96.6.8
第4弾です
第4弾といっても、論文としては何年も前のものですがね....
こうしてみると、数年前のレポートでも、インターネットについての記述が全くないですね。今かくならここをとばすことはできんでしょうからね。
ただ、当時のパソコン通信界ほどにはインターネット界は「利用者」の側からすると成熟していないようには思います。これからでしょうね。
 
「社会福祉におけるコンピュータ利用−日本の現状を中心に−」
はじめに
社会福祉実践は、医療・司法・教育等とともに、ヒューマンサービスの一翼 を担っている。そしてこれらの分野は、人を直接扱う仕事であるという意識が強く、「コンピュータ等機械の 導入は馴染まない」という意見がある。そのため、経済・経営といった他の社会科学諸分野と比較すると、 コンピュータ導入は遅れている。その中でも、対象とする業務の範囲が広く、しかも専門職制の進んでい ない福祉分野では「コンピュータに人間のことが任せられるか」といった抵抗が強い。
しかし現代社会において、コンピュータが「道具」として有効とされ、各分 野への応用研究が進んでいることは事実である。福祉分野においても、「手段」の一つとしてのコンピュー タの「利用方法」についての研究は、重要であると思われる。本論では、日本における社会福祉研究・実践に おけるコンピュータ導入の現状と可能性について検討していくことにしたい。    



 
社会福祉分野におけるコンピュータ利用に関する研究動向
 1)米国の研究動向
 筆者はかつて拙稿の中で、米国のソーシャルワーク関連文献で、コンピュー タについて論じられているものの量的な年次推移について調べたことがある。(*1)
 それによると、タイトルや要約にComputerという語とSocial Work という語を合わせ持つ文献は、1960年代半ばに現れた。(表1)
 表 1 
 
出典:拙稿(注1)p.33 

 
 これは、1960年代から70年代にかけて、米国経済界全体に影響を与え たシステムであるMIS(MANAGEMENT INFORMATION SYSTEMS= 経営情報システム)の登場と時期的に重 なる。それ以前のコンピューター利用は、人手で行われていた業務の機械化による人件費の 削減といった経済効率追求が全てであった。実際、コンピュータ価格の高さからも、導入は大企業に限 定されており、福祉分野における導入は考えられる状況ではなかった。
 それに対して、60年代半ばに登場したMISにおいては、先ずコンピュー タに日常の業務や業績に関する経過記録等を蓄積することから始まる。そして、それらのデータを一定の手 続きに従って処理することで業務についてのレポートを定期的に提供しようとするものであった。管理職 は、その報告に基づいて、経営上の方針等を決定する時の判断材料にするというものである。(*2) このシステムは、福祉界においても各機関・施設が実施する処遇にかかるコストや、処遇効果についての報告 を、連邦や州が求めるという形で採用されることとなった。これが、福祉界においてコンピュータ導入が 検討されるようになったきっか
けである。(*3)
 その後70年代後半と80年代中ばに年間文献数を急激に増やしながら、8 9年時点で文献累計300代にのっている。(表1.図1)
 図 1 
 
出典:拙稿(注1)p.34 

 
これは、70年代後半にパソコン、マイコンといった呼ばれ方をする安価なコ ンピュータが市販されだしたこと、80年代半ばに16ビットパソコンと呼ばれるビジネスレベルの利用に 充分な能力を持つコンピュータが普及しだしたこととも関連しているように思われる。福祉施設等における財 政規模を企業に例えるならば、小企業・零細企業なみが一般的である。個人レベルでの購入が可能なコンピ ュータの登場は、このような福祉現場では普及の必要条件であったとも考えられるのである。
2)日本の研究動向
 それに対して、日本はどうであろうか。米国のような、コマーシャルベース での学術データベースは皆無に近い。従って、ここでは研究者のための学術情報システムの中枢機関である 『学術情報センター』(旧東京大学文献情報センター)を通してアクセスすることのできる邦文系データベ ースを利用してみた。
 なお、社会福祉を実践の体系としてとらえるときには、教育や司法、医療と いったヒューマンサービス諸分野を意識し、学んでいく必要があると思われる。その意味で、「教育」にお けるコンピュータについての文献も比較参考資料として調べることとした。
 1.目録所在情報データベース(図書)
