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腹十二分目でも健康

2008.11.11. 掲載
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目次
1.はじめに
2.健康に良いことをしているか?
3.悪い生活習慣の影響は出ていないか?
4.悪い生活習慣を続けて健康であるのはなぜか?
5.まとめ


1.はじめに

世の中は健康ブームである。健康に良い食べ物や長寿につながる食べ物が、新聞、雑誌、単行本、テレビなどで、とめどもなく取り上げられ、巷には、健康食品が溢れている。

また、腹八分目に食事をとることが健康に良いと勧められ、それに追い討ちをかけるかのように、長寿の方たちは、長生きの秘訣を腹八分目の食事にあるとお話しになる。そのほかにも、健康のために運動をしよう、アルコールはほどほどにして、週2日間は休肝日を持とう、塩分は控えようなどのキャンペーンが喧しい。

昔、「成人病」と言っていたのが、近頃は「生活習慣病」と名前を付け替えられ、良い生活習慣を続けなければ「生活習慣病」になって苦しんだり、長生きができないと、厚生省や学者先生が脅す。統計的にはそうかもしれない。しかし、統計処理の問題もあり、例外もあるだろう。第一、生活習慣というものは、個人の生き方、つまり人生観に深くつながっているもので、他人に迷惑をかけるのでなければ、その人が望むように生きて良いのではなかろうか?

そこで、一度自分の生活習慣をふりかえってみることにした。それをご披露すると、「医者ともあろうものが」とか、「医者の不養生の見本」と思われるかもしれない。しかし、このスタイルを今のところ変えるつもりはない。だからといって、他人におすすめするわけでは決してなく、真似をされて、責任を取らされるのはかなわないと思っている。


2.健康に良いことをしているか?

私は少なくとも10年以上、腹十二分目の夕食を取ってきた。食べ物のなかった戦争中や戦後間もなくの時期はもちろん、それから後も、自分の食欲を抑え、腹八分目にして、夕食を我慢したという記憶はない。いつも、物理的にこれ以上食べ物が入らないという状態で、食事を止めてきた。

食べるものはというと、これまた、健康に良いからといって食べるのではなく、好きなものを食べてきた。そして毎晩ビール、350ml缶であれば3〜4缶を、休肝日なく飲む。当然、塩気は十二分に効かすことになる。コーヒーも濃い目のものを、ブラックで、1日最低3杯以上飲む。

また、昔から「早めし、早..、早死に」といわてきたが、私の食べる速度は非常に早い。未だかって、食事の速さで遅れをとった覚えがないのである。早食いするということは、よく噛まずにまる飲み込みすることに近く、私にとって歯は、主に、食べ物がのどを通る大きさに分断するために、存在している。この早食いも、昔からの習慣で、少なくとも30年以上前からそうであった。

このように数え上げてみると、私は健康に良いといわれていることに、ほとんど逆らった食生活をしていることになる。おまけに、運動はまったくしないし、睡眠時間も6時間前後と短い。

結論として、世間で言う健康に良くない生活習慣をこれまで続けてきたことになる。


3.悪い生活習慣の影響は出ていないか?

先にご披露したような生活習慣を続けてきたのだから、その悪影響を被り、不健康で病気がちな生活を送っていると思われるかもしれない。ところが、決して、そのようなことはないのである。

1973年に37歳で開業し、以来62歳の今日までの25年間以上にわたって、一度も病気で休診をしたことはなく、休診は弟の結婚式と父の葬儀の時だけだった。また、体重も余り変わらず、結婚後30年経った今でも、当時の服を着ることができる。といって、診療が暇という訳ではなく、毎日100人近い患者さんの診療をしてきた。また、胃の検査などのため、2、3日に1回の割合で午前8時15分から診療を行って来た。このようにして25年間を過ごして来れたのを、健康であった証拠に挙げても間違いではあるまい。

その他、世間では健康状態を表すのに「快眠、快食、快便」を取り上げるようだが、この指標でもバッチリで、生まれてこのかた、眠れなくて睡眠薬や安定剤を飲んだことはなく、1年の360日は食欲があり、360日くらいに便通がある。

