迷える霊との対話
カール・A・ウィックランド(C.A.Wickland,M.D.)著
近藤 千雄(こんどう かずお)訳
ハート出版

平成 5年 8月17日    第1刷発行
平成11年10月23日    第3刷発行
平成15年 2月23日 新装版第1刷発行
平成20年12月16日 新装版第3刷発行

迷える霊(スピリット)との対話
―スピリチュアル・カウンセリングによる精神病治療の30年

目 次
まえがき
献辞
第1章 除霊による精神病治療のメカニズム
 第1節 ●霊的要因による障害の危険性
 第2節 ●実例・死後も肉体に執着するスピリット
 第3節 ●霊媒による患者救済のメカニズム

第2章 潜在意識説と自己暗示説を否定するケース
 第1節 ●招霊実験が物語る『真実』
 第2節 ●スピリットの生前の身元を確認
 第3節 ●『人格』として現れるスピリット
 第4節 ●ウィックランド バートン夫人の憑依霊
  第1項 バートン夫人の憑依霊1
  第2項 バートン夫人の憑依霊2
  第3項 バートン夫人の憑依霊3
  第4項 バートン夫人の憑依霊4
  第5項 バートン夫人の憑依霊5

第3章 地球圏の低階層と人間の磁気オーラから抜け出せないでいるスピリット
 第1節 ●死後なお生前の商売を続けるスピリット
 第2節 ●地縛霊による憑依
 第3節 ●死後、良心の呵責に苦しむ牧師
 第4節 ●英国王も愛した人気女優
 第5節 ●最後の憑依霊

第4章 意識的・無意識的に人間に害を及ぼしているスピリット
 第1節 ●人間に憑依されたと思い込んだ憑依霊
 第2節 ●『逆上癖』の女性を救済したケース

第5章 犯罪および自殺をそそのかすスピリット
 第1節 ●肉体離脱後も残る『犯罪癖』
 第2節 ●マジソン・スクェアガーデン惨殺事件の真相
 第3節 ●ホリスター夫人殺害事件の真相
 第4節 ●人間を自殺に追い込む憑依霊
 第5節 ●突然首吊り自殺した女性のスピリット
 第6節 ●自殺した映画女優の警告
 第7節 ●シカゴで自殺した女性
 第8節 ●恋人と心中した男性のスピリット
 第9節 ●身重女性殺害事件の真相

第6章 麻薬・アルコール中毒、記憶喪失症の原因となっているスピリット
 第1節 ●麻薬中毒を克服したスピリットの警告
 第2節 ●魂の深奥まで冒す麻薬の恐ろしさ
 第3節 ●モルヒネ中毒死した女性とその夫
 第4節 ●『死後』も酒に執着する酔っぱらい
 第5節 ●記憶喪失患者の憑依霊

第7章 慢性病の原因となっているスピリット
 第1節 ●除霊で背骨痛から解放された女性

第8章 孤児のまま他界したスピリット
 第1節 ●家族を知らないまま他界したケース
 第2節 ●霊界の浮浪者・アンナ
 第3節 ●スピリットが少女を算数嫌いに導いた
 第4節 ●霊界の『家なき子』

第9章 物欲のみで霊的なものに関心を示さなかったスピリット
 第1節 ●倫理に無感覚だった人間が陥り易い例
 第2節 ●妻に自殺を促す『唯物的現実主義者』

第10章 うぬぼれ・虚栄心・野心・利己心が禍いしているケース
 第1節 ●タイタニック号事件で他界した男性
 第2節 ●幸福とは無縁だったと嘆く上流階級出身者
 第3節 ●死後も”美”に執着する女性
 第4節 ●死後、親友の身体に憑依したスピリット

第11章 地上時代の信仰から脱け切れずにいるスピリット
 第1節 ●霊的事実に無知のまま他界した牧師からの警告
 第2節 ●誠実なメソジストだった身障者
 第3節 ●死後も自己暗示状態から脱け出せない『狂信者』
 第4節 ●間違いだらけの信仰の犠牲になった少女

第12章 地上時代の信仰の誤りに目覚めたスピリット
 第1節 ●クリスチャン・サイエンスの信徒の証言
 第2節 ●クリスチャン・サイエンスの教祖の懺悔-その一
 第3節 ●”死”んでなお教祖に傾倒する狂信者
 第4節 ●クリスチャン・サイエンスの教祖の懺悔-その二

第13章 誤った再生思想に囚われているスピリット
 第1節 ●再生を信じて子供に憑依するスピリット
 第2節 ●セオソフィスト・ウィルコックスの霊界からの報告
 第3節 ●ドクター・ピーブルズ、地縛霊を前に語る
 第4節 ●輪廻転生説の誤りに気づいたブラバツキー

第14章 実在に目覚めたスピリットからの助言
 第1節 ●スピリットの語る『死後』の世界
 第2節 ●アダムズ博士の地上人への警告
 第3節 ●妻の背後霊が語る『生命の実相』
 第4節 ●妻の友人が語る『肉体から霊体へ-』
 第5節 ●幼児期に他界したスピリットの警告
 第6節 ●アメリカ・インディアンの霊的生活
 第7節 ●スピリット劇団の演じる道徳劇
 第8節 ●高級霊からのメッセージ

第15章 二つの世界の相互関係
 第1節 ●可視の世界と不可視の世界
 第2節 ●否定しがたいスピリットの実在
 第3節 ●霊の世界と物質の世界の相互作用
 第4節 ●憑依現象に関する記録
 第5節 ●精神病とスピリットの憑依
 第6節 ●霊媒による精神病者救済の有効性

終章
 人類史に残るスピリチュアリズムの一大金字塔
 ●「事実というものは頑固である」
 ●物的身体のほかに三つの霊的身体がある
 ●霊的身体は変幻自在、意のままに動く
 ●死後の世界にも段階がある
 ●霊界の落伍者――地縛霊
 ●”自分”とは何なのか
 ●真理に”古い”も”新しい”もない


まえがき
本書を出すに当たって、著者の私には主義・主張や信仰上の説を広めようとする意図は、さらさらない。
三十有余年にわたって正常・異常の両方の心理学を実験・研究してきた成果と、そこから引き出される見解を披露しようとするものである。
それが、とかく曖昧である死後の生命と、それが現実の生活に関わっている側面に光を当てることになると思うからであり、良識ある人ならばきっと、その重大性を認識されるものと確信する。
C.A.Wickland,M.D.

献辞
本書を、わが妻アンナ・ウィックランドと、見えざる世界の協力者”マーシーバンド”(※)に捧げる。
妻はその博愛精神と理想への無私の献身とによって、またマーシーバンドは霊界からの鼓舞と指導とによって、この業績を完逐させてくれた。

※Mercy Band 慈悲・哀れみをもった霊団という意味で、その存在が明らかとなる経緯については第1章で解説がある。
その中で指導・監督に当たる”知的存在”Guiding Intelligencesという表現もしているが、私はこれをあえて日本語に置きかえずに、マーシーバンドで通している。  ――訳者


反駁や論駁を目的としたり、逆に、頭から信じて無批判に受け入れる態度、あるいは話のタネになるものを探そうといった態度で読むのではなく、その内容をよく吟味し、思考の糧とするために読むべきである。
――フランシス・ベーコン

さて、アンナ・ウィックランドの夫君は精神科医だったが、早くからスピリチュアリズムに理解があり、数人の友人・知人でホームサークルをこしらえて、交霊会を催していた。最初の頃は、これといった目的もなしに行っていたが、ある時期から『慈愛団(マーシーバンド)』と名乗る霊団の者が出るようになり、やがて一つの提案をしてきた。

それは、ウィックランド博士が扱っている精神病患者の大半が低級霊による憑依が原因なので、その霊を患者から引き離してアンナに乗り移らせて喋らせるから、博士が応対して実情を聞き出すと同時に、霊的真理に目覚めさせてやってほしい――アンナの身の安全は霊団の方で保障するから・・・というのが主旨だった。

そうして始められた『招霊実験』は実に三十年以上にわたって続けられ、おびただしい数の精神病患者が正常に復すると同時に、その患者に憑依していた霊達も救われた。この対話の記録は『迷える霊との対話』と題されて出版されている。精神科医はもとよりのこと、広く霊的なものに携わる人の必読の書といえよう。

ウィックランド夫妻

第1章 除霊による精神病治療のメカニズム
第1節 ●霊的要因による障害の危険性
霊的現象の研究は人類にとってきわめて重大な意義を秘めており、既に世間一般の日常生活において欠かすことのできない要素となっているにもかかわらず、各分野において霊的現象をあくまでも精神生理学の基盤の上で分析しようとしていることは明白である。

例えば、精神分析学者は、精神病の多くは何らかの心理的障害ないしはショック――無意識のうちに受けたものが残存している場合と意識的に受けたが既に忘れている場合のいずれか――に起因しているという説を立てている。

分析心理学の専門家は、心理測定法や知能テストによって精神的欠陥者の隔離と分類を可能にしつつある。また、神経学者や精神科医は、各種の神経症・精神異常及び精神障害の病理的要因を突き止めて、予防法と治療法を確立することに真剣に取り組んでいる。

こうした研究分野に携わる人は、神経症や精神異常の有力な要因の一つとして[霊魂説]を受け入れることを忌避するが、現実にはこの説こそ、ノイローゼ、神経過敏症及び精神的錯乱に陥りやすい人間に見られる不確定要素を明るみにする上で、重大な貢献をしているのである。

いわゆる[心霊研究]には二つの側面がある。すなわち[正常]と[異常]である。
[正常]な側面では、牧師と同じように「死後人間はどうなるか」という問題を医師の立場から取り扱う。むろん問題はこれ以外にも色々あるが、特に死後の問題は、病気であまり長生きできないと観念し、死後の状態について恐怖心さえ抱きながら生死の境界をさまよっている患者にとっては、大きな関心事である。そうした事態において、実際の知識に基づいて、いわゆる[死]というものは存在しないこと、それはより次元の高い世界における新しい活動とその機会とを提供してくれる界層への誕生であることを確信させてあげることは、医師としてこれ以上の崇高な役目はないと言ってよいのではなかろうか。

次に[異常]の側面では、肉体に宿って生活している間だけでなく、肉体を棄てて他界の存在となった後の精神の複雑な機能についても、医師に可能な限りの多くの知識が要請される。異常心理現象における研究は、正常心理現象の研究と同様に[霊(スピリット)]というものが実在することを指摘しているのみならず、そのスピリットこそ各種の神経症や精神病において大きな要因となっていることを、疑問の余地のないところまで証明している。

面白半分に心霊能力を試してみた者が引き起こす精神異常をよく知っているのは、誰よりもまず医師である。というのは、誰しもまず医師のところを訪れるからである。したがって、そうした不幸な犠牲者がその後いかなる扱いを受けることになるかは、診察した医師の判断一つにかかっていることになる。

そんな次第で、心霊学の諸相、特に軽率な心霊愛好家、なかでも神経症の素因のある者の危険性について幅広く知っておくことは、医師の特権であると同時に、緊急の義務であらねばならない。

そうした遊び半分の心霊実験から生じる恐ろしい結果を目の当たりにして、私は、その因(よ)ってきたる原因を確認するための一連の調査を行った。これも医師の領分に関わることだからである。

一見害は無さそうな自動書記とかウィージャ盤(日本のコックリさんのようなもの)による実験をしているうちに精神病院への収容が必要となった患者を見て、面白半分にやった心霊実験がもとで生じる精神障害や錯乱といった深刻な問題が、まず私の注意を引きつけた。

その最初のケースはB夫人で、自動書記を試みているうちに錯乱状態となり、人格が変わってしまった。普段は愛想が良く、信心深く、物欲がなく、あか抜けのした貴婦人だったのが、ある時から急に荒々しくて騒々しい性格となり、はしゃぎ回り、跳び回り、下品な言葉を使い、自分は女優だと言い張り、何時までに舞台へ行かないとクビになると言ったりした。ついには完全に責任能力を失ったとの診断で精神病院へ収容されてしまった。

もう一つのケースはC夫人で、同じく自動書記を試みているうちに、芸術家の貴婦人から一転して乱暴な性格の女性に変わってしまった。金切り声を上げながら両手でこめかみをさすり、「神よ救いたまえ! 神よ救いたまえ! 」と叫ぶかと思えば、道路へ飛び出してぬかるみにひざまずいて祈ったり、午後六時前に食事をしたら地獄に落ちる、と言って食事を拒否したりした。

同じく自動書記を面白半分にやっていたS夫人も精神がおかしくなり、やがて凶暴性も出てきて警察の手を煩わせるに至った。夜中に突然起きて、自分の経営する婦人帽子店のショーウィンドウの中で、ナポレオン気取りのポーズを取ったりした。自分はナポレオンだと思い込んでいたのである。その他にも無軌道な行為が多くなって、ついに精神病院へ収容されるに至った。

同じ原因で、W夫人も幻覚に取り憑かれるようになった。神がひっきりなしに自分に語りかけていて、過去の過ちを咎めているというのだった。そのうち神の求めにしたがって(と本人は思って)自殺を企て、それは未遂に終わったが精神病院へ収容された。

この他にも[無害]と思われているウィージャ盤で遊んでいるうちに起きた悲惨な症状に私は関心を持ち、その有力な手がかりを心霊現象に求めるようになっていった。

私は心霊仲間が集まって催す信頼のおけるホームサークル(霊との交わりを求める会を交霊会ないし心霊実験というが、10人前後で行う家庭交霊会と、何百人、何千人もの人を相手に行う公開交霊会とがある)に出席し、また私の家で催したこともあるが、そのうち私の妻に優れた霊媒的能力があることが分かり、複数のスピリットに代わるがわる支配されるようになった。

最初妻は、死者が自分の口を使って喋るということは[死者を安らかな眠りから覚ます]ことにならないかと心配したが、霊団側(後にマーシーバンドと名乗る[慈悲・哀れみをもった霊団という意味])は、死後についての人間の認識が嘆かわしいほど間違っており、その心配は無用であると言ってきた。

彼らが言うには、事実上[死]というものは存在せず、肉眼に映じる世界から映じない世界へ移るだけのことであって、高級霊は、死後に待ち受ける素晴らしい可能性について人間を啓発するための交霊の機会を待ち望んでいるというのであった。問題はその[死]つまり、肉体からの解放があまりに簡単で自然であるために、大半の人間はしばらくの間――個人によって長短の差はあるが――その変移に気づかず、霊的知識が欠如しているために、地上の懐かしい場所をうろつき回っているというのである。

そうしたスピリットの中には、そのうち人間の磁気性オーラに引きつけられて乗り移り――本人も人間の方もそれを自覚しないことが多い――それが原因となって数知れない災害や悲劇が引き起こされ、病気・不道徳・犯罪・精神病等が生じているケースが数多くあるという。スピリットの側はそうとは知らずにいる場合もあるし、悪意からそうしている場合もある。

こうした霊的要因による障害の危険性は、好奇心が先走りして、指導者なしに心霊実験に手を染めた者の場合が最も大きいが、そうした事実を知らずにいることはさらに危険なことで、感受性の強い精神症患者の場合は特に注意を要するという。

こうした説明のあと霊団は、さらに次のようなことを言ってきた。すなわち一種の転移方式、具体的に言えば憑依しているスピリットをその人間(患者)から霊媒へ乗り移らせることによって、右の霊魂説の正しさが証明できるし、霊的症状の内側の事情も明らかに出来る――患者は正常に戻り、憑依霊はそのあと霊界の事情に通じたスピリットの手に預けられ、その看護のもとで霊的真理についての教育を受けることになる、というのである。

その上で彼らは、そうした実験の霊媒役として私の妻が適切であると見ており、もし私が彼らに協力して、一時的に妻に憑依させるスピリットの話し相手となって話を聞き出し、また諭してくれれば、彼らの主張していることが正しいことを証明してみせる――私の妻には一切の危害は及ばないようにする、と提案してきた。

こうした重大な主張――もしもその通りであれば、精神病理学のみならず犯罪学においても不可解とされている原因の解明に大きな意義をもつであろう霊魂説――が真実か否かをぜひ確認したいとの願望から、私は、危険と思えるその提案を受け入れることにした。

第2節 ●実例・死後も肉体に執着するスピリット
その目的への準備として、霊団側はしばしば私のまったく予期しない時に色々な現象を起こしてみせた。その幾つかは、私が医学部に籍を置いて間もない頃に起きた。

ある日私は、最初の解剖実験をその日から始める意図もなしに家を出た。したがって、妻の潜在意識が、そのあと起きた現象に何らかの関わりをもった可能性は考えられない。

さて当日は、学生は一つの死体を上下半分ずつ解剖することになった。最初の死体は60歳ばかりの男性で、私はその日の午後から下肢の解剖に入った。

帰宅したのは午後五時頃だった。ドアを開けて中に入るや否や妻の様子が急におかしくなり、妙な気分がすると言いながら今にも倒れそうによろめいた。私が妻の肩に手を置いたとたんに、しゃんと身を起こした。何者かに憑依されていて、それが脅すような身振りをしながらこう言った。

「俺を切るとは、一体どういうつもりだ!」

誰も切った覚えはないと私が言うと、そのスピリットはこう言って怒った。

「切ってるじゃないか! 俺の脚を切ってるじゃないか!」

私は、この男は私が今日解剖した死体の主で、大学からずっと家までつけてきたのだと理解がいったので、そのスピリットと語り合おうと思い、とりあえず、その(妻の)身体を椅子に座らせた。すると、

「コラ! 人の身体に勝手に触らんでくれ!」と言うので、

「自分の妻の身体に触って何が悪いんですか」と言い返すと、

「お前の妻だと!? 一体何の話だ。俺は女なんかじゃない、男だぞ!」と怒鳴るのだった。

そこで私は、彼がもう肉体から離れて、今は私の妻の身体を使って喋っていること、つまりスピリットとなってここへ来ており、肉体は大学に横たわっている事実を説明した。どうやらそのことが分かってくれたようなので、私はこう付け加えた。

「たとえ私が、大学に置いてあるあなたの肉体を切っているとしても、それであなたが死ぬわけではないでしょう――あなた自身は今、ここにいるんだから」

すると彼は、なるほどもっともな話だと答えてから、こう述べた。

「どうやら俺は(死者)の仲間入りをしたに違いないな。となると、あの古ぼけた肉体にはもう用はないから、勉強の材料になるのなら思い切り切り刻んで結構だ」

そう言ったあと突然「だんな、噛みタバコを恵んでくれんかな」と言うので、私がそんなものはもってないと言うと、今度はパイプをせがんで「一服やりたくてたまらんのだ」と言った。

勿論私は断った。(妻はタバコを噛んでいる人を見るとひどく嫌がっていたから、この現象に妻の潜在意識が関わっていた可能性はないことになる)。そして、今はもう[死者]となっていることを、さらに詳しく説明してやると、ようやく事情が呑み込めたらしく、妻の身体から去って行った。あとで死体の歯を調べたら、噛みタバコの常習者であることが判明した。


もう一つは、私が実地教授の助手に指名され学生の前で解剖することになった時のことで、ある黒人の死体が選ばれた。その日は何も手をつけずに帰宅したのであるが、その夜になって妻が憑依状態となり、こんなことを喋った。

「大将、この俺を切ってくれるなよ」

私は、彼がもう死んでしまっていること、今は古びた肉体ではなく女性の身体を使って喋っていることを話してきかせた。が、信じてくれないので、私は妻の両手を見させて、黒人の手ではなくて白いでしょうと言ってみた。が、それでも信じないで、

「それは白く塗っているからだよ。俺は白壁塗りが仕事だもんな」と言う。

随分頑固なスピリットで、こんな調子の言い訳や弁解ばかりして私の言うことを認めようとしなかったが、最後は得心して去って行った。


スピリットが死というただの移行現象に気づかずに、信じられないほどしつこく肉体に執着していることを証言する例として、次のようなものがある。

シカゴの郡立病院で死亡した40歳ばかりの女性の死体が、解剖室に安置されていた。

死後七ヶ月たった翌年1月に、私を含む何人かの学生がその死体の解剖を指示された。解剖が始まった最初の日の夕方は、訳あって私は参加できなかった。

その最初の解剖の二、三時間の間にどんなことが起きたのかは、私は何も聞いていなかったが、なぜかその日参加した学生は、二度とその死体に触れたがらなかった。

翌日の午後は授業がなかったので、私は一人で解剖することにし、腕と頸部にメスを入れ始めた。

すると、解剖室は長い地下室の奥にあって物音一つしない所なのに、解剖の途中で、小さいがはっきりとした声で「私を殺さないで」という声が聞こえた。遠くから聞こえる微かな声だったが、私は迷信的なところは微塵もなく、些細な出来事を一々スピリットの仕業にするタイプではないので、多分道路で遊んでいる子供の声だろうくらいにしか考えなかった。もっとも、よく考えてみると、その時、それ以外に、子供の遊び声は一切聞こえていなかった。

翌日の午後も私は一人で解剖していた。すると床の上にまるめて置いてあった新聞紙が、ちょうど紙くずをクシャクシャにまるめる時に出るような音を出したので、さすがの私も一瞬どきっとした。が、この時も特に気にせずに、帰宅後も妻には何も話さなかった。

そうした出来事をすっかり忘れていた数日後のこと、私の家で(時折開いていた)ホームサークルが開かれた。霊媒の妻を通じて見えざるスピリットが変わるがわる語り、それも無事に終わって、いつもならそこで妻が入神状態から平常の状態に戻るのだが、その時はなぜか憑依状態のままの様子なので、私が確かめようと思って席を立って近づくと、妻がいきなり体を起こして平手で私をぶった。そしてこう言った――。

「あんたに少しばかり言いたいことがあるのよ! 」

そう言ってから私に激しく食ってかかり、少しの間もみ合った後、私が一体どうしたというのかと尋ねたところ、

「なぜこのあたしを殺そうとするのよ?」と言うので、

「私は誰も殺そうとなんかしてませんよ」と言い返すと、

「いいや、してます――あたしの腕と首に切りつけてるじゃない! 殺さないでと大声を出して床の上の新聞紙を叩いて驚かせたのに、あんた、知らん顔だったわね! 」

そう言ってからケタケタ笑い出して、こう付け加えた。
「でも、あの連中は上手く脅かしてやったわ」

この女性霊は生前ミニー・モーガンと言い、現在の身の上を説明するのに随分暇がいったが、ついに得心してくれて、高い世界を目指すように心がけますと言って去って行った。

第3節 ●霊媒による患者救済のメカニズム
霊媒である私の妻は、よほどスピリットがコントロールし易いらしく、憑依して語るスピリットの大半が、自分がいわゆる死者であって一時的に地上の人間の身体に宿っていることに気がつかない。

理知的判断力の鋭いスピリットの場合だと、自分だと思っている今の(霊媒の)身体の特徴や手足、衣服などの違いを指摘すると、事情が尋常でないことに気づいてくれる。特に男性である場合はその違いが歴然としているので、なおさらである。

「今、あなたが使用しておられる身体は私の妻のものです」と言われると、大抵「ワシはあんたの奥さんなんかじゃない」と言い返し、得心してもらうまでにはずいぶん多くの説明を要するが、とにもかくにも、なんとか分かってくれる。

これに対して、あくまでも頑固な猜疑心の固まりのようなスピリットがいるもので、自分が死んで肉体を失っていることを絶対に認めようとしない。理知的に判断しようという気持ちがなく、たとえ鏡を持ってきて映して見せても、催眠術をかけているんだろうと言って、事情が変化していることを認めようとしない。あまりの頑固さに、結局はマーシーバンドに連れ出してもらって、あとをお任せすることになる。


精神異常の原因となっている憑依霊を、患者から霊媒(ウィックランド夫人)に移すには、静電気を患者に流す方法が効果的である。患者は必ずしもその場にいるとは限らないが、大抵は同席している。

静電気は人体には害はないが、憑依しているスピリットには耐え切れなくて、通電しているうちに、ついにその身体から離れる。そこで待機していた霊団が誘導して霊媒へ乗り移らせる。

これでそのスピリットとの直接の対話が出来ることになり、私が現実の真相を語って聞かせ、向上の可能性を教えてあげる。

それが納得できた段階で、霊媒から離れてマーシーバンドの手に預けられ、霊媒は正常に復する。

同じ効果は、心霊サークルによる思念集中法(サークルのメンバーが円座を作って精神を統一して霊的な磁場をこしらえる)によっても得られる。患者は別の場所、往々にして遠く離れた病院などにいて、そこでマーシーバンドが憑依霊を連れ出して、そのサークルのところへ連れてきて霊媒に乗り移らせる。

このやり方ではスピリットは『追い出された』と言って文句を言うことが多いが、それでも自分がスピリットになっていることに気づかず、また地上の人間に憑依して障害の原因となっていることも知らないのである。

しかし、憑依霊の言動と患者の症状との間に類似性があること、そして、その憑依霊を除霊すると症状も除去されるという事実は、そのスピリットこそ精神病の原因であったことを明快に証明するものである。多くの場合、スピリットの身元も一点の疑問の余地もないまでに立証されている。

憑依霊を霊媒に乗り移らせた後、二度と患者に戻らないようにすると、患者は次第に回復へ向かう。

ただ、なかには複数のスピリットが憑依しているケースがあり、その場合は一度に回復というわけにはいかない。

読者の中には、マーシーバンドは憑依霊をいちいち霊媒へ乗り移らせないで、直接説得すれば良いのではないかと思われる方もいるであろう。実はそうしたスピリットは霊的知識が欠けているので、いったん地上的条件下に置き、現在の自分の状態を認識させ、向上の意識を芽生えさせてからでないと、霊界側からの直接の接触が得られないのである。

交霊会において、無知なスピリットが霊媒に乗り移らされることによって霊的理解へ導かれていく現象は、研究者にとって大変興味深いことであるが、同時に、暗黒界からその交霊の場へ連れてこられて、その様子を見学している大勢の無知な霊にとっても、大きな勉強となる(モーリス・バーバネルを霊媒とし、ハンネン・スワッハーを司会者とする英国の交霊会に、約半世紀あまりも出現していた古代霊シルバー・バーチの話によると、毎回5000名ばかりのスピリットが見学に来ていたという。シルバー・バーチはサークルのメンバーにだけ語りかけていたのではなかったのである)

なかには、まるで精神病院のような状態になって、まともな説得ができないスピリットが多い。これは地上時代の誤った宗教的信仰や固定観念、もろもろの迷信が禍いしている。暴れ回り、暴言を吐くこともしばしばで、そんな時は霊媒の両手を握って押さえ込むことが必要となる。

また、自分の置かれている事情に目覚めるとともに死んでいくような感じを抱くスピリットがいる。

これは霊媒の身体の支配を失いつつあることを意味している。

さらには、意識がもうろうとして半分眠っているような状態になり、そっとしてくれないかと言い出す者もいて、このあとに紹介する記録をお読み頂けば分かるように、時には激しい言葉で目を覚まさせることが必要となる。

そうした記録の中で、よく[地下牢]または[土牢]という言葉が出てくるが、これは手に負えないスピリットをマーシーバンドが捕らえ閉じ込めておく場所で、そのあと霊媒に乗り移らせると、今まで地下牢に入れられていたと文句を言う者がいる。

これは、高級霊になると、ある霊的法則を利用して牢に似た環境をこしらえることが出来るのである。出口が一つもない独房のような部屋で、頑固なスピリットはそこに閉じ込められて、どっちを向いても自分の醜い性格と過去の行為が映し出される。

これは実際は心の目に映っているのであるが、本人は客観的に映っているように思い込む。その状態は、悔い改めの情が湧き新しい環境へ適応して向上したいと、自ら思い始めるまで続けられる。

私の妻の霊媒能力は、無意識のトランス(日本でいう神懸かり、ないし入神状態)である。その間ずっと目を閉じ、睡眠中と同じく精神機能は停止状態に置かれている。

したがって、本人はその間の記憶はない。そうした体験に対して異常な反応を起こすこともない。常に理性的であり、頭脳は明晰で、性格は陽性である。この仕事に過去35年も携わってきて、一度も健康を害したことも、いかなる種類の異常を見せたこともない。

それは、一つにはマーシーバンドと名乗る高級霊団によって、常時保護されているからであろう。この霊団は[死]と呼ばれているものが、いたって単純な[移行現象]にすぎないこと、そしてまた、その死の後はどうなるかについて合理的に理解しておくことがいかに大切であるかを教えるために、この仕事を指導しているのである。

我々のサークルは、その[死後]の事情についての、議論の余地のない、信頼の置ける証拠を直接入手することを目的としており、妻に憑依して語ってくれたスピリットの正確な事情を記録しておくために、何百という例証を速記によって書き留めたのである。

第2章 潜在意識説と自己暗示説を否定するケース
第1節 ●招霊実験が物語る『真実』
『死者』を相手とする研究を倦むことなく三十年余りも続けてきて私は、その間に驚くべき事実を数多く目の当たりにしているので、証明しようと思えばいつでも出来る明々白々たる事実を、他の思想分野の人達はよくぞこれまで無視してこれたものだ、と思うのである。

こうした招霊実験には詐術は断じて有り得ない。霊媒である私の妻は、一言も知らないはずの外国語をいくつでも喋るし、妻の口から聞いたためしのない表現が出るし、その上、憑依霊の身元は再三再四確認され、数え切れないほどの確証が得られている。

一回の招霊実験で二十一人のスピリットと語り合ったことがある。その大半は、地上時代に私の知人ないし親戚だったことを立証するに十分な証拠を与えてくれた。その時は妻の口から全部で六カ国語が聞かれたが、通常の妻はスウェーデン語と英語しか喋れない。

またある時は、シカゴから連れて来られたA夫人一人に十三人のスピリットが憑依していて、それを一人ひとり妻に乗り移らせたが、そのうちの七人までは、A夫人の母親のH・W夫人によって、地上時代の親戚か友人であることが確認されている。そのうちの一人はH・W夫人が属していたメソジスト教会の牧師で、九年前に交通事故で他界していながら、その日までその事実に気づいていなかった。

もう一人は義理の姉、その他に永年家族ぐるみで付き合っていた三人の年配の女性、近所の少年一人、それに患者の義理の母親がいたが、そのいずれも、妻は一面識もなかった。

H・W夫人はその一人ひとりと長々と語り合い、聞き出した事柄の中から数え切れないほどの事実を確認し、その事実をもとに、そのスピリットが現在はもう肉体を捨てて霊的存在となっていること、しかも夫人の娘の身体に憑依している事実を悟らせてあげた。娘さんは今では心身ともにすっかり健在で、社交に、音楽の仕事に、そして家庭生活に、活発な毎日を送っておられる。

もう一つのケースは、精神異常がそっくり患者から霊媒へと移転し、『潜在意識説』や『二重人格説』は、霊媒に関するかぎり、その説明にはならないことを明確に立証している。

ある夏の日の夕方、われわれ夫婦は教養と人格を兼ね備えた著名な婦人の家に呼ばれた。この婦人はかつては第一級の音楽家で、そうした地位にあるがゆえに要求される、様々な人間関係に耐え切れず、ついにノイローゼになってしまった。それが次第に高じて手がつけられなくなり、狂乱状態が六週間も続き、医師も手の施しようが無く、看護婦が日夜つきっきりの監視をしなければならなくなってしまった。

訪ねてみると、その婦人はベッドに座り、一人ぽっちにされた子供みたいに泣いているかと思うと、次の瞬間には恐怖におののいたように「マチーラ! マチーラ!」と叫んだりしている。そうかと思うと今度は、誰かと格闘し揉み合っているような動作をしながら、英語とスペイン語でわけの分からない乱暴なことをわめき散らしている(妻はスペイン語はまったく知らない)

妻は婦人を霊的に診察して、これは間違いなく憑依現象であると述べた。そして、それが事実であることが、思いがけない形で立証された。ベッドのわきに立っていた妻が、部屋を出ようとした瞬間に意識を失って、その場に倒れた。居合わせた者が、その身体を長椅子に横たえた。私は、それからほぼ二時間にわたって、患者から離れた三人のスピリットとかわるがわる語り合った。

三人はメアリーという若い女性とその求婚者のアメリカ人、そして恋敵のメキシコ人マチーラだった。男性の二人とも熱烈にメアリーを愛している。したがって互いの憎しみも激烈だった。そして嫉妬に狂った一人が女性を殺してしまい、さらにライバルの男性とも命がけの喧嘩となって、ついに二人とも死んでしまった。が、三人とも自分の死には気づいていない。哀れにもメアリーは泣きながらこう言うのだった。

「この分だと二人は殺し合うことになると思ったけど、今もここで決闘を続けてるわ」

愛と憎しみと嫉妬による悲劇は、肉体の死とともに終わってはいなかったのである。三人は無意識のうちに患者の霊的磁場、すなわちオーラに引きつけられ、そのオーラの中で相変わらず激しく争い続けていたのである。そこには患者が神経的に参って抵抗力が極度に低下していたという誘因があり、次々と憑依したその結果が、医師や看護婦には解決のつかない、いわゆる発狂状態となって現れていたのだった。三人に肉体を失っている事実を得心させるのにさんざん手こずらされたが、どうにか理解してくれて、われわれのマーシーバンドの手に委ねられた。

その間に患者は既に起き上がっていて、驚く看護婦を相手にまともな対話を交わしながら、部屋中を静かに歩き回っていた。やがて「今夜はよく眠れそうだわ」と言い、ベッドに戻ると、いつもの睡眠薬を使わなくてもすぐに寝入り、一晩中ぐっすりと寝た。そして翌日には看護婦に付き添われて私の家を訪れた。私は看護婦には帰って頂き、服薬を禁じ、電気治療を施した後で、他の患者と一緒に食事をとって頂き、夜の社交的な催しにも出席して頂いた。

その翌日の招霊実験でさらにもう一人が、この婦人から除霊された。サンフランシスコの大地震で死んだ少女であるが、暗がりの中で道が分からなくなったと言って泣いてばかりいた。この子も私が色々と語り聞かせてなだめてやり、そのあとマーシーバンドによって介護されることになったことは言うまでもない。それまでは婦人のオーラの中に閉じ込められていたために、マーシーバンド側も手が施せなかったのである。

婦人はその後数ヶ月にわたって私の治療所で加療と休養を続け、すっかり元気を回復して退院し、完全に元の生活に戻られた。

第2節 ●スピリットの生前の身元を確認
次の例は、スピリットの生前の身元が確認されるケースがよくあることを証明している。

F夫人はもともと垢抜けのした上品な性格の女性であったが、数人の医師から不治の精神異常者と診断されるほどになった。手に負えないほど荒々しい振る舞いをするようになり、絶えず罵り、いったん暴れ出すと男が数人がかりでやっと取り押さえるほどになった。そうかと思うと突然、昏睡状態に陥ったり、気絶したり、食べ物を拒絶したり、「私は天使の仲介で結婚したのである」と偉そうに言ったかと思うと、とてつもない下品な言葉を口走ったりするのだった。

こうした症状が絶え間なく交互に起きるのであるが、それが憑依現象であるとの確証が得られずにいたところ、ある日、突如として言語能力を失って白痴のように口をもぐもぐするだけとなり、聾唖者とまったく同じ状態になってしまった。

丁度その頃に、隣の州から一人の男性が、入院中のある患者を見舞いに訪れた。その直後に看護婦から、F夫人の様子が変わって今度は幼児のような喋り方をしているとの報告があった。その変わりようがあまりに激しいので、参考までにその見舞客にも部屋に入ってもらって観察してくれるように頼んだ。
もちろんF夫人とは一面識もない人であるが、その男性が部屋に入るとすぐ、夫人が彼を指差して、子供っぽい、かん高い声で、

「あたし、この人知ってる! よくあたしの肩に弓をのせたわ。そして、あたしのキャンデーを引っ張ったこともある。ジプシーのキャンプへ連れてってくれたこともある。私の家の向かいに住んでて、あたしのことをローズバッドと呼んでたの。あたしは四歳よ」と言った。

その男性は、その子の言っていることが一つ一つ事実であることに驚き、確かにアイオワ州の郷里にはそういう名前の子がいたが、しかし昨年死んでいると語った。さらに彼は、自分が大変子供好きで、よくその子をジプシーのキャンプへ連れて行ったこと、そして棒付きのキャンデーを買ってやり、その子が食べている時にその棒を引っ張って『歯と一緒に抜いちゃうぞ』と冗談半分に脅かしたことがあると説明した。

この例では、愛情がその子供を男性のところへ引き寄せたこと、またその子供にとってF夫人が、その男性に自分の存在を知らせる格好の手段となったことは明らかである。

招霊という手段によって、まずその子を除霊し、続いて他の複数の憑依霊を一人ひとり除霊していって、数ヶ月後にはF夫人は法的文書に署名する資格があると診断されるまでに回復し、裁判官および陪審員によって『正常』と宣告された。

もう一つ例をあげると、これはレストランでコックをしていたO夫人の例であるが、同じレストランで働いているウェイトレスの中に行動がおかしく、妄想と幻覚に悩まされている女性がいるので診て欲しいと言って、私のところへ連れてきた。さっそく電気治療を施したところ、ウェイトレスはたった一回ですっかり楽になって、そのまま家に帰った。

ところが、その夜になってO夫人の方が一種名状しがたい状態になって一睡もできず、その状態が翌朝の十時頃まで続いた。それから食事の用意でもしようと起き出て準備をしていると、突如として態度が荒々しくなり、髪をかきむしり、自分で自分を傷つける危険性が出てきた。

家族からの依頼で往診してみると、O夫人は錯乱状態で荒れ狂っており、『どこへ逃げても追い回されて休息する場所がない』と口走るのだった。私は憑依霊の仕業と診断して夫人を椅子に腰掛けさせ、暴れないように両手を縛ってから、幾つか質問してみた。
すると、自分は男性で、死んでもいないし、女性の身体に取り憑いてなんかいないと言い張るのだった。名前はジャックといい、さきのウェイトレスのおじで、放浪の生活を送ったという。

こんこんと諭していくうちに、その霊もどうにか自分の置かれている事情を理解してくれて、もう二度と迷惑をかけないことを約束して去って行った。O夫人はそれでいっぺんに正常に復し、いつもの仕事に戻って、以来、何ら支障を来していない。

あとでウェイトレスに確認したところでは、彼女にはジャックという名のおじがいて、放浪癖があったが、今はもう死んでいるとのことだった。このケースではO夫人が霊媒となって、ウェイトレスに憑依していたそのおじを乗り移らせたわけである。

第3節 ●『人格』として現れるスピリット
数年前の話であるが、リズトンという博士がシカゴの新聞に、フランス語も音楽も知らないある患者が、麻酔をかけられた時に、フランス国歌の『マルセイエーズ』を見事に歌った話を紹介していた。その中で博士は死後の個性の存続を否定して、これは潜在意識ないしは無意識の記憶によるものと説明し、あるラテン語の教授の召使いが狂乱状態の中で、生前その主人が朗唱していたラテン語の古典を完璧に朗唱したケースと比較して論じていた。

私はこれに反論する形で、ある新聞に寄稿し、この種の現象は心霊現象ではよくあることで、唯物的科学者がどう分類しようと、こうしたケースは人間の個性の死後存続と、彼らが生者を通じて意志を伝えることが出来ることの証拠であると論じ、さらに、右の二つのケースの真相を解明すれば、フランス語で歌った患者は霊感の鋭い人で、その時誰かのスピリットに憑依されていたのであり、ラテン語を朗唱した召使いは亡くなった主人のスピリットに憑依されていたことが判明するだろう、と付け加えた。

それから程なくして、リズトン博士の記事で紹介された患者本人が私の記事を読んだと言って訪ねてきて、「私はフランス語はまったく知りません。が、死にたくなる程スビリットに悩まされていることは間違いありません」と言った。

いわゆる『多重人格症』『分裂性人格症』『意識崩壊症』といった症例の研究において現代の心理学者は、そうした人格には何ら超常的知識の証拠は見られないし、霊的原因の証拠も見られないという理由で、外部からの影響力の働きかけの可能性を否定している。

しかし、それとは対照的に、我々が体験しているところでは、そうした人格の大半はスピリットであって、今なお自分が他界したことに気づかないために、肉体がなくなっていることに得心がいかず、またその事実を認めたがらないということが明らかとなっている。

モートン・プリンス博士の著書『ミス・ビーチャム、または失われた自己』の中で紹介されている四重人格の例症でも、ビーチャムという女性患者以外の人格の作用にはまったく言及されていないが、『第三人格』とされている『サリー』自身はビーチャムではなく、まったくの別人だと言い張り、ビーチャムが歩行や言語を覚えかけた頃のことに言及して、『この子がやっと歩き始めた頃から、私はこの子の考えと私の考えとが別のものだったことを覚えています』と述べている。

似たケースとして、オハイオ州のB・レディックという小学生の場合は『ポリー』という乱暴な性格の女の子に急変するのだったが、このケースでも、他界したポリーという女の子が、多分死んだことを自覚しないままレディックに憑依していることを示す証拠は歴然としている。

こうした『人格』が独立した存在であることは、これまでの実験が豊富に実証しているように、その『人格』を霊媒に転移させることによって簡単に証明できることである。それを潜在意識説や自己暗示説、あるいは多重人格症といった説によって説明することは到底無理である。

なぜなら、霊媒である私の妻が数え切れない程の人格をもっていることは断じて有り得ないことであり、同時にまた、精神病者とされている人の症状を妻に転移させることによって、その患者を簡単に正常に復させることが出来るからで、かくして病気の原因は死者のスピリットのせいであることが結論づけられる。そのスピリットの地上時代の身元も、多くの場合、確認することが可能なのである。

第4節 ●ウィックランド バートン夫人の憑依霊
第1項 バートン夫人の憑依霊1
患者に霊聴能力がある場合は、憑依霊の声がひっきりなしに聞こえるので、それによる苦痛も伴うことになる(いわゆる『幻聴』は精神科医もよく観察していることである)。そういう患者が交霊会に出席して憑依霊が霊媒へ移されると、興味深い現象が生じる。

その一例として、バートン夫人のケースを紹介しよう。この夫人は霊聴能力があり、そのために憑依霊と絶えず口喧嘩をすることになったが、我々のサークルに出席しているうちに、その有り難からぬ仲間(五名)から解放された。その憑依霊達の性格は、次に掲げる記録によって明瞭に把握できるであろう。

スピリット=キャリー・ハッチントン
患者=バートン夫人
霊媒=ウィックランド夫人・質問者=ウィックランド博士

博士「お名前を教えてください」
スピリット「手を押さえつけないでくださいよ」

博士「じっとしてないといけません」
スピリット「なぜそんなに手荒なことをするのですか」

博士「名前をおっしゃってください」
スピリット「なぜそんなことが知りたいのですか」

博士「あなたは初めてここへおいでになられた。それで、お名前を知りたいのです」
スピリット「知ってどうなさろうというのです?」

博士「話をする相手が誰であるかを知りたいだけです。あなただって、もしも見ず知らずの人が訪ねてきたら、名前を知りたいとは思いませんか」

スピリット「私はこんなところにいたくありません。あなた達の誰一人として知らないのですから。誰かが私をここへ押し込めたのです。あんな手荒なことをするなんて・・・入ってきて椅子に腰掛けたら、今度はあなたがまるで囚人のように私の両手をつかむのですから・・・。なぜこんなところへ押し込めるのですか(マーシーバンドによってウィックランド夫人の身体に乗り移らせられたこと)

博士「あなたは多分、暗いところにいらしたのでしょう?」
スピリット「誰かに無理矢理ここへ連れて来られたみたい」

博士「それには何かワケがあったんでしょ?」
スピリット「わけなんか知りませんよ。あんな酷い目に遭わされないといけないわけなんか、身に覚えはありません」

博士「なぜそういう扱いをするのか、そのわけは聞かされなかったのですか」

スピリット「その扱いの酷さといったら、ありませんでしたよ。もう死ぬかと思いましたよ。あっちへこっちへ、いたるところへ追いまくられどおしで・・・。あんまり酷いので、もう腹が立って腹が立って、八つ当たり気分ですよ」

博士「その人達は、あなたにどんなことをしたというのですか」

スピリット「それが、実に恐ろしいのです。私が歩き回ると、酷い目に遭うのです。何だかよく分からないのですが、時には私の全神経が叩き出されるような感じなのです。まるで雷と稲妻に襲われたみたいな時もあります(静電気のよる反応)。それはそれは凄い音です。あの凄い音――ああ、怖い! 私はもう我慢できないわ。これから先もあんな目に遭うのは、真っ平ごめんだわ! 」

博士「真っ平ごめんと思って頂けるのは、私達にとっては有り難いことです」
スピリット「私は招かれざる客ってわけなの?それならそれで結構よ! 」

博士「あなただけ特別というわけではないのですがね」
スピリット「これまで辛い事ばかりでした」

博士「亡くなられてどれくらいになりますか」

スピリット「それはいったい、どういう意味ですか? 私は死んでなんかいません。この通りピンピンしております。むしろ若返ったみたいです」

博士「なんだか他人になったような感じがしたことはありませんか」

スピリット「時折妙な気分になることはあります。特に例のものが私を打ちのめす時に。嫌な気分です。こんな苦しみに遭ういわれはないはずです。なぜだか分からないのです」

博士「多分それがあなたにとって必要だからでしょう」

スピリット「好きな時に好きな所へ行けて良いはずなのに、なんだか自分の意志がなくなったみたいです。行こうとしてみるのですが、すぐに誰かが私を捕まえて、ある場所へ押し込め、そこで気を失いかけるほど打ちのめすのです。そうと知っていれば行かないのですが、なんだか私を好きに連れ回す権利をもった人物がいるみたいです(患者のこと)。でも、私の方こそ、その人物を連れ回す権利があるはずだと思うのです」

博士「その女の人とは、一体どういう関わりがあるのですか。あなたはあなたの生き方をするというわけにはいかないのですか」

スピリット「私はそのつもりで生きているのですが、その女性が私の邪魔をするのです。それで私が叱ると、逆に私を追い出そうとするのです。私もその人を追い出そうとします。そんな調子で、大変な取っ組み合いになるのです。私にだってそこにいる権利があるはずなのに、なぜいけないのかが分からないのです」

博士「多分あなたの方が、その人の邪魔をしているのでしょうね」

スピリット「その人はすぐ私を追い出そうとするのです。私は何も迷惑なんかかけていないはずなのに・・・。ただ、時たま話しかけるだけなのです」

博士「話しかけるのが通じてますか」

スピリット「時たま通じるみたいです。通じるとすぐさま私を追い出そうとするのです。なかなか礼儀正しい方なのですが、カッとなるところがあって・・・。カッとなると、すぐ例のところへ行くものだから、私は気が遠くなるほど酷い目に遭うのです。とても怖くて・・・。私の方からその人を連れ出す力はありません。その人の方から私を追い出そうとしているのです」

博士「あなたは、その方につきまとわない方がいいですよ」

スピリット「だって、私の身体なんですからね。あの人のものではありません。あの方にはそこに居座る権利はありません。なぜ私の邪魔をするのかが分からないのです」

博士「あなたの自分勝手な振る舞いに抵抗しているのでしょうよ」

スピリット「私にも生きる権利があるはずです――そうですとも」

博士「あなたは自分が死んだことに気づかないで、これまでずっと一人の女性に取り憑いていたのです。あなたはスピリットの世界へ行くべきで、こんなところをうろついていてはいけません」

スピリット「私がうろついているとおっしゃるんですか? そんなことはありません。誰にも迷惑はかけてはおりません。ただ、少しばかり喋りたいことがあって・・・」

博士「それが『雷』や『酷い目』に遭う原因なのです」

スピリット「最初の頃はなんとか我慢できましたが、最近はとても酷くて・・・。どうしてこんなことになったのか、少し考えないと・・・」

博士「今、それが分かりますよ」

スピリット「あんな怖いものを止めにしてくれるのなら何でもやります」

バートン夫人「(自分を悩ませていたのは、この霊であることを確認して)私もあなたにうんざりですよ。どなたです、あなたは?」

スピリット「赤の他人ですよ」

バートン夫人「お名前は何とおっしゃるのですか」

スピリット「私の名前?」

バートン夫人「あなたにも名前があるでしょう?」

スピリット「キャリーです」

バートン夫人「キャリー・何とおっしゃいます?」

スピリット「キャリー・ハッチントン」

バートン夫人「どこにお住まいでしたか」

スピリット「テキサス州のサンアントニオ」

バートン夫人「すると、ずいぶん前から私に憑いていたのね」(バートン夫人は永いことサンアントニオに住んでいた)

スピリット「あなたの方こそ私に永い間つきまとってるじゃないの。なぜそんなに私の邪魔をするのか、それだけが知りたいわね。今の私には、あなたの姿がはっきり見えるわ」

バートン夫人「何という通りに住んでましたか」

スピリット「あちらこちらを転々としたわ」

博士「あなたはもう肉体を失っておられるのですが、そのことが実感できませんかね。ずっと病気をなさっていたことは覚えてますか」

スピリット「最後に記憶しているのはエル・パソに住んでいたことです。それ以後のことは何一つ記憶にありません。エル・パソに行ったことまでは覚えておりますが、そこを離れたという記憶はございません。どうやら今もエル・パソにいるみたいです。ある日、大病を患ったことを覚えています」

博士「おそらく、その病気でお亡くなりになったのですよ」

スピリット「エル・パソのあと、どこへ行ったかは知りません。かなり遠くまで行きました。列車で行きましたが、なんだか自分が空っぽになったみたいでした。誰一人話しかけてくれず、私はただその夫人(バートン)のあとを召使いみたいに付いて回りました。不愉快でなりませんでしたけどね」

バートン夫人「あなたはその間ずっと歌い通しだったので、私は気が狂いそうでしたよ」

スピリット「だって、あなたは私の言うことを一つも聞こうとしないから、注意を引くためにはそうでもするほかなかったのですよ。あなたが列車に乗るものだから、私は家からも家族からも遠く離されてしまい、それが辛かったのです。お分かりかしら、この気持ち?」

バートン夫人「あなたの方こそ私の気持ちを理解していないのよ」

博士「ご自分の身の上に何が起きたか、お気づきになりませんか」

スピリット「あの雷みたいなものだけは、もうご免です。私は退散しますよ」

博士「ご自分の身の上をよく理解してください。あなたは今はスピリットとなり、愚かにも人間に取り憑いているのです。あなたにはもう肉体はないということを悟りなさい。おそらくあなたは、重病になられた時にそのまま死なれたのです」

スピリット「幽霊と話が出来るのかしら?」

博士「実際にあることです」

スピリット「私は幽霊なんかじゃありません。だって幽霊じゃ喋れないじゃないの。死んだのなら、その辺に転がっているはずよ」

博士「死ねば肉体はその場に転がっていますよ。しかしスピリットは転がってはいません」

スピリット「スピリットは神のもとへ戻ります」

博士「その神というのはどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国です」

博士「天国はどこにあるのでしょう?」
スピリット「イエスさまがいらっしゃるところです」

博士「バイブルには『神は愛なり。愛の中に住める者は神の中に住めるなり』とありますが、その神はどこにいるのでしょう?」

スピリット「天国でしょうよ。とにかく、そういう難しいことは私何も知りません。ただ、あの雷みたいな衝撃のために私が地獄のような苦しみを味わっていることだけは確かです。私にとって何の役にも立っていません。真っ平ご免です」

博士「だったら、この夫人に近づかないことです」
スピリット「今その人の姿がよく見えます。ちゃんとした会話が出来ます」

博士「でしょ? でも、これが最後となることでしょうね」
スピリット「どうしてですか」

博士「この場を離れたら、ご自分が別の人間の身体を使って話していたことに気づかれますよ。その別の人間というのは私の妻のことです」

スピリット「ご冗談を! あなたのことをもう少しは物分かりのいい方と思ってましたが・・・」

博士「突拍子もないことに思えるのも無理はありませんが、でも、この手をご覧なさい。間違いなく自分の手ですか」

スピリット「私の手ではなさそうですが、このところ変なことばかり起きているものですから、頭の中がこんがらがってるんです。あの婦人のすることは気狂いじみているのです。私はそれに振り回されて、一体何をしようとしているのか、なぜそんなことをするのか、そればっかり考えているのです」

博士「あなたが出て行ってくれれば彼女は喜びますよ」

バートン夫人「キャリーさん、年齢はいくつですか」

スピリット「女性は年齢を言いたがらないことぐらい、あなたもご存知でしょう?」

博士「ことに未婚の方はね」
スピリット「どうかそれだけはご勘弁を。適当に想像なさってください。私の口からは申しませんから」

博士「ご結婚はなさいましたか」
スピリット「ええ、ある男性と結婚しましたが、好きになれませんでした」

博士「その方の名前は?」

スピリット「それは言えません。絶対に口にしたくありません。彼の姓を名乗りたくもありません。私の名はキャリー・ハッチントン――これが私の本名であり、彼の姓は使いたくありません」

博士「ところで、霊界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「なんという馬鹿げた質問ですこと! 」

博士「あなたには馬鹿げたことに思えるかもしれませんが、霊界は実際にあるのです。霊的なことは人間の常識ではバカバカしく思えるもののようですが、実はあなたはもう肉体をなくしてしらっしゃるのです」

スピリット「なくしてなんかいるものですか。私はずっとこの婦人と一緒に行動しているのですが、私の気に食わないことが一つだけあります。それは、食べ過ぎるということで、もりもり食べて元気をつけるものだから、私は力で敵わなくなるのよ。私のしたいように出来ないということです。

(バートン夫人に向かって)あなた、少し食べる量を減らしてよ。私はいつもあれは食べるな、これは食べるなと言ってるのに、あなたはちっとも感づいてないわね。聞こうともしないのだから・・・」

バートン夫人「私が行きなさいと言っていたのは、ここのことですよ。でもあなたは、どうしても一人では行こうとしなかったわね」

スピリット「分かってますよ。でもあなたは、私をこんな雷の鳴る場所へ連れてくる権利などありませんからね。あんな酷い目に遭うんだったら、一緒になんかいたくないわ」

博士「雷の仕掛けは隣の部屋にあるのですが、少し掛けてあげましょうか」
スピリット「いえ、結構です。もうたくさんです」

博士「だったら、私の言うことをよく聞きなさいよ。言う通りになされば、あんなものは必要ないのですから。いいですか、あなたは何も知らずにいるスピリットなのです。今、置かれている事情を知らないという意味です。あなたはもう肉体を失ったのです。ご自分では気がついていないようですが・・・」

スピリット「そんなことが、あなたにどうして分かるのです?」

博士「あなたは今、私の妻の身体を使って喋っているのですよ」

スピリット「私はこれまで一度もあなたにお目にかかったことがないのですよ。その私があなたの妻だなんて、そんな馬鹿なことがこの広い世の中に有り得ますか。冗談じゃないわ?」

博士「私もそれはご免こうむりますよ」
スピリット「こちらこそ! 」

博士「実はこれ以上、私の妻の身体を使って頂くと困るのです。あなたはもう肉体がなくなっていることを悟らないといけません。この手(ウィックランド夫人の手)をご覧なさい。ご自分のものだと思われますか」

スピリット「近頃私の身の上に色々と変化があったものですから、頭が変になりそうなのです。もう、うんざりですわ」

博士「これ! キャリー、いい加減に目を覚ましなさい」

スピリット「私はちゃんと目を覚ましてますよ。そんな言い方は止めてください。さもないと、あなたの聞いたこともないことをある人に言わせてやりますからね」

博士「これ、キャリー! 」
スピリット「私はミス・キャリー・ハッチントンでございます」

バートン夫人「キャリー、先生のおっしゃることをよくお聞きなさい」

スピリット「私は誰の言うことも聞く気はありません。きっぱりそう申し上げておきます。あの人になったりこの人になったり。もうこの先どうなっても平気です」

博士「今、あなたは、私の妻の身体を使って喋っていることをご存知ですか」

スピリット「馬鹿なことをおっしゃい! そんな気狂いじみた話は聞いたことがないわ! 」

博士「そろそろ分別心を働かせないといけません」

スピリット「分別心? 私は立派な分別心をもっておりますけど・・・。では、あなたは完璧な人間ですか」

博士「もちろん完璧ではありません。私が言ってるのは、あなたはもうスピリットとなっているのに、そのことを理解せずに、身勝手なことをしているということです。あのご婦人をずっと苦しめていらっしゃるのです。それで、例の『雷』を使ってあなたを追い出したわけです。あなたが認めようが認めまいが、今はもうあなたはスピリットなのです。その事実についてあなたは無知でいらっしゃる。素直に言うことを聞かないと、隣の治療室へ連れてって、またあの『雷』を見舞いますよ」

スピリット「あれはもう勘弁してください」

博士「だったら、その態度を改めなさい。生命に死は無い――肉体を失っても人間の目に見えなくなるにすぎないことを、素直に理解しなさい。(あなたからは私達が見えても)私達からは、あなたは見えてないのですよ」

スピリット「私はお二人とは何の関係もございませんので・・・」

博士「私達はあなたの力になってあげたいのです。なんとかして今の身の上の真実を分からせてあげたいと思っているのです」

スピリット「お力添えは無用ですよ」

博士「どうしても言うことを聞かないとなったら、高級霊の方達に連れて行って頂いて、牢に入れてもらいますよ」

スピリット「私に脅しをかけるつもりなのね! そんなことをしたら、あなたこそ酷い目に遭いますよ。覚えてらっしゃい! 」

博士「その意固地な態度を改めなさい。あたりをご覧なさい。あなたに気づいてもらおうと思っている人が目に入るでしょう? その人を見たらあなたは泣き出すでしょうよ」

スピリット「私が泣いたりなんかするものですか。反対に歌い出しちゃいますよ」

博士「お母さんは、今どこにいますか」

スピリット「永いこと会っておりません。え、母ですか? ああ、母ね! 母ならもう天国へ行ってますよ。立派な女でしたからね。今頃は神と聖霊と、その他もろもろの人達と一緒にいることでしょうよ」

博士「あたりを見回してご覧なさい。そのお母さんがいらっしゃいませんか」

スピリット「ここは天国じゃありませんよ。とんでもない! もしもここが天国だったら、地獄より酷いところですよ」

博士「お母さんを探し出すことです。今のあなたの恥ずべき状態を聞かせてくれますよ」

スピリット「私は何も恥ずべきことはやっておりません。一体なぜ私にあんな雷なんか落としたり牢へ入れたりなさるんです? 私はそこのご婦人と話し合って取り決めたことがあるのです」

博士「この方は私のところへ来られて、あなたを取り除くための取り決めをなさったのです。そこで電気仕掛けで、あなたをこの方の身体から追い出したというわけです。もうこの方はあなたの仲間ではありません」

スピリット「そうね、みんなしばらく私から離れちゃったわね(憑依霊のこと)。見当たりませんもの。あの背の高い男をなぜ追い出したのですか」

博士「それは、自分の身体が大事だからですよ。地縛霊に苦しめられたくはありませんもの。あの連中と一緒がいいのですか」

スピリット「あなたのおっしゃってることの意味が分かりません」

博士「あなたはご自分がこの婦人を悩まし、地獄のような毎日を送られていたことがお分かりになりませんか」

スピリット「(バートン夫人に向かって)私はあんたを悩ませてなんかいませんよ」

バートン夫人「今朝だって私を三時に起こしたじゃありませんか」
スピリット「あなたに寝る資格はないわよ」

博士「あなたはあなたなりの生き方をしなきゃダメです」
スピリット「そうしてるつもりです」

博士「言うことを聞かないと暗い牢の中で暮らすことになりますよ」
スピリット「どうしてそんなことが言えるのよ?」

博士「あなたに、いつまでもそのままでいてくれては困るのです。もっと素直になって助けを求めた方が身の為ですよ。私は妻と共にこの仕事を何年もやってきました。妻はこうやっていろんな性格のスピリットに身体を使わせてあげて救ってあげているのです」

スピリット「(皮肉っぽく)まあ、立派な奥さんですこと!」

博士「恥を知ることも大切です。いかがです、お母さんの姿が見えませんか」

スピリット「見たいとも思いませんね。天国から呼び戻すこともないでしょう」

博士「天国というのは、『幸せである状態』のことですから、あなたのような娘がいては、お母さんも天国なんかにいる心地はしないでしょう――幸せにはなり切れないでしょう。いかがです、もしもあなたが天国にいて、地上に一人の娘がいて、その娘が今のあなたのような状態でいるとしたら、あなた平気でいられますかね」

スピリット「私はへそ曲がりではありません! 私のどこがいけないというのですか。おっしゃってください!」

博士「それはもう言いました。あなたは私の妻の身体に取り憑いているのです」

スピリット「私にどうしてそんなマネが出来るというのです?」

博士「物質の法則を超えた霊的な法則があるのです。そして今はもうあなたは一個のスピリットなのです。スピリットや精神は肉眼では見えないものです。あなたはわがままで、物事を理解しようとなさらないけど・・・」

スピリット「ここは天国なんかじゃありません」

博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」

スピリット「お願いだから冗談はやめてよ! 私はどうやってここに来たのかしら?」

博士「こちらの婦人に取り憑いてきたのです。そういうわけです。おかげでこの方は、あなたを取り除くために、あの雷を受ける羽目になったのです」

スピリット「お馬鹿さんですね、そんなマネをするなんて」

博士「なんとしてもあなたに離れてもらいたい一心からなのです。なんとしても離させるでしょうよ」

スピリット「あの雷だけはもうご免こうむります」

博士「素直に言うことを聞かないと、高級霊の方達があなたの嫌がるものをお見せしますよ」

スピリット「(ある幻影に怯えて)それだけは止めて!」

博士「お望みではなくても、こうするしかありません」
スピリット「そんなのないわ! 」

どうしても理解させることが出来ないので、このスピリットはマーシーバンドに引き取ってもらった。

第2項 バートン夫人の憑依霊2
スピリット=ジミー・ハンチントン
患者=バートン夫人

霊媒に乗り移るとすぐ両足の靴を蹴って脱ぎ捨て、ひどくイラついている様子。

博士「どうなさいました? 何か事故にでも遭ったのですか。(霊媒の両手をしっかりと押さえて)靴を履いていませんね?」

スピリット「今脱いだんだ! 」

博士「お名前を聞かせて下さい」
スピリット「名前なんか知らんよ」

博士「どちらからおいでになりました?」
スピリット「そんなこと言う必要ないね」

博士「ぜひお名前を窺いたいものですな。どうなさったんですか。どうもご機嫌がよろしくなさそうですな」

スピリット「よくないね」

博士「このところ何をなさってましたか」
スピリット「何もしてないよ。ただ歩き回っているだけだ」

博士「その他には?」

スピリット「そうさな、特にこれといって、別に・・・どこかに閉じ込められたみたいな気がするな」(バートン夫人のオーラの中のこと)

博士「どんな具合に?」
スピリット「それは分からんが、とにかく出られなくなってしまった」

博士「もっと詳しく説明してくれませんか」
スピリット「説明なんかできんよ」

博士「誰かが話をしているのが聞こえましたか」
スピリット「ああ、大勢の人間が喋ってたな」

博士「どんなことを言ってましたか」

スピリット「あれこれ、好きなことを言ってたね。みんな自分が賢いと思ってるんだよな」

博士「あなたにも話すチャンスはあったのでしょ?」

スピリット「あったけど、いつも一人の女がいて、そいつが俺の言おうとすることを全部先取りするもんだから、頭に来たよ。俺にだって喋るチャンスをくれてもいいと思うんだ。みんなが喋ると、その女が喋り出すんだな。いったん女が喋り出すと、男には口を挟むチャンスはないよ」

博士「結婚はなさってましたね?」
スピリット「勿論さ。結婚してたよ」

博士「うまくいってましたか」

スピリット「どう言えばいいのかな・・・ま、言い訳はよそう。あまり幸せだったとは言えないね。女はいつも喋り過ぎるんだよ。男をそっとしておくということが出来ないんだな」(ここでいう『女』とは憑依霊のこと)

博士「何のことを喋っていましたか」

スピリット「例の女はよく喋る奴でね。のべつ喋りまくるんだ(バートン夫人はいつも独り言を言い続けていた)。少しの間も黙ってはいられないんだな。大人しくさせてやりたい気持ちに何度かなったけど、そのうち新参者が入ってきて、また喋りまくるんだ。もう嫌になってね。それで俺は出て来たんだ。あんなひどい連中はいないよ」

博士「何か変わったことでも起きたんですか」

スピリット「頭のまわりで稲光がして、それきり自分がどこにいるのか分からなくなった(バートン夫人に電気療法を試みた)。遠くで光ったと思ってたんだが、それが見事にこの俺様に命中しちゃってさ!」

博士「その瞬間どうしようと思いましたか」

スピリット「稲妻を取っ捕まえて、俺の頭に当たらないようにしてやろうと思ったんだけど、ことごとく命中するんだな。一度も当たり損ねがないんだ。稲妻というのは、そういうもんじゃなかった――そう滅多の当たるもんじゃなかった。が、今度のは、みな当たるんだ。こんなの初めてだ。今もあんたの目の前にチラチラするものが見えて、おっかなくて仕方が無いが、あの女は稲光がしている時でも平気で喋り続けるんだから・・・」(バートン夫人は電気治療を受けている間でも独り言を言い続けていた)

博士「どんな話をするんですか」

スピリット「下らんことさ。あの女はボスでありたいだけで、俺もボスでありたいから、結局二人が一緒にいることになってしまう」

博士「その女性はどんなことを喋るのですか」

スピリット「女がどういうものか、あんたもよく知ってるはずだ。とにかくよく喋るんだなぁ。どうしようもないよ」

博士「その人からあなたに話しかけることがありますか」

スピリット「もう、のべつ悩まされ通しさ。なんとかして黙らせたいんだけど、これ以上俺には力が出せそうにないよ。そう思ってるうちに別の女が出て来て、同じように喋り始めるんだ。もう、うんざりだよ。女を黙らせるいい方法を知らんかね? たとえご存知でも、手こずるだろうよ」

博士「あなたのお名前は?」
スピリット「永いこと呼ばれたことがないね」

博士「どちらから来られましたか。今カリフォルニアにいらっしゃるんでしたかね?」

スピリット「いや、テキサスだ」

博士「子供の頃、お母さんはあなたのことを何と呼んでましたか」

スピリット「ジェームズが本当なんだが、みんなジミーって呼んでた。それにしても、この俺は、一体どうなってるんだろうな、まったく! あの雷が俺の膝から足へ、頭から足へと当たりやがる。とにかく合点がいかんのは、必ずこの俺に命中するってことだ」

博士「今、おいくつですか」

スピリット「ま、五十ばかりになる男性と言っておこう。ただ、この年齢になるまで、あんな稲妻は見たことが無いし、なんとしても理解できないのは、その稲妻が当たっても、何一つ燃えたためしがないということだ。

それにしても、昨日もいつもの寝所に入ったんだが、あんなにひどい夜はなかったね。どいつもこいつも、悪魔ばかりだった(憑依霊のこと)。今もあそこに一人立ってるが、あれは、昨日来た奴だ」

博士「ジミー、死んでどのくらいになりますか」
スピリット「それはどういう意味かね?」

博士「つまり肉体を失ってからどのくらいになるかということです」
スピリット「肉体を失ってなんかいないよ」

博士「どうも感じが変だということを感じたことありませんか」
スピリット「ずっと変だよ」

博士「テキサスで石油関係の仕事に携わったことはありませんか」

スピリット「どこで働いていたかよく分からん。とにかく何もかも変なんだ」

博士「どういう仕事場で働いていましたか」
スピリット「鍛冶屋だ」

博士「今年は何年だかご存知ですか」
スピリット「いや、知らんね」

博士「この秋の選挙はどうしますか。誰に投票するつもりですか」
スピリット「まだ分からんね」

博士「今の大統領をどう思われますか」
スピリット「好きだね。なかなかやるんじゃないかな?」

博士「大統領について何か特別に知ってることがありますか」
スピリット「彼はいい。ルーズベルトは一点非のうちどころがないよ」

博士「では、ルーズベルトが大統領なんですね?」

スピリット「無論、そうさ。当選したばかりだ。マッキンレーも中々の人物だったんだが、マーク・ハンナが彼を牛耳ってたな。が、俺はもう随分永いこと政治のことには関心がないよ。それに、あの女に黙らされてるしね。四六時中喋りやがって、俺はもう気が狂いそうだよ」

博士「そんなに喋るのは、一体どういう女性なんでしょうね?」
スピリット「あんたにはその女が見えないのかい?」

博士「ここにいないのでは?」

スピリット「いや、いるとも。ちゃんといますよ。その人だよ」(バートン夫人を指差す)

博士「どういう話をするのですか」
スピリット「下らんことばかりさ。もう、うんざりだよ」

博士「特にどんなことを言ってますか」

スピリット「これといって、特にないね。あいつにはセンスというものがないんだよな。時折この俺を小馬鹿にすることがある。いつか仕返しをしてやるつもりだ。それにしてもしぶといよ、あいつは・・・」

博士「ところで、あなたは今どういう状態にあるのか、その本当のところを知って頂きたいと思うのですが。実はあなたは肉体を失って、今はスピリットになっておられるのですよ」

スピリット「俺にはちゃんと肉体はあるよ」

博士「その肉体はあなたのものではありませんよ」
スピリット「じゃあ、誰のだ?」

博士「私の妻のものです」

スピリット「冗談も休み休み言ってくれよ! 俺があんたの奥さんだなんて! 男がどうして女房になれるんだよ。バカバカしい!」

博士「あなたは今はもうスピリットなのです」

スピリット「スピリット? 幽霊(ゴースト)だって言うのかい? 馬鹿もいい加減にしてくれよ!」

博士「スピリットもゴーストも同じことです。」

スピリット「ゴーストがどんなものか、スピリットがどんなものか、俺はちゃんと知ってるよ」

博士「どちらも同じです」(と霊媒の手を取りながら言う)

スピリット「おい、おい、男が男の手を握るのは、やばいよ。どうせ握るのなら、どこかのご婦人にしなよ。男同士は手を握り合わないものだ。ぞっとするぜ」

博士「その女性は何と言ってるんでしょうね?」
スピリット「ただ喋りまくるだけで、ロクなことは言ってないよ」

博士「若い方ですか、年を取っていますか」
スピリット「そう若くはないね。俺は見ただけで胸がむかつくんだ」

博士「あなたが今はもうスピリットであると私が言ったのは、ありのままの事実を申し上げてるんですよ」

スピリット「では、この私がいつ死んだというのだね?」

博士「かなり前のことに相違ないでしょうね。ルーズベルトが大統領だったのは、もうずいぶん前の話ですから。ルーズベルトも今ではあなたと同じスピリットになっています」

スピリット「俺と同じ? おい、おい、彼は死んだと言うのかい?」

博士「あなたも死んだのです」

スピリット「こうしてここにいて、あんたの言うことが聞こえている以上、死んでるはずがないじゃないか」

博士「あなたは肉体を失ったのです」
スピリット「おい、おい、そんなに手を握らんでくれよ。気持ちが悪いよ」

博士「私は、私の妻の手を握っているのです」
スピリット「奥さんの手を握るのは勝手だが、俺の手は離してくれよ」

博士「この手があなたのものだと思いますか」
スピリット「これは俺の手じゃない」

博士「私の妻の手ですよ」
スピリット「でも、俺はあんたの奥さんじゃないからね」

博士「あなたは私の妻の肉体を一時的に使用なさっているのです。ご自分の肉体は、とうの昔になくしておられるのです」

スピリット「どういう具合にしてそういうことになっちゃったのかね?」

博士「私には分かりません。あなたはここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」

スピリット「冗談じゃない、どうして俺がカリフォルニアなんかに来れるんだ? まったくの文無しだったのに。

あのね、今ここに二人の女性がいるんだが、一人はあまり喋らない。どうやら病気らしい(バートン夫人に憑依している別のスピリット)。多分もう一人の女がやたらに喋るもんだから、あんたもこんがらがっちゃったのだろう。

頼むから、俺の手を握らんでくれんかな。窮屈で仕方が無いよ。どこかのご婦人と二人きりというのなら話は別だけどな。両方の手を握らないと気が済まないのかね?」

博士「大人しくしないから、両手を握らざるを得ないので。さ、これ以上時間を無駄にするのは止めましょう」

スピリット「俺も、時々、両手を遊ばせておれないほど忙しくなりたいと思うことがあるよ」

博士「では、仕事をあげましょう」

スピリット「ほんとかね、それは? そいつは有り難い。何でもいいから仕事をくれれば嬉しいね。馬に蹄鉄を打つ仕事なんかどうかな? 俺は昔は蹄鉄を打つ仕事をやってたんだ」

博士「どこの州で?」
スピリット「テキサス。でかい州だよ」

博士「ずいぶん放浪したんじゃないのですか?」

スピリット「うん、相当な。ガルベストン、ダラス、サンアントニオ、その他随分行ったな」

博士「あなたは今はもうスピリットとなっていて、少しの間だけ私の妻の身体に宿って話をすることが許されているのです。私達には、あなたの身体は見えてないのです」

スピリット「おい、おい、あの鬼みたいな連中を見ろよ。まるでいたずら小僧みたいに跳ね回ってるよ(憑依霊のこと)。みんなあの婦人(バートン夫人)を取り囲んでいるよ」

博士「あなたがどいてくれれば、連中もみんな一緒に片付くのですがね」
スピリット「ご免だね、それは。(ネックレスに触りながら)何だ、こりゃ?」

博士「私の妻のネックレスですよ」
スピリット「あんたの奥さん?」

博士「このたびは、あなたにぜひ知って頂きたいことがあってお連れしたのです。あなたは例のご婦人から火であぶり出されたのです」

スピリット「いかにも。稲妻でな。あんなにひどいのは見たことが無い。テキサスでもアーカンソーでも、雷と稲妻のお見舞いはよく食らったものだが、今度みたいに、光る度に直撃を食らうことはなかったんだが・・・」

博士「もう、これからは雷も稲妻もありませんよ」
スピリット「本当かね? そいつは有り難い」

博士「お母さんはテキサスにお住まいでしたか」

スピリット「そうだ。だが、もう死んじゃったよ。葬式に立ち会ったから間違いないよ」

博士「それは、お母さんの肉体の葬式に立ち会ったということで、お母さんの霊、魂、ないしは精神の葬式ではありませんよ」

スピリット「母は天国へ行ったと思うね」

博士「見回してご覧なさい。お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「どこに?」

博士「この部屋にですよ」

スピリット「ここは、一体どこなんです? 俺があんたの奥さんだと言われても、俺はあんたには一度も会ったことがないからね」

博士「あなたは私の妻ではありません」
スピリット「でも、さっき俺のことをそう言ったじゃないか」

博士「あなたが私の妻だと言ったのではありません。あなたは今、一時的に私の妻の身体を使用していると言ったのです」

スピリット「まいったね、これは。一体、どうやったら奥さんの身体から出られるのかね?」

博士「私の言うことをよく聞きなさい。いたずら小僧達は何と言ってますか」

スピリット「このまま留まりたいと言ってるね。だが俺は、みんな一緒に出るんだと言い聞かせてるんだ、大声でね」

博士「やっぱり一緒に出てほしいでしょう?」
スピリット「まあね」

博士「彼らに心を入れ替えさせて、自分が今どんな状態にあるかを分からせることによって、あなたは彼らを大いに救ってあげることになるのです。彼らは助けが必要なのです。あなたも含めて、みんな本当の事情が分からずに、あの婦人に迷惑をかけていたのです。みんなスピリットの世界へ行って、どんどん向上できるのです」

スピリット「あのご婦人も行くのかな? 他にも随分いるよ。まるで集団だよ。でも、俺はそのうちの一人として知ってる奴はいないね」

博士「誰か顔見知りの人が見当たりませんか。少し落ち着いて、じっくり見てご覧なさいよ」

スピリット「(興奮ぎみに)おや、ノラがやってきた!」

博士「どういうご関係ですか」
スピリット「ノラ・ハンチントン――俺の妹だよ」

博士「あなたの名前がジミー・ハンチントンじゃないか、尋ねてみなさい」

スピリット「そうだと言ってる。ずいぶん久しぶりねとも言ってる。(急に戸惑いながら)待てよ、妹は死んだはずだが・・・」

博士「妹さんに事情を聞いてごらんなさい」

スピリット「一緒においで、なんて言ってるけど、一体どこへ行くんだろう?」

博士「何て言ってますか」

スピリット「霊界だとよ――信じられんな、あいつの言ってることは・・・」

博士「妹さんは嘘をつく人だったんですか」
スピリット「そんなことはないよ」

博士「だったら、今だって嘘をつくはずはないでしょう?」

スピリット「俺を随分探したけど、どうしても居場所が分からなかったと言ってる」

博士「妹さんは今までどこにいたんでしょうね?」

スピリット「あいつはもう死んでるんだ。俺はあいつの葬式に出たから間違いないよ。生き埋めにされたのではないことは確かだ」

博士「あなたが出席したのは妹さんの肉体の埋葬式で、霊魂は埋葬されてはいませんよ」

スピリット「じゃあ、あれは妹のゴーストというわけ?」

博士「妹さんはしっかりしたスピリットになっておられるはずですよ。そのあたりのことは私から言うよりも、妹さん自身から聞いてごらんなさいよ」

スピリット「『一緒に行きましょう、あの大勢の人達もお連れしましょうよ』と言ってる。今は使節団の一人になって、救える人なら誰でも救ってあげてるらしい。不幸な人達を救ってあげてるんだそうな。俺もその一人ってわけだな?」

博士「例のおしゃべりの女性にも一緒に行くように言ってあげてください」

スピリット「出てしまうと身体がなくなってしまうと言ってるよ」

博士「こう言ってあげてください――肉体の代わりに霊体というのがあり、もう肉体はいらないのだと。そして、一緒についてくれば幸せになる方法を教えてくれる人がいるということもね。例のいたずら小僧達も連れてってくださいよ」

スピリット「全部は無理だよ。第一、みんなついてくる気になるかどうかも分からんしね」

博士「今よりも幸せになれることを実際に示してあげれば、ついていく気になるでしょう。多分あの人達は、生涯に一度も幸せになれるチャンスがなかったのでしょうからね」

スピリット「俺だってこんなことは思いもよらなかったことさ」

博士「ですから、全面的に彼らを咎めるつもりはありませんよ。もっともっと幸せになる生き方があることを教えてあげれば、みんなついてきますよ」

スピリット「では、一体ここはどこですか」

博士「カリフォルニアです」
スピリット「カリフォルニアのどこですか」

博士「ロサンゼルスです」

スピリット「あんたがロサンゼルスにいるからといって、俺もロサンゼルスにいるとは限らないだろう?」

博士「今ここにいるのに、他のどこに存在できるのですか」

スピリット「それも一理あるな。テキサスのダラスにいたことまでは覚えてるよ。たしか馬に蹄鉄を打ってた時に後頭部をぶたれたんだ。奴は俺を殺したってわけか?」

博士「殺したというか・・・要するに、あなたを肉体から離れさせたわけです。死んで消えてしまう人はいません。さ、早く行かないと妹さんが待ちくたびれますよ」

スピリット「行けるものなら今すぐ行ってもいいが、歩いて行かなきゃならないじゃないか」

博士「歩いて行く? 私の妻に宿ったまま? あなたに是非新しいことを勉強してほしいですね。妹さんと一緒にいる、と念じるだけでいいのです。次の瞬間には妹さんのところへ行ってますよ。思念で進むのです」

スピリット「へえ、そいつぁいいなあ」

博士「さあ、これ以上その身体に留まっていてはいけません」
スピリット「面白い言い方をしましたな」

博士「私の妻の身体ですからね」
スピリット「この身体から出たあとは、どんな身体を使うのかね?」

博士「霊体ですよ。私達の肉眼には見えないのです」
スピリット「この身体から飛び出して、うまくその霊体に入れるのかね?」

博士「妹さんが教えてくれますよ。妹さんと一緒にいると、念じるだけでいいのです。肉体はいらないのです」

スピリット「なんとなく眠気をもよおしてきたな」

博士「妹さんについていって、色々教わりなさい。スピリットの世界について新しいことを色々教えてくれますよ。例の仲間の人達も連れてってやりなさい」

スピリット「(仲間に向かって)おい、お前達、俺についてくるんだ。みんなだぞ」

博士「ついてきそうですか」

スピリット「大丈夫です。さ、お前達、ついてくるんだ! では、さようなら」

第3項 バートン夫人の憑依霊3
その後の招霊会に『ハリー』という名のスピリットが出現して、バートン夫人を悩ませているもう一人の憑依霊について、興味深い話をしてくれた。

博士「どちらからおいでになりましたか」

スピリット「今どこにいるのかも分からんのです。自分がどうなっているのかも分からんのです」

博士「事情を知りたいのですか」
スピリット「何がどうなっているのかが分からんのです」

博士「何かあったのでしょう?」
スピリット「それを知りたいくらいです」

博士「最近は何をしてましたか」
スピリット「分かりません」

博士「お名前を教えて下さい。名前くらいご存知でしょう?」
スピリット「そりゃ、まあーええと、知ってると思うんだけど・・・」

博士「ここはどこだと思いますか」
スピリット「知りません」

博士「いえ、ご存知のはずです」

スピリット「知りません。何もかもが変で、何がどうなってるのか、さっぱり分かりません」

博士「振り返ってごらんになって、何か思い当たることがありませんか」

スピリット「振り返るったって、背中に目がついてないもんで・・・」

博士「思い出してみなさいという意味です」
スピリット「背中のことをですか」

博士「いいえ、過去のことをです。考える力を働かせてごらんなさいよ」
スピリット「何も分かりません」

博士「そんなに考え不精では困りますね」
スピリット「人間に何が出来るんでしょうね?」

博士「この肉体は女性ですが、あなたは男性ですか女性ですか」

スピリット「男性ですよ。あの人も男性で、他の人達は女性です。私はずっと男性です。女性になったことなんか一度もありません。これからもなりません。私は男ですとも」

博士「その手をごらんなさい。そんな手をどこで仕入れられましたか?」
スピリット「これは私の手じゃない」

博士「足をご覧になってください」

スピリット「これも私のものではない。私は女になったことなんかない。手も足も女のものはご免だ。他人の身体なんか借りたくないね」

博士「年配の方でしょうか」
スピリット「ガキじゃないよ」

博士「年齢はどうやらおありのようですが、知識がないようですな」
スピリット「ないね。大した知識があるとは思ってない」

博士「知識がおありであれば、こんなことにはならなかったでしょうからね」

スピリット「それとこれとは別だ」

博士「あなたに一番欠けているのは知識なのです。お名前を教えて下さい。メアリーでしたかね」

スピリット「メアリーなんて名の男がいるもんですか。滑稽な」

博士「だから教えてくださいよ、お名前を。私は当てずっぽうを言うしかないのですから・・・」

スピリット「男ですよ。男の名前ですよ。女じゃないよ」

博士「さ、自己紹介を」
スピリット「一体何の為に名前を言わなきゃいけないのですか」

博士「口は達者のようですね。髪の毛は白髪でしたか」(ウィックランド夫人は白髪)

スピリット「白髪でした」

博士「カールしてましたか。その髪はカールしていますが・・・」
スピリット「そんなはずはない。カールした髪は嫌いなんだ」

博士「クシをさしておられたのですか」
スピリット「髪にクシをさした男なんて聞いたことがない」

博士「その結婚指輪はどこで手に入れられましたか」

スピリット「盗んで来たみたいな言い方をしないでほしいね。俺の手は女じゃないんだ」

博士「ジョン、生まれはどこですか」
スピリット「俺はジョンじゃない」

博士「奥さんはあなたのことを何と呼んでましたか。お母さんはあなたをどう呼んでましたか」

スピリット「母はハリーと呼んでたな。結婚はしていない」

博士「姓は?」
スピリット「女ばっかりいるところで名前を言う必要はないだろう」

博士「男性も少しはいますよ」
スピリット「一体何故、こんな女ばっかりのところに連れて来るんだ?」

博士「失恋なさったようですね?」
スピリット「そんなことを女どもに言うほど馬鹿じゃないよ」

博士「彼女はなぜもう一人の方を選んだのでしょうね?」
スピリット「彼女って誰のことだ?」

博士「あなたを捨てた女性ですよ」
スピリット「違う、そんなんじゃない!」

博士「失恋なさったんじゃないのですか」
スピリット「違う! 」

博士「じゃあ、なぜそんなに女性を嫌うんですか」

スピリット「こんなに大勢の女の前で秘密が言えるもんか。笑われるのがオチだよ。一体なぜ、この女達が俺をジロジロ見てるのかが知りたいね。あそこにいるあの男、あいつはどうしたんですか。あの婦人(バートン夫人)の後ろにいるあの男のことだよ」

バートン夫人「あたしは男嫌いでしてね。男には近づかせませんよ」

スピリット「なぜあの男は彼女のそばにいるのかな。彼女の旦那かな? 奥さん、あの男はなぜあんたにつきまとってるんです? あんたがどうかしたんですか。よっぽど彼氏のことが好きで、それで彼があんたから離れられないんでしょうかね?」

博士「死んでどれくらいになるのか、その男に聞いてみてください」

スピリット「嫌な奴だね。俺はおっかないよ。今にも喧嘩をふっかけられそうだ」

博士「死んでどれくらいになるのか、聞いてみてください」

スピリット「死んで? 彼女にぴったりくっついていて、彼女が動くと彼も動いてる。まるで猿まわしだ」

バートン夫人「彼も一緒に連れてってくれませんか」

スピリット「なぜこの俺が? 俺はあんな男は知りませんよ。奥さん、あの人が好きなんじゃないですか」

バートン夫人「とんでもない。うんざりしてるんですよ」

スピリット「一体どうなってるのかな? あんたの旦那さんですか」

バートン夫人「違います。なぜつきまとうのか、あたしにも分からないのです」

スピリット「あんたは彼のこと好きなんですか」

バートン夫人「とんでもない! 逃げ出したいくらいですよ」

スピリット「ここは一体どこですか」

博士「カリフォルニアのロサンゼルスですよ」

スピリット「彼女にはもう一人、女もつきまとってるな。ぴったりくっついてる」

バートン夫人「あなたに力になって頂きたいのです。その人達をみんな連れ出して頂きたいの」

スピリット「つきまとってるあの男、あんた好きなの?」

バートン夫人「とんでもない! 逃げようと思って必死なのよ。ドアは大きく開けてあるから、いつでも出て行けるわ」

スピリット「冗談じゃない、ドアは閉めといた方がいいよ。あんなのにつきまとわれるのはご免こうむるよ。警察を呼んだらどう? 嫌な奴だと思うのなら、警察に連れ出してもらうんだな」

博士「みんなスピリットなのです」
スピリット「スピリット?」

博士「そうです。あなたと同じスピリットなのです」

スピリット「へえ、あの女の後ろに立っている男、あれがゴーストだって言うつもり?」

博士「見えますか」
スピリット「あいつはスピリットなんかじゃない、立派な人間だ。ちゃんと立ってるもの」

博士「彼もスピリットなんだけど、そのことが悟れずにいるのです。彼女には彼の姿が見えないし、我々にも見えません」

スピリット「ここは、一体どういうところなんです?」

博士「あなたも、我々には見えてないのです」
スピリット「見えてない? 声は聞こえますか」

博士「声は聞こえますが、姿は見えません」

スピリット「目が開いているのに見えない人の集まりというわけか。俺には全部見えるんだが・・・。この部屋は人でいっぱいだ」

博士「声が聞こえるといっても、女性の口を通して聞こえてるだけですよ」

スピリット「冗談はよしてくれ。俺が女の口で喋ってるだって? とんでもない! ただ、今の自分が一体どうなってるのかが分からんのです。なぜこんなところにいなきゃならないのかが分からんのです。あんた達からジロジロ見られてるし、他にも大勢の者が立って見つめている。あいつらも話は出来るのかね?」