 わが国の大学図書館等が所蔵している図書の総合目録データベースである。 どの大学の図書館にどんな本があるかのデータベースである。1000を越える図書館、情報センター が参加している(ただし学部図書館や分館も独立している場合は一つと数える)。所蔵件数としては260万 件を越える。
 タイトルや内容注記を検索対象として調べると「フクシ」という語が含まれ ている書物は1692冊 「コンピュータ」という語が含まれている書物は2450冊であった。しかし、両方の 単語を含む書物は0冊であった。
 同時に「パソコン」1109冊 「ニューメディア」50冊 といった語と 「フクシ」を、それぞれクロスさせてみたがやはり0冊であった。
 参考までに、「キョウイク」と「コンピュータ」という語を合わせ持つ書物 を調べると、98冊あった。
 2.目録所在情報データベース(雑誌)
 わが国の大学図書館等が所蔵している学術雑誌の総合目録データベースであ る。(個別の収録論文についてのデータベースではない。)所蔵件数は117万件を越える。
 雑誌タイトル等を検索対象として調べると「フクシ」という語が含まれてい る雑誌が313件で「コンピュータ」という語が含まれている雑誌は61件である。しかし、両方の単語を含む雑誌 は0件であった。
 「パソコン」10件、「ニューメディア」4件と「フクシ」とのクロスも0 冊である。
 「キョウイク」と「コンピュータ」のクロス結果は4件あった。
 3.国立国会図書館所蔵データベース
 国立国会図書館に納本された、国内刊行の図書の内1969年以降分のデー タベースである。99万冊のデータが納められている。
 タイトル等を検索対象として調べると、「フクシ」という語をタイトルに持 つ書物は2397冊で「コンピュータ」という語をタイトルに持つ書物は2520冊であるが、クロスした結果は0冊 である。「パソコン」1256冊、「ニューメディア」34冊とのクロスの結果も0冊であった。
 「キョウイク」と「コンピュータ」のクロスの結果は61件あった。
 4.科学研究費補助金研究成果概要データベース
 社会福祉分野を含み得る、邦文社会科学系文献データベースで全国レベルの ものは、概ね上述の通りである。ここではさらに、文献単位でみるのではなく研究成果単位のデータベ ースを調べることとした。
 これは、文部省の科研費補助金により行われた研究の成果概要を1985年 分以降57000件収録しているデータベースである。
 研究課題名と登録キーワードを検索対象として調べると「フクシ」130件 、「コンピュータ」414件となり、クロスした結果は3件であった。
 具体的には、北海道教育大学山形積治教授等(*4)による「心身障害児者 の療育と教育におけるパーソナルコンピュータの利用研究」に関する研究実績報告および、研究成果報告の2件。 大阪府立大学安藤忠助教授等による「ダウン症児の早期療育用情報処理システムに関する調査研究 と療育プログラムの開発」である。
 「パソコン」80件、「ニューメディア」17件と「フクシ」のクロスの結 果はそれぞれ0件であった。
 参考までに「キョウイク」と「コンピュータ」の両方を満たすデータを調べ ると、82件が検索された。
 5.研究者ディレクトリー
 本ディレクトリーは、文部省が昭和63年5月付けで実施した、「学術研究 活動に関する調査」の結果である。大学・短大・高専等の高等教育研究機関の研究者に対する悉皆調査で、 約13万人のデータが収録されている。
 各研究者の研究課題とそのキーワード、主要著書・論文名を検索対象として 調べると、「フクシ」1081人、「コンピュータ」2449人で、両方を合わせ持つ研究者は10名であった 。ただし、その内1名は「フクシ」=「副詞」として検索された、英語学関係の研究者であり、当然除かなくては ならない。(*5) また、もう一名は、「企業福祉」と「コンピュータアレルギー」といった産業心理関係の 研究者であり、福祉=福利とでもいうべきケースである。これも対象から、はずすべきであると思われる。
 残された8名は、広い意味では福祉とコンピュータという条件を満たす研究 者といっても良さそうである。
しかし、日本社会福祉学会に参加している研究者は2名に留まる。「ソーシャ ルワーク業務におけるコンピュータ利用」をテーマにあげた、兵庫医大医学部の橘高通泰講師。「社会福祉 とコンピュータ」という1983年の論文を業績にあげた、四国学院大学文学部の宮崎昭夫教授。この2名で ある。
 他の6名は、衛生学関係2名、政策学、制御工学、都市計画、情報学各1名 といった専門になっている。つまり、情報学の立場からの「視覚・聴覚障害者のためのコンピュータ利用 」、制御工学の立場からの「福祉機器の開発」等といった研究をしている人々である。
 なお、「キョウイク」と「コンピュータ」という語を合わせ持つ研究者は6 19人であった。