このように書くと鉄人になってしまうが、十年来の五十肩があり、呼吸器系が弱く、風邪をこじらせると喘息が出やすいなど、それほど健康に自信があるわけではない。

検査はほとんど受けていなくて、「医者ともあろうものが」の顰蹙ものだが、昔から、トリグリセライドが非常に高かったのを覚えている。しかし、ここ2、3年その検査もしていない。

以上を総合して判断すると、健康に良くない生活習慣を続けてきたのにも関わらず、今までのところは、その影響はなく、健康であると言えよう。


4.悪い生活習慣を続けて健康であるのはなぜか?

健康に良くない生活習慣を続けているのに、今まで健康で来れたのは事実である。しかし、なぜそうなのかとなると、自分でも良く分からない。分からないが、それなりの理由づけをしてみようと、いろいろ推量をしてみた。

まず、思い付くのは、生まれつき丈夫にできているのではないか、という点だが、小中高を通じて皆勤賞をもらったこともなく、まずは普通だった。遺伝的には、短命の家系に属し、妹は10歳までに、母は54歳、父は71歳で亡くなり、肉親は8歳年下の弟がいるだけである。また、両親が肺結核だったせいか、呼吸器系が弱く、30歳頃から約10年間は、喘息で悩まされた。

ただ、消化器系は強く、ひもじい思いをしたことはあっても、食欲がないのは62歳までの間ほとんど経験せず、消化器症状で悩んだ記憶はない。この消化器系が強いというのは、親からもらった恩恵かもしれない。そのため、よく噛まずに、早食いをしてきたのにもかかわらず、胃腸を傷めることがなかったのかもしれない。

この「よく噛まないでまる飲み込みをする」ことにも効用があると、理屈をつけることができる。まず第一に、このように食べる方が美味しい。むしろ美味しいものを食べるときには、自然と早く食べてしまうというべきだろう。食べる快感は、喉を通り過ぎる瞬間にある。くちゃくちゃと長い時間噛んでいると、甘たるっくなって、不味くなり、フラストレーションに陥ってしまう。生きる喜びの中で、食べる快感が大きな比重をしめている者にとって、美味しく食べるということの意味は重大である。

もう一つの効用は、充分に消化されないため、腹十二分目まで食べても肥らないのではないか、という仮説が成り立つことで、やろうと思えば、動物実験で検証できるだろうし、ボランティアに恵まれれば、人体実験も可能であろう。世の中には、「やせの大食い」と言われる人が確かにいるが、これはとりもなおさず、消化能力には個人差があることを示している。このことから類推して、食べ方次第で、消化に差ができると考えても間違いはあるまい。

戦争中、「米」という字には、お百姓さんの八十八種類のご苦労が示されているので、八十八回噛みなさいと学校で教えられ、現在でもよく噛んで食べることが健康に良いとされている。

また、良く噛んでゆっくり食べると、食事の間に血糖値が上がり、脳の満腹中枢を刺激するため、満腹感で食べる量が減らせてやせることができるという理論も、もてはやされている。恐らく肥満対策としては正論であろう。

しかし、私のように食べる快感を人生の重大事と思っている人間には、受け入れられない話だ。しかも、この常識の逆を行っても、結果的に肥満を防ぐことができ、その理由付けも可能だとしたら、なおさらである。

腹十二分目に食べ、物理的にこれ以上入らない状態で食事を止めることを続けているにも関わらず、体重の変動がほとんどない理由として、先に挙げた仮説のほかに、二つのことが考えられる。その一つは、「食事と一緒にビールを飲む」ことで、ここ10年くらいの間、アルコールは専らビールを飲んでいる。それで腹が一杯になり、その割に食事の量はそれほど多くはならないと考えられる。

もう一つは、私の腹筋が強いため胃の膨張が抑えられ、比較的少量の食事でも満腹になるのではないかという仮説である。家内などを見ていると、1週間近く便秘が続いていても、食べる量は変わらない。ところが、私は1日秘結しただけでも、腹が張り、いつものようにはとうてい食べられない。これは、腹筋の強弱で説明するのが、最も合理的であろう。