博士「説明しますから、よく理解してくださいよ。まず第一に、あなたは、いわゆる死んだ人間なのです」

スピリット「この俺が死んだ人間? こりゃ、いいや」

博士「あなた自身が死んだわけではありません」

スピリット「でも、今、俺のことを死んだ人間と言ったじゃないか」

博士「家族の者や知人にとっては死んだ人間となってしまったということです。でも、今度は霊体があります。あなたにはちゃんと自分という意識がある。そして、霊体をもっておられる。その辺の事情がまだお分かりになれないだけなのです」

スピリット「随分歩き回ったことは覚えてる。どこまで歩いても行き着くことがない。それが今は、こうして大勢の人間の前にいる。知らないうちに明るいところへ来ていた。気がついたら、みんなが輪になって祈っている。それで足を止めた。そして、いつの間にか喋り始めていた。それまでは何も見えず、疲れ果てていたのに・・・」

博士「今あなたに見えている人達のほとんどが、あなたと同じスピリットなのです」

スピリット「何のためにこんなところへ?」

博士「あなたの身の上を理解して頂くためです。あなたは今、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたが私の妻だというのではありません。私の妻の身体に宿っておられるのです。あなたにはとんでもないことに思えるでしょうけど、でも事実なのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。私の妻の口を使って喋っているのです。先ほどあなたが気にしていた男の人も、スピリットなのです。あなたが行かれる時に、一緒に連れてってあげてください。あの人も私達には姿は見えてないのです」

スピリット「叩きのめしてやりたいね、奴を」

博士「バイブルはお読みになったことがありますか」

スピリット「ああ、あるとも、ずっと昔ね。もう、随分永いことお目にかかってないけどね」

博士「イエスが、取り憑いていた悪霊を追い出した話を覚えていらっしゃいますか。その男もこの女性(バートン夫人)に取り憑いているのです」

スピリット「他にも何人かいますよ」

バートン夫人「もう誰も入れないようにしてますからね」

スピリット「厳重に戸締まりをしてくれれば、俺があいつらを連れてってあげるよ。だけどあいつだけは、叩きのめしてやりたいね。おい、名前は何て言うんだ?」

博士「何て言ってます?」

スピリット「ジム・マクドナルドだそうです。奥さん、そんな名前の人間を知ってますか。あいつがスピリットなら、なぜ嫌われている女につきまとうのかな?」

博士「あなたと同じように、あのスピリットもここへ連れてこられたのですよ。あなたも、明かりが見えて、気がついたらここへ来ていたわけでしょう?」

スピリット「暗がりを歩いているうちに、あの婦人が見えたと言ってます。俺もこのままずっと、ここにいなきゃなりませんか」

患者の一人「私の周りにいるスピリットの名前を聞いてくださらない?」

スピリット「二人いるね。時々喧嘩してる。今も喧嘩してるよ」

患者の一人「私も喧嘩するのよ」

博士「腕ずくで喧嘩してはいけませんよ。スピリットにエネルギーと磁場をやることになりますから。心の中で喧嘩するのです。それよりも、いい加減あなたもおしまいにしては?」

スピリット「この俺にできることなら、あの人達を連れてってもいいです。もう二度と喧嘩しないのなら、ですけどね。それにしても、一体この俺はどうなってるんですかね? どうも変な気分です」

博士「お家はどこでしたか」
スピリット「ミシガン州のデトロイトです」

博士「記憶にある年代は?」
スピリット「何も思い出せない」

博士「大統領の名前は?」

スピリット「よく覚えてないけど、たしかクリーブランド(第二十四代・1893 097)だったと思う」

博士「彼は随分昔の大統領ですよ」

スピリット「随分歩きっぱなしで、疲れたよ。横になって休むベッドはありませんか」

博士「あたりをご覧になれば、立派なスピリットが大勢来ているはずですよ」

スピリット「なるほど。奇麗な女の子が何人かいる。これ、女達、その手には乗らんからな。一緒に行く気はないね。とんでもないこった! 」

博士「あなたの知ってる女性とはワケが違います。人間ではなくて、スピリットですよ」

スピリット「なんだか男を誘惑するような目つきで、ニコニコしてるよ」

博士「そんなんじゃありませんよ。迷ってる人に援助の手を差し延べようとしている方達ですよ」

スピリット「あの娘達は真面目そうだが、俺は女は嫌いでね」

博士「たった一人の女性にダメにされたからといって、女性全部を悪く言うべきではありませんよ」

スピリット「よし、この連中を全部連れてってやろう。とにかくあの娘達についていってみよう。(驚いた様子で)オヤ、母さんだ! 母はとっくの昔に死んだんだが・・・」

博士「死んでなんかいませんよ」
スピリット「天国へ行ったんじゃなかったのかな?」

博士「聞いてごらんなさいよ。お母さんご自身が教えてくれますよ」
スピリット「霊界という美しい世界にいると言ってる」

博士「霊界は地球を取り巻いているのです。『天国』というのはあなたの心の状態をいうのです。つまり、あなたが心の満ち足りた幸福を感じている時が、天国を見つけたということなのです。イエスもそう説いているでしょ?」

スピリット「母と一緒に行きたいものです。素晴らしい女性になっている。マクドナルドも連れて行きたい。マクドナルド、こっちへおいでよ。こんなところにはもうこれ以上いたくない。お前も一緒に来いよ。何か必死で目を覚まそうとしているみたいな仕草をしている。さあ、元気を出せよ、マクドナルド。お互い、ましな人間になって、あの娘達について行こうじゃないか。俺はもう行くぞ。何だってあんな女にくっついてるんだ、まったく。俺はもう恥ずかしくなってきたよ。じゃあ、行くよ。グッバイ」

バートン夫人「ちゃんとみんなを連れてってやってくださいよ」

博士「お名前は?」

スピリット「ハリーだ。それしか思い出せないよ。永いこと自分の名前を聞いたことがないもんでね」

博士「他の人達にも、いつまでもこんなところにいるのは愚かなことだということを理解させてやってくださいよ」

スピリット「みんな連れてってやろう。さあ、みんな! この俺についてくるんだ。一緒に行きたがらない奴は承知しないぞ! 一人の女につきまとうなんて、恥ずかしいと思わんのか。さあ、俺と一緒に行くんだ。ご覧よ、みんなこっちへ来るよ。俺がまとめて面倒を見てやろう。じゃあね」

第4項 バートン夫人の憑依霊4
別の日の交霊会で、バートン夫人に憑依していたスピリットの一人で『フランク』と名乗る者が、夫人の身体から離れて霊媒に乗り移って語り始めたが、記憶がほとんど戻らない。

博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「知りません」

博士「ここにどなたかご存知の方がいますか」
スピリット「知った人は見当たりません」

博士「自分がどこから来たかが分かりませんか」

スピリット「分かりません。自分が分からないことに答えられるわけがないでしょう?」

博士「死んでどのくらいになりますか」

スピリット「死んでから? なんということを! 一体、これはどうなってるんですか。こうして私を取り囲んでいるのが、そもそも変です。何かの集会ですか。何という集会ですか」

博士「その通り、集会です。ご自分が誰であるか、ぜひおっしゃってください」

スピリット「どうして名前を言わなきゃならんのですか」

博士「初めてお会いする方だからですよ」

スピリット「こんなわけの分からない集会にいてもいいものやら・・・。どうもこの私は、初めて会う人に変わった人間に映るらしいな」

博士「どちらからおいでになったのか、おっしゃってください」

スピリット「どう思い出してみても、それが分からないのです。返事のしようがないのです。これこれ、なぜ私の腕をつかむのですか。身体は頑強な男です。じっと座ってることくらい出来ますから・・・」

博士「女性だと思っていたものですから・・・」

スピリット「馬鹿を言っちゃ困ります。どこを見て女だと思うのですか。もう一度よく見てくださいよ。間違いなく男ですよ。これまでずっと男でしたよ。ただ、しばらく具合がなんとなくおかしかったことがあったな。

ずっと歩き続けていたら、どこかで歌う声(交霊会の開会の時に出席者全員で歌う)が聞こえたもんだから、覗いてみようかと思ってるうちに、急に気分が良くなった。それまでは気がすっきりしなかったけど、それから(バートン夫人のオーラに引っかかってから)何もかもが、いつもと違うんだな。一体どうなってるんだか、自分でも分からんのです。

例の歌声のしたところへ行ったら事情が分かると言われて、その気になって見かけた人に片っ端から尋ねてみたが、みんな知らん顔で素通りしてしまった。みんなオツにすましていて、私なんかに目もくれなかった。ただ、みんなロウで出来ているみたいに見えたよ。どれくらいの人に話しかけ、どれだけ歩き回ったことか。なのに、誰一人として返事をしてくれなかったし、そこにいるとも思ってくれなかった(スピリットの方から人間が見えても、人間の方からはスピリットが見えないので、知らん顔をしているように思える)。あんたが返事をしてくれた最初の人だ。時折喉に何やら妙なものが引っかかって、その時は喋れなくなるんだが、そのうちまた楽になる。だけど、とにかく何か変だよ、とても変だよ」

博士「いつのことでもいいですから、何か思い出すことはありませんか」

スピリット「毎日のように何かが起きたもんな。あれやこれや思い出すことはあるが、何一つとして明確に思い出せないのだ。一体今の自分がどこにいるのか分からない。こんな変なことは初めてだ」

博士「年齢はおいくつですか」

スピリット「それも分からんのです。もう、かなりの間、忘れてしまっている。誰も聞いてくれる者もいなかったんで、それで自然と忘れてしまったということでしょう。(汽車が通過する音を聞いて)オヤ、汽車だ! 久しぶりだなあ、あの音は。少しの間だが、生き返った心地がするよ。どうなってるのか、さっぱり分からんね」

博士「以前はどこに住んでましたか。今はどこにいると思いますか」

スピリット「以前のことは分からんが、今はこうして大勢の人と一緒に、この部屋にいる」

博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「冗談言っちゃいけない!」


博士「では、どこだと思いますか」

スピリット「どうも、物事を思い出すのがダメでね。時には自分が女になったように思える時すらあるんです。すると、面白くない目に遭うんだなぁ」

博士「どんな目に遭うんです?」

スピリット「女になると、髪が長くなって、それが垂れ下がると、その面白くないことが起きるんです」(バートン夫人は静電気の治療を受ける時は、いつも髪をほどいて垂らした)

博士「どんなことが起きるんですか」

スピリット「まるで何百本もの針を突き刺されたみたいで、あんな酷い目に遭ったのは初めてだ。もう二度と女なんかにはなりたくない。女になると、またあの酷い目に遭うだけだ。(サークルの中にバートン夫人を見つけて)あの女だ! あの髪の長い・・・。(バートン夫人に向かって)あとで覚えてろよ! 」

博士「あのご婦人をご存知なんですか」

スピリット「知ってるとも。時々私のことをひどく腹を立てて追い出そうとするんだ」

博士「多分、彼女はあなたにくっついていてほしくないんでしょう。彼女に迷惑をかけているんですよ、あなたの方が・・・」

スピリット「あいつだって、この私に迷惑をかけてるよ」

博士「あなたは今、自分がどんな状態にあるかを理解なさらないといけません。ご自分が今はもう、いわゆる『死んだ人間』になっていることが分かりませんか。今あなたは女性になっておられるのです。衣服をご覧なさいよ。男だとおっしゃるけど、女性の服を着てるじゃないですか」

スピリット「頼むよ、私は二度と女にはなりたくないよ。男なんだ! 男でありたいんだ! 前からずっと男だったんだ。それにしても、一体なぜこんな状態から抜け出せないのか分からん。あの女が私に出て行けという。それで出て行こうとするんだが、どういうわけか出られない。(ふと博士に気づいて)お前だな、この私にあの火の針を刺したのは! よくやってくれるよ。お前なんかにいてほしくないね。あんな火の針は、金輪際ご免だ。あんなものには一切関わりたくないね」

バートン夫人「私に取り憑いてどれくらいになるの?」

スピリット「あんたに取り憑いた? あんたこそ私を追い出そうとしてるじゃないか。私と一緒にいたあの女性はどうした(同じバートン夫人に取り憑いていたもう一人のスピリットで、キャリー・ハッチントン)? あの人は私のために歌を歌ってくれたんだが、いつの間にかいなくなっちゃったんだ。さんざん探したんだが見つからない。ご存知ないですか」

博士「あの方はバートン夫人から離れてから、今のあなたと同じように女性の身体を使って私と話をして、それからスピリットの世界へと向かわれました。あなたもここを出た後、同じスピリットの世界へ行くのですよ」

スピリット「私はあの人(バートン夫人)から、あんな叱られ方をするいわれはない。何も悪いことはしていないからね」

博士「もしあなたが女性で、あなたにスピリットが取り憑いたら、それをあなたは好ましく思いますかね?」

スピリット「勿論、それは困るね」

博士「ところが、あなたはそれをあの婦人にしていたわけですよ。あなたは霊で、彼女は生身の人間です。あなたにどいて欲しいわけです」

スピリット「彼女はあの火の針でこの私を苦しめるんだ。火の針は彼女の頭に刺さるのだが、それがこの私の頭に突き刺さるみたいだ」

博士「彼女は生身の身体に宿っています。あなたはスピリットで、我々の目には見えないのです」

スピリット「それはどういう意味だ?」

博士「今言った通りです。あなたという存在は、我々には見えていないのです。あなたは今、私の妻の身体を一時的に使っているのです」

スピリット「ちょっと待ってください。私はあなたの奥さんに会ったこともないし、会いたいとも思わない。言っておきますがね、私はれっきとした男だし、男以外のものにはなりたくないし、あなたの奥さんになるなんて、まっぴらご免だね」

博士「おっしゃる通り、男かも知れません。しかし、あなたの姿は私達には見えていないという事実を理解してほしいのです。その身体は私の妻のものですよ」

スピリット「本当だ、確かに女だ。(衣服に気づいて)こいつは驚いたな。一体どうしてこんな衣服が私の身体に・・・」

博士「ずっと着てらっしゃいましたよ。ここへはどうやって来られましたか」

スピリット「誰かから『あそこへ行けば何もかも納得がいくよ。そんなにほっつき歩いても仕方ないよ』と言われてやってきたんだが・・・来てみると女になってる! 」

博士「それはほんの一時だけですよ。私の言ってることを分かってほしいですね。あなたはもうご自分の身体を失ってしまったのです。多分、かなり以前にね・・・」

スピリット「あの女(バートン夫人)のせいだ」

博士「あなたの方こそあの人を悩ませてきているのです。多分随分永いことですよ。それに、他にも迷惑をかけた人がいるはずですよ。お名前は何とおっしゃいますか」

スピリット「思い出せません」

博士「あなたはご自分の身体を失って、これまでずっとバイブルでいう『外の暗闇』の中を彷徨っておられるのです。信仰はお持ちでしたか」

スピリット「教会とは一切関わり合いたくないね。もう、うんざりだ。牧師は、かくかくしかじかのことをしないと、まっすぐ地獄へ行って、そこで永遠の火あぶりにされるのだと説教する・・・口を開くと地獄行きのことばかりだ。

そんな説教を聞かされたのは、まだ若い時だった。だが、私が言う通りにしないものだから、教会は私に来てほしがらなくなった。私はそんな話はちっとも信じなかった。地獄へ落とされるほど悪いことはしてなかったよ。その教会を出たあと別の教会へ行ってみたけど、そこでも地獄行きの話ばかりだ。嫌になっちゃった。

神様だの、聖なるものだの、そんな話ばっかりで、その神様にお金をあげなさいと言い出した。タバコも神様にあげてしまいなさいと言う。なんで神様がタバコを欲しがるのか、なんで僅かしかない私の金を神様にあげなきゃいけないのか、それが分からなかった。

どうしても納得がいかないので、その教会もやめた。そしてまた別の教会へ行ってみた。するとそこでもさんざん説教されたあげくに、私の後ろに悪魔がついていると言われた。私がその教会に寄付をしないからだ、なんて理屈をつける始末だ。

ある日、何人かの友達と飲みに行ったことがある。たいして飲んだわけじゃないが、気分良くなった。その時思った――よし、今度からは教会の最前列に座ってやろう、と。そして、その通りにやった。他の出席者達は、私の魂を救って神様のところへ行けるようにしているのですと言う。牧師は私のすぐ後ろに悪魔がいるなどと言うものだから、ちょっぴり怖くなった。『その悪魔があなたをとりこにしようとしていますぞ』などと言うものだから、後ろを向いて確かめてやろうかと思ったが、それはしなかった。牧師はいつも私に『さあ、前にいらっしゃい、前に。私達が、あなたの魂を地獄から救ってあげましょう。こちらへ来て救われなさい。前に来て改心なさい。生まれ変わるのです』と言った。

私はしばらく抵抗したが、思い切って前に出てみた。どんなことをしてくれるのだろうと思ったからだ。すると牧師が『ここにひざまずきなさい』と言う。言われた通りにすると、私の頭に手を置いて、みんなで賛美歌を歌い、私の為に祈ってくれた。『さあ、今こそ心を入れ替えるのです』と言う。

この私の為に、出席していたご婦人連中が入れかわり立ちかわり私の頭に手を置いて、祈ったり歌ったりで、えらく仰々しいなと思った。それから牧師がやって来て、『祈らないといけません。さもないと悪魔がついてまわりますぞ』と言う。私は偽善者にはなりたくないから、その牧師に言ってやったよ――『もしも私が罪人だというのなら、私はその罪人のままであり続けて結構』とね。さらに私が『悪魔がそんな人間みたいな存在だとは信じない』と言ってやったら、牧師が怒り出した。こいつは手に負えんと思ったらしい。それでも出席者達はなんとかして私を改心させようとしたが、無駄だったね。

私はその教会から出て行った。すると何人かの男が追いかけて来たものだから、必死で逃げた。が、そのうちの一人が追いついてきて私の頭を殴った。すごく痛かったね。いったん倒れたが、起き上がった。そこは丘の上で、私はそいつを突き落としてやろうと思ったら、逆にこっちが突き落とされて、ゴロゴロと転がり落ちてしまった。止まったところで気がついたら、大勢の人間がいて、その時から急に楽になった」

博士「多分その時、あなたは肉体から離れたのですよ。つまり死んだのです」

スピリット「死んでなんかいません」

博士「そこはどこでした、丘を転げ落ちたところは?」

スピリット「テキサスでした。歩いたり、走ったりしながらいろんな人に話しかけるんですが、誰一人として返事をしてくれない。まるで棒切れに話しかけるみたいで、こっちの頭がおかしくなった。私の家はどこかと尋ねたんだけど・・・。

そのうち例の痛みを感じるようになった。時折痛みが消えてしまうこともあった。そうしてるうちに、一人の婦人に出会ったら『ついておいで』と言うものだから、ついて行ったら、いつの間にか大勢の人に取り囲まれていて、その婦人もその中にいて、みんなが歌を歌っている(患者のバートン夫人は、しばしば大勢のスピリットの歌声に悩まされていた)。時々彼女に話しかけたけど、そのうち突然いなくなってしまった。その後で例の火の針を刺されるようになった。あれは応えたな(バートン夫人への憑依状態が一段と強くなって、その為に電気ショックをより強く感じるようになったことを暗示している)

博士「あなたは、今はもうスピリットになっていて、私の妻の身体を使って喋っておられるのです」

スピリット「一体どうやって私があんたの奥さんの身体の中へ入ったというのかね? それじゃ、奥さんは取っ替え引っ替え、男に身体を任せていることになるが、それでいいのかね、あんたは?」

博士「結構です。そうやって迷っているスピリットに死後の世界の理解がいくまで貸してあげているのです」

スピリット「これは奥さんの衣服ってわけ? 少しの間借りているというわけ? 奥さんが私に着せてくれたというわけですか。男なのに女の格好を見せてしまって、情けないね。ここにおいでの皆さんは、私のことをどう思ってるのかな――気が狂ってる? (笑い声)笑い事じゃないよ」

博士「あなたは何も知らずに、暗闇の中にいたのです。そのことを教えてあげようとして、高い世界の方があなたをここへお連れして、一時的にその身体を使わせてあげているのです。バートン夫人から離れさせたのも、その方達です」

スピリット「バートンさんはまた、例の火の針を刺されるのですか」

博士「あなたがバートンさんを離れた時、他にもまだ誰かいましたか。それともあなたが最後でしたか」

スピリット「例の女性も、もう一人の男も出て行った。その後あんたが私に火の針を刺したんだ。必死で出ようとしたが出られなかった。どうしようにも為す術がなかった。地獄の話をしてくれた牧師のことが頭に浮かんだよ」

博士「それとも違いますよ。スピリットの世界へ行ってから、どうしたらいいかを教えてくださる高級界の方達が待っておられます。きっと救ってくれます。ところで、お父さんは生きておられるのですか」

スピリット「知りませんね。もう二十五年も三十年も父親とは会っていません。母親が死んだことは知っていますが、父親がどうなったか、知りません。親戚のことも誰一人知りません」

バートン夫人「昨年の十一月にお会いしましたね」

スピリット「会いましたね。それ以来ですよ、私の具合が悪くなったのは。あなたの一番近いところにいたのは私ではありませんよ。あれは若い女の人でした。ひどく頭痛がします」

博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「1888年か1891年だな」

博士「1920年ですよ」
スピリット「私の頭がどうかしてるんでしょう」

博士「暗闇の中にいらしたからですよ」

スピリット「私は、歩いて歩いて歩き回っていた。そのうち、あの女(バートン夫人)とひっついちゃった。離れたかったものだから、私が蹴ると彼女も蹴り返して、しょっちゅう蹴り合いっこをしていた。

あれ! あれをご覧よ! 私の母親だ! 母さん、許してください、母さんの願い通りの人間になれなくて。母さん、この私を連れてってくれないかな? もうくたびれたよ。母さんの世話と助けがほしいよ。連れてってくれますか。ああ、母さん!」

博士「お母さんは何とおっしゃってますか」

スピリット「私の名前を呼んでる。こう言ってる――『ええ、連れてってあげますとも、フランク。長い間お前を探してたんだよ』って。(母親に向かって)私は段々弱ってきました。くたびれ果てました。母が言ってます――『フランク、私達はお互い本当の人生の理解が出来ていなかったんだよ。教わるべきことを教わっていなかったからで、この素晴らしい神の宇宙について本当のことを何も知らなかった。
キリスト教の教えは真実の人生とは遠くかけ離れています。牧師は、信じれば救われると説いているけれど、とんでもない。そんな信仰は障害となるだけです。本当の神を知ることです。私達はそれを怠っていました。フランク、正しい理解さえ出来ていれば、こちらへ来てから、どんな素晴らしい世界が待ち受けているか、お前にも分かってもらえるように、母さんも力になりますよ。人生の黄金律(『すべて人にせられんと思うことは、人にもまたそのごとくせよ』――キリストの山上の垂訓のひとつ)を自分の努力で理解して、これからは人の為に力になり、奉仕しないとダメですよ。

ねえ、フランク、お前は随分人様に迷惑をかけてきましたね。少年の頃はいい子だったけど、少し元気がありすぎたのね。本当の人生について知らなかったものだから、あたしが死んだら家を飛び出しちゃったわね。家庭がバラバラになっちゃった。お前はあっちへ行くし、他の者はそっちへ行くし・・・。事情は知らないけど、真理を知ることが出来ていたら・・・と悔やまれるわね。

さ、母さんと一緒にスピリットの世界へまいりましょ。みんなが真理を理解している世界ですよ。愛と調和と平和と無上の喜びが味わえます。しかし、そこでは人のために生きなきゃダメなの。霊界でも学校へ通って勉強するのよ。これまでみたいに人様に迷惑をかけてはダメです。さ、フランク、行きましょう。霊界の奇麗な家へ行きましょう。』――そう言っています。ありがとうございました。さようなら」

第5項 バートン夫人の憑依霊5
それから数週間後に最後の憑依霊がバートン夫人から離れてウィックランド夫人に乗り移り、監禁されていたことを憤り、先に出て行った仲間達はどこへ行ったのかと尋ねるのだった。

スピリット=マギー・ウィルキンソン
患者=バートン夫人

博士「ようこそ。どなたでしょうか」(霊媒の手をとりながら)
スピリット「手を握らないで! 触らないでください!」

博士「名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「マギーです」

博士「マギー・何とおっしゃいますか」
スピリット「マギー・ウィルキンソン」

博士「ここがロサンゼルスであることをご存知でしょうか。どちらからおいでになりましたか」

スピリット「テキサスのダラスです」

博士「ロサンゼルスまでどうやって来られたのですか」

スピリット「ここはロサンゼルスではりあません。テキサスです。ずっと蹴り通しでした」

博士「なぜ蹴るのです?」

スピリット「牢に入れられてるからです(バートン夫人のオーラのこと)。何人か一緒にいたけど、みんないなくなっちゃった。あたしだけ置いて、みんな出て行っちゃった。ずるいわ!」

博士「みんなが行ってるところへ、あなたも行ってみたいですか」

スピリット「別に・・・他の人のことなんか、どうでもいいわ。何もかもみんなで取りっこして、あたしはいつも除け者にされてたんだから」

博士「今の状態が少し変だとは思いませんか。死んでからどのくらいになりますか」

スピリット「死んでからですって! 一体あの婦人(バートン夫人)はなぜ、このあたしにつきまとうのですか。あの人はいつも火責めに遭ってるのよ。酷い代物なの。何かの上に乗っかって頭の上に何かを置くと、火の雨が降るの!」(バートン夫人が静電気装置の横の台の上に乗ると、電気ショックの効果を増す為に頭から毛布を被せられた)

博士「こんなところにいて、いいのですか」
スピリット「どこへ行けばいいのですか」

博士「霊界です」
スピリット「何です、それは?」

博士「身体から脱け出た人が行くところです。ただし、自分の身の上のことをよく理解した人に限ってのことですけどね。あなたも何か変わったことが身の上に起きてることに気づきませんでしたか」

スピリット「私は、例の毛布を頭から被せられて火責めに遭うことさえ止めて頂けたら、それでいいのです。まるでバラバラに叩きのめされたみたいな気分になります。あんな仕打ちに耐えられる人がこの世にいるのですかね」

博士「あれは、あなたを追い出すためにやったことです。今は楽な気分じゃありませんか。あの、『発砲』を受けてから後は何をなさっていたのですか」

スピリット「追い出されて良かったですよ。これまでよりは気分がいいですから」

博士「あなたが今使っておられる身体は、私の妻のものであることはお分かりですか」

スピリット「冗談じゃないわ! 」

博士「今使っておられるのは私の妻の身体なのです」
スピリット「あなたの奥さんの? バカバカしい!」

博士「着ていらっしゃる衣服に見覚えがありますか」
スピリット「そんなことはどうでもいいことです」

博士「どこで手に入れられました?」

スピリット「泥棒扱いしないでください! 警察を呼びますよ。警察署を見つけ次第、逮捕状を出してもらいますからね」

博士「では、マギー、あなたの髪は何色ですか」
スピリット「ブラウン――ダークブラウンです」

博士「(霊媒の髪に触りながら)これはブラウンじゃありませんね。この衣服も全部私の妻のものですよ」

スピリット「私のものであろうがなかろうが、私は構いません。私から頼んだわけではありませんから」

博士「死んでからどのくらいになりますか」

スピリット「私は死んではおりません。あの話をするかと思うと、この話になる・・・」

博士「私がお聞きしているのは、あなたが身体を失ったのはいつだったかということです」

スピリット「私はまだ身体はなくしておりません。墓に埋められてはいません」

博士「病気になって、そのうち急に良くなったというようなことはありませんでしたか」

スピリット「病気が酷くなり、そのうち急に楽になったと思ったら、牢に入れられていました。私はウロウロしていましたが、そのうちある女性が私を何かと邪魔立てするようになりました。私の他にも何人かいましたが、例の火責めにあって、みんな出て行ってしまいました」

博士「ロサンゼルスに来られたのはいつですか」

スピリット「ここはロサンゼルスではありません。テキサスのダラスです。もしもここがロサンゼルスだとしたら、私は一体どうやって来たのですか」

博士「赤い髪をした女性と一緒に来られたに相違ありません」(バートン夫人がすぐ側に腰掛けている)

スピリット「彼女には私をここへ連れてくる権利はありません」

博士「彼女もテキサスから来たのです」
スピリット「他の人達はどうなったのですか」

博士「自分の身の上についての理解がいって、無事、霊界へ旅立たれました。あなたもそこへ行くべきなのです。なぜこちらの女性につきまとうのですか」

スピリット「つきまとう? とんでもない! 私はずっと牢の中にいるのです。身動きが取れないのです。出ようとして、色々やってみたのです。私を見かけた人達は、私を救い出してやるなどと言っていながら、結局誰も出してくれなかった。私があんまり騒ぐものだから、私から逃げ出したのよ」

博士「多分、その方達が、あなたをここへお連れしたのですよ」

スピリット「私に見えているのは、ここに腰掛けている人達だけです」

バートン夫人「あなたは私についてここへ来たのですね? 私を苦しめてどうしようというのです?」

スピリット「私はあなたとは何の関係もございません。あれ! あなただわ、この私を牢に閉じ込めたのは」

バートン夫人「あなたと一緒だった女友達は何という名前でしたかね(同じくバートン夫人を悩ませていた別の霊のこと)?」

スピリット「どこでの話ですか。テキサスでのことですか」

バートン夫人「そうです」

スピリット「あの人はメアリーといいました。もう一人、キャリーというのがいましたけど・・・」

バートン夫人「キャリーも一緒に来てますか」

スピリット「勿論よ。ねえ、あなたはなぜこの私を閉じ込めといたのよ? なぜ出してくれなかったのよ?」

バートン夫人「私は出て行けと言い続けたじゃないですか」

スピリット「それは知ってたわ。だけど、あなたはドアを開けてくれなかったじゃないですか」

博士「自分の心の中で、この人の身体から離れるのだと思い込めば、それで離れられたのですよ」

スピリット「思い込んで離れるなんて、私には出来っこありません」

博士「スピリットの世界のことが分かってくると、出来るようになるのです。出来ないのはその原理を知らないからです」

スピリット「(バートン夫人に向かって)ねえ、あなたは何のために私をあなたの側から離れられないようにしたのよ?」

博士「あなたは『招かれざる客』だったのですよ」

バートン夫人「あなたがいなくなってくれて、さっぱりしているところですよ」

スピリット「私の方こそよ。あんな牢から出られて、せいせいしてるわ。なぜおとなしく出してくれなかったのよ?」さんざんノックしたのに、出してくれなかったじゃない。(博士に向かって)あなたがあの火の贈り物をくださったお陰で出られたのね。有り難く思ってるわ」

博士「この前の治療の後、出たのですね?」
スピリット「あれを『治療』とおっしゃるのね」

博士「これで夫人の身体から離れられたのなら、立派な治療ですよ」

スピリット「あれで私がどれほど苦しい思いをしたか、ご存知ないのね。特に、あの針で突き刺すやつ――あれをやったのは、あなただったのね? 大嫌いよ、あんたなんか!」

博士「あなたを出すために、あの夫人にあのような手荒い治療を施さなければならなかったのです」

スピリット「あなたは、あの悪魔の機械を小さな神様みたいに思ってるんだわ。あなたは私にどこかへ行ってほしいと言ったわね。どこでしたか」

博士「スピリットの世界です」
スピリット「それはどこにあるのです?」

博士「肉体を捨てた者が行くところです。ただし、それには理解が必要です。あなたの肉体はなくなりましたが、まだ理解が出来ていらっしゃらない。それであのご婦人に迷惑をかけてきたのです」

バートン夫人「あなたや他の人達に出て頂いた後は、ドアをきっちり閉めて、あなた達の誰一人として、二度と入れないようにしますからね」

博士「自由になったつもりになれば、それで牢に閉じ込められた気分にはならなくなります。肉体をもった人間は思っただけではどこへも行けませんが、スピリットにはそれが出来るのです。あなたは私達には姿が見えません。あなたはスピリットとなっており、一時的に地上の人間の身体を使っているのです。それが私の妻というわけです」

スピリット「前にもそんなことををおっしゃったわね」

博士「どこか変だとは思いませんか」

バートン夫人「マギーマッキンをご存知でしょう?」(もう一人の憑依霊で、バートン夫人は霊視で確認していた)

スピリット「知ってます。メアリーも知ってます」

博士「肉体から出た時はおいくつでしたか。昔のことを何か思い出しませんか」

スピリット「馬に乗って出かけていた時に、いきなりその馬が走り出して、それから何もかも真っ暗になりました。それからのことはあまり覚えていません」

博士「今年は何年だかお分かりですか」

スピリット「そんな質問に答える必要はないでしょう。一体あなたは弁護士? それとも裁判官? 一体何なの?」

博士「私は『火夫(ファイアマン)』です。今年が1920年であることをご存知ですか」

スピリット「そんなこと、どうでもいいことです(指を鳴らす)。私の知ったことではありません」

博士「さぞ苦しみから逃れたいだろうと思っていたのですがね」

スピリット「私はただ、あの牢から出たいだけだったのです。今はとても楽で、ここしばらく味わったことがないほどです」

バートン夫人「牢から出して頂いたことを、先生に感謝しなくてはいけませんよ」

スピリット「冗談じゃありません。私に火を放射した罪で逮捕されるべきですよ。まるで頭が狂いそうでしたよ」

博士「お知り合いの方が見えているのが分かりませんか」

スピリット「二人のインディアンの姿が見えます。一人は大柄な方で、もう一人は少女です。カールした髪と青い目をした婦人も見えています」

博士「『シルバー・スター』と呼んでみてください。少女の名前ですよ」(ウィックランド夫人の背後霊の一人)

スピリット「頷いています」

博士「その方達が、霊の世界での向上に力になってくれますよ」

スピリット「私は自信があります。きっと天国に行けます。教会へも通ったし、真面目な女でしたからね」

博士「今見える人達もみんな、あなたと同じスピリットなのです。私達には見えていないのです」

スピリット「でも、同じようにそこにいますよ。その人について行けば、素敵な家に案内してくださるんですって。嬉しいわ! しばらく家をもっていないんですもの。もうあの火責めには遭わないのでしょうね。あの赤い髪の婦人のところへは行きませんからね。神様に感謝します」

博士「さあ、もう自由なんだと心に思って、その方達と一緒に行きなさい」

スピリット「分かりました。行きます。さようなら」

バートン夫人が初めて我々のところへ来た時は、どんな仕事も出来なかったが、今では大きな商店の事務員をしている。

第3章 地球圏の低階層と人間の磁気オーラから抜け出せないでいるスピリット
第1節 ●死後なお生前の商売を続けるスピリット
シカゴにおける交霊会で、死後なおその事実に気づかないまま、生前と同じ商売を続けているスピリットが憑依してきた。

「なぜ、こんな暗いところへ集まっているのですか。私は、名前をヘセルロスといい、ドラッグストア(薬局の他に日用雑貨も売っている店で、喫茶室まで付いているところもある)を経営している者です」――開口一番、スラスラとそう言うのだった。その時は部屋を暗くしていた。

このスピリットは前の年に病院で死亡したスウェーデン人で、シカゴでドラッグストアを経営していた。サークルの常連は、彼について何一つ知識はなかったが、その夜は彼の生前の友人の一人であるエクホルム氏が出席していたので、その身元がすぐに確認できた。まだ自分の死の自覚がなく、今でもドラッグストアを経営しているつもりでいるようだった。

しかし実は、その店は当時の店員が買い取ったと聞いている、と出席していた友人が告げると、それをきっぱり否定して「彼は私が雇っているのです」と言った。

面白いことに、そのスピリットはその頃に実際に起きた強盗事件の話をした。三人組が押し入ったので度肝を抜かれたが、勇気を奮い起こしてピストルを取りに行った。ところが、ピストルを手に取ろうとして握りしめるのだが、どうしても掴めない。やむを得ず、素手で向かって行って、三人のうちの一人をぶん殴った。しかし、なぜか『そいつの体を突き抜けて』空を切るばかりだった。どうしてだろう、と不思議でならなかったという。

そこで、我々が彼の現在の身の上について語って聞かせているうちに、意識に変化が生じたらしく、自分より先に他界している大勢の友達の姿が見えるようになり、その友達に引き取られて、霊界での新しい生活へと入っていった。

ドラッグストアの持ち主が替わっていること、三人の強盗が押し入ったことは、その後の調べで事実であることが確認されている。

この場合、霊媒の潜在意識説もテレパシー説も通用しない。なぜなら、そのサークルの中でヘセルロスを知っていたのは、友人のエクホルム氏だけで、その友人も、ドラッグストアが他人の手に渡っている事実は噂で知っていたが、その買い主は当時の店員ではなかったことが判明しているからである。

その後何年かして、再びヘセルロスが出現した。その時のやりとりを紹介する。

1920年9月29日  スピリット=ヘセルロス
霊媒=ウィックランド夫人  質問者=ウィックランド博士

スピリット「一言、お礼を申し上げたくてやってまいりました。暗闇の中から救い出して頂き、今では、このマーシーバンドのお手伝いをさせて頂いております」

博士「どなたでしょうか」

スピリット「あなたのお仕事のヘルパーの一人です。時折この交霊会に出席しておりますが、この度は一言、お礼を申し上げたくてまいりました。かつてはとても暗い状態の中で暮らしておりましたが、今ではあなたの霊団の一人となっております。あなたにとっても喜ばしい話ではないかと思います。
もしもあなたという存在がなかったら、私は多分、今でも暗い闇の中にいたことでしょう。あれから何年も経っております。その間あなたを通じて、またマーシーバンドの方を通じて、生命についての理解が深まりました。私が初めてお世話になったのは、ここではありません。シカゴでした。

今夜は、皆さんと一緒に集えて、とても嬉しく存じます。地上時代の名前を申し上げたいのですが、もうすっかり忘れてしまったようでして。何しろ何年も人から名前を呼ばれたことがないものですから。そのうち思い出すでしょう。その時申し上げます。

例の老紳士を覚えていらっしゃるでしょう? エクホルムといいましたかね? 『老』をつけるほどでもなかったですが・・・。彼は地上時代の親友でして、彼との縁で皆さんとの縁も出来たのです」

博士「シカゴでの交霊会でしたね?」

スピリット「そうです。私はシカゴでドラッグストアを経営しておりました。そうそう、思い出しました。私の名は、ヘセルロスでした! つい忘れてしまいまして・・・。今ではあなたの霊団のヘルパーの一人です。エクホルムもそうです。彼もよくやっております。喜んで、あなたのお仕事を手伝っております。地上時代でも、霊の救済のことで一生懸命でしたからね、彼は。
私は今こそ、一生懸命お手伝いすべきだという気持ちです。何しろ、あの時、皆さんに救って頂かなかったら、今頃は相変わらずあの店で薬を売ってるつもりで過ごしていたことでしょうね。

あの頃は、死後丸一年くらいまでは、あの店を経営しているつもりでいました。地上時代と変わったところといえば、病気が治ったつもりでいたことくらいでして、死んだとは思っていなかったのです。店にいて病気になり、病院へ運ばれ、その病院で死にました。遺体は葬儀屋が引き取り、自宅には運ばれませんでした。

ご承知のように、バイブルには『汝の財産のあるところに汝の心もあるべし』(マタイ伝6・21)とあります。眠りから覚めた時に、私が真っ先に思ったのは店のことでした。それで、その店に来ていたのです。経営状態はいたって順調にいっているように思えたのですが、一つだけ妙なことがありました。私がお客さんに挨拶しても、まったく反応がないことです。私はてっきり入院中に言語障害にでもなって、言葉が出ていないのだろうくらいに考えて、それ以上あまり深く考えませんでした。

そのまま私は、ずっと店を経営しているつもりでいて、店員にも意念でもって指示を与えておりました。経営者はずっと私で、店番は店員に任せているつもりでした。そしてある夜、この方(博士)のところへ来て初めて、自分がもう死んでいることに気づいたのです。

例の強盗が押し入った時は、いつも引き出しに仕舞ってあるピストルのことを思い出して、そこへすっ飛んで行って握りしめようとするのですが、するっと手が抜け出てしまうのです。何かおかしいなと思ったのはその時です。その時から物事を注意して見るようになりました。

そのうち、父と母に出会いました。とっさに私は、頭が変になったのだろうと思ったくらいです。そこで、エクホルムに会ってみようと思いました。彼はスピリチュアリズムに関心があり、私はそんな彼こそ、少し頭がおかしいのではないかと考えていたのです。それで、幽霊というのは本当にいるものかを尋ねてみたかったのですが、なんと、自分が立派な幽霊になっていたというわけです。

その後、このサークルに来たわけです。皆さんと話をしているうちに、心のドアが開かれて、美しいスピリットの世界が眼前に開けたのです。その時の歓迎のされ方は、ぜひお見せしたいくらいでした。親戚の者や知人が両手を大きく広げて『ようこそ』と大歓迎をしてくれました。その素晴らしさは、実際にこちらへ来て体験なさらないことには、お分かり頂けないと思います。これぞ幸せというものだと実感なさいます。まさに『天国』です。

そろそろ失礼しなくてはなりません。今夜はこうしてお話ができて、嬉しいです。あれから十五年ぶりですからね。エクホルムも誇りをもってお手伝いしております。皆さんによろしくとのことです。

では、おやすみなさい」

第2節 ●地縛霊による憑依
地縛霊による憑依が大きな悲劇と悲哀を生むことがよくある。次の招霊実験の患者は、激しい頭痛を訴えながら、繰り返し悲しげに泣く症状を見せていたが、憑依霊が取り除かれると、それがケロッと治っている。

1918年1月5日  スピリット=ミニー・デイ 患者=L・W夫人

スピリット「(悲しげに泣きながら)ああ、頭が痛い! あの火の針は嫌! 頭が痛い! ここがどこだか分からない。針の雨だったわ。どうしても悲鳴になってしまう」

博士「どこに住んでるの?」
スピリット「知りません」

博士「両親はどこに住んでいましたか」
スピリット「知りません」

博士「あなた、子供じゃないの?」
スピリット「子供よ。ミニー・デイといいます」

博士「どこに住んでたの? 年齢はいくつ?」
スピリット「知らない。ママに聞いて」

博士「住んでいた都市の名は?」

スピリット「セントルイス。ああ、またお父さんがやってくる! あたしの頭をぶったの! それに、ウィリーもいる」

博士「ウィリーって誰?」

スピリット「あたしのお兄さんよ。父さんがやってくる! 怖い! 一緒においで、って言ってる。あ、ママだ。ママ、あたし、頭が痛いの! ママも、一緒においで、って言ってる。あたしのウィリーの為に新しい家を用意してあるから、と言ってる」

博士「霊界のお母さんの家のことですよ」
スピリット「霊界って何? それ何のこと?」

博士「地球の周りにある、目に見えない世界のことです。自分が死んだことを知ってるの?」

スピリット「それ、どういうこと?」

博士「物質で出来た身体はもうなくなったということです。最近は何してたの?」

スピリット「誰かいないかと思って、走り回ってたの。ママはとっくの昔、あたしがちっちゃい時に死んでるし・・・。ママが死んだ後、パパはあたしとウィリーに、辛く当たるようになって、すぐに殴るようになったの。いつも嫌な思いをしてたものだから、こんなに頭痛がするようになっちゃって・・・。色んな所へ行ってみたけど、ママは死んじゃってるし、もう、どこへ行ったらいいのか分からない」

博士「あんまり苦しい思いをしたものだから、事情が理解できなかったのね。ミニーちゃんは、もう、物質で出来た身体はなくしちゃったんです。お友達はあなたのことを『死んだ』と思ってるはずですよ」

スピリット「あたしが死んだ? 時々何か箱のようなものに入ってるみたいな感じがすることはあります。そこに大勢の人達(憑依霊)がいて、みんな押しっこするの。その中の一人だけ大嫌いな人がいて、その人がみんなに意地悪するの。あの人、この人と、追っかけまわしていたけど、そのうちいなくなっちゃった(二日前に除霊されたジョン・サリバン)。良かった、これで静かになると思ったら、今度は火の針が降り出して・・・」

博士「あなたは一人のご婦人を苦しめていたのですよ。あなたが泣きわめくものだから、そのご婦人も泣きわめいていたのです」

スピリット「それ、どういうこと?」

博士「あなたはもうスピリットになっていて、そのご婦人のオーラの中に入り込んでいたのです。その方に電気治療を施したら、あなたがその身体から離れて、今度は私の奥さんの身体を使って喋っているのです。手をご覧なさい。それ、ミニーちゃんの手だと思いますか?」

スピリット「わぁ、見て! 指輪してる! でも、あたしのじゃないわ。あたし、盗んでなんかいない! (興奮している様子)これ、もっていってちょうだい! あたし、盗みなんかしてないわ! 」

博士「これはあなたの身体ではありません。だから、あなたの指輪ではありません。きっと、あなたは頭をぶたれた後に死んだんだね。スピリットは身体が死んだ後も生きているのです」

スピリット「でも、あたし、今も生きてるわ」

博士「生きてますとも。でも、身体はもうありません。死んだ後一人の婦人と一緒になっちゃったのです。その方は今、別の部屋にいます。あなたがすることと同じことをするようになり、あなたが痛いと思うところを、その人も痛がっているのです。狂ったような振る舞いをしているように見えるのですが、それはあなたのせいなのです」

スピリット「意地の悪い男の人がいたのですが、今はいなくなって、ホッとしているところです。みんなその人を怖がっていたのに、逃げ出せなかったのです。とっても意地の悪い人で、噛み付いたり、ひっかいたり、喧嘩ばかりしていました」

博士「とても頑固な人でしたね。つい二、三日前に、今のあなたと同じように、その身体を使って喋りましたよ。このサークルは、色々なスピリットが救いを求めてやってくるところなのです」

スピリット「スピリット? あたしは何も知りません。頭が痛いわ」

博士「あなたが使っている身体は、私の奥さんのものですが、本人は少しも痛がってませんよ」

スピリット「あの火の針が痛がらせるの」

博士「今日、その婦人に電気治療を施したおかげで、あなたはその婦人の身体から離れて、今、そうやって私の奥さんの身体を使って喋ることが出来ているのです。これであなたも救われますよ。ところで、さっきお父さんとお母さんが見えると言ってたけど、今どこにいるの?」

スピリット「あなたにはママが見えない? ここに立ってるわ」

博士「そのお母さんと一緒に行きたくないの?」
スピリット「でも、ママは死んじゃってるもの」

博士「あなたも死んじゃったのです。本当は『死』はないのです。物質の身体を失うだけなのです。スピリットは人間の目には見えないのです」

スピリット「あっ! あたしをどこかへ連れてって! お願い、連れてって! 父さんがやってくるの! あたし怖い! またぶたれるわ! どこかへ連れてって! 」

博士「お父さんは、あなたにお詫びを言いに来ているのですよ。あなたに許してもらえるまでは、スピリットの世界の高いところへ行けないのです。分かるでしょ? お父さんが言いたがってることを聞いてあげたら?」

スピリット「何も言わずに、ただ泣いてるだけなの。今、ママのところへ近づいたわ」

博士「お父さんは申し訳無さそうにしていない?」
スピリット「悪かったと言ってる」

ここでミニー、除霊されて、代わって父親が乗り移った。苦悩のあまり泣き叫びながら、ひざまずいて、両手を差しのべて言う――

スピリット「お許しを! お許しを! 私は自分のしていることが分かっていなかった。ミニー、父さんは殺すつもりじゃなかった。気持ちがイライラして、子供の声がうるさかった。家内が死んで、私は寂しかった。どうか、もう一度だけチャンスを与えてください! 私も苦しかった。ずっと暗がりの中にいて、誰も救いの手を差しのべてくれず、子供のそばにも近づけない。私を怖がって・・・。許しを請う為に何度か近づいてみたんですが、私を怖がって、近づくと遠ざかってしまう。

皆さん、子供を殴るのだけはお止めなさい。あとで何年も何年も苦しい思いをさせられます。ミニーを傷つけるつもりはなかった。可愛かった。なのに殺してしまった。もしも神がいらっしゃるのなら、どうかこの苦しみと悲しみを取り除いてください! ほんの少しで結構ですから光と慰めをください。心の安まる時がないのです。安らぎがないのです。見えるのは怒り狂ってやった自分の行為ばかりです。

皆さん、どんなに腹が立っても、自分を見失ってはいけません。さもないと、私のように苦しい思いをさせられます。神よ、お助けください。ああ、神様! 一度だけ――もう一度だけチャンスをお与えください!」

博士「あなたがもう死んだ人間であることは、お気づきですか」

スピリット「いえ、知りません。あの子を殺してしまってから、私は逃げました。が、誰かが追いかけて来て、何かで首のところを殴られて倒れました。(この時死んでいる)が、すぐに起き上がって、また逃げました。逃げて逃げて、もう何年になることか・・・。何度か妻の姿が見えました。子供を殺したことを責め立てるのです。確かに殺したのです。神様、お助けください! ほんの少しでいいから、安らぎと光を見出したいと思ってきたのですが、見出せません」

博士「ご自分の現在の身の上を悟るまでは、光は見出せませんよ」

スピリット「神よ、光と悟りをお与えください! 目に映るのはあの子の頭だけです。かわいそうに、私の一打で割れてしまったのです。許してもらいたいと思って近づいても、ミニーは私を怖がって逃げるのです。そして、妻がひっきりなしに責めるのです」

博士「もう、責めたりなんかしませんよ」

スピリット「勿論。お名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「ウィリアム・デイ」

博士「今年が何年か、お分かりですか」

スピリット「頭が混乱していて・・・もう何年も逃げて逃げて逃げ回っているものですから・・・。大勢の人間が追いかけてくるのです。私の目に入った人間は、みんな子殺しを責めるような気がして、すぐに逃げてしまうのです。夜になると、妻が枕元に立って責めます。そこにはミニーも一緒にいます。頭が割れて、血が噴き出しているのです。もう、地獄です。こんなにむごい地獄はありません。なんとか救われる道はないものでしょうか。一生懸命祈るのですが、何の効果もありません」

博士「ここがカリフォルニアであることはご存知ですか」

スピリット「カリフォルニア? いつからそんなところに? セントルイスからカリフォルニアまで走ってきたのですか?」

博士「今、あなたは生身の人間の身体を借りているスピリットであることが理解できますか」

スピリット「この私が死んでるとおっしゃりたいのですか」

博士「物質で出来た身体は、もうなくしておられるということです」

スピリット「すると、死者が復活する日まで墓場にいなくてはならないのでしょうか」(キリスト教では、死者は『最後の審判』の日まで墓場で休むということになっている)

博士「あなたは今ここにいらっしゃるじゃないですか。どうやって墓から脱け出てきたのですか」

スピリット「もう思い出せないくらい永い間、一時も休んだことがないのです」

博士「『死』などというものはないのです。肉体から脱け出ると、五感を全部失ってしまいます。ですらか、次のスピリットとしての生活についての悟りがないと、暗闇の中で暮らすことになります。そこで、こうして生身の人間の身体を借りないことには現実が見えないのです」

スピリット「でも、あの人達がしつこく追いかけてきます。もう、疲れ果てました」

博士「ですから、もうこの辺で奥さんやお子さんと和解なさったら?」

スピリット「この私を許してくれると思われますか、あの二人が・・・。なあ、お前、この俺を許してくれ! 俺は夫として落第だった。お前は天使で、俺は野獣だった。許してくれないか。もう一度だけチャンスを与えてくれれば、今度こそ本気で頑張ってみる。苦しみはもう沢山だ。

キャリー、キャリー、この俺を本当に許してくれるかい? 本当かい? お前は我慢強くて、一生懸命頑張ってくれたが、俺はろくでなしだった。子供を愛してはいたが、すぐに腹を立てた。家計を補うために、お前は身を粉にして縫い物をした。そして、その過労で死んだ。俺が殺したようなものだ。俺は、金は稼いでも、悪い仲間と一緒に、それをすぐに使い果たしていた。家に帰った時はまるで鬼になっていた」

博士「何もかもあなたが悪かったわけでもありませんよ。あなたはスピリットにそそのかされていたのです。これから奥さんについていけば、素敵なスピリットの世界が待ってますよ」

スピリット「私には妻と一緒に行く資格はありません。償いの為に善行を心掛けます。キャリー、頼むから私から逃げないでくれ(泣き出す)。ミニー、パパを許してくれるかい? 可愛い我が子を殺してしまったけど、殺そうと思ってやったことではないのだよ。このパパを許しておくれ。

私は眠っているのでしょうか。夢を見ているのではないでしょうか。目が覚めても、まだ闇の中にいるのでしょうか。
ミニー、パパから逃げないでおくれ! どうか許しておくれ!」

博士「あなたは夢を見ているのでも、眠っているのでもありません。少しずつ現在の身の上が分かってこられましたね」

スピリット「首のあたりを殴られた時に死んだのでしょうか。ピストルで撃たれたのでしょうか」

博士「はっきりしたことは言えませんが、多分そうでしょう」

スピリット「もう一度だけチャンスを与えてくれたら、今度こそ家族を大切にするよう最善を尽くすつもりです」

博士「もっと他に、あなたにおできになることがありますよ。生身の人間に取り憑いている哀れなスピリットを救ってあげることです。人間に地獄の苦しみを与えているのです。あなたも何人かのスピリットに取り憑かれていたのですよ」

スピリット「私はもともと、アルコール類は好きじゃなかった。においを嗅ぐだけでムカつくほどだった。なのに、ほんの一口飲んだだけで、何かに取り憑かれたような気持ちになり、暴れたくなった。それがどうしても抑え切れなかった。自分ではどうしようもなかったのです。神よ、どうか、ホンの少しで結構です、慰めをお与えください」

博士「ここをお出になったら、家族の方達と再会できますよ」
スピリット「本当ですか」

博士「本当ですとも。でも、霊格の高い方の指示に素直に従わないといけませんよ」

スピリット「この私に出来ることがありましたら、是非やらせてください。家族と再会させてくださったのですから。

私は、毎晩のように酔っぱらって家に帰ってきました。ある晩、帰ってみたら妻が死にかかっていました。その時は酔っていてどう考えたか知りませんが、翌朝目を覚ましてみたら死んでいたのです! わけが分からなかった。どうしたらいいのだ! 子供達はどうなる! 妻が死んでしまった! その妻とミニーが、この私を許してくれると言ってます。これで妻と二人の子供と一緒になれます。一からやり直します。色々と私や家族のためご厄介をおかけしました。礼を言います」

第3節 ●死後、良心の呵責に苦しむ牧師
地上で熱心な牧師だった人が、死後、精神的混乱と良心の呵責に苦しむ例が多い。次はその一例である。

1921年3月9日 スピリット=マローリー氏 霊媒=ウィックランド夫人

賛美歌[かの美わしき彼岸]を出席者全員で歌っているうちに誰かが乗り移って来て、いきなり大声で笑い出した。

博士「そちらへ行かれて[美わしき彼岸]を見出されましたか。どんなところか、お教え頂けませんか」

スピリット「大デタラメさ」

博士「そうでしょうか」

スピリット「そうだよ(愉快そうに笑う)。あんなことを信じるのは間抜けな野郎だけさ」

博士「あなたはその『彼岸』へ行かれたわけですが、どんなところか、少しお教え頂けますか。何もないのでしょうかね? 死後の生命を信じないというのなら、そのわけをお聞かせください。懐疑論者であるのなら、あなたなりの信仰をお聞かせください」

スピリット「信仰? そんなもの!」(また笑い出す)

博士「何がおかしいのですか」

スピリット「泣いても笑っても同じだから笑うのさ。さっきは[かの美わしき彼岸]を歌っておられたが、あれじゃあ、大嘘を言ってることになりますぞ」

博士「霊的生命に何の意味もないということでしょうか」

スピリット「ないね。何もないね。あれは嘘。全部嘘っぱち。霊的生命も宗教も、それに関連したもの全部がたわごと・・・」

博士「ご自分の生命を悟ろうとはなさらなかったのですか――その謎を?」

スピリット「私自身の生命? それもたわごと、ただのたわごと!」(笑う)

博士「たわごとであることがどうして分かるのでしょうか。あなたは自分で、自分の無知を笑ってるだけではないのでしょうか」

スピリット「泣こうが笑おうが、同じこと。どっちが良くも、どっちが悪くもない。全部嘘っぱち――大嘘! 私も悩んだものさ」

博士「どちらでのことですか――この世でですか、そちらへ行ってからですか」

スピリット「どっちだっていいさ! 」(また笑う)

博士「今お幸せですか」

スピリット「幸せ? バカバカしい。そんなものはこの世にはありません。過去にもありませんでしたし、これからも絶対にありません」

博士「本当にご存知ないのですか。ご自分の身体をお持ちだった頃に真理というものを求められましたか」

スピリット「一生懸命に祈ったが、すべてはナンセンスだった・・・。へっ! クソ食らえだ、まったくもう・・・」

博士「すべてがたわごとだったということですか・・・。それと現実の生活とどう結びつけましたか」

スピリット「立派な人間になろうと心掛けたことはありました。が、そのうち、すべてはたわごと、ナンセンス、ペテン以外の何ものでもないのだという考えになりました。あなたも一人前の人間として、私の言ってることが分かるでしょう? 私も一人前の人間のつもりです。あなたは分かってくれると思いますが・・・」

博士「私にはあなたの姿が見えていないのです。霊的存在を見かけたことはありますか?」

スピリット「何の話ですか、それは? もうこれ以上のナンセンスは願い下げにして頂きたいですな。信じるのは勝手ですよ。水の上を歩いて渡れると信じたければ、信じたらいいのです。が、実際に歩いたら、ずぶずぶと沈みます。それと同じですよ。私も、信ずれば水の上を歩けるのです、などと説いたことがあります。ですが、見事に沈みましたな」

博士「それは理性をおろそかにしたからですよ」

スピリット「理性? 理性では水の上は歩けませんよ」

博士「水の上が歩けるという意味ではありません。水は飲むことと水浴びに使うだけでよろしい」

スピリット「なぜ私の手を握るのですか」

博士「私は私の妻の手を握っているのです」
スピリット「正気でおっしゃってるのでしょうな? 本気ですか」

博士「間違いなく私の妻の手です」
スピリット「私もかつては、そういう信仰をもったことがあります」

博士「その信仰をなぜ失われたのでしょうか」
スピリット「デタラメだということが分かったからです」

博士「地上生活は、知識を得る旅のスタートですよ」
スピリット「まだ、何の知識も得ておりません」

博士「ここを去っていかれるまでに得られますよ」

スピリット「かつては私も信仰をもち、熱心に信じました。ところがです・・・」

博士「それからどうなりました?」

スピリット「そうです、それからですよ、問題は。私は『神の代理人』として、まるで奴隷のように仕事をしました。今は神のために働くことはしません。もう昔のことになりました。私の方から手を引いたわけです。神は私にとって呪いのようなもので、気苦労と悩みが多すぎました。それで私は、神をこう罵ったのです――『こんなことをするのが、あんたの代理人というなら、神なんか存在しない!』とね。それ以来、信仰は捨てました」

博士「しかし、そのことが生命の実相と死後の生命とにどう関わりがあるのでしょうか」

スピリット「死んでしまえば、死人となるだけです」

博士「じゃ、なぜあなたは、死んでから死人になり切っていないのです?」

スピリット「死人になり切る? 私は死んでませんよ」

博士「肉体に関するかぎり、あなたは『死んだ』のです」

スピリット「私は、あの偽善者達から逃れたいと真剣に考えていました。彼らは私の有り金全部を搾り取ったのです。もしも神が存在するのであれば、なぜ神はそんなに金を欲しがるのでしょう? まず信じなさいという。信じて、財産を教会に寄付しなさい、そして教会の為に働きなさい、と。私は、それはそれは、よく働きました。朝六時から夜遅くまで――すべて神の為にね。神の為に働きながら、食うにも事欠くほど生活費に困ったことがありました」

博士「どちらから来られましたか」

スピリット「私が今欲しいのは自由だけです」

博士「どちらからおいでになったか、教えて頂けませんか」

スピリット「あそこにいる連中(スピリット)をご覧なさい! 私を罵り、あざ笑っている声が聞こえるでしょう。『お前のこと知ってるぞ! 忘れはせんぞ! 』と口々に言ってる。みんなで私をあざ笑っているのが聞こえますか。ちゃんと責任を取ってもらうつもりだと、あなたに言えよと叫んでいます。薄汚いところにいるのは、この私の責任だと言うのです」

博士「あの人達にも真実を知って頂きたいと思ってお呼びしてあるのです」
スピリット「聞こえますか、あの呪いの言葉が?」

博士「彼らにも思いやりの心を見せてあげないといけません。あなたは慈悲心がどういうものかを理解なさろうとしませんね」

スピリット「わっ、あれを見てください! みんな一斉に『慈悲なんかいらん』と言ってます」

博士「お金のことを言ってるのではありませんよ。自分の意識を改めていく手がかりを与えてあげなさいと言っているのです。
ところで、今年は何年だと思いますか」

スピリット「そんなことはどうでもいい。百年前でも百年後でもいい。とにかく私は、神も人類も、その他何もかも信じられなくなったのです。かつては信仰厚き人間でした。ところが、『神の召使い』という仕事が、妻と子供を私から奪い去ったのです。それでも、私は朝六時から真夜中の十二時まで働きました」

博士「ただ、あなたはその信仰に『理解』を加えることをなさらなかったのです」

スピリット「聖霊と神への信仰はありました」

博士「なぜそれに『理解』を加えなかったのでしょうか」

スピリット「かつては、山をも動かす信仰をもっておりました。ひたすら聖霊への信仰を教え込まれましたから・・・。
見てください、あの者達を・・・。座ってるでしょう。あいつらを見てください。
おい、カランゴ!
あいつとはよく口論をするのです。が、いつも私が勝ちます。永い間、説教をしていました・・・。今はその頃より上手になりましたからね。

おい、カランゴ、そんなところに間抜けなツラをして、しゃがみ込みやがって! あの連中が行こう行こうと言うものだから、私も来たのですよ。初め、あなたは私のことを怖がってましたな。でも、ちゃんと来ましたよ」

博士「どうやってお入りになりましたか」
スピリット「ここにですか? どうやって? それは知りません」

博士「こんな手をどこで仕入れたのですか」(と言って霊媒の手を触る)

スピリット「こんな手? 私のものだと思うが・・・。他人のものじゃないよ。カランゴが来たな。そんなところにしゃがみ込みやがって! さあ、みんなよく聞け!」

博士「これ、おしゃべりは止めなさい」
スピリット「あなたは、ここのボスのつもりですか」

博士「そうです」

スピリット「でも、あんたの言うことは信じないからね。他の誰も信じません」

博士「あなたは、もう、物質で出来た身体をなくしたということを理解してほしいのです。今あなたは、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。その辺に男達がしゃがみ込んでるとおっしゃいますが、私達には見えないのです。私達は物質の身体に宿っていますが、あなたには、もうそれはないのです」

スピリット「この私が見えていないのですか」

博士「私達にはスピリットの姿は見えないのです。あなたは、私の妻の身体を使って喋っておられるのです。高級霊の方達が、ここへお連れしたのです」

スピリット「あんたが来いというから来たのです。あの薄暗いところにいる連中も、私と一緒にやってきたのです。あんた達が招いたからです」(サークルによる地縛霊への祈りが通じたことを意味している)

博士「高級霊の方達がお連れしたのです。その方達の言う通りにしてください。あなた達は今、薄暗い闇の中にいらっしゃいます」

スピリット「たしかにその通りだ。が、あんたが招いたから来たのです。言っときますが、もし邪魔なら、何も喋りませんよ」

博士「ここへお連れしたのは高級霊の方達です。私の妻の身体を使って頂いて、あなたにはもう肉体がなくなっていることを理解して頂くためです。キリスト教は神について正しく理解しておりません。その教会の説くところがデタラメだからといって、あなたは何もかもがデタラメだと決めつけておられる。

あなたが肉体を失ったのは、多分かなり前のことでしょう。私の妻は霊的能力があり、その身体を一時的にあなたにお貸しして、今こうして喋って頂いているところです。見回してご覧なさい。どなたか、ご存知の方がいらっしゃるはずですよ」

スピリット「カランゴだよ、見えてるのは」

博士「人生にはちゃんとした意味があることを理解しないといけません」

スピリット「そう信じてましたよ。十分過ぎるほど信じてましたよ。ところが、財産も、そして妻子までも失ってしまった。そして、今はこのザマだ」

博士「それが生命の実相と何の関係があるのでしょう? 大自然の不思議に心を打たれたことはないのでしょうか」

スピリット「神などというものは信じません。そういうものは存在しません」

博士「神は、あなたの言うデタラメとは何の関わりもありません。バイブルを理解なさったのでしょうか。『神は愛なり』と述べているではありませんか。あなたがデタラメと思っていることは、宇宙の生命とは何の関わりもありません。私達は、あなたにもっとマシなものを知って頂きたいのです」

スピリット「誰一人頼りになる者はいません」

博士「今あなたは、カリフォルニアのロサンゼルスにいらっしゃるのをご存知ですか」

スピリット「知りません」

博士「さ、本当の生命とは何かを、よく理解しないといけません。あなたの思いも寄らなかったものなのです。あなたは花をこしらえたことがありますか。草を生えさせ、この生命を永らえさせたことがありますか。植物の生長について勉強なさったことがありますか」

スピリット「それは神の領分です」

博士「無知のままでは知性は芽生えません。神の脅威のわざを勉強なさったことがありますか。卵を割ってごらんなさい。そこには生命は見当たりません。ところが、それを21日間温めてごらんなさい。ヒヨコが出てくるのですよ」

スピリット「それは当たり前のことです」

博士「一体そのヒヨコをこしらえたのは何なのでしょう? 我々は信仰に知識を加えないといけないのです。バイブルには『神は霊なり。神を崇める者は、霊と真理の中に神を崇めるべし』とあります。あなたは、それを教会の中に見出そうとしたから、見出せなかったのです。教会は盲目の信仰しか教えません」

スピリット「信仰はもっていたつもりです」

博士「バイブルには『真理を悟るべし。その真理が汝を自由にすればなり』とあります。バイブルはけっして『聖なる書』ではないのですが、いくつか素晴らしい真理が含まれています」

スピリット「(笑いながら)私は信じない」

博士「あなたはご自分の無知を笑っているようなものですよ。私の妻は自分の身体をこうして、無知のまま迷っておられるスピリットにお貸しして、現実の身の上を悟って頂く仕事をしているのです。死後にも生命があることを知って頂きたいのです。あなたがどちらのご出身かは知りませんが、そうやって生身の肉体にもう一度宿って頂いて、事情をお聞きしているのです。お家はどこにありましたか」

スピリット「私の家? カナダです。モントリオールの近くです」

博士「私も、1881年に、カナダにいたことがあります。あなたはフランス系カナダ人ですか」

スピリット「曾祖父がそうでした」

博士「ご自分の名前を覚えていらっしゃいますか」
スピリット「物事が思い出せなくてね・・・」

博士「では、物事を理解なさる方向へお手伝いしましょう」
スピリット「私は奴隷のようなものでして・・・」

博士「それはもう、すべて過去のことです」

スピリット「過去しか見えないのです。そして、それが私を狂わせるのです。普通の人は泣きわめきたくなるところでしょうが、私は何でも笑ってやろうと思ったわけです。気が狂いそうになり、どうしようもなくなると笑い始めるわけです。泣きわめくよりは笑う方が少しはましだと思って・・・。

私には心痛のタネがあるのです。その悲しみが妻を追い出し、家庭を崩壊させ、子供達を追い出したのです。可愛い女房でした。ある日、くたくたに疲れ果てて家に帰ってみると、妻も子供もいなくなっていたのです。

しかし『神の代理人』であるはずの私に、その妻はもう必要でなくなっていたことに気がつきました。妻の方は神を求めていたようですが、私は反対の方向へ進んでいたのです。教会は私の味方になってくれないし、『神の代理人』の家庭を破壊し、妻も子供も奪うような世界に神は存在しない――そう考えたのです。その神を求めて地獄へ降りてみました。下へ下へと降りてみて、最下層の世界にも友情があることを知りました。

あなたも降りてみられるといいですよ。それが分かります。みんなお互いを外道だと思っていますが、ここへ連れて来た連中は、私の本当の友人です。何かと手を貸してくれるし、何でもみんなで分け合うことをします。どんなに落ちぶれて、たとえ一文無しになっても、何とかしてくれますよ。

そうしたある日のことです。忘れもしません――これだけは永久に忘れません―― 一体神は何を酔狂にこんなことを許すのでしょうか。ある日、妻クララに出会ったのです。どこにいたと思いますか。妻もその貧民窟に身を落としていたのです。そこの売春宿で見つけたのです。神は、無用になった妻をそこへ蹴落としたのです。私の目と妻の目とが合いました。

『こんなところに!』私は、呆れて言いました。
『あなたこそ、こんなところへ!』と妻も言いました。
『なぜ、またこんなところに?』と私が尋ねると、妻も、『あなたこそ、何をしにこんなところへ?』と尋ねます。

『多分、私の自由意志がここへ連れて来たのだろう』と言いました。

すると妻は、『さだめし、あの栄光の神の代理人の仕事が、その名を辱めないようにと、私をこんなところへ押し込めたのでしょう』と言います。

つまり、神の汚らわしい仕事を隠し、身の上を尋ねられることのないようにと、売春宿に閉じ込めたというわけです。妻はもうすべての羞恥心を失っておりました。二人とも落ちるところまで落ちてしまったのです。あの悪魔(神)のためにね。

それ以来、私は教会へ近づいたことはありません。敬虔な宗教家をすべて呪うようになりました。妻は私には一切関わろうとしませんでしたし、私も妻のことは救えませんでした。病に冒された身体のまま、あの貧民窟にほうってあります。女が身をもち崩すと、動物にも劣ることをするようになるものです。何の罪も咎めもない私の妻をあんな目に遭わせる神なんて、信じられる人がいますか? あのような現実があっていいのでしょうか」

博士「なぜあなたは、神の与えてくださった理性というものを使用なさらなかったのでしょうか」

スピリット「あのような境遇に落ちた人間が無数にいるのです。もうどうなっても構わなくなった人間ばかりなのです」

博士「今あなたは、その『もうどうなっても構わない』という気持ちから脱け出ようとなさっている。さ、今度は私の話を聞いて頂けませんか。あなたはキリスト教へ入信して盲目的信仰を受け入れた――そのことは認めますね?」

スピリット「立派な人間になりたいと思ったのです」

博士「もう少し高いものを求める気持ちは出なかったのでしょうか。ただ盲目の信仰を受け入れただけで、それに理解というものを加えなかった。神は判断力というものを与えてくださっています。理知的に考える能力です。ところが、あなたはその反対の盲目的信仰を受け入れて、それに執着した。それは神が悪いのではありません。信仰に知識を加えないといけません。その時初めて自由になるのです。バイブルは神がお書きになったものではないのですよ」

スピリット「聖なる書です。そう言われています」

博士「あれは人間が書いたものなのです。それよりも、人間の心の不思議ということを考えたことがありますか。私は今『事実』の話をしているのです。人体の不思議に関心をもったことがおありですか。つまり、目に見えない精神が、物的身体をコントロールしている、その不思議です。大自然の驚異に心を奪われたことはないのですか」

スピリット「それは今の私の惨めな状態とは何の関係もありません」

博士「それが大ありなのですよ。色々なものに触れて心が開かれていれば、今あなたは、目に見えない愛とか精神といったものの不思議がお分かりになるはずなのです」

スピリット「あの悪魔のような神が、私の妻を愛したとでもおっしゃりたいのですか」

博士「それは愛の問題ではありません。獣性の問題ですよ。人間にもそういうものが潜んでいるということです。あなたが人間精神に宿されている素晴らしい能力を駆使しなかったところに、そうなる原因があったのです。理性を使用せずに教会を盲信したのがいけなかったのです。

今のあなたの姿は、私達には見えていないのですよ。あなたは今、私の妻の身体を一時的に使用しているのです。このサークルの者は、肉体の死後もそのことに気づかずに迷っている人達をここにお連れして、スピリットになっていることをお教えする仕事を続けているのです。あなたも高級霊の方達によって、ここへ連れて来られたのです。真実の身の上を知って頂く為です。

あなたにも、これからスピリットの世界へ行って向上するチャンスが待ち受けております。が、そのためにはまず、その『憎しみ』の情を捨てて頂かねばなりません。もう肉体を失ってしまったのです。

ところで、今年が何年だかお分かりですか。1921年で、今あなたはカリフォルニアにしらっしゃるのですよ」

スピリット「どうやってここへ来たのでしょう? 私はカリフォルニアに来たことは一度もありませんが・・・」

博士「スピリットの動きは速いでしょう? さっきあなたは仲間も一緒に来ているとおっしゃってましたね。その方達も、私達には姿が見えないのです。あなたの姿も見えません。そのあなたが今、私の妻の身体を使っておられる。生命がいかに素晴らしいものであるかがお分かりになりませんか」

スピリット「そういうことをなぜ、教会は教えてくれないのでしょうか」

博士「それはですね、真理は人間がこしらえるものではないからです。教会は勝手なことを教えています。が、一方には生命の実相というものが厳として存在します。そのどちらを取るかは、あなたの自主選択に任されているのです。

教会は、人間がこしらえたものです。神は霊的存在であり、従って霊と真理の中にこそ、神を崇めるべきなのです。霊と真理の中に、です。誰しも死後の生命に憧れます。しかし、憧れるだけでは知識は授かりません。神は霊であり、目に見えない知的存在です。それが宇宙のあらゆる驚異的現象となって顕現しているのです」

スピリット「ここに来ている仲間達も、私と同じく挫折感を味わった者達ですが、それぞれに事情は異なります。時折、お互いに過去の体験を持ち出して語り合うことがあります。それぞれに悩みがあるのです」

博士「それを神のせいにするのは間違いです。宇宙は神の聖殿です。我々の魂は、その顕現です。宇宙の不思議さに目を向けないといけません。あなたの仲間もここへ来ていらっしゃるそうですが、私達にはその姿は見えていないのです。不思議だとは思いませんか」

スピリット「みんな、本当に悩みから救ってもらえるのかと言っています」

博士「お救いしますとも。生命は素晴らしいものであることを、彼らに言ってあげてください。見回してごらんなさい。救いに来てくださっている高級霊の方達の姿が見えるはずですよ」

スピリット「私を入れて仲間は六人です。みんな悩みと挫折感を抱いています。が、そうなるまでの経緯は、それぞれに違います」

博士「皆さんに伝えてあげてください――そんな惨めな状態のままでいる必要なんかどこにもないのです、と」

スピリット「我々の仲間には『笑い馬鹿』と呼んでいるグループ、『呪い馬鹿』と呼んでいるグループ、『罵り馬鹿』と呼んでいるグループ、それに『歌い馬鹿』と呼んでいるグループなどがあるんです。『歌い馬鹿』のグループは、朝から晩まで歌と祈りの連続です。もう、それはそれは、聞いていてうんざりですよ」

博士「バイブルに『人は心に思う通りの人間になる』とあります。狂信家は始末に負えません。盲信に理解が添えられないのです。才能は授かっているのです。それを使用していないだけのことです。それでも神のせいになさいますか」

スピリット「ここしばらく何も仕事をしておりません。みんな何も食べないことがります。永いこと食べずにいると、必要でなくなるみたいですね」

博士「スピリットに食事は必要がないのです」
スピリット「でも、飢えは感じます。すごく感じます」

博士「それは霊的に飢えているのです」

スピリット「何かに飢えているのです。が、何に飢えているのかが、自分で分からないのです。みんなそれを知りたがっているのです。魂が叫び求めているものがあるのです。が、それが何なのかが分からないのです。祈るのは、みんなもうご免なのです。私にいたっては、祈れなくなっています。かつて信仰をもち、毎日祈りました。ところが、このザマです」

博士「神は、皆さんの一人一人に理性的能力を授けてくださっております」

スピリット「我々の力になって頂けますか。みんな安らぎに飢えているのです。見えるのは、過去の嫌なことばかりです。みんなもう少しマシなものを求めております。私の目に映るのは、あの身を持ち崩した妻の姿だけです」

博士「奥さんは身体が病んでいただけです。魂まで病んではおられません」

スピリット「久しぶりで会った時は、互いに泣きましたよ」

博士「真理を悟られた暁には、皆さんは人助けで大変な仕事をなさいますよ。まわりに集まっている霊界のお知り合いの方の言うことを素直に聞いてください。
皆さん、しばらくの間、静かに瞑想してください。思いも寄らないものが見えてきますよ」

スピリット「妻は、どうでしょうか。ユリの花のように純粋な女だったのですが・・・。今も愛しております」

博士「愛はまだまだ続いてますとも。我々は自分で自分を見出していかねばならないのです。無知から脱け出るごとに、この世とスピリットの世界について、より高度なものが見えるようになるのです。もしも完全であれば、その有り難さは分かりません。

あなた方は『地獄』を見てこられた。だから『天国』の素晴らしさが分かるのです。そこで、不幸な人を救ってあげなくては、という気持ちが強烈となるのです。皆さんは、より高いものへ向けて心を開かないといけません」

スピリット「妻への愛は消えておりません。(仲間に向かって)こら、みんな、まだ行っちゃダメだ! もう少し待ちなさい」

博士「バイブルにもあるじゃないですか――『求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。叩けよ、さらば開かれん』と」

スピリット「(深く感じ入り、敬虔な口調で)もしも神様がましますならば、なにとぞ救い給え! 哀れな私の妻を救い給え! 私達は互いに愛し合っておりました。ああ、神よ! 我々のすべてを救い給え! みんな魂が飢えております」

博士「神の使いの方が救ってくださいます。喜んで救いの手を差しのべてくださる高級霊の姿が、もうすぐ見えるようになります」

スピリット「神よ、なにとぞ我らを救い給え! 」

博士「まわりをよくご覧になってください。スピリットの姿が見えるはずですよ」

スピリット「あれは、息子のチャーリーだ。チャーリー! お前じゃないか! ずいぶん前に死んだはずだが、間違いなくチャーリーだ。父さんを助けに来てくれたのかい? 父さんは地獄の苦しみを味わってきたよ。が、父さんよりも母さんの方を救ってやってくれ! かわいそうだよ、母さんは! (息子が現在の本当の姿を見せたのに驚いて)おや、チャーリーだろう? すっかり大人になって! このつまらん父さんを許してくれるかい? 父さんも立派な人間になろうと、一生懸命努力したつもりなんだよ。

神よ、どうか私の目を開かせ給え! 神よ、なにとぞ救い給え! (霊界の美しい映像を見せられたらしく、息を呑んだ声で)おお、神の栄光だ! みんな、チャーリーについて行こう! (さらに驚いた様子で)お前は! クララじゃないか! 君もいたのか? クララ、おいで。昔のことはもういい。許すよ。君が悪いんじゃない! 悪魔のせいだ。悪魔がお前を私から奪ったんだ! 今も愛してる。ずっと忘れていないよ。おいで、クララ、一緒に行こう。チャーリーと一緒に行こう。あの子も許してくれるよ」

博士「チャーリーは何と言ってますか」

スピリット「『僕の霊界の家においで。すべてが素晴らしくて、父さんも幸せになれるよ。父さんが人生を呪ったのも、悲しみと苦しみが大きすぎたからだよ』と言ってくれています」

博士「目の前に素晴らしいものが待ち構えているのが、お分かりになりましたか」

スピリット「あれが天国なのでしょうか。おや、あれをご覧よ、母と妹のエマだ! こんなところにいたんですか、二人は? 私とクララのことは許して頂けますか、母さん? 母さんはきっと天国に召されたと思ってましたよ。優しかったもの」

博士「これまでのあなたの人生より、はるかに素晴らしいものがあることが分かったでしょう?」

スピリット「分かりました。神はましますのですねえ。今やっと本当に神の存在が信じられます。神の栄光を見せて頂きました。この目で見て、この身体で実感しました」

博士「すっかり悟られた後は、仲間の方達を救ってあげないといけませんね」

スピリット「みんな私について来ますよ。来てほしいです。ほっとくわけにはいきませから。お世話になりました。

さ、みんな、ついて来るんだ! それぞれにあだ名があるんですよ。本当の名前じゃないんです。神を憎み、何もかも笑い飛ばすものですから『笑い馬鹿』なんて呼ばれています。過ぎた日のことばかり喋ってました。

これでやっと神を見出すことが出来ました。神の栄光と、幸せと、スピリットの世界を見出しました。もう、信じるなんてものではありません。身に沁みて、その存在を悟りました。父も、母も、妹も、みんな来てくれています。さ、みんな、行くんだ。この方のおっしゃったことを、みんな聞いたろ?

あなたこそ、我々の救い主です。暗闇の中から救い出してくださり、光輝を見せてくださったのですから。私一人でなく、仲間全員が目を開かれて、神の栄光を見せて頂いたのです。憎しみと怨みの神ではございません」

博士「私の妻にも感謝しないといけませんね。妻が身体を犠牲にしてくれたからこそ救われたのですから」

スピリット「ご恩は決して忘れません。永い間、本当に永い間味わったことのない幸福感を味わわせてくださいました。1921年だとおっしゃってましたが、本当ですか。私は1882年のつもりでいました」

博士「お名前を言って頂けませんか」

スピリット「名前ですか? いいですよ。マローリーと申します。みんな『笑い馬鹿』などと呼んでくれてますけどね。

それにしても、こんなわがままな私を、よくぞ辛抱してくださいました。ここへ来たばかりの時は、憎しみの気持ちで一杯でしたが、今はもうすっかり消えました。あなたは私の本当の救い主です。あの暗い境涯からこんなに美しい場所へと連れ出してくださったのですから。クララ、あなたも来なさい、もう大丈夫だよ」

博士「これであなたも、存在価値のある霊となられましたね。過去を忘れて、神を見出すのです」

スピリット「前回会った時は、クララは病に冒され、モルヒネを打ち続けておりました・・・。クララ、おいで、もうあの時のことは忘れてるよ。ほら、チャーリーも一緒だよ。
クララは大丈夫ですかね? まだ目まいがするようです」

博士「アヘンの後遺症が残ってるのでしょう。あなたの愛ひとつにかかってますよ」

スピリット「妻だけは憎めなかった。純粋な心の持ち主でしたからね。クララ、目を覚ますんだ! 君はもう死んでるのだよ。過去を忘れて、新しい生活を始めなきゃ!
あなたにはお礼の言いようもございません。幸せをもたらしてくださり、私の心の中に神を見出させてくださいました。たしかに私は、本当の神を知りませんでした。あなたは、大自然の中にも神を見出させてくださいました。ごらんなさい、あの美しい花々・・・。あそこが天国なのでしょうか」

博士「霊界ですよ」

スピリット「これで、愛する人達といつも一緒にいられます。では、まいります。さようなら」

第4節 ●英国王も愛した人気女優
地上時代は、英国王エドワード七世もファンだったという人気女優のリリアン・Rが、ある日の交霊会でウィックランド夫人に乗り移った。死後のもうろうとした睡眠状態から抜け出られず、それを親戚や知人、友人などが入れ替わり立ち替わり、声をかけて目覚めさせようとしている様子を彷彿させる内容である。

1922年7月7日  スピリット=リリアン・R

博士「ようこそおいでくださいました。どちらから来られましたか」

スピリット「ここへ来るように言われてまいりましたが、何が何だか分かりません。自分の状態がとても変で、わけが分かりません。どこにいるのかも分かりません」

博士「今あなたはカリフォルニアのロサンゼルスにいらっしゃるんですよ」

スピリット「まさか! 大勢の人からここへ来るように言われたのですが、なぜだか知りません。ここにいらっしゃる皆さんの中に私の知ってる方は見当たりません」

博士「私達が、お役に立てればと思いまして・・・」

スピリット「何もして頂くことはございません。ただ、頭の中が混乱してまして・・・」

博士「それは、あなたが今置かれている状態を理解なさっていないからですよ。今、どこにいらっしゃるつもりですか」

スピリット「それは、もちろん私の家ですよ」

博士「州はどちらだったのでしょうか」

スピリット「もちろん大半はニューヨークでしたよ。でも、時にはロンドン、その他の国々も訪れましたけど・・・」

博士「どなたかお知り合いの方の姿は見えませんか。ここへお連れした方でもいいのですが・・・」

スピリット「おお、痛い!」(手足が痛むような仕草をする)

博士「何か事故にでも遭われましたか。旅行中のことでしょうか。最後に覚えてらっしゃることはどんなことでしょうか」

スピリット「とても病んでおりました。痛みがひどくて・・・」

博士「多分その病気が最後だったのでしょうね。急に良くなったのではないですか」

スピリット「いえ、永い間寝てたような感じがして、それが今なんとなく目が覚めていきつつあるような感じです。何もかも変なのです」

博士「ご自分が置かれている事情が理解できていないからですよ。その痛みは、今はもう感じる必要はないのです。『もう痛くはない!』と自分に言い聞かせてごらんなさい。さっと消えますよ。さ、おっしゃってごらんなさい」

スピリット「ええ、でも、なんだか言いにくくて・・・。あなたはクリスチャン・サイエンスの方ですね? 私も勉強してみましたが、痛みが心の影だなんて、とても信じられません」(クリスチャン・サイエンスは、信念で病気を治すことを説く宗教)

博士「今は地上とは事情が違うのです。まわりにどなたか知った方は見えませんか」

スピリット「見えます。とっくに亡くなったはずの親友の姿が、たくさん見えることがあります。それで、あたしの頭がどうかしてるんだと思うわけです。まわりに集まって、誰かが『目を覚ましなさい!』と言うんですが、はっきり見えないのです。見たいとも思いません」

博士「はっきりとしないのは、理解しようとしないその心構えが邪魔するからですよ。地上で一緒に仕事をしていた頃は、その方達が怖かったのでしょうか」

スピリット「そんなことはありません」

博士「じゃ、なぜ怖がるのですか。お互いに肉体を棄てただけじゃないですか」

スピリット「怖いのです。びくっとするのです。そばに来て欲しくないのです。なぜ、一番の仲良しが来てくれないのでしょうか」

博士「地上時代のお友達から見れば、あなたは死んだ人間なのです。そして、既に死んだお友達から見れば、あなたは死んでいないのです」

スピリット「私は病気になっておりました。でも、死んだという記憶はありません。眠りについたのは知ってますが、そのまま目覚めることが出来なかったという記憶はありません。お友達が何人かやってきて、一緒においでと声をかけてくれました」

博士「なぜ、みんなが『目を覚ましなさい』と言うのか、分かりますか。霊界のお友達にとっては、あなたはまだ居眠りをしている状態だからです」

スピリット「なぜ呼んでくれるのでしょうか」

博士「悟らせてあげようとしているのですよ」
スピリット「あなたはどなたですか。私は存じ上げませんが・・・」

博士「私は、ドクター・ウィックランドと申します。あなたをここへお連れしたのはどなたですか」

スピリット「アンナ・Hがいらっしゃいと言うものですから・・・」(地上時代の女優仲間)

博士「その方も今のあなたと同じように、ここでお話をしてくださいましたよ」

スピリット「彼女も私のところへ来てくれましたが、あの方はもう死んでしまったはずです」

博士「死んでなんかいません。いいですか、私達には今あなたの姿は見えていないのですよ。あなたの喋っている言葉が聞こえてるだけなのです。そして、あなたも実は、本当の私を見ておられるのではなく、私の身体を見ているだけなのです。精神体は見えないものなのです。その精神体は決して死なないのです」

スピリット「大勢の人がやってきて、しっかり目を覚まして、また一緒に仕事をしましょうよと言ってくれます」

博士「よろしかったら、お名前をおっしゃってください」

スピリット「私をご存知でなかったのですか。私は女優でした。リリアン・Rの名で知られておりました。死んでなんかいません。ウィリアム・ステッドが会いに来てくれました。エドワード七世もおいでになられました。私のファンでしたの。私がなぜこんなところに来たのか分かりません。あなたが私を目覚めさせてくださると、みんなが言ってますけど・・・」

――ウィリアム・ステッドは、生前から霊魂説を信じてスピリチュアリズムの普及に貢献し、死後も霊界通信を送ってきている。

博士「ここに集まっている者は、人生の悩み事に関心をもっていて、特に『死者はどうなるのか』という問題と取り組んでいるのです」

スピリット「私も少しは勉強しました。でも、心霊現象はよく分かりませんでした。そんなことを勉強するよりも女優としての仕事の方が忙しくて・・・でも、私なりに信じた生き方をしていました。とても疲れました。眠いです」

博士「病気は何だったのですか」

スピリット「それが、みんな色々と言ってくれるものですから、自分でも分からなくなりました。ここから下がひどく痛みました(膝から下をさする)。しばらく意識を失っていたようです。はっきり思い出せないのです。記憶を失ったようでもあります。昔のことになると、まったく思い出せません。人間が変わってしまったみたいです。将来に何の楽しみもなくなったみたいです。といって、不幸というのではありません。幸福でもありませんけどね・・・」

博士「私が事情を説明してあげましょう。少しも心配なさることはないのですよ」

スピリット「お友達がやってきてくれるのですが、関わり合わないようにしています。『おいでよ』と言ってくれるのですが、『ダメ、ダメ! あたしはまだ死ぬわけにはいかないわ。死にたくないの』と言い返しています」

博士「あなたはもう死んじゃってるんですよ。そのことが分かっていらっしゃらないから、お友達が教えに来てくれてるのに、あなたはそれが理解できない。
今、ご自分がどこにいるのかご存知ですか。今、あなたが使っておられる身体は、私の妻のものなのです。妻は眠っています。あなたは、ご自分の身体で喋っているのではないのですよ」

スピリット「(既に他界している友達に気づいて)ジョン・J・Aが来ました」

博士「この婦人は、霊媒なのです。私の妻でして、スピリットに身体をお貸しして話をして頂き、事情を理解して頂いております。ジョンもステッド氏もアンナも、あなたに理解させてあげることが出来なかったみたいですね」

スピリット「あの方達が怖かったのです」

博士「ここはあなたのような状況に置かれている方に実情を知って頂くところです。あなたはスピリットになっておられて、今、他人の身体を使っておられるのです。私達は自分の身体をもっていますから、こうしてあなたと話が出来るわけです。あなたはご自分の身体をなくしてしまい、今は霊的身体をおもちです。死後はいったん眠りの状態に入り、今、そこから目覚めつつあるところです」

スピリット「確かに電気ショックのようなものを与えられて目が覚めたのですが、まだボンヤリしています。人の顔がいっぱい見えます。知っている人ばかりですが、みんな、もう死んでいるはずです。周りに来て話しかけてくれるのですが、耳を貸さないようにしています」

博士「それがいけないのですよ」
スピリット「スピリットというのは生きているのでしょうか」

博士「生きてますとも! ここにいる私達は生身の人間ですが、あなたに見えている方達は、みなスピリットなのです」

スピリット「でも、あなた達と同じように現実味がありますけど・・・」

博士「私達よりもっと現実味があるくらいですよ。肉体の束縛がないのですから・・・。私達こそ、夢うつつの状態にあると言ってもいいのです」

スピリット「今こうして体調がいいのは夢を見ているからで、目が覚めたらまた痛くなるのではないかと不安なのです」

博士「ここを出て行く時は、大勢のお友達と一緒ですよ」
スピリット「私もご一緒できるということでしょうか」

博士「あなたのその『怖がる』気持ちさえ取り除けば、いつでも行けます」

スピリット「誰かが来ました。また一人来ました。私においでと言ってます」

博士「ロングフェローの詩をご存知でしょう?