 以上学術情報センターの情報検索サービスを利用して5つのデータベースを 調べてみた。既に明らかになったように、日本における福祉分野のコンピュータ利用に関する研究の蓄 積はほとんどないに等しい。ただし、これは研究が全くなされていないという意味ではない。現にいくつ かの雑誌・書物に関係論文は報告されている。(*6) ある意味では、文献データシステムの貧弱さ=収 集・蓄積システムの未熟を指摘すべきであろう。各個別の研究者の研究を蓄積し、多くの人の利用できる状 況に持っていく努力は、その学問分野のレベルを飛躍的に向上させる条件でもあり、今後の福祉系データ ベースの構築がまたれる
ところである。
 とはいえ、アメリカのソーシャルワーク分野における文献蓄積数との比較や 、隣接領域である「教育」との比較でも分かるように、日本の福祉分野におけるコンピュータ利用に関する研 究が絶対数として少なく、全体として遅れていることは否定できない。しかしそのことが、自動的に福祉 実践においてコンピュータ導入がなされていないということの証明にはならない。研究対象としては成熟し ていないだけで、実践としての蓄積はなされている可能性はあるのである。    

 
  新聞記事データベースから
 前章で述べてきたように、米国と比較できるような研究レベルでの蓄積はな い。そこで本章では研究レベルではなく、実態レベルの利用状況を表す資料として各新聞記事データベー スを調べてみることにした。
1)対象データベースについて
 今回の資料収集は、以下の5つのデータベースを利用した。
 「朝日新聞記事データベース」   範囲1985年1月1日-1991年7月18日
 「日経新聞記事データベース」      1985年1月1日-1991年7月18日
 「読売新聞記事データベース」     1986年9月1日-1991年7月15日
「毎日新聞記事データベース」     1987年1月1日-1991年7月17日
「共同通信連動データベース」     1988年2月1日-1991年7月19日
 この中で、日経記事データベースは日経本誌だけでなく、日経産業新聞や、 日経流通新聞等日経各紙も同時に検索できるようになっている。また、共同通信連動データベースは共 同通信社と、その提携加盟社である、熊本日日新聞、静岡新聞、西日本新聞の記事を横断的に検索できる サービスである。
 検索のためには、分類記号による検索をはじめ、さまざまな方式が用意されているが、ここでは前章の学術データベースと同じく自由語検索とした。「新聞記事データベース」の特徴としては、全ての記事がコンピュータに入力されており、機械処理によって単語毎にキーワードとして登 録されている点があげられる。つまり、タイトルやせいぜいアブストラクトレベルでしか検索できないこと の多い「論文系データベース」と比べると、記事中の一言まで検索対象となる新聞記事データベースは、求める 情報が把握される可能性が高いと考えられる。今後は、学術情報データベースも(入力コストの問題な どはあるが)全文検索できるようなシステム構築を目指すべきであると考えられる。(*7)
  2)検索件数について
 以上の各データベースを対象に、「コンピュータ」「フクシ」の2語(共同 通信データベースのみ漢字検索ができるので「福祉」)を持つ、記事を探した。その結果1991年7月20 日時点で検索できたデータ数は、朝日44件、日経79件、読売46件、毎日26件、共同34件であり、合計 229件となった。
 年別の記事数推移は表2の通りである。
表2 年次別新聞記事数
 年
85 
86 
87 
88 
89 
90
91 
朝日 
3  1  5  3  6  9  17 
日経 
15  12  9  15  12  9  7 
読売 
  2  12  18  7  5  2 
毎日 
    2  6  4  11  3 
共同 
      7  12  9  6 
 各紙記事の年別合計数は、18−15− 28−49−41−43−35と なっている。この記事数で見る範囲では、一概に関連記事の増加傾向は指摘できないようである。
3)検索ミスについて
 229件の検索結果には、自由語カナ検索方式の限界として、数件の「無関 係」な記事が混入している。
例えば、リクルート事件が何件か検索されている。これは、江副氏という人物 の「副氏」が「フクシ」として登録されているようである。明らかに間違いであるが、機械的に原稿を分割し、 キーワード化しているので生じるミスであろう。
