病理検査における精度管理

病理検査における精度管理には、検体の取り扱いから標本作製における試薬及び抗体の管理や標本の管理等がある。これらの項目についての日頃の問題点や毎日 の仕事量など業務日誌につけておくことは、今後の問題点を検討する上で重要である。

 

 


1)検体の取り扱い
検体が臨床から提出された場合、まず依頼書と検体が揃っているか確認する。次に依頼書には患者情報、臨床診断、臨床経過及び検体に付いての情報が記載して いなければならない。更に感染症がある場合はその記載は重要である。記載が不備な場合は直ちに連絡を取る必要がある。他の検査と違い病理検査依頼書は記載 項目が多いため臨床から抵抗が強いが出来るだけ協力してもらうように検査室側も連絡を取るなど努力が必要である。


2)固定

提出された検体が、適切な固定がされているか、あるいは肉眼的観察を行い得るかは病理検査を実施する上で非常に重要な問題である。子宮や膀胱等が比較的小 さな容器に入れられて提出された場合や胆嚢等が開かれずに固定液に入れられている場合など、内部は未固定の可能性があるので注意する。また悪性リンパ腫が 疑われる検体などの場合は割面が入っているか、未固定であれば、直ちに割を入れimprint smearを作成し、固定液に入れる。カルチノイド腫瘍であれば一部をブアン固定する。褐色細胞腫であればミューラー固定を実施する事が重要である。

3)迅速検査

迅速組織検査は手術の術式を左右する検査であるので迅速に対処する必要がある。大学病院など比較的件数が多い施設では、検体を間違え無いように注意する。 眼窩内原発のメラノーマ等は検体が融解状であるので、細胞診標本を作製したほうが良い。 悪性リンパ腫が疑われる症例では、imprint smearを同時に作成し表面マーカーの検索用切片を作成する事も確定診断を早くする上で重要である。結核等の感染性検体が提出された場合は速やかに消毒 を実施する。また、そのような症例の場合は細菌検査室で同定されていることがあるので確認を取る事も重要である。更に感染の危険がある場合は他の職員にも 注意を促す。特定の疾患に付いてはどの様な検査や対処をするべきかマニュアル化しておくが重要である。

4)標本作製

組織診断を実施する上で標本の品質は非常に重要である。以下のチェックは特に重要である。組織の適切な方向(包埋に関与)。厚さ(薄切に関与)。薄切時の アーチファクト(石灰化)。染色の品質(試薬及び染色装置の管理)。封入状態(気泡の有無)。ヘマトキシリン・エオジン染色は毎日実施することが多いの で、出来れば同一組織を用いた組織コントロールのチェックを実施することが望ましい。特に染色性のチェックと共に組織形態の観察を実施してトレーニングす る事は重要である。更に予め検査側で臨床診断から判断して特殊染色を実施出来れば病理医が診断する際に診断を早くすることが可能である。例えば印鑑細胞癌 等の場合は、粘液染色を実施する。メラニン産性の乏しい悪性黒色腫であればフォンタナ・マッソン染色を実施する。カルチノイドであればグリメリウス染色を 実施する。またPaget's 病であればアルシアン青染色を予め実施する事は確定診断を早くする上で重要である。
ルーチンで実施する特殊染色では、試薬調整と染色手順を簡単な染色一覧表に して張って置くと便利である。また、常にコントロール切片及びブロックの確保をしておくことは的確な染色をする際に重要である。

5)免疫染色

免疫染色では使用抗体のメーカー名、期限、希釈倍率及び使用する際の前処理の方法や反応時間など細かく管理する必要がある。できれば自施設で使用する抗体一覧表を作成しておく。また免疫染色が特定の腫瘍において確定診断に 有効であった場合、その症例を記録し次回に同様な症例が出た際に参考になるようにしておく事は非常に重要である。更に染色結果が良くないcaseの場合 は、希釈倍率の調整 等を実施して良い結果が出るように検討する必要がある。新しい抗体は次々に出ており、特定腫瘍の同定に重要な事が多いので、欧米の病理関係誌やメーカーか ら情報を出来るだけ入手できるようにしておく事は重要である。

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上記の精度管理に対する意見などEメールを いただければ幸いです。
このページは、 97.11.7にアップデートされました。