生命こそ実在! 生命こそ厳粛! 墓場は終着点にあらず。
塵なれば塵に帰るべしとは、魂について言いしにあらず。」

スビリット「とても美しいものが見えてきました! なんて美しいのでしょう! 夢としか思えません」

博士「スピリットの世界の美しさを、ちょっぴり見せてくださってるのですよ」

スピリット「あの丘の上の美しい家を見てください!」あの素敵な歩道、美しい湖や丘、一面に咲いているあの素敵な花々。美しいじゃありませんか。私もあそこへ行けるのでしょうか 」

博士「あなたの心にある拒絶心や、反抗心さえなくなれば行けますよ」

スピリット「私は女優でしたが、心の中では神を信じていましたし、今でも信じています。教会は女優という職業を軽蔑しますが、私は私なりに世のために尽くしてきたつもりです。世の中を楽しくするために、私達なりに出来ることをお見せしたいと思っていました」

博士「新しい世界でも同じことが出来ますよ」

スピリット「クリスチャンではないと言われれば、それはそうかも知れません。でも、私なりに立派な人間でありたい、人のために良いことをしたい、と願ってきました。それが私の信念でした。時たま教会に出席したことはあります。でも、あの雰囲気には、なぜか溶け込めませんでした」

博士「それは、教会には霊性がないからですよ」

スピリット「あのたくさんの光を見て! 美しいじゃありませんか! 光が合唱しています。いろんな色合いに変化しながらビブラートしています。色彩が奇麗です。

あそこへ行ったら、これまでに出来なかったことをするつもりです。人さまに楽しい思いをさせてあげるだけではダメだと、何度も思ったものです。人生にはもっと大きな目的がなくてはならないと信じてました。でも、自分の心にだけは忠実に生きてきたつもりです。
まあ、素敵! なんて美しいのでしょう! あそこが天国なのでしょうか」

博士「そうです。でも、キリスト教で言う『天国』とは違いますよ。地球を取り巻いているスピリットの世界です。イエスも『スピリット』と『スピリットの世界』の存在を説いているでしょう? パウロも『物的身体と霊的身体とがある』と言っています」

スピリット「アンナが言っています――今の彼女は、私が知っているかつての彼女とは違う人ですって。今の本当の彼女を、私は知らないそうです。今は不幸な人達を救う仕事をしているのだそうです。何度もこの私を目覚めさせようとしてくれたそうです。皆さん方は、ここでどういうことをなさっておられるのですか」

博士「ここはですね、人間が死んだ後どうなるかについての知識を得るために、色々と調査をするところなのです。同時に、死んだあと迷っておられる人達に、霊的な悟りを得て頂くところでもあります。

今あなたが使っておられるのは、私の妻の身体なのです。妻は霊媒と言いまして、身体と脳をスピリットにお貸しすることが出来るのです。それで、こうして私と直接お話をして、今あなたがどういう状態にあるのかを得心して頂くことが出来るわけです。あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのですよ。(霊媒の手を持ち上げて)これはあなたの手ではないでしょ?」

スピリット「違います。妙ですね」

博士「そうした事実について人間が知らなさ過ぎることの方が、もっと妙ですよ」

スピリット「教会はそういうことを教えていませんね」

博士「教会は信仰を押し付けるだけで、死後の生命についての知識を付け加えてくれません。本当はそれが一番必要なのです。

バイブルも、信仰に知識を加えなさい、と言っております。イエスは『真理を知りなさい。そうすれば、その真理があなたを自由にしてくれるでしょう』と説いています。もしもあなたが、こうした霊的な事実を知っていたら、目覚めた時に迎えに来てくれたスピリットのお友達の言うことを、素直に聞いていたはずです」

スピリット「あんなに美しいところなら、ぜひ行ってみたいです。すっかり元気になったら、地上でやりたかったことが、こちらでも出来るんだそうですね。お友達がそう言ってます。でも、私をどう看病するつもりでしょうね? こんなに衰弱しているのに・・・」

博士「その身体を離れた時は、今思っておられるほど衰弱はしてませんよ。『人間は心で思っている通りの人間になる』ということわざがあります。ここを去ったら、大勢の人達に温かく迎えられて、素敵なお家に案内されます。何もかも新しい霊界の事情にわくわくして、弱々しくしている暇なんかありませんよ」

スピリット「もう一度眠りに入るのでしょうか」

博士「あなたは、病気で痛みに苦しんでおられた時に、おそらく麻酔薬を投与されていたはずです。その後遺症で意識がはっきりしなかったのかも知れません。でも、もう大丈夫です」

スピリット「ありがとうございます。あ、みんなが呼んでいます。行ってみたい気持ちになってきました。いろいろお世話になりました。これで事情が分かってきました。お友達のところへ行けることにもなりました。あのままでしたら、またドアを閉めて、一人、暗がりの中で暮らすところでした。あんな奇麗なところに行けるなんて、本当にありがとうございました。私は、結局、自分の意識の暗闇の中にいたわけですね。

みんながしきりに私を呼んでいます。霊界の私の家に案内してくれるのだそうです。何か、ぜひ伝えてほしいことがあるそうです。元気が出なくて、全部お伝えできるかどうか分かりませんが、ある紳士の方がこう言っておられます――
『自分は地上ではエドワード王だったが、今はただの人になった。母は女王(ビクトリア)だったが、今はもう女王ではなく、地上にいた時よりも人のために役立つことをさせられている。母は生前から心霊現象に興味があり、スピリットが地上に帰ってくることも知っていた(バッキンガム宮殿に霊媒を呼んで、交霊会を催したこともある)。が、人間としての義務を怠り、生涯、何もかも人に世話をさせた。好きなことも出来なかったが、責任を取るということもしなかった。今、母は人のための仕事で奔走している。私も同じで、生命の実相を知るまでは、人の為に働かされます』

以上が、その紳士からのメッセージです。多分、地上の人達が自分のことを今でも王と思っているだろうと思い、そう言いに来たようです。こちらでは、ただの一人間にすぎません。他の人達と同じように、仕事がしたいのだそうです。もう、貴族でも王家の血筋でもありません。

わぁ、友達が大勢やってきて、握手を求めています。一つの大きな家族みたいです。
では、そろそろお別れしたいのですが、どうやってこの身体を離れたらいいのでしょうか」

博士「『思いこそ自然界の問題の解決者なり』と申します。お友達のところへ行ったつもりになってごらんなさい。それだけで行けます。思念の焦点を、こちらからあちらへと移すのです。『自分は実際にあそこにいる』と念じてごらんなさい」

スピリット「ここへ来て、魂に目覚める機会をお与えくださって、心からお礼を申し上げたいと思います。これで、あの方達のところへ行けます」

第5節 ●最後の憑依霊
人体から放射されている磁気性オーラと電気性オーラは、暗闇の中に閉じ込められている地縛霊には灯火のように見える。自我意識がしっかりしていないために、無意識のうちにそれに近づくのであるが、その際に、灯火と見られている人間が霊的感受性が特別に強いと、そのオーラに引っかかってしまう。

本来なら拒絶反応(一種の防御本能)が働いてすぐに離れるのであるが、両者の間に何らかの因縁がある場合には、憑依現象がエスカレートして、スピリットの意識の働きがその人間の脳の働きにまで響くようになる。二重人格と言われているのはそういう状態をさす。これが一個のスピリットでなく、複数のスピリットが一人の人間のオーラに引っかかっている時が多重人格と言われている症状になる。

次の例は、初めのうち手に負えないほど酷かった症状が、除霊が進むにつれて軽くなり、ついには最後の一人となった、そのスピリットを招霊した時のものである。

患者=L・W夫人
スピリット=ジュリア・スティーブ

博士「お名前をおっしゃってください。私達は、暗い闇の中にいる方々をお招きして、悩みをお聞きしている者です。亡くなられてからどのくらいになりますか」

スピリット「何かが起きたようには感じております」

博士「ご自分の身体から脱け出てしまっていることはお気づきですか」

スピリット「手を握らないでください。あたくしは資産家のレディでございますの(L・W夫人はこのセリフをよく口にしていた )。レディに対する礼儀をお忘れなく・・・」

博士「『ミセス』と呼ばれてましたか、それとも『ミス』でしたか」

スピリット「あたくしは資産家のレディでございます。そのような下衆の質問には慣れておりませんので・・・。あたくしからあなたさまに申し上げたいことがございますの」

博士「どのようなことで?」

スピリット「あなたは、あたくしの背中に妙なものを浴びせる悪い癖がおありのようで(静電気治療のこと)。なぜ、あのようなマネをなさるのか、分かりませんの。あなたはまた、このあたくしを牢の中に閉じ込めましたね? (オーラの中で身動きが出来なくなった状態のこと)あなたに相違ございません。どこのどなたさまでいらっしゃいますか」

博士「あなたのためを思ってお話をうかがっている者です」

スピリット「第一、あたくしはあなたさまを存じ上げておりません。第二に、あなたさまにご相談申し上げることは何もございません。どなたさまですか。お名前をおっしゃってください」

博士「ドクター・ウィックランドと申します」

スピリット「ほんとはお名前をうかがっても仕方ないのですけどもね・・・。何の興味もございませんもの」

博士「スピリットの世界へ行きたいとは思いませんか」

スピリット「そんな話、聞いたこともございません。あたくしは、スピリットではございません」

博士「その手をごらんになってみてください。あなたのものでしょうか」

スピリット「あなたという方は、このあたくしを永いこと牢に閉じ込めておいて、今度はニセモノを見せようというのですか。聞く耳はございません」

博士「ここへは、どうやって来られたのでしょうか」

スピリット「あたくし自身には身に覚えがございません。とても奇妙な感じがするのは確かです。牢の中にいて、ふと気がつくと、ここに来ておりました。どうやって来たのか、分かりません。以前はお友達(他の憑依霊)が沢山いたのですが、いつの間にか一人ぽっちにされてしまいました。牢に入れられているのですが、どんな悪いことをしたのか、自分でも分かりません」

博士「そのお友達とは、どこで一緒だったのですか。どこに立ち寄っておられたのですか」

スピリット「立ち寄っただなんて・・・。ちゃんとした自分達の家にいましたよ。仲間が大勢いました――男性も女性も。ただ、なぜだかそこから出られなくて・・・。温かいところにいたり、一人ぽっちになったり、暗いところにいたり・・・。今は一人っきりになりました。あたくしを焼くのは止めてくださいよ」

博士「あの電気療法は、地縛霊にはよく効くのです。無知な霊にね」

スピリット「無知ですって! よくもそんな失礼な言葉が使えるわね。生意気な! 」

博士「あなたはもう物的身体から脱け出てしまったことをご存知ないのですか。肉体を失ってしまわれたのです」

スピリット「どうしてそんなことが分かるのよ?」

博士「それは、今あなたが話しておられる身体は、あなたのものではないからです。それは、私の妻のものなのです」

スピリット「あの針のようなものを浴びせる前は、あなたを一度も見かけたことはございませんよ」

博士「あの時のあなたは、それとは別の身体を使っておられたのです」
スピリット「一体、それはどういう意味ですか」

博士「別の人間の身体に乗り移っておられたということです」

スピリット「なるほど、そういえば思い当たるフシがあるわね。なんとなく自分が自分でないような気がしたかと思うと、また自分に戻った感じになったりしてました。一人、図体のでかいのがいて、少し間抜けなところがあるんですけど、その人の言う通りにさせられていました(もう一人の憑依霊で、この女性の前に除霊された、ジョン・サリバンのこと)

ほんとは言いなりにはなりたくなかったのです。だって、あたくしは欲しいだけお金があるし、なんであんなゴロツキに悩まされる必要がありますか。そこはあたくしの自宅ではありませんでしたが、そこにいないといけなかったのです。なぜ逃げ出せなかったかが分かりません。その男は、あたくしを入れて数人ばかりを牛耳ってました」

博士「例の電気が、逃げ出すのに役立ったわけでしょう?」

スピリット「そうね。でも、その時の痛さったら、ありませんでしたよ。命がなくなるかと思いましたよ」

博士「何はともあれ、その電気のお陰で自由になれたじゃありませんか」

スピリット「あの男からはどうしても逃げられませんでした。言われた通りにしないと大変なの。彼がやたらに走りたがるものだから、あたくしたちも走るしかなかったのです(患者はよく逃げ出すことがあった)

一人、小さい女の子がいて、その子は泣き通しでした。時々自由になったかと思うと、すぐまた、そういう悲劇に巻き込まれるのです。時にはフワフワ漂いながら、あちらこちらへ行くような感じもましした」

博士「そんな時は一個の自由なスピリットとなっておられたのですよ」

スピリット「スピリットという言葉を口にしないでください! 大嫌いです。そういう類いのものには縁はございません」

博士「あなたは、まだ、ご自分が肉体から脱け出てしまったことが悟れないのですね。死んだと言っているのではありません。ちゃんと生きていらっしゃいます。ただ、今はスピリットとして生きているということです」

スピリット「あたくしは死んでなんかいませんよ。今こうして、あなたと話をしているじゃありませんか。手も腕も、これ、ちゃんと動かせるじゃありませんか」

博士「いいですか。あなたが私に向かって話をなさっていても、私達にはあなたの姿は見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体です。あなたは私の妻の身体を使って喋っておられるのです。ミセス・ウィックランドの身体です。あなたのお名前は?」

スピリット「エミリー・ジュリア・スティーブです。結婚してましたが、夫は数年前に他界しました」

博士「ここがカリフォルニアであることはご存知ですか」

スピリット「そんなところへ行ったことはありません。最初シカゴへ行き、そこからセントルイスへ行きました」(患者もセントルイスに住んだことがあり、そこで異常行動が出始めている)

博士「セントルイスのどちらでしたか」

スピリット「あたくしは旅行していたのです。住んでいたのではありません」

博士「病気になった記憶はありますか」

スピリット「何も思い出せません。(急に興奮状態になる)イヤ、イヤよ! あたし、どうかしてるわ!気でも狂ったのかしら? 見て! ホラ、見て! 夫がいるわ。幽霊だわ。見て! 」

博士「こうしてあなたと話をしている時は、私は実は幽霊と話をしているのと同じなのです。でも、ちっとも怖くはありませんよ」

スピリット「あたしの子供もいる! 赤ちゃんだったのよ! リリー! リリー! 夫のヒューゴーよ。あたし、頭が変になりそう。まあ、母さんまでいる! みんな、あたしの方へやってくる! ヒューゴー、ほんとにあなたなの? リリー! 会いたかったわ! でも、怖い! 」

博士「あなたはもう生身の人間ではないのです。スピリットになっておられるのです。そのことを早く悟りなさい」

スピリット「夫やリリーがなぜ私のまわりにやって来たのか教えてください。天国では幸せではなかったのでしょうか。なぜ天国に留まっていないのでしょうか」

博士「天国とはどんなとこだか、ご存知ですか」

スピリット「天空の高いところにあって、キリストと神がいらっしゃるところです」

博士「イエスは『神の王国はあなたの心の中にある』と言いました。『あなたは神の神殿であり、神の霊はあなたの中におわします』とも言ってます。さらにまた、『神は愛です。愛の中に住める者は神の中に住むのと同じです』とも言っています。神は上にも、下にも、いたるところにましますのです」

スピリット「人間の姿をした神は、存在しないのでしょうか」

博士「神は大霊なのです。一つの場所にのみ存在するものではありません」

スピリット「なんだか疲れてしまって、おっしゃることが理解できません。どこか休む場所があれば喜んでまいります。これまであたくしがどんな苦しい目にあってきたか、とても口では申せません。帰る家はなく、疲れた頭を休める場所もなく、あちらこちらと歩き回っても、家も安らぎも見つかりません。どうか安らぎを、と祈ろうとすると必ず邪魔が入るのです。

大勢がひしめき合っておりました。あたくしがいじわるな態度をとったこともあります。仕方なかったのです。けだものに取り憑かれたみたいに、大喧嘩もしました。それが終わると、何日もの間、ぐったりとなるのです。

酷い目に遭いました。あのゴロツキがいつもあたくしの後をつけまわし、小さい女の子は泣き通しでした。今はもうその男もいなくなりました。ここしばらく見かけなくなりました。泣いてばかりいた女の子もいなくなりました」

博士「ご主人やお母さんや、お子さん達と一緒に行かれてはいかがですか。皆さんが介抱してくれて、休むことも出来るでしょう。何はさておき、肉体はもうなくなったのだということを、しっかりと自覚してください」

スピリット「いつからなくなったのでしょう?」

博士「それは私達には分かりません」

スピリット「大柄な女性になって誰とでも喧嘩ができそうな気分になったかと思うと、今度は小柄な女性になったみたいに感じたりして、とても変でした」

博士「それは多分いろんな人間に乗り移ってたのですよ。もう、これでそういう状態からすっかり脱け出られますよ」

スピリット「そうしたら休むことが出来ますね? 目が覚めてみたら、これは全部夢で、またあのゴロツキと泣き虫と一緒の生活になるのではないでしょうね? あの男はもうご免です。まるで悪魔でした。女の子をいじめるものだから、それで女の子は泣き通しだったのです」

博士「さ、そういう過去のことはすべて忘れて、これから先のことを考えましょうよ。ご主人と一緒に行ってください。スピリットの世界のすばらしさを説明してくれますよ」

スピリット「夫のヒューゴーが見えます。夫が死んでからのあたくしの人生は、まったく生き甲斐がなくなりました。それからわずか一ヶ月後に子供も死にました。三歳の幼児でした。夫があたくしの生き甲斐でした。夫が死んでからは、自分はもうどうなってもいいと思いました。よく一緒に旅をしたものです。アラスカに行った時に夫が風邪を引き、肺炎を併発し、子供も重病になりました。もう一度やり直すのは、とても無理です」

博士「もう一度やり直してみられてはいかがですか。そのために、皆さんが迎えに来られたのですよ」

スピリット「一緒に行きたいのは山々ですが、怖いのです。だって、みんな死んだ人達ばかりですもの。夫が言ってます――あたくしをずいぶん探したのだそうです。夫と子供が死んでから、あたくしも病気になりました。医者の診断では、神経耗弱だと言われました。それがさらに悪化して、エルギン(多分、精神病院の名前)と呼ばれる場所へ移されたのを覚えています。うっすらと思い出すだけです。そのうち急に良くなったので(この時死亡)、妹のいるセントルイスへ行きました。が、妹に話しかけても、何の反応もなくて、何か変でした。

では、みんなと一緒にまいります。あの美しいベッドをごらんなさい。これであたくしもゆっくり休めます。夫と一緒になれば、もう面倒なことにはならないでしょう。

夫が、あたくしをついに見つけることができて喜んでいることを、あなたに伝えてほしいと言っております。もう二度と別れないようにすると言ってます。では皆さん、さようなら」

第4章 意識的・無意識的に人間に害を及ぼしているスピリット
第1節 ●人間に憑依されたと思い込んだ憑依霊
憑依霊というのは大体において、自分が人間に害を及ぼしていることに気づかず、何か変だが・・・といった気持ちを抱きながら、心理的な暗がりの中で悶々とした時を過ごしているものであるが、なかには、人間の方が自分の行動を邪魔していると思い込んで、現実とは逆に自分の方が憑依されている(しつこくつきまとわれている)と思い込んで――仕返しのつもりで、あるいは懲らしめるつもりで、その人間の身体を痛めつけていることがある。その場合、スピリットの側は痛みを感じないから厄介である。

L・W夫人は、夫の死のあと、鬱病になり、やがて『幻聴』の症状が出て、髪をかきむしりながら叫び声を上げて、家を飛び出すという行動が頻繁になった。

そんな時に、背後に何人かの霊姿がつきまとっていることを実の娘が霊視していた。その中に気味の悪い目つきをした男性がいて、それが見える時の母親が『またあの恐ろしい男が来た! 』と言って逃げ出すことも分かった。

その後、転地療養のつもりでセントルイスからロサンゼルスに連れて来られたが、症状は悪化する一方で、自分の手や腕に噛み付いたり、スリッパで自分の頬をぶったり、衣服を引きちぎったりすることを始めた。手に負えなくなって、ついに精神病院に入れられ、サナトリウムで治療を続けたが好転せず、一年後に我々のところに連れて来られた。二、三ヶ月で憑依霊がすべて取り除かれ、すっかり正常に戻って、今では娘さんの家で家事を手伝いながら平穏に暮らしておられる。

次に紹介する実験は、例の『怖い男』の招霊に成功した時のもので、我々のところへ連れてこられてわずか二、三日後のことだった。

1918年1月13日  患者=L・W夫人 スピリット=ジョン・サリバン

霊媒が乗り移ってからすぐ激しく暴れるので、何人かで取り押さえておく必要があった。

スピリット「なんで俺をそんなに押さえ込むんだ! お前達と何の関係があるんだ? 俺は何も悪いことはしてないぞ! あとで覚えてろ!」

博士「あなたは、私達にとってはまったく見知らぬ方なのです。その方にいきなり暴れられては、こうして押さえ込むしかないでしょう?」

スピリット「そんなに強く押さえつけんでくれよ」

博士「あなたはどなたですか」

スピリット「なんでお前からそんなことを聞かれる必要があるんだ? 俺はお前らの誰一人として知らんのだ。誰であろうと、大きなお世話だ。ほっとしてくれ! 」

博士「さ、お名前をおっしゃってください。どうやら『剛力の女』とお見受けしますが・・・」

スピリット「女だと? もう一度よく見ろ」

博士「どちらから、何の御用で来られたか、おっしゃってください」
スピリット「何のためにそんなことを知りたがるんだ?」

博士「今のあなたを、そのお気の毒な状態から救ってさしあげられるかもしれないと思ってのことです」

スピリット「話すから、そんなに強く押さえつけんでくれ」

博士「さ、おっしゃりたいことを全部吐き出してください」

スピリット「まず第一に、あの火の針はご免だ。そのあとしばらく捕虜みたいにされていたが(患者から離されて霊媒に移されるまでの間、マーシーバンドによって金縛りにされていた)、やっと自由になったから暴れたくなったのさ。一体何の為に、あんな火の針を刺すんだ? もう家に帰る!」

博士「家はどこにあるのですか」
スピリット「今、来たところさ」

博士「その『火の針』というのはどんなものか知りたいですね」

スピリット「まるで全身が燃えるみたいな感じさ。もういいだろう、帰らせてくれよ。こんなところに腰掛けたまま押さえつけられているのはご免だ」

博士「『針』の恩恵を受けられたいきさつが知りたいのですがね? ぜひ教えてくださいよ」

スピリット「俺にも分からん。が、とにかくやられたんだ」

博士「ここへはどうやって来られました?」
スピリット「知らん」

博士「誰かにくっついたまま来られたのではありませんか」
スピリット「俺は俺にくっついてるだけだ」

博士「最近はどんなところにおられましたか」

スピリット「ずっと暗がりの中だ。家から出たら何も見えなくなった。まるで目が潰れたみたいだった」

博士「あなたの言う『家』の中にいると妙な感じがしませんでしたか」

スピリット「本当の俺の家じゃないよ。が、似たようなところさ」

博士「そこにいると不愉快になってきて、それで酷いことをしたのでしょう?」

スピリット「時々、自分がどこにいるのかも分からなくなって、ヤケになって暴れまわったのさ。時には、数人を相手に大喧嘩もやったよ。今は見当たらんが、いつかやっつけてやる」

博士「その人達は、どこの誰だったのですか」
スピリット「ええっと・・・知らんね。いろんな奴がいたよ」

博士「女性もいましたか」

スピリット「大勢いたよ。ゆっくり休む場所もなかったほどさ。女め! いつか全部ひっつかまえて、痛い目に遭わせてやる」

博士「なぜ、そんなに人を痛めつけたいのでしょうね?」

スピリット「あっちから一人、こっちから一人と、次から次に女の姿を見せられるので、ついカッとなってしまうのさ。こんなに沢山の女を、どうしようもないよ」(患者のオーラにひっかかっているスピリットのこと)

博士「今、どこにいると思いますか」
スピリット「どこに? そんなことどうでもいい」

博士「どこに住んでおられますか」

スピリット「いろんなとこにいたよ。転々としていて、そのうち何もかもまったくうんざりしちゃった。いつも逃げ出したくなってね。それで誰も俺の居場所を知らないってわけよ」

博士「でも、自分自身からは逃げられませんでしたね?」

スピリット「まわりには女、女で、もう反吐が出そうだよ。そのうちの一人(L・W夫人)を蹴ったり噛みついたりしてやったが、それでもしがみついてきやがった。俺につきまとうことはないんだが・・・。いつか殺してやろうと思ってる」

博士「あなたは、ご自分のなさっていることが分かってないようですね」

スピリット「何をしようと構わんさ。あの女の手首を食いちぎってやったことがある。それでもしがみついてくるんだ。それで、今度は髪の毛を思い切り引っ張ってやった。それでもまだ、しがみついてきやがった。どうしても振り切れんのだ」

博士「ですから、本当のことをお教えしようと思ってるんです。いかかですか」

スピリット「知りたいとは思わんね。ただ、あれだけは頭にくるな。あの火の針だよ。あれを食らうと力が抜けてしまった感じになるよ」

博士「今、その女の人はどこにいますか」
スピリット「ここしばらく見かけんね」

博士「一体、その人があなたにどんな危害を加えたというのですか」
スピリット「この俺につきまとう筋合いはないと言ってるんだよ」

博士「立場を逆転して、もしもあなたの方が彼女につきまとっているとしたら、どうしますか」

スピリット「こんなに女みたいに着飾ってくれて、おまけに女の髪を頭にのっけるとは、余計なことをしやがったもんだよ」

博士「死んでどのくらいになりますか」

スピリット「死んで!? よし、死んでなんかいないところを見せてやろう。腕ずくじゃ負けないことも思い知らせてやろう。この俺が死んでるんだとよ!」(荒々しく笑う)

博士「しばらく妙な感じになったことはありませんか」

スピリット「妙どころじゃないよ、地獄だよ。その手を離してくれないか。まるで火のように熱くてしょうがないよ」

博士「女が男のあなたにおめかしをすることが出来るものでしょうかね? ご自分が少し身勝手過ぎるとは思いませんか」

スピリット「身勝手だと? 俺が身勝手なら、あの女の方こそもって身勝手だ」

博士「もしもあなたが、あの方につきまとっている、何も知らないスピリットだとしたらどうしますか」

スピリット「この俺があの女につきまとってるだと? 俺じゃないぞ。馬鹿言っちゃ困るよ、ダンナ」

博士「そういうことが、事実よくあるのです。バイブルをお読みになったことがありますか。昔は悪霊を追い出すということを、よくやったものなのです。あなたは今は、もうスピリットになっている――しかも、その、追い出さないといけないスピリットになってしまわれたのです」

スピリット「悪魔というのは本当にいたらしいよ。だが、俺は悪魔じゃないからな」

博士「でも、あなたは一人の女性を苦しめてきた。それで私が電気で追い出したのです」

スピリット「この野郎! (掴み掛かろうとする)牢へ閉じ込めたのはお前だな? あの女もひっつかまえて八つ裂きにしてやる! しょっちゅう、つきまといやがって! 」

博士「あなたこそ、彼女につきまとっていたのですよ。今やっと彼女から引き離したのです。さ、そろそろ自分がスピリットであることを悟って、まともになってくださいよ。私は本当のことを言ってるのです」

スピリット「あの女さえいなくなってくれたら・・・もう一度思い切ってぶん殴ってやる」

博士「なぜそんなに、あの方をやっつけたがるのですか。あの方はちっともあなたに迷惑はかけていないのに」

スピリット「お前も一度こらしめんといかん!」

博士「言うことを聞かないと、もっと電気をかけますよ」

スピリット「それは困る。このままの方が、まだマシだ。が、その手を少し緩めてくれないか。きつ過ぎるよ」

博士「あなたは男だとおっしゃるけど、私達にはあなたの姿は見えていないのですよ。見えているのは女性の姿だけなのです」

スピリット「その目は節穴か。俺が男だということが見て分からんのかね」

博士「でも、女性の服を着ておられますよ」

スピリット「だから、俺はそれを引きちぎって捨てるのさ。すると、あの女がまた女の服を着せやがる。それをまた引きちぎるんだ」

博士「あなたはもう、その女の人から離れて、今は別の女性の身体を使っているのです」

スピリット「それはどういう意味だ?」

博士「あなたは、何も知らずに地上をうろついている『スピリット』なのです。これまで一人の女性に取り憑いていたのですが、今は私の妻の身体を使っておられるのです」

スピリット「俺は自分の身体しか使っていない。あの女は何故、この俺につきまとうんだ?」

博士「あなたこそ、彼女につきまとっていたのです。あなたを引き離したので、彼女は今、とてもすっきりした気分になっておられます」

スピリット「牢へぶち込んだのはお前だな?」

博士「私じゃありません。高級霊の方達です。あなたは、あまりにも身勝手でした。手のつけようがないほどでした。今、あなたがどういう状態にあるかを理解なさらないといけません。仮に今、これまでにあなたがやってきたことを記録にまとめたとしたら、あなたはそれを人に見せる勇気がありますか」

スピリット「そんなことはどうでもいい。とにかく、女につきまとわれて、女の服を着せられていることが気に食わんのだ。女は大嫌いだ! 」

博士「あの方は、大勢のスピリットに悩まされていたので、治療の為にここへ連れてこられたのです。間違いなく憑依されていることが分かったので、電気療法で追い出したのです。あなたは、実はその一人なのです。そのことを分かって頂きたくて、こうしてお話をしているのです」

スピリット「あの女をひっつかまえて、八つ裂きにしてやる! 腕を食いちぎってやる! 」

博士「もう少し冷静になってください。事情が分かってきて幸せになりますよ」

スピリット「幸せなんてあるもんか! 」

博士「神とは何か、とか、人生とは何か、といったことを考えてみたことはありますか」

スピリット「神なんていないよ。幸福も不幸もあるもんか」

博士「もしも超越的な存在がいないとしたら、あなたという存在はどこから生じたのでしょうか。なぜ、あなたは存在しているのでしょうか。私の妻の身体を使って、こうして話が出来るという現実を、どう説明しますか」

スピリット「さては、俺につきまとっていたのは、お前の奥さんだったのだな?」

博士「ここへ治療に来られた婦人に、あなたがつきまとっておられたのです。そのあなたを私が電気で追い出し、高級霊の方達があなたを一時、牢に閉じ込めたのです(霊的に金縛りの状態にする)。そして今、一時的に私の妻の身体に入って話をしておられるのです」

スピリット「女が嫌いな俺が、なんで女につきまとうんだ? 女を片っ端から、叩きのめしてやりたいくらいだ! 」

博士「あなたはもう肉体をなくされたのです。そして、地上をうろつきながら、次々と人間に憑依していたのです。わがままなスピリットは、よくそういうことになるのです。精神病棟には、そういうスピリットに憑依された人が一杯います。あなたは、この方を三年から四年もの間、地上の人間を苦しめてこられたのです」

スピリット「一体、この俺があの女に取り憑くわけがあるのかね。俺は女が嫌いなんだ。色恋や金で女を追っかけやしないよ。女という女を全部殴り殺してやりたいくらいなんだ。女は平気で男を欺きやがる。神様も、女なんか造らなきゃ良かったんだ。自分の気に入ったとおりにしてもらっているうちは機嫌がいいが、背中を向けられると刺し殺すからね。俺は女に報復を誓ったんだ。怨みを晴らすというのは気分がいいもんさ。だから、やるんだ」

博士「もうそろそろそんなことは止めて、人生というものをもっと真剣に考えないといけません。ご自分では間違ったことをしたという気持ちはないのですか。過去をよく振り返って、完全だったかどうか、考えてみては?」

スピリット「完全な人間なんていないよ」

博士「いけなかったことが沢山あるとは思いませんか」

スピリット「完全な人間はいないよ。俺はいたって普通の人間だと思ってる」

博士「生命の不思議について考えてごらんなさい。あなたは死んでもう何年にもなるはずです。高級界のスピリットがあなたをここへお連れして、色々と素晴らしいことをお教えしようとしておられるのです。私の妻の脳と身体を使って、私達と話を交わすことを許してくださったのです」

スピリット「奥さんも馬鹿だね、そんなことに使われて」

博士「あなたのような気の毒な方への慈悲心から、身体を犠牲にしているのです。女性をみんな悪者と思ってはいけません」

スピリット「俺のおふくろは、立派な女性だったよ。おふくろが女でなかったら、女を皆殺しにするところだ。が、あのおふくろも死んで四、五十年にもなるかな」

博士「あなたも、肉体はとっくに死んでいるのです。あなたも今はスピリットになっておられるのです。まわりを見てごらんなさい。目に映るものを正直に言ってごらんなさい」

スピリット「おふくろの姿が見えるよ。だが、おっかないね」

博士「私達はスピリットであるあなたを、少しも怖がってませんよ」

スピリット「おふくろは幽霊になっちゃったんだ」

博士「あなたと同じスピリットなのです。お母さんは何とおっしゃってますか」

スピリット「『ジョン、永い間、お前を探してきたよ』だってさ。でも、おっかないよ」

博士「幽霊みたいに見えるのですか」

スピリット「そんなことはないが、でも、おっかなくて・・・オヤ、親父もいる。それに、リジーだ! お前なんかに来てほしくないな。俺に近づくんじゃない、リジー! マムシ野郎め!」

博士「多分、リジーは、自分のしたことを許してもらいたくて来られたのだと思います」

スピリット「絶対に許すわけにはいかんね」

博士「人間、行き違いということがあるものです。お二人の間に、何か誤解があったんじゃないですか。あなたは、猜疑心から間違ったことを思い込んでいるのかも知れませんよ」

スピリット「あいつが憎い! 近づいてくれるな! 」

博士「憎しみを捨てて、少し冷静に考えてみては?」

スピリット「リジー、お前はあっちへ行くんだ! さもないと殺すぞ! お前の言うことなんか聞きたくない。いくら弁解しても聞く耳はもたんぞ。大嘘つきめが! 」

博士「彼女は何と言ってますか」

スピリット「あいつだ。あの女が俺の人生をめちゃめちゃにしちまったんだ!」

博士「何て言ってるか、聞いてみてください」

スピリット「(聞いている様子)へぇ、結構な話だよな。(一人言のように)俺達は結婚することになっていた。あの頃はあいつもいい娘だった・・・。(リジーの言ってることを聞いて)へえ、俺が嫉妬心から変な勘ぐりをしたのだとさ」

博士「あなたが、よほど頑固で、怒りっぽかったのでしょう」

スピリット「(リジーに向かって)お前は大嘘つきだ。俺を捨てて、奴のところへ行きやがった。(独り言のように)あの晩、家に帰る途中で、電車の中である男と会って、ホンの少し一緒に歩いただけだと言ってやがる。俺はその現場を見て、家に帰って自分で自分を刺したんだ」

博士「自殺したわけですね?」

スピリット「そのまま死んでしまいたかったんだが、死ねなかった。あのまま行ってれば、こんな惨めな思いをせずに済んだのに・・・」

博士「なぜ、彼女を許してあげないのですか」

スピリット「オイ、お前はあの女の味方をする気か? 俺は自分を刺した傷で、どれほど苦しんだことか。いっそのこと死んでしまいたかったのに・・・。リジーが歩き回ってる。泣きじゃくってるよ」

博士「ご自分の良心の声に耳を傾けなさいよ」

スピリット「彼女を愛していたさ。だが、彼女から何を得たというのか・・・」

博士「子供の頃、よほどお母さんに甘やかされたのではありませんか」

スピリット「おふくろは、それはそれは大事にしてくれたよ。欲しいものは何でも与えてくれた。だから、楽しい思いばかりしていたよ。

リジーが言ってる――俺に対する態度をもう少し考えてれば良かった、とよ。ダメだ、母さん、近づかないで! 僕はもう、どうしようもない人間なんだ」

博士「あなたにとって、今、一番大切なのは、自分を抑えるということです。イエスが言ってるじゃありませんか――『童子のごとくならなければ、神の王国へは入れない』と。あなたには、その意味がよく分からないだろうけど、あなたは何でも自分中心に考えていましたね。お母さんが甘やかし過ぎたのです」

スピリット「おふくろが、今、それを後悔してると言ってるよ。またリジーが来やがった。あいつのことなんか信じるもんか! あんな男と行っちまいやがって」

博士「仮にそれが事実だったとしても、それがどうしたと言うのですか。よほど嫉妬心が強かったとみえますね」

スピリット「俺の誤解だと、リジーが言ってるよ。本当のことを話したはずだと言ってる」

博士「リジーは、もう死んでるんですよ」

スピリット「死んでなんかいないよ。もし死んでるとしたら、あれは幽霊というわけかね?」

博士「そこに立ってると言ったじゃないですか。幽霊のように見えますか」

スピリット「イヤ、そうは見えない。おふくろが言ってる――『ジョン、分別を働かせなさい。お前は自分の良心に責められてるのだよ』とね。辛いものだぜ、愛したはずの女が、他の男とくっついてるのを見るのは。その現場を見てから俺は、彼女への当てつけに自分を刺したんだ。戻ってきてくれるだろうと思ったのさ」

博士「あなたは自殺して死んじゃったのです。そして今はスピリットになっていることが悟れずに、女の人に憑依して、その方に大迷惑をかけている。それから逃れようとして、私達のところへやってきたのです」

スピリット「あの女のことなんか構うもんか。俺は女は嫌いなんだ。なのに、あいつはつきまといやがる。俺は、女に仕返しをすることだけが生き甲斐だった。そして、たっぷり仕返しをしてやったよ」

博士「あなたのお陰で、あの方が大暴れして困ったのです」

スピリット「おふくろとリジーがそこに立って、一緒に泣いてるよ。俺のことなんか誰もかまってくれない。知るもんか! 」

博士「姓は何とおっしゃいますか?」
スピリット「ジョン・サリバン」

博士「あの方に迷惑をかけたことを恥ずかしく思わないといけませんね」

スピリット「あんたが自分を恥ずかしく思わんのと同じで、俺は少しも恥ずかしく思ってないね」

博士「あなたは、心からリジーを愛していたのでしょうか。一人よがりに過ぎなかったのではありませんか。つまり、彼女を自分のものにしたかっただけで・・・」

スピリット「俺のものになるべきだったんだよ、彼女は。それが、あのことで、愛が憎しみに変わったのさ。

泣いても無駄だよ、リジー。いくら泣いても、俺は許さんからな。百回、頭を下げても許さんぞ」

博士「子供の時に、お母さんが二、三度でいいからお仕置きをしていたら、こんなことにはならなかったでしょうにね、リジーを許してやりなさいよ。そうすることで、あなたも救われるのです」

スピリット「絶対に許さないね。女達は俺に夢中になったものよ。かっこ良かったからな」

博士「それがいけなかったんです。平凡だった方が、もっと物わかりのいい人間になったでしょうよ。今こそ、分別を働かせるチャンスです。私の妻の身体を使わせてあげてるのですから」

スピリット「じゃ、奥さんを返すよ。俺には用はないんだ。ねえ、母さん、そこでリジーと一緒に泣いても何にもならんよ。俺は絶対に許さないんだから」

博士「このチャンスに人を許すことが出来なかったら、この後、またあの暗い牢の中に閉じ込めて、反省するまではほうっときますからね。間違いは自分にあることを知らないといけませんね」

スピリット「許さないね。母は好きだった。金もたっぷりあったしね」

博士「どこに住んでました?」
スピリット「セントルイスだ」

博士「ここはカリフォルニアですよ」
スピリット「その手は食わんよ。ここはセントルイスで、今、冬だ」

博士「何年だと思いますか」
スピリット「1910年」

博士「今日は、1918年1月13日です」

スピリット「俺は、女が泣くのを見るのが大嫌いなんだ。母さん、泣くのは止めてくれよ。女に泣かれるとムシャクシャするんだ」

博士「良心が痛むようなことはないのですか」

スピリット「他人のことで心を痛めて、どうなるっていうのかね」

博士「お母さんの言ってることをよく聞いてごらんなさい」

スピリット「母さん、言っとくけどね。子供の頃にボクにもっとお仕置きをしてくれて、わがままを許さないでくれたら、もう少しはマシな人間になっていたと思うよ。でも、もう遅いよ。この年齢になって心を入れ替えるなんて、出来ないよ。それに、心を入れ替えたからといって、どうなるというものでもないよ」

博士「人を許すという気持ちにならなかったら、これから先、もっともっと酷い目に遭いますよ」

スピリット「土牢に入れると言っていたが、構わんよ。母さん、ご覧の通り、ボクは立派な人間になったろう? さぞかし自慢だろうね? 母さんの作品というわけさ」

博士「お母さんには、いかにも愛情ある人間のような口をきいてるけど、慈悲とか同情とかはカケラもないのですね、あなたには?」

スピリット「同情なんて言葉は嫌いだね。親父が言ってる――心を入れ替えないといけないとさ。もうこの年齢になっては手遅れだよ。(急に驚いて、何かに尻込みしている様子。多分土牢のビジョンを見せられているのであろう)どこかへ連れてってくれ! そいつだけはイヤだ! もう、うんざりだ! 」

博士「もっと素直にならないといけません」

スピリット「おふくろが言ってる――この俺の育て方が間違っていたとよ。(また土牢のビジョンを見せられて)あの土牢には入れないでくれ! リジーを許すから・・・何でもするよ! もう生きてるのが嫌になったよ。何もかもうんざりだ」

博士「霊の世界へ行ったら、人のためになることをしないといけませんよ。人の迷惑になってはいけません。このご婦人に取り憑いて犯した数々の過ちの償いをするのです」

スピリット「あの女がこの俺をいじめたんだ。だから仕返しをしたまでさ。スリッパで顔をぶん殴ってやった。女どもに対する報復だよ。俺は女が憎いんだ」

この調子で、この男はどうしても悟らせることが出来ないので、再び『土牢』へ連れて行かれた。自我に目覚め、人類に対する憎しみが晴れるまで、そこに閉じ込められることになるであろう。

第2節 ●『逆上癖』の女性を救済したケース
R・F嬢は、突然逆上して走り出すという行動を、断続的に繰り返していた。が、その憑依霊を招霊し、説得し、離れてもらうことで、きれいに収まった。

1920年9月15日
スピリット=エドワード・スターリング 患者=R・F嬢

霊媒に乗り移ると同時に、椅子から立ち上がって走り出そうとしたので、押さえ込もうとすると逆上した。

博士「座ってください」
スピリット「いやだ!」

博士「どこへ行きたいのです?」
スピリット「家だ」

博士「家? あなたの家はどこですか」
スピリット「探しに行くんだ」(我々の手を振り切ろうとして激しく暴れる)

博士「おしとやかなレディですね」
スピリット「レディ? レディ? 俺はレディじゃない、男だ!」

博士「どちらから来られました?」
スピリット「どこだっていい。これから家に帰るところだ」

博士「家はどこにあるのですか」

スピリット「見つかりさえしたら、どこだっていい。とにかく、こんなところに座っているわけにはいかんのだ。帰るんだ。言ってることが分からんのか! 」

博士「なぜ髪を切ったのですか」(患者は衝動的に髪の毛を切っている)

スピリット「女みたいな長い髪をしていて平気でいられると思うか。イヤだね。冗談じゃない! さ、帰らせてくれよ。頼むから」

博士「どこへ帰るのです? あなたには家はないのです」
スピリット「ここにいたくないのだ。帰りたいのだ」

博士「死んでどれくらいになりますか」

スピリット「死んでなんかいない。帰してくれよ! 身体中にあんな恐ろしいものを浴びせやがって・・・トゲみたいな、何か先のとんがったものを刺されたみたいだ」

博士「私が患者さんに流した電流をそのように感じられたのです」
スピリット「二度も逃げ出そうとしたが、連れ戻された」

博士「なぜあの方(R・F嬢)に髪を切らせたのですか」

スピリット「誰にも切らせてなんかいないよ。俺の身体なんだから、切りたい時に切るさ。眠り込んで、目が覚めたら髪がひどく伸びていて、どうしようかと思った。女みたいだったので、自分で切ったんだ。散髪に行くわけにもいかんだろう? 恥ずかしくて通りを歩けないよ」

博士「あなたが切ったのは、あなた自身の髪ではなくて、今まで乗り移っていた女性の髪だったのですよ」

スピリット「俺は俺の髪を切ったんだ。なんでこんなところに引き止めておくんだ? あんたをはじめ、他の誰にも、俺は何も悪いことはしていないじゃないか」

博士「あなたは、一人のご婦人に大変いけないことをして、その方を困らせてきたのです。あなたは男だとおっしゃるけど、女性の服装をしてらっしゃいますね。どうなってるんでしょうね?」

スピリット「男性用の服が手に入らなかっただけのことさ」

博士「この事実を知って目を覚ましてくださいよ。何か身の上に異変が起きているに違いないのですけどね?」

スピリット「座らせてくれよ」

博士「いいでしょう、おとなしくしていればね。いかがです? 一体どうなってるのか、知りたいとは思いませんか」

スピリット「こんなところにいたくない。早く帰らせてくれよ」

博士「大人しく腰掛けて、私の言うことを聞いてくれれば、今あなたがどういう状態にあるかを説明してあげましょう。あなたは、いわゆる『死者』となっておられるのです」

スピリット「死んでなんかいないよ。そんなに抱きしめんでくれ!」

博士「あなたを抱きしめているのではありません。私の妻を抱きしめているのです。今あなたはまったく普通と違う状態にあるのです。もう肉体から脱け出ているのに、それがあなたには理解できていないのです」

スピリット「行かせてくれよ。ここから出たいのだ。なんで俺の手を押さえるのだ?」

博士「あなたの手を押さえているのではありません。私の妻の手を押さえているのです」

スピリット「あんたの奥さんの手だと!? 俺はあんたに会うのは今日が初めてじゃないか。あんたの奥さんなんかじゃないよ。第一、男が男と結婚するのかね? そんな話、聞いたことがないよ」

博士「私の言ってることに間違いはありません。あなたは何も知らずにいるスピリットで、今までの自分の状態が分かっていらっしゃらないのです」

スピリット「俺のことは構わんでくれよ。とにかく帰りたいのだ」

博士「死んだらどうなるのか考えてみたことがありますか」
スピリット「俺は死んではいないよ。ただ眠り込んだだけだ」

博士「それが死の眠りなのです」

スピリット「永いこと眠っていて、目が覚めたら髪の毛がひどく伸びていたんだ」

博士「髪が伸びていただけでなく、衣服まで女性のものを着ていた・・・どうやって手に入れたのですか」

スピリット「でも、やっぱり俺は死んではいない」

博士「物質で出来た身体を失ったのですと申し上げているのです。身体をなくしてしまうと死んだことになるのです」

スピリット「ほんとに死んだのなら、墓へ行って最後の審判の日まで待ってるよ。ガブリエルがラッパを吹くまでな・・・」

博士「それは愚かしい信仰なのです。あなたは生命の神秘を勉強なさらなかったようですね?」

スピリット「死んだら、神とキリストを信じていれば天国へ行くんだと教わったよ。キリストが我々の罪を背負って十字架で死んだのだとね」

博士「じゃ、なぜあなたは天国へ行ってないのでしょうね? あなたは地上の人間としては死んだのです。あなたは今ここにいらっしゃるけど、あなたの姿は私達には見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体だけなのです」

スピリット「あんたの奥さんには会ったことがないから、どんな方か知りません」

博士「霊媒というものについて聞いたことがありますか」
スピリット「あるよ。でも、信じない」

博士「あなたは今、その霊媒の身体を使って喋っているのです。男だとおっしゃるけど、女性の身体で喋ってるじゃないですか」

スピリット「嘘だ! 大嘘だ! 」

博士「でも事実ですよ。女性の服を着てるでしょ? これで、あなたの身の上に何か変わったことがあったことがお分かりでしょう。おそらく、ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることはご存知ないのでしょうね?」

スピリット「ロサンゼルスなんかじゃない」

博士「では、どこですか?」
スピリット「あちらこちらを転々と動いていたので・・・」

博士「その手をごらんなさい。あなたのものではないでしょう?」

スピリット「あんたのことは、あの電気治療をしてくれるまでは知らなかった。あれがどんなに痛いか、あんたは知るまい。ずいぶん我慢したが、たまらなくなって飛び出したら、図体のでかいインディアン(霊媒の背後霊の一人)が俺を捕まえて牢へ入れてしまった。しばらくして出してくれたと思ったら、ここへ連れてこられていた」

博士「あなたはそれまでずっと、一人の女性を苦しめておられて、あの電気治療でやっとその方から離れたのです」

スピリット「一体どうなってるのかな? ここへ来てから、何だか窮屈に感じられるんだが・・・」

博士「多分あなたは、大柄な方だったのでしょうね。それが今、それより小さい身体の中に入っておられるから、そう感じるのでしょう。それよりも、早く心を開いて、今あなたが置かれている実情を学ばなくては・・・」

スピリット「学ぶことなんか何もないよ」

博士「ご自分の身体をなくされたのは、かなり前のようですね。今年は何年だと思われますか」

スピリット「永い間ぐっすり寝ていたので、知らんね」

博士「今の状態を体験されていて、何か疑問に思うことはありませんか。私達の目には、あなたの姿は見えていないのですよ。お話になる声が聞こえるだけなのですよ」

スピリット「目に見えない者と話をしてどうするんだ?」

博士「この婦人は霊媒なのです。あなたはその霊媒の身体を使って喋っているスピリットなのです」

スピリット「そんなこと、信じないね」

博士「それは私の妻の身体です。となると、あなたは私の妻だとおっしゃるのですか」

スピリット「あんたの奥さんなんかじゃない! 俺は男だぞ! 」

博士「あなたが憑依していた女性の身体から、私が引き離したのです。あなたがその方に気狂いじみた行為をさせていたからです。どうやってここへ来られましたか」

スピリット「こっちが聞きたいよ」

博士「あなたは人間の目には見えないスピリットになっているのです。その辺の事情が分かっておられない。あなたが憑依していた女性は、その頃たまたま神経過敏になっておられ、それであなたが憑依したのです。その女性が気狂いじみた行動をしたのは、皆、あなたのせいだったのです。ご自分はどう思われますか」

スピリット「自慢にするほどのことでもないが、とにかく俺はその女性のことは何も知らんね」

博士「その方の髪を切って逃げ出したのは、あなたのせいですよ」

スピリット「なぜこの俺に長い髪がいるのだ? 眠りから覚めてみたら髪が伸び過ぎていたから切った――それだけのことさ」

博士「あなたが切ったのは、その女性の髪だったのです」
スピリット「長過ぎたから切ったんだ」

博士「その女性の身になってごらんなさい。もしもあなたが自分の髪を誰かに勝手に切られたら、どうします? 平気ですか」

スピリット「そりゃ、イヤだよ」

博士「少し勝手すぎるとは思いませんか」

スピリット「訳が分からん。じゃあ聞くが、もしも俺があんたの言う通り、死んでるとしたら、なぜ天国か地獄に行ってないのかね?」

博士「そんな場所は存在しないからです」

スピリット「神様もキリストも悪魔も見かけないのに、あんたは俺のことを死んでると言う」

博士「あなたが死んでると言ってるのではありません」
スピリット「今さっき『死んだ』と言ったじゃないか」

博士「地上世界の人間から見ると、死んだことになるという意味です」
スピリット「『あなたは死んだのです』と言ったよ」

博士「いわゆる『死んだ人間』になった、つまり物的身体をなくされたという意味です」

スピリット「でも『死んだ』と言ったぞ! 」

博士「もう少し分別を働かせなさい。そうしないと隣の部屋へ連れて行って、例の電気治療をしますよ」

スピリット「あれは止めてくれ! あれをやられると、まるで身体に火をつけられたみたいな感じになる」

博士「女性の身体から離れて頂くためにやったことです。それがうまくいったのです」

スピリット「あのままあそこにいて、何が悪いのだ?」

博士「あの方から取り除く必要があったのです」
スピリット「勝手に連れ出す権利があんたにあるのかね?」

博士「あなたこそ、他人の身体に取り憑いて、その人の生活をメチャクチャにする権利があると思いますか」

スピリット「誰だって生活する場所がないといけないだろう?」

博士「仮にその女性というのが、あなたのお母さんだったとして、そのお母さんにわがままなスピリットが憑依して気狂いじみた行動をさせたとしてみましょう。あなたはほうっとけますか」

スピリット「俺は気狂いじゃない。他人に気狂いじみた行動をさせた覚えもない」

博士「その女性が、自分の髪を切って、家を飛び出すというのは気狂いじみています」

スピリット「男が髪を長くしていて、平気でいられるわけがないじゃないか」

博士「あれは女性の身体で、切ったのは女性の髪で、あなたのものではないのです。あなたはもうその女性の身体から離れたのですから、考えを改めないといけません。言うことを聞かないと、土牢に閉じ込めますよ。さっきあなたは『インディアンが俺を捕まえて』とおっしゃいましたが、素直にしないと、別のインディアンが捕まえに来ますよ」

スピリット「来たら、今度こそ負けんぞ! 」

博士「よく聞きなさい。私の妻は霊媒なのです。あなたのような方に身体を貸してあげて、気づかずにいる現実を知って頂くチャンスを与えてあげているのです。このチャンスを有り難いと思わないといけません。今でも、あなたの他に何千というスピリットが順番を待っているのです。

辺りに誰か親戚の方が見えていませんか。その方達がスピリットの世界へ案内してくれますから、おとなしく分別を働かせて、理解しようという心構えにならないといけません」

スピリット「どうしたらいいのかね」

博士「スピリットの世界があるということをまず理解して、そこへ行けるように、心がけを改めないといけません」

スピリット「天国のことですか」

博士「神の国は、あなたの心の中にあるのです」

スピリット「キリストが、あなたの罪を背負って死んでくれたことを信じないのですか」

博士「私は、キリストが私の罪を背負って死んでくれたとは思っていません。そんな信仰には何かが欠けていることが分かりませんか。イエスは、人生とは何かを教えてくれたのです。誰の罪も背負ってくれてはいません。キリストが自分の罪を背負って死んでくれたと信じるような人は、イエスの教えを本当に理解していない人です。

そもそも、そんな教義は、全知全能の神の概念に反しております。もしもその教義が真実だとしたら、神はうっかり間違いを犯し、それを償うために仲介役を用意せざるを得なかったことになります。

さあ、そろそろあなたも、私の妻の身体から離れて頂かないといけません。そして、二度とあのご婦人に迷惑をかけないようにしてください」

スピリット「何を言う! 私はあんたの奥さんは一度も見かけたことないよ」

博士「今あなたは、一時的に私の妻の身体を使っておられるのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。いい加減に目を覚まさないと、強制的に引っ張り出して、バイブルにある『外なる暗黒』の中に連れて行ってもらいますよ」

スピリット「俺をこんな目に遭わせる神様が間違っているんだ。俺は祈って祈って祈り続けたもんさ。真面目に教会へ通って、ずいぶん献金もしたもんさ。金を出さないと、死んだらまっすぐ地獄へ行くなんて脅すからさ。出しただけのお返しはあると信じてたよ」

博士「イエスは何と言ったのでしょう?『神は霊的存在であり、神を崇める者は霊性と真理の中に崇めないといけない』と言ってます。神は霊的存在なのです。一個の霊ではありませんよ。バイブルにはこうもあるでしょう――『神は愛であり、愛の中に生きる者は神の中に生きる者である』と。

そういう存在が自分の心の中以外のどこに見出せるのでしょうか。『あなたは神の神殿であり、神の霊性はあなたの中にある』とも言っています。では天国とは何か? それは、各自の心の状態を言っているのであり、人生の目的を理解した時に成就されるのです」

スピリット「天国はどこかの場所ではないのですか。バイブルでは場所のように言ってるよ。天国の通りは黄金で舗装されてると言ってます。違うんですか」

博士「それは、他の言葉と同じように、真理を象徴的に言っているのです」

スピリット「さっき、あんたはイエスは我々の罪を背負って死んだんじゃないと言ってたが、じゃ、あんたの信仰はどうなのかね?」

博士「我々地上の人間は、物質の身体に宿った霊的存在だというのが私の考えです。その身体から出た後、理解のできた者は霊的な目が開いて、『外なる暗黒』へは行きません。そこへ高級界の方が案内に来てくれます。今も、あなたの知ってる方が何人か助けに来ているかも知れませんよ。あなたの身の上に何か異変が起きていることに気づきませんか」

スピリット「そういえば、前よりは、よく喋れるみたいだ。あんたの話だと、あんたの奥さんを通して喋ってるそうだけど、どうしてそんなことが出来るのかね?」

博士「私の妻は霊能者で、スピリットがその口を借りて喋る機能が発達しているのです。高級霊の方が、あなたにもこうして話をすることを許してくださったのです。ただし、あまり長時間はダメですよ」

スピリット「出来ることなら、このままこうしていたいものです。前より気分がいいです。かなりスッキリしています」

博士「スピリットの世界の事情を理解なさったら、もっと気分が良くなりますよ。幼い子のように素直になることです。そうすると『神の国』へ入れます。信じるだけではいけません。理解しないといけません。お名前は何とおっしゃいました?」

スピリット「エドワードです」

博士「姓は?」
スピリット「知りません」

博士「どこにお住まいでしたか。ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」

スピリット「いえ、知りません」

博士「なぜご存知ないのでしょうね?」

スピリット「記憶がありません。考えるということが出来ないのです。これ以上のことは何も分かりません」(精神病患者によくある健忘症は、憑依したスピリットの精神的混乱から生じていることを暗示している)

博士「それは『外なる暗黒』の中にいたからですよ。そして、フラフラしているうちに、あのご婦人のオーラに入り込んじゃったのです。それが彼女に気狂いじみた行動をさせることになったのです」

スピリット「気持ちのいい、静かな家が欲しかったのです」

博士「あなたのなさったことがいけないことだということは、お分かりですね?」

スピリット「暗闇の中を歩き続けていて、ふと明かりが見えたら、誰だって入りたいと思いませんか」

博士「明かりは明かりでも、それはあなたに必要な明かりではありません。あなたに必要なのは理解という明かりなのです」

スピリット「では、教会へ行って賛美歌を歌い、神に祈り、バイブルを読めとおっしゃるのでしょうか」

博士「バイブルは本当は誰が書いたものか、勉強なさったことがありますか」

スピリット「バイブルは神の啓示の書です」

博士「バイブルは神が書いたものではりあません。人間が書いたのです。常識ある人間社会に通用しないような内容のものを、神がお書きになると思いますか」

スピリット「では、誰が書いたのですか」

博士「いろんな時代にいろんな資料を集めて、主に想像上の悪魔と地獄を恐怖のネタにして、人心を抑える目的で編纂されたものなのです。詩・歴史・寓話・思想の寄せ集めであり、その中に矛盾と真理とがごちゃ混ぜになっております。

それを人間は、一字一句にいたるまで神の言葉であると信じ、筋の通らないものまで、言葉どおりに解釈しようとします。バイブルにも『儀文は殺す、されど霊は生かす』とあり、また『霊的なものは霊的に見極めないといけない』とも言っております。つまり、宗教とは知的な見極めのプロセスを言うのです。

キリストの教えの中には素晴らしい真理が含まれています。ところが教会は、ただの寓話を事実であるかのように説き、ドグマと教義と信条とが、その奥に秘められた霊的な意味を曖昧なものにしてしまったのです」

スピリット「神は六日間で地球をこしらえて、七日目に休まれたという話を信じますか」

博士「信じません。それも、ただの寓話です。七日というのは大自然の七つの基本的原理のことです。『神は創造者であると同時に創造物でもある』と言われます。もしも神が働くことを止めたら、すべての活動が止まってしまいます。生命というものを有るがままに理解することです。教えられたままを信じてはいけません。

さ、もうだいぶ時間が経ちました。これ以上、その身体に留まることは出来ません。よくごらんなさい。どなたか知った方の姿が見えませんか」

スピリット「あっ! 母さんだ! もうずいぶん会ってないなあ・・・でも、待てよ。母は俺がちっちゃい頃に死んだはずだ」

博士「お母さんのおっしゃる通りになさい。力になってくださいますよ」

スピリット「ああ、母さん! ボクを連れてってくれるかい? お願いだ、連れてってよ。ボクはもう疲れたよ」

博士「勿論、お母さんは連れていってくださいますよ。でも、さっきのような愚かな信仰を捨てて、理解ということを心掛けないといけませんよ」

スピリット「行かせてください」(と言って立ち上がる)

博士「お母さんと一緒になったつもりになってください。その身体は私の妻のものですから、そのまま行くわけにはいかないのです。一緒になったつもりになるだけで、お母さんのところへ行けます」

スピリット「疲れてしまって、うんざりです。ほんとに疲れました。母と行かせてください。母がやって来ます。別れてずいぶんになるなぁ・・・」

博士「さあ、一緒に行きなさい。神は考える為の知性を与えてくださっております。お母さんをはじめ、人の言うことをよく聞くのですよ」

スピリット「母が、あなたへの無礼のお詫びを言いなさいと言ってます。迷惑をかけたあのご婦人にも許してくださるよう、ちゃんとお詫びを言うようにとのことです」

博士「どちらから来られたか、教えて頂けませんか」
スピリット「思い出せません」

博士「今年は、何年だと思いますか」
スピリット「たしか1901年です」

博士「それは19年前ですね。大統領の名は?」
スピリット「マッキンレー」

博士「彼は、1901年9月6日に撃たれて、14日に死亡しています。今年は、1920年です」

スピリット「その間私はどこにいたのでしょう? 眠っていたのでしょうか。私は1901年の冬にひどい病気にかかり、その後のことはよく覚えていないのです。クリスマスの頃のことで、風邪をひいて、それが悪化したのです」

博士「病気になった時はどこにいましたか」

スピリット「山で材木の伐り出し作業をしていました。何かが頭に当たったのを覚えていますが、思い出せるのはそれだけです。母が言ってます・・・私の姓はスターリングだそうです。そうだった、そうだった!」

博士「木材業をする前はどこにいたか、お母さんはご存知ないでしょうね?」

スピリット「生まれたのはアイオワ州だと言ってます。ウィスコンシン州の森林地帯で仕事をしている時に、事故に遭ったのだそうです。昔はアイオワに住んでいました」

博士「住んでいた町の名前は思い出せますか」
スピリット「いえ、思い出せません」

博士「ま、いいでしょう。これからは生命の実相についての理解を得て、人の迷惑でなく人の為になるように心掛けないといけません。あなたはこれまで、一人の女性に迷惑をかけてきて、その方は未だに完全には良くなっておられないのです」

スピリット「迷惑をかけていたのは私一人ではなく、他に二人、私と同じようなことをしていたのがいます」

博士「すっかり元気になったら、今度はそのご婦人が完全に良くなるための手助けをしてあげないといけません。残りの二人のスピリットを取り除いてあげるのです」

スピリット「やってみます。有り難うございました。さようなら」

第5章 犯罪および自殺をそそのかすスピリット
第1節 ●肉体離脱後も残る『犯罪癖』
習慣とか願望、性癖といったものは精神の奥深く根を張っているもので、肉体を離れた後も、当人の意志によって自然的に取り除かれるまでは、死後もずっとそのまま残っていることが多い。

特に、処刑されて強引に肉体から離された場合は、怨みを抱き復讐の機会を求めて、いつまでも地上圏に留まり、霊的なものに過敏な人間に憑依して、好き放題のことをすることがある。我々の調査によって、まさかと思うような真面目な人間が、地上で殺人を犯したスピリットに憑依されて新たにむごたらしい殺人を犯すというケースが少なくないことが分かっている。

第2節 ●マジソン・スクェアガーデン惨殺事件の真相
1906年にスタンフォード・ホワイトという男性が、ハリー・ソーという名の犯人によって、ニューヨークのマジソン・スクェアガーデンで惨殺された事件も、その典型だった。ハリーは、生まれつき霊的感受性が強く、スタンフォードを殺害した時の心理状態がどうであったにせよ、恨みに満ちた複数のスピリットに唆されていたことは間違いないことが、我々の招霊実験で判明した。つまり、ハリーは、無知で復讐心を抱いた低級霊集団によって演出された、見えざる世界での恐怖のドラマの、地上の執行人に過ぎなかったわけである。

その殺人事件から数週間後の7月15日にホームサークルを催している最中に、予定されていたのとは違う別のスピリットが私の妻に憑依し、妻の身体はその場に倒れた。私が抱き上げて椅子に座らせてから質問しようとした。すると、身体に触れたことに腹を立てて『余計なことをするな』と言ったあと、
「おい、ウェイター、酒だ!」と大声で言った。そこで、私が聞いた。
「何にいたしましょう?」
「ウィスキーをソーダで割ってくれ。はやくしろ!」
「どなたでしょうか」
「誰だっていい。余計なお世話だ」
「ここはどこのおつもりですか」
「マジソン・スクェアガーデンじゃないか」
「お名前は何とおっしゃいますか」
「知りたけりゃ教えてやろう。スタンフォード・ホワイトだ」

そう言ってから片手で後頭部を押さえ、もう一方の手で痛そうに胸や腹をかきむしりながら、「早くウィスキーをもってくるように、ウェイターに言ってくれ!」と言う。

私がさらに質問しようとした時、そのスピリットの目に他のスピリットの姿が見えたらしく、急に恐怖で身体を震わせ始めた。

「死んだ人達の姿が見えるのでしょう?」

私がそう言うと、激しくうなずいてから、大声で、「あいつらが俺を追っかけてくるんだ」

と言うなり、椅子から飛び出して部屋の隅の方へ走って行き、そこで霊媒の身体から離れてしまった。
その直後に、今度は別のスピリットが乗り移って、ひどく興奮しながら行ったり来たりして、「こいつは俺が殺ったんだ! この俺が殺ったんだ! 見ろ、あそこにくたばってやがる」

と言って、さっきのスピリットが離れた隅の方を指差し、さらに、「こん畜生め! 奴を殺そうと思って何年チャンスを待っていたことか。ついに殺ったぞ! こん畜生めが! 」と怒鳴った。

そこで、その男を無理矢理椅子に座らせて質問してみると、名前は『ジョンソン』であることが分かった。
そして、「ホワイトは俺が殺ったんだ。あれでいいんだ。奴は娘っ子をおもちゃにしやがった」と述べた時の言葉の響きには、上流階級への憎悪がむき出しになっていた。

さらに言葉をついで、「あいつらは俺達の(階級の)娘をさらっては、奇麗なドレスを着せておもちゃにしてやがる。親達も知らん顔さ」と言う。

私が死んだことには気づいているのかと尋ねると、バカバカしいと言わんばかりに笑い飛ばして、「死んだ人間がものを言うかよ。医者は、俺が肺をやられているから先は永くないと言ってやがったが、死ななかった。こんなに気分がいいのは初めてだよ」

そこで、私が手と足とドレスを見るように言うと、男が女の身体をもつとはどういうことかと言い返し、私との間で長々とやりとりが続いたが、どうにか納得がいったらしく、おとなしく去って行った。

続いて憑依したスピリットは、自分の死をよく理解していて、「ハリー・ソーの父親で。息子を救ってやってください。どうか救ってやってください。息子には罪はないのです。電気椅子に座らされるようなことはしていません」
と言い、続けて――

「ハリーは霊的影響を受け易く、子供の頃からそうでした。行動が風変わりで、すぐに興奮するので、発狂するといけないという心配から、私も家内も、彼を強くいさめることをしなかったのです。

今それが間違っていたことが分かりました。地上にいた頃は、ハリーの異常の原因が分かりませんでしたが、今、霊界から見ると、ハリーは生活のほとんどを低級な地縛霊の道具にされていたことが分かります。

スタンフォード・ホワイトを殺した時も、復讐心に燃えた複数のスピリットのとりこにされていたのです。これまで私は可能な限りの手段を尽くして、地上の人達にハリーが本当は気が狂っているのではなく、霊的に過敏な子であったことを分かって頂こうと努力してまいりました。どうか、あの子を救ってやってください! どうか救ってやってください!」

「どうして欲しいのでしょうか」

「私の妻と弁護士のオルコットに手紙を書いて頂き、この度の私が述べたことを知らせて、ハリーの本当の事情を教えてやって頂ければと・・・」(その時点では、ハリーの弁護士のことは何も知らなかったが、後で間違いなくオルコット氏であることを確認した)

「おっしゃる通りに致しましょう」と言うと、そのスピリットは離れて行った。その翌日(七月十六日)の晩には、さらにもう一人のスピリットが出現した。初めのうち、誰かを探している様子で、「他の連中はどこへ行った?」と聞き、やはり上流階級への恨みつらみを述べて、若い女の子がすぐに騙されてしまう愚かさを吐き棄てるように言ってから、さらに、

「金持ちは、俺達の娘を奴らの隠れ家へ連れ込んで、金づるにしてやがる。娘達も親のことなんかどうでもいいと言い出す始末さ。痛い目に遭わせてやらんといかんのだ、あいつらは!」
と、ジェスチャーを交えながら喋るのだった。初めから終いまで興奮し通しで、私が質問らしい質問をしないうちに、突如として霊媒から離れた。

翌年の二月十六日に、ソーの父親が再び出現して、前回と同じように、息子が霊的感受性が強い子で、しばしば邪霊に唆されていることを述べた後、地上の人間はこの邪霊の影響の実在を正しく理解することがぜひ必要であることを説き、それがスピリットにとっても、気の毒な犠牲者にとっても、悲劇を未然に防ぐ最善の方法であることを力説するのだった。

第3節 ●ホリスター夫人殺害事件の真相
1906年、シカゴで起きたベッシー・ホリスター夫人の殺害事件の犯人として絞首刑になったリチャード・アイベンスは、事件当時、彼自身の意志ではなく、外部からの影響力の犠牲者であったということは明々白々である為に、精神病学者も犯罪学者も心理学者も、揃ってアイベンスは無罪であると主張し、また催眠暗示の状態での尋問でアイベンスが、知らない人間に唆されてやったと自白している事実を指摘していた。

確かにアイベンスは、取り調べに際して恍惚状態のような目つきで『図体のでかい奴』が殺せと唆したからやったのだと告白するかと思うと、すぐまた、それを激しい口調で否定する、ということを繰り返していたのである。

ハーバード大学の心理学教授H・マンスターバーグ博士は、事件のあった年の1906年6月に、次のように書いておられる。

[これは人格分裂と自己暗示の、興味深いケースである・・・十七世紀の魔女達は似たような告白をして焼き殺されたわけである。異常心理についての一般の理解は、魔女狩りの時代から大して進歩していない]

同じくハーバード大学のウイリアム・ジェームズ教授はこう述べておられる。

[アイベンスが有罪か無罪かはともかくとして、犯行当時に人格分裂状態になったであろうことは間違いない・・・その宿命的な最初の数日間、彼は本来の『自我』ではなく、稀にある人格転換の犠牲者であった。それは、他からの暗示性のものか自発性のものかのいずれかであろうが、先天的にそういう素質をもった人間がいることは、よく知られていることである]

以下はその後日の話である。

1907年3月7日
スピリット=リチャード・アイベンス

スピリットが乗り移ると、霊媒はまるで死んだようにフロアに倒れ込んだ。そして意識を取り戻させるのに三十分もかかった。が、意識が戻っても、

「ほうっておいてくれ。もう一度絞首刑にしたいのか」と言いながら、しきりに首のあたりの痛みを訴え、とにかく眠らせてくれと言うのだった。

「首がどうかしたのですか」と聞くと、「首の骨が折れている。絞首刑にされて、俺はもう死んだんだ。死んだままにしておいてくれ。生き返ったら、また絞首刑にされる」と言う。

名前を尋ねると、リチャード・アイベンスだと言うので、「ホリスター夫人を殺害したのは、あなたでしたか」と尋ねると、「知らない。人は俺がやったと言ってる。しかし、俺がやったとしても、身に覚えがないんだ」

「ではなぜ、自分がやったと言ったかと思うと、すぐに否認したりしたのですか」

「三人のゴロツキがいる時はそう言った。その中の図体のでかいのが俺を見下ろして『言わんと殺すぞ』とナイフで脅したんだ。そいつがいない時は、殺したかどうか記憶がないと言った。警察でもそう言った。看守にもそう言った。聞いた奴にはみな同じことを言った。が、本当のことを言っても信じてもらえなかった。

ああ、酷い目に遭った!」せっかく死ねたのに、なぜ呼び戻すんだ。なぜそのまま眠らせてくれなかったんだ。また逮捕されて吊るされるじゃないか!」

次の瞬間、恐怖におののいたような叫び声をあげて、「見ろ! また、あいつだ! 手にナイフをもって、側に二人の背の低い奴がついてる。わっ!」

そう叫んで、膝を抱きかかえる仕草をしながら、「膝をやられた! 膝にナイフを突き刺された――もう一方もだ! 脚を切られた! 脚を! あいつは悪魔だ!」

そこで私が少しずつ事情を説明し、みんなスピリットであること、もう肉体はないのだから傷つくことはないことを得心させてから、「あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのです。そういう精神的な妄想を捨てないといけません。三人の他にもスピリットの姿が見えませんか」と言うと、

「おや、ほんとだ、見えます。私の味方のような感じがする。あれ、ホリスター夫人だ!」

「ナイフを持ってる男に、なぜ追い回すのか聞いてみてください」
「ニタニタ笑ってるだけです」

「なぜホリスター夫人を殺さないといけなかったのか、聞いてみてください」
「女が憎いからだと言ってます」

そう言ってから急に黙り込み、固唾を呑んで何かものすごいシーンを見ている様子だった(マーシーバンドのスピリットが三人を取り押さえた)

「あの三人を連れて行きました。ものすごい格闘でしたが、ついに取り押さえました」

そう言ってホッとした表情を見せ、「ヤレヤレです。あの恐ろしい男がいなくなって助かりました」と言った。

そこで私が、ホリスター夫人殺人事件について思い出してみてほしいと言うと、こう語った。

「あの夜、ホリスター夫人を見かけた時、私の目には、あのでかい男の姿も見えて(霊視して)おりました。そのうち妙な感じがしてきたと思うと、首を絞められて意識を失ってしまいました。次に意識が戻ってみると、その男が、夫人を殺したのはこの私だと言うのです。

その男の姿は一ヶ月程前から見かけていましたが、それがスピリットであるとは知りませんでした。ずっと私をつけていたのです。なぜ、私を生き永らえさせてくれなかったのでしょう? たとえ刑務所の中でも良かったのです。家族には大変な恥をかかせてしまいました。母親に済まない気持ちで一杯です。真相を知ってもらえればという気持ちです。もしも母に会えたら、あれはどうしようもなかった――私は絶対に殺してないと言ってあげたいのです。

誰も同情してくれなかった。あのでかい男がナイフを持っていた話をしても、誰も信じてくれなかった。あいつが私に自白させたのです。

本当に私がやったのなら、後悔もします。でも、私には身に覚えがないのです。なのに、なぜ私を処刑したのでしょう?」

そこで私が、生命の死後存続と高い霊的境涯への向上の話をすると、「私が死んでないとすると、あの夫人も生きているということですか」と真剣になって聞いた。

「勿論ですとも。きっと今ここへあなたを許しに来ておられるはずですよ。確かにあなたはその方の身体を滅ぼしたかも知れませんが、それはあなたの罪ではありません。邪霊によって催眠状態にされて、彼らの道具にされただけです」

最初元気のかったアイベンスは、やっと事情が分かって、マーシーバンドの手に委ねられた。そのメンバーの話によると、『でかい男』は子分の二人と共に、地上で『白帽団(ホワイトキャップ)』という、英米で婦女子ばかりを襲って手足を切断したり殺したりしていた『殺人狂集団』に属していたという。

それからほぼ三ヶ月後に、その『でかい男』の招霊に成功した。

1907年6月6日
スピリット=チャールズ・ザ・ファイター(人呼んで『喧嘩チャールズ』)

霊媒にかかってきた時は酔っぱらったような態度だったが、目が覚めると暴れ出し、数人がかりでやっと押さえ込むことが出来た。

「人呼んで『喧嘩チャールズ』とは俺のことだ」

そう凄んでから、まわりにいるマーシーバンドのスピリットに向かって、そこへ自分をおびき寄せた恨みを口走り、突っ立ってないで助けろ、と命令した。

そのうち落ち着いてきて、私の説明にどうにか耳を傾けるようになった。他人の身体を使って喋っていることを納得させる為に、手を見るように言った。
すると片手だけ見て、それが女性の手であることを知って、ひどく狼狽し、「この手をもってってくれ! もってけ! こんなもの、見たくもない!」とわめいた。

そこで私が、なぜそんなに怒り散らすのか、そのわけを聞かせてほしいと言うと、

「言うもんか! 言うくらいなら死んだ方がましだ! ああ、またあの女の顔が! ダイヤの指輪を取るために切り落とした手も見える! どこへ行っても、その顔と手がつきまとうんだ」

さらに見回すと、大勢の亡霊に取り囲まれているらしく、

「見ろ! あの顔、顔、顔! ぜんぶ俺が殺したって言うのか? 俺を呪いに来やがったのか? 見ろ、あいつもいる(アイベンス)。首を吊られたはずなのに、まだ生きてやがる。あの女を殺したのは俺だ。だが、あの男に上手く自白させたはずだ。(私に気づいて)ちょっと待て! コラ、きさま! お前だな、これを企んだのは。あとで覚えてろ! 八つ裂きにしてやるからな! 」

そう言いながらも、我々の説得によって、ついに、これ以上の抵抗は無駄であり、強盗と殺人の時代は終わったことを悟った。彼は身の毛もよだつ犯罪の数々を語り、それは女への報復としてやったこと、強盗はウィスキーを買う為の金欲しさであり、ウィスキーを飲むのは良心の呵責を紛らわす為であり、絶えず呪い続ける亡霊から逃れる為だったという。

彼は、幼少時代は優しい母親の愛を受けて幸せだった。が、その母親が死んだ後、後妻にひどく虐待され、泣く泣く自分の部屋に駆け込んで、亡き母に助けを求めて祈ることの毎日だったという。が、そのことがますます義母の嫉妬心をあおり、気弱な父の抑止も聞かずに彼を殴り続け、二度と実母の名前を言うなと叱りつけたのだった。

その義母の残忍な暴君的態度が、少年の心に計り知れない恨みの念を植え付け、大きくなったら女という女を皆殺しにしてやるという誓いをさせるに至った。そして、その恐ろしい誓いを着々と実行に移し、全生涯を、主に女性を対象として、残虐な計画と犯行に終始した。

その彼も、仲間割れの喧嘩で殺されたのだが、この日まで自分が死んだことに気づいておらず、その後もずっと警察を上手くまいて、犯行をきちんと重ねて来たのだと自慢するのだった。

「ところがだ、ボストンでのことだが、警官を殺してやろうと思って、後ろにまわってこん棒で殴りつけたんだが、どういうわけか、空を切って手応えがなかった。そいつは振り返りもしなかった」

我々やマーシーバンドに取り囲まれて、彼はもう逃げられないと観念したのか、亡霊の呪いから解放されるためなら、どうなっても構わんと言い出し、「この拷問のような苦しみから逃れられるのなら、地獄にだって喜んで行く」とさえ言うのだった。

私が因果応報の話をし、霊界の素晴らしさについて語るのに素直に聞き入っているうちに、霊的波長に変化を生じたらしく、すぐ側に実母が立っているのが見えた。やはり母親の姿の効果は絶大だった。さすがの非情の極悪人も、椅子の中で縮み上がり、母親の説得の言葉に、哀れにも泣きじゃくるのだった。

罪の意識と後悔の念がよほど強かったとみえて、彼は、「僕は行けないよ、母さん。母さんは天国へ行くんだ。僕は地獄へ行くんだ。そこで八つ裂きにされて火で焼かれるんだよ」と言いながら、なおも泣きじゃくるのだった。

しかし、母性愛は負けなかった。さすがの極悪人も、神妙に、母親に連れられてスピリットの世界へと旅立って行った。

第4節 ●人間を自殺に追い込む憑依霊
“どうしてまた、あの人が・・・”と思いたくなるような、原因らしい原因がまったく見当たらない自殺の大半は、自縛霊による憑依や唆しが引き金となっていることが判明している。

それには邪霊が意図的に自殺を唆している場合と、既に自殺をして霊界に来ていながらその事実に気付かず、自殺が失敗したと思い込んで、何度も自殺行為を繰り返しているうちに、波動の合った人間に憑依して、その人間を道連れにしてしまった場合とがある。

いずれにしても、その行為の結果は例外なく惨めである。

第5節 ●突然首吊り自殺した女性のスピリット
最初に紹介するのは、私自身も少年の頃に通ったことのある日曜学校の女の先生で、X夫人と呼んでおく。妻とは一面識もない。知的で、霊性も豊かで、勿論熱心なクリスチャンで、二人の子供に恵まれた幸せな家庭の母親だった。

どこからどう見ても、何一つ不幸の陰は見当たらなかったその先生が、ある日、突如として首を吊って死んでしまった。ご主人も子供も、訳の分からない悲劇に呆然とするばかりだった。

それから10年後の冬のことである。シカゴの拙宅で、妻と二人きりで寛いでいた時に、突然、妻にあるスピリットが憑依して、苦しそうに喘ぎながら首のところに手をやって、もがき始めた。

よくあることだが、自分が既に死んでいることに気付いていないスピリットが再び物質と接触すると、死に際の断末魔をもう一度体験するのである。この場合も同じだった。

いろいろと尋ねていくうちに、そのスピリットは、驚いたことに、私の知っている日曜学校の先生で、首を吊って自殺したことを述べた。その時もまだ地上圏に釘付けにされていて、それまでの地獄のような精神的苦痛を述べ、さらにこう続けた。

「肉体から離れてすぐ、私の愚かな行為の原因が分かりました。私達一家の幸せな生活を妬む教会関係の人達の念によって引き寄せられた邪霊の一味が、私のすぐそばに立っていて、上手くいったとばかりに、ほくそ笑んでいる姿が見えたのです。

なんとかしてもう一度肉体に戻りたいと思いましたが、時既に遅しでした。その日から今日まで、どれ程の絶望と悔恨の情に苛まれたことでしょう。楽しかった家庭は破壊され、夫は生きる勇気を失ってしまいました。子供達はまだまだ私の世話が必要だったのに――私が近づいて語りかけても、全く通じません。私は、今日まで薄暗い闇の中で、悶々として過ごすしかありませんでした」

私の説得によって慰めを得て、霊界の事情に目覚めたX夫人は、喜んで高級霊の手引きに従って霊界入りし、心を入れ替えて、改めて地上の愛する家族のために役立つ仕事をすると誓ってくれた。

その後何年かして、我々のサークルで自殺志向の強い患者を扱っている最中に、突然X夫人が戻ってきて、次のような体験談を語ってくれた。

1918年11月17日
スピリット=X夫人

「あれ以来随分になります。この度は自殺を考えておられるこの若い女性に、一言ご忠告申し上げたいと思ってやって参りました。

何年も前の話になりますが、私は二人の可愛い子供と優しい夫に恵まれた、幸せな家庭の主婦でした。私共夫婦は相性が良くて仲睦まじかったせいか、教会関係の方達の中にはそれを妬ましく思う人が多くいたようです。