 また間違いとはいえないが、今回の検索目的から言えば、不適切な検索例も 何件か含まれていた。例えば、「コンピュータ会社が福祉施設に寄付をした」「福祉施設の子供が、コン ピュータ化されたボーリング場で楽しく一日を過ごした」等のたぐいである。あと、地方自治体の予算関連 の記事も混じっていた。「福祉予算」の項と、その他の部門での「コンピュータ」導入の項が含まれている からである。
 筆者なりにこれらの項目を除外して、「福祉分野におけるコンピュータ利用 ・導入に関する記事」に限定して、作成しなおしたものが表3である。約3分の1を除外したことになる。 (*8) 
 表3 年次別新聞記事数(2)
 年 
85 
86 
87 
88 
89 
90 
91 
朝日 
2  1  5  2  5  5  11 
日経 
9  10  6  11  6  5  7 
読売 
  2  9  10  3  3  1 
毎日 
    1  2  1  3  1 
共同 
      6  8  7  4 
 88年以降の5データベース全てが揃っている状態での記事数合計を比較す ると、31−23−23−24である。91年分は7月までではあるが、やはり「情報化社会」といわるほど の急増ぶりは指摘できないようである。
  4)記事内容の分類
 ここでは、機械検索された229本の新聞記事の中から、筆者が一応の選択 を行なった146本について、検討をしていくこととしたい。
 まず、福祉におけるどの分野の記事が多かったかを検討するために、福祉法 上の分類に従って「生活保護」「児童」「障害」「老人」に先ず分類してみた。(*9) そうすると 、生活保護関係3本、児童関係1本、障害関係56本、老人福祉関係32本となった。また福祉法的分類ではない が、「行政」関連48本、「保健・医療」関連17本といった記事がめだっている。
 1.障害関係
 障害関係をさらに詳しく分けると、肢体不自由関係の記事と、視覚障害関係 、聴覚障害関係の記事が中心となっている。なお、精神薄弱に関して特定した記事はなかったが、精神障 害関係の記事が1本あった。共同作業所においてコンピュータを導入したことで、作業成果が向上したと いうものである。
 肢体不自由関係の記事は29本と、全体の20%を占めている。内容は、障 害者雇用関係の記事が16本と最も多い。それもほとんどが、国家試験である情報処理技術者試験につい てや、プログラマー関連の記事である。肉体的負担の少ないコンピュータ関連の技術を身につけることで 、雇用を確保しようという行政側・福祉施設側の福祉的努力の現れであろう。
 同時に、もう一つ指摘すべきポイントとして、企業側の論理がここでも見ら れるという点があげられる。好景気による人手不足、特にコンピュータ関連の技術者不足は深刻なものがある 。それを補う一つの方法として、身体障害者を潜在的労働力として企業側が注目しだしたということであ る。コンピュータ関連会社による協議界、が障害者団体等に働きかけ、「障害者雇用促進センター」(仮称 )の設立準備委員会を発足させた(91.05.28朝日)といった記事が代表的である。
 雇用問題を考えるときに、福祉・行政側の努力だけでなく、企業の積極的参 加をどれだけ得るかは重要な課題である。その意味ではこの動きは歓迎すべきことであろう。しかし、企 業主導になり、福祉関係者側が従となることには問題がある。「景気の良いときには障害者をどんどん雇用 するが、不景気になれば先ず障害者から切り捨てる」といったことのないように、福祉・行政側が主体性 を保つことが要求されるのである。
 肢体不自由関係でそのほかに注目すべきものとしては、コミュニケーション ・エイドとしてのコンピュータ利用があげられる。手足が不自由で一般的なワープロ入力が困難な人が、マイ クに向かって話すことによってコンピュータに入力ができる音声入力装置や、最重度身体障害者が「瞬き 」をスイッチとすることで、コンピュータ画面上の「ライト」「ブザー」等といった表示を選択し、室内の 電気をつけ、別室の介助者にブザーで連絡をするといった装置の紹介もある。(88.06.24朝日/90.10.30読売 )
 視覚障害関係の記事は16本あった。「普通に書かれた文字を読む」という 視覚障害者にとって従来不可能であった部分を解決しようとする努力に関する記事と、それの代替として の「点字訳」の効率化に関する記事が多い。具体的には、印刷された文字をカメラで読みとり、コンピュー タが認識し音声合成装置で読み上げるという、視覚障害者用読書機の開発に関する記事(87.09.29読売/88.08.31 日経産業)があげられる。漢字混じりの日本語については試作の段階であるが、英文について は既に外国において商用化されている(89.01.31日経産業/89.02.10読売)。