それでは、なぜ私の腹筋が強いかを考えてみると、歌を絶えず唄っているからではないかと思われる。こどもの頃から、私は歌を唄うのが好きだった。絶えず鼻歌、風呂場では大声で唄う。人に聞いてもらうことを好まず、自分で唄うこと自体が好きなので、つまるところ、いい加減な歌い方である。

この「歌を唄う」ことは、腹筋を強め、食事の満腹摂取量を減らすだけでなく、それ自体が快感であるという効用がある。嬉しいとき、悲しいとき、楽しいとき、寂しいとき、唄うことは、私にとって生きる喜びを感じさせてくれ、歌のない人生など考えることができない。

そのほかに、「腹十二分目の食事」をしながら、体重が増えないのは、「間食をしない」ことも関係しているかもしれない。食べる快感を大切にするが、それをいつまでもだらだら続けるのは、性に合わない。思い切りの悪さ、未練たらしいことが嫌いな性格である。

もう一つ、思い当たるのは「甘いものが嫌い」「油っこいものが嫌い」という体質が、結果的にはカロリー摂取量を減らしているのではないかと考えられる。

私は、こどもの頃から、脂っこいものが嫌いで、肉の脂の部分は、親にどんなに叱られても、頑として食べなかった。それと同じくらい、魚のはらわたの部分も嫌いで、62歳の現在でも変わることなく、一切食べない。

今まで健康に良い悪いとは関係なく、自分が好きなものを食べ、嫌いなものは食べずにきたが、検討してみると健康に良いと言われているものが多く、悪いといわれているのは、塩分の取りすぎ、香辛料の取りすぎくらいのようだ。このことから、妙に自信がついてしまい、好きなものを好きなように食べることに、何のためらいもなくなっている。

食べ物、飲み物の温度についても、これまた医学常識に逆らうように、熱いものは火傷をするほど熱く、冷たいものは限りなく冷たいものを好む。

最後に、意識して健康のために心がけていることがらをご紹介したい。その一つは、たくさん水分を摂取していることで、麦茶、ウーロン茶がほとんどだが、暇さえあれば補給している。これは20年ばかり前の夏、クーラーを効かして、数時間以上水も飲まず、トイレにも行かず、診療時間変更案内のはがきを書き続け、その結果急性前立腺炎になった反省からで、以来、積極的に水分補給を心がけるようになった。

もう一つの医学常識に適った生活習慣は、タバコを吸わないことである。20歳から10年間はヘビースモーカーで、最後の頃は1日50本以上吸っていたが、上室性期外収縮という不整脈が頻繁に起こるようになり、タバコを断って30年余りが過ぎた。このことも、健康に良い影響を及ぼしているのかもしれない。

以上、「健康に良くない生活習慣を続けているのに健康である」理由をいくつか並べ立ててみた。しかし、ここまで書いてきて、「自分の好きなように生きてきた」ことや、「自分が決めたタイム・スケジュール、タイムリ・ミットに間に合せてきた」ことの方が、より大きく関係しているのではないかという気がしている。

また、健康そうに見えているが、深いところではじわじわ病魔にむしばまれていて、今が最後の健康状態である可能性を否定することはできない。なにしろ、医学部を同期に卒業した83名のうち10名が既にこの世を去っているのだから。そうなれば、やはり悪い生活習慣の末路はこのようなものと、教訓にしていただければありがたい。


5.まとめ

健康に良くないといわれる生き方をしてきても、結果として、健康であるケースを報告し、その理由を考えてみた。しかし、これはあくまでも特殊なケースであることを強調しておく。

今月はじめに行われた交野市医師会納涼懇親会の席で、「医者の不養生」が話題になり、その時、「腹十二分目でも健康」だと話したことが、これをまとめをするきっかけとなったことを記しておく。

<1998.7.16.>

修正
心に生きることば 第2章で、腹十二分目について書いた部分を読み返し、修正が必要であることを発見した。それは、腹十二分目に間違いはないが、夕食のみがそうであるとを書いていなかったことである。


<2008.11.11.>

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