当時の私は、バプテスト派教会に属していたせいもあって、自分が霊感が強いということを知りませんでした。ただひたすら家庭を守ることに専念しておりました。が実は、見えざる世界に、私を陥れようとする者がいたようです。ある日、いつものように明るく夫にキスをして送り出した後、ふと、誰かに捕まえられたような感じがしたのです。

それから後のことは何も知りません。何一つ知らないのです。何か妙な感じがして、誰かに捕まえられて身動きが取れなくなったところまでは覚えているのですが、それからあと自分がどんなことをしたか、まるで分からないのです。

暫くして我にかえってみると、全てが一変しておりました。目の前で夫が激しく慟哭しているのです。どうしたのだろうと思っているうちに、なんと、私の身体が首を吊ってぶら下がっていることを知ったのです。

ああ――その時の私の苦悶をどう表現したらいいのでしょう――夫は部屋の中でぶら下がっている私の体の前で、悲嘆に暮れて泣き崩れています。なのに私はどうしてあげることも出来ませんでした。夫のそばに立ったまま、なんとかしてもう一度その身体の中に戻れればと願いましたが、駄目でした。二人の子供も泣きじゃくっています。その二人にも、私は何もしてあげられないのです。

そのうち、何人かの邪悪そうなスピリットがすぐ近くに立って、私達一家の悲劇のシーンを見つめながらニタニタしているのを見て、やっと事情が分かりました。人の幸せを妬む彼等は、私を霊的に金縛りにし、私の身体に憑依して自殺させたのです。

夫は、私が首を吊っているシーンを忘れることが出来ません。子供はまだ小さくて、面倒を見てやる必要がありました。私がやってあげるべきところを、夫が背負うことになってしまいました。

もとより私は、自分の意志で自殺した訳ではありませんが、それから10年もの永い間、その行為が私の目の前から離れませんでした。といって、もはやどうしようもありません。そのことでどれほど苦しい思いをしたことでしょう。子供が可哀想で、可哀想で――ある日のことです。とても寒い日でした。ふと生き返ったような感じがしたのです。そして、なんとなく温かい感じがするのです。自分がどこにいるのかも分かりませんでしたが、とにかく生き返ったような感じがしました。先生(博士)が事情を説明してくださり、一時的に先生の奥様の身体を使わせてくださっていることを知りました。そして、知り合いのスピリットが霊界へ案内してくださることも知りました。

そのことがあってから気持が幾分安らぎました。現在いるような美しい環境に行けたのも先生のお蔭です。しかし、それまでの10年の永かったこと――目に映るのは自分が首を吊っているシーンと、いたいけない我が子の姿でした。夫に子供・・・どんなにか私の手を必要としたことでしょう――が、私には為す術がありませんでした。

死にたい気持を抱いておられる方々に申し上げます。どんなことがあっても、それを実行に移してはなりません。自ら死を選んだ時、どれ程の地獄の苦しみが待ち受けているか、人間はご存じないし、また理解することも出来ないことでしょう。一旦その肉体から離れてしまうと、二度と戻れません。ということは、地上での義務がそれっきり果たせなくなるということです。

子供達は、自分達の母親が自殺したという思いを拭うことは出来ません。夫も子供も私を許してはくれないでしょう。スピリットに唆されたとはいえ、苦しむのは私でしかありません。

霊界の法則をお知りになれば、その結果の恐ろしさが分かって、自殺などしなくなるはずです。自分で死のうなどという考えは、棄て去って下さい。寿命が来るまで、なんとしてでも、この地上で頑張るのです。私が苦しんだ10年間は、地上に存在しているべき期間でした。本来ならその期間を地上で過ごしてから、こちらへ来るべきだったのです。そうすれば、その間に夫と子供のために私が果たすべき義務を果たすことが出来たわけです。

私に割り当てられた寿命を全うせずにこちらへ来るべきではなかったのです。それで、10年間にもわたって私の目の前から、首を吊った自分の姿が消えなかったのです。そして、その間ずっと、夫と子供が私を必要としていたことを思い知らされたのです。

もう今では、家族がこちらで再会するまで明るく過ごすことが出来ます。子供達のために、霊界から精一杯世話をしてあげることが出来ます。

どうか夫によろしく伝えて下さい。夫は今でも孤独です。すぐそばにいてあげることは出来ても、その孤独感を慰めてあげることは出来ないのです。

では、さようなら」

第6節 ●自殺した映画女優の警告
1920年にフランスで自殺した映画女優のオリーブ・Tは、アルコールとタバコの中毒症状があった上に、霊的感受性が強かったことが誘因となって、邪霊に唆されたのだった。それから間もなく、まだ精神状態が混乱している中で招霊されて、どうにか真相に目覚めた。

それから二年余り後に同じく映画女優のバージニア・Rを招霊会場に案内してきたオリーブが、その二年間の反省と体験を元に、特に若い女性に対して、次のような警告のメッセージを述べた。

1922年4月19日  スピリット=オリーブ・T

「前回ここでお世話になって以来、霊界で得ることが出来た素晴らしい体験のお礼を述べなければと思って、やって参りました。

人生についての正しい教訓は幼少時から教え、真実の意味での生命を理解するように導いてあげるべきだと思います。生命の実相を映像の形で説いてあげたらどうでしょう? それをスクリーンに映し、死というものは存在しないことを教え、すべての人を待ち構えている美しい死後の世界のことを教えてあげれば、地上世界はずっと違ったものとなることでしょう。

私も、女優としての仕事柄、一種の架空の世界に生き、人様を楽しませることを心掛けました。が、近頃の若い女の子が、遊び半分の人生に陥っていくのを見て、気の毒に思います。楽しいかもしれません。でも、束の間のことです。人間には必ず、ささやきかける声、というものがあります。『良心』です。どんなに打ち消そうとしても、どこまでもついてまわります。そういう浮かれた人生を送っている若い人達に、その愚かさを教えてあげられたら、と残念でなりません。

より高い生命の世界が存在することを教え、その真実味を実感させてあげることが出来たら、と思うのです。自分の為でなく、人の為に生きることが大切なのです。そういう人生の基本原理を教え、間違った教義を教えてはいけません。

地上世界の障害の一つは、アルコールとモルヒネの乱用です。そうしたものが少年少女を悲劇へと追いやっています。大人達は、ただいけないと咎めるばかりで、有効な手段を講じようとしません。結果的には、ますます彼らを悩みへと追いやっております。なぜかといえば、法律で禁じても、欲しいものはなんとしてでも手に入れるものなのです。禁じられる程、スリルがあって痛快なのです。

それに付随して、もう一つ別の要素があります。それは、ウィスキーのような度の強いアルコール類には、様々な感情が絡んでくるものだということです。気難しい評論家は一方的にアルコールを目の敵にして魔物扱いしますが、それがかえって過敏な若者を刺激して、酔うと様々な感情が湧いてきて荒れ狂うようになり、ますます悩みへと落ち込んでいきます。

人間はもっと、神の顕現である森羅万象の素晴らしさを学ばなくてはいけません。神は全存在の背後の生命であり、人間こそ、それを荒廃させている悪魔なのです。私が『人間』と言う時、現在の地上の人間だけを言っているのではありません。過去から現在に至るまでの『人類』のすべてのことを言っているのです。神は自由意志をお与えになったのですが、人間はそれを乱用しているのです。

キリストの教えの本当の意味を理解しないといけません。アルコール党は『ワインはキリストがこしらえたんじゃないのか』とか、『それをみんなに分け与えたじゃないか』とか言って弁解しますが、ワインとは生命のことだということを理解しておりません。大半の人が、それをワインそのものだと思っているのです。

神についても正しく理解しないといけません。神を怖がってはいけません。白い玉座に腰掛けた人間的存在ではありません。全生命の根源である霊的存在なのです。身の回りにあるものすべてが、霊的生命の顕現なのです。人間の言う『善なるもの』に存在価値があるように『悪なるもの』にも存在意義があります。悪を知らなければ善を知ることも出来ません。人生の教訓を学び、叡智を獲得し、不滅の生命の存在を悟るのは、現実の人生体験を通してのみ可能なのです。

私が、死後、霊界へ来て真理を見出し、救われることになったのも、苦しい体験を味わっていたからです。良心の呵責という火の洗礼を受けて、私は霊的に浄化されたのです。私は真理に飢えておりました。だからこそ、いったん真理を見出したら、邪念というものが全てなくなったのです。黄金は火の精錬過程を経て初めて見出せるのです。良心の呵責を経て、私は自分自身の中に神を見出したのです。外にあるのではありませんでした。

自己の中に神を見出し、そして得心することです。他人を裁く前に自分自身をよく知ることです。そうすれば、他人を裁けなくなります。すべての人を友とし、すべての人に善行を施し、どこにいても善行を心掛けることです。自我(エゴ)の垣根を取り払うことです。

エゴが頭をもたげ、怒りやアルコール、その他もろもろの愚かなことに負けそうになるごとに、自分に、こう言って聞かせるのです――『絶対に腹を立てまい。いかなる誘惑にも負けないぞ』と。そして、仲間達にはおかまいなく、さっと『回れ右』して、我が道を行くのです。すると怒りもどこかへ消えてしまいます。そのように、言いたいことも我慢するということを繰り返すことにより、心に調和が生まれるのです。

怒りの情念の中にある時は、後になって言わなきゃよかったと後悔するようなことを、つい言ってしまうものです。そして、その言葉がいつまでも心から消えないのです。ですから、怒りの念が湧き出るのを覚えた時は、そんなものには負けないぞと自分に言って聞かせ、回り右をして、『自分は自分を克服するのだ。もっと高いものを求めるのだ。つまらぬものには負けないぞ。お前(怒り)なんかには入らせないぞ』と言って聞かせるのです。

あの時の私は怒りに燃えていました。それは私の死を意味していたのです。どういうことをしたか――自殺したのです。本気で自殺するつもりではなかったのです。が、その後の私が怒りの中にあったことが、死に繋がったのです。手遅れにならないうちにエゴを克服することです。度を超えないうちに怒りを抑えるのです。

あの時の私は、怒りの念に押し流されてしまったのです。その結果はどうなったか――自殺していたのです。目が覚めて、自分のしたことに気づいた時、地団駄を踏んで後悔しました。それが、ただの怒り、つまり利己主義の絡んだ怒りからやってしまったことだったのです。

自我を克服しましょう。もしも怒りの念に襲われた時は、こう言うのです――『さがれ、サタンめ!』と。そして、心の中で回れ右をすれば、それで、取り憑こうとしていた邪霊を閉め出すことになるのです。私がもしそうしておれば、あのようなことにはならなかったであろうに、と悔やまれてなりません。

もしも私が、地上の人々に歩むべき正しい道について語り、生命の実相とイエスの教えの本当の教訓、それに、心がけ次第で私達みんながいかに多くの善行を施すことが出来るものであるかを、映像の形でスクリーンに映し出してあげることが出来たら、多くの犯罪者が心を入れ替えて、善男善女となってくれることでしょう。

オリーブ・Tでございます。さようなら」

第7節 ●シカゴで自殺した女性
これは招霊実験を始めた頃で、1906年11月15日にシカゴで起きたものである。いつもの交霊会を催している最中に急に霊媒の様子がおかしくなって床の上に寝転び、しばらく人事不省のような状態が続いた。そのうちやっと憑依霊が引き出された。

とても苦しんでいる様子で「もっと薬を飲めばよかった。死にたい。もう生きているのはイヤ!」という文句をくり出した。それから弱々しい声で、あたりが真っ暗で何も見えないと言った。部屋の電灯の明かりが直接顔に当たっているのに、それが見えないのだった。それから、か細い声で、「息子がかわいそう!」と言うので、事情を説明するようにきつく求めると、名前はメアリー・ローズといい、住所はサウス・グリーンストリート202、ということだったが、我々の全く知らない住所だった。

最初のうち年月日がさっぱり思い出せなかったが、「今日は1906年11月15日ですか」と尋ねてみると、「いえ、それは来週です」という返事が返ってきた。それから色々と聞き出してみると、彼女は慢性の腹部疾患に悩まされ、その人生はいわば失望の連続だった。その惨めな人生に終止符を打ちたいと思って服毒したのだった。そして実際には自殺に成功しているのであるが、私と接触のあった当初はそれが理解出来なかった。

というのも、大抵の自殺者がそうであるように、彼女は生命の不滅性と死後の世界の実在について全く無知だったのである。が、私との対話によって人生の目的、経験の意義、苦しみの効用が分かり始めると、自殺したことへの後悔の念に襲われ、真剣にゆるしを求めて祈り始めた。そしてそれが僅かながらも霊的視覚を開かせ、迎えに訪れていた祖母の霊姿がおぼろげながら見えた。

あとでそのスピリットが述べた住所を調べてみたところ、間違いなかった。メアリー・ローズという女性がかつてその家に住み、今でも息子が住んでおり、母親はクック郡立病院へ運び込まれて一週間前に死亡したという話だった。私は念のため同病院を訪れて、さらに確定的な事実を発見し、記録のコピーを入手した。それには次のように記してあった。

クック郡立病院 イリノイ州 シカゴ
メアリー・ローズ
1906年11月7日 入院
1906年11月8日 死亡
石炭酸中毒
ナンバー・341106

第8節 ●恋人と心中した男性のスピリット
R夫人は自殺志向が強く、絶えず髪の毛を掻きむしり、食べることも眠ることもせず、いつしか骨と皮ばかりに痩せこけてしまった。そして「もう五百人も人殺しをした。あとは自殺することしか用がなくなった」などと口走るのだった。好転の兆しが見られないので精神病院に送られ、3年間もの間、鍵のかかった部屋に留置されていた。

我々の手に預けられてからも、数回にわたって自殺を企てたが、二、三週間もするうちに、かつて自殺して死んだ陰鬱なスピリットが取り除かれて、それ以来、自殺の衝動は見られなくなった。

その後もしばらく、我々の治療所にいて、体重と体力と健康の回復をはかり、完全に正常に復してから家族の元に帰り、今では、病気になる以前にやっていた仕事が出来るようになった。次の実験は、その除霊されたスピリットとの対話である。

1919年2月23日  スピリット=ラルフ・スチーブンソン

博士「どちらからおいででしょうか」
スピリット「うろついていたら明かりが見えたので入ってきました」

博士「お名前を教えていただけますか」
スピリット「いえ。自分でも分からないのです」

博士「ご自分の名前が思い出せないのですか」

スピリット「何もかも思い出せなくなったみたいで・・・。頭がどうかしたのでしょうか。ひどく痛みます」

博士「ご自身は、どうしてだと思われますか」

スピリット「考えるのが難しくて・・・。私は何をしにここへ来たのでしょうか。あなたはどなたですか」

博士「ドクター・ウィックランドと呼ばれている者です」
スピリット「何のドクターですか」

博士「医学です。あなたのお名前は?」
スピリット「私の名前? 妙なことに、思い出せないのです」

博士「死んでどのくらいになりますか」

スピリット「死んで? 冗談じゃありません。死んでなんかいませんよ。死んでた方が良かったのですがね・・・」

博士「人生がそんなに面白くないですか」

スピリット「ええ、面白くないです。もし私が死んでいるとしたら、死んでいるというのもなかなか辛いものですね。何度死のうとしたか知れませんが、死ぬたびに生き返るのです。なぜ死ねないのでしょうか」

博士「[死]というものは存在しないからです」
スピリット「ありますとも!」

博士「何を根拠にそう断言なさるのですか」

スピリット「根拠は知りません。(急に苦しげに)ああ、死にたい! 死にたい! 人生は暗くて憂鬱だ。もう死んでしまいたい・・・何もかも。なぜ死ねないのだ! 」

博士「あなたは道を間違えられたのですよ」
スピリット「では、正しい道はどこにあるのですか」

博士「あなたの心の中です」

スピリット「私は、神の存在を信じた時がありました。天国と地獄の存在を信じたこともありました。が、今はもう信じてません。あたりは暗く陰鬱で、良心が咎めてばかりいます。ああ、忘れさせてほしい! 忘れてしまいたい! ああ、忘れたい!」

博士「あなたは肉体を失っていることをご存知ですか」
スピリット「何も知りません」

博士「では今、なぜ、ここにいらっしゃるのでしょう?」

スピリット「皆さん方の姿は見えております。見覚えのない方ばかりですが、お見受けしたところ、親切そうな方ばかりです。どうか私も仲間に入れて頂き、少しでも結構ですから、光と幸せを恵んでくれませんでしょうか。もう何年もの間、光も幸せも味わっていないのです」

博士「それほどまで苦しみを味わう原因は何なのでしょうね?」

スピリット「神は存在しないのでしょうか。なぜ神は、私をこんな暗くて陰気なところに押し込めておくのでしょうか。私もかつては純心な少年でした。なのに私は・・・ああ、言えない! 言っちゃいけない! いけない、いけない、絶対に言っちゃいけない」(非常に興奮している)

博士「今、あなたの心にあるものを全部吐き出してごらんなさい」

スピリット「大きな過ちを犯してしまいました。絶対に許されないことです。私のような者を神は決してお許しにならないでしょう・・・決して、決して、決してお許しにならない!」

博士「今、あなたが置かれている現実に目を向けることが大切です。私達が力になりましょう。で、まず、あなたは男性であるかのようにおっしゃってましたが・・・」

スピリット「男性ですとも」

博士「その身体は女性ですよ」(博士の奥さんが霊媒だから)

スピリット「苦しんでいるうちに女になっていて、しかもそれに気がつかないなんて、そんな馬鹿なことがこの世にありますか。(あるスピリットの姿を見てひどく興奮して)こっちへ来るな! 来るな、来るな! あっちへ行け! わあっ、あれを見ろ、あれだ。もう勘弁してくれ!」

博士「一体何をしたというのですか」

スピリット「それを喋ったら逮捕されてしまう。これ以上ここへはいられない。帰らせてもらいます。走って逃げないと! (R夫人は何度も逃げ出そうとする行動を見せた)奴らが追いかけてくる。こんなところにいたら、捕まってしまう。帰らせてくれ! 見ろ、やってくる、奴らが!」

博士「今どこにいると思っているのですか」
スピリット「ニューヨークです」

博士「ここはロサンゼルスですよ。今年は何年だと思いますか。1919年ですよ」

スピリット「1919年? そんなはずはありません」

博士「何年のつもりですか」
スピリット「1902年です」

博士「17年も前の話ですね。肉体という物的身体を失っていることがまだ分かりませんか。本当の死というものは存在しないのです。地上界から霊界へと移るだけのことです。なくなるのは肉体だけなのです。生と死の問題を勉強なさったことがありますか」

スピリット「いえ、勉強というほどのことはしていません。信じていただけです。名前はラルフと申します。姓は忘れました。父は死にました」

博士「お父さんは、あなたと同じく死んでませんよ」

スピリット「勿論私は死んでいません。いっそのこと死んでしまいたかったくらいです。お願いです。私をどこかへ連れて行って、死ねるように殺してください(R夫人もしばしば「殺して」と頼んでいた)

あっ、また奴らが来る! 白状なんかするもんか! 白状したら最後! 牢へぶち込まれるに決まってる。あんな思いはもう沢山だ」

博士「ご自分の身の上についての無理解が、あなたをいつまでも暗闇の中に閉じ込めることになるのです。白状なさい。悪いようにはしませんから」

スピリット「それが、しようにも出来ないのです。前にもしようとしたのですが、どうしても出来ませんでした。私の過去の映像が目の前に立ちはだかるのです」

博士「おっしゃってることから察するに、あなたは明らかに人間に憑依していて、あなた自身が自殺しようとして、実際はその人達を自殺させてしまったのでしょうね。時折、ご自分でも変だなと思うような状態になったことはありませんか」

スピリット「自分がどうなっているかを考えてみたことはありません。(急に驚いて)あっ! アリスだ! 嫌だ、嫌だ、怖い! アリス、僕は本当はあんなことをするつもりじゃなかったんだ。頼む、アリス、もう責めないでくれ!」

博士「お二人の間でどういうことがあったのかを話してくだされば、我々が救ってあげられるのです」

スピリット「二人で一緒に死のうと誓い合ったのに、死んでなかったのです。アリス、なぜ殺してなんて言ったのだ? なぜ言ったのだ? 君を先に撃ってから自分を撃った。が、僕が死ぬことが出来なかった。ああ、アリス、アリス!」

博士「今では多分、アリスの方が事情が分かっているはずですよ」

スピリット「彼女が言っています――「ラルフ、私達二人共馬鹿だったの」と。では、あなたに全てを打ちあけます。言い終わったところで逮捕されるでしょうけど・・・。

アリスと私は、結婚を誓い合った仲でした。ですが、アリスの両親が私を気に入ってくれなくて、結婚に反対したのです。しかし二人とも心から愛し合っていたものですら、いっそのこと心中しようと決めたのです。先にアリスを殺し、続いて私が自分を撃とうと・・・。そして、その通りにやったのですが、私はどうしても死ねませんでした。アリスがそこに来ているところを見ると、彼女も死んでなかったようです。

あの時、アリスは私に向かって「さ、早く殺して! 早く、早く殺して! 何してるの、早くやってよ」と叫びました。私は深く愛していましたから、どうしても引き金が引けません。でも、アリスは、殺して殺してと言い続けています。家にも帰れない、結婚も出来ないのなら、二人で死ぬしかないじゃないの、と言います。

といって、アリスは自分でピストルを撃てません。私にもその勇気はありません。が、アリスがあんまりせがむものですから、ついに私は目をつむってアリスを撃ちました。そして、彼女の身体が倒れてしまわないうちに自分を撃ちました(実際は、それで二人とも死んでいる)

ところが、アリスの倒れている姿が見えます。私は怖くなって、起き上がって逃げました。逃げて逃げて逃げまくり、今もまだ走ったり歩いたりしながら逃げているところです。なんとかして忘れようとするのですが、どうしても忘れられません。

時折、アリスが姿を見せます。が、私は「僕が殺したんだ。近づかないでくれ」と言って逃げ出しました。警察からも、誰からも逃げてまわりました。そのうち、自分が年のいった女性になったような感じがして、それが暫く続きました。そのうち脱け出たように思いますが、暫くすると、また同じ女性になったような気がしました」

博士「その時、あなたは人間に憑依していたのですよ」
スピリット「憑依? それはどういうことですか」

博士「聖書に、汚れたスピリットを取り除く話がありますね?」

スピリット「ええ、あります。でも私は、その女性になった時も、死にたいと思っていました。なのに、死ねなかったのです。その女性が私に付きまとうのを振り払うことも出来ませんでした。もうこれ以上付きまとわれるのはご免です。(急に興奮して)あっ、アリスだ。来るんじゃない!

私があの女性といる時に、あの稲妻みたいなものを浴びせられました。私を殺そうとしているのだと思い、私も死んでしまいたいと思いました(患者のR夫人は、電気治療を施すと、いっそのこと殺してくれと叫んでいた)。稲妻みたいで、私に命中はするのですが、それでも死にませんでした」

博士「あの火花は、私達が治療している患者の一人に流した静電気の反応です。あなたはその患者に取り憑いておられたのです。その女性もあなたと同じように、死にたい死にたいと言っていました。あなたが乗り移っていたからで、その方の人生を台無しにするところでした。

幸い、あの電気であなたをその方から離すことが出来て、これでその方は正常になられることでしょう。あなたも、もうすぐ救われますよ。

ここをお出になったら、アリスについて行ってください。アリスがあなたの事情をよく説明してくれますよ。あなたは肉体をなくしていることに気づかずに、まだ地上で生きているつもりでいるようですね。あなたもアリスも、スピリットになって生き続けているのです。人間の目に見えないスピリットになっていて、あなたは今、私の妻の身体に宿って話しておられるのです。スピリットと精神は永遠に滅びないのです」

スピリット「私にも、心の安らぎが見いだせるでしょうか。一時間でもいいから、心の安らぎが欲しいのです」

博士「一時間どころではありませんよ。あなたの前途には、永遠の安らぎが待っております」

スピリット「私の行為は許されるのでしょうか」

博士「それだけの懺悔の気持ちと苦しみで、もう許されるに十分ですよ。これからも辛抱して、進んで真理を学ぶことです。そうすれば救われます」

スピリット「おや、母さんだ! 母さん! 僕はもう、息子と呼んで頂く値打ちもない人間になってしまいました。母さんのことはずっと心にありましたが、今はもう、近づいて頂ける人間ではありません(すすり泣く)。

ああ、母さん、こんな僕を許してくださいますか。こんなわがまま息子を迎え入れて頂けますか。これまでの僕は、ああ、本当に苦しい目にばかりあってきました。許してくださるのなら、私を連れて行ってください。母さん!」

博士「お母さんは何とおっしゃっていますか」

スピリット「「何を言ってるのかい。母親の愛情はそんなことくらいで消えるものじゃないよ。これまで何度お前に近づこうと努力してきたことか。でも、お前はいつも逃げてしまって・・・」と」

ここで息子が去り、母親の手に預けられた。代わってその母親が出て、お礼の挨拶を述べた。それを紹介しておく。

[スチーブンソン夫人の挨拶]

「今ようやく息子と一緒になれたところです。私は永い間息子と接触しようと、随分努力したのですが、駄目でした。今度こそと思って近づいていく度に、あの子は私から逃げるのでした。私の姿は何度も見えていたのです。が、怖がったのです。それは、人間は死ねばもうおしまいという間違った信仰を教え込まれていたからです。それが、人間が死者の出現を気味悪がる理由でもあります。

人間に(死)はないのです。霊的な生活の場へと移るだけなのです。その事実を理解している人は美しい境涯へと参ります。地上にいる間に死後の世界について大いに学んでおくべきです。

自分の人生とは何か、自分とは何なのかについて、しっかりと勉強しておいてください。そうしないと、私の息子のようなことになります。あの子は、私と恋人、それに地上で見かけた警官から逃れようとして、何年もの間走り続けておりました。

あの子は、暫くの間、一人の婦人に憑依していて、事情が分からないものですから、その方の磁気オーラにひっかかったままになっておりました。一種の地獄の中にいたわけです。火の地獄ではなく、いわば[無知]の地獄です。

死は、いつ訪れるか分からないのですから、いつしか行くことになっている世界について、どうか、今から知っておいてください。死のベールの彼方にあるものを、あらかじめ知っておくのです。そうすれば、この世に別れを告げるべき時が訪れた時に、しっかりと目を見開いて霊界へ入り、私の息子のように地縛霊とならずに、赴くべきところに赴くことが出来るのです。

かわいそうに、息子は今、すっかり疲れ果て、精神的に病んでおります。これから私が看病しながら、永遠の生命について教えていくつもりです。そうすれば、霊界の美しい境涯を実感するようになるでしょう。

信じるだけではいけません。それでは進歩がありません。他人のために生き、他人のために役立つことをするという[黄金律]を実践しないといけません。そういう生活をしていれば、スピリットの世界に来てから幸せが得られます。

息子へのご援助に感謝申し上げます。母親の愛は強いものでございます。今度、息子をご覧になった時は、全ての疑念も無くなっていて、ずっと立派な人間となっていることでしょう。疑念は精神的な壁のようなものです。生と死の間に自分自身でこしらえているのです。その壁があるかぎり、親子といえども、一緒になれないのです。

その疑念に囚われていた息子は、私を見るとすぐに逃げ出し、アリスも近づけませんでした。まだ地上にいるつもりで、自殺が成功しなかったと思い込んでいたのです。そうしているうちに、ある感受性の強い女性と波長が合ってしまい、その方に憑依してしまいました。本人はそれを、牢に入れられたように思っていたようです。

今夜は、私の息子の為に皆様のお手を患わせ、心から感謝しております。このお仕事に、これからも神の祝福がありますように。さようなら」

第9節 ●身重女性殺害事件の真相
1919年7月、ロサンゼルスのトパンガ・キャニオンで起きた殺人事件が、全米の関心を集めた。ハリー・ニューという名の青年が恋人のフレダ・レッサーをピストルで撃ち殺した事件で、レッサーが身重であったことから、それが殺人の動機とされて、ハリーは十年の刑に処された。

次に紹介する招霊実験は、その裁判がまだ進行中のことで、殺されたレッサーが出現して事件の真相を語ってくれた。もしもこれが法廷での証言と同じ証拠性を認めてもらえていたら、事件はまったく別の決着をみていたことであろう。

1920年1月7日  スピリット= フレダ・レッサー

霊媒に乗り移ってすぐから悲しげに怯え続け、当惑している様子が窺えた。

博士「どうなさいました?」
スピリット「残念で残念で・・・」

博士「何が残念なのですか」
スピリット「何もかも・・・」

博士「力になってあげられるかも知れませんから、おっしゃってみてください」

スピリット「もうダメなのです。ああ、なんということを!」(泣く)

博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んではいません。悲観して滅入っているだけです」

博士「なぜ滅入るのですか」
スピリット「自分の愚かな行為の為です」

博士「どんなことをなさったのですか」
スピリット「アレもコレも、愚かなことばかりで・・・」

博士「その中で、特に残念なのは何なのでしょう? 幸せだったのですか」

スピリット「とんでもない! 幸せではありませんでした。(両手を強く握りしめて)あんな愚かなことさえしなかったら・・・ああ、馬鹿なことを!」

博士「何かあったのですね?」
スピリット「ありましたとも!」

博士「お名前は? ジョンですか」

スピリット「私は男ではありません。(法廷の中のビジョンを見ているらしく)わっ、あんなに人がいる! あんなに大勢の人が! でも、あの人達は私がどう説明しても知らん顔なのです」

博士「お名前は?」

スピリット「混乱して思い出せません。ああ、ハリー! あなたが悪いんじゃない。あの人達(裁判に携わっている人)は何を考えているの? 彼は何もしていない――私が馬鹿だったのです」

博士「あなたが何をなさったというのですか」

スピリット「彼と取っ組み合いになったのです。私がピストルを手にして彼をからかったものだから、彼がピストルを取り上げようとして、二人で奪い合いになったのです。私は、ただ、からかってみただけなのです。今でも彼のそばに行ってみるのですが、どうもしてあげられません」

博士「なんでまた、あなたはピストルなんかを手にしたのですか」
スピリット「冗談で脅かしてみただけです」

博士「発砲してしまったのですか」

スピリット「彼が私から奪い取ろうとした時に爆発してしまったのです。申し訳なくて・・・彼は一切私に口をきいてくれないし、あの人達(検察側)は彼を責める一方です。彼は何もしていないのです。すべて私の愚かさが原因なのです。彼はいい人でした。その彼を私がからかってみたのです。ここはどこでしょうか」

博士「ロサンゼルスのハイランドパークです」
スピリット「私がなぜこんなところへ?」

博士「ある方が連れてきてくださったのです」
スピリット「でも私は、ハリーのところへ行くつもりでした」

博士「ハリー・ニューのことですか」
スピリット「勿論です」

博士「彼のことが気がかりでしたか」

スピリット「彼と通じ合えないものですから、なおのこと気がかりで・・・。彼がやったのではないのです。彼が私を撃ったのではないのです。私が『死んでやる』と言ってピストルを取りに行ったのです。ピストルを手にしていたのは彼ではないのです。私が彼の車の中からピストルを取ってきたのです。撃つ気なんかなかったのです。ただ冗談に脅かすつもりだったのです。ああ、なんという馬鹿なことを! 馬鹿なことを! 馬鹿なことを!」

博士「お名前は?」
スピリット「フレダーフレダ・レッサーです」

博士「ご自分がもう肉体を失っておられることはお気づきですか」

スピリット「何も知りません。ただ、母やハリー、その他誰のところへ行っても相手にしてくれないのです。本当のことを教えてあげたいのです。誰も、ただの一人も、私の言うことを聞いてくれません。訳が分からないのです。あれだけ喋っているのに、なぜ聞こえないのかが分かりません」

博士「その人達には、あなたの姿が見えていないのです。あなたはもう肉眼には見えない存在となっておられるのです」

スピリット「ああ、ハリーがかわいそう! 私の馬鹿な行為で苦しい思いをして・・・。あなたには私の気持ちは分かりません。私が何と言っても聞いてはくれないのです――誰一人として」

博士「あなたが目の前にいることが分からないのですよ。あなたの姿は人間の目には見えないのです。ここにいる私達も、あなたの姿が見えていないのです」

スピリット「なぜこの私が見えないのでしょうか。(そう言って手を握りしめながら泣く)なんて馬鹿な女でしょう、私は!」

博士「気持ちを落ち着けてください。あなたは親切な方の手引きでここへ案内され、暫くの間私の妻の身体を使って話をすることを許されたのです。その身体は一時的な借り物なのです」

スピリット「私に代わって、あなたからあの人達に、私の軽卒な行為からあんなことになった事実を伝えて頂けませんか」

博士「たとえ教えてあげても、聞き入れてくれないでしょう」
スピリット「何を教えるのですか」

博士「本人が出て来てそう述べた、ということです。ピストルが暴発した時にあなたに命中して、それであなたは肉体を失ったのだということが、まだ分かりませんか」

スピリット「ただ傷を負っただけだと思ってました。ああ、それからの苦しみの辛かったこと! 私が死んでるなんて考えられません。死ねばそれっきりのはずです。なのに私はこうして苦しんでいます」

博士「本当に死んでしまう人はおりません。みんな肉体がなくなるだけなのです。あなたの苦しみは精神的なものです」

スピリット「でも、頭がひどく痛みます」

博士「それも今の精神状態の現れです」
スピリット「ハリーはなぜ、私に話しかけられないのでしょうか」

博士「目の前にいるあなたが見えないのです。彼の目には、あなたの姿は見えていないのです」

スピリット「彼の側まで行って事情を説明しようとするのですが・・・。ああ、なんということをしてしまったのでしょう! あの時、私はピストルを手にして自殺するマネをしたのです。びっくりさせてやるつもりだけだったのです。それを見て彼は、ピストルを取り上げようとして、私ともみ合いになったのです。冗談のつもりだったのに・・・。ピストルは彼の車の中に置いてありました。それを私が取り出してきて、しばらく衣服に隠しておいたのです」

博士「彼とは結婚するつもりだったのですか」
スピリット「ええ、そのつもりでした」

博士「結婚を考える程まで愛しておられたのですね?」

スピリット「はい、一度も喧嘩をしたことはありません。私はただ脅かしてやるつもりだったのです。女って、時々馬鹿なことをするでしょ? 私は彼が本当に愛してくれているかを試してみるつもりだったのです」(泣き出す)

博士「いいですか、今あなたは私の妻の脳と身体を使っておられるのです。心を落ち着けてください。あたりを見回してごらんなさい。親切なお友達が来ているはずですよ」

スピリット「私はもう救いようがありません。どうしようもありません」

博士「ここをお出になったら、皆さんが霊界へ案内してくれますよ。今までは、苦しみの中にあって心の動揺が大きかった為に霊界が見えなかったのです」

スピリット「あの人達に本当のことを教えてあげたいのに、どうしても聞いてくれません。私の声が聞こえてないみたいですし、私の姿も見えていないみたいなのです」

博士「あなたはもう身体に束縛されない『スピリット』になっておられるのです。迎えに来てくれている方達の言うことをよく聞かないといけませんよ。霊的な悟りを得て、苦しみを克服する方法を教えてくれます」

スピリット「私の愚かさのせいなのに、あの人達はハリーを死刑にするのでしょうか」

博士「私は死刑にはならないと思っています」

スピリット「可哀想に! 可哀想に! ハリーだけでなく、お母さんにも申し訳なくて・・・二人とも泣いていますし、私の母も泣いています。なぜ、あんな馬鹿なことをしてしまったのかしら!」

博士「さ、あたりを見回してごらんなさい。誰かの姿が見えるでしょう?」

スピリット「あそこに若い女性が立っています。あの方も、ここでお世話になったそうです。私をここへ連れてきたのもあの方だそうです。私と似たような体験をされて、ここへ来て救われ、今はとても幸せなのだそうです。やはり、恋人を心配させてやるつもりで青酸カリを飲んで、そのまま死んじゃったんですって」

博士「名前を言いましたか」

スピリット「ずっと私についてくださっていたそうです。似たような苦しみをもつスピリットの世話をするのが、今のお仕事なのだそうです」

博士「悲しそうに見えますか」

スピリット「いえ、とても幸せそうです。あちらこちらを見てまわって、かつての自分と同じような状態に置かれている若い女性を見つけては、ここへ連れてくるのだそうです」(と言って泣き出す)

博士「もう、感情的になるのはお止めなさい。こうして生身の人間の身体を借りてお話が出来るということが、どんなに恵まれたことであるかを理解しないとけいません。何年も何十年も、当惑した状態のままで苦しんでいる人が多いのですよ」

スピリット「あの方も、ここで私と同じ状態だった時に、救って頂いたのだそうです」

博士「名前は何と言ってましたか」

スピリット「マリオン・ランバートだそうです。今では愚かな行為で思いも寄らなかったことになっている気の毒な女性の為に、一生懸命活躍しているそうです。それがあの方の使命で、私もあの方が連れてきてくださったのだそうです」(また泣き出す)

博士「今、あなたは他人の身体を使っているのですから、そんなに感情的になると困るのです。そこに来ておられる方は、数年前にあなたと同じ苦しみを抱えてここへ来られたのです。その方が、今は幸せそうに人助けの仕事をなさっているそうじゃないですか」

スピリット「私も幸せになれるでしょうか」

博士「なれますとも! 今の苦しみは一時のものです。人は決して『死ぬ』ことはないのです。亡くなるのは肉体だけです。スピリットは決して死なないのです」

スピリット「そんなこと、何も知りませんでした。スピリットのことなんか何も聞いたことがありませんでした」

博士「たとえ誰かからそういう話を聞かされても、あなたは笑って相手にしなかったでしょうよ」

スピリット「その方が言ってます――これから私のお世話をしてくださるのだそうです。疲れてるから少し休んだ方がいいそうです。そして、ここへ来させて頂いたことを感謝しなくてはいけない、と言ってます。あの方と一緒に行って、また泣きたくなるのでしょうか」

博士「そんなことはありませんよ。生命についての本当のことを教わるのです。地上での生活はどっちみち短いものです。その中で誰しも何らかの苦しい体験をするものです。が、そうした苦しみを体験して、少しずつ賢くなっていくのです」

スピリット「(あるスピリットをじっと見つめている様子で、顔が次第に紅潮してくる。やがて顔を左右に振って)そんな! まさか! そんなはずはないわ!」(と言って泣き出す)

博士「何が見えてるのですか」

スピリット「私はあの時にお腹に赤ちゃんがいたのですが、女の人が赤ちゃんを抱いて来て、私のものだと言うのです。もらってもいいのでしょうか」

博士「勿論、いいですとも」

スピリット「でも、あたしのような女には資格はないわ。あの人達が軽蔑するはずです」

博士「もう地上とは関係がなくなったのですよ」

スピリット「ここへ来た時よりも、ずっと幸せそうな気持ちが感じられるようになりました。あの子は、いつ、こちらへ来たのでしょうか」

博士「あなたが肉体を失った時に、その肉体から離れてこちらへ来たのです」

スピリット「どうしてそんなことが有り得るのか、理解できません」

博士「あなたの知らないことが、まだまだ沢山ありますよ。素晴らしい生命の神秘が、まだお分かりになっていませんね」

スピリット「ピストルが爆発した時に、赤ちゃんまで殺しちゃったのでしょうか」

博士「あなたの身体が死んだ時に、赤ちゃんのスピリットもその身体を離れたのです。今その身体で喋っておられても、あなたの姿は私達には見えていないのです。生命の実相というものは、すべて肉眼では見えないものなのです。音楽を見たことがありますか」

スピリット「聴いたことはあります。今とても美しい音楽が聴こえてきました」

博士「それは、生命の実相に目覚め始めた証拠ですよ」

スピリット「もう一人、白い髪をした奇麗な婦人がいらっしゃいます。当分の間、私の母親代わりになって、面倒を見てくださるのだそうです。マーシーバンドのメンバーだと言っておられます」

博士「マーシーバンドという高級霊の集団は、死というものが存在しないことを、世の人に教える為の仕事をしており、私達はそのお手伝いをしているわけです」

スピリット「とても奇麗な方です。最初に姿を見せた方とは違います。赤ちゃんを連れて来てくれた方とも違います。ケイスという名前だそうです」

博士「その方は、地上にいた時からこの仕事に熱心だった方ですよ」

スピリット「赤ちゃんを連れて来てくださった方が、その赤ちゃんの面倒を見てくださるそうです。そういう仕事を専門にしておられるのだそうです。身寄りのない子供達のお世話です。この方も、地上にいた時からスピリットと死後の世界の存在を信じていたそうです。ああ、かわいそうなのはハリーです! この私を許してくれるでしょうか」

博士「彼は事情を知ってるわけですから、許してくれますよ」

スピリット「お願いです。この方達と一緒に行かせてください。もう泣かずに済みますね? あんまり泣いたものだから、目が痛いのです」

博士「今、あなたがご覧になった方達が、生命について色々と教えてくださいます。そうすればきっと幸せになれます」

第6章 麻薬・アルコール中毒、記憶喪失症の原因となっているスピリット
第1節 ●麻薬中毒を克服したスピリットの警告
既に紹介した元映画女優のオリーブ・Tは、その後何度か招霊会に出現して、人の為に役立つことの大切さを訴えると同時に、社会に蔓延している麻薬の恐ろしさを説き、一人の中毒患者のスピリットを救ってあげてほしいと依頼した。

そのスピリットは地上でウォーレス・Rといい、よほど重症の中毒患者だったらしく、霊媒に乗り移らせても、ただうめき声を上げて身体を苦しそうによじるばかりで、何の質問をしても、まともな返事が返ってこなかった。

そこで、やむをえず、いったん霊媒から引き離してマーシーバンドに預け、一週間後にもう一度招霊した。以下が、その記録である。

1923年10月17日  スピリット=ウォーレス・R

前回同様に元気がなく、最初のうちは、喋ることさえ出来なかった。

博士「どなたでしょうか。目を覚ましてお話し願えませんか。病気のことは一切考えてはいけません。元気だった時のように話してみてください」

スピリット「(微かに聞き取れる声で)そう言われても、なかなか思うようには・・・」

博士「さ、頑張って! 話せますから」

スピリット「もう少し理解を得る為に、もう一度ここへ来たいと思っていました。前の時は何が何やら分からなくて・・・。私は暗がりの中にいます。麻薬の習慣から脱け出そうとしながら、今も暗い闇の中にいます。魂にまで習慣が染み込んでしまったらしくて・・・」

博士「以前、ここへ来たことがあるのですね?」

スピリット「あります。そんなに前のことではありません。その節は有り難うございました。でも、まだまだ力を貸して頂かねばなりません。麻薬の習慣を克服する為の力をお貸し頂きたいのです。

私は死後の生命については、知識らしい知識はありませんでした。その日その日の生活を送るだけでした。死んだらどうなるかなどということは、微塵も考えておりませんでした」

博士「もともと、そういう高度なことに興味をもつ人はきわめて少ないのです」

スピリット「また、私が麻薬中毒だった時に、色々ご援助頂いたことにも感謝申し上げます。あの時も私に悪い習慣を克服させよう、そのための力を与えよう、と努力してくださっているのを感じておりました。どこかへ引き寄せられるような力を感じておりましたが、私が精神的に衰弱していて、それを意識的に受け止めることが出来なかったのです」

博士「私達は、あなたが邪霊集団に支配されていると判断して、サークルで祈念を集中したのです」

スピリット「衰弱しきっていて、そうとは気づきませんでした」
博士「もちろん、ご本人には理解できなかったでしょう」

スピリット「私は麻薬と縁を切りたい一心でしたが、だらしない私は、邪霊のなすがままにされていました。魂にまで染み込んだ習慣を克服する方法を教えてくれる人にも巡り会えませんでした。妻が他界してからは、麻薬との闘いで力になってくれる人がいなくなり、絶望的状態となりました。妻は、心の優しい、気高い魂の持ち主でして、死後も私のそばにいて、なんとかして救おうとしてくれたようですが、私がそれに応えることが出来なかったのです。

死んで地上の環境が見えなくなると、私はしばらく、一種の睡眠状態に入りました。しかし、ああ、妻と子供達にどれだけ会いたかったことでしょう。また、どれほど麻薬との縁を断ち切りたかったことでしょう。が、それが出来ませんでした。苦しかったのです(苦痛に悶える様子)、本当に苦しかったのです。

そんな私を救ってくれるところはないものかと求めているうちに、ここへ案内されました。本当に感謝しなければなりません。強さと力とを与えてくださいました。本当は、あの時、もっともっと皆さんの善意の想念の力を頂いておくべきだったのです。

それでも、あの時以来、私はだいぶ元気になりました。まだ強さは十分ではありませんが、麻薬の習性を克服する方法を身につけました。その後霊界で見聞きしたことはまだまだ僅かですが、それでも、霊界というところが、いかに素晴らしいところであるかが分かりました。

(真剣な表情で)地上にいる女優仲間に私は、麻薬だけはお止めなさいと警告したい気持ちです。最初は遊び半分にやり、面白いと思うのですが、最後は、どんな酷い目に遭うことでしょう! 魂までも焼ける思いがするのです。習慣づいてしまった人は、今のうちに何らかの手段を講じて、その習慣を止めるように努力すべきです。地上においてだけでなく、死後もなお恐ろしい後遺症に苦しめられるのです。魂が火で焼かれるような苦しみです(手と指を神経質そうに動かしながら、苦悩の表情を見せる)

多くの人が、本当に大勢の人が、少しでもいいから麻薬を求めて地上界へ戻り、いけないと思いつつ、麻薬常習者を深みへと追いやってしまうのです。地上時代の私も、自分では欲しくないのに、それを欲しがる強い力(邪霊)が私を唆していることに何度も気づいていました。地上の人達がそうした事実を知ってくださるといいのですが・・・。

私の妻は、私と同じ悲劇の運命と死への道を辿らせない為に、今も一身を捧げております。それはそれは恐ろしいものだったのです(ウォーレスの死後、奥さんは麻薬の恐ろしさを生々しく描いた映画の主役を演じている)

ここにお集りの皆様のお陰で、私はやっと安らぎを見出すことが出来ました。前回よりずっと気分がいいんです。魂の目が開き、私にも大いなる可能性が待ち受けていることが分かりました。

それにつけても、私は、麻薬に手を出す人達になんとかして警告してあげたい気持ちです。麻薬によって悲しみを忘れ、元気を取り戻したい一心から、つい手を出します。たしかに、一時的にはそれらしい気分になります。が、それも束の間のことです。薬が切れた後、さらに悪くなります。そこでまた手を出します。が、それが切れると、また一段と悪くなります。そこで三度目の手を出します。こうして、中毒になってまいります。

ウィスキーを飲めば酔いますが、ぐっすり眠ればアルコールも切れて、しかも麻薬のような恐ろしい中毒症状は見られません。一日も早く麻薬禍を止めないと、世界中が狂うことになります。禁酒法はむしろ大きな害を生みました。人間は何らかの刺激物を求めるもので、すべてを禁じられると、その反動で、とんでもない方向へ行ってしまうものです。

ワインとかビールとかウィスキーとかは、適量であれば神経を鎮め、モルヒネのような害はありません。が、芸能界の大半はモルヒネに手を出します。ああ(苦痛にうめくように)もう一度、地上に戻って彼らに警告をしてあげることが出来たら! 私の言うことを聞いてくれたら! 麻薬の奴隷になることがどんなに恐ろしいことであるかを教えて、なんとしてでも止めるように言って聞かせるのですが・・・。死後の世界がどんなところであるかを知れば、麻薬のようなものには手を出さなくなるはずなのですが・・」

博士「地上時代に麻薬中毒になった人間の死後は、さぞ恐ろしいことでしょうね?」

スピリット「(身震いしながら)あんなところへは二度と行きたくありません。ちらっと覗いてきただけですが・・・。このサークルの方達による祈念に感謝いたします。とても力になりました。あの頃の私は大変弱っておりました。それを、霊団の方達が皆さんの祈念を頼りに、私に力をつけてくださり、さらに元気をつけさせるために睡眠状態に入らせてくださったのです。

最初私は、助けを求めて地上のどこか(心霊サークル)に行きたいと思って探したのですが、思うようにいきませんでした。その時はまだ、霊的な事情がさっぱり分からなかったのです。そのうち、前回ここへ連れて来られて、あなたから話しかけられたお陰で、元気になれたのです。その時のお礼をかねて、今はもうすっかり健康と幸せへの道を歩んでいることを申し上げたくてまいった次第です。

今更仕方のないことですが、麻薬に最初に手を出した頃に皆さんのことを知っていれば、と悔やまれてなりません。おそらく早期に克服できたことでしょう。そうした体験から私は、地上の大人、子供、若い男女に対して、麻薬だけは絶対に手を出してはいけないと警告します。こんなに恐ろしい薬はありません。今の私だったら、モルヒネで痛みを忘れるよりは、痛みに耐える方を選びます。一時的には痛みを忘れさせてくれても、そのうまい体験が傷口を大きくしていくのです。

一般の人は、中毒した時の苦しみの酷さを知らないのです。説明のしようのない酷さです。たとえ地獄で焼かれたとしても、その、神経の一本一本が体内で焼けつくような痛さには及ばないでしょう。気が狂いそうになります。体験してみないと分からない苦しみです」

博士「これからは霊界の人達が力になってくれますよ」

スピリット「既に助けを頂いております。皆さんのお陰です。今度もし来ることが許されれば、霊界での私の向上の様子についてお話が出来るものと思います。霊界の事情についてはまだ僅かしか知りませんが、これから勉強します。私は今、学校へ通っています。病院といっても良いところです。そこで誘惑に打ち勝つ為の修行をしているところです。

人間は、死ねばすべてが終わりになると考えます。しかし、こちらへ来て初めて本当の生命を実感するのです。しかも、地上時代の願望や欲求を、そのまま携えて来ています。なぜなら、それらは魂に所属したものであって、肉体にあるのではないからです。肉体はただの外衣に過ぎないのです。

私は今、学校で、実在的見地から生命についての教育を受けているところです。色々と分かってきました。これも、皆さんに助けて頂いたお陰です。暗黒の中に置かれているスピリットの為に、こうしたサークルが各地に出来ればと願っております。

妻にも会って、私を献身的に看病してくれたこと、そしてまた、同じ傷をもつ人々の為に警鐘を鳴らす仕事をしていることに礼を述べたいのですが、それが出来なくて残念です。どうかよろしく伝えてください。私がもっと元気になったら、妻のもとを訪れて、霊的な交わりを得たいと願っております」

博士「いっそうの勇気を出して、過去のことはすべて忘れて頑張ってください。マーシーバンドの人達に援助してもらってください。徐々に克服できるでしょう」

スピリット「頑張ります。どうも有り難うございました。さようなら」

第2節 ●魂の深奥まで冒す麻薬の恐ろしさ
麻薬中毒の恐ろしさは、 まさしく冷酷非情であるが、その影響力は、墓場の彼方までも、暴君的ともいうべき勢いを維持し続ける。その欲求は魂の奥深く植え付けられているので、それが満たされない地縛霊の苦悶は、言語に絶するものがあるらしい。

そうしたスピリットは、その欲求を霊的感受性の強い人間に憑依することによって間接的に満たそうとして、結果的にはその人間を麻薬常習者にしてしまう。

第3節 ●モルヒネ中毒死した女性とその夫
ロサンゼルスに隣接する都市にいる薬剤師が麻薬中毒で、しかも明らかに憑依されているので、その患者の為に祈念してほしいとの電話による依頼を受けた翌日に、モルヒネ中毒で死んだ女性のスピリットが招霊された。そのスピリットは麻薬を欲しがって悶えながら、『一粒でいいから』と必死に求めるのだった。

1923年3月21日  スピリット=エリザベス・ノーブル

スピリット「あたしに構わないで。休みたいから」

博士「十分に休まれたじゃないですか。永久に休んでいたいのですか」

スピリット「ずっと走り通しです。休んでいたのではありません」

博士「何から逃げ回っているのですか。警察ですか。(ここで霊媒が激しく咳き込み始めたので)昔のことは忘れなさい。もう過ぎ去ったのです。名前をおっしゃってください。それに、どちらから来られたのかを」

スピリット「(激しく咳き込みながら)病気なんです」

博士「病気を持ち越してはいけません。あなたはもう肉体を失ったのです。多分かなり前のことでしょう。ご自分がスピリットであることをご存知ですか。一体どうなさったのですか」

スピリット「分かりません」(と言った後、また咳き込む)

博士「よく聞きなさい。この身体はあなたのものではないのです。あなたはもう病気ではないのです。肉体から解放されたのです。自分はもう良くなったのだと思ってごらんなさい。そうしたら良くなります」

スピリット「あたしは病気なんです。あなたはご存知ないのです。あなたはどなたですか」

博士「医者です。私の言う通りにすれば良くなります。これはあなたの身体ではないのです。今は、目に見えないスピリットになっておられるのです」

スピリット「あたしは病気です」

博士「病気だという観念を抱いているだけです。この身体はあなたのものではありません。あなたは病気ではありません」

スピリット「あなたには分かりません」

博士「今あなたが置かれている状況と、身体をなくしてしまっているという事実がお分かりにならないのですね」

スピリット「あたしは病気なんです」

博士「心でそう思っているだけです。昔からの習慣に過ぎません」
スピリット「もう死にそうです。横にさせてください」(咳き込む)

博士「その身体は、ここだけの借りものなのです。あなたのものではありません。病気だったあなたの身体は、墓に埋められたのです。咳き込むのはお止めなさい」

スピリット 「埋められてはいません。これがあたしの身体です。咳が止まらないのだから、仕方ないでしょう?」

博士「どちらからおいでになりました?」

スピリット「知りません。咳を止めなさいなんて、そんなことがなぜ言えるのですか」

博士「咳をする必要がないからですよ」
スピリット「この病気のことを、まるでご存知ないからですよ」

博士「今あなたが使っている身体は、少しも病気ではありません」

スピリット「あたしは病気です。少しお薬をください。早く! 酷くならないうちに・・・」

博士「あなたは病気でいるのがお好きとみえますね。良くなりたいとは思わないのですか」

スピリット「あたしは病気なのです。寝てないといけないのです。これほど重病の女が、こんなところに座らされるなんて・・・」(咳き込む)

博士「自分は病気ではないと、強く心に思ってごらんなさい。そうしたら病気でなくなります」

スピリット「薬をください! モルヒネが欲しいのです。心臓が!」

博士「あなたは肉体を失って、今はスピリットになっているのです」

スピリット「いいから薬をください! 楽になりたいのです。15粒ほどください。咳が酷いのです。モルヒネをくださいと言っているのです。少しでいいのです。一粒だけでもいいです。腕に注射を打ってくれてもいいのです。腕が一番よく効きます」

博士「そんな馬鹿なことを言うのはお止しなさい」

スピリット「(荒々しい金切り声で)少し下さい、早く! もう我慢できません! 少しだけくださいと言っているのです。一粒でいいのです。たった一粒で・・・もうダメ!」(顔を歪め、虚空を手でひっかくような仕草をする)

博士「病気だとおっしゃいましたね?」
スピリット「病気です」

博士「それは、わがままからくる病気ですよ。今置かれている本当の事情を理解する気持ちにならないといけません」

スピリット「死なないうちにモルヒネをください! 」

博士「少し落ち着きなさい。どこから来られたのですか」

スピリット「ああ、苦しい! モルヒネを! どうか、どうか、一粒でいいですからください!」

博士「お名前は?」

スピリット「(指をワシのように曲げて、必死にもがく)お願い! 一粒でいいのです、一粒で! 」

博士「ここがカリフォルニアであることをご存知ですか」
スピリット「知りません」

博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ。どこだと思っていましたか」

スピリット「そんなこと、どうでもいいです。小さいのでもいいです、一粒だけください。どうしてもいるのです!」

博士「モルヒネのことは忘れて、何か他のことを考えなさい。もう肉体はないのですよ」

スピリット「こんなに咳が出て、心臓も悪いのです。もう死にそうです」

博士「もう肉体がなくなっているというのに、それ以上どうやって死ぬのですか」

スピリット「別の身体があっても、それも同じように病気のはずです」

博士「昔の悪い習慣を忘れなさい。そうすれば楽になるのです」

スピリット「モルヒネがいるのです。切れると大変です。(左右を叩く仕草をする)もうこれ以上我慢できません。早くください!」

博士「私の言うことを聞けば、きっと現在の身の上から救われます。高級界の方達も救いの手を差しのべてくださいます。聞く気がないのであれば、それまでです。昔の習慣を止めるのです。肉体は、もうなくなったのです」

スピリット「どうか、十五粒ほどください!」

博士「絶対にあげません。モルヒネを必要とするような肉体は、もうないのです。今こそ救われる絶好のチャンスなのですよ」

スピリット「とにかくください、モルヒネをください! モルヒネさえ頂ければ、それで良くなるのです」(もがく)

博士「大人しくしないと、追い出しますよ」

スピリット「結構です! ただ、あたしは病気なんです。モルヒネをくださいと言っているだけなのです」

博士「わがままですねぇ」

スピリット「モルヒネを求めて走り回っていたのです。なぜくださらないのですか」

博士「もういらないからです。あなたは肉体を失って、今、私の妻の身体を使っているのです。言う通りにすれば助かります。そのためにはまず、今はもうスピリットになっていることを理解しなさい」

スピリット「咳がこんなに出るんです。モルヒネが必要なのです」

博士「ずいぶん永いこと、地球圏の暗黒界にいたようですね。今は肉体はなくなっているのですよ」

スピリット「ちゃんとあります」

博士「その身体はあなたのものではないと言ってるでしょ? 理解しようとする態度を見せてくださいよ」

スピリット「そうしたいのですが、とにかく病気なものですから・・・」

博士「あなたは病気じゃありません。わがままなのです。私の言うことを聞いて、自分はもうスピリットになったのだということを理解してはどうですか」

スピリット「それはそれとしても、とにかくモルヒネが欲しいのです」

博士「モルヒネが必要だという観念を棄てるのです。病気だと思い込んでるだけなのです。今までずっと走り回っていたとおっしゃいませんでしたか」

スピリット「言いました。モルヒネが欲しくて、手当たり次第に薬局へ行ってみました。時には手に入ることもありました。が、長続きしません」

博士「それは、誰かの肉体に憑依して、間接的に得ているだけですよ。あなたには肉体はないのです」

スピリット「身体はあります」

博士「それは肉体ではありません。あなたは今、私の妻の身体を使用しているのです。高級霊の方があなたを救う為に、ここへお連れしたのです」

スピリット「あたしを救ってくれるのは、モルヒネだけです。手に入らないと思うと、とたんに病気になるのです」

博士「それはあなたが、心の中で病気だという観念を抱くからですよ。どちらから来られましたか」

スピリット「分かりません」

博士「どうだっていいといった態度ですね」
スピリット「どうでもいいです。とにかく、モルヒネが欲しいのです」

博士「今年が何年であるか、ご存知ですか」

スピリット「そんなことはどうでもいいです。欲しいのはモルヒネだけです。町中のあらゆる薬局に行ってみました」

博士「どこの町ですか」

スピリット「知りません。思い出せないのです。色々と見てまわりたかったので、同じ町に長期間はいませんでした」

博士「思い出せる最後の町はどこでしょうか」
スピリット「思い出せません」

博士「あなた自身のお名前は?」

スピリット「永いこと呼ばれたことがないので、何と呼ばれていたか分からないのです」

博士「今年が何年であるか、思い出してみてください」

スピリット「今はただ、モルヒネのことばかりで、それ以外のことは考えることも話すことも出来ません」

博士「お母さんのお名前は?」
スピリット「母の名前?」

博士「ブラウンでしたか、グリーンでしたか、ホワイトでしたか」

スピリット「そういう『色』とは関係ありません。モルヒネを一粒くだされば、何もかも思い出せると思うのですが。お医者さんならくれてもいいでしょ? 医者はすぐにくれますよ」

博士「今度ばかりは絶対にダメです」
スピリット「ならば、あなたは医者じゃない」

博士「あなたは今、私の妻の身体を使っているのです。あなたはスピリットなのですよ」

スピリット「そんなこと、どうでもいいです」

博士「これ以上真面目になれないというのであれば、見放すしかありません。昔の悪い習慣を忘れてしまいなさい。そうしたら救ってあげられるのです」

スピリット「あたしは病人なのです」

博士「結婚はしてましたか」
スピリット「はい」

博士「ご主人のお名前は?」
スピリット「フランク・ノーブル」

博士「ご主人は、あなたを何と呼んでいましたか」
スピリット「エリザベス」

博士「ご主人は、どういうお仕事をしておられましたか」
スピリット「どんなことでも」

博士「あなたの年齢は?」
スピリット「42歳です」

博士「現在の大統領は誰ですか」

スピリット「知りません。誰だっていいです。政治には関心がありません。夫は政治にカッカしてました。あたしは家事で忙しくしていました。夫はあたしのことを『ベティ』と呼んでいました」

博士「ご主人は今、どこにいらっしゃいますか」
スピリット「もう何年も会っておりません。いい人でした」

博士「お母さんは、どこにおられるのですか」
スピリット「母は死にました」

博士「あなたは、どちらから来られました?」
スピリット「あたしは、ええと・・・テキサスのエル・パソから来ました」

博士「そこでお生まれになったのですか」

スピリット「夫に聞いてください。(苦しそうに、うめき声を出す)もうダメです」

博士「もう肉体はなくなったということが、まだ分かりませんか。もうスピリットになっておられるのですよ」

スピリット「だったら、天国へ行って歌を歌うことが出来るはずです。あたしはよく教会に通っていましたから」

博士「どういう教会でしたか」
スピリット「メソジスト教会です」

博士「ご主人も一緒に行かれたのですか」

スピリット「夫はいい人でした。しばらく会っておりません。あたしを愛してくれてましたし、あたしも彼を愛しておりました。(急に金切り声になって)フランク、あなたに会いたい! フランク、フランク、助けて! ここに来てるの?」

博士「そんな声の出し方はお止めなさい」

スピリット「どうか、モルヒネを少しください。夫はすぐにくれました。お医者さんのラッセル先生も、心臓のために服用した方がいいとおっしゃってました。(わざと気取った声の出し方で)フランキー! フランキー!」

博士「なぜ、そんな呼び方をするのですか」

スピリット「食事の用意ができたら、いつもそんなふうに呼んだのです。可愛い、いい子だったわあ」

博士「ふざけるのは止めなさい! 真面目になりなさい!」

スピリット「夫を呼ぶ時は、いつも真面目ですよ。いつも夫のことを思ってます。大好きです。でも、モルヒネも好きです。あら、そこに夫が立ってる! いつ来たの、あなた! モルヒネをちょうだい!」

博士「返事をなさってますか」

スピリット「何もあげないと言ってます。あなた、よくあたしの代わりに薬局へ行ってくれたじゃないの。今度もあたしの言うことを聞いてよ。モルヒネを一回分だけちょうだい。もうこれきりにするから・・・。あたしの病気のことはよく知ってるでしょ? あたしのこと、愛してくれてるのでしょ? ね? 愛してるんだったら、少しでいいからちょうだい。また二人で幸せになれるわ」

ここでついに、エリザベスは霊媒から離されて、霊団に預けられた。そして代わって夫のフランクが出現した。

スピリット「フランク・ノーブルです。妻をここへ連れてきて救って頂こうと、私もあれこれと努力してまいりました」

博士「さぞかし辛抱がいったことでしょう」

スピリット「こうして、やっと私の手の届くところまでお導きくださって、感謝申し上げます」

博士「お役に立つことが出来て、嬉しく思っております」

スピリット「地上時代の妻は、重い病気を患っておりました。ある時、痛みを鎮める為に医者がモルヒネを与えたのが良くなくて、それ以来、薬が切れて痛みがぶり返すたびに医者を呼んで、モルヒネを投与してもらわないといけなくなってしまいました。あれは、ほんとに怖い習慣です。

モルヒネが欲しくなると、彼女は仮病を使っていました。私にはそれが分かっておりました。何度も繰り返すうちに、それがますます上手になり、実にそれらしく芝居を演じるのです。やむを得ず与えると、しばらくは元気にしているのですが、それが切れた時の発作は、それはそれはひどいものでした」

博士「どちらにお住まいでしたか」
スピリット「テキサスのエル・パソです」

博士「いつ他界されたか、ご存知ですか」

スピリット「いえ、知りません。ずっと妙な状態が続きました。地上では辛い生活を送りました。もちろん裕福ではなく、出来る仕事は何でもやって、生計を立てておりました」

博士「それは少しも恥ずかしいことではありませんよ」

スピリット「教育を受けていなかったものですから、その時その時にできる仕事をするしかなかったのです。ある時は鉱山で働き、ある時は森で仕事をし、ある時は大工もしました。家庭生活を維持するために、何でもやりました。

エリザベスも、素直でいい女房だった時期もあったのです。それが、子供を生んでから病気がちとなり、痛みを訴えるようになりました。それで、医者が痛み止めとして一度モルヒネを与えてからというもの、もっと、もっと、と求めるようになり、ついに中毒になってしまいました。手に入るまでは手に負えない状態になるのですが、服用するとケロッとして、次の発作が来るまでのしばらくは機嫌がいいのです。

が、その習慣が次第に深まっていくにつれて咳の発作を起こすようになり、結局それで死んだのです。モルヒネを服用した際に、どうしたわけか、喉に詰まって窒息してしまったのです。今夜もその死に際と同じシーンを演じておりました」

博士「私が止めなかったら、もっともっと咳き込んでいたはずですよ」

スピリット「永いこと私は妻を探したのですが、見つけて近づいても、すぐに逃げて、モルヒネを叫び求めてまわるのです。時折完全に妻を見失って、所在が突き止められないこともありました。

が、不思議でして、こちらの世界では、その人のことを強く念じると、その人のところへ行っているのです。そのうち私は、いつでも妻の所在を突き止めることが出来るようになりました。見つかってみると、地上の人間に憑依していることもありました。私を見ると、とても怖がりました。私が先に死んでいたからでしょう」

博士「あなたご自身は、他界する前から霊的なことについての知識があったのですか」

スピリット「母が霊媒でして、霊的なことは母から学んでいました。妻はメソジストなものですから、そういうものは信じようとしませんでした。スピリチュアリズムなんかを信じていると、地獄へ行くと思い込んでおりました。皆さん、今のうちに霊的な真相を知っておいてください。死後、とても楽です。信条や教義や猜疑心を抱いてはいけません。

このたびは、私どもの為のお心遣い、本当にありがとうございました。お陰さまで、妻は精神的な麻痺状態から脱することが出来れば、順調に良くなるはずです。病院に入院中にモルヒネで眠らされたのです。もうこれ以上、人様に迷惑をかけることもないでしょう。私達もようやく一緒になれます。

こうして、我々二人とお話をして頂いたことに感謝いたします。では、失礼します」

第4節 ●『死後』も酒に執着する酔っぱらい
地上で酒飲みだった者は、普通の手段では欲求が満たされないので、地上の感受性の強い人間に取り憑いて、強制的に酒を飲ませることをする。そういうスピリットの犠牲者が数多く我々のサークルに連れてこられているが、最近の例としてはV夫人のケースがある。夫人は定期的に大酒を飲みたくなる癖があり、ある時期それを止めようと努力してみたが、無駄だった。

どうしても止められなくて、ある晩ひどく酔ったまま、私のところへやってきて、治療してほしいという。電気治療を施した後、夫人を帰宅させてから、サークルのメンバーで集中祈念を行ったところ、夫人から除霊された酔っ払いが妻に乗り移った。

1923年4月4日  スピリット=ポール・ホプキンス 患者=V 夫人

博士「ここへおいでになるのは初めてでしょうか。どちらから来られました?」

スピリット「(ケンカ腰で)余計なことをしやがって! 人が一杯やっていい気分になろうとしている時に、なんで引っぱり出すんだ!」

博士「ご自分のなさってることを恥ずかしいとは思わないのですか。ご婦人に取り憑いて、その人の人生をメチャクチャにしてしまうのが、いい気分になることになるのですかね?」

スピリット「面白くない時に、他にすることがあるのか! 」

博士「その大酒の癖を治さないといけませんね」
スピリット「熱くてかなわん!」(静電気治療の影響)

博士「どちらから来られたのですか」
スピリット「何か飲ませてくれ、早く! 喉が渇いてかなわんのだ」

博士「もう飲みたいだけ飲んだじゃないですか」
スピリット「身体が燃えるように熱いんだ!」

博士「ご婦人に酒を飲ませてますね? あなたはもう『死んでいる』こと、『スピリット』になっていることをご存知でしょうか」

スピリット「分かっているのは、身体が火照るということだけだ。身体中に火を注がれたみたいだったぞ」

博士「それで良かったのです」

スピリット「あの時ばかりは、さすがの俺も逃げ出したよ。何しろ初めてだったもんな。まるでオーブンの中にいるみたいだった。最近は新しい機械が出来たんだろうな?」

博士「何の話ですか」

スピリット「火だよ、背中に注がれた・・・。喉が渇くな。ひどく渇く! 何か飲ませてくれ――ほんのちょっとでいいから」

博士「もう肉体はなくなって、スピリットになっていることが分かりませんか。何の話をしているのか分かりますか」

スピリット「分からんね。第一、あんたを知らないよ」

博士「でも、私の言ってることは分かるでしょ? あなたはスピリットなのです」

スピリット「何か飲むものをくれ!」喉が渇いてしょうがないんだ。くれと言ってるのが分からんのか! 連れてこられた時は、まだちょっとしかやってなかったんだ」

博士「いい加減おとなしくしてはどうです?」

スピリット「それが出来ないのさ。ちょっとでいい、ほんのちょっとでいいから飲ませてくれよ! 」

博士「大人しくしないと、暗闇の中に閉じ込めますよ」

スピリット「そうだ、あの薬局の旦那に、少し足りなかったと言ってくれんか。頼むよ」

博士「薬局とは、もう縁が切れたのです」
スピリット「何か飲むものが欲しいんだよ」

博士「一人の婦人を操って酒を飲ませて満足するなんて、情けないと思いませんか」

スピリット「なんとかしないと、やり切れんのだ」

博士「あのご婦人にウィスキーを飲ませておいて、それで平気なのですか」

スピリット「ご婦人? 俺は自分で飲んだのさ。女なんかに飲ませてないよ。全部俺が飲むさ。最近はあまり酒にありつけなくなったんだ。せっかく手に入れたものを、人にやるもんか。ぜんぶ一人で飲むよ」

博士「自分で飲んだつもりが、実は一人の婦人を通して飲んでいることに気がつかないのですか」

スピリット「いいから、何か飲むものをくれ、早く!」

博士「それよりも、今ご自分が置かれている事情を悟ってほしいのです」
スピリット「俺はいつもまっとうな人間のつもりだよ」

博士「ろくでなしですよ」
スピリット「とんでもない!」

博士「あなたのような人間を『役立たずのろくでなし』というのです。最近は、どんなことをしていましたか」

スピリット「しばらく仕事をしてないね」

博士「今年は何年だか知ってますか」
スピリット「そんなこと、どうだっていいよ」

博士「あなたはずっと一人のご婦人の生活を邪魔しているのです。それはあなた自身の身体ではありません。そのことが分かりませんか。これは女性の身体ですよ」

スピリット「女性の?」

博士「そうです。スカートをごらんなさい」

スピリット「スカートなんかはいてないよ。でも、時たま女になったみたいに思えたことはあったな」

博士「その女性を通してウィスキーを飲んでいたのです。恥ずかしいとは思いませんか。自分の身体をダメにしただけでは満足できずに、ご婦人まで巻き添えにしないと気が済まないのですね」

スピリット「なんで恥ずかしく思うことがあるのだ? 罪もないウィスキーを少しばかり飲んだだけさ」

博士「なんとなく具合が変だということは分かってるはずです」
スピリット「たしかに、時たま変だと思うことはあるよ」

博士「あなたがここに連れて来られて、その身体を使って話すことを許された目的は、その婦人につきまとうのはいけないことであることを悟って頂く為です。その方の名前はV ――というのですが、ご存知ですか」

スピリット「それは俺の名前じゃない。自分の名前をしばらく聞いていないんだ。時たま変だなと思うことはあるね。記憶が昔ほど良くないみたいだ」

博士「どうしてそうなったか、理由を知りたいとは思いませんか。要するにご自分の肉体はもうなくされたということですよ」

スピリット「するとこの俺はどうなってるのかな」

博士「あなたはスピリットなのです。私達には、あなたの姿は見えてないのです」

スピリット「この俺が見えない?」

博士「見えません」

スピリット「なんで見えないのだ? 俺は大柄なほうだぞ。なぜ見えんのだ? さては、お前達も一杯やってるな。だったら、俺にも一杯くれよ。一緒に仲良くやろうじゃないか。ウィスキーだと有り難いがな」

博士「一杯やれば気分はいいでしょうね」
スピリット「ウィスキーをくれたら恩にきるよ」

博士「そういうものはあげません」
スピリット「喉が渇いている人間をかわいそうとは思わんのか」

博士「あなたの好きなようにしてあげるわけにはいきません」
スピリット「なぜ、あんな熱い火をふりかけたのだ?」

博士「あなたにかけたのではありません。あの女性に電気治療を施しただけですよ。その方から頼まれたのです。それによって、あなたをその女性から追い出したのです。どうやらあなたには気に入って頂けなかったようですね」

スピリット「よくもあんな目に遭わせてくれたな!」

博士「自業自得です」
スピリット「なあ、ウィスキーを少しくれないか」

博士「いくら頼んでも無駄です。私達はあなたが置かれている事情を理解させてあげようとしているところです。あなたは、この女性の身体を使っている目に見えないスピリットなのです」

スピリット「もう一人の婦人はどうなってるんだ。なぜ、あんな女と俺と関わり合わなきゃならんのだ」

博士「その女性にあなたが取り憑いていたのです。あなたが一方的にあの方を操って好きなようにしていたのです。あの女性が悪いのではありません。あなたの方こそ悪いのです。バイブルをお読みになったことがありますか」

スピリット「バイブル?」

博士「イエスが不浄なスピリットを追い出した話をご存知ですか。あなたもその種のスピリットの一人になっておられるのです」

スピリット「(手先を見て)この指輪は俺のじゃない。何がどう間違って、人の手がひっついたのかな」

博士「その手に見覚えがありますか」

スピリット「ない。少しアルコールが過ぎたかな? でも足はふらついてないみたいだ。少し飲み過ぎたんだろう。催眠術というのがあるから、あれに引っかかったのかもしれん。いやいや、飲み方が足らんのかもしれんぞ。試しにもう少しウィスキーをくれんかな――ほんの一杯でいい」

博士「いつまでも聞き分けがないと、出て行ってもらうことになりますよ」

スピリット「追い出せるもんか。俺を負かした奴は、そう滅多にいなかったからな。ちょっとした力持ちなんだ。これ見ろ!」

博士「我々の目には、あなたの姿は全然見えないのです」

スピリット「お前達が束になってかかってきても、平気だぞ。前にもやったことがあるんだ(と言って腕まくりをする)用心しろよ」

博士「私の言ってることがなぜ分からないのですか。あなたの姿は、私達には見えてないのです」

スピリット「俺が見えない?」

博士「見えません。あなたは肉体を失ったのです。これは、あなたの身体ではありません」

スピリット「俺のじゃない? (ケンカ腰の姿勢になる)何か飲むものをもってこい!」

博士「いい加減に恥を知りなさい!」
スピリット「何が恥だ! 一杯やっただけじゃないか」

博士「まだご自分の事情が分かってないみたいですね」

スピリット「あの女に、なぜ、もう少し待つように言ってくれなかったんだ? (患者が電気治療のあとすぐに帰ったこと)逃げるように帰って行ったな。なぜだ?」

博士「もうすぐあなたも、ちゃんとした面倒を見てあげます。そして、二度と人に迷惑をかけないようにしてあげます」

スピリット「彼女はなかなか気のきく女なんだ。ウィスキーが欲しくなると、ちゃんと買ってきてくれて、飲ませてくれるんだ」

博士「もう、そういうことはなくなります」
スピリット「俺一人じゃないんだ。他にも大勢仲間がいるんだよ」

博士「みんな酒を飲みたがってましたか」
スピリット「そうさ」

博士「あなた達は、一人の女性の人生をメチャクチャにしつつあったのです。あの女性に取り憑いて、彼女に飲ませては、自分が飲んだつもりでいたのです」

スピリット「あの太った、でかい女のことかね? あの女は気だての優しい人だよ。いつでもご馳走してくれるよ。一緒に愉快にやるんだ――実に愉快にな!」(笑う)

博士「それも、もう終わりです。一人の女性の人生をぶち壊し、飲んだくれにしておいて、それで立派なことをしているとでも思ってるんですか」

スピリット「俺は酔っぱらってなんかいないよ。まっすぐ歩けるし、しかも早足でな。分別もある。あのデブちゃんと一緒に愉快に飲むのさ」

博士「あなたには羞恥心というものが全くないのですね。いいですか、あなたはもう目に見えないスピリットになっていて、肉体はなくなっているのです。今年は1923年で、ここはカリフォルニアのロサンゼルスですが、ご存知ですか。多分、何年も前に肉体をなくし、ずっと地上界をうろつき回っていたのでしょう」

スピリット「今、ここで一杯飲ませてくれないか」

博士「それが『愉快な』時ですか」
スピリット「しばらくは愉快な気分になるよ」

博士「そうやって、一人の女性の人生を破滅に追いやっていたのですよ」
スピリット「そんなことをした覚えはないね」

博士「あなたがウィスキーを欲しがると、あのご婦人に飲ませてしまっていたのです」

スピリット「そんなことはやっていない。俺は自分で飲んだのさ」

博士「そうです――あの婦人を通してね。知らばっくれるのもいい加減にしなさい。あのご婦人にウィスキーを飲むように念を送っていたのは、ちゃんと分かってるのです」

スピリット「あの人は金があるもんな。俺にはもう金はないし・・・」

博士「自分の欲求を満たす為に、そうやって人を操ってもいいのですか。あなたのお母さんはそんなことを教えたのですか」

スピリット「母はとっくの昔に死んでるよ」

博士「仮にお母さんが今も生きてるとして、もしそのお母さんが地縛霊の奴隷にされている有様を見たら、あなたはどう思うでしょうか」

スピリット「俺は、地縛霊なんかじゃない」

博士「お母さんが大勢の地縛霊に取り囲まれて、酒を飲まされているところを見てみたいですか。そんなものを見て嬉しいわけがないでしょう?」

スピリット「俺の母は、そんなことにはならないよ。俺には、あの婦人がぴったり都合がいいんだ。ウィスキーを買ってもらうだけなんだけどな」

博士「そう、そして彼女を通して、それを飲むということをやってきたのです」

スピリット「俺は自分で飲んださ」

博士「V夫人に乗り移って飲んでるのです。今その身体に乗り移っているようにです」

スピリット「俺は、誰にも乗り移ってなんかいないよ。酒を飲んでるだけさ」

博士「いい加減に目を覚ましなさい。その身体は、あなたのものではないのです」

スピリット「じゃあ、誰のだ?」

博士「私の妻のものです。妻は霊媒の体質をしていて、その身体をスピリットに貸してあげて、語らせてあげることが出来るのです」

スピリット「じゃ、俺と一緒に一杯やらないかな。あんたもどうかね?」

博士「結構です」
スピリット「俺が、みんなに奢ろう」

博士「お金はないはずですがね」
スピリット「いつも、あの婦人から貰ってるよ」

博士「あの方は、ここにはいません」

スピリット「じゃ、あんたが出しといてくれよ。俺が奢るから・・・。さあ、みんな来いよ、俺がみんなに奢ろう」

博士「その婦人は、あなたの稼いだ金で勘定を払うのですかね?」

スピリット「彼女には、お金を出してくれる男が別にいるんだよ。結構な話じゃないか」

博士「それは、あの方のご主人ですよ」
スピリット「主人?」

博士「そうです。あなたは、他人の奥さんを奴隷扱いにして、大酒飲みにしているのです。もしもその女性があなたのお母さんだったら、どうしますか」

スピリット「俺のおふくろ?」

博士「そうです。よく考えてみてください。誰かが、あなたのお母さんを大酒飲みにしていたら、それを見てあなたはどんな気がしますか。あなたの妹さんでもいいです」

スピリット「おふくろも妹も、そんなことになるほど馬鹿じゃないよ」

博士「あなたのやっていることが立派だと思いますか」

スピリット「自分では、まともな人間のつもりだがね。特に女性には優しいよ。女性は俺にとっては最高の友だ。いつも金をもっていて、気前良く使ってくれるからね」

博士「いいですか、よく聞きなさい。あなたはもう、ご自分の肉体を失っておられるのです。多分、何年も前のことでしょう。今の大統領は誰だと思いますか」

スピリット「知らんね。誰の名前も思い出せないのだ」

博士「リンカーンですか」
スピリット「いや、それはずっと前の大統領だ」

博士「クリーブランドですか」
スピリット「いいや」

博士「マッキンレーですか、それともアーサーですか」
スピリット「それもずいぶん古い大統領だな」

博士「では、ウィルソン大統領を知ってますか」
スピリット「ウィルソン? そんな名前、知らんね」

博士「ヨーロッパで大戦があったのをご存知ですか――二十三カ国が参戦しましたが・・・」

スピリット「どうでもいいよ、そんな話は。俺は酒さえあればいいんだ。喉が渇いてきたな。戦争のことで、この俺が何を心配すりゃいいんだ? 殺し合いをしたけりゃ、やらせとけばいい。俺には関係ないよ。殺し合うしか知恵がないのなら、やらせてやれよ」

博士「お母さんは、あなたのことを何と呼んでましたか」
スピリット「ポールと呼んでたな」

博士「姓は?」
スピリット「聞かなくなってずいぶんになるね」

博士「お父さんは、人から何と呼ばれてましたか」
スピリット「ジョン・ホプキンス」

博士「じゃあ、あなたはポール・ホプキンスだ。どの州で生まれましたか」

スピリット「忘れたね。いや、待てよ。そうだ、アリゾナ州のユマで生まれたんだ」

博士「ロサンゼルスには行ったことがありますか」

スピリット「あるよ、時々だけどね。大通りに結構いい酒場がいくつかあったんだが、今もあるだろうね」

博士「今はもうありません」
スピリット「どうなったのかな」

博士「全部店を閉めたのです」
スピリット「第二と第三の通りの間にあったんだが」

博士「お母さんは、今のあなたのしていることを見て、どんな思いをなさるでしょうね?」

スピリット「母は死んでるよ」

博士「お母さんのスピリットは死んでいません。こんなことになったあなたを見て、さぞ悲しまれるでしょうよ」

スピリット「俺はちっとも悪いことしてないよ。こんなに気分のいい暮らしはないね。欲しい時はいつでもウィスキーが飲めるし、飲むと気分が良くなって楽しいよ」

博士「酔っぱらってミゾに落ちている息子の姿を見て、愉快でしょうかね」

スピリット「そんな奴、見たことないね。でも、酒はいいよ! おいおい、誰だ、あれは?」(スピリットの姿が見える)

博士「どなたでしょうかね」

スピリット「ちょっと待てよ、よく見ないと・・・(そのスピリットに向かって)あんた、誰?」

博士「お母さんでしょう」

スピリット「母はずいぶん老けてたよ。この人は、俺の母のことをよく知っているそうだ。母は、真面目なクリスチャンだったから、今頃は天国の神様の玉座のそばに座っていると思うよ」

博士「イエスは、神は霊的存在であり愛であると説かれました。玉座に座っている神様なんて存在しないのです」

スピリット「では、神様はどこに座っているのですか」

博士「神とは霊的存在であり、一定の場所にいるのではないのです。大自然の大生命そのものなのです。あなたという存在も、その神の一つの表現なのです。同じ神の表現でも、あなたは何も知らずにいる愚かなスピリットであることを早く悟って、悪い酒癖を止めることです。そうすれば向上できるのです」

スピリット「その女性が言うには、私がおとなしく言うことを聞けば、ベッドで休めるそうです。たしかに、ひどく疲れたよ。本当に寝かせてくれるのだろうか」

博士「本当ですよ。そして目が覚めたら、今度こそ自分がスピリットであること、酒飲みの習慣を止めて、スピリットとしてのきちんとした生き方を心掛けないといけないことに理解がいくでしょうよ」

スピリット「あの人は、看護婦なんだそうです」

博士「我々の目には、その方の姿が見えないのです。あなたの姿も見えてないのです。あなたは、私の妻の身体を使っておられるのですよ」

スピリット「それが分からんのだな。とにかく、あのベッドに行って寝てみたいよ」

博士「人生の目的を学ばなくてはいけませんよ」

スピリット「あのベッドに横になったら、もうウィスキーはもらえなくなると言ってる」

博士「霊界での進歩の仕方を教わるでしょう」
スピリット「もうウィスキーはダメですか」

博士「ダメです」

スピリット「ま、いいや。疲れたけど、どこか嬉しい気持ちもする。これからどうするかな。私には家もないし、行くところもない。たまにはやりたいですよ、どんちゃん騒ぎを・・・」

博士「まだ分かってないようですね」

スピリット「あの人が言うには、母と一緒の家に住めるのだそうです。では、母のところへ行くことにします。こんな私でも迎え入れてくれるでしょうかね?」

博士「母の愛は、決して消えてしまうものではありません。すっかり事情に理解がいったら、これまで迷惑をかけていたご婦人に、罪滅ぼしをしないといけません。あの方を大酒飲みにしてしまったのですから」

スピリット「私がですか? そうとは知りませんでした。何か飲みたいと思っただけで、それが他人に迷惑をかけていたとは知りませんでした」

博士「あの方が私のところに来られた時は酔っぱらってましたよ。それで、私が電気で治療したのです」

スピリット「私にも応えました」

博士「あなたがその方を酔っ払いにしていたのです。彼女自身は飲みたいとは思っていないのです。酒を欲しがる衝動に抵抗しているのです。が、彼女は感受性が強くて、あなたに唆されて、飲まされてしまったのです」

スピリット「酒を止めるのは難しいです」

博士「これからその償いのために、しっかりと彼女の面倒を見てあげてくださいよ」

スピリット「とても疲れてきました。あのベッドに入りたくなりました」

博士「そのベッドに入ったつもりになってごらんなさい。それだけでそこに行けますよ」

スピリット「本当ですか。そう思うだけでいいのですか」

博士「そうです。心を十分に落ち着けて、そのベッドに入ったつもりになるのです」

スピリット「こんな男のことを忘れないでください。これでも悪い人間ではないつもりなのです。あんな火を浴びせたあなたのことも、決して憎んではいませんので・・・」

博士「あなたがご覧になっている女性の方が、これからあなたの看護をしてくださいます」

スピリット「おや、母さんだ! 母さん、許してください。こんなロクでなしになっちゃって・・・。もうこれからは、ウィスキーは飲みません。(博士に向かって)母も私の面倒を見てくれるそうです。こんな私のために、色々と親切にしてくださって、有り難うございました」

知人からの報告によるとV夫人は、この招霊会があってから性格が一変し、アルコール類を一滴も欲しがらなくなったという。その後ご本人からも、その事実を確認する礼状が届いている。