 この、光学読み取り装置と音声出力装置による読書システムは、ボランティ アに頼らない読書(=点訳を頼みにくい書物・雑誌を自分で読む)を可能にするという意味でも興味深い。 点字訳において、例えばポルノ的な本を翻訳するべきかどうかということは従来から議論が分かれる問題 であった。ボランティアといっても現実的には大多数が女性であり、またそれでなくとも他人にポルノを点 訳して欲しいとは言いにくい。さらに、点訳を頼んで拒否されたという事例もある。視覚障害であるが故に 、入手できる情報が「きれい」なものに制限されることは権利の制限ではないかという問題である。直接自分 だけで読む「自由」の拡大と
いう視点からは機械化・自動化には大きな意味があるのである。(*10)
 また、コンピュータやワープロの操作は、一般的に目で画面を読みながら行 われるのに対して、入力されたデータを機械的に発音する装置=「しゃべるパソコン」や点字ワープロソ フトは、日本語レベルでも実用化・商用化されている。(86.11.17読売/87.10.30読売/88.12.23読売)
 従来点字文書は一文字ずつ手で入力することが中心であった。点字図書館等 においても、点字本の作成はほぼ全面的にボランティアに頼っている状況である。しかし、そのボラン ティアには専門技術が必要である上、一冊づつの手作業で複製ができないため、慢性的に受給バランスは 崩れていた。この状況に対して、普通にコンピュータやパソコンで入力した文章を機械的に点字へと変 換し、専用プリンターで印刷ができるソフトが実用化されたのである(90.11.08毎日/91.03.04読売)。 このことで、点字についての深い知識がない者でもボランティアとして参加できるようになり、かつ何冊で も繰り返し印刷できるということ
が可能になってきた。
 ここで注目したいことは、機械点訳のためのコンピュータソフトの多くがボ ランティアベースで開発・流通しているという事実である。a.普通に入力された漢字平かな混じりの文章を 、全文カタカナに変換するプログラム。 b.それを、点訳に必須な分かち書きに変換するプログラム。  c.分かち書きされたカタカナ文章を、点字印刷できるように処理するソフト。 それぞれがボランティアに よって開発され、無料で関係者に配布され利用されているのである。もちろん、コンピュータ関連会社の開 発した有料の点字関連ソフトもあるが、a.b.の段階の市販ソフトはない。採算がとりにくいため、開 発されにくい「福祉系ソフト」が、ボランティアによって開発され流通していることは、記憶にとどめておくべきで あろう。
 聴覚・言語障害関係の記事は6本あった。行政による、聴覚障害者家庭への 福祉ファックスの設置の記事(91.02.26朝日)、コンピュータの利用による従来より高度なデジタル補聴 器の開発(89.08.22日経産業)、振動や光による災害警報装置の開発(87.09.29読売)、コンピュータの 利用による発生発語訓練システム(88.07.28読売)、発声障害者が電話で意志を伝えられるように、プッ シュホンボタンをおすことで発声してくれる電話システム開発の記事(90.02.09読売)等があった。
 特定のテーマに集中してはいないが、大きく分けると、他者とのコミュニケ ーションの障害であることに注目した記事と、情報の不足を補う方法に関する記事とが中心といって良さそう である。
 最後に、障害者福祉分野におけるパソコン通信の可能性についても指摘して おきたい。(89.05.10朝日/90.03.03熊本日日)パソコン通信とは、電話回線を通して各個人のパソコン とホストコンピュータを接続することで、互いに手紙のやりとりや会議を画面上で行い、またデータを入手 するものである。聴覚・言語障害者にとっては、文字情報中心のパソコン通信はほとんど不利はない。重度 の肢体不自由者にとっては、文字の入力に問題があったが、足で入力できるキーボードや指一本で文字 を打てる装置が開発されてきたことで、パソコンを使って文章作成することは可能になってきた。唯一 視覚障害を持つ者にとっては援助者なしでのコンピュータ通信への参加が不可能であると考えられていた。 それが既述の音声発声装置の開発によって、画面に表示された文字を同時に耳で聞くことができるよう になった。このようにして、ほとんど全ての障害を持つ者にとってコンピュータを通して(媒介として)のコ ミュニケーションが可能になったのである。北海道の視覚障害者と九州の聴覚障害者が親しくなり、相手の招 待ではじめて長距離旅行をした、といったことが可能になったのである。また、一対一の電話や手紙と 違って、一人の書いた意見を何百人もの仲間が自分の都合の良いときに読み、自由に返事を書くといったこ とができるのもパソコン通信の大きなメリットといえよう。
