタイプわけが「段階論」に帰するものなのか、疑問もありますが、一つの視点にはなりましょう。


 U字曲線性は、一人あたりGDPと企業家活動への早期参加度とをとると、経済発展とともに後者は減少するように見えるが、あるところからむしろ増加していく傾向がある、こうしたことがかなり多くの先進国で見て取れるというわけです。こういった傾向も、GEMの国際比較によって確認可能になったわけです。もちろんその例外は日本ということになりましょう。



 政策フォーラムのパネルには、「実践家」である米国独立企業連盟のウィリアム・デニス氏、オーストラリア競争・消費者委員会のマイケル・シェパー氏、エジプト青年企業家協会・産業近代化センターのアムル・ゴハール氏、韓国崇實大学のHeon Deok Yoon教授、さらに後半ではGEM研究協会専務理事のクリスティ・シーライト氏、韓国慶北大学のJangowoo Lee教授、そして日本から武蔵大学の高橋徳行教授がそれぞれ立ちました。これらの人たちはそれぞれGEMに関係し、あるいはそのデータなどを活用しており、フォーラムとしてはGEMに相当集中した議論になったわけです。発展途上国では企業家が経済を活性化させ、成長させるものと期待されています。IMF危機で起業が急増した韓国でも、その後の停滞や政策の転機など顕著なこと、韓国企業家の姿勢に問題あることも紹介されました。高橋氏は、日本のTEA総合企業家活動指数の低さに言及しながら、エンジェル投資の促進や企業家教育の推進が必要であること、また雇用情勢や人口構成の変化が新たなインパクトとなる可能性も指摘しました。


 GEM自体は10年目を機に、単に企業家活動の指標化、比較にとどまらず、マクロ的な経済指標との関係を同じ枠組みで結合し、新たな相関性の研究を深めるという方法発展をはじめ、より高度な情報データを提供し、政策立案や診断にいっそう役立てていくという、GEIへの発展をすすめていると紹介されました。また、多くの発展途上国などの経験から、インフォーマルな企業家活動などの部分までを把握指標化できる、GEMのミクロレベルからのアプローチの重要性は、改めて確認できるともされました。



 こうしたGEM重視の議論に対し、いくらか冷や水を浴びせたのが、予定討論者であった英国キングストン大学のデビッド・スモールボーン教授です。同氏はGEMの先進性とすぐれた成果を認めながらも、世界的にこれに過度に頼る傾向となることに警鐘を鳴らし、たとえばマクロ指標とミクロ的データの調和というのは容易ではないこと、統計値だけででも各国の違いが無視できないこと(産業分類一つからして)、また市場経済化にともなう意識変化など、社会的コンテクストの差異を軽視するのは比較のうえで望ましくはないことなどをあげました。とりわけGEMの政策立案での活用ということが、よい傾向だけではなく、政治家や行政サイドでの恣意的な利用、「シンプルメッセージ化」に巻き込まれていく危険を自国の例もあげて指摘し、GEMの学術的意義がかえって損なわれるおそれに言及しました。



 スモールボーン氏は英国の研究者の代表格でECSBの運営に関わり、今後のICSBにも重要な役割を果たす人物であるので、GEMのみにスポットを当てるような流れには、実証研究の伝統を主張する立場から抵抗があるものと思えます。その意味、このフォーラムの構成が実にバランスを得ており、よい議論の場になった観は明白です。
 パネリストや討論者だけでなく、フロアーからも活発に質問や意見が出され、明らかに時間不足の観もありました。高橋氏の発言に対しても、「日本のエンジェルの実態は?」とか、ちょっとピントのずれたようなところに流れた印象もぬぐえず、幾分残念でもありました。


 しかし、このフォーラム冒頭に、司会やパネリストだけでなく、100人近くはいた全参加者に自己紹介をさせるなど(日本からは、高橋教授と私のほか、中総研国際交流担当の前田邦男参与が参加していました)、全体を盛り上げ、討論を活発にしようとする工夫が目立ちました。

















 余談ながらいちばんの傑作だったのは、ランチタイムになんと「箱弁」が配られたことです。ほとんど日本でよく見るのと同じ、刺身も天ぷらも入っており、味噌汁までついていました(さだまさしが喜ぶかも)。唯一の違いは、キムチも入っていたことでしょう(COEXのなかには「キムチ博物館」もあるのですが、私は行きませんでした)。これには日本からの参加者は大喜びでしたが、欧米の方々にはどうだったでしょうか。当然箸と苦闘されている姿もありました。ナイフフォークも配られてはいましたが。おそらく、こういったスタイルを韓国の人たちは「日本流」とはまったく思っていないんじゃないかと想像します。純粋韓国式の昼食だと。






















 21日夜は恒例のウェルカムパーティで、ICSB全体会会場ともなるCOEXグランドボールルームに参加者が招かれました。これがまた豪勢、ウェルカムパーティって言えば、ワインとおつまみくらいがあるだけ、あとはみんなで酒の肴に雑談でもしていてくれというスタイル(昨年のベルファストも、3年前のメルボルンもそう)とはまったく違い、スシ、刺身や焼き肉など豪華な料理が山盛りで用意され、もう全行事終わってしまうような気分です。昨年のベルファストでは、韓国からの参加者たちはこの「ウェルカム」ぶりに失望し、さっさと別会場に移動していったそうですから、期するところあったのでしょう。
 いくら世界不況の風が吹こうが、これが韓国流のもてなし、というかアジア的なんだよね、と思いつつ、時間切れが惜しいくらいでした。大量に料理が残っていましたから。もちろん飲み物はワイン、ビール、ウィスキー、焼酎、無尽蔵に出てきます。それだけ、公式スポンサーや主催者側の挨拶も壇上から続きましたが。 郭教授はじめ、韓国の学会関係者も再び勢揃いでした。









 この会場で私は、ロバートら英国の知人とも再会しました。英国の皆さんには大変な長旅で、お疲れであったでしょう。また、日本側参加者の真の代表者たる井出亜夫・日大教授、ISBC名誉事務局長・日本中小企業国際協議会事務局長はこのパーティまで姿を見せず、韓国側は井出先生は来られるのかなどと気にしていましたが、ジャストインタイムで到着され、サマになりました。井出氏はそれから、4日間ほとんど出ずっぱりの大奮闘になりますが、それはまた次の回で。





































(3)に続く