第5節 ●記憶喪失患者の憑依霊
記憶が全部消失し、自己認識も失い、見知らぬ場所を彷徨い歩いた後、ふと本来の自分に戻るが、その間の行動については何一つ覚えていないという、いわゆる記憶喪失症は、決して珍しくない。そうした症状が実は、スピリットの憑依によって惹き起こされていることを実証する例が、我々のもとには豊富にある。

その中からC・Bという名前の青年の例を紹介する。

この青年は父親と共に事業を始めたばかりの頃のある日、早朝に家を出たきり消息不明となった。両親は心当たりのところを探しまわったが、数週間経っても、ようとして行方が知れず、ついに我々のもとを訪れて、霊的な手段を講じてほしいと要請した。

そこで我々のサークルで集中的な祈念を行い、両親の元に手紙を書いて消息を告げてあげてほしいと祈った。

すると、すぐこの翌朝には、その青年は、両親のことがひどく気がかりになって手紙を書いた。

その手紙によると、彼は米国海軍に入隊していて、今サンフランシスコで戦艦に乗り組んでいる――数年は帰れない、ということだった。

両親はさっそく返事を書き送り、一日も早く除隊して帰宅してほしい――そのための手続きならどんなことでもするから、と頼んだ。ところが息子からは、今は兵役についていることに生き甲斐を感じているから、余計なことはしないでほしい、という返事が届いた。

それが、我々の二度目の集中祈念の前日だった。

そしてその当日、サークルで祈念している最中に、ジョン・エドワーズと名乗るスピリットが私の妻に乗り移って語ったいきさつによって、その青年の記憶喪失は、そのスピリットの憑依であることが判明した。以下はその招霊会の記録である。

1922年12月13日  スピリット=ジョン・エドワーズ 患者=C・B

サークルのメンバーが賛美歌[命綱を投げ与え給え]を歌っているうちに、興味深いことが起きた。スピリットが乗り移ると、霊媒がロープにつかまって左右の手で交互によじのぼっているような仕草をしたかと思うと、今度は泳いでいるような仕草をし始めた。

博士「命綱にすがりついていましたね? 漂流していたのですか。どちらからおいでになりましたか。ここは陸の上ですから泳ぐ必要はないのですよ。一体どうなさいました?」

スピリット「私の方こそ、それが知りたいのです」

博士「死んでどのくらいになりますか」

スピリット「(サークルのメンバーの方へ顔を向けて)この人(博士)は私を死人呼ばわりしてる!」死んでなんかいませんよ――生きているというほどの実感もないけどね・・・」

博士「どちらから来られましたか?」
スピリット「大勢の人達に連れてこられました」

博士「それは誰ですか」
スピリット「大勢の人達です」

博士「私の目には、その方達の姿が見えないのですが・・・」

スピリット「なぜこんなところへ来なきゃいけないのか分かりません。海に出てる方がいいのですが・・・」

博士「以前にも航海されたことがあるのですか」
スピリット「ええ」

博士「なぜ海がいいのですか。よく航海されるのですか」
スピリット「ずいぶん船に乗りました」

博士「陸上にはいたくないのですか」

スピリット「陸に上がった魚にはなりたくないのでね。今回もまた出かけようとしていたら、あなた達が引き戻したのです。あの人達も、なぜ私を陸へ引き上げたのでしょうね?」

博士「あなたは海で溺れ死んだのでしょう?」
スピリット「もしそうだとしたら、どうしてここにいられるのですか」

博士「スピリットとしてなら来られます」
スピリット「それは『魂』のことですか」

博士「そうです」
スピリット「だったら、その魂は神のもとに行ってるはずです」

博士「神はどこにいるのですか」

スピリット「ご存知ないのでしたら、日曜学校へでも通われてはいかがですか」

博士「通いましたよ。でも、答は得られませんでした」
スピリット「通われた教会がまずかったのでしょう」

博士「どの教会へ行くべきだったのでしょうか」

スピリット「いろんな教派があります。みんな同じではありません。でも、神についてはどの教会でも教えてくれるはずです」

博士「あなたが通われた教会は何といいましたか」

スピリット「私にとっては、一人きりになれるところが教会です。教会そのものにはあまり通っておりません。どの教派にも属しておりません。海へ出れば教会へは行けません。兵役につくのですから・・・」

博士「どこの教会が一番気に入りましたか」

スピリット「どこもみな似たようなものです。形式が違うだけです。どれも一つの神のもとで、死後のこと、天国と地獄のこと、そしてキリストが我々の身代わりとして罪を背負って死んでくれたことなどを説いております。だから、どこの教会に所属しても同じことだという考えです。すべてが神を賛美しているのですから、同じことです」

博士「リベラル派だったのですね」

スピリット「それもどうですかね。自分がどういう種類の人間だか、自分でも分かりません。私は私なりの宗教をもっていました。ですが、艦長への体裁もあって、時折は教会へ出席せざるを得なかったのです」

博士「何という軍艦に乗り組んでいたのですか」
スピリット「いろんなのに乗り組みました」

博士「水兵だったのですか」
スピリット「海軍に所属していました」

博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「何月であるかも分からんのです」

博士「何年であるかが分かりませんか」
スピリット「分かりませんね」

博士「1922年では?」
スピリット「いや、それは違うでしょう」

博士「じゃ、何年でしょうか」
スピリット「1912年でしょう」

博士「どこを航海していたのですか」
スピリット「戦艦『シンシナティ』に乗り組んだことがあります」

博士「どこへ向けて航海していたのですか」
スピリット「太平洋沿岸を航行していたこともあります」

博士「パナマ運河を通過したことは?」

スピリット「ありません。一度だけ近くまで行ったことはありますが、通ったことはありません」

博士「艦上では何をしてました?」
スピリット「何でも、やるべきことをやってました」

博士「何歳でしたか」
スピリット「どうも思い出せなくて・・・」

博士「それで、また海へ戻りたいとおっしゃるのですか」

スピリット「ええ、陸にはいたくないのです。私は、陸の人間ではないみたいで・・・。海の生活もなかなかいいものですよ。自分の役目さえ果たしておれば、きちんと食事は出してもらえるし、気苦労もないしね」

博士「役目はたくさんあるのですか」

スピリット「それはもう、甲板磨きをはじめとして、いつも何かすることがあります。艦長は部下がぼけっとしているのを見るのが嫌なのです。他にすることがない時でも、『磨く』という仕事があるのです。階段、機械、器具――すべて磨かないといけないのです。だから、いつもピカピカ光ってました。大きな船でした」

博士「戦艦に乗り組んでいたのですね」
スピリット「いろんな種類の戦艦にね」

博士「実戦にも出ましたか」
スピリット「いや、戦闘行為はしていません。キューバ戦争は戦争というほどのものではなく、フィリッピン戦争の方がもう少し戦争らしかったです」

博士「あなたは、それに参加したのですか」

スピリット「湾の中までは入りませんでした。戦艦の全部が湾に入ったわけではありません。まわりで監視をする戦艦も必要なわけです。全艦隊が湾の中に入ってしまえば、袋のネズミになってしまいます。何隻かはまわりから見張る必要があるわけです」

博士「あなたのお名前は?」

スピリット「私の名前? しばらく呼ばれたことがないので忘れました。呼び名はジョンです」

博士「ジョン・何とおっしゃいましたか」
スピリット「ジョン・エドワーズ」

博士「太平洋沿岸での勤務もありましたか」

スピリット「ありました。どちらかというと東海岸の方が多かったですが・・・」

博士「艦を下りてから除隊になったのですか」
スピリット「(ゆっくりとした口調で)艦を下りてから?」

博士「艦を下りたんじゃなかったのですか。それとも何かの事故にでも遭いましたか」

スピリット「分かりません」

博士「病気になりましたか」
スピリット「知りません」

博士「マニラ湾が最後でしたか」
スピリット「いえ、それはだいぶ前のことです」

博士「その後どこで勤務しましたか」
スピリット「マニラ湾で勤務したのは、ずいぶん若い頃のことです」

博士「1898年のはずです。海上勤務に出てどれくらい経っていましたか」
スピリット「知りません。1912年という年までは覚えています」

博士「その年に、あなたの身の上に何か起きたのでしょうか。病気にでもなったのでは?」

スピリット「頭がこんがらがってきました。たしか――はっきりとは思い出せないのですが――艦にペンキを塗っていたと思うのです。どこだったかは知りません。ドックの中ではありません。艦の外側に足場を組んで、その上に乗って塗っていました」

博士「その時、何かが起きたのでしょう?」

スピリット「頭が変になったのです。多分、持病のめまいの発作が起きたのだと思います。頭の中で泳いでいるみたいな感じがしたのです」

博士「艦にペンキを塗っていたとおっしゃいましたね?」
スピリット「汚れを落としたり修理したりしていました」

博士「ドックの中にいたのですか」

スピリット「何が起きたのかは知りませんが、気がついたら海の中にいました」

博士「足場から落ちたのですよ」
スピリット「それは知りませんが、とにかく、じきに回復しましたよ」

博士「多分、その時にあなたは肉体を失ってスピリットになられたのです」
スピリット「スピリットになった? どういう意味ですか」

博士「肉体をなくしてしまったということです。今のあなたは、ここにいる私達には見えていないのですよ」

スピリット「でも、これから海へ出かけようとしていたところですよ。もっとも、自分の半分が水兵で、もう半分が誰か別の水兵に教えてやってるみたいでした(患者に憑依していることからくる錯覚)。その水兵には潮風の香りが漂っていました。水兵には、一種特有の雰囲気があるのです。陸にいると、なんだか自分のいるべきところではないみたいな感じがしてきます。海に出ると、母のふところに抱かれたような気持ちがします。揺られているうちに眠りに落ちるのです。いいものですよ」

博士「艦から海へ落ちた時に、あなたは亡くなられたのです。そして、それ以来ずっとスピリットとして生きてこられたのです。その身体はあなたのものではありません。手をごらんなさい」

スピリット「(霊媒の両手を見て)これは私の手じゃない! (笑いながら)違う、絶対に違う! 私の手はごつかったですよ。この手はロープを引っ張ったことのない手だ。変ですね――私がこんな手をしてるとは」(と言って愉快そうに笑う)

博士「ドレスも着ておられますね。髪も長いですね。これが水兵の足ですか」

スピリット「私のではありません。あ、そうだ、分かった! だいぶ前のことですが、船で各地を転々としたことがありました。私は、戦艦にばかり乗っていたわけではありません。父が船長だったものですから、私はいつも海に出ていたのです。ニューヨークからインドあたりをよく航行しました」

博士「帆船で、ですね」

スピリット「そうです。父は、私がまだ子供の頃に、まず帆船から乗り始めました。それから普通の大型船をもち、カルカッタ、ニューヨーク、イギリスの間を往き来していました」

博士「商船だったのですね?」

スピリット「そうです。品物をどっさり積んでました。オーストラリアへ行ったこともあります。綿花と羊毛を商っていました。が、私は大きくなってから、国家の仕事がやりたくなり、それで海軍に入ったのです。そのことを父は、とても不愉快に思ったようです。しかし、お前は生まれながらの海の男なんだな、と言ってくれるようになりました。海の上に産み落とされたようなものです。

陸の上のことは知りません。読み書きを教えてくれたのは母親で、それが私の教育のすべてでした。家族揃って、いつも海の上で生活していました。母親はよくできた女でした」

博士「そのお母さんは、もう亡くなられましたか」

スピリット「もう生きていません。父親も死んでいます。両方とも数年前に亡くなりました。そうだ、こんなことを話そうとしていたのではなかったっけ・・・」

博士「その手とドレスの話をなさってたんです・・・」

スピリット「なんで私が、女性の手でドレスを着ているのか分かりません。そのことで思い当たることを話そうとしているうちに話がそれてしまいました。

あれは、たしか私が十九か二十歳の時で、家族でカルカッタにいました。その町で、ある時セオソフィーの集会があり、ふらっと中に入りました。みんな生まれ変わり(輪廻転生)を信じている人ばかりで、話を聞いていると、つい信じたくなるほどでした。

このスカートも、その生まれ変わりというやつですかね? さっきあなたは私のことを『死んだ』と言いました。となると、生まれ変わり以外に説明のしようがないでしょう? つまり、私は女に生まれ変わったということです」

博士「それも、ある意味では生まれ変わりと言って良いかも知れませんね。死ぬと肉体を離れて、スピリットになるのです」

スピリット「ブラバツキー女史(注1)の話によると、死者はみんなデバカン(注2)へ行くことになっているのだそうです。ブラバツキーは演説のとても上手な人でした。私は子供だったのですが、子供の頃に頭に入ったものは、なかなか忘れないものですね。父は、そんなものは信じてはいけない、頭がおかしくなるぞ、などと言っていたけど、私は、知らないよりましだよ、いいこと言ってると思うな、救い主の話の方が間違ってるよ、などと、いっぱしのことを言って、我ながらでかくなったような気がしたものです。私は女に生まれ変わって戻ってきたということでしょう。本当は水兵になりたかったのですが・・・」

(注1 セオソフィーの創始者)
(注2 死後、次の再生まで滞在する場所のことで、古代インド思想から摂り入れたセオソフィー独自の説)


博士「あなたは今、ほんの一時だけ、女性の身体を借りているのです」

スピリット「ということは、一時だけ女になってるということだ!」(声を出して笑う)

博士「あなたは、スピリットなのです。多分、1912年からスピリットになっておられるはずです。今年は1922年なのです。ということは、あなたが肉体を離れて十年になるということです」

スピリット「私が死んだということが、どうして分かるのですか」

博士「1912年が、あなたが思い出せる最後の年だとおっしゃったでしょう?」

スピリット「それで、そう判断するわけですか。すると、私は、これまでデバカンにいたわけですか。なるほど、たしかに私は生まれ変わったわけですね?」

博士「あなたはやはり、さっきおっしゃった時に亡くなられたのです。以来ずっとスピリットになっているのに、そのことに気づいていらっしゃらないのです」

スピリット「それで何もかも忘れてしまったというわけ?」

博士「とにかく今夜はこのことに気づいて頂く為に、ここへお連れしたのです。ここにいる私達は、心霊現象と憑依現象を研究している者達です。スピリットの中には、地上の人間に取り憑いて異常な行動をさせる者がいるのです。

あなたは今、私の妻の身体を使って喋っておられます。一時的にお貸ししているのです。私達には、あなたの本当の姿は見えていないのです。喋っておられる声が聞こえているだけです」

スピリット「じゃあ、ほんとに女性の身体に宿っているわけだ。あなた方をからかっていることになる」

博士「私の妻は、身体がスピリットに使い易いように出来上がっているのです。『霊媒』と呼ばれている人間のことを聞いたことがありますか」

スピリット「あります。運勢を占ってもらいに行ったことがあります。霊媒の口を使って喋るのはインディアンばかりでしたよ」

博士「インディアンというのは、『門番』として優れた才能をもっているのです。霊媒にとっては、大切な保護者なのです」

スピリット「私は、何の為にここへ来ているのでしょう?」

博士「事実を悟って頂くためです。あなたは、無意識のうちに、人間に間違ったことをしておられたのです。ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ」

スピリット「私も、サンフランシスコにいたことがあるのは確かです。その後、永いこと行っておりません。1894年のことです」

博士「実を言うとあなたは、一人の青年に取り憑いて、両親の知らないうちに家出をさせて、しかも海軍の水兵として入隊させたのです」

スピリット「彼には、そんな勝手なことをする権利はないでしょう」

博士「彼には他にちゃんとした仕事があったのです。それが、どうやら『自分』を失ってしまって、いつの間にか海軍に入隊していたのです。今は、サンフランシスコにいます。これには間違いなく、スピリットが関わっている証拠があるのです。そしてそのスピリットとは、他ならぬあなたであると私は見ているのです」

スピリット「冗談じゃありません。私がそんなことをするわけがありません。ある朝目が覚めたら、どういうわけか陸にいるので、海へ戻りたいと思っただけですよ」

博士「あなたは、死んだあと当てもなく漂っているうちに、霊的影響を受け易いその青年とコンタクトが出来ちゃったのです。そして、その磁気オーラの中に入り込んで、彼がやりたいと思っていないことをやらせてしまったのです。最近、あなたはもう一度海に出たくて、海軍への入隊手続きをしませんでしたか」

スピリット「ある朝、目が覚めて海へ戻りたいと思ったようですが、それから道に迷ったみたいです」

博士「自分で自分が思うようにならないことはありませんでしたか」

スピリット「変な感じはしていました。どこか夢の中にいるみたいでもありました。言っときますが、私は何も悪いことをする考えはありませんでしたよ」

博士「あなたの置かれている立場はよく理解しております。あなたが善良な人間であることも知っております。ですから、私達はあなたを責めているのではないのです」

スピリット「その青年というのは誰ですか」

博士「名前はB――です。十七歳の青年です」

スピリット「入隊の時は二十一歳だと言ってました。そうしないと兵役につけませんから」

博士「身体が大きいので、年齢よりは上に見えるのです。私達のサークルで彼に集中祈念をしたのです。多分、それであなたをここへ引き寄せたのでしょう」

スピリット「誰かに引っ張られるような感じがして、それから海中にいるような感じがしました。思い出しました――ニューヨークでしたが、たしかその辺りを航行していた時のことです。その日はひどい嵐で、海上は氷りついていました。私は何かをしている最中に、風に飛ばされて海中へ落ちたのです。まわりは氷だらけでした。そこから先のことは覚えていません。それにしても、その青年の中へ入り込むといっても、どういう具合にでしょう?」

博士「その青年のオーラの中に入り込んだのです」

スピリット「あれ? 母親がやってきました! ずいぶん永いこと会っていません。たしかニューヨークで死んだはずです。永いこと、この私を探したと言ってます。そんこなとは知りませんでした。でも、死んだあと、なぜ私は、母親のところへ行かなかったのでしょうか」

博士「大抵の人は、死後しばらく睡眠状態に入るのです」

スピリット「そうか、私はデバカンにいたのだ! 生まれ変わる為にそこで眠っていたのだ! 」

博士「さ、そろそろお母さんと一緒に行かなくてはいけません。お母さんが、いいお家へ連れていってくれますよ」

スピリット「父と母のところへまいります」

博士「お父さんは、死後のことはよく理解しておられるのですね?」

スピリット「母が言うには、少し手こずったけど、今は理解しているそうです。はじめ父は『救い主』に会いたかったそうです。私はあんな話は信じていませんでした。私にはセオソフィーが一番理にかなっているように思えます。血でもって罪をあがなうなどということは説きません。一人の人間が他の人間の為に殺されるなどという考えは信じられませんもの。もし私が間違ったことをすれば、私自身がその戒めを受けるべきではないでしょうか。神は愛なのであり、その神が、他を救う為に一人の人間に死んでもらうことを望むはずはありません。まったく馬鹿げた話です。教会の人は、ユダヤ人を嫌いますが、イエスはユダヤ人だったのですけどねえ」

博士「さ、そろそろお父さんとお母さんについて行かないと――」

スピリット「今、私は大勢の人達の中にいます。とても気持ちがいいです。いい夜でした――こうして素晴らしい人達と話を交わし、しばし楽しい時を過ごすことが出来ました。あなたは、私達の姿は見えないとおっしゃるけど、今ここに大勢の人達が集まってますよ。

母が、もう行かなくては、と言ってます。皆さんに別れを告げなくてはなりません(と言って立ち上がろうとするが、立てない)。あれ、私の脚はどうしたのでしょう? 立てませんが・・・」

博士「私の妻の上半身だけを使っているからですよ」

スピリット「では、私は半分だけ男で、半分は女ってわけだ! (愉快そうに笑う)。ますますまずいな! さて、母と一緒に行かなくては」

博士「心の中で思う練習をしなくてはいけませんね」

スピリット「『心の中で思う』ですって! 私が今までものを考えたことがないみたいですね。(と言ってから笑い出して)これは失礼。でも、変なことを言われても、すぐに冗談のように思えるようになりました」

博士「別に失礼じゃありません。これからは『心の中で念じる』だけでそこへ行けるようになるのです」

スピリット「脚で歩くのではなくて、ですか。もう脚は不要になるわけですか」

博士「あ母さんと一緒になった、と心に念じるのです。すると、お母さんのところへ行ってます」

スピリット「母と一緒になったつもりになる――すると母のところへ行く? ではまいります。でも、皆さん方は愉快な人ばかりで、いつかもう一度ここへまいりたいですね。いいでしょ? そうそう、例の青年には、もしも私が本当に迷惑をかけていたのなら、申し訳なく思っていることを伝えて頂けますか」

博士「今度はその青年の為にいいことをしてあげては? 出来ますよ」
スピリット「いいことをしてあげる? どうやってですか」

博士「家に帰りたい気持ちにさせるのです。その要領はお母さんが教えてくれますよ」

スピリット「母が、あなたが私を見つけてくださったお礼を言いなさい、と言ってます。でも、その母が見つけた私が女性の身体の中にいるなんて! でも、事実そうなんだから仕方ないですね。では、まいります。さようなら」

その翌日からC・Bの態度が一変した。すぐに両親に手紙を書き送り、家に帰って仕事を続けたいから、除隊できるように取り計らってほしいと依頼した。さらに付け加えて、なぜ海軍なんかに入隊したのか、自分でも分からない――よほどボケッとしていたみたいです、と述べてあった。

除隊には少し手間取ったが無事自宅に帰り、完全に元の本人に戻ったのだった。

第7章 慢性病の原因となっているスピリット
第1節 ●除霊で背骨痛から解放された女性
憑依が原因となっている慢性的病弱の特異なタイプのひとつに、背骨の痛みに何年も苦しんでいるG夫人の例がある。どの医者に診てもらっても一向に良くならなかった。

我々のもとを尋ねて来られて何度か治療を施すうちに、背骨と首の骨を損傷して死んだスピリットが除霊された霊媒に乗り移った。

霊団の説明によると、そのスピリットはG夫人がまだ子供の頃にオーラに紛れ込み、神経系統に絡まってしまい、死んだ時の損傷がそのまま続いていると思う想念が、G夫人にも移っていたのだという。

除霊後、G夫人は痛みからすっかり解放されている。

1923年7月4日  スピリット=ジェームズ・ホクセン 患者=G夫人

霊媒に乗り移った時の様子は麻痺状態にあるような感じで、頭が肩の方へ垂れていた。最初のうち話すことが出来ず、首のところを指差しながら、とても痛むかのようにうめき声をあげていた。

招霊会に同席していたG夫妻は、真剣な表情で見守っている。

博士「苦しんでいた時の癖はお止めなさい。痛みを忘れるのです。(そう言ってから霊媒の手先と腕を動かしてみせて)ほら、腕は固くないでしょう? 首と骨をまっすぐ伸ばしてごらんなさい。もう麻痺してませんよ。

いいですか、あなたは肉体を失ったのです。もうスピリットになっておられて、地上をうろつきまわり、人様に迷惑をかけていらっしゃるのです。お名前をおっしゃって頂けませんか」

スピリット「(G夫人を見つけて)ああ、いた!」(と言って両手を差し出してG夫人のところへ行こうとする)

G夫人「だめ、私のところへ戻ってはだめ! 来ないで!」
スピリット「ああ!」(と泣きながら、G夫人のところへ行こうとする)

博士「これ以上の身勝手は許されません。助けに来てくださってる高級霊の方の言うことを聞かないといけません。楽になるにはその病気のことを忘れるしかありません。うめいたり泣いたりしても救われません」

G夫人「この方はお医者さんです。治してくださいますよ」

博士「さあ、話してごらんなさい」
スピリット「もう、あの火はごめんです」

博士「いつまでもそんな状態だと、またお見舞いしますよ」
スピリット「もういいです。(もがきながら)ああ、あの火はもういい!」

博士「よく聞きなさい。だいぶ前に何かが起きたはずなのですが、何だったのか、覚えていませんか」

G夫人「さ、先生に答えて」

博士「現在の本当の状態を理解することです。あなたは多分、かなり前に死んだのです」

スピリット「ああ、背中が! 背中が!」

博士「背中がどうしたのですか」
スピリット「砕けたのです」

博士「どうして?」
スピリット「馬から落ちて」

博士「どこにお住まいでしたか」

スピリット「思い出せません。死んだようにも思えたことがありますが、今は死んでる気はしません。落馬して背骨と頭と首がバラバラになってしまって・・・。頭が背骨から外れてしまいそうなのです」

(G夫人は、年中そういう感じがすると訴えていた)

博士「落馬したのは、いつのことですか」

スピリット「分かりません。ここのところを打ったのです」(と言って首の左側に手をもっていく)

博士「そのことを忘れるのです。そんな感じを持ち続ける必要は、もうないのです。今あなたが使っている身体は、健康体です。あなたの姿が私達には見えていないことは、ご存知ですか」

スピリット「あの火はもう結構です。首にひどくこたえました」

博士「あなたに出て頂く為に必要だったのです。なぜ、あのご婦人につきまとうのですか」

スピリット「首が、首が、そして頭が!痛くて我慢できません」

博士「その苦しみは、どれくらい続いているのですか」
スピリット「もう、何年も――ずいぶん昔からです」

G夫人「落馬したのは、大人になってからですか、それとも、子供の時でしたか」

スピリット「ずいぶん前に痛めたのですが、まだ痛みます」

G夫人「どこでの話ですか。カリフォルニアですか」

スピリット「いえ、もっともっと遠いところです。でも、地名が出てきません」

博士「ずっとさかのぼってごらんなさい。記憶が戻りますよ」
G夫人「イリノイ州? それともアイオワ州?」

スピリット「今、目を覚ましたばかりですので、少し待ってくださらないと。首がひどく痛みます。それに頭も。首が折れたのです。頭が背骨から外れてしまって・・・」

G夫人「あなたには、もう、物質でできた頭はないのですよ」
スピリット「だったらなぜ、あの火が頭のてっぺんに来るんですか!」

G夫人「あれで、あなたは、救われるのです」
スピリット「火ですよ! 火ですよ!」

G夫人「首は少しも痛くはないはずですよ」
スピリット「痛むんです、それが!」

博士「いえ、痛むはずはありません」

スピリット「私は麻痺してしまったのです。脊髄をやられたのです。動けないのです。ああ、首が動かない。折れてしまった!」

博士「折れた首は、もう墓に埋められましたと言ってるのが分かりませんか。あなたには、もう肉体はないのです。その身体は、本物の肉体ですよ。ですが、それは、いつまでもお貸しするわけにはいかないのです」

スピリット「あなたは、私の身体がどれほど痛いかが分かってないのです」

博士「あなたが、そう思い込んでいるから痛むのです。墓に埋められたものがなぜ痛むのですか」

スピリット「墓に埋められているというのは、どうして分かるのですか」

博士「それはあなたの身体ではないからです」
スピリット「私の身体が墓に埋められているという証拠でもあるのですか」

博士「あなたというご本人がここにいらっしゃるということが、何よりの証拠です。あなたが今喋っている身体は、あなたのものではないのです」

スピリット「どうして、そんなことが言えるのですか」

博士「あなたには、理解しようという気持ちが欠けています。独りよがりなのです。本当は事実に気づいていますね?」

スピリット「教会にもよく通いましたし、イエス・キリストのこともよく知っています」

G夫人「どういう教会でしたか」
スピリット「メノー派教会です」(G夫人はメノー派教徒として育てられた)

G夫人「どこにありましたか」

スピリット「カンザスです。昔の話ですけどね」(G夫人は何年か、カンザスに住んでいた)

G夫人「何という町ですか」
スピリット「Nー」

G夫人「あなたのお名前は?」
スピリット「忘れてしまいました。首が痛みます」

G氏「町に住んでたのですか」
スピリット「いえ、農業地帯です」

G氏「お名前は?」
スピリット「あったのでしょうが、しばらく呼ばれたことがないので・・・」

G氏「馬から落ちた時の様子は?」

スピリット「丘を登って行く途中で、兎が飛び出して来て、それに驚いた馬が急に走り出したのです。手綱をしっかり握っていなかったものですから」

G氏「乗馬は、あまり得意でなかったのですね?」
スピリット「鞍をつけてなかったのです。しがみつこうとしても――」

G氏「乗馬用じゃなかったようですね」
スピリット「私は雇用人でしたから」

G氏「年齢はいくつでしたか」
スピリット「十六か七だったと思います」

G夫人「お母さんは、あなたのことを何と呼んでいましたか」
スピリット「知りません」

博士「メイベルと呼んでたんじゃないですか」

スピリット「男の子をメイベルなんて呼びませんよ。肩と背骨が折れてるんです。首も何年もの間ずっと折れたままです」

博士「肉体はもうなくしたということを、しっかりと理解しないといけません。名前は何とおっしゃいましたか」

スピリット「ジェームズです」

博士「ただジェームズだけだったのですか。(手を指差して)これ、あなたの手ですか」

スピリット「違います。指輪なんかしたことはありません」

博士「その手は、一時的に使っておられるだけです。あなたのものではありません。私の妻のものなのです」

スピリット「自分の手が小さくなったように思ってました。そうそう、名前はジェームズ・ホクセンでした」

博士「あなたは、落馬した際に亡くなられたのですよ」
スピリット「頭が落ちてきそうだ!」

博士「落ちたら拾ってあげますよ。あなたはスピリットになっているのに、何も知らずにあのご婦人に迷惑をかけていたのです」

スピリット「スピリットって何ですか」

博士「それをこれからお話しようと思っていたのです――あなたは・・・ええっと――」

スピリット「ジェームズです」

博士「私の目には妻の身体しか見えてないものですから・・・お疑いなら、ここにいる人達のどの方でもいいですから、聞いてみてくてださい」

スピリット「頼るのなら、あなたの奥さんより他にいます」

博士「誰ですか」

スピリット「(G夫人の方を指差して)あの方のところへ戻りたい。あなたがいい」

G夫人「私のところへ戻ってきてはいけません。霊界へ行くのです」
スピリット「それは、どこにあるのですか」

博士「地球を取り巻いている、目に見えない世界です」
スピリット「(気取った言い方で)イエス・キリストに会いたいものですねえ」

博士「なんですか、そのものの言い方は」
スピリット「いけませんか。それより、首を治してくださいよ」

博士「今、あなたが置かれている実情を素直に理解すれば治るのです。あなたはスピリットになっていることを知らずに、一人の女性に迷惑をかけてきたのです。それで『火』を使ってその方の身体から追い出して、今、私の妻の身体を使って話をさせてあげているのです。あなた自身には、もう、肉体はないのです。今、あなたがいるスピリットの世界についての正しい知識を身につけないといけません」

G氏「私の名前をご存知ですか。お知り合いにG――という名前の人はいませんでしたか」

スピリット「いましたが、遠いところに住んでおりました」

G氏「K――という名前の人は?」(G夫人の結婚前の名)
スピリット「別の町にいました」

G氏「落馬したところは、あなたの生まれ故郷ですか」
スピリット「私が生まれたのは、ずっと田舎です」

G氏「今年は何年だと思いますか」
スピリット「知りません」

博士「大統領の名前は何と言いますか」

スピリット「政治のことは新聞をあまり読まなかったので知りません。農場で雑用ばかりやっておりました。それも、ずいぶん昔のことです。このところ『火』をかけられなくなりました」

博士「『火』を浴びせたのは、この私です。あれは電気なのです」

スピリット「いや、火でした。電気じゃない。電気だったらビリビリきますよ」

博士「それがあなたには『火』を浴びたように感じられたのです」

スピリット「何も悪いことをしてないのに、なんであんなひどい目に遭わせるのですか!」

博士「あなたは、あのご婦人を永いこと苦しめていたのです。あなたのせいで、自分の思うような生活が出来なかったのです。それで私が『火』を浴びせて、あの人の身体から出て頂いたのです。あたりをご覧になってみてください。どなたかの姿が見えるはずですよ」

スピリット「いっぱい来ています。(急に興奮して泣き出しながら)母さん! ああ、母さん! 」

博士「あなたのことを心配して、助けに来られたのですよ」

スピリット「ああ、母さん、なぜあんなに早く死んじゃったの? 僕はまだ子供だったのに・・・あれから何もかもムチャクチャになって、僕は一人で生活費を稼がないといけなくなったんだ」

博士「お母さんは、何かおっしゃってますか」

スピリット「『ジミー、一体どこへ行ってたの?』と言ってます。ずいぶん探したんだけど、見つからなかったのだそうです」

博士「それは、あなたがG夫人の身体の中に入っていたからですよ。それがあの方に大変な迷惑をかけていたのです。さ、お母さんとお行きなさい」

スピリット「母と会うのは久しぶりです」

博士「今年は1923年ですよ」
スピリット「まさか! 」

博士「1923年7月4日です。そして、ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」

スピリット「1893年ですよ、絶対に!」

博士「それは三十年前の話です」

スピリット「でも、事故に遭ったのは1896年です。それから何年も不自由な身体で過ごしましたけど、記憶にあるのは1896年です」

博士「二十七年前の話ですね」

スピリット「その永い年月をどうやって過ごしてきたのでしょう? 私は眠り続けていたのでしょうか」

博士「眠っておられた時期もありますが、大半は地上の人間に迷惑をかけていたわけです」

スピリット「ずいぶん永い間、何かの中に閉じ込められていた感じです(G夫人のオーラ)。ある時期(落馬して死亡した直後)眠りに入っていくような感じがして、死ぬのかなと思っていましたところ、どこかに閉じ込められてから少し様子が変わりました。ドレスを着ていて、なんとなく女になったみたいに感じていましたが、何しろ首をやられていて、その首が今にも落ちそうな気がして・・・」

博士「G夫人のオーラの中に入り込んでいたのです。肉体はなくなったのに、首が折れたという観念を抱き続けていただけです。肉体は墓に埋められたのです」

スピリット「でも、今でも首が痛みます」

博士「それは、首が折れたという観念が残っているからです。『人は心に思ったとおりになる』というではありませんか。折れた首のことが心から離れないから、痛むような気がするのです。その身体は首は折れていませんよ。私の妻の身体ですから」

スピリット「あなたの奥さんの? 今、どこにおられるのですか」

博士「眠っています。その足をご覧なさい。あなたの足だと思いますか」
スピリット「女性の足ですね」

博士「一時だけお貸ししているのです。さ、お母さんと一緒に行きなさい」
スピリット「母さん、連れてってくれますか」

博士「何とおっしゃってますか」

スピリット「連れてってあげるけど、その前に、あのご婦人に許しを請わないといけないと言ってます。でも、どうやってこの身体から出るのだろう? 永いこと閉じ込められていて、体力も衰えちゃって・・・ねえ、母さん、来て手を貸してちょうだいよ。これからは言うことを聞きますから」

博士「そのうち何もかも事情がはっきりしますよ」
スピリット「死んでいくみたいな感じです」

博士「一時的な感覚です。身体から離れる前には死んでいくみたいな感じがしますが、それは、その身体のコントロールを失いつつある証拠です。死んだりなんかしません。死のうにも死ねないのです。死んでしまった人は一人もいません。スピリットは永遠に死ねないのです」

スピリット「健康な身体になれるのでしょうか」

博士「なれますとも。首が折れたことや痛みのことは忘れることです」

スピリット「では、母とまいります。奥さん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

G夫人「もういいのですよ、ジェームズ。過ぎたことは忘れてください」

博士「高級霊の方達が色々と教えてくださいますから、素直に聞くのですよ。さ、お母さんとマーシーバンドの方達と一緒になったつもりになってごらんなさい」

スピリット「さようなら」

第8章 孤児のまま他界したスピリット
第1節 ●家族を知らないまま他界したケース
地上時代に家族というものを知らないまま他界したスピリットがよく出現しているが、知識欲が旺盛なせいか、新しい生活環境に馴染むのが早いようである。

1921年5月25日  スピリット=ミニー・オン・ザ・ステップ(女の子)

博士「どこから来たんですか?」
スピリット「知りません」

博士「今まで、どこで何をしてたんですか?」
スピリット「それも分かりません」

博士「分からないでは済まないでしょ? 自分が今どこにいるのか、どこから来たのかも分からないの?」

スピリット「分かりません」

博士「死んで、どれくらいになるの?」
スピリット「死んで? 知りません、なんにも・・・」

博士「誰か『あなたはもう死んだのよ』と言った人はいませんか?」

スピリット「いません。あたし、あっちこっちを歩き回って、人に話しかけてるの」

博士「誰にですか?」

スピリット「手当たりしだい誰にでも。なのに、どういうわけか、誰もあたしの方を向いてくれないの。時々大勢の人の中に入り込んで、今度こそ全部の人をあたしのものにしたいと思ったり、壇の上に上がって『一体このあたしはどうなってるの?』って、大声で聞いてみるんだけど、みんな知らん顔をしているの。あたしだって一人前のつもりなのに・・・。だあれも相手にしてくれないの」

博士「そうなる前のことを思い出せる?」
スピリット「そうなる前? 一人前だったわ。今は多分『除け者』なのね」

博士「『一人前だった』頃は、どこに住んでたの?」

スピリット「ずっと同じ場所よ。そのうち退屈しちゃって、横になって眠り続けたの。眠った後また出かけるんだけど、同じ場所をぐるぐる歩き回るだけで、少しも遠くへ行かないの」

博士「誰かついて来なかった?」

スピリット「目に入るのは、全部あたしを除け者にしている人達ばっかりよ。誰もあたしの方を向いてくれないし、心配もしてくれない。時々惨めな気持ちになったけど、また平気になるの」

博士「お母さんは?」

スピリット「知らないわ。お腹が空くことがあるけど、たまらなくなったら、誰でもいいからおねだりするの。貰えることもあるし、貰えないこともある。どこかの家の台所に上手く入れたら、食べるものを見つけて思い切り食べるの。食べ終わったら、また出歩くの」

博士「どこを?」
スピリット「どこでも」

博士「食べるものが手に入った時は、誰か他の人間になったみたいな感じがしない?」

スピリット「お腹が空く、だから何か食べるものを探すの」

博士「どこへ探しに行くの?」

スピリット「それが、とっても変なの。代金はいつも誰か他の人が払ってくれて、あたしは一円も払わない・・・本当に変なの。何を食べても代金を払ったことがありません。時々、あたしの欲しいものが出ないことがあるけど、仕方なしに頂くの。時々、ひどいものを食べさせられて気分が悪くなることがあります。出されたものが気に入らなくて、しかめっ面をすることもあります。思い切って食べる時と、ほんの少ししか食べないことがあります。それに、男になったり女になったりします(完全に憑依した時のこと)

自分がどうなってるのか、わけが分からなくなることがあります。どうしてこんなに変になっちゃったんでしょう? 自分にも分かりません。人から話しかけてもらいたくて、歩き回って手当たり次第に話しかけるんだけど、誰も相手にしてくれなくて、ただ自分の声が聞こえるだけなの。たまには話し合ってる人の中に入り込んで、しゃがみ込んで、そして・・・ああ、分からない! 半分だけが自分になったみたい――誰か他の人になったみたいになります」

博士「年齢はいくつ?」
スピリット「年齢? 知りません」

博士「自分の年齢が分からないの?」
スピリット「この前の誕生日の時は、十九歳だった」

博士「お父さんやお母さん、あるいはお姉さんはいるの?」
スピリット「いません」

博士「両親はどこに住んでたの?」
スピリット「父さんも母さんも知りません」

博士「あなた自身はどこに住んでたの?」

スピリット「父さんや母さんが今でも生きてるのかどうか、どこにいるのか、あたしは何も知りません。一度も会ったことがないの」

博士「どこかの施設にいたわけね?」
スピリット「あたしはホームで育ったの。大勢のお友達と一緒に」

博士「仲良しがたくさんいたのね?」
スピリット「いっぱい、いました」

博士「そこはどこだったの?」

スピリット「よく知りません。何か変なの。どうなってるんでしょう? とても変なの」

博士「きっとそうだろうね」

スピリット「人から話しかけられたのは、今日が初めてなの。あの美しい歌(交霊会を始める前にみんなで歌う歌)を聞いていると、知らない間にここに来ていました。あたしは浜辺の向こう岸へ行きたいと思って、どこだろうと思って見つめていたところでした」

博士「私達がそこへ連れてってあげますよ」

スピリット「気がついたら話せるようになってたの(霊媒に乗り移らされた)。これまでずいぶん永いこと、一人もあたしに話しかけてくれた人はいなかったわ――これだけは本当よ。あたしから話しかけると、いつも他の誰かが返事をするの。あたしは何も返事をすることがなくなったみたいだった。だって何を喋っても、誰も聞いてくれないんだもの。本当に変なの。あんな変なことってないわ。みんながあんまり意地悪だから、働いていた家から逃げ出しちゃったの」

博士「みんながどんなことをしたの? ムチでぶったりしたの?」

スピリット「そんなんじゃない。ある家で家事の手伝いをしてたの。お腹が空いたからです。もちろん期待されたほど上手に仕事は出来なかったけど、そこへ女の人がやってきて、あたしをホームから連れ出すと言ったの。あたしはそのままホームにいたかったのに・・・。だって、ホームでは差別されないもの。もちろん辛いことはあるけど、一日中、叱られ通しより、マシよ。嫌なことも色々あるけど、楽しいこともあったわ。

あたしを連れ出した女の人が最初に言ったのは、朝から晩まで聖書を読みなさいということでした。あたしはうんざりしちゃって、バイブルが大嫌いになっちゃった。お祈りもしなくちゃならないでしょ? 膝が痛くなって歩けないほどだったわ。

だって一日中ひざまずいて、バイブルを読むこととお祈りの繰り返しでしょ。動く時も立ち上がっちゃいけないの。膝で歩きなさいと言われたわ。それはみんな、あたしを救う為にさせてるんだって言ってたわ。それまでのあたしは本当の『良い子』ではなかったんですって。言う通りにしないと、とっても熱いところ(地獄)へ連れて行かれるんですって。ホームでもお祈りはしたけど、保母さんはとってもいい人だったわ。よくお祈りをして、神様を信じてました。

その女の人に連れ出された時は十四歳でした。悲しかったわ。何を頂くにも、働いて働いて・・・すると、あたしが言われた通りにしてないと言って、叱られ通しなの。つまり、お祈りとバイブルを読むことね。そんなことをしても何にもならないから、しなかったの。だって、ひざまずかないといけないでしょ。膝が痛くてたまらないから、その人の言うことが耳に入らないの。たまらなくなって転ぶと、もう大変なの。あたしの髪を引っ張って起き上がらせるの。そのくせ自分は膝にクッションを置いてるのよ。それなら何時間でも平気だわ。あたしのことをいつも罪深い女だって言ってた。すぐに疲れるからだって。

長い時間ひざまずいていられなかったら、罪深い人間になるのかしら? あたしはよく分からないけど、そんなことをいつも真剣に考えたわ――これ、内緒だけど、こんなにお祈りを聞かされたら、神様の方が退屈するんじゃないかと思ったの(小さな声で言う)。疲れてウトウトすると、また髪の毛を引っ張って、ほっぺを叩くの。あの人は神様にお祈りをするくせに、していることは悪いことばっかりよ。言う通りにしてないと、悪魔に連れて行かれると言ってたけど、あたしは時々、この人の方が悪魔だと、本当にそう思ったわ。

ひざまずいたままウトウトすると、すぐあたしの側にやってきて『神様、この悩みから私を救ってください。ああ、神様、私は心からあなたを愛しております』なんて言うの。いつも真っ先に自分のことをお祈りして、それからお嬢さん、お母さん、弟、お父さん、そしてお友達の順にお祈りして、最後に『ミニーのために』って、あたしのことを祈ってくれたわ。

誰もあたしの本当の名前を知らないの。あたしは、お父さんの名前もお母さんの名前も知りません。みんなが言うには、あたしは上がり段の上(オン・ザ・ステップ)に置かれてたんだって。それであたしのことをミニー・オン・ザ・ステップなんて呼んだのね。そんな呼び方をされるのは、とっても嫌だったわ。上がり段の上で見つけたんですって。そして『ミニー』という呼び名を付けたの」

博士「あのね、あなたはもう肉体を失って、今はスピリットになっているのだよ」

スピリット「それ、何の話? あたしは女の子よ」

博士「今まであなたは、スピリットになってウロウロしてたんですよ」
スピリット「どういうこと?」

博士「あなたには、もう肉体はなくなったということです」

スピリット「死んだわけ? あたしは、もうずいぶん永いこと皿洗いをしてないし、髪の毛を引っ張られたこともないわ。あの人があんまり意地悪だから、あたし、あの家から逃げ出したの。遠くへ遠くへと逃げて、食べるものがないものだから、お腹がペコペコになっちゃった。お金もないし・・・」

博士「それからどうなったの?」

スピリット「どんどん遠くへ行くうちに道に迷ってしまい、お腹が空いてるものだから寝てしまいました。目が覚めるとあたりは真っ暗で、森の中にいました。ふと、あの人に見つかったら大変と思って、森の中を走ったり歩いたりしながら、どんどん進みました。それから、どこかで食べ物を貰わなくちゃと思ったけど、最初に見つけた家へは入りませんでした。お腹がペコペコのまま昼も夜も歩き続けたけど、大きな樹木と森以外は何もありませんでした。そうしているうちに寝てしまい、それきりその日のことは覚えていません(ここで死亡)

目が覚めると、身体が楽になっていたので、さらに歩き続けて町へ向かいました。ずいぶん歩いて大勢の人達がいるところへやってきたけど、誰もあたしの方へ目を向けてくれなかった。お腹はペコペコでした。

それで、女の人がレストランに入るのを見つけて、その後をつけて入りました。一緒にごちそうを食べようとしたんだけど、その人が全部食べちゃって、あたしはホンのちょっぴりしか貰えなかった。その人はずっとあたしには知らん顔をしていました。レストランを出た後、また歩き続けているうちに、また誰かがレストランに入るのを見かけました。今度は何人かの人と一緒でした。一緒に頂いたけど、代金はみんなその人達が払ってくれました」

博士「『あたし』は、一体どうなったんだと思う?」
スピリット「分かりません」

博士「あなたは、誰かの肉体に取り憑いてたんですよ。スピリットとなって地上の誰かにつきまとっていて、その人の肉体を通して空腹を満たそうとしたんです。多分、あなたは森の中で肉体から離れたのです」

スピリット「あたし、とっても喉が渇いてました。食べるものはなんとか口に出来たけど、食べる度に喉が渇いていって、もう、バケツ一杯でも飲めそうだったわ」

博士「肉体を捨てたことに気づかずに、肉体の感覚だけが精神に残ってたのね」

スピリット「そうかしら? 死んだのはいつのこと? あたしのこと、よく知ってるんでしょ? ここへはどうやって来たのかしら?」

博士「私の目には、あなたの姿は見えてないのですよ」
スピリット「あたしの両親も見えないのですか?」

博士「見えません」
スピリット「あたしは?」

博士「見えません」
スピリット「あたし、どうなっちゃったのかしら?」

博士「あなたのことは、肉眼では見えないのです」
スピリット「あたしの喋ってる声は聞こえるのでしょ?」

博士「それは聞こえます」
スピリット「声は聞こえても姿は見えないんですか」

博士「あなたは今、自分の口で喋っているのではないのです」
スピリット「ほんと?」

博士「手を見てご覧なさい。それ、あなたの手ですか」
スピリット「いいえ」

博士「ドレスはどう?」
スピリット「こんなの、一度も着たことがありません」

博士「あなたは他の人の身体を使っているのです」
スピリット「どこかの団体から頂いたんだわ。指輪もしてる!」

博士「その指輪はあなたのものではありません。手もあなたの手ではありあません」

スピリット「また眠くなってきちゃった」

博士「その身体を使うことを特別に許されたのです」
スピリット「あら! あそこを見て!」

博士「何が見えるのですか」
スピリット「よく分からないけど、女の人がいます。泣いてます」(母親)

博士「誰なのか、尋ねてごらんなさい」
スピリット「(驚いた様子で)あら、まあ、ウソ!」

博士「何て言ってますか」

スピリット「あたしは、その方の子供なんですって。あたしを置き去りにしたことを後悔してるんだと思うわ。でも、ホントにあたしのお母さんかしら? 『まあ、私の愛しい子!』なんて言ってるわ。今日まで必死であたしを探し続けてきたんだけど、手がかりがなくてどうしようもなかったんですって」

博士「今はもう、お二人ともスピリットになってるんです。高級界の素晴らしいスピリットがお迎えに来てくださってますよ」

スピリット「その方は真面目に生きていたのに、男に騙されたと言ってます。教会に通っているうちに、男が結婚しようと言い寄ってきて、お腹に子供が出来ると、どこかへ姿を消しちゃったんですって。あたしを産んでから身体を壊して、あたしをホームの上り段に置き去りにし、それから不幸続きで、とうとう病気で死んじゃったんですって」

博士「お母さんに言っておあげなさい。お母さんもあなたと同じように、今はもうスピリットになったのよって。素晴らしいスピリットが、あなた達を救いに来てくださってますよ」

スピリット「母さん! おいでよ! 許してあげるわ、母さん。もう泣かないで。これまでのあたしには母親がいなかったけど、今日からは母さんがいるわ。あたしをずいぶん探したって言ってるわ。それで誰かが、あたし達二人をここで会わせてくれたんですって。『きっと見つかりますよ』って言われてやってきたと言ってます。ほんとに見つかったのね。嬉し泣きしてもいいかしら? 泣きたくなっちゃった。だって、あたしにも母さんが出来たんですもの」

博士「霊界でお二人の家がもてますよ」

スピリット「あたしの名前はグラディスというんですって。母さんの名前はクララ・ワッツマンですって」

博士「どこに住んでたんだろう?」
スピリット「セント・ルイスですって」

博士「霊界へ案内してくれる方が、ここへ来てくれてますよ」

スピリット「あれは何? まあ、インディアンの少女がやってくるわ。素敵な女の子よ」

博士「そのスピリットが、お二人に色々と素敵なことを教えてくれますよ」

スピリット「あら、母さん、そんな年寄りみたいな姿は嫌だわ! さっきは若かったのに」

博士「すぐに若くなりますよ。悲しんでる心の状態がそんな姿に見せているのです」

スピリット「あのインディアンの少女――シルバー・スターと言うんだけど――母さんに手を当てがって『若いと思いなさい。そうすれば若くなります』と教えています。あっ、本当に若くなったわ! 若くなったわ! じゃあ、あたし、母さんと一緒に行きます。忘れないで、私の名前はグラディスよ。ミニー・オン・ザ・ステップより素敵だわ。あたし達は、天国の神様のところへ行くのかしら?」

博士「霊界へ行くのです。そこへ行ったら、もっともっと素晴らしいことを学びますよ」

スピリット「シルバー・スターが『神はスピリットです。神は愛です。神はどこにでもいらっしゃいます』と言ってます。そして、博士に感謝しなくてはいけないって。ドクター・何でしたっけ?」

博士「ドクター・ウィックランドです。今、あなたは、私の妻の身体を使ってるんですよ」

スピリット「母さんは今は若くて奇麗です。若いと思ったら若くなるんですって。シルバー・スターがそう言ってます。いつかまた、ここへ戻ってきていいかしら?」

博士「大歓迎ですよ」

スピリット「あたしはもうミニー・オン・ザ・ステップじゃないことよ。グラディス・ワッツマンと覚えてね。皆さん、有り難う。これであたしも一人前になれたわ。ちゃんと名前がついて・・・。やっぱりいいな。あたしの『おじさま』になってくれないかしら?」

博士「そうだね」

スピリット「あたしのわがままを聞いてくださって、有り難う。さようなら」

第2節 ●霊界の浮浪者・アンナ
このミニー・オン・ザ・ステップは、その後、自分と同じような境遇の『霊界の浮浪者』のことに熱心な関心を寄せるようになり、大勢のスピリットをこのサークルへ連れてくるようになった。次の例はその最初のスピリットで、ほぼ一ヶ月半後のことである。

1921年7月13日  スピリット=アンナ・メアリ

博士「こんばんは。ここにいる人の中に知ってる人がいますか」

スピリット「ここに来たら食べるものが貰えるって、ある人が教えてくれたの」

博士「あなたに必要なのは霊的な栄養です」
スピリット「それ、食べられるの?」

博士「食べられないけど、あなたの精神に必要なのです」

スピリット「精神の為か何か知らないけど、あたしが今欲しいのは、お腹の為のものです。もう永いこと何も食べてません。でも、変ね。あなたが話しかけてくれた時から、お腹が空かなくなっちゃった。さっきまですごく空いてたのに、今は空いていない」

博士「さっきまで、何をしてたの?」

スピリット「別に何も・・・何もすることがなくて、うんざりしてるの。することがないのは退屈よ。何かしたいわ。何もすることがないとイライラしちゃう。どうしていいのか分からない。あっちこっちと、どこへでも行きたいと思ったらすぐに行けるんだけど、着いたらまた、どこか他のところへ行きたくなるの。何かすることがないかと思い続けて、もう嫌になっちゃった。いつもよその方が良さそうに思えて、行ってみたくなるんだけど・・・」

博士「名前は何ていうの?」

スピリット「みんなメアリと呼んでいるけど、本当はアンナ・メアリよ。メアリって呼ぶ人もいるし、アンナって呼ぶ人もいる」

博士「お父さんとお母さんは、どこに住んでたの?」
スピリット「父さんも母さんも、知りません」

博士「年齢はいくつ?」
スピリット「知りません」

博士「カリフォルニアに行ったことがある?」

スピリット「あるわけないでしょ、あんな遠いとこ。一度も行ったことがありません。行けるほどのお金もなかったし・・・。あたしのいたところは夏は暑いし、冬は寒かったわ」

博士「ここへはどうやって来たの?」
スピリット「ほんと、ほんと、どうやって来たのかしらね?」

博士「誰かが連れてきてくれたのでしょ?」
スピリット「ミニー・オン・ザ・ステップ」

博士「今、そこに来てるの?」
スピリット「ええ」

博士「同じところに住んでたの?」
スピリット「そう」

博士「ミニーと似た境遇だったの?」

スピリット「あの子は、とてもいい子だったわ。あたしもあそこから逃げ出しちゃったの。世の中が見たかったし、同じところにいるのが嫌で・・・。

子供がたくさんいるホームにいて、そこにミニーもいました。そこがあたし達の家だったの。すごく働かされたわ――磨いたり水を運んだり。あんまり疲れるから逃げ出しちゃった。みんな、あたしのことを馬鹿だ馬鹿だって言うし・・・。あたしは少しも馬鹿だなんて思ってないわ」

博士「あなたをここへ連れて来たのはミニーなのか、ちょっと聞いてみてちょうだい」

スピリット「そうだと言ってます。あたしを探してくれたんですって。今はちゃんと自分の家をもってると言ってます。

(驚いた目つきで)うわぁ、すごい! あんな素敵な家、見たことないわ! 見て、あの家! ミニーの家よ。奇麗! 自分の家だって言ってるわ。驚いちゃったなあ」

博士「どうやって手に入れたのか聞いてみてちょうだい」

スピリット「(ミニーに向かって)どうやって手に入れたの? あなた(博士)や、あなた達(サークルのメンバーを一人一人指差して)のお陰だって。あの家はホームにいたお友達みんなのものなんだって。探し当てた人をみんな、あの家に連れてくるんだそうです。

あの子、幸せそうだわ。あたしのことなんか思ってくれる人は一人もいなかった。だって、あの子の方があたしよりまだマシだったんだもの。でも、ほんとに素敵な家だわ! 」

博士「何が原因で死んだの?」

スピリット「あたし、死んでなんかいないわ。あたしの声が聞こえないの? あら、メアリ・ブルームがいるわ。それにチャーリーも! あたし、チャーリーは嫌いよ。自惚れちゃってさ。あたしをずいぶんいじめたわ。いつも他の男の子と一緒になって、あたしを追っかけまわしたの。あたしのことを馬みたいに思って・・・いつも髪の毛を引っ張ったわ。あたしのことを『クシャクシャあたま』って呼ぶの。我慢できなくなって思い切り怒ると、みんなびっくりして逃げて、今度はあたしを追っかけるの。

メアリ・ブルームは、いつもあたしと一緒に床磨きをしたのよ。メアリが、もうしなくても良くなった、と言ってる。ミニーの家にいるんだって。妹のエスターも一緒だって。ミニーが言ってるわ――素直に言うことを聞いたら面倒をみてあげるって。素敵な家をもらって、仕事もさせてくれるんだって」

博士「お母さんの名前を知ってる?」

スピリット「母さんが奇麗な人だってことは、よく聞いてたわ。美しい家に住んでたことは覚えてるけど、あたしのことは嫌いだったみたい――あたしがお馬鹿さんだから・・・」

博士「あなたのことを恥みたいに思ったのかな?」

スピリット「ちっとも可愛がってくれなかった。とっても奇麗な人だったそうだけど・・・」

博士「ミニーと一緒に行きたい?」

スピリット「ミニーはすっかりレディよ。昔とすっかり変わっちゃったわ。美しくなって」

博士「何か言ってる?」

スピリット「あたしが、もうスピリットの世界にいることを理解しないといけないと言ってます。あら、あの美しい女の人を見て!」

博士「何て言ってますか」

スピリット「霊界の孤児の世話をする施設をもってるんですって。神様についてのお話をなさるそうです。美しい方よ、本当に美しい方! 奇麗な金髪! 銀に近いかしら? 笑顔が太陽みたい。こんなことを言ってます――『私についてらっしゃい。地上では幸せでなかったけど、私と一緒に暮らして幸せになりましょう。同じような身の上の子供を大勢集めて、本当の人生のお話をしてあげます』って」

博士「その方の名前を聞いてみてくれない?」

スピリット「アビー・ジャドソンだそうです。(そのスピリットに向かって)ねえ、あなたはあたしのことを『お馬鹿さん』なんて言わないわね? あたしのお母さんになってくださる? 『母さん』と呼んでもいいかしら? あたしは母さんがいなかったの。一度でいいからあたしを抱っこしてくれない? お母さんてどんなものか、感じてみたいの。口づけもしてくださる? ねえ、お願い。お母さんの口づけがどんなものか、あたし知らないの。

その方が言ってます――『ええ、いいわ、あなたのお母さんになってあげましょうね。面倒を見てあげますよ。美しいスピリットの世界で一緒の家をもちましょうね』って。

わあ、口づけしてくれたわ! 素敵な方よ! ねえ、もっと優しくして! 嬉しいわ! あたしも幸せになれたわ。だってお母さんができたんだもの! あたしも、一生懸命良い子になるわ。神様にお祈りしたから、お母さんをくださったんだわ」

博士「さ、これであなたもスピリットの世界へ行くのですよ。その世界では、幸せであることが天国なのです。天国とは心の持ち方一つなのです」

スピリット「もう行かなくてはいけないとおっしゃってます」

博士「その方のことは、私もよく知ってますよ。大勢のスピリットをここへ連れてきてくださってる方です。地上では先生をしておられたのです」

スピリット「とても奇麗な家に住んでいらっしゃるそうです。でも、地上の家とは違って、神様へのお祈りの仕方を教わるところなんですって」

博士「その方の側に行ったつもりになってごらんなさい。すると、その身体から離れますよ」

スピリット「ブルームとミニーが、あなたに感謝しなくてはいけないって、私に言ってます。新しい母さんはあたしのことを恥さらしだと思わないかしら? あたし、字も読めないの。勉強する暇がなかったんですもの。あの大きなホームで、女の人に預けられてから、ずっと働かされ通しだったわ。それで病気になって、咳ばかりしてたの。それでも休ませてくれなかった。どんどん病気が酷くなって、それから先のことは何も覚えていません(死んだ)。

あたしを救ってくださって、ありがとう。さようなら」

第3節 ●スピリットが少女を算数嫌いに導いた
少女のR・Gは、霊的影響を受け易い子で、たびたび憑依霊に苦しめられていたので、招霊によって治療することになった。この後紹介する実験が行われる前の何週間かは、特に反抗的態度を見せ、算数をひどく嫌い、また、なぜかショッピングに行くんだと言い張ってすねた態度を見せていた。母親は、スピリットが憑依していることを知って、何回か冷水を浴びせたらしいが、それが、結構、効果があったらしいことが窺われる。

1922年8月2日  患者=R・G スピリット=リリー

霊媒に乗り移ると激しく足を踏み鳴らし、子供の声で怒って叫ぶように、こう言った。

スピリット「嫌だあ、さわっちゃダメ! 嫌だ、嫌だあ! あたしに触らないで! あんたなんか嫌い! あたしに火をつけたのはあなたでしょ! あたし、それが怖い! 」

博士「名前を教えてちょうだい」
スピリット「知らないわ」

博士「どこから来たの? どこからか来たに違いないんだけど、食事代はちゃんと払ってるのかな?」

スピリット「払ってないけど、食べるものは手に入ります。お金は持っていません」

博士「名前は何ていうの?」
スピリット「だから言ったでしょ、知らないって」

博士「お母さんは、あなたのことをジムと呼んでいましたか」

スピリット「あたしは、男の子じゃないわ! 見て分からないの? 背中に火をつけるのは、もう止めて! あれは嫌、絶対嫌! 」(足を踏み鳴らす)

博士「いつも、こんなにお行儀が悪いのかな?」

スピリット「なぜ、あたしをあそこから連れて来たのよ? もう行くところがなくなったじゃない! さんざん火をつけて私を追い払ったわね! (足を踏み鳴らす)あたしはあの子と一緒にいたいのよ(R・Gのこと)。あの子はあたしのものよ!」

博士「なぜ、あの子をそんなに苦しめるのかな? あの子はあなたのものではありませんよ。親戚の人でもないのですよ」

スピリット「(泣きながら)あの子が要るの!」

博士「どこから来たの? もう死んでしまったことが分からないのかな?」

スピリット「あたしはあの子と一緒にいたいの。(泣きながら)あの子が要るのよお、あの子が要るのよお。あたしを追い出したのはあなたね! あなただったのね! いじわる!」(足を踏み鳴らす)

博士「追い出してあげて良かったと思ってるんです。あの子と一緒でないといけない理由はないでしょ?」

スピリット「あたしには家がないの」

博士「自分が、今はもうスピリットになっているのが分かりませんか? ここにいる人達には、あなたの姿は見えてないのですよ」

スピリット「あの自動車に乗るのが楽しかったわ。あんな楽しい時もあったのね」

博士「もう自動車なんかに乗らなくてもよろしい。スピリットの世界へ行くんですから・・・」

スピリット「(R・Gに向かって)あんたなんか大嫌い! 何もかもあんたのせいよ。いじわる! あたしは自動車に乗りたいのよ。あんなお店になんか行きたくなかったのに、あんたが連れて行ったから迷子になったんじゃない! いい迷惑だわ!」

博士「あなたも人に迷惑をかけてるんです。少しわがままが過ぎますね」
スピリット「あなたは、あたしの背中に火をつけたわ」

博士「言うことを聞かないと、また火をつけますよ」
スピリット「女の子に火をつけたりして、恥ずかしいと思わないの!?」

博士「あなたはそうでもしないと、ダメだったのです」

スピリット「まだ背中がヒリヒリするわ。(R・Gに向かって)あんたってひどい人ね! 水に潜らせたりして(水をかけられたこと)。ひどいじゃない! あたしは水が苦手なんだから・・・。それに、お店の中を連れ回したりして・・・」

博士「今日限りで、あの子には迷惑をかけなくなります。名前は何ていうの?」

スピリット「リリーよ。あたし、ホワイト・リリーよ」(『白ユリ』という意味の奇麗な名前であることを自慢している様子)

博士「わがままばかり言っちゃダメですよ。そんなことだと、あの世へ行ってからお家が見つかりませんよ」

G夫人「私の子供を見つけたのはどこ?」

スピリット「この子を見つけた時からお友達になったの。楽しかったわ。遊び道具がたくさんあったし・・・」

博士「リリーちゃんには、もう肉体はなくなってるということを分かってくれないかな。ここはカリフォルニアだけど、そのことは知ってる?」

スピリット「何も知らない」

博士「お父さんは何をしてたの?」
スピリット「お父さんのことは何も知らない」

博士「お母さんは、どこにいるの?」

スピリット「知りません。あたしをぶったから家を飛び出しちゃった。あんまりひどいから逃げ出したの。大きな建物で、いじわるばかりがいたわ。だから、あたしもいじわるになっちゃった。いじめてばかりいるんだもの。とうとう腹が立って、喧嘩になって、それで飛び出しちゃった」

博士「飛び出してからどこへ行ったの?」

スピリット「逃げているうちに転んだんだけど、それから後が分からないの(死んだ)。時々、ちっちゃな子供になったみたいに思えることがあるの(Rに憑依)。だけど、あたしはちっちゃくなんかないのよ。十一歳か十二歳くらいになったかと思うと、今度は、そうね、五歳くらいの子供になったみたいに思えるの」

博士「そんなちっちゃい子供になったみたいに思えた時は、みんなから何て呼ばれたの?」

スピリット「『R』と呼んでたけど、あたしはRじゃないわ。逃げる途中で転んだ後、しばらく真っ暗なところにいて、それから突然歩けるようになって、それであの子(R)と遊んだの」

博士「何かの事故に遭って死んだんですよ。その時にリリーちゃんは肉体を失って、今はスピリットになってるんです。ここにいる人達には、あなたの姿は見えてないのですよ」

スピリット「あたしには、あなたの姿は見えないわ!」

博士「口のへらない子ですねえ」

スピリット「あんたこそ、おせっかい焼きのくせして! あたしは、まだちっちゃいんだから、わがまま言わせてよ。その手を放してよ!」

博士「私が握っているのは、あなたの手ではありません。私の奥さんの手なんです」

スピリット「あんたなんか、大嫌い!」

博士「あなたは今、私の奥さんの身体を使っているのです。ですが、少しの間だけですよ。あなたは、何も知らずにあの女の子につきまとってるものだから、無理矢理離してその身体に宿らせたのです」

スピリット「あの子はあたしのものよ」

博士「よく聞きなさい。言うことを聞かないと、いつまで経っても住む家がありませんよ。あなたのことをよく知っている霊界の方達が、あなたをここへ連れて来て、私の奥さんの身体に宿らせて、こうして、あなたを救ってあげようとしているのです。

霊界というところは、素晴らしいところです。そこへ、その方達が案内してくださいます。地上をうろつき回っても見つからない本当の幸せが見つかります。そのためには、そのプリプリする癖を直さないといけません」

スピリット「その人達は、あたしにいじわるしないかしら? どこへ行ってもいじめられどおしなの。男の子が大勢であたしを虐めるものだから、シャクにさわって喧嘩になっちゃったの」

博士「さあ、可愛いインディアンのシルバー・スターの後について行きなさい。これまでで最高の友達になってくれますよ。昔のことはこれっきり忘れることです。みっともないマネをしてはいけませんよ。これからはいい人ばかりで、いじわるする人なんか一人もいませんよ」

スピリット「ずいぶんムチで打たれたわ」

博士「これからは霊界の素敵な方達が手引きをしてくれますよ」
スピリット「あれ、ハッピー・ディジーがやってきた」

博士「何か、いじわるを言いそうな顔をしてる?」

スピリット「そんなことないわ。男の子達は、あたしのことを『赤毛』とか『そばかす』なんて呼んでいたけど、あたしは平気だった。あそこに立ってる女の子について行っていいの?」

博士「いいですとも。これでもう火をつけられたり、火花を浴びせられたりはしませんよ」

スピリット「きっとよ、ウソ言っちゃダメよ。ハッピー・ディジーが一緒について来なさいって言ってるわ。素敵なお家へ連れてってくれるんだって。天国のことかしら? 良い子になって良いことをするようになったら、しっかり勉強して、また地上に戻って来て、あの子(R)の役に立つことが出来るようになるんですって。学校のお勉強も手伝えるんですって」

博士「算数は好きかな?」

スピリット「あたし、学校は大嫌いです。では、もう行きます。これから学校へ連れて行くんですって・・・。あたし、学校は嫌いなんだけどなあ」

博士「学校は学校でも、正しい生き方を教えてくれるところですよ」

スピリット「あたし、青い目と柔らかい巻き毛が欲しいな。そんな望みは叶えられないのかしら? あたし、そんな女の子になりたいの」

博士「人のためになることをしていたら、奇麗になりますよ。美しいことを考え、親切なことをしていれば、きっと美しくなれます。スピリットの美しさが出てくるのです。

さあ、あの人達と一緒について行きなさい。人の為になることを勉強した後、Rちゃんの面倒を見に来てあげてちょうだいね。さ、あの人達と一緒になったつもりになってごらん。それだけでそこへ行けますから・・・。すっかり生まれ変わるんですよ」

スピリット「きっと、この子の面倒を見に来ます。さようなら」

第4節 ●霊界の『家なき子』
それから一週間後に、同じような身の上のスピリット、いわば霊界の『家なき子』が出現した。同じくR・Gの母親のオーラに引っかかっていたスピリットである。

1922年8月9日  患者=G夫人 スピリット=エラ

全員で歌を歌っている間、霊媒(に乗り移っているスピリット)は黙りこくっている。

博士「なぜ一緒に歌わないのですか」

スピリット「ここにいる人達は、あたしの知らない人ばかりです。一緒に歌わないといけないのですか」

博士「どちらからおいでになりました?」
スピリット「知りません」

博士「あなたのことをもっと知りたいのです。こんなところにいるのを変だとは思いませんか」

スピリット「どうなってるのか分かりません。調べてみないと・・・」

博士「あなたがどういう身の上の方で、名前を何とおっしゃるのか、教えてください」

スピリット「ここに来たら家が見つかると誰かに言われたのです」

博士「それまで、何をしてたの?」

スピリット「当てもなく歩き回り、身体を横たえるところがあったら、どこでも寝ました」

博士「男ですか女ですか、大人ですか子供ですか」
スピリット「あたしが女の子だってこと、見て分からないのですか」

博士「年齢はいくつですか」
スピリット「多分・・・よく分からないけど・・・十六か七だと思います」

博士「どのあたりを歩き回ったの?」
スピリット「分かりません」

博士「よく考えて思い出してみてごらん」
スピリット「色んなところを歩き回っていました・・・。家が欲しくて・・・」

博士「お父さんもお母さんもいないの?」
スピリット「いません」

博士「小さい頃は、どこに住んでたの?」

スピリット「子供が大勢いる大きな施設です。みんな一緒でした。喧嘩と悪口の言い合いばかりだったわ。あたしには、もともと母さんなんかいなかったみたい。その大きなホームで生まれたのだと思う。いくら思い出しても、それ以外にいたところはありません。大きいホームで、男の子と女の子がいっぱいいました。いい子もいたし、悪い子もいたし、色々だった。

あたしは何でもやりました。言いつけられたことは何でもやりました。一日中、まるで機械みたいに仕事をしました。『おい、エラ、あっちだ!』『エラ、今度はあっちだ!』と言われて、ホーム中で仕事をさせられました。まるで母親みたいに、大勢の子供の面倒を見さされました」

博士「あなたのことを、みんな慕ってたんだ?」

スピリット「みんなあたしのところに来るものだから、やってあげないといけなかったのです。それがあたしの仕事で、出来るだけのことはしてあげたつもりです。十何人もの子をお風呂に入れたり、着替えさせたりするのは、楽じゃなかったわ。とってもやかましくて、よく叱りつけたわ。頭にきたこともあったわ。一生懸命やってあげてるのに、人の足を踏んだり蹴ったりされると、腹が立つわよ」

博士「それは、どれくらい前の話?」

スピリット「そんなに昔の話ではないと思う。そのうち、迷子になっちゃったの。ある日ホームを出て歩いているうちに、帰り道が分からなくなったの」(ここで多分事故で死んだ)

博士「それから、どんなことがあったの?」
スピリット「別に何もありません。ホームに帰ろうとして歩き続けました」

博士「事故に遭ったんじゃないの?」

スピリット「いいえ。とにかくホームが見つかるまで歩かなくちゃと思って」

博士「いくら歩き続けても、住む家が見つからないのは、なぜだと思う?」


スピリット「誰かが、ここに来たら家が見つかるよと言ってくれて、あたしを何かに押し込んだの。気がついたらここにいて、歌が聞こえたの。

そう、あたしが泣いていたら、女の子が来て、自分を救ってくれた人のところへ連れてってあげる――そこへ行ったら幸せになれるって言ってくれたの。それまでは暗いような明るいようなところを歩き回っていました。とにかく、家を見つけたかったの、ホームで子供の面倒を見るのは辛かったけど、何もすることがないよりは、あの子達と一緒の方がいいわ。あたしの子供みたいに世話をしてあげたいです」

博士「みんな、あなたと同じ孤児だったの?」

スピリット「あたしのことをみんな、頭が変だなんて言ってたけど、あたしは誰にも負けないくらい、しっかりしていたつもりよ」

博士「今、あなたは、こうして私達と話をしているけど、本当を言うと、私達の目にあなたの姿は見えていないのです。見えているのはあなたではなくて、私の奥さんなのですよ」

スピリット「あなたの奥さん! 冗談じゃないわ! (思い切り笑う)あたしは笑い上戸なの。みんなが泣いている時でも、あたしは笑って笑って笑い続けるの。すると、みんな泣き止んで、黙ってあたしを見つめるの。泣いている人を泣き止ませるには、そうするのが一番だった。それでみんないい子になっちゃうの。

あなたも試してみたら? 誰かが泣いていたら、カラカラ笑ってみせるの。すると泣き止んで、その人も笑い出すはずよ。あたしのことを『笑い上戸のエラ』なんて呼ぶ人もいたわ」

博士「(手を取って)この指輪は、どこで手に入れたの?」

スピリット「指輪なんて、あたし、つけたことないわ」(そう言って、愉快そうに笑う)

博士「この手は、あなたの手じゃありませんよ。この身体も、あなたのではありませんよ」

スピリット「(笑いながら)それ、どういう意味?」

博士「あなたには馬鹿げた話に思えるかもしれないけど、でも、本当にそうなんです。馬鹿にすると後悔しますよ。ここにいる人達に聞いてごらんなさい」

スピリット「(みんなに向かって)これ、あたしの身体ですよね?」

一同「違います」
スピリット「そうよ!」

博士「この身体は、ウィックランド夫人のものなのです」
スピリット「(笑いながら)ウィックランド夫人!」

博士「あなたは、自分の無知を笑っているのと同じですよ。今、あなたは、一時的にウィックランド夫人の身体を使っているのです」

スピリット「そんな馬鹿げた話、聞いたことないわ」

博士「私が言っていることは、あなたが思う程馬鹿げた話ではありませんよ。あなたには以前のような身体はもうないのです。多分、病気か何かで、身体を失ったのです。今いる世界は、まったく新しい環境の世界なのです」

スピリット「身体がなくて、どうして生きられるのです?」

博士「霊体という身体があるのです」

スピリット「あたしが『身体を失ってる』ということは、あたしは『死んでる』ということかしら」

博士「その通りです。みんなそのことを知らないのです。人が身体を失うと『死んでしまった』と言いますが、それは間違いなのです。肉体から霊体が抜け出ただけなのです。そのスピリットが本当の自分なのです。身体は『宿』に過ぎません。死んでしまう人は一人もいません。見た目にそう思えるだけです」

スピリット「いいえ、みんな死ぬのよ! あたし、死んだ人を大勢見てるわ。あたしが知ってるちっちゃな子も、死んで天国へ行ったわ」

博士「あなたはその子の『死んでしまった身体』を見ただけです。この世に生きていられるのはホンの短い期間だけで、いつかはみんなこの地上を去って行かねばならないのです」

スピリット「どこへ行くの?」

博士「霊界です」

スピリット「見て、やっぱりあたしはレディじゃないですか! 首にネックレスをつけてるわ」

博士「それは、私の奥さんのものです。あなたはもう、肉眼に見えないスピリットになっているのです。そして、これまでずっと暗いところを彷徨っていたのです。住む家が欲しければ、ちゃんと用意してもらえますよ」

スピリット「天国で、と言いたいのでしょう?」

博士「イエスは『神の国は自分の心の中にある』とおっしゃいましたよ」

スピリット「イエス様は、あたし達の罪を背負って死なれたのです。真面目に生きていれば、死んだ時に天国へ行って、天使様と一緒に暮らすのです。ホームでいつもそう祈ったわ。(R・Gの姿を母親の側に見つけて)あたし、あの子が好きなの。前に見かけたことがあるわ」

G夫人「あなた、リリーを知ってる? 先週ここに来た子で、あなたと同じように、もうスピリットになってるのよ」

スピリット「(R・Gに向かって)この間、あなたはずいぶん生意気だったわね。なぜ、あんなにつっけんどんにしたのよ?」

G夫人「だから、あれはリリーのせいなの」

スピリット「あの子は、ずいぶんいじわるだったわ。ひっぱたいてやりたいほどだったわ。あの子が近づいてくると、その子(R・G)の顔つきが変わったわ」

博士「リリーは、スピリットで、この子に取り憑いていたのです。あなたもスピリットで、今、私の妻の身体に取り憑いて喋っているのです。リリーも、あなたと同じように、この子の身体に取り憑いて喋っていたのです」

スピリット「誰かがここに来るように言ったの。家も見つかるし、あたしには特別の仕事があるんですって。これ、どういう意味ですか」

博士「この子をあなたが守ってあげるというということでしょうね、多分」

スピリット「あたしが、見張り役になるんですって。誰にも取り憑かれないように・・・何のことだか分からないけど」

博士「そのうち説明してくれますよ。もうすぐここにインディアンの少女が来ますから、その子の言うことをよく聞きなさい。霊界のホームへ連れてってくれます」

スピリット「みんなあたしを可愛がってくれるかしら? ホームにいた時は、あたしがみんなをよく笑わせるものだから、みんなあたしのことを好きになってくれたわ。誰かが言ってるわ――あたしが、この子の周りにいて守ってあげないといけないんですって」

博士「悪いスピリットから守ってあげなさいと言ってるんですよ」
スピリット「どんなふうにするか、よく見てなくちゃ」

博士「その前に、ものわかりのいい子にならなくちゃ。他に誰か、こっちへ来るのが見えませんか」

スピリット「女の子が大勢やってきて、楽しそうに跳び回ってるわ。ここに、素敵な女の子がいます。『プリティガール』という名前ですって。とても奇麗な人よ。一緒にいらっしゃいと言ってます。あたしをここに連れて来たのも、この人ですって。あたしがホームでよく世話をしたことを褒めてくださってる。今度はこの方があたしの世話をしてくださるんですって」

博士「さあ、ここに来ている大勢のお友達と一緒に行かなくちゃ」

スピリット「ものわかりが良くなったら、あたしも人助けが出来るようになるんですって。あたしが(R・Gの)守り役になったら、誰にも取り憑かせないんだから――絶対よ!」

博士「住んでたのはどこ?」

スピリット「カンザス州よ(G夫人は、以前カンザスに住んでいた)。あたしは、ホームで十人から十二人くらいの子供の着替えをさせられたわ。身体を洗ってやることから寝かせつけるまで、全部よ。学校へ通う子もいたし、遊びに行っちゃう子もいました」

博士「何という町だったの?」
スピリット「ええっと・・・H市の近くよ」(後で確認された)

博士「K――という名前の人を覚えてる?」(H市のホームの管理人)
スピリット「覚えてるわ」

博士「M――さんは?」(女の孤児の世話係)

スピリット「別の部屋の係だったわ。あの部屋の子はわんぱくばかりで、Mさんも、手に負えなかったみたい。ぶってもダメなの。それであたしがよく助けに行ってあげたわ。あんまりぶってばかりいたら、良くないわ。

Mさんにぶたれて、小さい子がよく泣いてたわ。それで、Mさんがいなくなってから、あたしが行って笑わせるの。笑ってるうちに、ぶたれたことも忘れちゃったみたい」

G夫人「小さい頃のあたしに見覚えがあるかしら?」

スピリット「(じろじろ見つめてから、興奮気味に)ある、ある、見覚えがあるわ。思い出した! でも、いつもはいなかったわ(G夫人は時折ホームを訪問する程度だった)。よく来たけど、すぐに帰っていった。髪がきれいで、ドレスも素敵だった。パラソルを手にして、貴婦人みたいに歩いていたでしょ?」

G夫人「そんな格好で、あたしがドブに落ちたの覚えてる?」

スピリット「覚えてる、覚えてる。大騒ぎしたわ。ズブ濡れになって、おばあさんに叱られて・・・。あたしはあなたのことは好きだったから、ドブに落ちた時は、とてもかわいそうに思ったわ。素敵なドレスが台無しになっちゃって・・・ずいぶん昔の話よ。

色んなことが分かってきたわ。目が覚めたみたい! ひどい風邪をひいて、ひどく咳をして、それから眠り込んじゃった」

G夫人「私は今は結婚して、子供もいるの。この子がそうよ。ここのところ何人かのスピリットに邪魔されてたの」

スピリット「これからはあたしが力になってあげる。インディアンのシルバー・スターが、あたしがその子を守ってあげないといけない、と言ってるわ」

博士「まずは、スピリットの世界へ行って、色々と勉強しなくちゃ。人助けはそれからだね?」

スピリット「一生懸命やってみます。では、これから行きます。でも、また来ます。『笑い上戸のエラ』を忘れないでね」

第9章 物欲のみで霊的なものに関心を示さなかったスピリット
第1節 ●倫理に無感覚だった人間が陥り易い例
憑依霊の中には、死んでいることを自覚しないまま人間を操り、その影響力を楽しんでいるスピリットも少なくない。その種のスピリットは地上時代にキリスト教に反発して、倫理とか道徳といったものに無感覚になっている場合が多い。

ある日の招霊会で、そのタイプのスピリットがG氏から除霊された。G氏は、子供の頃からよく癇癪を起こすことがあり、その原因になっているスピリットがいよいよ『表面に浮き出てくる』ようになり始めた頃の数週間はイライラが強くなり、特に車を運転している時が酷かった。また、他人を避けようとする態度が顕著に見られた。

ついに除霊されてしまうと、G氏の性格が一変して正常に戻った。除霊後しばらく霊団側に拘束されていたスピリットが霊媒に乗り移らされた日の招霊会には、G氏夫妻も出席していた。

1922年9月21日  スピリット=フレッド・ホープト 患者=G氏

乗り移らされると、椅子の中で激しく暴れて逃げ出そうとした。そこでメンバー達の協力を得て押さえ込み、私が両手を握ると激しく抵抗した。

博士「どなたですか。おとなしくしなさい。暴れても無駄ですよ。どなたでしょうか」

スピリット「誰だっていい、余計なお世話だ! こんなところでお前なんかの相手をしたくない。来るんじゃなかった。もう二度と来んぞ! 罠にはかからんからな」

博士「ここへは、どなたと来られましたか」
スピリット「誰と来ようと、大きなお世話だ」

博士「死んでどのくらいになりますか」

スピリット「死んでなんかいない。俺は何を聞かれても答えるつもりはないから、そのつもりでいろ! (G夫人に向かって)お前はこの俺を構ってくれなくなったな?」(G氏に憑依していた時は、奥さんがG氏の身の回りの世話をするのを、自分の世話をしてくれてると思い込んでいた)

博士「私が、あなたの世話をしなくなった?」

スピリット「お前のことじゃない! お前とは後でキチンと片をつけてやるからな。俺の頭と背中に酷い稲妻を浴びせやがって! 」

博士「あれは電気ですよ。よく効いたみたいですね」
スピリット「ここへは二度と来んからな」

博士「死んで、どのくらいになりますか」

スピリット「死んで!? 死んでなんかいるもんか。ここへ来させようとしても、二度とその手には乗らんからな。今回は上手くいったつもりだろうが、仕返しはちゃんとしてやるからな! 二度と罠にははまらんぞ! お前にはムカムカしてるんだ!」

博士「何に腹を立ててるんですか」
スピリット「世の中さ。人間みんなさ」

博士「シャクにさわることがあるのでしたら、おっしゃってみてください。取り除くお手伝いをしますよ」

スピリット「お前は、お前の思うようにすればいい。俺は、俺の好きなようにする。これで用事は終わった。さ、とっとと消えてくれ! 俺を自由に操れるとでも思ってるのだろうが、あとで後悔するぞ。一切口をきくつもりはないから、何を聞いても無駄だ」

博士「どこのどなたであるかを、ぜひ知りたいのですがね」

スピリット「俺には関係ない。俺を上手く捕まえたつもりだろうが、後で後悔するなよ」

博士「お名前を教えて頂けないでしょうかねえ」

スピリット「お前なんかと知り合いになりたくないし、お前もこの俺と知り合いになる必要はない。俺は一人でいたいのだ。周りに誰もいて欲しくないのだ。一人になりたいのだ。自分と仲良くしてるのが、一番さ」

博士「どんな体験をなさったのですか」
スピリット「これ以上、お前とは話さん」

博士「一体、なぜこんなところにいるのでしょうね?」
スピリット「お前が、あの変な稲妻で来させたんじゃないか」

博士「心にひっかかってることを吐き出してしまえば、楽になりますよ。ところで、その指輪はどこで手に入れられました?」

スピリット「お前の知ったこっちゃない。どこで手に入れようと勝手だ」

博士「いつもそんなにへそ曲がりだったのですか」
スピリット「その手を離してくれ! 行くんだ」

博士「どちらへ?」

スピリット「どこへ行こうと勝手だ。お前がどこへ行こうと、俺には関係ないのと同じだ」

博士「でも、あなたには行くところがないのでしょう?」

スピリット「(怒って)俺のことを浮浪者扱いにする気か! 宿賃くらいの金はいつでも持ってたさ。行きたいところなら、どこへでも行けるんだ」

博士「なかなかの紳士でいらしたんですね?」

スピリット「紳士と付き合ってる時は、俺も紳士さ。これ以上俺に話しかけても無駄だよ。あんな光を浴びせやがった奴とは付き合うつもりはない」

博士「人生に悲観しましたか」
スピリット「違う! むかっ腹が立ってるだけだ! 」

博士「名前を教えてください」
スピリット「お前には関係ない。その手を離してくれれば行かせてもらう」

博士「それからどうなさるのです?」
スピリット「余計なお世話だ」

博士「死んでどのくらいになるのか、教えてくれませんか」
スピリット「死んでなんかいない。ずっと死んでない」

博士「今年が1922年だと言ったら信じますか」

スピリット「お前とは一切関わりを持たんと言ってるだろう! こんなところに用はない。あんなところ(牢)には二度と行かんぞ」

博士「私達が、お招きしたわけではありませんよ」
スピリット「俺を牢にぶち込んだじゃないか」

博士「一体、なぜ牢なんかに入ったのでしょうね? 誰が入れたのですか」
スピリット「お前が、昨日、入れたじゃないか」

博士「そうでしたか?」
スピリット「気が狂うまでつきまとってやるからな」

博士「そういうことには慣れてますよ」

スピリット「俺は俺、お前はお前、ここできっぱり別れようじゃないか。お前にはこれ以上用はない。お前はお前の道を行き、俺は俺の道を行けばいい」

博士「でも、我々があなたの思う通りにさせなかったら、どうします? 今のあなたの置かれている身の上をよく理解しないといけません。あなたはスピリットになっているのです。肉体はないのですよ」

スピリット「肉体を何度失っても平気さ。こうして肉体があった時と同じように、立派に生きてるよ。何を心配することがあるというのだ」

博士「今、誰の身体で喋ってると思ってるのですか」

スピリット「俺には身体がいくつもあるんだよ。ある時は女になり、ある時は男になったりして、あっちこっちを渡り歩いているから、誰にも捕まらないよ」

博士「でも、この度ばかりは、誰かに捕まえられたじゃないですか。他人の生活を邪魔するのは、もう止めないといけません」

スピリット「俺は、ずっと自分のことしか構ってないつもりだ」

博士「牢に入れられたとおっしゃいませんでしたか」
スピリット「そう長い期間じゃなかったよ」

博士「いつまでも態度を変えないと、また暗い牢の中へ入れられますよ」

スピリット「生意気言うと後悔するぞ! 俺はこれまで何度も動きの取れない状態にされたが、いつもちゃんと脱け出てきたよ」

博士「フォード車を持ったことがありますか」
スピリット「いや、ない。それがどうした?」

博士「面白い話があるんです。フォード車を持っていた男が死んだのですが、最後に述べた頼みが、その車を自分と一緒に墓に埋めてくれということだったのです」

スピリット「何の為に?」

博士「そのフォード車が何度も命を救ってくれたからというのです」
スピリット「そして、埋めてやったのか」

博士「そうね、多分・・・」
スピリット「はっはぁ、ばかな! 死んでしまったら、車に用はないじゃないか」

博士「本当の死というものがないことが、まだ分からないのですか。死んでしまう人はいないのです」

スピリット「俺は、死んだけど死んでないというのか」

博士「肉体は死んだけど、あなたという人格は死んでないということです」

スピリット「でも、俺は好きなものになれるんだ。男になったり、女になったり・・・」

博士「それは違います。男に憑依したり女に憑依したりしてるにすぎません」

スピリット「そんなことはないよ。その気になれば、家族全員に指図して、思い切り楽しい思いをすることが出来る。行きたいところへも行ける。俺が俺のボスなんだ。腹が空いても、食べたり食べなかったり・・・。食欲を出すには腹を空かせるのが一番だ。すると何でも食べられるし、おいしく食べられる。腹が空いてないと、何を食べても美味くない。言っとくが、俺はスピリットじゃない」

博士「今、あなたは私の妻の身体を使って喋っているのです」
スピリット「こんなことをしていては時間の無駄だ。行かせてもらう」

博士「あなたと親しく語り合いたいのですがね」
スピリット「お前とは、何の関わりも持つ気はないね」

博士「さ、色々と語り合いましょうよ。人生というのは素晴らしいものです。ものを考え行動する。それでいて、自分のことは何も分かっていないのです」

スピリット「分かっていない? それはお気の毒だね」

博士「『音』というものが、いかに不思議なものか、考えてみたことがありますか」

スピリット「この世に何一つ不思議なものはないよ。さ、行かせてくれ。これ以上引き止めないでくれ」

博士「いいえ、聞かれたことに真面目に答えるまで放しません」

スピリット「俺は癇癪持ちなんだ。こうして押さえ込まれてなかったら、お前を殴り倒すところだぞ! 」

博士「さ、ジョニー、私の言うことを聞きなさい」

スピリット「ジョニーだと! 俺はそんな名前じゃない。ほんとの名前は言わんぞ」

博士「殺しでもしたんですか。それでそんなにムカムカしているのでしょう?」

スピリット「違う。俺は真面目な人間だ。俺の思う通りにしたいだけだ」

博士「どんな教会に通ってましたか」
スピリット「お前の知ったこっちゃないよ」

博士「牧師をなさってたのでしょうか。それとも教会の役員でもなさってたのでしょうか」

スピリット「いや、違う。何を聞かれても答えるつもりはない。少し黙ってろ」(と言って口をへの字に結んだまま、じっとしている)

博士「なぜ、そんなに黙りこくってるのですか。今どんな悪いことを考えてるんでしょうかね?」

スピリット「失礼なことを聞くんじゃない! 俺が本気で腹を立てたら、この家なんかいっぺんにぶっ壊しちゃうぞ! 」

博士「言うだけなら、どんなにでかいことを言っても、元手はいりませんからね」

スピリット「どうせ言うんなら、でかいことを言った方がいいじゃないか」

博士「どこのどなたでしょうか。そして死んでどれくらいになるのか、教えてくださいよ」

スピリット「(足を踏み鳴らし、もがきながら)手を放してくれ! 俺が死んでないことを思い知らせてやる! 何度言ったら分かるんだ」

博士「でも、あなたが喋っているその身体は、私の妻のものなんですから」

スピリット「ちょっとその手を放せよ。お前は、少し痛い目に遭わせないとダメみたいだな」

博士「えらく凄みますねえ。でも、私には効き目はありませんよ。あなたは私の妻の身体で喋ってるんですから」

スピリット「もういい! お前の言うことなんか聞く気はない。お前には用はない。あの電気さえなかったら、追い出されて牢へぶち込まれることもなかったんだが・・・。自由になったら、思い知らせてやるからな。今はここで別れるとしよう。お前はお前の思う通りにすればいい。俺は俺の好きなようにする。それが一番いいのだ」

博士「でも、友達を解放してあげたいのです」

スピリット「友達だと? あんな電気をかけておいて、この俺を友達扱いにする気か」

博士「あれは、私からの友情のしるしですよ。あなたにとっては、あれが何よりの賜り物でした」

スピリット「(嫌みたっぷりに)そう思いたけりゃ、勝手に思うがいいさ!」

博士「あなたが私の妻の身体で喋っていることが本当かどうか、よく見つめてみてくださいよ」

スピリット「お前の奥さんとは関わりたくないね。女は女の好きなようにすればいい。俺は俺の好きなようにやる。お前の奥さんであろうが、どこのどの女だろうが、ご免こうむるね。奥さんは旦那が大事にしなよ」

博士「その私の妻の身体で、今、あなたは喋っているのです。あなたはあまりに無知だから、今の自分の置かれている状態が理解できてないのです」

スピリット「俺に劣らず、お前も相当に無知だよ」

博士「あなたは、今はもうスピリットなのです。愚かなスピリットになってしまって、そのことに気づかないのです」

スピリット「人を愚か者呼ばわりするとは、紳士の風上にも置けん奴だ」

博士「あなたは実に愚かで、わがままなスピリットになってしまったのです。少しでも知恵があれば、私の言うことを聞くでしょうよ」

スピリット「何とでも言えよ。この手さえ放してくれたらいいんだ!」

博士「私は、あなたの手なんか握ってませんよ。妻の手を握ってるんです」

スピリット「おい、おい、俺が男だということが分からんのか。奥さんと混同しないでくれよ。奥さんを連れてってくれ。俺はいらんよ」

博士「素直に見つめれば、ご自分がどこか変だということが分かりそうなものなのです。その手をごらんなさい」

スピリット「(見ようとしないで)俺の手に決まってるじゃないか。お前は少しヤキを入れてやらんといかんな。なぜか前より体力がついてきたから、こたえるぞ。口も楽にきけるようになった。以前はいつも誰かが邪魔をして思うように話せなかったもんな。今やっと一人になり切って、思うように話せるし、喧嘩も出来そうだ」

博士「私の妻の身体だから、楽に話せるのです」
スピリット「私の妻、私の妻と、いい加減にしろ! ぶん殴るぞ!」

博士「妻は霊媒なのです」

スピリット「だからどうだと言うんだ? お前の女房が千人の霊媒になっても、俺はなんとも思わんよ」

博士「高級霊の方達が、あなたを救う為にここへ連れてこられたのです。どうしても聞き分けがないとなれば、土牢に閉じ込められますよ」

スピリット「好きなようにするがいいさ」

博士「そういう態度をとって、何の得があるというのです? その方達は、あなたに心を入れ替えさせようとしておられるのです」

スピリット「そのことなら、一度ゴロツキみたいな牧師の世話になったよ。金を全部巻き上げといて、教会から蹴り出しやがった」

博士「考えようによっては、それで幸いだったとも言えるんですよ」

スピリット「なんだと! 蹴り出されて良かっただと?人生についてほんの二、三の質問をしただけなのに、牧師は『この罪人が! とっとと出て行ってくれ!』なんて言いやがって。欲しかったのは金さ」

博士「でも、それで終わったんじゃ、人生問題の解決にはなりませんでしたね?」

スピリット「人生問題? 人生は人生、それだけのことさ。この世に生まれて、しばらく滞在して、そして行っちまう」

博士「その教会はどこにありましたか。何という派でしたか」

スピリット「秘密は教えん。俺自身のことは一切喋るつもりはない。俺の名前も、牧師の名前も」

博士「ここにいる人達は、みんな、あなたの味方だということが分からないのですね。あなたが知らずにいる大切なことを教えてあげたいのです。何度も言うように、あなたはもう肉体を失ってスピリットとなっているのです。そのことがあなたには理解できないのです」

スピリット「肉体を失ったということは、いくつも身体があるということだ」

G氏「二つ以上の身体をどうやって持てるのですか」
スピリット「それは知らん。が、他の身体を使って楽しかったよ」

G氏「『他の身体』をどうやって見つけたのですか」
スピリット「それは知らん。どうでもいいことさ」

G氏「ある時は男になり、ある時は女になるということは、どういうことでしょうね?」

スピリット「あまり深く考えたことはないね。自分でも分からん」

G氏「あなたをここへ連れてきたのは誰ですか」
スピリット「あいつらさ」

G氏「誰のことでしょう?」

スピリット「知らんね。俺は来るつもりはなかったのに、来させられたのさ。今度だけだぞと言って、来てやったんだ」

G氏「以前にも来たことがあるのですか」
スピリット「時々な」

G氏「誰が連れてきたのですか」
スピリット「知らんと言ってるだろう」

G氏「よくご覧になってみてください。あなたを連れてきた人の姿が見えませんか」

スピリット「知らんのだから、どうでもいいことさ」

G氏「私が前に一度、あなたに話しかけたことがあるのを覚えていますか」
スピリット「あるかもしれんな」

博士「今の方(G氏)が誰だか気づきませんか。以前は友達だったはずですよ」
G氏「以前会ったことのある人がここにいませんか」

スピリット「知らんね。あの電気を頭に受けて、ひどく痛かったぞ。誰でもいいからぶん殴ってやりたい気分だ」

G夫人「ここへはどうやって来られましたか」

スピリット「そんなこと、余計なお世話だ。俺は癇癪持ちなんだ。稲妻みたいにカッときて、雷のように落ちるんだ」

G夫人「人の身体の中に入ってる時でも、癇癪を起こすのですか」

スピリット「そうさ。俺は癇癪持ちなんだ。どうしてカッとなるかは自分でも分からんのだが、とにかく何もかも腹が立ってしょうがないんだ。それで、じっとしておれずに、あっちこっちと歩き回らずにいられんのだ」

G夫人「ある場所にじっとしていたくてもダメなんですね?」

スピリット「ダメだな。歩き回ってないと気が済まんのだ。腹が立ってしょうがないんだ」

G夫人「自分で自分がコントロールできないのですね」

スピリット「何だか知らんが、とにかく腹が立って、行きたくなくても、あちこち歩き回ってないと気が済まんのさ」

G夫人「その腹が立つ性分を直したいとは思いませんか。(博士を指差しながら)この方はお医者さんです。あなたの症状についてよくご存知ですよ」

博士「言うことを聞いてくださるのであれば、力になりますよ」

スピリット「些細なことでムシャクシャしてきて、ついカッとなるんです。なぜだか、自分でも分からんのです」(少し大人しくなる)

博士「下らないことで支離滅裂になるのが抑え切れないのですね」

スピリット「物事が自分の思い通りに運ばなくて、それがまず不愉快なのです。時々自分が自分でなくて、半分が他人になったような気がして、ムシャクシャしてくるのです」

博士「それは、あなたが生身の人間に取り憑いて、その人の身体を半分使っているからです。あなたの肉体は死んだのですが、あなた自身は死んでいないのです。肉体と自分とは別のものなのです。その肉体の方を失っているのですが、霊的身体が肉体のように思えて、それで死んだことに気がつかないまま人間界を歩き回っているうちに、霊的感受性の強い人に乗り移ってしまうのです。あなたは勝手にその人の身体を使おうとするのですが、その人にはその人の意志があります」

スピリット「あの機械にも腹が立ちます」

博士「機械類はお嫌いですか」

スピリット「嫌いだね。ぶっ壊してやりたくなる。あれにもムシャクシャする」

博士「自動車のことですね?」

スピリット「はて、それは何ですか。馬がついていなくても走る、あの機械のことですか」

博士「自動車というものをご覧になったことがないのですね?」

スピリット「ブルブル、ブルーンという音を出して進む機械のことですか」(腕をぐるぐる回す)

博士「まだ自動車のない時代の方ですね? 今の大統領は誰ですか」
スピリット「知りません。何年も新聞を読んでないもんで・・・」

博士「マッキンレー大統領でしたか」
スピリット「いや、クリーブランドです」

博士「シカゴ国際見本市のことを覚えていますか」
スピリット「知りません」

博士「お住まいはどこでしたか」
スピリット「カンザスです」

G氏「カンザスのHですかNですか」(G氏は若い頃、カンザスに住んでいた)

博士「この方(G氏)といろいろ話してごらんなさい」
G氏「G――という家族のことをご存知ですか」
スピリット「ああ、きれいな豪邸に住んでいました」

G氏「じゃあ、Nに住んでたわけですね?」

スピリット「いや、そこより少し郊外です。私はあちこちでヘルパーをしていました。一つの家に長くはいませんでした」

G氏「農家でも働きましたか」

スピリット「ええ、馬がいれば・・・。あのチョロチョロするやつ(車)は乗りたくないね」

G氏「機械の方が馬よりも遠くまで行けますよ」

スピリット「私は、空気に触れるのが好きでね。あんな機械じゃ窓が開けていられないじゃないですか――閉じ込められちゃって・・・」

G氏「病気をしたことがありますか。それとも事故にでも遭いましたか」

スピリット「よく分からんのですが、頭が変になったみたいで・・・。何が起きたのか、ほんとに知らんのです。よく癇癪を起こすとこをみると、何かあったんでしょう」

G氏「Gさんの家のお子さんで誰か覚えている人がいますか」
スピリット「噂は耳にしていました」

G氏「当時あなたはおいくつでしたか。R君と同じでしたか」
スピリット「あのガッチリした体格の男のことですね?」

G氏「年齢は一緒でしたか」

スピリット「いや、いや、彼の方がもう一人(G氏)よりも元気で、よく遊んでいました。もう一人は勉強家でした。一緒にいても、すっといなくなりました。いつも本を持ち歩いていたから、牧師か弁護士かなんかになるつもりなんだろうと思ってました」(その通りだった)

G氏「歌を歌ったことはありますか」
スピリット「誰がですか」

G氏「その『もう一人』の男です」

スピリット「彼のことはよく知りません。私はただのヘルパーでしたから・・・」

G氏「その二人の少年の家で働いていたわけですか」

スピリット「いえ、南西地方の農場で仕事をしてました。農場は家から遠く離れたところにありました。丘をのぼって、さらに下ったところです」

G氏「W市の方角ですね?」
スピリット「そうです」

G氏「そこで事故に遭ったのでしょう?」

スピリット「覚えていません。頭部に何かが当たったことは覚えています。脱穀機に大勢の人が群がって仕事をしていました――『脱穀仲間』ってヤツですよ」

G氏「そこで何か、大怪我をされたに違いありません」
スピリット「脱穀の仕事中にですか。頭部に何か当たったのでしょうか」

G氏「何かで負傷して、それがもとで亡くなられたのですよ」

博士「多分あなたは、眠ったようなつもりでおられたのでしょう。その時に肉体を失ったのです。普通はそれを『死んだ』というのですが、あなたという個性は死んでいないのです」

G氏「トムを知ってますか(G氏に憑依していたもう一人のスピリット)。私の親友です」

スピリット「ええ、ここに来てますよ。あなたを助けにきたと言ってます。一体、どういう具合に助けようというのですかね?」

G氏「トムに聞いてごらんなさいよ」

博士「なぜこの方(G氏)を助けようというのか、なぜ助けが必要なのか、尋ねてみてください」

スピリット「『お前、出て行くんだ!』なんて私に言ってます」

博士「わけを聞いてごらんなさい。真相が分かりますよ」

スピリット「(トムに向かって)なんでそんなことを言うんだ。正直にわけを言ってみろよ! なんだと? この俺が? 冗談じゃない! デタラメを言うな! (博士に向かって興奮気味に)トムのやつ、この私があの人(G氏)に何年もたかってたなんて言ってます! 」

博士「ピンとこないかもしれませんが、実はそのとおりなんですよ」

G氏「トムもそうだったんです。彼も、私にずいぶん迷惑をかけてくれましたが、今は友達です。あなたも同じです。これからは仲良くしましょうよ」

スピリット「なぜ、あんなにムシャクシャしたのでしょうね?」

博士「頭に傷を負った際に、精神的な錯乱が生じたのでしょう」

スピリット「トムのやつ、この俺を取り除くのを手伝ったなんて言ってやがる。覚えてろ! なんでこの私を取り除きたがるのでしょうね?」

G氏「そうすることで、あなたも自由になれるです。彼は、我々の仲間なのです。一緒に仕事をしているのです。あなたも自分の身体をもつことになります。そうすれば『取り除かれる』心配もいりません」

スピリット「あなた達のおっしゃっていることがさっぱり分かりませんが・・・」

博士「説明しましょう。私の言うことがどんなにバカバカしく思えても、反抗的になってはいけませんよ。ありのままの真実を申し上げるのですからね・・・」

スピリット「いい加減なことを言ったら承知しませんよ!」

博士「あなたは、何年か前に肉体を失ったのです。今年は1922年ですが、いかがですか」

スピリット「1892年でしょう」

博士「それはクリーブランドが大統領に返り咲いた年です。その年から今年まで、あなたはずっと『死者』になっておられるのです。ただし、本当の死というものはないのです。精神と肉体とはまったく別物で、死ぬのは肉体の方です。精神とか心と言われているものは死なないのです。あなたは今、あなた自身の身体で喋っているのではないのですよ」

スピリット「私の身体ではない?」

博士「違うのです。あなたは私の妻の身体で喋っておられるのです。妻の身体はスピリットが自由に使って喋れるような構造になっているのです。それで、こうしてあなたのようなスピリットと話を交わして、色々と調べることが出来るわけです。スピリットの中には事情が分からないまま人間に取り憑いて、その人の精神を混乱させている者がいるのです。あなたの場合も、この方(G氏)に取り憑いていた為に、あなたのムシャクシャがそのままこの方をクシャクシャさせているのです」

スピリット「ほんとですか」
G氏「あの機械(車)にはよく乗ったのでしょう?」
スピリット「乗りました。が、嫌いです、あれは」

博士「あの機械のことを教えてあげましょう。1896年に自動車というものが発明されたのです。馬無しで走るのです。それ自身がパワーを出すのです。今では何百万台もあります」

スピリット「馬はどうなるのですか」

博士「今は使いません。自動車というのは実に便利なもので、百マイルを一時間で走れるのです。もっとも、平均すると一時間に二十マイルないし二十五マイルですね」

スピリット「そんなに速いものには乗りたくないのですね」

博士「一日中突っ走れば二百マイルから三百マイルは行けます。そういう機械が、あなたが肉体を失った後から発明されているのです。それに、空を飛ぶ機械まで発明されています。電線なしで通信することも出来るようになっています。海を越えて話が出来るのです。そういった素晴らしいものが、あなたが他界されたあと発明されているのです。今、あなたは、カリフォルニアにいらっしゃることをご存知ですか」

スピリット「意識が薄れていくような感じがします」

博士「お名前をおっしゃるまでは、しっかりしてくださいよ」

スピリット「名前は知りません。頭が混乱していて・・・。少しの間、そっとしとしてください。思い出しますから。いろんな名前がごっちゃになって、自分の名前が分からなくなりました」

博士「見回してごらんなさい。お母さんがお見えになってるかもしれませんよ」

スピリット「母が私を呼んでる声を一度聞いたことがあります。そう、私の名前はチャーリーだったことがあるし、ヘンリーだったことがあるし、男だったり女だったり、どれを言えばいいのか・・・。本当の名前を呼ばれてからずいぶんになるので、忘れたみたいです」

博士「トムに聞いてごらんなさい」
スピリット「フレッドだと言ってます。そうだ、フレッドだ!」

博士「姓も聞いてごらんなさい」

スピリット「自分の名前を忘れるとはね・・・。余程のことがあったのでしょうね」

博士「お父さんのことを人は何と呼んでましたか。仕事は何をなさってましたか」

G氏「農業をなさってたのじゃないですか」

スピリット「農業ではありませんが、いくらか土地を所有していました。父はドイツ人でした」

G氏「メノー派教徒だったのでしょうか」

スピリット「いえ。ドイツから移住してきました。それにしても、自分の名前が思い出せないとは、私もどうかしてますね」

G氏「トムに尋ねてみては?」

スピリット「場所と出来事を、あるところまでは思い出せるのですが、そこから先がダメなんです。フレッドという名は覚えてます。みんなそう呼んでいたので・・・」

博士「もういいでしょう。そのうち思い出しますよ。あなたはスピリットになっておられるのです。ここを出たら、高級霊の方達がお世話をしてくださいますよ」

スピリット「トムが、『安らぎの家』へ案内してくれるそうです。心配事が多く、疲れ果てていたせいで、何もかも腹が立って・・・。もうこれからは癇癪は起こしません。カッとなった後が、ひどくこたえました。自分の心が抑えられなくてムシャクシャしていました。酷いことを口走ってしまって申し訳なく思っております。意地を張って口答えばかりしましたが、内心では分かっていたのです。

トムが早く来いと言ってます。では、まいります。(G氏に向かって)トムが、あなたに迷惑をかけたことのお詫びを言わなくては、と言っております」

G氏「過ぎたことは過ぎたことです。お役に立てればいいのです」
スピリット「不愉快に思ってらっしゃるのでは?」
G氏「とんでもない」

スピリット「気が抜けたような感じです。どうしたらいいのでしょう? これではトムと一緒に行けそうにありません」

博士「それは、霊的な意識が芽生え始めたスピリットがよく体験することです。一時的な感覚です。霊媒のコントロールを失いつつある証拠です。トムとマーシーバンドの方達のことを心に念じてください」

スピリット「頭が少し変になってきました。気でも狂ったのでしょうか。医者を呼んでください。死んでいくような感じです」

博士「霊媒の身体から離れれば良くなります」

スピリット「医者を呼んでください。血が全部喉のところに上がってきて、息が出来ません! 喉が詰まったみたいです。このまま寝入ってしまいそうです。寝ると良くなると医者はよく言いますが、このまま死んでしまうんじゃないでしょうね?」

博士「あなたはもうとっくにスピリットになっていることを自覚してください。その身体は他人のものです」

スピリット「思い出しました――姓名はフレッド・ホープトでした。トムが、Gさんにたびたび腹を立てさせたことを許して頂くようにと言ってます」

G氏「許しますとも。こちらこそトムに感謝していると伝えてください」
スピリット「それでは失礼します」

このあと指導霊のシルバー・スターが出てG氏にこう語った。

「ようやく彼をものにしました。これから病院へ連れてまいります。彼にはずいぶん手こずりました。あなたの磁気オーラに完全に入り込んでしまって、そこから引き離すのは、まるで肉を引きちぎるみたいでした。

あなたの子供時代からひっついていて、自分の思うようにならないと、癇癪を起こしていました。こうして彼を解放したことで、あなたは別人に生まれ変わったみたいに感じられるでしょう。もう、イライラすることもありません。

今、彼をお引き受けしましたので、もう大丈夫です。霊的に非常に衰弱していて、看病が必要です。一人ではほとんど動けない状態です。これまではあなたにおんぶされて生きてきたようなものですから、そのあなたから引き離された今、まったく力がありません。

しかし、私達が面倒を見ますから、どうぞご安心ください」

第2節 ●妻に自殺を促す『唯物的現実主義者』
霊的なものを否定し、無感動・無関心の性格のまま地上生活を終えた人間が、死後、絶望と暗黒と当惑に苦しめられ、無意識のうちに人間に憑依してしまっているケースがよくある。

我々夫婦と顔見知りのF・W夫人は、ニューヨーク在住で、幸せな、ごく平凡な結婚生活を送っていた。奥さんの方はもともと霊的なものに理解があったが、ご主人の方は徹底した唯物的現実主義者で、『なるようにしかならん』といった運命論者的な人生観しかもっていなかった。ただ、夫婦仲はいたって良かった。それが、皮肉にも、悲劇の誘因となるのだが・・・。

ご主人は、宗教というものには一切関心がなく、死はすべての終わりであると信じ込んでいた。そして、奥さんに対して、もしお前が先に死んだら、俺はあとを追って自殺すると言い、もし俺が先に死んだら、お前も自殺して死んでくれ、などと言っていた。が、奥さんは取り合わなかった。

そのご主人が、ちょっとした病気がもとで、あっさり死んでしまった。が、死んだ後も奥さんにつきまとい、夜になると起こして、早く死ね! と脅すので、奥さんは寝られなくなってしまった。

自分の置かれている事情が分からないながらも、彼は何か変わったことが起きたらしいことは感じていた。奥さんと自分とを隔てている何ものかを取り除こうと必死だった。そして、しつこく奥さんにこう迫るのだった。

「自殺するんだ! 俺のところへ来い! 俺はお前がいないとダメなんだ。どうしてもお前が欲しいから、早く死んでくれ! 」

この『自殺しろ』の叫び声が昼も夜も耳から離れないので、F・W夫人は身の危険を感じ、自分が発作的に何をしでかすか分からないと案じて、ついにシカゴの我々のもとに助けを求めてきたのだった。

事情を聞いているうちに、そのご主人が私の妻に乗り移った(霊団が乗り移らせた)。そして、すぐ隣に奥さんがいるのに気づくと、いきなり左手を握って結婚指輪にキスをしてから、俺が何を話しかけても知らん顔をしてるが、俺のことを怒ってるのかと尋ねた。

奥さんが答える余裕もなく、彼は奥さんを抱きしめて、激しくキスをした。その力の強さに耐え切れなくなって、奥さんが金切り声を上げた。

二人を引き離してから、私はご主人に、その身体は自分のものではなく他人のもので、今はもうスピリットの世界の人間になっていることを説明すると、意外に早く理解がいって、そうとは知らずに妻を苦しめたことを詫び、これからスピリットの世界のことを学んで、今度は霊界から妻を援助したいと述べた。ニューヨークに戻った奥さんに、その後は、何の異常も起きなくなった。

そしてF・W氏はその後、我々の背後霊団であるマーシーバンドのメンバーとなって活躍している。

その後、何度か出現して当時の実情を語っているが、次に紹介するのはその一つである。

1920年11月22日  スピリット=F・W氏

「またまた参りました。この度は、私が決して死んでしまったのではないことをお教えしたくて参りました。そのためには、こうしてウィックランド夫人の身体をお借りしなくてはなりませんが、それ以外の時でも私は、いつもここへ来てお手伝いをしているのです。

まずは、私を救ってくださったお礼を申し述べたいと思います。あのままでしたら、妻と共に大変なことになっていたことでしょう――それも私の愚かさから・・・。スピリットの世界の素晴らしさについての話も、耳を傾ける気になりませんでした。

両親は、厳格なクリスチャンで、その信仰は強烈でしたから、自分達と同じように信じない人は、誰であろうと非難しておりました。自分達が考えていることだけが正しくて、他はすべて間違いであると、骨の髄まで思い込んでおりました。

そういう雰囲気の中でいたたまれなくなった私は、家を飛び出しました。まだ少年でした。なぜそんな無茶を、と言われても、両親の強烈なキリスト教信仰には、どうしても馴染めなかったのです。両親の説くことが信じられず、そういう私を、両親は『罪人』であると決めつけるのです。自分では罪人なんかであるはずがないと思っていましたから、信じられないのなら家を出るしかないと思って、飛び出したのです。

そのことを、今でも少しも後悔しておりません。自分の家以外の世界を知ることが出来ました。辛いこともありましたが、でも多くのことを学びました。教会が教えていること以外のことを学び、自分で生き抜いて行く方法を身につけました。教会に対しては、子供の頃からその内情について聞かされていたこともあって不愉快な感じを抱き、批判的でした。

すべての教会がそうだというのではありません。が、教義というものをあまり一方的に教え込まれると、人間は催眠にかれられたように、その教義のとりこになり、正しかろうが間違っていようが、自分達のすることはすべて正しいのだと思い込むようになります。その思い込んだ人にとっては『間違い』というものが存在しなくなり、たとえ間違ったことをしていても、それを正しいと考えてしまうのです。

世の風に当たっているうちに、ふと家が恋しくなって、両親と一緒に暮らすつもりで帰ってみました。が、そこは相も変わらずキリスト教一色に塗りつぶされた世界で、子としての義務を果たそうと頑張ってみましたが、ダメでした。このままではキリスト教に押しつぶされてしまうと思った私は、再び家を出ました。

再び一人の生活に戻って、また新しい体験を得ました。心を広くもって、人生の明るい側面、楽しい側面を求めるよう努力しました。そのうち好きな女性との出会いがあって、二人で家庭を持ちました。ようやく家庭らしい家庭をもった気持ちでした。生まれて初めて幸福感を味わったものでした。その幸せな生活は数年しか続きませんでしたが、今でも思い出すと楽しくなります。

私は、死後にも生命があるとは思っていませんでした。信仰というものは何一つ持っていませんでした。キリスト教でうんざりして、宗教的なものが嫌だったのです。死ねばそれでおしまい――その後には何もない、と考えていました。それも間違いでした。どっちに偏ってもいけません。中庸を守って、何でも勉強することが大切です。うっかりすると、踏み外してしまいがちな細い道――理性と直観によって、神の素晴らしい顕現を理解していくという道を歩むのが一番正しいのです。

私は急死によって、こちらへ来ました。死から覚めるのは、ちょうど睡眠から覚めるのに似ていて、すっかり目覚めてみると、妻が泣いておりました。とても悲しんでいるのですが、私にはなぜだか分かりません。自分が死んだことに気づかないのです。妻に声をかけて、一体どうしたのかと尋ねるのですが、知らん顔をしています。こんなに愛し合っているのに、何があったのだろうと不思議でなりません。妻への思いは募るばかりです。

妻の悲しみの情に、私が同情して抱きしめたりしているうちに、ふと、彼女の磁気オーラの中に入り込んで、そこから出られなくなってしまいました。が、私はそのことに気づきません。ただ、どこかに閉じ込められたみたいで、そこから脱出しようと、もがきました。彼女ももがき、それが異常な行動となって現れていました。

有り難いことに、マーシーバンドの配慮で、妻はこのサークルに案内されて、私も妻も、共に解放されました。もしもあのままだったら、二人とも惨めなことになっていたことでしょう。私が死後のことについて何の知識もなく、また知る気もなかったのが、そもそもの不幸のもとでした。

皆さんに申し上げます――死後の生命の存在を絶対に疑ってはなりません。いつかは、すべての人間が同じ道を通らねばならないのです。『大いなる彼岸』へ至る前に、真理を求め、そして見出しておきましょう。そうすれば、目を大きく見開いて歩むことができ、行き先についても確信をもつことが出来るのです。

もしもあの時、妻が博士の説得に理解を示さなかったら、おそらく私は彼女を自殺に追い込んでしまっていたことでしょう。そうしたら、今頃はどうなっていることやら・・・想像しただけで怖くなります。

私と同じような状態で霊界入りする人が大勢います。そういう人は、誰かの磁気オーラに引っかかって離れられなくなり、そのまま憑依状態となります。死後の世界についての基本的な知識があれば、そういう事態にはならずに済むのです。

皆さんには、心からお礼を申し上げたいと思います。今では、かつての私と同じような不幸なスピリットを救ってあげる仕事に携わっていて、とても幸せです。妻のことも、背後から導くことが出来ます。

どうか今後とも、ここにおいでの皆さまが、死後にも生命があるという事実の普及の為に努力してくださることを期待しております。地上で学ばないでいると、死後の世界へ来て学ばねばなりません。その時になって後悔することが実に多いのです。

お二人(患者と付き添い)はついに大きな真理を学ばれました。それをどこかに仕舞い込んでおいてはいけません。人に教えてあげないといけません。それが霊的に強化されるゆえんとなり、二度と憑依されることがなくなります。今、地上に憑依の風潮が蔓延しております。それに歯止めをかけるためにも、死後の世界についての真理の普及が必要です。F・Wでした。さようなら」

第10章 うぬぼれ・虚栄心・野心・利己心が禍いしているケース
第1節 ●タイタニック号事件で他界した男性
地上時代の趣味や関心事が軽薄だった人間――うぬぼれや虚栄心、野心、利己心といったものに支配されていた人間は、そうした低級な意識から脱して人の為に自分を犠牲にする行為を通して愛と同情心に目覚めるまでは、他界後もずっと地球圏に留まっているケースが少なくない。

その種のスピリットが我々のサークルで招霊されて、高級意識が目覚めるということがよくある。

上流社会の軽薄で豪華な生活のさ中で他界した一人として、1912年のかの有名なタイタニック号事件で他界した男性の場合を紹介しよう。

1916年10月22日  スピリット=ジョン・J・A

まずステッドが出て簡単な事情を説明した後、別の霊がまるで海に投げ出されて必死に助けを求めているような状態で出現した。

スピリット「助けてくれ! 助けてくれ!」

博士「どちらから来られましたか」

スピリット「今ここを出て行った人が、ここに入れと言うものですから来ました」

博士「海の中にいたのですか」

スピリット「溺れたのです。でも、また息を吹き返しました。今の方の姿は見えないのですが、声だけは聞こえました。『ここに入りなさい。そのあと一緒に行きましょう』と言ったのです。ですが、どこにいるのか分かりません。目が見えなくなってしまった! 何も見えない! 海の水で目をやられたのかも知れませんが、とにかく見えません」

博士「それは霊的な暗闇のせいですよ。死後にも生命があることを知らずに肉体から離れた人は、暗黒の中に置かれるのです。無知が生む暗黒です」

スピリット「今、少し見えるようになりました。少し見えかけては、すぐまたドアが閉められたみたいに真っ暗になるのです。妻と子供のそばにいたこともあるのですが、二人共私の存在に気がつきませんでした。今はドアが開いて、寒い戸外に閉め出されたみたいな感じです。我が家に帰っても孤独です。何かが起きたようには感じてますが、どうしてよいのか分かりません」

博士「ご自分が置かれている事情がお分かりにならないのですか」

スピリット「一体、私に何が起きたのでしょうか。この暗闇は何が原因なのでしょうか。どうしたら脱け出せるのでしょうか。自分のことがこんなに思うようにならないのも初めてです。いい感じになるのは、ほんの一時です。今、誰かの話し声が聞こえます。おや、さっきの方が見えました。ステッドとおっしゃってましたね?」

博士「そうです。あなたが来られる前にステッドさんが、その身体で挨拶されたのです。あなたをここへご案内したのは、ステッドさんですよ。ここに集まっている者は、あなたのように暗闇の中にいるスピリットに目を覚まさせてあげる仕事をしているのです」

スピリット「ひどい暗闇です。もう、ずいぶん永い間この中にいます」

博士「いいですか、『死』というものは存在しないのです。地上で始まった生命は肉体の死後も続くのです。そして、そのスピリットの世界では、人の為に役立つことをしないと幸せになれないのです」

スピリット「たしかに、私の生活は感心しなかったと思います。自分の為にだけ生きておりました。楽しいことばかり求めて、お金を使い放題使っておりました。このところ、自分が過ごした生活ばかり見せられております。見終わると真っ暗になります。それはそれはひどい闇です。過去の生活の一つ一つの行為が目の前に展開し、逃げ出そうとしてもダメなのです。ひっきりなしにつきまとって、なぜこんなことをしたのかと責め立てます(注)。たしかに、今思うと、わがままな選択ばかりしていたことが分かります。ですが、後悔先に立たずで・・・」

(注 守護霊を含む高級霊が意図的に行うもので、反省と改心の余地のある霊に限られる)

博士「地上で自分本位の生活ばかりしていた人は、大抵霊界へ行ってから暗闇の中に置かれます。あなたは、これから霊界の素晴らしい側面を勉強して、人の為に役立つことをすることが、スピリットの世界の大原則であることを理解しないといけません。その時に味わう幸せが『天国』なのです。天国とは精神に生じる状態の一つなのです」

スピリット「なぜ、そういうことを地上で教えてくれないのでしょうか」

博士「そんな話を地上の人間が信じるでしょうか。人類は、一握りの人を除いて、大体において霊的なものを求めず、他のこと、楽しいこととお金になることばかり求めます。霊的真理は求めようとしないものです」

スピリット「なんとなく奇妙な感じが、ジワジワと迫ってくるみたいです。おや、母さん! 母さんじゃないの! 僕はもう大人なのに、なんだか子供に戻ったみたいな感じがする。ずいぶん探したけど、僕はずっと暗闇の中で生活していて・・・。なぜこんなに見えないのでしょう? この目、治ると思いますか、母さん? このままずっと見えないままですかね? 母さんの姿は見えるのに、それでも盲目になったような感じがするのは変だと思わない?」

博士「あなたは肉体がなくなって、今は霊的な身体に宿っているのです。だから、その霊体の目が開けば霊界の美しいものが見えるようになるのです」

スピリット「あそこにステッドさんがいるのが見えます。同じ船に乗り合わせた方です。なのにステッドさんは暗闇にいるように見えませんが・・・」

博士「あの方は、地上にいた時から霊界のことや、こうして地上へ戻ってこれることを、ちゃんと知っておられたのです。人生というのは学校のようなものです。この地上にいる間に、死後の世界のことを出来るだけたくさん知っておかないといけないのです。霊界へ行ってから、辺りを明るく照らす光になってくれるのは、生命の問題について地上で学んだ知識だけなのです」

スピリット「そういうことを、なぜ誰も教えてくれなかったのでしょうか」

博士「では、もし誰かがあなたにそんな話をしていたら、あなたはそれを信じたと思いますか」

スピリット「私が付き合った人の中には、そういう知識をもった人はいませんでした」

博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「1912年です」(タイタニック号が沈没した年)

博士「実は1916年なのです」

スピリット「では今まで、私はどこに行ってたのでしょう。お腹は空くし、寒くて仕方がありませんでした。お金はたっぷりあったのです。ところが最近は、それを使おうと思っても手に取れないのです。時には暗い部屋に閉じ込められることもあります。その中で見せられるのは、過去の生活ばかりなのです。

私は、決して悪いことはしておりません。ですが、いわゆる上流階級の人間がどんなものかは、あなたも多分ご存知と思います。私はこれまで『貧しい』ということがどういうものかを知りませんでした。これは私にとって、まったく新しい体験でした。なぜ世の中は、死ぬ前にそれを思い知らされるようになっていないのでしょうか。地上で思い知れば、私のように、今になってこんな苦しい思いをせずに済むでしょうに・・・」

博士「お母さんやお友達と一緒に行って、その方達が教えてくださることをよく理解してください。そうすれば、ずっと楽になります」

スピリット「ステッドさんの姿がはっきり見えます。あの方とはタイタニック号で知り合ったのですが、お話を聞いていて、私には用の無い人だなと思っておりました。年齢もかなりいっておられたようでしたので、霊的なことを趣味でやっておられるくらいに考えたのです。人間、年齢を取ると、一つや二つの趣味を持つものですからね。

私には、そんなことに興味をもっている余裕はなかったのです。お金と、お付き合いのことしか関心がありませんでした。貧しい階級の人に会う機会がありませんでしたし、会う気にもなりませんでした。今はすっかり考え方が変わりました。ところが、こちらはお金に用のない世界です。

母が私を待ってくれています。一緒に行きたいと思います。何年も会っていないものですから、嬉しいです。母が言ってます――これまでの私は、気の狂った人間みたいに、まったく言う事を聞かないで、手の打ちようがなかったのだそうです」

博士「お名前を伺いたいのですが」

スピリット「ジョン・J・Aと申します。皆さん方との縁を嬉しく思います。お心遣いに深く感謝いたします。今やっと、これまで思いもよらなかったものが見えるようになり、聞こえるようになり、そして理解できるようになりました。母達が迎えにやってきました。あの奇麗な門を通り抜ければ、きっと私にとっての天国へ行けるのでしょう。

改めて、皆さんにお礼を申し上げます。いつの日か、もう一度戻って来れることを期待しております。
さようなら」

第2節 ●幸福とは無縁だったと嘆く上流階級出身者
このジョン・J・Aはその後、急速に霊的感覚が目覚め、それからわずか二週間後に、地上時代の上流階級の知人を案内してきている。同じように、ルシタニア号(注)という豪華船と共に海に沈んだまま、彷徨っていたスピリットである。

(注 英国の客船で、1915年に大西洋においてドイツの潜水艦によって撃沈され、乗客に米国人が多かったことから、米国が第一次大戦に参戦する要因の一つとなった)

1916年11月5日  スピリット=アルフレッド・V

スピリット「ある人から、ここへ来れば温まるよと言われてやってきました」

博士「お名前は何とおっしゃいますか」

スピリット「アルフレッド・Vです。客船に乗っておりました。知人のジョン・J・Aがやってきて、いいところへ連れていってやるというものですから、ついてきました。ここへ来れば救ってもらえるというのです。

一体、どういうことなのでしょうか。私はかつてひもじい思いなど一度も味わったことのない暮らしをしていたのに、今は空腹と寒さに悩まされております。全身ずぶ濡れなのです」

博士「それは、あなたの精神状態の反映にすぎません。あなたはもう肉体を失ったのですから、空腹を覚えるはずはないのです」

スピリット「溺れたのをはっきり覚えております。それ以来、ずっと悲惨なことばかり続いております」

博士「死後の世界がどういうところなのかを理解すれば、人の為に役立つことをすることが、自分を幸せにする唯一の道であることを悟られるはずです」

スピリット「裕福だった地上時代でさえ、幸福感というものを感じたことは一度もありません。わがままが過ぎていたのだろうと思います。こんな暮らしをして何になる、という思いがよぎったことが何度もありました。しかし、すぐに『いいじゃないか、愉快に生きればいいんだ』と反発しました。

上流社交界の生活には関心をお持ちでないかも知れませんが、あんな世界に入ると華やかさに溺れてしまいます。私はそういう生活を少しも楽しいとは思っていませんでした。そこで私は、気持ちのはけ口を馬に求めました。いい馬に恵まれると、生涯、忠実に付き合ってくれます。それに引きかえ、人間の社交界では、女性は一面しか見せません――笑顔です。そして、その笑顔は一転して憎しみに変わることがあるのです。そこで私は、愛情を美しい馬に求めたのです。馬が何よりの楽しみであり、馬も私によくなついてくれました。

女性が私に近づくのは、ただ金と快楽が目当てでした。私から搾れるだけ搾り取ろうという魂胆からでした。私も気前よく贈り物をし、快楽にうさを晴らしていました。しかし、幸せというものは感じませんでした。社交界は名誉も恥もありません。もしも、社交界に馬ほどの忠実さと真心を持った人間がいれば、そういう世界にいることに感激もすることでしょう。が、まあ、一度その世界へ足を踏み入れてごらんなさい。男も女も、下らぬ人間ばかりです。

私自身も、その下らぬ人間の一人でした。しかし、まわりには、こんなことでいいのかという私の心の中で問いかける声、すなわち良心の呵責を忘れさせてしまうようなことばかりがある世界でした。それで、何か心安らぐものを求めました。それが馬です。

社交界は、それを当然と割り切れば、それなりに結構いい世界なのです。ですが、以上の話から推察なさっておられると思いますが、私は知らぬ間に、自分のことしか考えない人間になっておりました」

博士「しかし、これからは、そうした過去の生活のことは忘れて、もっと程度の高いものを求めるべきです。そうすれば霊的な目が開けます」

スピリット「私のことを心配してくれる友人が、ここへ案内してくれました。お陰で大分事情が分かってきました。多分――必ずという自信はありませんが、――この調子でいけば、幸せになれることでしょう。私はまだ、心からの幸福感というものを味わったことがないのです。子供の頃から、わがままな生活に慣れてしまっていたからでしょう。

本日は、こういう機会を私に与えてくださって有り難うございました。本当の幸せを味わうことが出来るようになりましたら、もう一度来させて頂いて、その報告をさせて頂くつもりです」

このアルフレッドは、それからほぼ二年後にジョン・J・Aと共に、次に紹介する映画女優のアンナ・Hを案内してきた時に、約束どおりの報告をしている。

1918年9月8日  スピリット=アンナ・H

スピリット「水を! 水をください! (水を与えると、ごくごくと飲んだ)ありがとう! ずっと病気をしていて、まだ元気が出ません。どの医者に診てもらっても、どこが悪いのか分からないのです。安静にしてなさいと言うだけで・・・脚と腰がとても痛みます」

博士「痛みを取ってあげましょう」(と言って霊媒の両脚をもむ仕草をする)

スピリット「あまり無茶に扱わないでください。美しい体形を損ないたくありませんので。もう一度元気になって、女優の仕事に戻りたいのです。ずっと病気がちで、なかなか元気になれません」

博士「お名前は?」
スピリット「アンナ・Hです」

博士「ロサンゼルスには、どうやって来られたのですか」
スピリット「ここはロサンゼルスではありません。ニューヨークです」

博士「どなたの案内で来られましたか」

スピリット「夢だろうと思うのですが、アルフレッドが来て話しかけたのです。私のファンだったのですが、もう死んでるんです。その彼が今、目を覚ましなさいなんて言ってます。私は今、とても身体の調子が悪くて・・・。でも、元気が出て来たみたいです。もう一度元気になって、女優の仕事が出来るようになるでしょうか」

博士「物質の世界での仕事はもう出来ません」

スピリット「したいのです。アルフレッドが色々と心配してくれるんだけど、彼はもう死んでるはずなのです」

博士「ご覧になって、死んだ人間のように見えますか」

スピリット「それが、とても元気そうに見えるのです。でも、私は夢を見ているのだろうと思ってました。おや、ジョンもいる! 二人とも死んだはずなのに」

博士「あなたも死んでるんですよ」
スピリット「いつ死んだというのですか」

博士「少し前に」

スピリット「アルフレッドが、今はジョンと一緒に霊を目覚めさせる仕事をしているのだと言ってます。でも、あの二人はスピリットの存在なんか信じていなかったはずです。私は、死にたくありません」

博士「本当に死んでしまう人はいないのです」

スピリット「死にますとも。お医者さんは、私は元気な身体には戻れないと言うものですから、なんとかして生きてやろうと闘ってきました。生き続けたいのです。病気を克服して元気になりたいのです。美貌を失いたくないのです」

博士「これから『美しいスピリット』になることを心掛けないといけません」

スピリット「二人が、私を連れて行って悟りを見つけさせてあげたいと言っています」

博士「あのお二人も、このサークルに来て真理を見出したのです。ここに来るまでは霊的にとても貧しかったのですが、地上の生活よりはずっと美しい生活があることを理解してからは、とてもリッチになられましたよ」

スピリット「ここは何をなさるところですか。みんなが言うには、『真の生命の悟りへの門』だと言うのですが・・・。

(ドレスの違いに気づいて)このドレスはあたしには合ってないわね。(首と肩に手をやって)この首も顔も身体も、あたしのものじゃないわ。あの方達が言うには、あたしはまだ元気が足りないけど、一緒に来れば、素敵なところへ案内してくれるそうです。その前に学ばねばならないことが沢山あるそうです」

博士「『精神』とは何かということを真剣に考えてみたことがありますか」

スピリット「ありません。ただただ、美しい肢体を保つことばかりを考えておりました。だって、この美しさと演技力がなかったらファンは出来なかったし、生計も立てられなかったはずですもの。

わあ、沢山の人が集まっています。アルフレッドが、ここへ来たら知り合いの人達に会わせてあげると言ってました。それと、美しい家へと案内してあげると言ってました」

博士「そういう世界のことを、その人達は何と呼んでましたか」

スピリット「あたしは気に入らないのですけど、『霊界(スピリットワールド)』と呼んでいます。死後の世界の家なのだそうです。あたしは、霊的な目が開くまでは、地上から持ち越した習性を克服しないといけないのだそうです。アルフレッドが、あたし達は社交や自分の為ばかりに生きてきたので、その償いをしないといけないのだと言ってます。おいでと言ってくれてるのですが、元気がなくて行けません」

博士「病気だったのは肉体の方です。あなたにはもうその肉体はないのです」

スピリット「少し前よりは、元気になったみたいです」

博士「私の妻は霊媒でして、あなたはその妻の身体を使って喋っておられるのです。アルフレッドもジョンも、今のあなたのように、私の妻の身体で喋ったことがあるのです」

スピリット「節々が痛みます」

博士「それは、肉体ではなく、あなたの精神がそう感じているだけです。精神は肉体と別ものです。精神は目に見えないものです。あなたの姿も、私達には見えておりません。あなたは『目に見えない存在』となられたのです」

スピリット「(顔に触りながら)たしかに、これはあたしの顔ではありません。この体形も気に入りません。あたしは美しくないと――」

博士「これからは霊界において、人に役立つことをなさるのが義務なのです」

スピリット「皆さんがあたしに、一緒に来るように言ってます。あたしのことにたいそう関心をもってくださいました。節々の痛みも和らいできました。それにしても、皆さんは、あたしの知らない方達ばかりなのに、なぜあたしはここへ来ているのでしょうか。今夜、ここにいることの理由が分かりません」

博士「私どもは、人間は死後どうなるかについて知るために、色々と実験をしているところなのです。私の妻は霊媒でして、あなたは、その霊媒の身体を使って喋っておられるのです」

スピリット「アルフレッドが、もう行かないといけないと言ってます。あたしは、自分が死につつある夢を見て、絶対に死ぬものかと必死に抵抗しました。死にたくなかったものですから、全精神力を振り絞って、生き永らえようとしました。

そのうち、ある日、急に元気がなくなり、しばらく寝入りました。が、死にたくなかったので、また目を覚ましました。みんなは、あたしが死んだと思ったようですが、死んではいませんでした。寝入っただけだったのです。生命は大切ですので、どうしても生き続けたいと思ったのです。ですが、永い間病気がちで、ずいぶん苦しみました。

そのうち、また寝入ってしまい、今度はずいぶん永いこと眠りました。そして目が覚めてみると、辺りは真っ暗でした。何も見えないのです。闇また闇の世界です。明かりは一つも見えないのです。動転しました。辺りは闇ばかりなのです。

そのうちまた、寝入ったらしいのです。そして、その夢の中でアルフレッドとジョンがやってきて、『アンナ、起きなさい! 助けに来てあげたよ。一緒においで。さあ、おいで』と言うのです。

その言葉で目が覚めかけたのですが、あまりに元気がなく、とても一緒に行けそうにありませんでした。が、二人は『新しい身体が頂けるところへ案内してあげるから、おいで。元気になるよ。もっともっと美しい世界へ行こうよ』と言ってくれました。

それで、ここへ来たのです。今はすっかり元気になりました。どうなのでしょう、もう痛みは出ないのでしょうか。とても辛かったです」

博士「アルフレッドとジョンは、今も昔と変わりませんか」

スピリット「いえ、昔とはすっかり違います。とても真剣な表情をしています。あまり真剣なので、別人のような感じすらします。昔より若返ったように見えるのに、人間的には昔よりしっかりしているように見えます。昔みたいに『ねえ、遊びに行かない?』なんて言わなくなりました。

ファンがちやほやしてくれる間は、生きてるのが楽しかったのですが、それは結局自惚れていたわけで、それが健康を害する元になりました。美貌を保つ為に食べ過ぎないように、飲み過ぎないように、肉を取り過ぎないように――そう思ったわけです。要するに、奇麗だ、奇麗だと言われたい一心だったのです。

お医者さんは、着飾ろうとする気持ちがそうまで強くなかったら、病気にはならなかったはずだと言ってました。が、そんな忠告には耳を貸しませんでした。しっかり食事を摂るように言われても、やはり美しい肢体を保つ為には、毎日マッサージと入浴を欠かさないようにして、食事を制限するしかありません。それで栄養失調になってしまったのです。

暗闇の中にいる時にアルフレッドがやってきて、『さ、そんな美貌や自惚れよりも、もっともっと素晴らしいものを見せてあげるから、おいでよ。そんなものは陽炎みたいなものさ。さ、来るんだ。本当に美しくなる方法を教えてあげるよ。人の為に役立つことをして、自分を忘れ、わがままを無くすことさ』と言ってくれました。

あたしもそうしなきゃならないのかも知れませんね」

ここでアンナは、突如として霊媒から離れた。そして、まる二年後に再び出現して、その後の回復ぶりについて語っている。

第3節 ●死後も”美”に執着する女性

第4節 ●死後、親友の身体に憑依したスピリット
我々がシカゴにいた時分に、S夫人とサイモンズ夫人という大の仲良しがいて、我々との交際もあったが、サイモンズ夫人は『人間は死後、みんな花や木や小鳥になる』と信じていて、スピリチュアリズムを全部まやかしと決めつけ、特に自動書記を馬鹿にしていた。

そのサイモンズ夫人が、浮腫と腰痛で苦しみながら、S夫人に看取られて他界した。それから何年かして、S夫人が鬱病になり、同時に、まっすぐに歩けないほど背骨に痛みを覚えるようになった。二週間ほど入院治療を受けたが一向に改善が見られないので、ついに我々を尋ねて来た。そして、次に紹介する招霊会の後、完全に健康を取り戻した。

1919年10月27日  スピリット=サイモンズ夫人 患者=S夫人

乗り移ると同時に、うめき声を上げながら両手を背中にまわして、痛そうな顔をした。

博士「どこかお悪いのですか。肉体を失っていることに気がついていないようですね」

スピリット「よく分かりません」

博士「痛みは取ってあげますから、まずお名前をおっしゃってください」
スピリット「知りません」

博士「自分の名前くらい知ってるでしょう?」
スピリット「頭が働かないのです」

博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「自分が死んだのかどうかも分かりません」

博士「お友達は、あなたを何と呼んでましたか」
スビリット「サイモンズ」

博士「どこにお住まいでしたか」
スピリット「シカゴです」

博士「シカゴのどこですか」

スピリット「ずいぶん昔の話なので覚えていません。感じがすっきりしません」

博士「どんな感じですか」
スピリット「身体が小さくなった感じで、居心地もよくありません」

博士「ご自分が他人の邪魔になっていたことはお気づきですか」
スピリット「何だかぼうっとしている感じで、しっくりしません」

博士「なぜだと思いますか」
スピリット「分かりません」
博士「スピリットというものの存在は信じてなかったのでしょうね」

スピリット「信じてませんでしたし、今でも信じてません」

博士「じゃ、自分の存在も信じないわけですか。スピリットの存在を信じる人間は、愚か者と思っておられたのでしょうけど、自縛状態のスピリットになるのはもっと愚かじゃないでしょうか。あなたは、その地縛霊になっていたのですよ」

S夫人「このあたしをご存知でしょ?」
スピリット「声に覚えがあります。友達にそんな声の人がいます」

S夫人「今その方は、どこにいますか」
スピリット「シカゴです」

博士「その方の仕事は?」

スピリット「知りません。何もかも真っ暗闇で、何も思い出せません。その声には聞き覚えがありますが、誰だかは分かりません。名前が思い出せません。ただ、シカゴで知り合いでした。よく会いに来てくれました。その方はあたしにとって太陽のような存在で、とても力になってくれました」

博士「何をなさっていた方ですか」

スピリット「いつも明るい性格をしておられたのですが、ある時からスピリチュアリズムに興味を持つようになって・・・。下らないことはお止めなさいと言ってあげたのですが・・・。あたしはあんなものはご免こうむります。

あの方がいなくなって、寂しいです。滅多に会わなくなりました。自分が小さくなったみたいで、居心地がよくありません。あの方の名前がどうしても浮かんできません」

博士「呼び名は何とおっしゃいました?」

スピリット「あ、やっと思い出した! R――です。なぜか記憶が変なのです。時折明かりがさすこともあるのですが、すぐまた狭いところに閉じ込められてしまった感じになるのです。あたしは体格の大きい女ですので、あの場所(本当はS夫人のオーラ)は狭くて窮屈です」

博士「時々熱くなったことがあるでしょう?」

スピリット「ええ、ありました。なぜだか知りませんけど、時々焼かれるような感じがします。今は、辺り一面真っ暗です。何一つ見えません。火で焼かれるのがいいか、窮屈な場所で息も出来ずにじっとしているのがいいか、分かりません。なぜだかが分からないのです。ただ、何か大きいショックを受けたみたいなのです」

博士「あなたは、ショック死をなされたのですか」

スピリット「死んでなんかいませんよ。時々火が降り掛かってくることがあります。雷みたいな音を伴っていて、ズキズキ痛みます」

S夫人「ウィックランド先生をご存知でしょ?」
スピリット「ええ」

S夫人「あの先生が使っておられた器械を覚えてるでしょ?」
スピリット「あの火を発射する器械ですか」

S夫人「そうです。あれですよ、あなたが時々受けてるというのは」

スピリット「でも、あたしは、あの先生から何の治療も受けてませんけど・・・」

S夫人「あなたは、ずっと私を苦しめていたのです」
スピリット「あたしが、なぜあなたを苦しめるのですか」

S夫人「先生に説明して頂きましょう」

博士「別に難しい話ではありません。あなたは今はもうスピリットになっていて、お友達につきまとっておられたのです。居心地が良くないのはその為なのです。今はシカゴではなくて、カリフォルニアにいらつしゃるのですよ。ロサンゼルスです。S――夫人を覚えてらっしゃるでしょう?」

スピリット「ええ、シカゴに住んでました」

博士「その方も、あなたと同じロサンゼルスにいらっしゃるのです」

スピリット「あたしは、シカゴの人間です。いつも脚が痛くて、頭痛も酷かったです」

S夫人「その痛みが、最近、あたしに移ってきたのです」
博士「あなたが、その痛みをS夫人に移したのです」

スピリット「そんなはずはありません。何かの間違いです」

S夫人「シカゴにいらしたウィックランド夫人を覚えてらっしゃるでしょう? ウィックランド先生の奥さんです。あの方が霊媒だったのはご存知でしょ?」

スピリット「よく覚えていません。なぜか記憶がはっきりしません」

S夫人「あなたは、物知りだったはずだけど・・・」

スピリット「何でも知ってたつもりなんだけど・・・。そう、そう、あなたは、あのスピリチュアリズムとかいう馬鹿なことをやり始めたわね。あたしは一切関わりたくなかったわ。あなた、今でもあんなことに時間を浪費してるの?」

S夫人「あなたこそ、このあたしに取り憑いて時間を浪費してたのですよ」

スピリット「いいえ、あたしはスピリチュアリズムなんかに首を突っ込むのはご免です。何の役にも立たないんだから・・・。

あの火だけは嫌だわ――耐えられないもの・・・。とうとう逃げ出しちゃった。痛かったわ。出たと思ったら、別の部屋に閉じ込められてしまって・・・」

博士「『無知の部屋』に閉じ込めたのです」
S夫人「あなたは、死んでからずいぶんになるのですよ」

スピリット「あたしは、死んでなんかいません」

博士「その手をご覧なさいよ。あなたのものだと思いますか。あなたは今、他人の身体を使って喋ってるのです。かつては『イカサマ』だと思っていたものが『ホンモノ』であることを今、あなたご自身が証明しているのです」

S夫人「サイモンズさん、今年は何年だかご存知ですか」

スピリット「何も知りません。あたしの家はどこでしたかね? 娘はどうしてるのでしょうね?」

S夫人「お嬢さんはここにはいません。ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」

スピリット「いいえ。あなた、少し頭がおかしいんじゃない? ここがシカゴであることが分からないの?」

S夫人「あたしは、このカリフォルニアに六年も住んでるのよ」

スピリット「ここはシカゴです。なんて変な人なんでしょう! きっと催眠術にでもかかって、そんな話を信じさせられてるのよ」

博士「本当のことをお話しましょうか。あなたはもう何年も前に亡くなられて、お友達のS夫人につきまとっておられたのです。今そのS夫人から追い出されて、私の妻の身体を使っておられるのです。一時的に使用することを許されたのです。事情をしっかりと理解して頂く為です。

あなたは、サイモンズさんとおっしゃいましたね。ですが、この身体はウィックランドという女性のもので、今、このカリフォルニアのロサンゼルスにいるのです。あなたは、シカゴにいるとおっしゃっていて、その辺のことが得心がいかないようですが、それは、あなたがS夫人に憑依しておられたからです」

スピリット「とても暗い闇の中で彼女が見えたので近づいたのです。どうやらあたしは、しばらく眠っていたらしくて、目が覚めた時に明かりが見えたのです。その中にいると少し明るくなるものですから」

博士「その時、あなたはS夫人の磁気オーラの中に入ってしまい、それがS夫人を苦しめることになったのです。その中から引き出す為に、私が電気を使ったのです」

S夫人「あたしがお願いしたのです」

スピリット「あなたは、あたしのような気の毒な老婦人への思いやりのない人なのね」

博士「もしもあなたご自身が地縛霊に操られていたらどうします?」
スピリット「あなたと話しているのではありません」

博士「あなたは、よほどS夫人に迷惑をかけたいのですねえ」

スピリット「あたしはただ、明るさが欲しくてつきまとっただけです。迷惑をかけた覚えはありません」

博士「ではなぜ、S夫人にかけた電気があなたにこたえたのでしょう? 私はS夫人の身体に電気をかけたのです。あなたではありません」

S夫人「ですから、サイモンズさん、その治療代は本当はあなたに支払って頂かないといけないのです」

スピリット「一つだけ教えてください――私はどうやってここへ来たのでしょうか。あなたの言ってることは信じられないけど、もしその通りだとすると、あなたはこのカリフォルニアにどうやって来たのですか」

S夫人「それは勿論、汽車賃を払って来たのですよ。あなたは払いましたか」

スピリット「払ってるもんですか。ですから、どうやって来たのとかと尋ねているのです。とにかく信じられませんね。あなたは今シカゴにいるのですよ。Sさんは、一度もカリフォルニアへは行ったことがありません」

博士「ほら、あのガタゴトいってる音、聞こえるでしょ? あれはロサンゼルスを発ってシカゴへ向かう列車の音ですよ」

スピリット「あれはノースウェスタン列車です」(米国北西部を走る列車)

博士「そんな列車はここは通りません。こんな言い合いをして、一体、何の得になるというのでしょう? 私達がお教えてしている実情を理解なされば、すっきりなさるのです。あなたは七、八年前に肉体を失ってスピリットになっておられるのに、そのことに気づかずに昔のお友達の身体に取り憑いて迷惑をかけているのです」

スピリット「どうしてそういうことになるのかが理解できません」

博士「どうしてもこうしてもありません。『事実』を申し上げているのです」

S夫人「あなたの遺体は、六年か八年前にワルトハイム共同墓地に埋葬されたのです」

スピリット「あたしは、ずっと眠っていて、そのうち激痛がして目が覚めたまま動けなくなったのです。とても窮屈な感じがして・・・」

博士「それはですね、S夫人の身体があなたより小さいからです。あなたは、S夫人に憑依していたのです」

スピリット「どうやって彼女の身体の中に入ったのでしょう。身動きも出来ない感じでした。とにかく、お二人のおっしゃってることの意味が分かりません。あたしは信じません。一体何の目的でそんなことをおっしゃるのか、それが知りたいです」

博士「『生命』というものについて勉強したことがあおりですか」
スピリット「樹木のこと、自然界のことについて勉強したことがあります」

博士「では、樹木がどのように生長していくかを観察なさったことがあるでしょう? 素晴らしいとは思いませんか。神は生命を賦与し、それが生長させるのです。生命とは何なのでしょう」

スピリット「神だと思います」

博士「『心』というものを、その目でご覧になったことがありますか」
スピリット「心は心です」

博士「その心を見たことがありますか」
スピリット「ありませんよ。でも、心がなければ話も出来ません」

博士「心は目に見えないものですね?」
スピリット「見たことはありません」

博士「では、あなたという存在は私達には見えていないと申し上げたら、どう思いますか。私は、あなたに向かって話をしていますが、目に見えているのは、私の妻の身体だけなのです」

スピリット「あなたの奥さんの身体? Sさん、これどういうこと? あたしの身体はなくなったということなの?」

S夫人「そうです、なくなったのです」

博士「その事実を認めようとしないその頑固さが、あなたを暗闇の中に閉じ込めているのです」

スピリット「実を言うと、一時期、歩いても歩いても、どこにも行き着かないことがありました。辺りは真っ暗でした。疲れて、少し休んでから、また歩き出すのです。そのうち、小さな明かりが見えてきて、それを見た瞬間『Sさんだ!』と思ったのです。『そうだ、あの人は親友だった』――そう思ったら、Sさんの姿が見えたのです」

博士「心に思った念で、S夫人のところへ行ったのです」

スピリット「すると、とたんに全身が痛くなり始めました。それまでは痛みを忘れていたのです。なのに、その明かりに近づくと、痛みがぶり返すのです」

博士「人間の身体の中に入った時に痛みを覚えたのです。自縛のスピリットは人間の身体と接触すると、死に際の痛みをもう一度味わうのです。あなたはその地縛霊の一人になっていたことを理解しないといけません。だから、S夫人に接触すると、地上時代の痛みを覚えたのです。あなたは、死ねば木や花になると信じていたそうですが、なっていませんね? どうしたのでしょう?」

S夫人「あなたの遺体は、シカゴのワルトハイム共同墓地に埋葬されていますよ。なんなら行って墓碑銘を確認してみられたら?」

スピリット「そんなこと、したくありません」

博士「教会へは通っておられましたか」

スピリット「死ねば、すべてお終いと信じてました。Sさん、あなたが信じていたような馬鹿げた考えはもっていませんでしたよ。あたしは、あたしなりの考えがありました」

博士「せっかく神がお造りになったこの世界のことを、あなたは何一つ勉強なさらなかったのですね」

スピリット「(急に興奮して)まあ、どうしよう! どうしよう! 母の姿が見えるのです。墓の中にいるはずなのに――そう、ずいぶん前に埋葬したはずです! 幽霊だわ! でも、とってもきれい! 」

博士「お母さんは、あなたほど考えが狭くなかったのです。死んだら木になるなんて考えてませんでしたよ。素直に学ぶようにならないといけません。イエスも言ってるじゃないですか――『童子のごとくあらずんば神の国に入るあたわず』と」

スピリット「ユダヤ人だったイエスの教えなんか信じません」

博士「何を信じようと、何を信じまいと、それは生命の実相とは何の関係もないのです」

スピリット「母さん、ほんとに母さんですか。まあ、見て、あの美しい道! きれいな木や花が咲き乱れて・・・あの庭、あの家、なんて美しいのでしょう! そこを母が歩き回っています」

博士「お母さんは、木になってはいないでしょう?」

スピリット「母が言ってます――『さ、いらっしゃい。私の家ですよ』と。母と一緒に行けないでしょうか」

博士「無知のままでは『神の国』へは入れません」

スピリット「あの急な坂道を見て! こんな図体ではあんな丘は登れないわ! 母が言ってます――身体で登るのではありません。『悟りの丘』を登るのです。『自分』を忘れないといけません。自分中心に生きてきたこれまでの生活のことは、もう忘れないといけません。そして、これからは、人の為に役立つことをするのです――と。

分かったわ、母さん。分かったわ。たしかに、あたしは独りよがりでした。母さん、登ってみます。でも、手を貸してくださらないと、とてもあんな高いところへは登れません。一人ではダメです(泣き出す)。

もうこれ以上、こんな惨めな状態のままでいるのは嫌です。連れてってください、母さん! 母がこう言ってます――あの『悟りの丘』を登る前にしなければならないことが沢山ある・・・。その一つが、利己主義と嫉妬心と恨みの念を棄てることだそうです。昔の友達に迷惑をかけたことを許して頂かないといけない、と言ってます。あたしの母親だからといって、すぐに連れて行くわけにはいかないそうです。その前に、学ばないといけないことがあるそうです。

Sさん、ごめんなさい。あたしは、ずいぶんあなたに迷惑をかけたそうですね。これからは、あなたのお役に立つことをします。します、きっとします」

博士「相談相手になってくれるお友達が大勢いますよ。高級霊の方に何でもお聞きするのですよ。いいですか」

スピリット「はい、聞きます。先生のなさったことに感謝しないといけないと、皆さんが言ってます」

博士「もう、スピリットの存在を信じますね?」

スピリット「信じないといけないでしょうね。皆さん、このあたしのようにわがままを言ってはダメです。こんな酷い目に遭うことになります。自分を救うのは自分しかいないと、皆さんが言ってます。

では、まいります。さようなら」

第11章 地上時代の信仰から脱け切れずにいるスピリット
〈キリスト教の場合〉
第1節 ●霊的事実に無知のまま他界した牧師からの警告
次の例は、れっきとした牧師で、自信をもってキリスト教を説き、大勢の信者をもっていたが、交通事故で他界してから様子の変化に戸惑い、精神が混乱して彷徨っているうちに、Aという女性のオーラに引っかかってしまった。

A夫人に施される静電気治療による稲妻のような光を、彼は地獄の炎と思い込み、神の代理人として選ばれて真理を説いて来た自分が、なぜ地獄に送られたのかが理解できなかった。

かくして、事故死してから八年目に招霊されたのであるが、さすがにベテラン牧師だけに、私との対話は延々として、かつてない長時間に及んだ。が、最後は霊的事実に目覚めて、当日出席していたA夫人と、そのご主人に詫びを言って去って行った。

次に紹介するのは、それから三年後に戻って来て、その間の反省と償いと勉強の後を振り返りながら、後継者への警告を述べたものである。

1922年3月14日  スピリット=J・O・ネルソン

「今夜は、皆様方へのお礼を申し上げたくてやってまいりました。三年前のあの日、私は本当の真理を教わりました。そして、無意識のうちにとはいえ、地上の人間に憑依していたことを知らされました。

その後、私はつくづく思いました。この地上にいる間に霊的事実を知っておくことが、どんなに大切かということです。私は決して悪い人間ではありませんでした。が、あまりにも無知な人間でした。

何しろ私は、人に真理を説き、正しい生き方を教えるべき立場にあったのですから、本当はもっともっと霊的事実について啓発されているべきでした。今の時代に、教会の説教壇に立つ人の果たして何人が、真実を説いているでしょうか。死後の生命について説きながら、その実、ただ伝統的な教説を繰り返しているだけです。真実に触れてすぐさまそれを受け入れる人もいますが、目をつぶる人もいます。

私は幸いでした。本当の意味で救われました。あの静電気の反応を私は、地獄にいるのだと錯覚していました。悪魔が追いかけているのだと思いました。が、かえってそれによって、地上で為すべきであったことを思い知らされる結果となったからです。(同席していた、かつての患者A夫人の母親のW夫人に向かって)Wさん、あなたにもお礼と、A夫人への詫びを申し上げねばなりません。改めて申し上げますが、私はまったく無意識でした。そういう霊的法則があることを知りませんでした。

人に法を説いているつもりでいながら、自分が一番無知だったのです。キリストが罪を背負って死んでくださった、信じなさい、信じることによって救われるのです、と説いていました。が、それは間違っておりました。信仰に知識を加えないといけません。その知識こそが自由を与えてくれるのです。バイブルも、実はそう述べているのです。なのに私は、そうは説きませんでした。ただ信ぜよと説いておりました。

キリスト教の牧師は、本当の意味での魂の高揚と神の理解においては、何も貢献していません。口を開けば信ぜよ、信ぜよと言うだけです。あまり多くを知られたくないのです。知ると疑問が生じ、質問をします。我々は、それに答えるだけのものを持ち合わせていないのです。

真実を語ればいいのです。本当の意味での神と生命について、信者に理解させてあげるべきなのです。これまでの古びたドグマを説いても通じない時代となりつつあります。教会の座席が埋まることを望むのなら、教えるものを変えないといけません。

牧師としての私が『立派』でなかったことは確かです。平たく言えば、人気がなかったという意味です。それは、私が内心どこかじくじたるものを感じ、牧師としての仕事に全身全霊を打ち込むことが出来なかったからです。

信じることの大切さは、私も知っておりました。しかし、時折、こんな程度ではいけない――もっと死後の生命について現実的なものを知るべきだという強い観念に襲われることがありました。が、私はその度に、心の扉を閉めたのです。そのことを、今一番後悔しています。

私の死は急に訪れましたので、その変化にまったく気づきませんでした。Wさん、あなたはご存知と思いますが、あの時は皆さんと一緒に家路を急いでおりました。踏切のところで列車が通り過ぎたすぐ後、私は反対方向から来る列車に気づかずに横切ってしまって、撥ねられたのでした。

ところが、その時の私は、肉体から離れてしまっていることを知らずに、そのまま家に帰り、部屋に入りました。が、家族の誰一人として私に気づいてくれません。どうなっているのかと思い、一人ひとり捕まえて声をかけるのですが、みんな知らん顔をしています。実に妙な心境でした。

どうしていいか分からないまま、教会へ戻ってみました。そのまま教会に居続けました。そのうち、Wさん、あなたが教会を訪れました。あの時のあなたは、私のことで一杯でした。薄暗い中で、あなたが明かりのように見えました。それで、あなたについて行けば事情が分かるかも知れないと思って、あなたの家までついて行ったのです。そして、家の中に入った途端、どこか狭いところに閉じ込められたような感じがしました(A夫人に憑依した)

やがて私は、寝入りました――寝入ったような感じがしました。ずいぶん永い間、薄ぼんやりとして妙な感じがしていましたが、ある時突然、全身に火を浴びせられ、雷が鳴り響きました(A夫人への静電気治療の反応)。私はてっきり死んで地獄へ落ちたのかと考えました。それ以外に考えが浮かばないのです。『人を救うべき牧師が、地獄のまっただ中にいるとは!』と無念に思いました。

そう思っているうちに、もう一度火を浴びせられたかと思うと、口がきけるようになっていました(ウィックランド夫人に乗り移らされた)。それまでは、なぜか口がきけなかったのです。あの時は、まだ死んだことに気づいていませんでしたので、てっきり元気になったと思い込んでおりました。実際は、このサークルに連れてこられていたわけです。

目覚めさせてくださって有り難く思っております。あの時の『地獄の火』に恨みは感じておりません。あのお陰で『地獄』から『天国』へ、つまり霊界へ行くことが出来たのですから。霊界というところは、地上時代に想像していたところとは、まったく違っておりました。

我々牧師から見て、死後の世界をどう思うか、ですか?

正直言って、牧師は死後のことについて、自分では何も考えていないのです。説教はしても実践はしていません。『人を救う』と言いつつ、では何から救うのかとなると、まるで理解していないのです。

前回ここで初めて、生命の実相について教えて頂いた後、私は死後の生命について多くを見、そして学びました。目が覚めてからの三年間――死んでから三年間とは申しません。かなりの間夢幻の中にいましたので――自分が置かれている実情に目覚めてからというものは、見るものすべてが美しく、心は愉快で、やりたいことが一杯です。

今の私の仕事は、霊界の狂信者を相手にして、真理を説き聞かせることです。彼らは暗い闇の中に置かれています。祈り、歌い、そして、キリストは自分達の罪の為に血を流されたと叫び続けております。ただ、それだけの行為を延々と続けているだけで、何一つ、進歩も進化もありません。

地上にも、精神病的狂信者が大勢いますが、みんな霊界の狂信者に憑依されているのです。だから、歌って祈ってばかりなのです。中には、とても狂暴で手のつけられない者もいますが、私の説得に、ふと心を開いて、目覚めてくれる者もいます。地上で福音を説いている人達が、神学から離れて、バイブルの本当の意味を理解する時代の到来を待ち望んでやみません。

私は今、霊界で用意されていた住まいを頂いて、一応幸せな境涯にいますが、しなければならないことが沢山あるのです。地上で間違った教えを説いた信者達をこちらで探し出して、その間違いを指摘してあげないといけません。私は、ドグマばかりを説いておりました。今、それに代わる真理を教えてあげないといけないのです。

Wさん、私が、あなたの娘さんにあたるA夫人に憑依していたことをお許しください。正直言って私自身は、あんなことになっていたとは知らなかったのです。すべて無意識のうちにやっていたことです。

ついでに、あなたにお願いしたいことがあります。今、あなたが通っておられる教会の牧師のウィリアムさんに、心の奥で気づいていることを包み隠さずに、思い切って信者に説きなさいと告げて頂けませんか。こちらへ来るまでに心を開いておかないと、私のように暗い境涯で悶々と過ごすことになります。

今日の若者は、古いドグマには顔を背けます。それが真理でないことは、みんな分かっております。ずばり真理を説けば、若者はついて来ます。メソジスト教会のジョン・ウェスレーは、心霊現象の意義をちゃんと説いております。それを思い切って全面に押し出して説けばいいのです。

では、失礼します。さようなら」

第2節 ●誠実なメソジストだった身障者
次の例は、教会に真面目に出席し、信者としての義務を忠実に守り、正しい生活を送るということそれ自体は、必ずしも死後の霊的向上を保証するものではないことを物語っている。

1922年7月19日  スピリット=ヘンリー・ウィルキンス

霊媒に乗り移った時の様子は、身体を前屈みにして、地上時代は身障者であったことをうかがわせた。

博士「背筋をまっすぐにできないのですか。さ、目を覚ましなさい」
スピリット「居眠りしているのではありません」

博士「なぜ、そんなに身体をねじ曲げているのですか」
スピリット「背骨が折れてるのです」

博士「折れてなんかいませんよ」
スピリット「いいえ、折れてます」

博士「昔は折れてたかもしれませんが、今は折れてませんよ」
スピリット「どうしても背中をまっすぐに出来ません。折れてるからです」

博士「私達が治してあげましょう」

スピリット「そう言ってくれた人が大勢いましたが、誰一人治せませんでした」

博士「今度こそ、大丈夫ですよ」

スピリット「もし私の背骨をまっすぐにしてくださったら、十ドルあげます」

博士「お金はどこにあるのですか」

スピリット「まっすぐに立てたら、あげます。十ドルでも足りないくらいです」

博士「『歩けるのだ』と自分に言って聞かせるのです。そうすれば歩けます」
スピリット「やって見せてくれますか」

博士「脚を動かしてごらんなさい。歩けますよ」
スピリット「何度もやってみましたが、どうやってもダメでした」

博士「でも、必ず治ります」

スピリット「しかし、私には、お金の持ち合わせがありません。ここしばらく手にしたことがないのです。お金を見つけて手に取ろうとするのですが、まるで生きてるみたいに、すっと抜けていくのです」

博士「ご説明しましょう。あなたは今はもう、スピリットになっておられるのです。『死んだ』のです――そう、地上世界から去ったのです」

スピリット「そうとは知りませんでした。そして、まだ天国へは行っていないというわけですか。私は真面目なメソジストでした。日曜の礼拝も、日曜学校も欠かさず通いました。障害が治りますようにと、一生懸命祈ったものです。仕事は靴職人でした」

博士「お住まいは?」
スピリット「テキサスです」

博士「お名前は?」
スピリット「ヘンリー・ウィルキンスです」

博士「年齢は?」

スピリット「六十を過ぎたじいさんです。三十歳の時にワゴンに乗っていて、馬がいきなり走り出して振り落とされ、背骨を折ったのです。当時は農業を営んでおりましたが、それが出来なくなって、靴の修繕みたいなことしか出来なくなりました。なんとか生計は立てられましたが、きつい時もありました」

博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「思い出せません」

博士「大統領は誰でしたか」

スピリット「ちょっと待ってください――知っていたはずです・・・思い出しました。たしかクリーブランド大統領でした」

博士「何が原因で死んだのですか」

スピリット「私は死んでいません。今も仕事をしていますよ。もっとも、客が差し出した代金を私が頂こうとしたら、若いもんが受け取ってしまうのです。今は、店はその若者の手に渡っているという話は耳にしますが、私はずっとそこで仕事をしてきたのです。なのに、お金は全部そいつが取ってしまうのです」

博士「その店は、あなたが始めたのですね?」

スピリット「そうです、ずいぶん前に。その後、ある若者が見習いにやって来て、色々教えてやりましたが、今はそいつが代金を全部取っちゃって、私には全然くれません」

博士「ですから、あなたはもう地上を去ってしまったのです――死んだのです。その店を営んでいるうちに亡くなって、その後、その若者が店を継いだのです。その若者は、あなたがその店にいることは知りませんよ」

スピリット「たしかに、知らないみたいですね。私が椅子に腰掛けて仕事をしていると、その椅子にそいつが座るのです。どかそうとしても、どけられないのです」

博士「今年は、何年だと思いますか」
スピリット「1892年です」

博士「それは今から三十年前ですよ。ここはどこだと思いますか。カリフォルニアのロサンゼルスですよ」

スピリット「カリフォルニア!?」

博士「着ておられる衣服をご覧なさいよ」
スピリット「誰がこんな服を着せたのですか。女のドレスなんか嫌です!」

博士「ご説明しましょう」
スピリット「その前にズボンを持って来てください!」

博士「その手をご覧になってください」

スピリット「これも、私のものではありません。指輪なんかしたことはありません」

博士「仮に今、あなたがお店で靴の修理をしているとしましょう。その姿を見て、人は何て言うと思いますか。『おいおい、今日はどこかの女が靴を修理してるぞ』と言うでしょうね。『どこかの女』は私の妻なのです。あなたは今、その身体を使っておられるのです」

スピリット「私は女じゃありません。結婚を約束した女性がいましたが、私が事故で障害者になってしまい、彼女は他の男と結婚してしまいました。身障者と結婚するのは嫌だと言うのです。でも、私は彼女が好きでしたし、今でも愛しております」

博士「その女性の名前は?」

スピリット「メアリ・ホプキンスです。本当は身障者になったからこそ彼女が必要だったのです。でも、こんな身体ではダンスにも行けません。ある日、彼女から『身障者とデートするのは恥ずかしい』と言われてショックを受けました。そんなにつれない女だとは想像もしていなかったからです。その時から、身体だけでなく、心まで歪んでしまいました。女は全部悪魔だと思うようになりました」

博士「立派な女性も大勢いますよ」

スピリット「神なんかいるものかと思いました。身も心もこんなに苦しめられるなんて・・・。自暴自棄になるのを必死でこらえました」

博士「今その我慢が報われようとしていますよ」

スピリット「私はせっせと教会に寄付をしました。神がお金を必要としておられると教会は言うのです。時には手元の金がなくなって、その日の食べるものにも困ったことがあります。寄付しないと天国に行けないと言われるものですから・・・」

博士「牧師が説くような『天国』はありませんよ」
スピリット「ではなぜ、あんなことを言うのでしょうか」

博士「生活費を稼ぐ為です。イエスの教えの立派さは、あなたもお分かりでしょう?『神は霊であり、したがって霊と真理の中に神を崇めなさい』とおっしゃっています。

キリスト教は、天国がどこか空の高いところにあるかのように説きますが、『天国』というのは各自の精神状態をいうのでして、目に見える場所ではないのです。

私達は物的身体をもっていても、霊的存在なのです。目に見えない存在なのです。ですから、物的身体から脱け出ても、相変わらず霊的存在のままです。間違った考えに迷わされていなければ、先に霊界入りした人達が迎えてくれて、霊界へ案内してくれます。

神は形ある存在ではありません。神は霊であり、神は愛です。あなたは先ほど愛し合った女性がいたとおっしゃいましたが、その『愛』は目に見えましたか」

スピリット「いいえ。でも、心でその存在を感じ取っていました」

博士「そうでしょう?『愛の中にある者は神の中にある』とイエスは言っております。私はこうして、あなたと話を交わしておりますが、私にはあなたの姿は見えていないのです。見えているのは私の妻の顔だけです」

スピリット「あなたは、先ほど、私があなたの奥さんであるみたいな言い方をされていますが、どういうことなのか分かりません。『死』というものはないとおっしゃりながら、私はもう死んでるみたいな言い方をされてます。でも、ご覧の通り、障害者のままですよ」

博士「あなたが、もし霊的な真理を理解していたら、死んですぐから障害者でなくなっていたはずなのです」

スピリット「ずっと前から正常になってるとおっしゃるのですか」

博士「そうです。もしも真理を知っていたら、です。イエスが言ってるでしょう――『人は、私のことを口先で崇めてくれるが、心は遠く離れている』と」

スピリット「イエスは、我々人間の罪を背負って死んだと、みんな信じてます。真面目に生きた人間は、死後天国へ行くと説いていますが、私はまだ天国へは行っておりません」

博士「キリスト教の言う『天国』へは行けませんね。そんなものはないのですから。もしあっても、そんなところへ行ったら、誰もいなくて寂しいですよ。『天国』とは、霊的真理の理解を通して到達した心の状態を言うのです。あなたは音楽はお好きですか」

スピリット「昔は好きでした。聖歌隊で歌ったこともあります。恋人も同じ聖歌隊にいたのです。素敵なハーモニーで歌った時は、とても幸せでした。が、牧師が壇上に上がると、教会に寄付をしない者のことを悪し様に言うのです。そういう人間は、まっすぐに地獄へ行くことになっていると言うのです。清く正しく生きていても、お金を教会に持って来ないと地獄へ落ちるというのが、私にはどうしても理解できませんでした」

博士「メソジスト教会の創始者であるジョン・ウェスレーは、霊的真理をよく理解していて、死後の生活やスピリットとの交信についても、正しく説いておりました。彼にとっては、死後の世界のことは信仰ではなくて、事実として本にも書いているのです。ところが、信者にはそれが理解できなかったのです。

イエスの教えも、クリスチャンは正しく理解しておりません。というよりは、理解しようとしないのです。それは、教会が理性的に考えることを禁じて、ただ信ぜよと教えるからです。霊的真理は信じるだけではいけません。理性的に理解しないといけません」

スピリット「店で仕事をしていると(死後の話)、時折、父親と母親がやってきました。でも、とっくに死んでいるので、会ってもしょうがないと思って、近づきませんでした」

博士「なぜ、会ってみなかったのですか」

スピリット「だって、私は生きた人間ですよ。店で靴を修理しているのです。母が、一緒においでと言ってくれましたが、身体が不自由だし、お金も稼がないといけないし・・・」

博士「その時既に、あなたはスピリットだったのです。だから、ご両親の姿が見えたのです。あなたは、死んだ後もずっとお店を離れなかった――死後の生命の法則を知らなかったからです」

スピリット「教会へ通わないと、地獄へ行って永久に火あぶりになると教えられました」

博士「永遠の火あぶりなどというものはありません」
スピリット「それは有り難い!」

博士「辺りを見回してごらんなさい。どなたか、知った方の姿が見えませんか」

スピリット「身体は不自由だし、もう靴直しも飽きました」

博士「ここを去った後は、もう靴の仕事とは縁が切れますよ」

スピリット「思い切って遊びたいし、歌も歌いたい。音楽はいいです。身体が不自由になるまでは、歌のレッスンが楽しかったですけどね」

博士「多分、メアリも来ているはずですよ」

スピリット「メアリが? あの女はこの私を棄てて、他の男と結婚しましたよ。でも、幸せにはなれなかった。その男が飲んだくれでしてね。彼女、悩んでましたよ。あれ、母がいる! 母は優しかったなあ」

博士「何かおっしゃってますか」
スピリット「『もう身障者じゃないんだよ』と言ってます。

あれ、母さん、僕は新しい身体になってるよ。でも(と言いながら泣き出す)母さん、女になっちゃってる。なんということだ――女みたいにめかし込んで!」

博士「私の妻の身体で話をしているだけですよ」
スピリット「他人の身体で話が出来るのですか」

博士「出来るのです。私の妻は霊媒といって、スピリットがそれを使って話をすることが出来るような身体をしているのです。あなたが話をしている間、妻の意識は控えていて、表面に出てこないのです。不思議に思われることでしょうが、事実そういうことが出来るのです。あなたは『生命とは何か』という疑問を抱かれたことがありますか」

スピリット「いえ、そんな難しいことを考える余裕はありませんでした。靴を製造する為に頭を使うのが精一杯でした」

博士「それは言い訳になりませんね」
スピリット「母が言ってます――」

ここで突然、そのスピリットが霊媒から離れて、代わって母親が乗り移り、あたかも息子に向かって説教するかのような口調で語った。

「ヘンリー、生命には実感があるのだよ。教会で教わったような神秘的なものは何もありません。お前も知ってのとおり、私とお前はせっせと教会へ通ったのに、父さんは一度も通わなかった。なのに、父さんは霊界へ来てから私よりずっと早く向上していきました。信仰とドグマが私の進歩を妨げたのです。

父さんは心霊学の本を読んでいて、時折交霊会にも出席していました。私達はそんな父さんを気狂い扱いにして、死んだら地獄へ行くと心配していたのに、実際は私の方が惨めでした。

父さんは、私より先に死にました。私が死んだ時、父さんが迎えに来てくれたけど、私はてっきり幻覚だと思ったのです。父さんは一生懸命私の目を開かせようとしてくれたようですが、駄目でした。教会の説くドグマや教義は、多くの地縛霊を生み出す原因になっております。それがまた、地上の人間にも悪影響を及ぼしているのです。

ヘンリー、バイブルにもあるでしょう――『汝が大切にしているもののところに汝の心もある』と。お前にとって大切なものはお店だったのです。死んだ後もずっとあのお店にいて、新しい若い男を雇ったつもりでいたのです。だから、私達が近づこうにも近づけなかったのです。

その第一の原因は、地上で身体が不自由だったことです。それが精神まで不自由にしてしまって、霊体には何の障害もないことが理解できなかった。身障者だという観念が凝り固まって、私達がなんとかしようと思って近づいても、心が通じ合えなかったのです。

だから、ヘンリー、ここで目を覚まして、霊体は真新しくこしらえられたものであることを理解しなさい。昔の不自由だった身体のことを思い出してはいけません。新しく若返るのです。

あなたは、真面目な人間でした。悩みは多かったけど、その中にあって精一杯の努力をしました。あなたを今のような状態に封じ込めたのは、無知と、間違った教義と、信仰です。

ヘンリー、お前にも美しい家が用意されているのだよ。あたしが案内してあげますから、ついていらっしゃい。そこで生命について色々と勉強しましょうよ。まず第一に、自分中心の考えと、無知と、自分に対する憐れみと、他人への嫉妬心をなくさないといけません。心の窓を大きく開くのです。そうすれば、自分の中に神の王国があることを知ります。

まだまだ学ばないといけないことが沢山あります。幸せな心と愛を知っている状態が天国であり、利己主義と無知の暗闇が地獄なのです。地獄は自分でこしらえているのです。あたしも真面目な人間でしたが、霊界へ来て苦しい思いをさせられました。自分中心に生きていたからです。教会へ通ったのも、自分と自分の家族の為でした。死んだ後も、教会で教わったことしか頭にありませんでした。そのことが、お前の妹のオーラに引っかかる原因となり、あの子に憑依してしまったのです。かわいそうに、あの子は精神病院に入れられて、そこで死にました。死んでようやく解放され、私も解放されました。

たった一人の人間、たった一人の家族の為に一生懸命になりすぎるのは感心しません。それが死後もその子、その家族から離れられなくし、悪くすると、私のように、その子に憑依してしまうことになります。ですから、地上にいる時から死後の事情をよく知っておくということが、いかに大切であるかが分かるでしょう。多く知っておくほど、こちらでの幸せが多くなのです(このあたりからサークルの人達を意識して語っている)

霊体というのは、肉体とそっくりです。精神が成長するにつれて霊体も成長します。死ぬということは、肉体にさよならをして霊体に移ることです。地上で私のように自分中心に生きていた人々は、地上の時のままの環境に置かれ、そして苦しみます。それは一種の教育なのです。私の経験を、皆さんの教訓としてください。

私は今、母親を知らない子供を百人以上も面倒をみています。育て上げながら、母親の愛情を味わわせてあげます。彼らは、家庭の温かさを知らないまま、こちらへ来ているのです。

私はヘンリーが可愛くて、ヘンリーの為に一生懸命に働いたのに、こちらへ来てからヘンリーに近づけませんでした。反対に夫は、さっさと高い境涯へと向上していきました。地上で学ぶべきものを学び、何一つ足かせとなるものがなかったからです。私には間違った信仰しかありませんでした。それが障害となりました。皆さん、私の苦しい体験から学んでください。

本日は、息子をここへ連れてくることを許してくださって、有り難うございました。娘もここへ来ております。私も光明を見出し、可愛い子供達を相手にした功徳積みの仕事をしております。

どうか皆さんも、我が子だけを可愛がらないで、全ての子供に愛を向けてあげてください」

第3節 ●死後も自己暗示状態から脱け出せない『狂信者』
宗教というのは、本来は、神及び死後の生命の本質を理知的に理解するのが目的であるはずなのに、人類は未だに恐怖心や迷信、ドグマや信条によって雁字搦めにされていて、死後はどうなるかということについての基本的な認識が生み出す、本当の意味での自由からはほど遠い進化の途上にある。

大半の人間は『死』と呼ばれている一大変化を通過していながら、その事実に気づかず、地上時代の間違った教義が禍いして、地上圏から脱け出られずにいるのが実情である。

宗教的なものに熱心な人が、とかく精神的に異常をきたすのは、そうした行事や集会に、他界した狂信的なスピリットが死の自覚なしに参加していて、熱狂的な雰囲気の中で憑依状態となるからである。

憑依された者の中には『神のささやき』が聞こえるという者がよくいる。それは、低級霊の仕業に過ぎないにもかかわらず、本人はそれを神と思い込む。

そしてますます深みへとはまり込む。

それがさらに悪質なものになると、無意識ではなく意図的に狂信的に取り憑いて、天使を装って『お告げ』を語るようなことまでする。

地縛霊の中でも、とりわけ啓発が難しいのは、その種の狂信者である。地上時代の狭い固定した信仰に固執し、論理的分析と自由な思考を拒否し、死後も一種の自己暗示の状態でわけの分からない説教をわめき散らしている。

1923年3月28日  スピリット=セーラ・マクドナルド

霊媒に乗り移ってすぐから、大声で賛美歌を歌っている。

博士「ここへおいでになったのは、今回が初めてですか」
スピリット「もう少し歌いましょう!」

博士「あなたとお話したいのですが・・・」
スピリット「もう一曲歌いましょう!」

博士「これ以上歌ったら、少し熱狂的になり過ぎませんか」

スピリット「ここは教会じゃありませんか。大いに歌わなきゃ。さあ、歌いましょう、ハレルーヤ! 話って、何ですか」

博士「少し落ちついて話しましょうよ」

スピリット「まず賛美歌を歌わなきゃ。それが教会のしきたりです。永遠に祈り続けましょう、イエスの御名のもとに!」

博士「永遠はちょっと退屈ですね」

スピリット「賛美歌を歌い、そして主に祈るのです。ハレルーヤ! 主イエス・キリスト!」

博士「それまでにしてください。もう十分です。お名前は何とおっしゃいますか」

スピリット「歌いましょう!祈りましょう!」

博士「冷静になって頂くか、それともここを去って頂くか、どちらかにしてください。あなたは、一体、どなたですか。どちらからおいでになりましたか」

スピリット「そのものの言い方は何ですか。ここは、一体どういう教会ですか」

博士「死んでどれくらいになりますか。何かが、あなたの身の上に起きたことはご存知のはずです。これまであなたは、何年もの間、地球上を当てもなく彷徨っておられたのです。冷静にお考えになってみてください」

スピリット「あたしは冷静ですよ。狂ってはいません」

博士「信仰的には狂っておられます」
スピリット「神と聖霊に祈っているのです。(大声で)ハレルーヤ!」

博士「そんな大声を出さなくてもよろしい」
スピリット「イエス・キリストの御名において行っているのです」

博士「ここは、そんな話をする場ではありません」
スピリット「あなたは罪深きお人ですね」

博士「いいですか、よくお聞きなさい。あなたがどなたであろうと、もう肉体はなくされたのです」

スピリット「ここは何という教会ですか」

博士「ここは教会ではありません」

スピリット「そう聞いて安心しました。教会もここまで様変わりしたのかと、びっくりしました。では、イエスの御名のもとに、あたしに語らせてください」

博士「あなたが現在の本当の状態を理解していらっしゃらないようなので、高級霊の方達がここへあなたを連れてこられたのです。あなたはもう『スピリット』になっておられるのです。それも、かなり前からのはずですよ。そのことを教えようとする方達の言うことに、あなたは耳を貸しませんね?」

スピリット「じゃあ、まずあなたからお話ください。そのあとあたしが喋りますから」

博士「何か変わったことが起きたことはお気づきですか」
スピリット「いいえ」

博士「素直にお考えになれば分かります。少し感じが変だということはご存知のはずです。そのことを素直に認めようとなさらないだけです。ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」

スピリット「どうやってそんな遠くまで行ったのでしょう? あたしは宣教師として、あちらこちらで祈り、そして歌ってましたから、いつの間にかそんなところまで行っちゃったのでしょう」

博士「あなたはスピリットになっているのに、そのことに気づかずにいらっしゃるので、ここへ連れてこられたのです。お母さんはあなたのことを何と呼んでいましたか」

スピリット「ちょっと待ってください。頭が働かなくて・・・」

博士「あなたには、もう肉体はないのです。その自覚の無い方は、地上時代のこともよく忘れてしまわれます。あなたは名前も思い出せないのですね?」

スピリット「名前はセーラでした。(大声で)イエスの御名のもとに申し上げます!」

博士「セーラ・何とおっしゃいましたか」
スピリット「マクドナルドです。イエスの御名のもとに申し上げます!」

博士「そんなに絶叫しても、何にもなりません。あなたは死んで、かなりの年月が経っているということが分かりませんかね?」

スピリット「ハレルーヤ! 」

博士「その身体は、ほんの一時だけ使用していらっしゃるのです。聞こえてますか。今年は何年でしょうか」

スピリット「イエスの御名のもとに、そんなことはどうでもいいです」

博士「狂信者は、信仰以外はどうでもいいのですね?」

スピリット「あたしは、敬虔なクリスチャンです――イエスの御名のもとに。神に栄光あれ! ハレルーヤ!」

博士「イエスの言われたことをご存知ですか」

スピリット「知ってますとも! イエスはこうおっしゃってます――『彼らを許すのです。彼らは自分のしていることが分かっていないのですから』と。あたしも、あなた達の為に祈ります」

博士「あなたに祈って頂くには及びません」
スピリット「神に栄光あれ! 」

博士「ご自分が死んだことに気づきませんか」
スビリット「そんなこと、どうでもよろしい」
スピリット「イエスこそ私の味方です!栄光あれ! 」

博士「私達はここで、人間は死後どうなるかを実験的に研究している者です。私達が知ったところによると、狂信者ほど霊的事実を知らず、頑に信仰にしがみつき、わめき散らして信仰を説き、賛美歌を歌っています。イエスは『真理を知りなさい。真理こそ魂を自由にします』とおっしゃいました」

スピリット「神よ、この者達を許し給え。この者達はこれ以上のことが分からないのでございます。皆さんの為に、私が祈ってさしあげます」

博士「それには及びません。とにかく、あなたは現在の自分の身の上が分かっていらっしゃらないのです。しかも、あなたは心の奥では自分を偽っていることを知っている――いかがです?」

スピリット「神よ、許し給え! 祈りましょう!」

博士「神の許しなんかいりません。私の言うことをよくお聞きなさい」
スピリット「(気取った口調で)まだ何か言いたいことでもあるのですか」

博士「なぜ、そんな気取ったものの言い方をなさるのですか。あなたは今、ご自分のものではない身体を使って喋っておられるのです。そんなに強がって、恥ずかしいとは思いませんか。自分で自分を偽っていることに気づいておられるはずです。ここへあなたをお連れしたのは、高級霊の方達です。私の妻の身体を使って、こうして話をして頂いて、あなたの現在の身の上を悟って頂こうとしているのですが、どうやら無駄のようですね」

スピリット「大きなお世話よ!」(と歯をむき出すような言い方で反抗する)

第4節 ●間違いだらけの信仰の犠牲になった少女
結局このスピリットは、一片の理性も見せようとしないので、強制的にマーシーバンドの手に委ねられた。その直後に、今度は少女が乗り移った。今のスピリットの娘で、しきりに泣いている。

1923年3月28日  スピリット=メアリ・アン・マクドナルド

博士「どうしたのですか。泣いていては分かりませんよ」
スピリット「ママはどこ?」

博士「お母さんがいなくなったのですね? 一緒に探してあげましょうね。あなたのお名前を教えてちょうだい」

スピリット「メアリ・アン・マクドナルド」(と言ってから、咳をしたり喉を詰まらせたりして泣き続ける)

博士「泣くのはもう止めましょうよ。なぜ泣くんですか」
スピリット「あたしのママはどうなったの?」

博士「見失ったのですね?」
スピリット「急にいなくなったの。どこにいるのか分からなくて・・・」

博士「私達がいるから大丈夫ですよ。お母さんの名前は?」
スピリット「セーラ・マクドナルド。ママを見つけて連れてきてくださる?」

博士「きっと見つけてあげますよ。お家はどこ?」

スピリット「知りません。ママはお祈りと賛美歌を歌ってばかりで、あたしが一緒にしないと地獄に落ちるって言うの」

博士「そんなことは絶対にありませんよ」

スピリット「あたしは、教会の人達みたいに本気で祈ったり、歌ったり出来ないのです」

博士「祈りも賛美歌も必要ないのです。それは、信仰とは関係ありません。大丈夫です。ここにいる人達は、あなたのような人達を救ってあげる仕事をしているのです」

スピリット「あたし、どうしたらいいのか分からない」

博士「ほんとのことを言うとね、さっきお母さんもここへ来て、あなたと同じようにその身体で話をしたのです。あなたもお母さんも、今はスピリットの世界にいるのですよ」

スピリット「ママはもういなくなったの?」

博士「お母さんはスピリットの世界の病院へ連れて行かれたのです。信仰のことになると、お母さんは変なことばかり言って、こちらの言うことを聞こうとしないからです」

スピリット「ママは、祈りと歌を続けていないと、神様が許してくださらないって言うの」

博士「それは信仰とはいえません。信仰の病気なのです。イエスはそんなことは説いておりません」

スピリット「あの大きな火が見える?」

博士「いいえ、私達には見えません。どこで燃えているのですか」

スピリット「家が全部燃えてしまいました。ママはお祈りと賛美歌ばかりで、私は寝ていたので、火事になっていることに気がつかなかったのです」

博士「もうそのことは心配しないでよろしい」
スピリット「目が覚めてみたら、喉が詰まっていて、息が出来なかったの」

博士「もう、それは終わったことです。何という町に住んでたのですか」

スピリット「知りません。少し待って――今、思い出してみます。火事でぐったりして、何が何だか分からなくなりました。これからどうなるのか心配です」

博士「私達は、あなたのようなスピリットを救ってあげる仕事をしているのです。ここでの勉強が済んだら幸せになりますよ」

スピリット「あのね、あたし達が通っていた教会の牧師さんは『毎晩祈り、すべてを教会に捧げないと地獄に落ちます』と言うのです。食べてもいけない、床に身を横たえて、キリストの為に苦しみなさい、と言うのです」

博士「その牧師さんも病気ですね」

スピリット「乾パンと水しかいけないと言われました。そして、あたしは罪人だから、お金を全部イエスに寄付しないとその罪が消えないと言われました。

それであたしが、イエス様はそんなにお金に困っているのですかと聞いたら、そんな質問は悪魔の質問です、と叱られました。

あたしは一生懸命働きました。頂いたお金は、全部、ママが取って教会に寄付しました。あたしはお店で縫い物をしていました。晩になると、ママがあたしを教会へ連れて行きました。すごく固いパン一切れと水を、イエスの御名のもとに頂きました」

博士「年齢はいくつですか」
スピリット「十六か十七です」

博士「どんなお店で働いたのですか」
スピリット「オーバーオールを縫ってました」

博士「シカゴですか」

スピリット「いいえ。大きい町でしたけど、名前は覚えていません。あの牧師さんはお説教ばかりして・・・」

博士「それも、これからはもうありませんよ」

スピリット「あたしは、神様が愛で、あたし達が神様の子なら、なぜ神様はあたし達にヘトヘトになるまで働かせて、お金まで寄付させるのかが分かりませんでした。神様は、そんなにお金に困っているのですか」

博士「主は、そんな話とは何の関係もありません。何も知らない、心が病気になった人がそんなことを言っているのです」

スピリット「でも、あの人は牧師さんです」

博士「何という教会でしたか」

スピリット「あの牧師さんは、言うとおりにしないと地獄に落ちると言っていました。主のことを喋り通しで、あたしは、こんな話を聞いているよりは、地獄へ行った方がましかもしれないと思ったこともありました。

それに、あたしだって新しいドレスが欲しくてたまらなかったのに、もらったお金を全部主の為に取られたのです。もらうお金は少なかったけど、少しずつ貯めていったら、いつかはドレスが買えたと思うわ。なのに、ママが全部取り上げてしまうの」

博士「全部間違っています。神は『霊』なのです。神は『愛』なのです。そんなムチャクチャな話とは関係ありません。お金なんか必要ないのです」

スピリット「じゃ、なぜ、みんな寄付するのですか」

博士「神様がお金を取っているのではありません。牧師が取っているのです。神様は、お金なんかいらないのです」

スピリット「あたし達がお金をあげる必要はないのですか」

博士「ありません。神は霊です。目に見えないものです。私は今、こうしてあなたに向かって話し、あなたは私に向かって話していますが、あなたの姿は私達には見えていないのです。精神は、目に見えないものなのです。あなたには私の身体が見えていても、私の精神は見えないでしょう? 神も同じです。目には見えないものなのです。どこか定まったところにいらっしゃるのではないのです」

スピリット「でも、あの牧師さんは、神様は玉座に座っていて、その右側にイエス様がいらっしゃると言ってました。もしも本当でなかったら、なぜ牧師さんはそんなことを、あたし達に説いていたのですか」

博士「真理は、牧師さんがこしらえるものではないのです。その牧師さんは、真実を説いていないということです」

スピリット「でも、イエス様は、あたし達の罪を背負って死なれたと言っていました」

博士「それも間違いです」

スピリット「イエス様は『私の十字架を手にして、私の後について来なさい。そして、教会に通いなさい』と言われたそうです」

博士「イエスは、教会へ通う話なんか一度も口にしたことはありません。死後の高い世界の話を説かれたのです」

スピリット「天国のことですか」

博士「天国は天国でも、あなたが思っているようなところではありません。天国とは幸せな心の状態のことです。あなただって、もし新しいドレスが買えたら幸せでしょう?」

スピリット「ええ、新しいドレスが欲しいわ。牧師さんの空想みたいな話は面白くないもの。なのに、お金は全部、主にあげないといけなかったのです」

博士「そんな必要はなかったのです。牧師さんにあげていただけです」

スピリット「お金をあげると、他の人が寄付した古いドレスをくれました。ママはそれで我慢しなさいと言うの。私が嫌がると『主がおっしゃったとおりにしないと地獄に行くのよ』と言って叱りました」

博士「『地獄』という場所はないのです」
スピリット「ないの?」

博士「ありません」

スピリット「地獄は、火が燃えているところじゃないの? あたし、見たことがあります。今でも見えるわ」

博士「それは多分、お母さんが頭がおかしくなって、家に火をつけたのじゃないかな」

スピリット「そうじゃないと思う。地震があって、その後火事になったみたいです」

博士「今の大統領は誰でしたかね」

スピリット「知りません。あのね、あたし、あんまり勉強してないの。九つの時から働きに出ましたから」

博士「お父さんは?」
スピリット「あたし、お父さんを知りません」

博士「学校へ行く行かないは、どうだっていいことです。今はもう身体を失って、スピリットになっていることを知ることの方が大切です」

スピリット「身体を失ったのですか。でも、ちゃんとありますけど・・・」

博士「それは、あなたの身体ではありませんよ。私の奥さんのものです」
スピリット「この衣服は、どこから貰ったのかしら?」

博士「それも、私の奥さんのものです」
スピリット「自分のドレスが欲しいんだけどなあ」

博士「もうすぐ新しいのが貰えますよ」

スピリット「あなたの奥さんのを貰うのは嫌です。貰ってはいけないと思うの」

博士「その靴をご覧なさい」
スピリット「あたし、一体、どうなってるのかしら!?」

博士「お祈りをしていた頃よりも気分がいいでしょ?」

スピリット「力がついたみたい。何か食べたのかしら? とても元気になったみたいです」

博士「健康な人の身体を使っているからですよ。それは、私の奥さんの身体ですから」

スピリット「あなたの奥さんの身体は貰いたくないのだけど・・・」

博士「ほんの一時だけですよ」

スピリット「この後、どこへ行くのですか。もう、あの牧師さんのところへ戻るのは嫌です。あの牧師さんが地獄や責め苦の話をしていると、あたしの目に大きな炎や悪魔が見えるのです」(霊界での話)

博士「それはね、牧師さんが地獄の話をする時は、悪魔や炎を想像しながら話すから、それが本物のように見えるのです。全部、幻です」

スピリット「でも本当に見えました。地獄というのがあんなところなら、あたし、行くのなら天国の方がいいです」

博士「お母さんも牧師さんも、スピリットになっておられます。なのに、そのことに気がつかないのです」

スピリット「大勢の人が歌ったり祈ったりています。出席しないと、牧師さんが怖いのです。跪かないと地獄に落ちるって言うの」

博士「全部、ナンセンスです。その人達もみんな、肉体はもうないのです。そして、バイブルで言う『暗黒』の中にいるのです。盲目的信仰の暗闇の中にいるのです。考えを改めないかぎり、いつまでもその状態の中に留まっています。気狂いじみた信仰に凝り固まった人達ばかりなのです。お母さんも、さっきここへ連れて来られて、その身体を使って話をされたのですよ」

スピリット「誰かがママを押し込んでいました。その後、ママと話が出来なくなりました。そこに集まっている人達は、誰が何と言っても聞こうとしません。歌と祈りばかりを続けています」

博士「その人達は、何年でも何十年でもそうやっているのです。ですが、その人達が叫んでいる『主』は、そういうものには耳を傾けません」

スピリット「あら、地獄がもうなくなってる!」

博士「だから言ったでしょ、あれは牧師さんが考えて造り出した、幻なのです。それが、無知なスピリットには本物のように思えるのです」

スピリット「あたしのママを救ってあげてください」

博士「高級霊の方達が面倒を見てくださるから心配いりません。お母さんを『押し込んだ』のは、その高級霊の方達なのです。あなたとお母さんの違いは、あなたは言うことを素直に聞くのに、お母さんは聞こうとしないという点です」

スピリット「じゃ、神様は、あたしのことで腹を立てたりなさらないかしら?」

博士「勿論ですよ」
スピリット「絶対に?」

博士「神様は、何もかもご存知です。神様はすべてのものの中にいらっしゃるのです。創造者であると同時に創造物でもあるのです」

スピリット「人間は、永遠の罪に落ちることはないのでしょうか」

博士「ありません。絶対にありません。もしも人間が永遠に許されない罪に落ちるとしたら、神様はこの宇宙をこしらえた時に、間違いをなさったことになります。神様は全知全能で、あらゆるものの中に存在しておられるのです。宇宙や人間をこしらえたほどの神様が、人間を罪に落とすような過ちを犯すはずがありません。もしもそうだとしたら、神様は全知ではないことになります」

スピリット「では、どうして牧師さんはそんなことを説くのでしょうか? 」

博士「牧師というのは、勝手にこしらえた教義を述べているだけです。バイブルはたとえ話で説いているのです」

スピリット「イエス様は、あたし達の罪を背負って死なれたのではないのですか」

博士「勿論違います」

スピリット「あそこに大勢の人達がいます。見えますか」

博士「私達には見えません。あの人達はスピリットなのです。とっくの昔に肉体を失っているのです。なのに、それ以上の高い世界が見えないのです。あなたはあの人達のすることについていけなくて、疑問を抱くようになった――それで私達がここへ連れて来て、その疑問に答えてあげているのです。信仰に理解を加えないといけません。あなたはもう肉体はないのですよ。だいぶ前に死んだはずです」

スピリット「何が何だか、わけが分からなくなっていました。頭に怪我をしたのは覚えています」

博士「あなたが住んでいた町の通りの名を覚えていますか」

スピリット「いいえ、覚えていません。サンフランシスコにいたように思います」

博士「お父さんは?」

スピリット「お父さんは、あたしがちっちゃい時に死んだと思います。お父さんのことは、ほんとに何も知らないのです」

博士「辺りを見回してごらんなさい。どなたか知った人はいませんか。他にも大勢の人が、あなたを救いに来てくださっているはずですよ。そこは、地球の周りにある目に見えない世界なのです」

スピリット「奇麗なお庭が見えます。見て、あの美しい花! あんなに美しい花は、初めて見るわ! 奇麗な小鳥もさえずってる! あの美しい湖を見て! 岸辺でたくさんの子供達が遊んでるわ」

博士「そこが霊界なのです」

スピリット「あの、歌とお祈りばかりしている人達より、よっぽどいいわ。あの人達が見えませんか。あの人達を救ってあげることは出来ないのかしら?」

博士「さっき、お母さんを連れて来て、あなたと同じようにその身体に入って頂いてお話をしたのですが、私達の手には負えませんでした」

スピリット「まあ、あの素敵な小さい家。部屋が二つあって花がいっぱい咲いてる庭もついてるわ! 聞いて! 美しい音楽が聞こえるでしょ?」

博士「私達には聞こえないのです」

スピリット「こんな美しい音楽も初めてだわ。全ての花が、その音楽におじぎをしてるみたい。音に色があるような感じがして、花と一緒に踊ってるみたい。音が変わると、色も変わってる」

博士「ここを離れた後は、もっとたくさんの美しいものを見つけますよ」

スピリット「あそこに、一人の優しそうな男の人が立っています。私を見つめて、こっちへおいでと言っています」

博士「さ、美しい木と花と音楽のある世界へ行って、人の為に役立つことをするのです」

スピリット「その男の方がやって来ます。あたしのお父さんだそうです。でも、見覚えがないわ。お父さんは死んだはずよ――『他界した』という言い方をする人もいるけど・・・」

博士「そうね、『他界した』という方が正しいのです。本当に死んでしまう人はいないのです。お父さんも肉体をなくしただけなのです。精神やスピリットは、肉体の中にいる時は目に見えませんが、肉体から脱け出た後は、生きている人間の目には見えないのです。肉体は、スピリットが生活する家のようなものです。スピリットが去ってしまうと、その肉体は墓に埋められます。でも、スピリットは死んでいないのです」

スピリット「あたしは、お父さんの為にお祈りをしたこともあります。お母さんが、パパは地獄に落ちたと言っていたからです。お父さんが今、地獄なんかないよ、と言ってます。とても素敵な方よ。ドレスアップしちゃって。お母さんも、早く分かってくれるといいのだけど・・・」

博士「お母さんのことは心配しないでよろしい。一度その身体で話をした人は、霊界の病院に入院することになっているのです」

スピリット「あら、可愛いインディアンの少女がいるわ!」

博士「素敵な方でしょ? これからその方が案内してくれますよ」
スピリット「一緒に行ってもいいのかしら? 名前は何ていうの?」

博士「シルバー・スターです」

スピリット「それがあの人の名前なの? ねえ、あなた、あたしと遊んでくださる? お友達になってくださるんですって。あの人のお家に連れてって、素敵なものを見せてくださるのだそうです。

嬉しいわ! 新しいドレスも着たいなーこんなボロの服じゃなくて・・・。これではイエス様が嫌がりますものね?」

博士「もう、そんなことは忘れてしまいなさい。立派な方達が色々と教えてくださいますよ」

スピリット「シルバー・スターが、一緒に来たら、おばあさんやお父さんや弟のロレンスのところへ連れてってくれるんですって。まあ、ロレンスだわ! すっかり忘れてた。ちっちゃい時に死んだんだもの」

博士「いくつでしたか」
スピリット「知りません。まだ赤ちゃんだったの」

博士「ここを離れたら、色々なことが分かりますよ」

スピリット「シルバー・スターが、皆さんが辛抱してあたしを救ってくださったことに感謝しないといけないと言ってます。いつかきっと、もう一度ここへ来てお話をします。その時はもっと色んなことが思い出せると思います。

あたしの名前はメアリ・アン・マクドナルドです。またいつかまいります。『神の祝福を』と言いたいけど、あたしから言うのはおかしいわね?」

博士「そんなことありませんよ。さ、シルバー・スターと一緒に行きなさい」

スピリット「分かりました。さようなら」
第12章 地上時代の信仰の誤りに目覚めたスピリット
〈クリスチャン・サイエンスの場合〉
ある一つの信仰に固執して、他の信仰をすべて排斥する態度が、死後の向上の大きな障害となることは、これから紹介する、地上ではインテリに属していた人でクリスチャン・サイエンス(注)を信じていたスピリットが、生々しく証言している。

(注 メアリ・ベーカー・エディという米国人女性が創設した新興宗教。正式の名称をThe Church of Christ,Scientistというところからも窺えるように、キリストへの信仰を基本として『信仰一つで病気は治せる、信仰は肉体に優る、物質は存在しないと思え』という教えを特徴とする)

第1節 ●クリスチャン・サイエンスの信徒の証言
我々の友人で熱心なクリスチャン・サイエンスの信徒だった人が、他界して間もなく招霊されて迷いから覚めた。そのあと再び出現して死後の事情を語ってくれた。以下は、その時の速記録である。

1918年1月27日  スピリット=H・M氏

「また出させて頂いて、うれしく思います。

特に今夜は妻が出席してくれておりますので、生前と同じように語らせて頂きたいと思っております。

――元気そうだな。会えて嬉しいよ。本当なら地上に戻ってくる気にならないところだろうが、君がいるからこそだよ。

地上というところは、小学校のようなもので、経験を通して理解力を養っていくところのようだ。霊界へ来ると進歩また進歩になるのだが、それには霊的摂理の理解が大前提となっている。正しく理解していないと、暗闇に置かれたまま地上圏をうろつき回ることになる。

今思うと、私は地上時代に、少しではあったけど、死後の世界についての知識があったことが幸いしたようだ。わりに早く霊的視力が働いて、霊界の美しさが見えたからだ。地上時代の知人に大勢会っているが、未だに暗闇の中にいる者が少なくないのだ。私は今、そういう人を目覚めさせる仕事をしているところだ。

霊界というところは、素晴らしいところだよ。なんとかうまく描写してあげたいのだが、それが出来なくて残念だ。実に美しいし、実に上手く調和が取れている。

シルバー・スターには感謝しなくてはならない。霊界へ来て真っ先に声をかけてくれたのが、あの人だった。予め霊界の事情を知っていたとはいえ、目覚めるまでにかなりの期間、眠っていたようだ。というのも、死ぬ前の私は、病気の性質上、麻酔薬を使用し続けていたかららしい。が、インディアンの少女の姿をしたシルバー・スターが呼び起こしてくれて、無事スピリットの世界に連れてきてもらえたわけだ。

君も知っての通り、私は永い間病気で、そのままこちらへ来たが、その病気の治し方に間違いがあった。クリスチャン・サイエンスが物質はないと教えるものだから、それを信じたのがいけなかった。

所詮人間は、物質を意志によって無きものにすることは出来ないのだよ。人間も霊的存在であるとはいえ、物的身体に宿っている以上は、その身体に必要な栄養分を摂取する必要があるわけだ。それを私は怠った。

神は大自然を活用する能力を与えてくださっている。それを正しく使えばよいのであって、クリスチャン・サイエンスの信者がそれを拒否して信仰のみで生きようとすると、当然その不自然さが生み出す結果も不自然なものとなる。私がその犠牲者というわけだ。強烈な意志と信仰心とをもって信者となり、物質なんかないのだ、意念で病気を克服するのだと、一生懸命頑張ったが、所詮無理だった。

それを説いたエディ女史は、今、大変苦しんでおられる。考えてみれば不自然な話だ。例えば、ドレスのどこかが綻べば、同じ色の同じ性質の素材で繕うのに、彼女はそれを意志の力で生み出せと説いたようなものだ。

結局、私はろくに食事らしい食事をしなかった為に、器官そのものが衰弱し、機能が衰えてしまったわけだ。医者へ行けば良いものを、それを意志の力で補おうとした。ドレスにあいた穴を繕うことをせず、穴なんかあいてないと言い張っていたようなもので、身体というものの存在を無視した、その報いに他ならないわけだ。

身体を強くしたければ、スタミナをつけるための方法を講じないといけない。なのに私は、それを精神力だけで補おうとして、食事らしい食事をせずに、ただ衰弱させて、それで死亡したわけだ。

神は、人間に物的身体を与えると同時に、それを健康に保つ為の知恵を生み出す知力も与えてくださっている。そのどちらに偏ってもいけない。私は、身体に着せる衣装にはずいぶん心を配ったが、身体そのものは全く大事にしなかった。衣装に配った気遣いの半分でも身体に向けていたら、今もまだ地上で元気に生活しているのではないかと思う。

そのうち多分『死』というものは存在しない――この世からあの世へと移行する為に、物的身体から脱け出るだけのことだ、ということが常識となる日が来るだろう。そうなると、ちょうど旅に出る前に旅先での準備をするように、死後の生活に備えて真面目に準備をするようになることだろう。そこには『死の恐怖』は全くない。

クリスチャン・サイエンスの信者の多くが、身体の手入れを疎かにし過ぎて、私のように早死にしている。理性を使わずに気力ばかりで、栄養が偏ったり不十分だったりするわけだ。私も物質はないのだと真剣に考え、空気だけ呼吸していれば生きていけると信じていた。言わば催眠術にかかったような状態になって、物質界にいながら物質的な生活をしていなかった。

(サークルのメンバーに向かって)もしもこの妻がいなかったら、私は食べることすら拒否していたことでしょう。幸か不幸か、妻はクリスチャン・サイエンスの信仰にはあまり熱心ではなかったのです。もしも二人とも一生懸命だったら、死体が二つ転がっていたことでしょう。

そろそろ失礼しなくてはなりませんが、最後に、私が他界した時の様子と、その後の体験を少しばかり述べておきましょう。

私は、シルバー・スターに呼び起こされて目を覚ましました。が、まだ死んだことに気づいていませんでした。そのうち、身体がとても楽なので、これはついに精神力で病気を克服したのだと思ったのですが、実は今と同じくウィックランド夫人に乗り移っていたのでした。

博士から『どなたですか』と聞かれて、変だなと思いました。そのあと博士から色々と説明して頂いて、ようやく自分が一週間前に死んでスピリットになっていることを知りました。そう自覚すると同時に、既に他界している父や母、弟や妹の姿が見えるようになり、その後さらに親戚や友人と再会して、確かに死後の世界へ来ていることを確信しました。

ウィックランド夫人の身体を離れた後は、なぜか体力の衰えを感じ、とても眠くなりました。そのうち宙に浮いたような感じがして、ただただ眠り続けました。そして、次に目が覚めてみると、周りに親戚や友人が来ておりました。そして『もうすっかり元気になったから、これから霊界見物に連れてってあげよう』と言うのです。

誘われるまま後についていくと、彼らはみんな『自分の家』を持っていることを知りました。その一つ一つを訪ねて回ったのです。その時の印象は、全てに『調和』が行きわたっているということでした。そして、みんな異口同音に、霊界というところはボケッとしていられないところで、一瞬の休みもなく、何かの仕事に携わっている、ということを聞かされました。そして『さ、あなたもすっかり元気になられたようですから、いいところへ案内してあげましょう――地球へね』と言われて、びっくりしました。

最初に浮かんだのは妻のことでした。(奥さんに向かって)君のことはずっと気にかかっていて、是非会いたいと思ってたよ。

霊界から地球圏へと戻り、そしてついに地上へと着きました。地球というのは、ごく小さな天体です。その周りに、地球に属する暗黒の境涯があります。その外側に霊界があるわけで、霊界と物質界との距離は60マイル程です。

キリストも、その暗黒の境涯にいる地縛霊達に会いに降りて行っております。そこは言わば『無知の牢獄』です。私達も、そこを通過しないことには地球へ来れません。その途中で見た暗黒界の光景は、とても口では説明できません。

そこには歪んだ心の持ち主、利己主義者、嫉妬の固まりのようなスピリットが集まっていて、それこそ身の毛もよだつような状態の中で暮らしています。どの顔にも醜い性格が、そのまま現れています。衣服は地上の時の好みのものを身につけています。記憶がそうさせるのです。

彼らの存在は、地球にとって言わば『害虫』のような悪影響を及ぼしています。気味の悪い虫けらが群がって、毒々しい雰囲気を発散しています。地縛霊の境涯だそうです。

そこを通過して、ようやく物質界へと到達しました。そこで私が目にしたのは、まるで蟻のように動き回っている人間の群れで、その一人一人に、たいてい地縛霊の一人や二人がつきまとっている光景です。船底に付着する藤壷のように、ひっついたり振り落とされたりしています。その光景をどう言い表せばよいか、分かりません。

(奥さんに向かって)私はずっと君のそばにいたんだよ。君は、なんとなくそれを感じ取っていたみたいだね。僕は、まだ精神的に頑健でないので、君に霊的に印象づけることは出来なかったけど、君の方は気づいてくれたみたいだったよ。勿論、ホンの少しだけどね。まだ僕の方が霊的に君に近づく要領が分からないのだ。そのうち勉強して、君を陰で援助するようになるつもりだ。

(博士に向かって)この度は、このサークルで話をさせて頂く光栄をたまわって、有り難く思っております。いずれまた、来させて頂きたいと思っております」

クリスチャン・サイエンスの教祖であるM・B・エディ女史も、何度か我々のサークルに出現して語っている。その時は決まって大勢のスピリットを呼び集めて、一緒に聞かせている。地上時代に彼女が物質と生命について説いた間違った概念から抜け出られないスピリット達である。次に紹介するのも、そうした目的をもった、いわば『懺悔』の講演である。

1918年2月24日  スピリット=メアリ・ベーカー・エディ

「また出させて頂きました。私は未だに惨めな思いをさせられております。疑わないでください。本当なのです。なぜ人は疑うのでしょう。

神よ、どうか救い給え! 私は今酷い目に遭っております。

正直言って私は、死後の実相を知っておりました。地上にいた時から知っていたのです。が、自分独自の宗教を持ちたいという野心に唆されて、その真理への扉を閉じてしまったのです。スピリチュアリズムを過去のものとして葬り、何か新しいものを――スピリットの教えを届けるだけとは違う、目新しいものを、と考えたのです。

その為に、私は『自我の独自性』を旗印にしようと考えました。自分は外部からの何ものにも左右されることはない――霊的影響力もない、インスピレーションもない、と説きました。自分があるのみで、その自分の精神力を発揮して『無限』と一体となる――そうすれば病気は治るのだと説きました。霊界との連絡を断って自分中心に考えよ――端的に言えば、それが私の教えでした。一方では、実は、心霊治療の存在も知っていたのです。

私は霊媒体質の人間でした。子供の頃からよく憑依されていました。それが人目には異様に映ったようです。それを起きなくしてくださったのは、私の恩師のクィンビー博士(注)でした。博士はその原理についてよく理解しておられました。私はその博士の学説を取り入れました。が、都合のいいところだけを取り入れたところに間違いがありました。その最大の原因は、物質の存在を否定したことにありました。これには、私なりの体験が禍いしているのです。

(注 Dr.P.P.Quimby メスメリズムないしヒプノティズムと呼ばれる催眠療法とは異なる独自の治療法を打ち出した精神科医であるが、確固とした体系を持つに至らなかった。ただ、その治療法によって健康を回復した人達が次々と弟子となって、そこから一種の『新思想運動』のようなものが生まれた。それに加わった一人がエディ女史で、やがて信仰一本による治療を柱とする新宗教を興すに至った)

ある時私は、病気のまま他界して霊界でも病人のつもりでいるスピリットに対して、霊界の指導者が、物質は存在しない――肉体はもうなくなっているのです、と説き聞かせている場面を霊視したのです。こんなふうに言っておりました――『物質のことは忘れなさい。ただの想像上の産物に過ぎません。あなたはもう病気ではありません。病気だと思い込んでいるに過ぎません。病気は物的身体にしかないのです。それを克服して内部の霊性を発揮しなさい』と。

その光景を見て私は、これは、同じことを地上でやりなさいという意味なのだと受け止めたのです。そこに間違いがありました。霊界へ行ってなお物質に囚われている人にとっては『物質を克服しなさい』と説かねばなりません。暗闇の中にいる地縛霊は、地上時代と同じ物的感覚から抜け切っていないから、そういうことになっているのです。ですが、それをそのまま地上の病人に当てはめようとしたところに間違いがありました。何しろ私には、物質とは何かということすら説明出来なかったのですから。

今の私は、私の信者に物質の存在を認識させ、死後の世界の実相を理解してもらいたい気持ちで一杯です。出来ることなら地上の私の教会へもう一度戻って、真実の神の摂理を説きたいところです。神とは宇宙の大霊であり、私達はその大霊の一部なのです。この大原理を理解すれば、物質を克服することが出来ます。

物質界の人間は物的身体に宿っています。それが病気になるのは、健康を保つ為の何らかの要素が欠けているからです。それは、ある程度までは精神力でカバー出来ます。私はそう説くべきだったのです。物質の存在を全面的に否定しなければ良かったのです。

正直に言って、私はお金が欲しかったのです。世界で最も豪華な教会を建造したいという野心がありました。世界中に自分の教会を建て、自分の教えを広めたいと考えておりました。

どうか疑わないでください。私はエディです。クリスチャン・サイエンスのメアリ・ベーカー・エディです。今では平凡な一介の人間に過ぎません。間違った人生を送った、罪深い人間です。私こそ救って頂かねばならない身の上です。地上で私を信じていた人達がやって来ては、私に救いを求めます。が、私こそ救いを求めているのです。信者達が私にしがみついて、なんとかしてくれと頼みます。私が、彼らの幸せへの扉を閉じてしまったのです。

私が、このサークルを訪れたのは、ここへ招かれた私の信者が数多く救われていることを知ったからです。私も各地を訪れて、霊媒を通して私の教えの間違いを説いております。数人ずつのサークルですが、その方がよく理解して頂けます。このサークルにも時折来させて頂ければと思います。それ以外に、私の救われる道がないのです。

本日も大勢のスピリットがここに集められております。皆、物的感覚から脱け切れない者ばかりです。私は今、皆さんに語りかけていながら、実はかつての私の信者に語りかけているのです。きっとこの中の多くのスピリットが、潜在意識を刺激されて、目覚めてくれるものと確信しております。この機会を与えてくださったことに感謝いたします」

サークルのメンバーからの質問「最近『霊界からのエディ女史の告白』というパンフレットが発行されていますが、あれは本物と受け取ってよろしいでしょうか」

「間違いなく本物です。私はチャンスさえあれば、いつでもどこでも語っております。本日のこの話で終わりにするつもりはございません。私の教えの信奉者に対して、あらゆるチャンスを利用して真実を語り続けます。

エディが出たとの噂を、これからもよく耳にされるはずです。各地で話題を振りまいて回ります。疑う方もいらっしゃるでしょうが、構いません。私は休まず続けます。皆さんにも、私の告白の話題を広げて頂きたいのです。大規模なものは求めません。少しずつでいいのです。そして、こうして時折語らせて頂ければ、霊界へ来ている私の信者を連れて来て聞かせたいのです。やはり、こうして肉体に宿って語る方が(波動の関係で)心に響き易いようです。

この度のご厚意を感謝致します」

同じ年の六月に、エディ女史の狂信者の一人が招霊された。自分の信者を啓発することの難しさを知ってもらう為に、エディ女史自身が連れて来たものである。

1918年6月16日  スピリット=女性であること以外は不詳

スピリット「ここはどういうサークルですか」

博士「無知なスピリット、暗闇の中にいるスピリットを救ってあげることを目的としております」

スピリット「あんなに歌うのは良くないです。静かにして、精神を集中して理解すべきです」

博士「何を理解するのですか」
スピリット「正しい悟りです」

博士「それは何ですか」
スピリット「神の霊性です」

博士「それはどんなものですか」
スピリット「お分かりにならなければ勉強なさることです」

博士「神とか霊性とかについて、ご説明頂ければ有り難いのですが・・・」

スピリット「神とは万物の中に存在し、かつ、万物そのものです。私達は、その偉大な霊性の一部なのです。その大霊に向かって心を集中するのです。内部に宿る高等なエネルギーを発達させるのです。でも、今日はそんな話をしに来たのではありません」

博士「我々を啓発してくださらないのですか」
スピリット「クリスチャン・サイエンスの教会の会員でないと・・・」

博士「さっき、神は万物の中に存在するとおっしゃいませんでしたか。我々の中にもいらっしゃるのでしょう?」

スピリット「正しい悟りを得ればの話です。正しい悟りを得なければ神の一部ではありません。皆さんは俗物の部類に入ります」

博士「神は万物の中にあるのに、私達は神の一部でないのですか」
スピリット「あなた方の質問にはお答えする気はありません」

博士「俗物も神の一部ではないのでしょうか。死後はどうなるのでしょうか」

スピリット「私は死とは何の関わりもありません」(クリスチャン・サイエンスでは『死』を無視するように教えている)

博士「神は見出されましたか」

スピリット「神は、宇宙の謎を理解した時に自分の心の中に見出すものです」

博士「あなたの場合はいかがですか」
スピリット「私には悟りがありますから、大霊と一体です」

博士「何の悟りですか」
スピリット「神と、自分の開発についての悟りです」

博士「私の見るところでは、あなたは利己心を開発しただけです」
スピリット「そんなものは俗界の話です」

博士「肉体を失った生命はどうなるのでしょうか」
スピリット「無限なる生命のもとに戻ります」

博士「それはどこにあるのでしょうか」

スピリット「ご存知ないのですか。私には分かっておりますが、今その話をする気になれません。議論はしません。私自身は知っていますが、教えたくありません。私は『神によって選ばれた者』の一人なのです」

博士「無知な者には教えたくないわけですか」
スピリット「はい、教えたくありません」

博士「何という教会に属しておられたのでしょうか」
スピリット「『悟りの教会』です」

博士「それは、どこにあるのでしょうか」

スピリット「本当は世界中にあるべき教会でして、悟りを開き、物質と俗物根性を克服し、無限なる生命と一体となる為の教会です」

博士「クリスチャン・サイエンスの信者なのですね?」

スピリット「そうです。なんでこの私が、あなた方のような俗物根性の固まりのような人達のところへ降りて来なければならないのでしょうか」

博士「そこですよ。あなたほどの方が、こんな土塊で出来た人間共のところへ降りて来たことを変だとは思いませんか。そんなことになるような、何か大きな過ちを犯しておられるに相違ないのですが、いかがでしょう?」

スピリット「多分、俗界での使命があるのでしょう。俗物根性を棄て去るように、そして無限の大霊と一体となるようにと教える為でしょう。あなた方は、まだ悟りを開いていらっしゃらない。正しい悟りへと導くのが、私が、今回こうして降りて来た目的なのかも知れません。

その為には、まず最初のステップとして、エディ女史のお書きになられたものを読まないといけません。それから無限と一体となって俗物根性を棄てるのです。今はまだまだ無限なる存在を理解していらっしゃらない」

博士「その『無限なる存在』は、あなたのことを何とお呼びになっておられますか」

スピリット「そんなことをあなたと語り合ったり、議論したりするつもりはありません」

博士「あなたが、まだ俗物だった時のお名前を教えて頂けませんか」

スピリット「名前? 名前というのは俗界のものです。私にはもう関係ありません。そんなことに関わると霊格が下がります。私は無限なる存在――あなたの内部に宿る大霊について教えにまいったのです」

博士「そのご足労に対して二ドルお支払いしたいのですが、いかがでしょうか?」

スピリット「それを俗物根性というのです。内部の神性の火花に点火するのです。そうすれば神の元に近づけます」

博士「こんな私達でも、そんな高いところまで上がれるものでしょうか」

スピリット「上がれますとも――勉強に勉強を重ねなければなりませんが・・・。それしか救いの道はありません」

博士「あなたはとても高度な段階まで進んでいらして、私達とは話が合わないみたいですね」

スピリット「私は、俗界からはるか遠くへ隔たってしまって、本当は戻ってくる必要はないのです。向上あるのみです」

博士「こうして俗界へ降りてこられるのには大変な苦痛を伴うことでしょうね? でも、古い諺に『上がる者は下りなければならない』というのがあります」

スピリット「あなたは、一体いかなる素性の人間なのですか」

博士「ただの常識人――あなたのおっしゃる『俗物』ですよ」
スピリット「では、私が少しでも高いレベルへ導いてさしあげましょう」

博士「お名前は何とおっしゃるのでしょうか」

スピリット「『インフィニット』と呼んでくだされば結構です」(『無限』の意味)

博士「キリストは罪深き人間のもとに降りてこられました。あなたはそのキリストをも超えていらっしゃるわけですね?」

スピリット「私は無限なる神と一体です」

博士「その神とお会いになられましたか」

スピリット「神は内部にましますのです。全ては無限なる神の一部なのです。大宇宙の神と共にあるのですから、幸せなのです。喜悦と調和があるのみです。私はその神と一体となっています。あなた方は、まだ土塊の中に宿っていて、そういうことを何もご存じない」

博士「これはまた、たいそう念の入ったご教示ですね」

スピリット「その無知の状態を克服するのです。一種の過ちなのですから・・・」

博士「誰の過ちでしょう――神の、それとも人間の?」

スピリット「私は、あなた方を向上させてあげないといけないのです。悟りを開かせ、神と一体となるように導く為に遣わされたのです」

博士「論争してみるのも面白そうですね」
スピリット「私には、これ以上の教えは無用です。神と一体なのですから」

博士「クリスチャン・サイエンスでは、死後はどうなることになっているのでしょうか」

スピリット「神の一部にして頂けるのです。地上で私はクリスチャン・サイエンスの総本山であるボストンの教会に通っておりました。『選ばれし者』の一人なのです」

博士「エディ女史にはお会いになりましたか」

スピリット「エディ女史はキリストそのものです。女史は、私にとってのキリストです。神そのものなのです。地上でもっとも優れた女性であり、全ての者が崇拝の対象とすべきお方です」

博士「あなたはいつからクリスチャン・サイエンスに、そこまで夢中になられたのですか」

スピリット「答えません」

博士「エディ女史は、他界されてどれくらいになりますか」
スピリット「あなたと話をする気はありません」

博士「あなたとエディ女史のどちらが先に死なれましたか」
スピリット「(毒々しい言い方で)あなたの質問には答えません!」

博士「神と一体のあなたに、それほどの『毒気』があるとは知りませんでした」

スピリット「エディ女史は死んでいません。これからも永遠に死にません。無限なる大霊についての教育者なのですから」

博士「エディ女史にお会いになったことがありますか」
スピリット「今、ボストンにいらっしゃいます」

博士「もう亡くなりましたよ」
スピリット「亡くなっていません。永遠にお亡くなりになりません」

博士「数年前に死にました」

スピリット「女史自ら死なないと説いておられるのです。土塊から一気に無限の存在になられたのです」

博士「あなたは、死んでどのくらいになりますか」
スピリット「私は死んでいません。土塊の肉体から離れただけです」

博士「このロサンゼルスまで、どうやって来られましたか」
スピリット「ここはロサンゼルスではありません。ボストンです」

博士「ある高級霊の一団があなたをお救いする為に、ここへ連れてこられたのです」

第2節 ●クリスチャン・サイエンスの教祖の懺悔-その一

第3節 ●”死”んでなお教祖に傾倒する狂信者

第4節 ●クリスチャン・サイエンスの教祖の懺悔-その二
結局このスピリットは、この方法ではラチがあかないと判断され、霊媒から引き離された。代わってエディ女史が出て、右のスピリットのことに関連させながら、次のように語った。(その後の一年間に二度出現している。ここでは重複を避けて、以上の三回の話を一つにまとめて紹介しておく)

「こんばんわ、エディです。メアリ・ベーカー・エディです。今ご覧に入れた、かつての私の信者に関連して申し上げたいことがあって、出させて頂きました。

今のようなケースでは、スピリット対スピリットとの関係での説得では駄目でして、もう一度物的身体に宿らせてみる以外に手だてがないのです。いずれにしても、こうした信者を見ると私の心は痛みます。私が真実を知っていながら、それに心を閉ざしたことに全ての原因があるのです。もしも私が霊的真理の重大性を理解し、そのままを教えていれば、こんなことにはならなかったはずです。私は本当のことを、ちゃんと知っていたのです。なのに、自分を偽ったのです。

今回の招霊に先立って、私はマーシーバンドの方にお願いして、かつての私の信者を百名ばかり集めて頂きました。ウィックランド夫人に乗り移ったスピリットは功を奏しませんでしたが、その様子を見物していたスピリットに対して、いい実物教育になったと考えております。

地上時代の私は、信者に対して精神のみが実在であると説き、私の著書を読んで読んで読み返し、第二の本性としてしまいなさいと言い続けました。それを素直に信じて実行してきた信者が、毎日のように霊界入りしてきます。そして同じことを実行し続けています。私が、もうそんなことをしなくとも良いと言って、ごく当たり前の霊的事実を説いても、まったく耳を傾けようとしません。私の著書に書いてあることしか念頭にないのです。その、狭くて間違った世界に閉じ籠ったきりなのです。

今夜はマーシーバンドのご厚意に感謝しております。そうした私の信者が大勢連れてこられて、今の女性のスピリットを貴重な実物教育としてくれたことと思います。本人自身も、いずれは目覚めてくれることでしょう。

私も元々は、入神霊媒でして、リーディング(注)の催しに出席しておりました。が、正直言って、私は霊媒という受け身の仕事に飽き足らず、自分独自の宗教を興したいという野心を抱いたのです。そして、クィンビー博士の説と、前回申し上げた私の霊的体験を組み合わせて、クリスチャン・サイエンスを創立しました。

(注 霊視力と霊聴力を使って、手渡された封書の中身を読み取ったり、他界者の遺品を手にもって、そのスピリットの現在の状態を述べたり、本人からのメッセージを伝達したりする。時には何の手がかりもなしに、列席者の側に寄り添っているスピリットに関して、他人の知るはずもないプライベートなことを述べたりすることもある)

私には霊能があり、特に晩年は霊界と現界を何度も行き来しておりましたから、霊界の実情は分かっていたのです。既に他界していたアルバートからも、本当のことを語っておくべきだと強く諭されていたのですが、私はそれを拒否しました。自動書記による通信も、実はたくさん受け取っていたのです。が、通常意識に戻るとそれを破棄しました。

リーダーの立場に立つと、人間はとかく自分独自のドグマを主張したがります。それを目玉にして信者を集め、それを自分の金づるとして確保する方策を考えます。少しの間は上手くいっても、そのうち必ず真実が頭をもたげ、広がります。

真実を恐れてはなりません。真実を恥じてもなりません。人間は、いつかは真実が分かるようになります。真実は実在しているのですから、いつかは花開きます。ドグマや新説で飾り立ててはいけません。私も恐れず真理を説いていれば、私の教会にとっても、よほど良かったはずなのです。

次に、私がこちらへ来てからの体験を少しだけ述べておきましょう。私は死後のことについて知っているつもりでした。実は意識の段階では、自分だけは肉体に宿ったまま永遠に死なないと思い続けていた為に、死後の現実を目の当たりにして戸惑いました。そして今、それがいかに幼稚で滑稽な考えであったかがよく分かります。

ご承知の通り、私は物質というものは実在しないと説いておりました。なのに、私の死に際して、なぜ遺体の埋葬にあれほどの大金をかけたのか。それは明らかに私の教えに反することでした。が、やはり地上の人間にとっては、肉体は実在です。

霊界へ来て生命に目覚めた時――こちらの生命こそ実体あるものです――私は肉体に代わって、霊体を備えておりました。地上にいた時も、度々霊界を訪れては肉体に戻るということを体験しておりましたので、この度もまた戻れるつもりでいました。が、肉体は朽ちておりました。それなのに、なお私は霊体を肉体と思い込んでいました。死というものはない、絶対に死なない、という意識を強く持ち続けていた為に、そういう観念が出来上がってしまい、霊的実情を悟っていく上での障害となっておりました。

そのことを、私に諭す為にまず姿を見せてくれたのは、弟のアルバートでした。ご承知のように、私は死者が戻ってくることはないと説き、著書にもそう書いております。それで弟を見て、瞬間、その現実を無視しようと思いました。死者のスピリットと会うなどということはないのだと自分に言い聞かせていますので、それが真実に思えていたのです。若い頃霊媒をしていた時期にも、弟が私に乗り移って喋ったことがあるのですが、その後それを拒否するようになりました。

その弟が面と向かって『考えが間違ってるよ。どこがどう間違っているか教えてあげるから、おいでよ』と言うのです。

次に現れたのは最初の夫でした。私のことを一番よく理解してくれていて、彼の手引きで次から次へと、かつての知人・友人と会うことが出来ました。そして、師のクィンビー博士に出会いました。すると、こう言われました――『君は私の説を自分のものにして、私のことはその後一切口にしていないね』と。

そう言われて私は、自分がいかに利己的だったかを思い知らされました。罪の意識を感じました。博士に救って頂きながら、その恩を忘れておりました。

さて、少し時間を取り過ぎたようですね。今回は、私の告白記事(注)を公表してくださったことに対するお礼を述べたくてやってまいりました。あれによって、私の信者が目を覚まし、生命は死後にこそ実在するのだということを理解してくれることと期待しております。

他人の教えにすがってはいけません。自分で考え、自分で判断し、自分をコントロール出来るようにならないといけません。他人の為に役立つことをするのは、それから後のことです。

私は、メアリ・ベーカー・エディです。出させて頂いたことに感謝します。さようなら」

(注 ウィックランド博士のサークルが発行していたReasonというタイトルの機関誌に掲載された)
第13章 誤った再生思想に囚われているスピリット
〈セオソフィーの場合〉
第1節 ●再生を信じて子供に憑依するスピリット
地上の人間が想像しているような単純な生まれ変わりの思想は間違っており、それが往々にして死後の向上の妨げになっていることは、高級霊はしばしば指摘するところであるが、我々のサークルにおいても、死後すぐに生まれ変わろうと子供に取り憑き、その子供はもとより、自分自身もおかしなことになっているケースをよく見かける。

例えば、シカゴのジャック・Tという少年は、五歳までは正常だったのだが、その後、急に大人びた傾向を見せ始め、行動に奇妙なところが多くなった。子供には縁のない取り越し苦労をし、夜も寝付かれずにブツブツ独り言を言い、時には激しい感情をあらわにした。

少年は、顔立ちの奇麗な子であったが、自分が歳をとってしまい顔が醜いことをしきりに口にするのだった。それを聞いて両親がそんなことはないじゃないのと説得しても、まったく耳を貸そうとしなかった。そのうち両親も回復に絶望的になってしまった。

が、親戚の人に、我々の仕事を知っている人がいて、その少年の為に集中祈念をしてほしいと依頼してきた。早速行ったところ、一人のスピリットが私の妻に憑依して(マーシーバンドが連れて来て乗り移らせた)、少年とそっくりの仕草をした。聞き出してみると、次のような事情が明らかとなった。

名前はチャーリー・ハーマンといい、死んだことはしっかり自覚していたが、容姿が不細工で、顔もあばた面で醜いという点をしきりに強調し、それがために誰も付き合ってくれず、そのことで心を傷つけられたという。

そのうち、誰かから、死後もう一度生まれ変わることが出来る――自分の好みのタイプになれると聞かされたことがあるのを思い出した。彼の唯一の望みはハンサムになることだったので、今度こそいい男に生まれ変わろうと考えた。そして、奇麗な顔立ちのジャックを見つけて生まれ変わろうとしているうちに、その子のオーラに絡んでしまって出られなくなったという次第だった。

招霊によって、その間違いに気づいたハーマン霊は、マーシーバンドの指示に素直に従って離れていった。ジャックも、それから子供らしさを取り戻し、学校の成績も目覚ましく向上したという。

次に紹介するのも、同じように子供の身体に入り込んで生まれ変わろうとして、その子を肢体不自由児にしてしまったケースである。

1916年11月19日  スピリット=ウィリアム・スタンレー

スピリット「私は本当に健康体になったのでしょうか。話が出来ますね。腕も足も動かせます。あの子から、どうやって出られたのでしょうか」

博士「高級霊の方達が、あなたを救う為にここへ連れてきてくださったのです」

スピリット「地上に戻りたくなり、子供の身体に入ろうとして身動きが取れなくなって、それきり出られなくなってしまいました。身体の自由がきかなくなって、ものも言えず、酷い目に遭いました。

地上ではセオソフィーを信じていました。教えの通りに生まれ変わりたいと思い、一人の子供を見つけて入り込んだところ、その子が麻痺してしまい、私も麻痺してしまいました。出なかったのではなく、出られなかったのです。

自分が数年前に死んだことは知っていました。もう一度生まれ変わって、もう一つのカルマを生きたいと思ったのです。尊師に生まれ変わるつもりでいたのですが、ご覧の通りのざまでした。大変な目に遭いました。生まれ変わろうなどと考えてはいけません。間違っております。もっとも、セオソフィーの教えそのものは大変いいと思います。

私は、考えが利己的でした。偉い人間になってみせる為に生まれ変わりたいと思ったのです。それが、まったく逆の結果になったのです。生まれ変わってみせて、セオソフィーの仲間達に、どうです、見事に生まれ変わりましたよ、と自慢してやろうと思い、子供の身体に入ろうとしたのです。

ブラバツキー女史がいけないのです。(ブラバツキーのスピリットが来ているらしく、指さしながら)ブラバツキーさん、私がこんなことになったのも、あなたが悪いのですよ。

ブラバツキー女史がここに来ています。私を救うのを手伝う為です。この方こそ、私に輪廻転生の教義と思想を教えたのです。今、正しい考えを教えようとなさっておられます。転生のようなものはないと述べておられます」

博士「あなたのお名前は、何とおっしゃるのですか」
スピリット「それが出て来ないのです。

ブラバツキー女史はインドにいらして、セオソフィーの思想を説いておられました。大勢の支持者がいて、私もその一人でした。

私の父は、インドが植民地だった頃の陸軍の将校でした。生涯の殆どをカルカッタで過ごしました。その時にセオソフィーの中心指導者達との縁があり、私もセオソフィー協会の会員になりました。

輪廻転生説は間違いです。私は二度と生まれ変わりたいとは思いません。利己的な目的の為の転生願望を生み出します。生まれ変わらずとも、向上進化の道はあるのです。私はセオソフィーの思想とカルマの教義に固執していました」

博士「霊媒というものについて何か耳にしたことがありましたか」

スピリット「あれは、霊的な媒体のような存在に過ぎません。ブラバツキー女史も、かつては霊媒だったのですが、スピリットにコントロールされるのが嫌いで、自分の個性と才能を伸ばすべきだと考えるようになったとおっしゃっています」

このスピリットは死後の生活への準備としての地上生活の意義、つまり地上で獲得した知識と叡智が、死後の環境を明るく照らす光となる、といった主旨の私の説明を素直に聞き、礼を述べ、最後に地上時代の姓名を告げて去って行った。

第2節 ●セオソフィスト・ウィルコックスの霊界からの報告
次に紹介する女性のスピリットは、セオソフィーに関する著作でご存知の方も多いであろう。この招霊会でも輪廻転生説が話題となった。

1920年1月28日  スピリット=E・W・ウィルコックス

「こんばんは。初めて出させて頂いた者です。もっとも、地上にいた時から、こうした催しの噂を耳にして、一度お尋ねしたいと思っておりました。それが実現しないうちに、こちらへ来てしまいました。

こちらへ来てつくづく思うのは、『神』についての真理を理解しておくことの大切さです。ところが、本当のことを理解している人はきわめて少ないのです。なぜか、真理は必ず、はりつけにされるのです。真理は真理としてそのまま知らされるべきでして、ややこしい教義で飾り立ててはなりません。

私も地上時代は、教義の奴隷のようなものでして、間違ったことや愚かしいことを本気で信じておりました。死後の生命についての単純素朴な真理に理解がいったのは、死ぬ少し前のことでした。

それも、悲しみを伴わなければなりませんでした。人間は、身近な人の他界といった深い悲しみの体験をしないことには、真理が悟れないようです。その時初めて、魂の底から真理を求め、ドグマや信条に惑わされなくなるのです。夫に先立たれた私は、失意のどん底に落ちましたが、死は存在しないという真理の光に目覚めてから、夫がいつも側にいてくれていることを感じ取るようになりました。

この素晴らしい真理は、真剣に求める者には必ず与えられます。が、一旦見出したら、今度はそれを素直に、そして真剣に守らないといけません。なぜかというと、素直さと真剣さがないと、いつしか猜疑心が入り込んでくるからです。そうなると、せっかくあなたの死後の為に、色々と準備をしてくれている背後霊との連絡網を閉ざしてしまうことになるのです。

本当の意味で『生きる』というのは、墓のこちら側に来てから始まるのです。地上生活は小学校のようなものです。自分とは何か、何の為に存在しているのかを学ぶところです。

人間は、死ねば神に会えると思っているようですが、そういう人は、『神』というものの本当の意味を知らない人です。神とは万物の生命のことです。地上の人間は、地球とは何かということをあまり考えませんが、宇宙の中のごくごく小さな一部分に過ぎません。

生まれ変わりについては、私もかつては信じておりました。セオソフィーに夢中だったのです。セオソフィーの基本思想そのものは決して悪くはないのです。思想も教えも立派なのですが、問題は、生まれ変わりの説が単純過ぎることです。一体なぜ、この小さな地球にそんなに何回も生まれてくる必要があるのでしょうか。

私は、こうして死後の高い世界について語る為以外には、この地上界へ戻りたいとは思いません。まして、もう一度赤ん坊からやり直す為に戻りたいとは、さらさら思いません。戻ってくるべき理由が分かりません。もう一度地上に戻って来て、何を学ぼうというのでしょう。

一旦霊界へ来て生命についてより高度なものを学んだら、もう二度と地上へ戻りたいとは思わないものです。霊界で学ぶことがいくらでもあるのです。地上のことは、地上にいる時に十分に学んでおくべきです。地上にいる間でも霊界のことは学べますが、霊界へ来れば、地上で学ぼうにも学べないものが、いくらでも学ぶことが出来るのです。

なんて素晴らしい世界でしょう。この芸術的な豪華な世界を、是非お見せしたいものです。私達は、それを楽しんでばかりいるわけではありません。人の為になることをしないといけません。地上圏へ戻って、愛する者や友人の為に力になってあげることが出来るのです。

皆さんがここで続けておられる仕事を、地上にいる間に知っていたら良かったのにという気で一杯です。これほど今の時代に要請されている仕事は、他にないのです。救済と啓発を必要としているスピリットが実に多いのです。それを霊界側だけで処理することは出来ないのです。なぜなら、そういうスピリットは、様々な地上的教義や願望によって地球圏に縛り付けられているからです。

その曇った目を開かせて霊的実相に目覚めさせるには、こうした場がどうしても必要です。目覚めると同時に、我々霊界側の救済団の姿が見えるようになり、我々の手で案内してあげることが出来るわけです。

今夜は、私のような者が出て来て驚かれたかも知れません。実は、色々な霊的手段を試みたのですが、上手くいかず、今やっと皆さんと同じように語ることが出来た次第です。ちょうど電話で喋っているような感じです。身も心も、皆さん方地上の人間と同じになった感じがします。

今夜も、この部屋には大勢のスピリットが集まっていて、話を聞きながら、自分も出してもらえないのかと、押し合いへし合いをしております。出来れば、その様子をお見せしたいところです。

さて、これ以上時間を取るのもなんですから失礼しますが、この度はこうして話をさせて頂いて、本当に有り難うございます。少しでも皆さんのお仕事に役立てば嬉しく思います。どうか勇気をもって仕事に邁進してください。

ウィルコックスと申します。一度激励の言葉を申し上げたくて、やってまいりました。今後とも除霊の仕事を続けてください。とても大切なのです。及ばずながら、私達も霊界から協力いたします。さっき申しました通り、この招霊会に出たがっている者が大勢群がっております。が、一人ずつしか出られません。有り難いことに、今夜その順番が私に回って来たということです。

この仕事は、人類全体にとっても大いに必要です。残念ながら、それが出来る霊媒が極めて少ないのです。本当は、各都市において、除霊の仕事がなされるべきなのです。霊媒は喜んで協力すべきなのです。死者が帰ってくることを認めないキリスト教でも、そのうちその事実を認め、生命の実相に目覚める時が来ることでしょう。その時はもう、ややこしい教義は一切要らなくなるでしょう。

そろそろ失礼しなくてはなりません。今夜は、出させて頂く光栄にあずかり、心からお礼を申し上げます。またいつの日か出させて頂けることを期待しております」

第3節 ●ドクター・ピーブルズ、地縛霊を前に語る
かつてトルコ領事を努めたこともあるJ・M・ピーブルズ氏は、六十年にわたってスピリチュアリズムの普及に尽くして、九十九歳で他界したスピリチュアリズムの大先輩であるが、私達は家族ぐるみのお付き合いもさせて頂いて、尊敬していた方である。

これまでも何度か出現して語り、時には霊界側の大勢の地縛霊を前に啓発の講演をなさったこともある。次はその一つである。

1922年10月4日  スピリット=J・M・ピーブルズ

スピリット「皆さんこんばんは。この度は、気の毒な身の上のスピリットを集めて私の話を聞かせるよう取り計らって下さったことに感謝致します。皆さんの仕事のお手伝いが出来ることを嬉しく思います」

博士「どなたか存じませんが、ご挨拶をお聞きして大いに歓迎すべきお方のようです」

スピリット「ご存知でしょう? 私です、ドクター・ピーブルズです。今はすっかり若返っております。地上時代も精神的には若いつもりでいても、身体の方が次第に衰えていき、晩年は言うことをきかなくなりました。ついでに百歳まで生きてやろうと考えていましたが、あと一歩のところで駄目でした。しかし、こちらへ来て、友人達から百歳の誕生日のお祝いをしてもらいました。素敵でした。

死ぬ時は嬉しいくらいでした。霊界入りして、私は大変な栄光と幸せと美しさを見出して、本当に嬉しく思いました。地上にいた時から、霊界についての一通りの理解はありましたが、実際に見た美しさはとても言葉では表現できません。霊的理解力が目覚めた人にとって、その美しさは筆舌に尽くしがたいものがあります。

私は、地上時代はスピリチュアリズムをずっと信じていましたが、それでも、あるドグマにしがみついておりました。キリスト教から完全に脱け切っていなかったのです。

どうか、この地上界が小学校に過ぎないことを知ってください。大学ではりあません。高等学校でもありません。生命についての基礎を学習するところに過ぎません。その小学校でロクに勉強しない者が、大勢いるのです」

博士「(招霊会に先立ってサークルのメンバーと輪廻転生について語り合っていたので、冗談半分に)そういう人達は、もう一度生まれ変わってくるわけですよね?」

スピリット「(真面目な口調で)いいえ、生まれ変わることはありません。そもそも生まれ変わりたいと思う理由があるでしょうか。せっかく自由になったのに、どうしてもう一度この思うにまかせない小さな肉体に閉じ込められる必要があるのでしょうか。せっかく高等学校へ入る段階まで来ていながら、なぜ小学校へ逆戻りする必要があるのでしょうか。

このサークルの皆さんは、生命の実相の基本を正しく学ばれた方達ばかりですが、死後もう一度この地上へ戻ってきたいと思われるでしょうか。この地上で十年もそれ以上もかかって学ぶものが、霊界では一日で学べるのです。それほど自由で迅速なのです。

例えば、あらゆる種類の機械類を製造している霊界の大きな工場へ見学に行きたいと思ったとします。スピリットはそう思うだけでその場へ行けて、そして好きなだけ学べるのです。

また、米国以外の国、たとえばロシア、ドイツ、イギリス、インド、オーストラリアなどの暮らしはどうなっているのかを知りたいと思えば、そう思っただけでその国へ行けるのです。

地上で生涯かけて学ぶことも、霊界では一日にも相当しません。一度に理解してしまうという意味ではありません。何一つ束縛するものがないということです。自由なのです。誰にでも学べるのです」

博士「例えば、地上では一冊の本に書いてあることを知る為には、初めから終わりまで一通り読まないといけませんが、そちらでは内容を霊覚で一度に読み取ってしまうわけでしょう?」

スピリット「そうです。感じ取ってしまうのです。肉体ですと脳を通して行動しなければなりませんから、手間がかかりますが、肉体のないスピリットは、その手間が省けます。

生命は永遠です。精神を通して体験したものはすべて記憶されております。が、細胞は年齢と共に動きが鈍くなり、スピリットは脳細胞が使用出来なくなり、記憶が途切れるようになるわけです。

スピリットになってから地上へ戻って来てこうして霊媒をコントロールすると、乗り移る前には知っていたことも、思い出せなくなることがあります。自分の地上時代の名前さえ出てこないことがあります。何しろ他人の身体を使っているのですから」

博士「一種の憑依現象と言ってよいのでしょうね?」

スピリット「いえ、それは違います。憑依の場合は、スピリットは身体にひっついて離れようとしないので取り除くのに骨が折れます。

現代生活は、昔と違ってとても忙しくなっています。それが神経系統を疲れさせ、自分を見失わせ、スピリットに付け入る隙を与える結果となっているのです。賑やかな都会の通りを歩いている人達を霊視してみてごらんなさい。色んなスピリットに付きまとわれている様子を見て、驚かれるはずです。スピリチュアリズムを説いている人達でも、死後の実情について本当のことをご存知の人はあまり多くはありません」

博士「大抵の人は、心霊現象にしか興味を抱いておりません。思想的な側面についてはあまり関心がありません」

スピリット「私は今夜、ここへおよそ百名ばかりのスピリットを案内してきております。霊界で私が直接説き聞かせても分かってくれないものですから、さっき出た地縛霊の女性が良い実物教育になると考えて、みんなに見させたのです。みんなとても不思議がり、思い当たるところがあって目を覚まし始めております。そこで、私が代わって話をしているわけです。

皆さんは、なぜこんなスピリットを出させたのかと思われることがあろうかと思いますが、全ては、乗り移っているスピリットだけでなく、それを見物に来ている他の大勢のスピリットに霊的真理を理解させる目的があってのことなのです。

輪廻転生の信仰は棄てないといけません。この信仰が意識の中枢に居座っていると、思いが常に地上へ引き戻される為に、向上の足枷となるからです」

博士「ブラバツキー女史は、今はどう考えているのでしょうか?」

スピリット「今は信じておられません。私は地上にいた時から、その説について女史と議論し、こちらへ来てからも、さらに多くの議論を重ねましたが、今ではなんとかして、その説による弊害を修正しようとして、地上圏へ戻ってきておられるのです」

博士「それは大仕事ですね」

スピリット「どんな形にせよ、ドグマや教義や信仰に夢中になってはいけません。真実を知る為に常に疑問を聞き、見、感じ、そして自分の中の神を見出すことが大切です。そうすれば、霊的なものに目が開かれて、こちらへ来てからは二度と地上へ生まれ出たいとは思わないでしょう。第一、霊界には、しなければならないこと、会いたい人、行ってみたいところが山ほどあって、地上へ戻ってみる考えなど、抱いている暇はありません。

地上生活を体験をせずに他界した幼子はどうなるのか、という疑問をよく受けますが、霊界の教師や指導者によって、実物教育による体験を積んで成長します。地上と違って、様々な教育施設があって、そこに通って勉強します。ただの読み書きとは違います。その成長ぶりは、皆さんに見て頂きたいほど素晴らしいです。

どうか、私が霊界において、皆さんのお仕事のお手伝いをしていることを知ってください。生命の実相を理解できずに彷徨っているスピリットが、実に多いのです。それが憑依現象を引き起こす原因です。精神病棟はその犠牲者で溢れておりますが、医者は為す術を知りません。

あまり長話になってもいけませんので、この辺りで失礼します。おやすみなさい」

第4節 ●輪廻転生説の誤りに気づいたブラバツキー
それからほぼ一ヶ月後に、輪廻転生説で世界的に有名なマダム・ブラバツキー女史が思いかげなく出現した。

1922年11月1日  スピリット=マダム・ブラバツキー

「こうして皆様と直接お話が出来る機会の到来を、どんなに心待ちにしていたことでしょう。

ささやかではあっても、このサークルが行っておられる仕事は大変重要であると信じ、その成果を見て、私はいつも有り難く思っております。こうしたサークルがもっと増えてくれると有り難いのです。死というものが、事実上、存在しないことを地縛霊に理解させる為には、こうした霊界と現界とが歩み寄って手を繋ぐことが大切だからです。

私は、なぜもっとこうした霊界との繋がりについて説かなかったか、なぜもっと深く勉強しなかったかと、残念に思われてなりません。その事実については知っていたのです。様々な霊現象を見ていたのです。今は、何もかも打ち明けますが、私はとにかく『リーダー』になりたかったのです。霊媒現象の存在を知っておりましたし、私も霊媒としてずいぶん学者の研究材料にされていました。

が、そのうち古代インドの霊的思想を勉強し始め、やがて輪廻転生説を知りました。これは面白いと思いました。といって、その原理に納得がいったわけではありません。ただ、同じ地上に生まれてきて、金持ちで楽しく暮らしている者がいるのに、他方には生涯貧乏で苦労ばかりしている者もいるというのは、不公平だと考えたのです。中には、ろくに地上体験を積まずに夭折する者もいます。

そういう事情を単純に考えると、もう一度地上に戻って来て、その反対の生活を体験するという説には真理と公正があると思い、これを旗印にして世に訴えようと考えました。そしてそれを説き始めました。

これには実は、もう一つ別の体験が伴っておりました。自分の過去を思い出すという体験です。過去世のことが何もかも、直ぐに分かるのです。しかしそれは、実は過去世を思い出しているのではなかったのです。

過去世の記憶の回想ということがよく話題になるのですが、あれは、節操のないスピリット達が企んでやっていることです。つまり、スピリットが自分の地上体験をもとに、もっともらしいドラマを演出して、それを霊媒の意識に印象づけるのです。それを霊媒は、依頼してきた人の過去世を見たと錯覚して物語っているに過ぎません。

スピリットは『印象づけ』という方法で霊媒にもっともらしい生活ドラマを吹き込むことが出来ます。それが霊媒の霊的視覚にパノラマ状に映じます。それを前世の記録であると勘違いするのです。私は地上時代にそのことに気づかず、間違いなく前世の記憶を回想していると思い込んでいました。こちらへ来て、それが間違いであることを知りました。

私は、インドの古代思想を勉強し、そこからセオソフィー(注)という思想体系を編み出しました。それを私は最高の生命思想と信じておりましたが、所詮、説は説に過ぎません。真理の前にはどうしようもありません。人間は真理に従って生き、説や信仰は棄て去らないといけません。

(注 『神』を意味するtheoと『叡智』を意味するsophiaを組み合わせて、『theoso-phy』という用語をこしらえた。ブラバツキー女史は『十九世紀における最も不可解な人物』として、研究者の間でその真摯さが疑われていた)

あまり遠い先のことを考えてもいけませんし、遠い過去のことに関心をもってもいけません。現在を見据えて、自分の良心に忠実に生きることです。そして『説』とか『信仰』というものを忘れることです。

輪廻転生説は間違いです。かつては正しいと信じ、自信を持って説き、死んだらきっと誰かに生まれ変わってみせようと考えておりましたが、その考えはもう棄てました。それよりももっともっと意義のある仕事がいくらでもあります。地縛霊を救済することです。地球圏には、地上を去った後でも地上的波動から脱け切れずにいるスピリットが、地獄さながらの悲惨な境涯の中で、無益な生活を続けております。

朝から晩まで賛美歌を歌い、神に祈ることばかりしている集団があります。一種の自己催眠にかかった状態で、はたから声をかけることすら出来ないほどです。

別の集団へ行ってみると、そこには金の亡者が集まっています。朝から晩まで金を数えることばかりをしております。彼らにとっては金こそが神なのです。この者達にも声はかけられません。

さらには、地上で身を破滅させた者達が集まっているところがあります。世を恨み、心が鬼と化して、仕返しをすることばかり考えております。愛と優しさは欠片もありません。その魂は、まるで泥水に浸したスポンジのように、汚らわしい感情に満ち、愛も情も受け付けようとしません。うっかり近づいて神だの愛だの親切心だのを説こうものなら、唾を吐きかけられ、笑い飛ばされます。

それでも、我々は諦めません。そういうスピリット達から、少しでも善姓を引き出すことが使命なのです。どんな酷い目に遭うか分かりません。近づいて祈ってあげるなどということでは歯が立ちません。彼らの心は閉ざされてしまっていて、絶対に寄せ付けませんから、話しかけたり説教するなどという手段では、何の効き目もありません。

では、どうするのか――まず、私達のグループ全員で、集中的の彼らに意念を向けておいて、音楽を演奏するのです。初めは穏やかに、聞こえるか聞こえないかの音で演奏し、徐々にボリュームを上げていきます。いかに邪悪な魂でも、音楽には耳を傾けるものです。音楽の得意なスピリットによる演奏に注意を向けるだけの心の余裕を見せたところで、我々が祈りの念を集中して、彼らの魂に揺さぶりをかけるのです。

その次の段階では、絵の得意なスピリットの協力を得ます。上層階の素晴らしい境涯を絵画にして見せると同時に、彼ら自身の地上時代の過ちを、一人ひとりに絵画にして見せるのです。そのうち、質問をしてくる者が出始めます。そうなったらしめたものです。そこからは積極的に働きかけて、より高い境涯へと導いてまいります。

以上のようなタイプとは異なるグループに、間違った信仰による自己催眠にかかって眠り続けているスピリットがいます。キリスト教の『最後の審判説』を信じ、地球の最後の日に、ガブリエルがラッパを吹くまで墓場で眠り続けると信じている為に、そうなるのです。

こういう地上的波動の中にいるスピリットは、地上的手段を用いるしかありません。そこで強引に霊媒に乗り移らせておいて語りかけるのが効果的なのです。これこそ一種の再生といえるのかも知れません。もう一度物的身体に宿り、物的波動によって目覚めさせるのです。

こういうサークルがもっともっと多く出来れば有り難いのですが・・・。

こういう話をお聞きになって、私が本当にあのブラバツキーなのかと疑われる方がいらっしゃるかも知れません。が、間違いありません。ブラバツキーがあんなことを言うはずがない、あんな言い方はしないなどとおっしゃるかも知れませんが、私は地上でエレーネ・ペトロワ・ブラバツキーと呼ばれた人間のスピリットです。何かお尋ねになりたいことがあれば、おっしゃってください。お答えいたしましょう」

質問(サークルのメンバー)「マスターのことを今はどうお考えですか」

スピリット「たしかに私は、セオソフィーの信者の中でも特に優れた方をマスターと呼びました。が、高等な霊的真理に通じた人なら、皆、マスターであることに理解がいきました。要は煩悩を克服し、純粋で意義ある人生を送ることの出来る人のことです。

大自然から学び取り、向上の仕方を身につけることが大事です。地上でマスターとなることを心掛けているセオソフィストの大半が、いつしか堕落していきますが、それは邪悪な地縛霊の誘惑に負けているからです。世俗的煩悩を十分に克服していないところに、隙を与える原因があるのです。

私がその一番いい例です。地上であれだけ活動して、一体人類の為に私は何の貢献をしたというのでしょう?」

質問「あなたのお陰で、キリスト教のドグマから救われた人は大勢いたのではないでしょうか」

スピリット「そうかも知れませんが、それに代わる間違った教義をたくさん教え込んでしまいました。セオソフィー協会など興さず霊媒のままでいて、霊界と地上界の橋渡しの仕事をしていた方が、どれだけ意義ある人生だったことでしょうか。そのセオソフィーの信者達も分裂し始めております。現代という時代は、何もかもが分裂していきつつあります。世界全体に落ち着きがありません」

博士「生活にもっと単純素朴さが必要です」

スピリット「おっしゃる通りです。『単純素朴』――いい言葉です。まさに核心をついた言葉です。あなたと奥さんの仕事を援助しているスピリットは、実に立派な方ばかりです。あなた方が訴えておられることには、ややこしい『教義』もなく、謎めいた『秘義』もありません。セオソフィーにはそれが多すぎて、マスター気取りでいる人達は、難解な教義や秘義を口にするほど霊格が高いかに錯覚しております」

質問「霊能者や霊媒は、これからも多く輩出されるのでしょうか」

スピリット「その必要性が生じ、受け入れ態勢が整えば輩出されるでしょう。各地に、こうしたサークルが出来ることでしょう」

質問「霊能者はいつも守られているものなのでしょうか」

スピリット「霊能者だけが特に守られているということはなく、自らの自覚によって日常生活を明るく陽気なものにしなくてはなりません。落ち込んだり動揺したりしてはいけませんし、腹を立てたり悲しんだりしてはいけません。そうした低級な感情は低界層と繋がるからです。

これは、普通一般の人も同じことです。低級界と波動が繋がると、物的身体を通して『光』を見たがる地縛霊が寄ってたかります。霊性が目覚めていないスピリットは、霊的な明るさが見えない為に、暗闇の中で生活しております。地上なら太陽の光があって、少なくとも辺りは明るいです。彼らは、その明るさを求めてやってくるのです。心を入れ替えれば霊眼が開くのですが、それが分からないのです」

質問「霊能者はあまり知識を持たない方がいいという考えがありますが・・・」

スピリット「名ピアニストが、祖末なピアノで演奏する場合を想像なさることです。微妙な音が出せるでしょうか。やはり、上等のピアノが必要です。霊能者も同じです。人間生活のあらゆる側面に関する知識をなるべく多く知っておくべきです。無教養な霊能者が科学的な問題を扱うと、微妙なところで間違いをします」

質問「スピリットにコントロールされている時、霊媒自身のスピリットはどうなっているのでしょうか」

スピリット「まず、スピリットというものに形体上の大きい小さいの概念が当てはまらないことは、ご存知と思います。今、ウィックランド夫人のスピリットは、ご自身のオーラの中に引っ込んでおられます。一種の昏睡状態にあって、精神的な意識は働いておりません。が、バッテリーないしはモーターのような機能を果たしていて、そのモーターから何本もの電線を引くことが出来ます」

質問「スピリットは、睡眠中に肉体から離れて霊界で体験と勉強をするというのは本当でしょうか。肉体と霊体とは細い糸状のもので繋がっているそうですが・・・」

スピリット「それは事実です。よく夢を見ますね、あの中には全く意味のないものと、実際の霊界での体験とがあります。ヨガを勉強なさると、努力次第で意識的に肉体を離れることが出来るようになります。

この度は、皆さんと楽しく語り合うことが出来ました。是非また来させて頂きたいと思います。皆様も、どうか、この貴重なお仕事をお続けください。今夜もずいぶん多くのスピリットが、この部屋を訪れ、私達の対話を聞きました。その中のかなりの数のスピリットが、私達と共に霊界へ向かうことでしょう。

では、失礼します」

第14章 実在に目覚めたスピリットからの助言
第1節 ●スピリットの語る『死後』の世界
死後、順調に目覚めて向上し、人類の啓発の為に役立ちたいという願望のもとに、我々のサークル活動に協力しているスピリットが数多く出現して、生命の実相と死後の世界について語ってくれている。

かつては、メソジスト派の牧師で、その後我々のサークルの一員として、娘さんと共に出席しておられたイェイツ氏が、死後僅か五日後に出現し、さらに数ヶ月後にもう一度出現して語ってくれた。以下は、その時の記録である。

1920年10月27日  スピリット=ウィリアム・イェイツ

「また参りました。もっとも、この場にはしばしば来ております。誰だかお分かりでしょうか。ドクター・イェイツです。

今夜は、こうして皆さんと対座してお話が出来ることを、大変嬉しく思います。それに何よりも、このサークルがずっと活動を続けておられることが有り難いです。招霊会が開かれる時は必ず来ております。今夜も、勉強の為に、大勢のスピリットを連れて来ております。その賑やかな情況をお見せしたいくらいです。

地上の人間にとって、生命とは何かということは大変な問題です。そのことを勉強し、物質に宿っての存在について学んでくださると有り難いのですが・・・。肉体を離れてこちらへ来るスピリットの多くが、無知の暗黒の中へと入ってしまうのは残念なことです。信仰心しか持たないから、そういうことになるのです。神を賛美し、歌い、そして祈ることばかりしております。近づこうにも近づけません。

地球を取り巻くように存在する物的波動のエーテルの界層は、『地縛霊』と呼ばれるスピリットの住む暗黒の世界です。利己主義と無知が生み出す暗黒です。そこから脱け出すには霊的理解力(悟り)が芽生えて、霊的視力が使えるようにならなければならないのですが、その為にはまず、生命の実相について知り、自分の幸せだけを求める信仰を捨てなくてはなりません。

その種のスピリットは、地上時代に人の為に汗や涙を流すことがなかった者達です。『人の為』ということがどういうことであるかを知らないまま、自分の為にだけ生きてきました。自分以外の人のことを考えるまで霊性が発達していないのです。

その暗黒界の様相は、実際に見て頂く他はありません。私は二人の親戚の者に案内してもらったのですが、自殺者ばかりが集まっている境涯、狂信者が通う教会ばかりが立ち並ぶ境涯、スラム街、拝金主義者ばかりの街などなど、それはそれは凄絶を極めております。しかし、その事実自体も問題ですが、もっと問題なのは、そうした境涯のスピリットの出す波動が、地上の類似した人間の波動と合致して、生活を破綻に追いやっている現実です。

このように、地球のすぐ回りに無知の世界が存在し、死後そこで目を覚ます者が多いのです。どんなに善人であっても、どんなに真面目な人生を送っていても、ただこれだけでは十分ではありません。死後の世界についての知識がないと、目覚めた後しばらくは暗闇の中にいます。その後、いつ霊的覚醒が訪れるかは、その人が地上で悟った霊性の程度(霊格)いかんによります。

不思議なのは、地上生活において他人の為に役立つことをしたその行為によって、死後に落ち着く家と環境が築かれているということです。当然、清らかな人生を送った人には、清らかな環境が待ち受けておりますが、先ほども申したとおり、霊的摂理についての知識が欠けていると、すぐにそこへ行き着くことが出来ずに、いわば、道に迷ってしまうことがあるのです。

面白いことに、自分のことしか考えない人生を送った人の霊界の家は、自分一人がやっと入れるような、小さな、ケチ臭い形をしております。連れ添う人も見当たらず、自分一人の侘しい環境の中に自分を見出すことになるわけです。

そうした侘しさに耐え切れなくなって、神に救いを求めるようになった時こそ、向上のチャンスの到来です。高級霊の手配によって、まず地上時代の利己的な生き方が生み出した結果を見せつけられ、良心の呵責を覚え始めます。自分が害を及ぼした相手がまだ地上にいる場合は、その人の背後霊の一人として、その償いが済むまで援助してやらねばなりません。既に他界している場合は、そのスピリットを探し求めて、何らかの形で償いをしなくてはなりません。そうした段階を経てようやく、もう一段上の界層へと向上していくことになります。

信仰というものは、何の役にも立ちません。大切なのは行為です。地上にいる間に霊的存在として為すべきことを実行し、そして神が創造なされたこの森羅万象の不思議さに目覚めなくてはいけません。存在の全てが神なのです。あなた方人間も、神の創造物の一つであり、花もそうであり、動物もそうです。そうした神の顕現を崇めずして何を崇めるのでしょう。我々は、神という存在のまっただ中にいるのです。

宗教的ドグマと信仰をそのまま携えて霊界入りしたスピリットは、相も変わらず神を讃える歌を歌うばかりの生活に明け暮れており、『自分とは何なのか』『いずこより来ていずこへ行くのか』『真実の生命は一体どこにあるのか』といった疑問を抱くことがありません。霊的に居眠りの状態にあるのです。その大半が未だに地上にいるつもりで、歌い、そして祈るばかりです。かつての家族や友人が見当たらなくなったことに、何の不審も抱きません。

そうしたことを、私はこちらへ来て二、三ヶ月して知りました。私にも住居があります。親戚も友人もいますが、地上時代とはまるで違います。私よりずっと早く他界したのに、未だに死んだことに気づかず、暗闇の中での生活を続けている者が大勢います。そういう人をなんとかして救ってあげないといけないのです

今夜は、こうして皆さんと一緒に時を過ごすことが出来て、嬉しく思います。この仕事は、是非とも続けてください。皆さんの目には見えないかも知れませんが、毎回この部屋には、精神的に自由を奪われたスピリットや無知なスピリットが大勢連れてこられて勉強しています。

地上人類は、これからしばらく困難な時代へと入るでしょう。これまでの罪悪と利己主義がその困難を生み出すのです。現代人はお金と我欲の為にのみ生きております。いつかはその生活概念を変えなければならなくなるでしょう。平和は、その後になります。今はまだ、お互いが闘争状態にあります。

人間が最も控えねばならないのは、取り越し苦労です。不安を抱くと、オーラが不安の波動に包まれます。内部に神性が宿ることを自覚して、自信を持つことです。人格を備えた神ではなく、全大宇宙の根元である生命体としての神の力、創造力、愛の力が宿るということを自覚して、不安を追い払うのです。

例えば、スピリットに憑依されるのではないかという不安が生じた場合は、『自分は自分の身体の主なのだ――他の何者にも入らせないぞ』と自分に言い聞かせて、それを何度も繰り返すのです。そのうち霊的な力が湧き出て、それが身を守るようになります。それと同時に、邪心や悪感情を心に宿さないようにすることも大切です。(ウィックランド博士に向かって)先生、妻と相談の上、私の葬儀をパーティーにしてくださったことにお礼申し上げます。あれを葬儀だと思った人は、まずいないと思います。まさしくパーティーでした。私はずっとあの場にいました。皆さんに黒い喪服でなく、明るい白の衣服を着てくるようにお願いしてくださったことにも感謝いたします。

これからの葬儀は、すべてあのようであってほしいと思います。喪の悲しみの念は、スピリットに余計な悲しみと苦しみと陰鬱さを呼び寄せます。その陰鬱さから、何年も脱け出せないでいるスピリットが大勢いるのです。

では、この辺りで失礼します」

第2節 ●アダムズ博士の地上人への警告
アダムズ博士は、地上では内科医で、スピリチュアリズムの思想にも通じておられ、よく講演会を開いておられた。その博士が、死後、我々のサークルを訪れたのは一再に留まらないが、次に紹介するのはその一つである。

1920年10月20日  スピリット=アダムズ博士

皆さんがなさっておられる仕事には、陰ながらいつも大きな関心を抱いております。私も生前から霊的な仕事に携わっておりましたが、博士のような招霊による除霊の仕事はしませんでした。主に、死後にも生命があるという事実を広める仕事をしておりました。死後の生命は実感溢れるものです。決して観念的なものではりあません。理解ということが全ての鍵を握る世界であり、信仰は何の役にも立ちません。

何らかの教義をただ信じているだけでは、こちらで暗闇の中に自分を見出します。他のものを遮断して自分の世界にだけ閉じ込めるからです。バイブルにも、いいことがたくさん述べられております。問題は、それを文字通りに受け取ったり、伝統的解釈に拘ったりすることです。その裏にある意味を理解すれば、どんなにか違ってくるのですが・・・。

そもそもバイブルが書かれた時代は、今日ほど開けておらず、宗教も、無知な人民を思い通りに動かす為の鞭のようなものでしかありませんでした。そして、言う通りにしない者は、死んでから悪魔に捕まって地獄に連れて行かれると説いたのです。

その地獄たるや、実に惨たらしいものに描かれていました。火焔がもうもうと燃え盛り、辺りには骸骨が散乱し、悪魔が大きなフォークで人間をその炎の中に放り込んでおります。そんなところへは誰も行きたくありませんから、結局は言うなりになってしまいます。

そうした宗教集団が各地に出来てくると、それらの宗教間での優劣の競い合いが生じ、やがて戦争へと発展します。宗教が原因となって生じた戦争の歴史は、今日なお続いております。が、そろそろ新しい時代へと入りつつあるようです。理性が発達してきた現代人は、宗教というものに疑問を抱き始めております。が、宗教に背を向けた後に向かう方向は、金と権力です。稼げるだけ稼ぎ、握れるだけ権力を握ろうとします。その為には、手段を選ばないという傾向が生じています。

私が地上にいた時とは、すっかり事情が違ってきました。資本がものを言う時代であり、それが原因となって不和とトラブルが生じております。私が生きていた頃は、人に雇われるということは有り難いことと思って一生懸命に働いたものですが、今は雇う方も雇われる方も賃金を第一に考え、それが対立のもとになっております。

現代は、空を飛ぶ機械も出来ております。が、これは新しい発明の序の口に過ぎません。これからは、夢想もしなかったものが発明されていきます。電気を使用するものが多くなり、さらには、大気中から摂取したものをエネルギー源とするようになるでしょう。中でも、太陽が摂るエネルギーが最大の恩恵をもたらすことになるでしょう。

そうなれば、現代の金持ちもその使い道に困るようになります。太陽と大気とからエネルギーが摂取されるようになれば、利己主義者はいなくなり、キリストの説いた、お互いがお互いの為に生きる平和な世の中になることでしょう。これまでのように、ただ盲目的に信じて賛美歌と祈りだけの生活はしなくなるでしょう。

人間は誰しも間違いを犯します。その間違いから摂理を学べば良いのです。神は人間に理解力を与えてくださっています。その理解力を使って、自然界に顕現されている驚異と不思議の中に神を見出すのです。そこから生まれる魂の喜びの状態こそが、他ならぬ『天国』なのです。大切なのは理解力なのです。

地上時代の私は不遇でした。死後の生命の実在を信じ、それを説いて回ったことがその原因でした。そんな私を、みんな気狂い呼ばわりしました。死んだら地獄行きだと言うのです。人間は、死ねば『最後の審判日』まで墓で眠っているのだと言うのです。その審判日に呼び起こされて、善人と悪人とに選り分けられ、悪人は地獄へ送られて、そこで永遠の火炙りの刑に処せられるというのです。

神がすべてを作り給うたと言いながら、そんな理不尽なことをするなんて、バカバカしい話ではありませんか。

私は、もともと学者でしたが、スピリチュアリズムに熱心だったことで、色々と悩みや苦しみがありました。しかし、私は、死後の実在を知らしめることが自分の義務だと感じていたのです。スピリチュアリズムの教会を建てるのが夢でした。そこでスピリチュアリズムの思想を説きたかったのです。心霊実験などはするつもりはありませんでした。

ご忠告申し上げたいのは、見えざる世界への扉を開く努力をなさるのは結構ですが、その前に、霊的原理をしっかりと勉強してほしいということです。最近のスピリチュアリズムは、現象的なことばかり興味を抱いて、肝心の人生哲学や、霊界と地上界との関係を支配している霊的法則についての勉強が不足しております。

無知と利己心と嫉妬心から愚かなマネをしないようにしましょう。そういう低次元のものは一蹴して、創造の大霊から授かっている愛と叡智と理解力とを最大限に発揮いたしましょう。

では、失礼いたします」

第3節 ●妻の背後霊が語る『生命の実相』
かなり以前の話になるが、妻の親友にラックマンドという女性がいて、その人の子供が、生後二年半で発作を起こして精薄児になってしまった。

霊感の鋭かったラックマンド夫人は、それがスピリットの憑依によるものと直感し、妻と共に憑依現象の研究を始めた。

さて、ラックマンド夫人が他界する一年ほど前に、妻との間で一つの約束が出来ていた。それは、どちらが先に死んでも、死後の存続を実証してみせる、ということだった。その約束どおり、夫人は、二週間後の夜に物質化して、妻の枕元に立った。が、その容姿があまりにも地上時代そのままなので、妻は、一瞬それがスピリットであるとは気づかなかったという。が、夫人がかがみ込んで妻の頬に手を触れた時に、我に返った妻は、

「まあ、ラックマンドさん!」と叫んで起き上がった。すると夫人が、
「アンナ、スピリットが地上に戻ってくるのは本当よ。あたしは、これからあなたの霊能を発達させてあげる。招霊会の仕事は続けてね」

と言った。

その後、夫人は、交霊会に再び物質化して出現し、前回と同じように『スピリットが戻ってくるのは本当よ。招霊会は続けてね。あたしが、あなたの霊能を発達させてあげる』と述べた。

以来、ラックマンド夫人は、妻の背後霊団に加わって、主に身体の保護を担当し、同時に度々出現して語っている。次がその一つである。

1920年9月29日  スピリット=ラックマンド夫人

「地上の人間は、なぜこうも神または生命について正しく理解しないのでしょうか。やたらに神という言葉を口にしないで、或は自分で為すべきことを神にお願いしないで、神とは『理解』という名の光であることを知るべきです。そう理解すれば、利己主義も取り越し苦労も争いごともなくなるはずです。

例えば、拝金主義がなくなるでしょう。金さえあれば幸せになるかに考えるようですが、そもそも幸せとは何かをご存知ありません。買いたいものが買え、食べたいものが食べられ、飲みたいものが飲める程度のことが幸せと考えて、その為には先立つものは金と考えるようですが、そうなることは身体の健康にとって害にしかならないことを知りません。

人類が進歩すれば、大自然に顕現している驚異的な神の御業を理解することこそ、幸せへの道であることを悟るようになるでしょう。花の一つ一つが、神の顕現なのです。花の香りも神の顕現なのです。神がその存在を知らしめる為に発散なさっているのです。手で触れなくても、その美しい花から輝き出る(と私は言いたい)香りを通して、神の存在を知ることが出来るのです。たとえ目には見えなくとも、分かります。大気中に広がっているからです。

花の一つ一つが、神の御業です。同じものが人間にこしらえられますか。絵の具で同じ色が描けますか。あの香りが出せますか。それにまた、なぜ品種ごとに個性のある花を咲かせて、なぜゴチャゴチャにならないのでしょうか。赤い花が、なぜ緑色になったりしないのでしょうか。

花や植物の世界から動物の世界へと見てきますと、男と女の人間界には見られないもの、すなわち絶対的忠誠心ともいうべきものがあることが分かります。人類は万物の霊長であるべきところを、懐疑心と教義によって、雁字搦めにされております。自分を聖なるものと信じている人が多いようですが、勝手にそう思っているだけです。

日常生活において、それに相応しい努力はしておりません。

日曜日に教会へ行き、神へ祈り、『あなたに忠実に生きております』と申し上げながら、教会へ通わない人のことを悪し様に言います。本当は、その人達の方が自分に正直に生きている場合があるのです。その意味では、神におべっかばかり言っているクリスチャンよりも、よほど真摯に生きております。

人間に憑依する地縛霊は、いわば人工の『悪魔』です。利己心がそういうものを生み出しているのです。生命の実相を知らないまま肉体から離れた後、地上時代に信仰していたことと何もかも違うことを知って戸惑い、挫折し、憎しみを抱き、彷徨い歩いているうちに、同じ波長の人間に憑依してしまうのです。

その種のスピリットには気をつけないといけません。精神病の研究に熱心に取り組んでいるようですが、肝心の霊的原因を知らずにいます。霊的実相を知らないまま彷徨っている地縛霊の憑依が全ての原因なのです。そのことを知らずに、精神病者はすぐに隔離されますが、モルヒネを打たれて閉じ込められるだけのことで、他の人間に害を及ぼさないことにはなっても、本人には何の意味もありません。

ラックマンドでした。失礼します」

第4節 ●妻の友人が語る『肉体から霊体へ-』
妻のアンナが霊媒としての素質を発揮し始めた頃の友人で、その発揮に大いに貢献してくれた女性に、ケース夫人がいる。私との結婚前のことで、ケース夫人と私とは面識がなかった。

次に紹介する記録は、最近になって初めて出現した夫人が、妻との出会いの頃のエピソードを交えて語ってくれたものである。

1924年3月15日  スピリット=ケース夫人

「私は、あなた(博士)とは直接お会いしたことはございませんが、お二人の背後霊団の一人として親しく存じ上げております。奥さんとは結婚前のアンナ・アンダスンの時代から親しくしておりまして、この方のお陰でスピリットの実在を信じるようになったのでございます。

アンナと親しくなる前にも、ほんのちょっとですが、霊的なことを勉強したことがあり、ハートマン博士(注)の本やセオソフィーの著書を読んでおりました。何にでも興味を抱く性格でしたが、どれにも夢中になることはありまんせんでした。

(注 ドイツ人の精神分析学者で、スピリチュアリズムにも関心を抱いていた)

ところで、1890年のある夜のことでしたが、アンナと一緒にミネアポリスでの交霊会に出席している最中に、アンナが私の娘のスピリットに憑依されたのです。実は、娘のアリスと息子のウィリー、それに夫の三人が、一ヶ月のうちに相次いで他界しておりました。

アンナに憑依したアリスは、私に抱きついて『ママ、会いたかったわ! アリスです』と言いました。驚きましたが、私はとても嬉しくて、しばらく語り合ったあと、アリスが『ウィリーもここに来てるのよ。ママと話がしたいと言ってるわ』と言いました。そう言ってから、ウィリーと交替しました。

この体験で、私はすっかり考え方が変わり、この現象をもっと勉強してみたいと思うようになりました。そこで、もう一人の娘で、当時既に結婚していたZとアンナの三人で、私の家で交霊会を催すことにしました。母や叔母や、その他親戚のスピリットが出現して、とても楽しい時を過ごしておりました。

そのうち私は、こうした嬉しい体験を自分の家庭だけに限るのは勿体ない――もっと広く世間に知らせるべきだと考えました。内気なアンナは、初めのうち反対していましたが、私は、ミネソタ州のスチルウォーターというところで、オペラハウスを借り切って、私による講演とアンナによる招霊実験のデモンストレーションをすることにしました。

前宣伝もうまくいって、当日は大勢の聴衆が来てくれました。ところが、いよいよ開会となって私が演壇に立ったのですが、自分でも信じられないくらいあがってしまって、一言も口がきけません。しかし、その会を失敗に終わらせてはならないと思った私は、急いでアンナを呼んで、それまでに何度か出現しているロシア人の演劇霊団に出てもらってほしいと頼みました。アンナは、快く応じてくれて、すぐに入神し、劇も上手くいき、その後アンナの背後霊団の一人であるプリティガールが出て、うまく締めくくってくれました。大成功でした。そして、それが、アンナが霊媒として本格的に活躍するようになった最初でした。

その後、私が病気になった時、アンナがとても力になってくれました。アンナに乗り移って出て来た友人のスピリットに私の寿命を尋ねると、そう長生きもしないけど、死期が近いわけでもないという返事でした。病気になったのは十一月で、翌年1894年の三月五日に肉体から離れて霊体へと移りました。土曜日の夜十二時に昏睡状態に陥り、月曜日の朝三時に死亡しました。こうした経過が私には全部分かりました。

死の実相を理解している人にとっては、死はないのと同じです。肉体の中で眠りに入って、霊体の中で目を覚まします。そして、周りには顔見知りのスピリットが大勢来ております。とても愉しいものです。

私の場合、意外だったのは、夫が迎えの人達の中にいなかったことです。訳を尋ねると、地上生活への束縛が強くて、地上圏で半醒半夢の状態にあるとのことでした。そこで何人かのスピリットと一緒に夫を探しに向かいました。夫を見つけて覚醒させることに成功し、夫も大変喜んでくれました。それで、早速、地上に残した子供達のところへ戻ってみましたら、霊視能力のある娘のキャリーが、私達が死後も無事一緒になっているのを見届けて、喜んでおりました。

その後も、アンナを通じて、何度か子供達と話を交わしました。間もなくアンナはウィックランド博士と結婚してシカゴへ行ってしまったので、子供達と話を交わすことが出来なくなりましたが、私の方はアンナの仕事に関心を抱き続け、今もマーシーバンドの一人として活躍しております。

アンナの霊能は、その後大幅に成長しております。そして、体験も多彩になっております。人類にとってかけがえのない仕事をしておられます。博士と共に、地上の数多くの患者を救っておられますが、それ以上に多くのスピリットも救っておられます。救われたスピリットは、大抵マーシーバンドの協力者として、地上と霊界の両方で活躍しております。

このような仕事のできる霊能者が、もっともっと多く輩出してくれれば有り難いのですが・・・。人類には、まだまだ霊的知識が不足しております。そのうち霊的なことが、地上人類の第一の関心事となる時代が来ることでしょう。その目的をもって、霊界でも多くのスピリットが活躍しているのです」

第5節 ●幼児期に他界したスピリットの警告
幼児期に他界したスピリットは、霊界でもそのまま成長を続けるが、地上体験を得る為に、それに相応しい人間の背後霊として活躍することも多い。妻の背後霊の一人であるプリティガールと名乗る少女も、幼くして他界した、明るくて楽しい性格のスピリットである。

1924年3月12日  スピリット=プリティガール

「私が地上を去ったのは五歳の時で、そのまま八年程霊界で生活しておりましたところ、ウィックランド夫人の霊団の一人として、主にいたずら霊からお守りする役目を言いつけられました。そういうのを『コントロール』と言います。今は、指導や教育を担当する『ガイド』の一人となっております。

その頃のウィックランド夫人は、悩みを抱えた人の相談相手をしておられ、自殺を考えている人を思い止まらせたことが何度もあります。そういう時に私が、唆しているスピリットから守ってあげる役をしたのです。それは、私が地上で暗い体験をさせられていたので、悲しみを知らない人よりも、気持ちを分かってあげることが出来るからでした。

私は、1875年8月21日にロンドンで生まれました。両親は二人共、大酒飲みで、酔っぱらって帰ってくると、私をぶったり怒鳴ったりするので、私はそれが怖くて、どこかに隠れたり外で遊んだりしていました。そんな時に通りかかった人達が『可愛い子ね(プリティガール)』と言って頭に触ってくれたりしました。それが地上でかけてもらった唯一の優しい言葉で、いつの間にか、私はそれを自分の名前と思い込むようになりました。が、間もなく私は、五歳で死にました。

それから八年後の1888年に、地上的体験が必要になって、ウィックランド夫人のコントロールになることになりました。それにはもう一つ、霊媒には若いスピリットの磁気エネルギーが必要だという理由がありました。霊媒の背後霊に子供のスピリットが多いのはその為です。子供のスピリットは若いエネルギーを供給する一方で、人間界との接触によって学び、霊的に成長することになります。再生してくる必要はないのです。

人間は、例外無く、スピリットの指導を受けております。が、時として地縛霊と波長が合って憑依現象が起きます。地上には地縛霊がウヨウヨしております。そのことに気づいている人は殆どいません。

大半の人間は、肉体から離れた後も、しばらく地上で生活していた場所に留まっています。教養のあるなしには関係ありません。霊界についての知識がなければ、死んだその場におります。

麻薬常用者の場合は、深い昏睡状態に陥っている場合が多いです。そういう場合は、親族や友人のスピリットが近づいて呼び起こしますが、地上または霊界からの祈りの念を傍受したスピリットが、何らかの手段を講じて覚醒させるかしないかぎり、いつまでも眠ったままです。

同じく昏睡状態でも、キリスト教の信仰によって、最後の審判日まで眠るものと思い込んでいる場合と、死はすべての終わりであると思い込んでいる場合とがありますが、いずれにしても、一種の自己催眠にかかっているのです。

また、自分が死んだことに気づかずに説教と賛美歌に明け暮れている人も沢山います。そういう人が地上の教会へ来て、一緒に歌っていることもあります。教会の信者の中には、霊的感受性の強い人や神経の過敏な人がいて、そういう人がスピリットと波長が合って憑依してしまうことがあります。そうなると、のべつ祈り、そして歌いまくりますから、精神に異常を来したとされて、精神病院に送られてしまいます。

その他に、意図的に人間に害を及ぼしているスピリットもいます。人間に憎しみを抱き、暗示をかけたり憑依したりして、殺人や自殺を唆すのです。そんな場合は、殺人者は無意識ですから、罪悪を犯した記憶がないことになります。なのに、裁判官や検事は、頭脳は優秀なのでしょうけど、そういうことを知らないが為に殺人罪を適用します。

身に覚えの無いことで肉体を奪われてしまった人間のスピリットは、そのことに恨みを抱いて仕返しに戻ってきます。そして、新たな殺人者や自殺者を生み出します。裁判官も法律家も聖職者も、人を裁くことばかり考えていないで、真理を勉強してそれを犯人に説き聞かせて、内部の善性を引き出す方向へ努力すべきです。霊界でも、人の為に役立つことをすることが進歩をもたらすのです」

第6節 ●アメリカ・インディアンの霊的生活
アメリカ・インディアンは、生活及び宗教概念の単純素朴さと、自然の摂理についての知識が豊富であることから、死後、地縛霊になることは滅多にない。そして、地上の霊的能力者の背後霊として活躍することが多い。次に紹介するウィックランド夫人の霊団の一人であるシルバー・スターもその一人である。

1924年3月12日  スピリット=シルバー・スター

「インディアンは、これといった宗教やドグマを持ち合わせませんので、死後、地上の霊媒の背後霊となることがとても多いのです。インディアンは、幼少時から万物に宿る霊性と、死後の楽園について教わっています。メディシンマンと呼ばれる霊能者は、心霊的法則をよく心得ていて、自然の営みをコントロールする(雨を降らせるなどの)方法を教えてくれます。

私達が、こうして地上へ派遣されるのも、霊的に援助したり保護したりする原理を知っているからでして、霊媒が地縛霊に邪魔されないように、門番のような役目をすることがよくあります。

白人は、数え切れない程の種類の病気で死にますが、インディアンは大自然と共に生きて、殆ど病気らしい病気を知らずに自然死を遂げます。その地上時代の健康と体力が、死後も霊媒に良い影響を及ぼします。

インディアンのスピリットが、人間に取り憑いて障害を及ぼすということは滅多にありません。それは、人間とスピリットとの関係を支配している法則をよく理解しているからです。

私は、1883年に北ウィスコンシン州にあるインディアン保留地で生まれました。チペワ族でした。四歳半頃に崖から落ちて頭部の負傷で死にました。ウィックランド夫人の背後霊団に加わったのは、1893年で、今も門番の役をしております。

初めて夫人をコントロールした時はチペワ語しか話せませんでしたが、その後、霊団の他のスピリットの方から英語を習いました。インディアンは、学校教育がないから何も知らないと思われているようですが、大霊への純粋な敬意と、人の為に役立つことをしようと願う純心な気持ちがあります。勿論、インディアンにも真面目な者と邪悪な者とがいますが、邪悪になるのは大霊の存在を理解していない者であり、それに、悪い習慣の殆どは、白人がもたらしたものです。

インディアンは、もともと恐れることを知らない民族でした。ところが、白人がやって来て、インディアンを動物のように殺すようになって、インディアンも恐怖心と怒りを覚えるようになりました。そして、仕返しをするようになり、戦争になっていきました。白人を見ると敵と思うようになりました。初めから親切な態度で接していたら、戦争にはならなかったはずです。

メディシンマンというのは、自然界のエネルギーについて勉強して、それをコントロール出来るようになった人のことで、雨を降らせたりすることが出来ます。祈る時も、その念力で自然界の生命力を活用するのです。白人のように口先だけの祈りではありません。口ではあまり語らずに、輪になって踊って精神を集中します。

スネークダンスというのもあります。これは、踊りによって蛇を噛まないようにしてしまうのです。恐怖心がないから出来るのです。白人も恐怖心をなくせば、色々と不思議なことが出来るようになります。白人も太古においては、恐怖心というものを持ち合わせなかったのです。それが、地獄と悪魔の物語が生まれてから少しずつ怖がるようになっていったのです。

霊界には宗教はありません。真理のもとでは、みんな兄弟であり、姉妹なのです。大霊の存在を理解した後は、みんな同じなのです」

第7節 ●スピリット劇団の演じる道徳劇
極めて特殊な霊媒現象として、スピリットの劇団が、妻のアンナをまるでマイクロフォンのように使用して、道徳劇をラジオドラマのように演じてみせてくれたことが何度かあった。

劇団員の数は十二名――俳優が十一名と演出家一名で、地上ではロシア系スラブ民族に属していたという。演出家の指示のもとに、きわめて容易に、そして迅速に、霊媒をコントロールするので、その交替の変化が側から見極めがつかないほどである。

言葉は、妻の知らないロシア系スラブ語であるが、その言語を知っている人達の証言によると、妻の口から出る言葉は完璧だったという。衣装は我々サークルの者には見えないが、霊視能力者に見てもらったところ、間違いなくスラブ系の民族衣装を着ていて、実に奇麗だったという。妻の背後霊団の一人が通訳を務めて、劇団員の一人が劇の内容と目的を次のように説明してくれた。

「私達は十二名から成る劇団で、今回の催しは、この霊媒を通して死後の存続とスピリットによるコントロールの真実性、および地上時代と全く同じように演技出来ることを証明することが目的です。

霊界では地縛霊に見せております。その多くは死んだことに気づいておらず、地球のすぐ近くの界層で半醒半夢の状態でおります。

公演に先立って音楽家による演奏があります。それを聞いて、一人また一人と目を覚まします。そして起き上がってきますが、自分がどこにいるのか、どういう状態にあるのか、を知らずにいます。が、音楽による刺激で、少しばかり霊的自覚を覚える者もいます。

劇を演じるのは、それからです。登場人物は皆、象徴的な意味があり、スピリットが向上していくには、利己的で下品な、ケチ臭い属性を克服しなければならないことを教えるようになっております。

主役の女性は愛を表し、相手役の男性は真理を表します。無法者は利己主義を、年配の女性は軽率さを、役人は正義を、裁判官は叡智を表します。そして法廷における証人は、知識・無節操・悲劇・病気・欲深を象徴しております。

話のあらすじは――ヒロインの『愛』は密かに『真理』の男性に恋心を抱いております。が、彼女の家には『軽卒』という年輩女性がいて、これが無法者の『利己主義』に思いを寄せています。

さて、『真理』が登場して『愛』にプロポーズします。それを『愛』が受け入れると、すぐに『真理』は退場します。入れ代わって『利己主義』が登場して『愛』を一人占めにしようとします。それが拒絶されたところへ、艶かしく着飾った『軽卒』が現れて『利己主義』を『愛』が奪い取る為に媚態を演じます。そのことに怒った『利己主義』が『軽卒』を脅すように叱り、ライバルの『真理』を殺してやると誓いながら退場します。

驚いた『愛』はそのことを知らせようと恋人の『真理』へ宛てた走り書きを召使いに託します。が、時既に遅く、『真理』は途中で待ち伏せしていた『利己主義』に襲われ、剣での果たし合いの末に致命傷を負い、苦しみながら息を引き取ります。これは、人間の高潔な本性が、利己主義によって蝕まれていくことを象徴しています。

召使いは、大急ぎで帰って来て、そのことを女主人の『愛』に伝えます。驚いた『愛』は、その現場へと急ぎ、『真理』の死を見届けると、その場に跪き、祈りを唱えつつ短剣で自らを刺して死にます。

かくして『真理』が死んだことで『愛』も死んでしまったことに激高した『利己主義』は、この世に神なんかいないと断言して、復讐を誓います。そこへ役人の『正義』が到着し、殺人者の『利己主義』に手錠をかけて拘留します。その後『愛』と『真理』の葬儀が行われます。

『利己主義』は『正義』によって裁判官である『叡智』の前に引き出されます。そして最後に、知識と無節操と悲劇と病気と欲深の全証人が、『利己主義』さえいなかったら『愛』も『真理』も死ななかったはずであると証言します。

『叡智』は『利己主義』を追放処分にします」

同じ劇が1923年の5月に催された時は、アメリカを講演旅行中のコナン・ドイル夫妻も出席しておられた。そして(二度目の米国冒険旅行)という著書の中で、こう述べておられる。

「まさに驚異としか言いようのない上演で、我々はただ驚嘆するばかりだった。私は、当代きっての名優を数多く知っているが、果たしてその名優達が、ステージもコスチュームもなしに、あれほど説得力のある上演が出来るだろうかと想像すると、どうも疑問に思える。

上演してくれたスピリット達の説明によると、彼らは霊界での劇団で、低界層の未熟なスピリットにモラルを教える為に上演しており、この度はウィックランド夫人の素晴らしい霊媒能力を利用して、我々の為に演じてみせてくれたのだった。

実に印象的な体験だった」

第8節 ●高級霊からのメッセージ
ウィックランド夫人の招霊会が、マーシーバンドと称する高級霊の一団の要請で開かれるようになった経緯は、冒頭に述べた通りである。その下準備として、私の妻が霊媒となるべく、友人のラックマンド夫人とケース夫人との関わりの中で貴重な霊体験をさせられていたことも、今しがた紹介した記録で明らかとなった。

これから紹介するのは、そうした一連の霊界側の計画の推進者であったルート博士が出現した時の記録(注)である。そもそもこうした記録として残して学術的資料とするように指導したのはルート博士で、三十年間に何度も出現して、我々を激励すると共に、そこに集められた『迷えるスピリット』に霊的真理を説いていた。

(注 原典には二つの記録が掲載されているが、霊的に目覚めていないスピリット、言うなれば幼稚園児を対象とした説教を兼ねているので、内容的には平凡である。ここでは一つだけ紹介しておく。Dr.Rootとあるだけで、他には何の紹介も説明も無い。本人の要請でそうしたのかも知れない。高級霊は皆、そうした態度を取るものである)

「こうして皆さんと共に催す集会はささやかなものですが、死後の生命について未だに理解できない多くのスピリットを集めて聞かせているのです。出来ればその様子を一目お見せ出来ればと思うのですが・・・。

これまで、地上には本当の意味での幸せと言えるものは皆無だったと言って良いでしょう。そして、これからも、宗教とは何かについての正しい理解が出来ないかぎり、本当の幸せと言えるものは得られないと言って良いでしょう。宗教と呼ばれるものは、いつの時代にも無数に存在していますが、いずれもその基盤にあるものは『欲』です。

皆さんは、二十世紀の世に生きておられます。文明は大いに啓発された時代かも知れませんが、死後どうなるかについて、なぜこうも無知なのでしょうか。

大半の人が相変わらず神よりも、黄金の子牛(富)を崇拝しております。教会はかつての機能を失い、崩壊の一途を辿りつつあります。現代人は真実の知識を求めているのです。信仰ではありません。その要請に応じて、牧師が真実の霊的知識を説くようになれば、信者も多く集まるようになるのでしょうが・・・。

キリスト教の古い教義がもはや信じてもらえるものではないことは、牧師の多くが心の奥で認識しているのです。しかし、牧師もお金が欲しい――神よりも黄金の子牛の方を崇拝しているのです。そこで、説教壇に立つと、自分自ら信じていない教義を説くことになります。

いつの日か地上人類も、金銭欲を卒業する段階まで進化することでしょう。が、悲しいかな現在のところは、大半の人間が金、金、金の毎日を送っております。その欲にはキリがないようです。なりふり構わず、富の追求に明け暮れております。

他人への思いやりが見られません。現代の経済体系、金儲けの機構を最大限に利用することばかり考えております。が、その機構も、いずれ崩壊する時代がきっと来ます。

この地上に生きているうちに、地上生活のことだけでなく、死後の世界について勉強しておくべきです。聖職者になりたいとか、医者になりたいとか、弁護士になりたいと思えば、誰しもその道の勉強をしなくてはなりません。それと同じで、こうして生きている自分とは何なのかについて勉強するのが当たり前ではないでしょうか。

死後のことは、死んでからではなく、この地上にいるうちに学んでおくことが大切です。そうすれば、肉体から離れた時に迷うことなく、予め用意されている場所に落ち着き、いつまでも地上の我が家をうろつき回るようなことがなくて済みます。死後のことを知らないまま死んだ人の中には、既に肉体がなくなっていることに全く気がつかない人が意外に多いものです。そういう人は相変わらず地上の家族と一緒に暮らしているつもりでいます。そのうち家族の中の感受性の強い者に取り憑いてしまいます。

精神科医は、それを『精神異常者』として施設へ送ります。地縛霊に取り憑かれた者は、医学ではまず手の施しようがありませんから、医者も情け容赦のない態度に出ます。

そういう事態になるのを防ぐ為には、死後、肉体を離れたスピリットが間違った信仰に迷わされることなく自然に、落ち着くべきところに落ち着くように、正しい霊的知識を地上時代に教えておくことです。天国とか地獄というのは、そういう固定した場所があるわけではなく、各自の精神状態をいうのです。

死後の世界は実に自然に出来ていて、地上とそっくりです。一つだけ違うのは、地上ではありとあらゆる性格と種類の人間が同じ場所、同じ平面上に存在するのに対して、こちらでは各人の理解力の成長に応じた境涯に落ち着くということです。

地上世界も霊界も『学校』のようなものと思えば良いでしょう。一段また一段と、理解力の成長に応じて進化の階段を上っていくのです。『信仰』は何の役にも立ちません。置かれた境涯で学び、学び終えて次の境涯へ行けば、またそこで学ぶわけです。理解力の成長は時間がかかります。が、生命の進化の旅は永遠に続くのです。急ぐことはありません。

地上人類がその霊性に目覚める日は、そう遠い先のことではありません。教会でも交霊会が開かれ、生命を霊的に理解するようになるでしょう。

ドクター・ルートでした。皆さんの幸せとお仕事の成功を祈っております。失礼します」

第15章 二つの世界の相互関係
第1節 ●可視の世界と不可視の世界
地上の人間の意識は、とかく目に見え、手で触れることの出来る範囲に限られている為、周りに目に見えない世界が実在することを理解するのは、中々難しい。しかし、物質が個体と液体と気体という三つの形態で、可視と不可視の状態の間を行ったり来たりしながら常に変化していることを理解するのは、さほど難しいことではない。

可視の世界は、不可視の実在がその要素の組み合わせによって、たまたま肉眼に映じる形態を取っているだけのことである。植物の成分の九十五パーセントは、大気中から摂取されたものであることが科学的に分かっている。空気なくしては、人間は数分間も生きられないのであるから、大気は他のいかなる可視的物質よりも大切であり、人類は大気という不可視の大洋を母体として生きていると言えよう。

窒素は、大気の大部分を構成しているものであるが、植物や動物の成育と存在には致命的な関係を持っている。水素ガスと酸素ガスは、目に見えないガスの状態から、目に見える水や氷の状態に絶えず変化を続けている。炭素もまた同様である。小は電子から大は遊星や太陽を動かすエネルギーまで、音や香りや寒暖の温度の法則やその他の諸々の現象は、触れることも見ることも出来ない要素である。

科学的親和力、エネルギー、植物の生活、動物の生活、知的並びに精神的作用に見られるように、あらゆる活動力は、化学現象であれ生命現象であれ精神現象であれ、その働きは肉眼には見えていない。これで分かる通り、目に見える世界のあらゆる構成要素が、その根元と永続性とを目に見えない世界に置いていることは明らかである。目に見えない世界は、目に見える世界の根元なのである。

第2節 ●否定しがたいスピリットの実在
このように、客観的存在も不可視の物質とエネルギーの組み合わせの産物に過ぎないことを知れば、目に見えない世界の存在は容易に理解されよう。自然界の極微の世界における科学の驚異的な進歩を考える時、物的身体から独立したスピリットが存在するという説は、いやしくも思考力をそなえた者なら誰しも納得しうるものと思う。古今を通じ、又あらゆる文学作品において、スピリットの存在や死後の生命ほど確たる証拠を有するテーマは他にない。

米国の歴史家フィスクは、

「現段階で分かった限りでは、あらゆる人種において祖先崇拝(死者[スピリット]との接触)は礼拝の最も初期の形態であり、アフリカ、アジア、中国、日本、ヨーロッパのアーリア人種、アメリカのインディアン等で広く行われていた」と言っている。

同じく歴史家のアレンは、その著書Histry of Civilization(文明の歴史)の中で、「世界中のどの未開の人種も、人間の魂や霊の世界の概念を持ち、一般に不死の信仰を持っている。未開人は来世を単純にこの世の続きと考えている。彼等は又、神秘的な力を持つ別の自我の存在を認めている。死とは、そのもう一つの自我が肉体を離れることであり、その自我は死後も尚、近くに存在するものと想像されている。この世の愛や憎しみは、死後にも持ち越されると考えている」と述べている。

孔子は「過度の嘆きをもって死者を悲しんではいけない。死者は献身的で誠実な友である。彼等はいつも我々と共にある」と言っている。

名著を残した古代の思想家――ソクラテス、ヘロドトス、ソフォクレス、エウリピデス、プラトン、アリストテレス、ホラチウス、ベルギリウス、プルターク、ヨセフス、チュロスのマクシモス等は、繰り返しスピリットの存在を当たり前のように記述している。例えば、キケロはこう書いている。

「天国の殆どが、かつての人間で満たされているのではなかろうか。神々も実は、その起源をこの地上に持っていたのであり、この地上から天へと上ったのである」

初代キリスト教がスピリットの存在を認めていたことは、聖アントニー、テルトゥリアス、オリゲネスや同時代の人間の著作の中で十分に証明されていることであり、改めて強調する必要はない程である。

バイブルは、スピリットに関する記述が豊富である。ヘブル書12・1、ヨハネ第一書4・1、ヘブル書12・23、コリント前書15・44・46等々、いくらでも引用出来る。

スウェーデンボルグは、改めて紹介するまでもないであろう。ドクター・ジョンソンこと、サミュエル・ジョンソンは「私はスピリットの存在を信じているのではなく、多くのスピリットを見てきているのである」と書いている。

メソジスト教会の創始者ジョン・ウェスレーは、その著The Invisible World(不可視の世界)の中で次のように述べている。

「英国の一般人、否、ヨーロッパの教養ある人々の大部分が、魔女や幽霊の物語を迷信として片付けている。私はそれを残念に思う。そしてバイブルを信じている人達が、そういうものを信じない人に呈する間違った賛辞に対して、この機会に厳粛に抗議しておきたい。このように考えることは、バイブルに反するばかりでなく、あらゆる時代、あらゆる国々の先賢達の直観的判断にも反する。先賢達は、霊媒現象を否定することは、事実上バイブルを放棄することになるということを理解していたのである」

右のジョン・ウェスレーの父親、サミュエル・ウェスレーの館で、色々な怪奇を伴った心霊現象が何か月間も続いて起きた、いわゆる〝エプワース事件〟は有名である。

シェークスピア、ミルトン、ワーズワース、テニスン、ロングフェロー、その他の多くの詩人が、人間の死後存続についての深い理解をもって詩を書いている。

クルックス教授、アルフレッド・ウェーレス、オリバー・ロッジ、コナン・ドイル、キャンベル牧師、コリー大執事、ニュートン牧師、W・T・ステッド、カミーユ・フラマリオン、バラデュク博士、ジャネー博士、リシェ教授、ロンブローゾ教授、ホジソン博士、I・K・ファンク博士、ジェームズ教授、ヒスロップ教授、キャリントン博士、その他、多くの現代の科学者、哲学者、牧師、医師、心理学者による説得力のある研究業績は、我々のよく知るところである。

トーマス・ハドソン博士は、その著書The Law of Psychic Phenomena(心霊現象の法則)の中でこう述べている。

「今日、心霊現象を否定する人は、懐疑派と呼ばれるにも値しない――只の〝無知〟に過ぎないのである」

ニューヨークの聖パウロ教会の牧師、ジョージ・M・サール博士は、

「スピリットの実在ということは、この問題を研究した科学者の間でさえ、もはや疑問のテーマではない。心霊現象を欺瞞だとかトリックだとか妄想だとか考えるような人間は、時代遅れであることを表明しているに過ぎない」と言っている。

イエズス会のG・G・フランコはCivilta Cattolica(著書名の訳、不明)の中でこう述べている。

「現代では、よくよくの変わり者を除いて、霊的事実の実在を否定する人はいない。心霊現象は、人間の五感の範囲で起きる現象であり、全ての人間に観察出来る。そして、そうした現象が多くの著名な、信頼の置ける人によって証言されている以上、それに反論することは愚かしく滑稽であるばかりでなく、第一、無益なのである。理性的な人間にとっても、今もって確証の得られた事実であることに変わりはない」

第3節 ●霊の世界と物質の世界の相互作用
霊の世界と物質の世界との間では、絶えず相互作用が行われている。霊界は空漠とした世界ではなく、実体のある自然界であって、物質より一段と純化された材料から形成された、活動と進歩に溢れた広大な世界である。そこでの生活は、この物的世界での生活の続きである。

物質界においては、魂は、その世界での経験や対象物との接触によって知識を獲得し、肉体器官を通しての表現によって存在を自覚する。霊界においても個々の進化は継続し、自発的な奉仕、高い理想の認識と成就、そしてますます広がっていく生命の目的の理解などを通じて、理性に導かれながら、魂が開発されていくのである。

一般に陰鬱な恐怖をもって見つめられている〝死〟は――この〝死〟という用語は実は間違っている――自然に、そして簡単に推移するので、多くの人間が肉体から離れた後もその移行に気付かず、又、霊界の生活についての知識を何一つ持ち合わせないので、彼等はそれまでと全く別の生活環境に入っていることに少しも気付かない。肉体の感覚器官を取り上げられているので、物質界の光を見ることも出来ず、又、より高い人生目的の理解も欠いているので、彼等は霊的に盲目であり、バイブルで〝暗黒界〟と呼ばれている薄暗い境涯にいて、地上圏に属する領域をさ迷っている。

死は、罪多き人間を聖人にするものでもなければ、愚か者を賢人にするものでもない。その個性は生前と同じであり、地上時代と同じ欲望・習慣・信条・間違った教義・来世に関する無知な不信といったものを、そのまま携えて霊界入りするのである。そして地上時代の精神状態がそのまま具現化した容姿をして、幾百万ものスピリットがしばしば地上圏に留まり、多くの場合、地上生活を送った場所にいて、地上時代と同じ習慣や趣味を固辞しているのである。

霊界の高い界層にまで進化したスピリット達は、こうした地縛霊を導こうと常に努力しているのであるが、彼等は死後についての誤った先入観の為に、先に霊界入りしているスピリットが訪れても〝死者〟とか〝幽霊〟と思って恐れ、たとえ友人が会いに来ても、それを友人と認めようとせず、自分の置かれている身の上を理解しようともしないのである。

深い睡眠状態にある者も多く、途方に暮れ、困惑した状態にある者もいる。その迷いの心は、奇妙な闇の恐怖につきまとわれ、また良心の呵責を覚え始めた者は、地上生活中の行為の為に恐れと悔恨の中で苦しんでいる。

一方には、利己的で邪悪な性向に動かされて、その欲望のはけ口を見出そうと、適当な人間を探し回っている者もいる。彼等は、こうした破壊的な欲望から脱して、魂が悟りと光を求め、高級なスピリットによる救いの手が差し伸べられるまで、その状態に留まっている。

彼等は、生前の性癖や欲望を満たす為の道具(肉体)はもう失っている。そこで、多くのスピリットは、生者から放射されている磁気的光輝に引き付けられ、意識的に、或は無意識的に、その磁気的オーラに取り憑いて、それを欲望を満たす為の手段とするのである。

こうして憑依したスピリットは、霊的な過敏な体質のその人間に自分の想念を押し付け、自分の感情を移入させ、その人間の意志の力を弱めさせ、しばしばその行動まで支配し、大きな問題や精神的混乱や苦痛を生ぜしめるのである。

昔から〝悪魔(デビル)〟と呼ばれていたのは、こうした地縛霊のことなのである。実質的には人間に由来するものであり、利己主義や間違った教義、無知などによる副産物であり、何も知らないまま霊界へ送り込まれて、無知という名の束縛に囚えられているのである。

世の中の不可解な出来事や不幸の原因は、実はこれらの地縛霊の影響なのである。清らかな生活や正しい動機、高い知性が必ずしも憑依からの防御を約束してくれるものではない。唯一の防衛手段は、こうした問題についての認識と知識である。

地縛霊の侵入を受ける側の肉体的条件は多様である。生来の感受性、神経の衰弱、急激なショックなどによることが多い。肉体の不調も憑依を招きやすい。生命力が低下すると抵抗力が弱まり、スピリットの侵入が容易になるのである。その際、憑依される人間も憑依するスピリットの方も、互いに相手の存在を意識していないものである。

スピリットの侵入は、その人間の性格を一変せしめ、人格が変わったように見え、多重人格症、ないし人格分裂症、単純な精神異常から、あらゆるタイプのデメンチア・ヒステリー、てんかん、憂鬱症、戦争痴呆症、病的盗癖、白痴的行為、狂信、自殺狂、その他記憶喪失症、神経衰弱、渇酒症、不道徳行為、獣的行為、凶暴、等々の犯罪行為を起こさせる。

地上人類は、高尚な人生の目的を理解していない無数の死者の想念に取り囲まれていると思ってよい。その事実を認識することによって、ふとした出来心、激情、奇妙な予感、陰鬱な気分、イライラ、不可解な衝動、不合理な癇癪玉の爆発、コントロール出来ない熱中、その他の無数の精神的奇行等の原因が理解出来る。

第4節 ●憑依現象に関する記録
憑依現象の記録は、遥か古代から現代にまで及んでいる。英国の著名な人類学者のタイラー博士は、その著Primitive Culture(原始文化)の中で次のように述べている。

「人類は今でも、その半数が、本質的に同種の現象を説明する為の説として本質的に同種の説、すなわち憑霊説を信じており、原始時代の先祖の考えをそのまま踏襲していると言っても過言ではない」

ドイツの言語学者ミュラーはUrreligionen(原始宗教)という著書の中でこう述べている。

「現代の未開民族の間では、てんかん、ヒステリー、精神錯乱、白痴、狂気等は、ある種の悪魔に肉体をコントロールされた為に起こると信じられている」

古代にも文献は多い。ギリシャの詩人ホーマー(ホメロス)は、悪霊の存在に度々言及しており、「痩せ衰えていく病人は、邪悪なスピリットに凝視されている為である」と述べている。

同じくギリシャの哲学者プラトンも、悪魔が生者に取り憑くことを信じていたし、かの有名なソクラテスは、ずばり、精神病は悪霊に取り憑かれて起きると述べている。やはりギリシャ人の名著『英雄伝』で有名なプルタークは、

「凶暴な悪霊の中には、欲情を満足させる為に地上の人間の中から適当なのを選んで、その魂を唆して、楽しみの為に騒乱、乱行、征服戦争を起こさせることまでする者がいる」

と書いている。ユダヤの歴史家ヨセフスは「悪霊というのは、邪悪な人間のスピリットである」と言っている。

スピリットの存在及びそれが人間に憑依する事実については、新旧両聖書に度々出てくる。特に、使徒の時代にはそれがごく当たり前のこととして信じられていたので、邪霊を追い出す能力は、イエスの真の弟子の重要な〝しるし〟の一つとされていた。イエスが行ったとされている〝不思議〟の中でも、悪魔を追い出すことが相当部分を占めていたといっても過言ではあるまい。そのことは、新約聖書の次の部分から十分に窺われる。マタイ伝・10・1、マルコ伝・1・39、ルカ伝・8・27、29、36、使徒行伝・19・12、マルコ伝・9・17~29.

初代キリスト教の文献を見ると、聖アントニーは、

「我々は、邪悪な想念を発散している悪霊のひしめく中を歩いている。が同時に、善き天使達の中をも歩んでいる。その善き天使達と共にある時は不安も争いも喧騒もなく、どこか静かで優しい雰囲気があって、魂が喜びに満たされる。幾多の悲しみの体験と断食行の後で、私が一団の天使達に囲まれ、喜ばしく天使達の歌に唱和した事実は、何よりも主イエスがその証人である」と述べている。

神学者のテルトゥリアヌスは、悪霊を追い出すことに関して、異教徒に対してその是非についての論争を申し込んでいるし、ローマの弁護士であり教論者であるミヌチウス・フェリックスは『オクタビウス』の中で、

「かつては聖職にありながら堕落し、自分自身を破滅させた後、他の人間をも破滅させることを止めない不誠実な浮浪者のようなスピリットがいるものだ」と書いている。

数年前、ロンドンのゴッドフリー・ローパート博士は、法王ピウス十世から委任されて、スピリチュアリズムについて、米国のカトリック教徒に講義した時に、次のような主旨のことを述べている。

「心霊現象の問題を放置しておくことは、もはや不可能である。世界中の科学者がスピリチュアリズムを〝本物〟と認めており、これを握り潰すことは危険である。こうしたことから、この問題に対して取るべき態度をカトリック教徒に話すように、法主から要請されたのである。

もともとキリスト教会は、このような心霊現象やスピリットの実在を認めているのであり、事実、これまでも常に認めてきているのである。現在の問題は、その霊的存在の本質を明らかにすることである。我々は今や、世界を大変革せしめるかも知れない新発見の一歩手前まで来ているのである。今のところまだ、現象の全てを説明しうる段階ではない。最後の判断は、この問題がもう少し解明されるまで待たねばならない。スピリチュアリズムの研究はまだ新しくて、それ故に危険も伴うものである。生兵法は大ケガのもとである(憑依される危険性のこと)

ニューヨーク市聖パトリック大寺院のラベル院長も、ある日の講演の中でこう述べている。

「悪霊の憑依ということが昔からあったことに疑いの余地はない。カトリック教会が、この可能性を認めていたことは、悪魔払い(エクソシスト)の為の規定があることでも明らかである」

ジュリアン・ホーソンは、ある一流新聞にこう書いている。

「邪悪な心の持ち主や邪悪な行為の常習者が、毎日、何千何万と死んでいく。彼等のスピリットは、その後どうなるのだろうか。彼等は、実はこの世へ帰りたがっているのである。ますます大胆にそして執拗に、その機会を狙っていることを示す証拠がいくらでもある。それを防ぐ方法は二つある。一つは、そうした好ましくないスピリットの供給源を断つことであり、もう一つは、彼らが侵入しようとする門戸を閉ざすことである」

A・グスターフソン博士は、自分で興味を覚えた実例を幾つか挙げてから「復讐心に燃えたスピリットは、死後、ある条件のもとで地上の人間の身体に進入して、これをコントロールする力をもっている」と述べている。

第5節 ●精神病とスピリットの憑依
ミシガン州カラマズー大学のH・L・ステットソン教授は、シカゴ大学での講義の中でこう述べている。

「悪霊の憑依ということは、神話上の話ではない。病気は、しばしば悪霊の憑依に起因していることがある。悪霊の存在は広く信じられていることである」

米国医師会・精神科のE・N・ウェブスター博士は、こう述べている。

「私は、精神病を起こさせているスピリットを何度も見ている。時にはその〝声〟まで聞こえることがある。不治と言われている精神病者は、単数又は複数のスピリットに完全に支配されてしまっていることがよくある。そうした精神病者を、死後、解剖して調べてみても、脳にも神経系統にも何ら異常がないことが多い」

ハーバード大学のウィリアム・ジェームズ教授は、心霊研究協会(SPR)の会報で「憑霊説が再び注目されるようになるであろう。これは、絶対確実のように思える。この問題に関して我々は、あくまでも〝科学的〟――愚直なまでに科学的であらねばならない」と述べている。

コロンビア大学のJ・H・ヒスロップ教授も、SPR会報の編集者をしていた時に「多くの精神病の根元は、スピリットの憑依であり、除霊によって治せるという事実を実証するものが次第に増えている。科学界もいい加減に目を覚まして関心を向けなければいけない。さもないと、物質科学は精神病をどうすることも出来なくなるであろう」と書いてある。

更に、教授は近著Contact with the Other World(あの世との触れ合い)の中で、次のように述べている。

「生者に悪影響を与えるスピリットの存在は、他の教説と同じくらい明白に新約聖書の中で語られており、旧約聖書の中でもそれを窺わせるものがある。

〝憑依(オブセッション)〟という言葉は、心霊研究家が、生きている人間に与えるスピリットの異常な作用のことを言うのであるが、これを全治させる為には、多くの時間と忍耐、特殊な精神療法を必要とし、憑依霊とコンタクトを取って憑依状態から解放したり、教え諭して、自発的に患者から離れてもらう為に、霊媒を使用することも必要である。

私が調べた分裂症や偏執狂は、いずれもその方法で功を奏し、精神的・肉体的病状が錯綜していても、その奥にスピリットの憑依があることを証明している。外科用のメスや顕微鏡の使用に劣らない実用的価値が見込まれているこの分野で、今や大規模に実験を遂行すべき時期に来ている」

Modern Psychical Phenomena(近代の心霊現象)の中で、著者のH・キャリントン博士はこう述べている。

「スピリットによる憑依の事実は、現代科学も、少なくともその可能性だけはもはや無視することは出来ない。それを立証する顕著な例証がおびただしく存在するのである。故にこの研究は、単に学問的な観点からだけでなく、現実に何千何万という人々が、この憑依によって苦しめられており、その救済は早急の調査と治療を必要としているという事実からも、不可避のものとなっている。一度憑依の可能性が論理的に認められれば、啓発された現代の知識と心理学的理解力が生み出しうる限りの配慮と熟練と忍耐を必要とする広大な研究領域が開かれるのだ」

神経的・精神的疾患の原因や治療の問題をめぐって、医学者や医療関係の役人に限らず、一般大衆の間でも、これほど広く関心をもたれたことは、医学の歴史上かつてなかったことである。統計によると、精神病が驚くべき速度で至る所で増加しつつあるのに、その原因については、医学の専門家の間でも見解の相違が大きく、機能的な精神病(身体上の欠陥が見当たらないもの)の正確な原因については、化学も尚その知識を持ち合わせていないのである。英国のウィンスロー博士にいたっては

「遠からず、全世界が狂気となるであろう」とまで断言している。

大部分の神経科医や精神科医は、精神病の直接的原因も遠因も、神経系統の錯乱にあるとの考えをもっているようであるが、正直言って真の原因については、殆ど分かっていない。フィラデルフィアの保健厚生局長W・M・L・コプリン博士は言う。

「精神病は、多くの場合、患者の脳の構造にはいかなる変化も伴っていないものである。精神病患者の脳を顕微鏡で調べてみても、完全に健康な人間の脳と少しも変ったところがない。それ故、精神病は何か細菌のような極微な微生物から出る毒血症によるものであることは明らかである。何かあるものが精神病を起こしているのであるが、それが何であるかは、我々にもまだ分からない」

ニュージャージー州の精神病収容所〝モリス・プレインズ〟の所長ブリトン・D・エバンズ博士は「脳の腫瘍も熱も、精神を冒すことはないのかも知れない。脳に疾患があっても、なお正常な精神の持ち主であることも有りうるのである」と述べている。

ドイツの著名な精神科医であり、ヒステリーの権威でもあるT・チーヘン博士は「多くの機能的な神経症については、その限界も定義も、正確なものは一つもない。ヒステリーについては病理解剖も何一つ教えてくれないのであるから、一定不変の原因は特定出来ないのである」と書いている。

ルーズベルト病院の医師でありニューヨーク医科大学の神経科教授であるウイリアム・トムソン博士はTuke's Dictionary of Psychological Medecine(ツーク精神医学事典)に言及してこう述べている。

「この優れた百科事典の執筆者は、英国・米国・フランス・ドイツ・ハンガリー・ベルギー・デンマーク・スウェーデン・ソ連の最も著名な教授、専門家、精神病院長といったそうそうたる面々である。だが、病的盗癖、渇酒症、慢性躁病などの項目の記述を見ると、病理解剖については一言も述べられていない(何も見つかっていないからである)。同じく、憂鬱病、産褥(さんじょく)期精神病、躁うつ病、殺人症、てんかんの項目でもそうである。いずれも、事故で死亡した健全な人間の脳と比較しても、その脳に何らの病理的変化も認められないという確かな理由から、病理学的記述がなされていないのである」

最近、虫歯、扁桃腺、感染器官の除去によって精神病が治る率が高いという報告が、トレントンのニュージャージー州立精神病院から発表された。トレントン療法の摘要の中でR・S・コープランド博士は、次のように書いている。

「この治療法は、精神病が体内のどこかにある細菌感染からくる毒血症、又は中毒による、という仮説に基づいている。もしもこの仮説が正しければ、症状が特に進行していない場合は、感染組織の除去によって精神症の症状が消えるということになる」

しかし、合衆国政府の統計は、他の統計と同じく、精神病の増加数が人口の増加数に比して大きいことを示しており、歯科医術があまり進歩していなくて開業医も少なかった時代には、人々は虫歯を放置しておくことが多かった筈なのに、精神病は少なかったという事実を考え合わせると、虫歯や扁桃腺疾患を精神病の第一次の原因と考えることは、この医学への関心の高い時代には不当のように思える。

トレントン報告の真偽を問うまでもなく、我々の実験では多くの症例において、たとえ患者がひどい虫歯に苦しんでいても、憑依霊を取り除くことによって、虫歯は放置しておいても精神病が完治しているという事実が厳然と存在する。私の推察では、憑依霊は激痛に過敏に反応することが実験的に判明していることから、トレントン病院によって発表された治癒例は、少なくともその一部は憑依霊が歯科的ないし外科的治療の痛みに耐えかねて立ち退いたということではないかと考えている。

異常心理学を霊魂説に基づいて研究する者にとって、ニューヨーク市の全国精神衛生委員会のF・E・ウィリアムズ博士が報告している精神神経症――仮病のケースは除いて――の多くの症状は、死を自覚していない戦死者のスピリットによる憑依を暗示している。それには次のような症状がある――精神錯乱・幻覚・不安・機能的心不全・麻痺・振顫(しんせん)・歩行障害・発作的けいれん・疼痛(とうつう)・知覚麻痺・知覚過敏・盲目・言語障害、等々。

戦争神経症の憑霊説は更に、強烈な電気的治療で急速に回復する事実によっても裏付けられる。ウィリアムズ博士の報告を引用すれば、「ビンセント博士は、他の精神医の所で数か月も治療を受けていた患者を二、三時間で治し、歩いたり梯子を上ったりさせることも出来る」という。ウィリアムズ博士の次の見解は霊魂説にとっては有利である。

「この神経症は、機械衝撃に晒されていた捕虜や戦傷者の中には稀である。これには中枢神経や脳の強い傷害は伴っていない。機械的治療法よりも心理的治療法の方が効果的である。戦争神経症――実質的には憑依現象――が精神神経症として固定しない内に診断がなされ、直ちに治療が始められるべきである」

最近の新聞に次のような記事があった。ニューヨークに住む凶暴な少年フランク・ジェームズは、十年前にオートバイから落ちて、それまでは快活で優しい素直な少年だったのが、一転して凶暴な少年となり、強盗などの犯罪常習者となってしまった。何回か感化院(救護院)に送られ、また五年間刑務所に収容された後、回復の見込みのない精神病者と宣告されて、州立病院に送られた。

ところが、ジェームズは、その病院から脱走した。早速追跡が開始され、見つけて捕えようとした追跡者に頭を棍棒で殴られ、意識を失ったまま病院へ運ばれた。ところが、翌朝目を覚ました時、少年はすっかり人間が変わって穏やかで従順ないい子になっていて、不安定な心を示す徴候は全く無くなり、その時以来いかなる犯罪の衝動も見せなくなった。

その記事は次のように結んでいる――〝いったい、この少年の脳のメカニズムに何が起こったのか、医学者にも皆目分からない〟

このような症例を、毒血症説ではどう説明するのであろうか。頭に加えられた一撃が毒血症を根絶して、正常な精神状態を回復させたというのであろうか。我々の主張する霊魂説によれば簡単に説明がつく。すなわち、この少年がオートバイから落ちて、ショックで意識不明となっている間に、犯罪癖のあるスピリットが憑依してコントロールするようになり、頭に加えられた打撃による激痛でそのスピリットが離れたのである。精神病施設で行われている水治療法に帰せられている治療成功例も又、それに付随する不快感を嫌って憑依霊が立ち退いたという説明が出来る。

米国SPRの会長を務めたことにある〝慎重派〟の最右翼のW・プリンス博士は『異常心理学ジャーナル』の中でこう述べている。

「もしも心のメカニズムの底にある確固とした原理を立証しようとするならば、我々は、あらゆる実験的研究ならびに臨床的研究によって見出された知見の相関関係を吟味し、全ての有能な研究者によって得られた結果に正当な考慮を払うべきである」

一般心理学及び異常心理学の問題に付随する迷信的見解や、愚かしい考えを注意深く除外し、また神経性精神病をはじめ熱性神経症、突発性神経症、特異体質などを除いても、なお精神異常者の大多数に説明不可能な異常性が残る。

そもそも精神病の原因についての高名な精神科医や第一級の権威者の見解が大幅に食い違うということ自体、他の治療を個人的ならびに一般的偏見に囚われることなく探究する余地があることを物語っている。我々の直面している立場は重大なものであり、出来るだけ広い寛容性と自由の精神がなければ、到底この探究についていくことは出来ない。精神病は主として心理的、ならびに精神的障害の現れであるから、症候学は病因を確立する為の手引きを提供すべきものであり、また精神病理学の解決を補助すべきものである。

しかし、この問題の解決は、そうした一般心理学ならびに異常心理学の探究だけでなく、第一の前提として人間の二重性――物質と霊、肉体的と霊的――の認識がなくては、十全とはなりえない。

第6節 ●霊媒による精神病者救済の有効性
精神病は恥辱の焼き印では断じてない。この病気に対する態度は〝嫌悪〟ではなくして〝理解〟であるべきであり、見える世界と見えざる世界との緊密な相互関係の認識であらねばならない。

スピリットの憑依ということは、現実にあること――自然法則の倒錯現象――であり、十分に証明しうるものである。これは、スピリットを患者から霊媒に乗り移らせ、精神異常とされているものを一時的に霊媒に転移させることによって何百回も立証済みのことであり、かくして精神病の原因が無知な、或は邪悪なスピリットであることが確認され、そのスピリットの地上時代の身元も証明しうるものである。

この方法によって、スピリットに何の損傷を与えることなく患者を救出し、またそのスピリットに霊的実相を説明してやることによって、暗黒の状態から解放してやることが可能であることも立証されている。それは本書で紹介した経験例が如実に証明している。

目に見える世界と見えない世界との間の相互通話は、自然が与えた特殊な恩恵であり、中継者の役目が出来る霊的素質をもった人間(霊媒)を介して成立するもので、肉体を失ってしまったスピリットも、この霊媒を介して容易に物質界と直結状態に入ることが出来る。

接触の方法にも色々あるが、研究の目的に最も有効なのは無意識のトランス状態でのそれであり、それによって目に見えない世界との直接通話が可能となり、同時にそのスピリットの精神状態がいかなるものか、進化したスピリットか無知のままのスピリットかも確かめることが出来る。

必要な予防策も講じず、霊的法則の理解もなしに、面白半分に心霊実験などに手を出すのは、社会生活の法律を知らなかったり無視したりすると不都合が生じるのと同じで、極めて危険である。使用法を誤って招いた弊害は、それを禁ずる理由にはならない。

心霊研究は格別に科学の領域に属するものである。この種の研究には、関連した法則に精通すると共に、常識と識別力とを具えることが肝要である。かくして霊的現象の研究においても、科学的調査というものが計り知れない価値をもつのである。

終章
本書で紹介した実証的資料によって明らかになったことは、説明のつかない現象も、適切な手段さえ講ずれば必ずや原因は究明されるということである。超自然現象というのは、原因の解明されていない自然現象のことである。

霊的研究も、好事家の暇つぶしではなく、科学的基礎の上で為されねばならない。見えざる世界の入口のあたりにたむろする低級霊が、騙しと偽りのテクニックを弄して、せっかく高級霊が人類の啓発のために苦心して推進しつつあるものを、台なしにしてしまうことがよくあるからである。

霊界側としては、地上界の研究家と協力して精神病院・教会・大学、その他の施設に研究センターのようなものを設立したいと願っているのである。そのためには、偏見というものを潔く棄て、宗教的先入観なしに証拠を考察し新しい発見を分析できる、心豊かな研究家によって、この分野の調査がなされることが絶対に必要である。

1905年3月30日付けのシカゴ・デイリー・トリビューン紙でI.K.ファンク博士は、物理的現象よりも精神的現象の研究の必要性を強調し、われわれの招霊会の成果を紹介したあと、ジャーナリズム界へ向けて次のように訴えた。

「このように、死後もなお生者に害を及ぼす邪悪なスピリットが存在することを科学的に立証するたった一つの実例の方が、過去十年間に届けられた生命の不滅についての夥しい数の説教よりも、死後の存続を立証する上でよほど力があることを銘記したい。その、たった一つの証拠は、唯物思想への弔いの鐘ともなりうるであろう。

実験室であろうが一般家庭であろうが、ウソ偽りのない現象であれば、埋蔵金のうわさを追いかけるよりもっと真剣に調査し、可能なかぎりの細かい証拠をつかみ、ただの面白い記事としてでなく、重大な問題として書くべきである。

ジャーナリズム界は、なぜ心霊問題を真剣に取り上げないのであろうか。正しく取り上げれば、豪華な特ダネとなるセンセーショナルな要素を秘めているのである。英国の首相を四度も務めたW.E.グラッドストーンは、その点を早く認識した人で、次のように述べている。

”これは今世界中で進行中のいかなる研究にもまして重大な研究である--はるかに重大な仕事である。

私は、つねづね思っていることであるが、科学者というのは一本の決まったミゾの中にはまりすぎている。自分の研究分野ではなかなかいいことをするが、既成の概念と矛盾しているように思える問題には、まったく関心を向けようとしない。それどころか、自分でのぞいて見たこともないものでも否定しようとする。自分の知らないエネルギーがいくらでも存在するという事実の認識が足らないから、そういうことになるのである”と」

本書で私が紹介したものに類することは、たとえば精神病施設などでも、その実証を得ることができるものである。というのは、精神病者というのは、もともと霊媒的素質があるから憑依されてしまったのであるから、正しい手段を講ずれば霊的調査の対象となりうるわけである。

そのひとつの方法としては、憑依している低級霊を除去したあとすぐに高級霊に乗り移ってもらうということも可能である。いったん、そういう形ができあがれば、その後も引き続いて高級霊による保護も得られる。

他方、宗教界にとっても、われわれのようなサークルは、生命の実相と霊的実在についての真理の学習という点で、計り知れない貴重な存在というべきである。死後の世界の実在と個性の存続というものを確実な証拠の上に照明して、”信仰”を”知識”に変えてしまったからである。

ただし、スピリットは人間側から指名して呼び出せるものではないことを、よくよく認識しておいていただきだい。だれそれのスピリットというように特定して呼び出そうとすると、低級なイタズラ霊で出て、それらしく振舞うということをよくやるのである。いかなる霊が出現するかは霊団側にまかせるべきで、必要に応じて、また霊界側の都合に応じて、しかるべきスピリットが招かれるであろう。低級な因縁霊である場合もあれば、高級な指導霊である場合もある。その辺の違いは、雰囲気で直観できるものである。

最後に言っておきたいのは、われわれのサークルで行ったことは、あくまでも精神的障害や思いがけない不運といって人間世界の不幸の解決法のひとつであって、決して万能薬ではないということである。

人類史に残るスピリチュアリズムの一大金字塔
本書は、米国の精神科医カール・ウィックランド博士が、異常行動で医学の手に負えなくなった患者を、特殊な方法で治療すべく悪戦苦闘した、三十余年にわたる記録の全訳である。

その特殊な方法とは、心霊研究の分野で”招霊実験”と呼ばれているもので、異常行動の原因は死者のスピリットの憑依であるとの認識のもとに、その患者に博士が考案した特殊な静電気装置で電流を通じる。すると、その電気ショックがスピリットにとってはまるでカミナリに当たったような反応を生じ、いたたまれなくなったスピリットが患者から離れる。それをマーシーバンドと名のる背後霊団が取り押さえて霊媒に乗り移らせる。乗り移ったスピリットは大半がその事実に気づかずに、霊媒の目・耳・口を自分のものと思い込んで使用し、地上時代と同じ状態で博士との対話を交わすことになる。その問答を通じてスピリットは、現在の本当の身の上を自覚して患者から離れていく、という趣向である。

電気で追い出すだけでは、ふたたび憑りつく可能性がある。そこで、そうした愛と同情に満ちた説得によって霊的事実に目覚めさせることが肝要なわけである。これは、私は、究極の意味での”供養”だと信じている。供養というと日本人は、習慣上”物を供える”という形式を想像しがちである。むろん、それも必要かも知れないが、その場合でも大切なのは、”どうぞ”という、丁寧な思いやりの気持ちであろう。その思いやりこそ供養の真髄なのであるから、必ずしも物を供える必要はないし、念仏を唱える必要など、さらさらないわけである。

さて、スピリットが患者に憑依するのと霊媒に乗り移るのとは、原理的には同じである。が、患者の場合は一個の身体(実際はそのオーラ。このあと解説する)を、患者以外の複数の意識体が勝手に使用するために、外面上は二重人格ないし多重人格がケンカをしているように見える。それをもって”発狂した”と言っているのであるが、霊媒の場合の入神(トランス)といって、霊媒自身の意識体をオーラの片隅に引っ込めた状態で、精神機能と言語機能を自由にスピリットに使用させることができるので、見た目には霊媒の身体ではあっても、精神的には完全にスピリットが再生したような状態となる。もちろん一時的であり、スピリットが去れば、霊媒は本来の自分に戻る。

念のために、トランスと睡眠との違いを譬えで説明すれば、車の運転手が助手席にどいて、代わって他の者にハンドルを握らせてあげるのがトランスであり、電源を切ってエンジンを停止してしまった状態が睡眠であると考えればよい。精神異常をきたす憑依は、トランスの病的現象であり、複数の意識がハンドルを奪い合うために車が暴走するわけである。

ウィックランド博士の場合、その霊媒を務めたのが奥さんだったことが、この仕事を30余年も続けることができた最大の要因である。実際の記録は本書の何倍もあったことであろう。博士は、その中から顕著な症例をいくつかの項目に分類して、一冊にまとめ上げた。それは必ずしも、”うまく行った”ケースばかりではない。手に負えずに説得を断念せざるを得なかったケースもある。それがむしろ、本書の学術性を増していると私は考えている。

このたびの全訳に当たって私は、全体を構成している項目を削ることはしなかったが、各項目の中できわめて類似したケースが多すぎる場合――たとえば、同じスピリットが二度も三度も出てきて、内容も程度もほとんど同じようなことを述べている場合など――は、冗漫にならないように、その中でとくに顕著なものを選んである。もっとも、それも分量にすればごくわずかである。

そのほか、章の順序を入れ替えたり、二つの章を一つにしたりしたところもある。そうした配慮も含めて、責任はすべて訳者の私にあることは言うまでもない。

●「事実というものは頑固である」
さて、英国の博物学者で、ダーウィンと同時代のアルフレッド・ウォーレスは、博物学の研究のかたわら、心霊現象にも興味を抱き、各種の学術誌にこの研究成果を発表したことで、学者仲間から非難を浴びたが、「事実というものは頑固である」との名言を吐いて、断固としてその信念を貫き、生涯揺るぐことがなかった。”事実”なのだから、譲ろうにも譲れなかったのである。あくまでも学者としての良心に忠実だったということである。

英語の諺に”見ることは信ずることである”というのがある。”百聞は一見に如かず”と同じことを言っているのであるが、私も、十八歳の時に物理的心霊実験や招霊会に出席し、常識を超えた霊的現象を目のあたりにして、見えざる知的存在の実在に目覚めた。いかなる反論も、あくまでもそれまでの常識をものさしとしたものであって、それでは未知の世界へ踏み込んで新しい真理を発見することは、永久に不可能であろう。百の反論も一つの実証には勝てないのである。

ウィックランド博士は、その実証をこれほどの膨大な書物にまとめて、後世に残してくれた。残念ながら我が国には、私の知るかぎり、これに匹敵する学術的な記録はおろか、これに類するものもきわめて少ない。もっとも、学術的とは言えないが、貴重な資料と言えるものとしては、宮崎大門著『幽顧問答』があげられよう。天保十年の記録で、少し古い感じはするが、私はこれを現代風にアレンジして、『古武士は語る』と題して潮文社から出している。

世界にも稀な憑依現象を扱ったもので、興味のある方はぜひご一読をおすすめする。人間の個性が死者にも存続することを、これほど生々しく伝える現象を、私は他に知らない。きわめて日本的な内容であるが、英米人にも予想以上に好評で、私自身の英訳によるA Samurai Speaks(サムライは語る・Regency Press刊)として英国でも出版されている。

日本ではウィックランド博士が行ったような方法での除霊はまったくしないのかというと、実はむしろ日本の方が西洋よりも頻繁に行っており、また病気や災厄を邪霊や因縁霊の仕業に帰して、除霊のためのお祓いとか供養とかが盛んに――いささか形式的になりすぎてはいるが――行なわれている。

私の恩師の問部詮敦氏は、ふだんは霊媒を用いずに直接的に霊に語りかけて”迷える霊”を目覚めさせておられたが、どうしても必要性が生じた場合は霊媒を使用し、ウィックランド博士とまったく同じ方法で諭しておられた。私も、たびたびその現場に立ち合った経験があり、それが本書を訳す上で大いに役立った。読むだけで、その招霊会の雰囲気をほうふつとして窺い知ることができた。

●物的身体のほかに三つの霊的身体がある
さて、ウィックランド博士は、しばしば、”オーラに引っかかって...”という言い方をしているが、ここで人体の霊的構成について、これまでに分かった範囲で解説しておきたい。

ここに紹介した二つのイラストはいずれも、米国で発行された霊能開発の指導書 Expanding Your Psychin Consciousness by Ruth Welch(日本語訳『霊能開発入門』)から拝借したものである。

第一図は、人体から放射されているオーラで、磁気性の(A)と電気性の(B)の二種類がある。ふつうオーラという時は、(A)の磁気性の方をさし、ウィックランド博士が言っているのも、このことである。

本来は、身体を保護する機能をもっているのであるが、精神的に過敏すぎたり、衰弱したり、悪質な感情の起伏が激しいと、調和が乱れて、似通った性質のスピリットの侵入を許してしまう。類が類を呼ぶわけである。

(B)の電気性オーラは、真夏のかげろうのようにゆらゆらと動きながら、その触手で生命力の流れを探り、そこから生命のカロリーを摂取する。

放射されているオーラ 第一図

幽体 第二図

以上の二種のオーラで第二図の”幽体”を構成している。これを日本の古神道では和魂(にぎみたま)と呼んでいる。

その幽体と肉体とを包み込むように見えるのが”霊体”で、主に知的思考や理性的判断をつかさどる媒体である。イラストではきれいな卵形をしているが、これは完全に発達した時の、いわば理想の形であって、大半の人間はもっと小さくて貧弱である。これを古神道では幸魂(さきみたま)と呼んでいる。

いちばん外側を構成している”本体”は古神道で奇魂(くしみたま)と呼んでいるもので、よほどの人格者や霊覚者にしか見られない。平凡人は、ほとんどこの媒体を使用していないと思ってよいであろう。

●霊的身体は変幻自在、意のままに動く
このイラストを見る際に注意しなければならないのは、これはあくまでも平面的に図解したものであって、実際には四つの身体が重なり合い浸透し合っていて、イラストに見るように内と外とに境目があるわけではないということである。

地上の人間には、このうちの肉体しか目に映らないので、”身体”と言うと肉体のような一定の形をしたものという先入観を抱きがちである。しかし、肉体は地上環境という物的条件(その最大のものが重力)に耐えていくための構造になっているだけのことであって、そうした条件の世界から離れてしまうと、形体は不要のものとなる。

さきに紹介した『幽顧問答』は、切腹自殺した古武士の霊がある庄屋の若旦那に乗り移って、延べにして二十時間余りにわたってしゃべったものを書きとめたものであるが、その中に次のような問答が出てくる。

大門「切腹ののち、そこもとは常に墓所にのみ鎮まりたるか」

霊「多くの場合墓所にのみ居たり。切腹のみぎりは一応本国へ帰りたれど、頼りとすべき所もなく、ただただ帰りたく思う心切なるが故に、すぐに墓所に帰りたり」

大門「本国へ帰らるるには如何にして行かれしぞ」

霊「行く時の形を問わるるならば、そは、いかように説くとて生者には理解し難し。いずれ死せば、たちまちにしてその理法を悟るべし。生者に理解せざる事は、言うも益なし。百里千里も一瞬の間にて行くべし」

ウィックランド博士が、スピリットがいよいよ霊媒から去る時に、迎えに来ている身内のスピリットの存在を確認させた上で、「その人たちのところへ行こうと心で思えば、それだけで行けるのですよ」と言う場面がよくあるが、これは右の古武士が言っていることと原理的には同じである。

●死後の世界にも段階がある
さて、ウィックランド博士は、死後の世界の構成については多くを語っていないが、実は第三図にあるように、三つの霊的身体に相応した霊的環境がやはり三つある。そして、内在する霊性が開発されるにつれて実在界へと近づき、地上の人間の想像を絶した光明と貴喜を味わうという。

ここに紹介したイラストは、英国のキリスト教牧師チャールズ・トウィーデール氏の著書 News from the Next World(来世からの便り)から拝借したもので、この牧師の場合も、奥さんが霊媒能力をもっていたことが幸いした。ただし、こちらは自動書記である。コナン・ドイルをはじめとする数人のスピリットに個別に同じ質問をして、その回答をまとめてこうしたイラストをこしらえたという。

時代も違えば国の違う二人の著者の指摘していることが、三つの身体と三つの界層という点でピタリ一致しているのは、きわめて重要なことと見るべきであろう。しかもそれが、日本の古神道の説とも一致しているのである。

 第三図

ただ、このイラストを理解する上でも気をつけなければならないのは、これはあくまでも物質界という三次元の世界と次元を異にする環境を平面図で表現したものであって、図のような”仕切り”があるわけではないということである。

霊的身体の場合とまったく同じであって、地球と同じ位置に他の三つの界曹が融合して存在しており、幽界の位置には霊界と神界も存在し、霊界の位置には神界も存在しているということである。

このイラストを見て興味深いのは、地球のすぐ外側にある中間境を”パラダイス”と呼んでいることである。仏教でいう”極楽浄土”に相当するところで、ここでは何もかもが思いどおりになり、病気もなく、金銭の苦労もなく、文字どおりの”極楽”なのであるが、実はそこは骨休めの”一時休憩所”のようなところにすぎず、本格的な霊界生活はそこを通過してから始まるらしいのである。

●霊界の落伍者――地縛霊
かくして人間は、”死”を一区切りとして地上生活を終えたあと、三つの霊的身体をたずさえてスピリットとしての生活を始めるのであるが、”迷える霊”とは、そのスタートの時点で地上的煩悩に引きずられて足踏みをしている者のことで、これを英語ではearth-bound。

では、自分とはいったい何なのか。抽象的な言い方をすれば、宇宙の大霊の一分霊、大我から分かれた小枝、ということになるが、得心のいく理解となると、それは神秘中の神秘、永遠の謎というほかはないであろう。なぜなら、それを完全に理解することは、宇宙の大霊すなわち神を理解することであり、それは、脳という三次元の中枢を媒体とするかぎり、実際問題として、絶対に不可能だからである。

●”自分”とは何なのか
結論として私は、そうしたスタートでつまずいて、さ迷いながら人間に迷惑を及ぼしている者も、あるいはあっさりと死を悟って次の世界へと順調に進んでいく者も、その意識の本体は、右に検証したように、地上にあっては肉体、ないしはその中枢としての脳ではないように、死後においても、イラストにある三つの身体ではないことを強調したい。

四つの身体は、あくまでも自我が使用する機関ないしは媒体であって、自我そのものではないということである。

●真理に”古い”も”新しい”もない
無責任な結論になってしまったが、それは言いかえれば、地上という物質界に生活する者の宿命的な制約と受け止めるべきであろう。これに不服を唱えてみても始まらない。生命の実相の一面が明らかになってみると、ちょうど世の中のことを何も知らないまま大きな口をきいていた青二才のように、人間は、自分とは何かについてすら何も知らないまま万物の霊長のつもりでいたのが、今、それが間違いであることに気づき始めたようなものなのである。

十九世紀半ばに勃興したスピリチュアリズムという名の霊的思想は、人類史上に画期的な知識をもたらしてくれている。コナン・ドイルは、これを大陸間の海底ケーブルの敷設にたとえて、ついに地上と霊界との直接の通話ができるようになったことの意義を強調している。

たしかに、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて、人類史に永遠に残る、大小さまざまな霊界通信が届けられている。そして今なおロングセラーを続けているものがあるが、他方には、このウィックランド博士が行ったような、病気治療を目的とした霊界との交信が行なわれていたのである。

”初版一九二四年”という年代を見て”古い”という印象をもたれた方も多いであろう。めまぐるしく話題が変転する現代の風潮に引きずられて、われわれは知らず知らずのうちに”新しいもの”の方が価値が大きいかに錯覚する傾向がありはしないだろうか。

が、真理には古いも新しいもない。コペルニクスが『天体の回転について』をまとめたのは三五〇年も前であるが、だからといって地動説は古いなどという人はいないであろう。天体が回転しているという”事実”を人類が知ったのが一六世紀になってからということであって、”事実”そのものは、それ以前から今日に至るもずっと、”事実”なのであり、これからも永遠に”事実”であり続けるのである。事実は頑固なのである。

問題はむしろ、そのコペルニクスの地動説を支持したガリレオが宗教裁判にかけられた時に、天体望遠鏡を持ち出して、その”事実”を確認してもらおうとしたにもかかわらず、司教たちはついに、その望遠鏡をのぞくことを拒否したという、その偏見的態度の方であろう。”憑依現象”も、そして憑依霊の”除霊”も、太古から知られていたことであり、イエスもそれを実際にやってみせている。同じことをウィックランド博士のサークルは実験・実証という形で行って、数々の驚異的な成功を収めると同時に、それを、誠に有り難いことに、記録に残してくれた。その価値は、他の心霊現象の科学的研究の成果、たとえはウィリアム・クルックス博士による物質化現象の写真と同じく、永久に失われることはないであろう。問題は、それをどこまで素直に受け入れるかである。

願わくば、地動説が当たり前の常識として誰一人として疑う者がいなくなったように、死後の個性の存続が、当たり前の常識として語られるようになる日を、一日も早く招来させるために、一人でも多くの学者や知識人が、本書で紹介されているような”事実”に目を向けてほしいものである。

ウィックランド博士が、ベーコンの”読書論”の一説を冒頭に掲げたのも、同じ願いからではなかろうか。