 実際、ボランティアに興味のある者によるグループや既にあげた点訳ソフト を用いての点訳グループ等がパソコン通信上にできている。
2.老人関係
 老人関係の記事の中では、一人暮らし老人の緊急通報システムに関する記事 が12本と中心を占めている。一人暮らし老人の健康管理・緊急事態への対応は在宅福祉対策における重 要な課題となっている。急に身体の調子が悪くなったが、独居のため病院や知人に連絡することができ ずに大事に至ったというようなケースはあとを絶たない。これに対して、室内の手の届きやすいところに 緊急ボタンを配置したり、ペンダント型の緊急ボタンを常時首にかけるようにすることで対応しようとする システムが普及しだした。独居老人の容態が急に悪くなったときなどにこの緊急ボタンをおすことで、所定の センターや関係者宅に自動的に連絡が通じ、援助が開始されるシステムである。
 一般的には、行政サービスとして消防署のコンピュータに通報するシステム (89.09.04朝日/90.10.27朝日)や近所の協力家庭・民生委員に連絡するシステム(88.02.03日経)が基 本である。しかし、老人福祉特に在宅福祉が最近の話題となっていることもあり、受信センターの部分に さまざまな工夫がなされている。例えば企業ベースの努力として、地域のタクシー会社が通常業務の範囲と して行政の許可を得て、タクシーの配車室を「救急本部」に仕立てサービスを開始したケース(87.06.16 朝日)などもある。また、老人ホームがセンターを引き受けているケース(86.12.11日経産業/87.07.12読 売/89.11.01朝日/)や身体障害者施設がセンターを引き受けているケース(87.09.15.朝日/88.12.12 読売)もあげられる。
 ここで、注目しておきたいことは、最後のケースである。従来、福祉施設は 入所なり通所なりの措置をうけたクライエントに対しての責任を持つものとされ、地域社会に対しての貢献は それほど重視されてこなかった。それが、最近の地域福祉重視の流れによって、在宅の要援護者層やボーダ ーライン層に対する援助拠点としての役割を施設が担うことが要求されだしてきたのである。そういっ た中で、老人ホームが地域の在宅独居老人の緊急時の通報システムの受信センターとしての役割を果たすよ うになってきた点は評価されよう。
 また、身体障害者療護施設が受信センターとなっている青森県の例は特に注 目したい。施設内の入所者=重度身体障害者の有志が作っている、「パソコン研究グループ」がオペレ ータとして緊急通報を受ける仕事をボランティアとして行っているのである。これは、何重もの意味で画 期的な面を持つ。第一に施設が在宅福祉に積極的参加をしている。これだけならば、老人ホームにおいてあ る程度広がりつつあるが、このケースの意義はそれだけに留まらない。第二に障害者福祉と老人福祉とい う分野の壁を越えて協力をしている。日本における縦割的な福祉行政論で言えば、老人福祉施設ならば ともかく、障害福祉施設が在宅老人の福祉に協力する必要性は全くないということになるのである。しか し、各地域にそれぞれの類型の施設がまんべんなく分布しているわけではない。その意味でも、類型を越 えての協力は大いに意味がある。第三に、施設においてはクライエントと呼ばれる立場の人が、地域に対 するボランティアとして貢献をしている。従来の福祉においてはワーカーとクライエントという立場の差は 絶対不可逆なものであった。
ところが、ここでは施設において日常生活の介護を受けている重度身体障害者 が、パソコンが趣味であるということを生かして、在宅老人の緊急事態を援助するということになったの である。一方的に援助を「する側」と「される側」というように人間を二分するのではなく、「ある面では援 助を必要とするが、別な点では他人の援助ができる」という考え方は、従来の福祉観を打ち破るものといえよう 。
 
 この他には、痴呆老人の徘徊チェックシステムや、介護ロボットの研究、ま た次の行政の所で改めて触れるが老人福祉関連のデータベースの提供といった内容が扱われている。
 3.行政関係(*11)
 行政関係の記事として最もめだつのは、情報提供システムに関する話題(1 5本)と情報管理システムに関する話題(13本)であろう。この両者は行政と住民の関係における「情報 」に関わる問題であるという意味においては似ている。しかし、実はそのめざすところ、抱える問題等は大き く異なるのである。
 情報提供システムとは、行政が持っている福祉情報を住民の側に公開して行 こうというものである。「『寝たきり老人の在宅介護を手伝ってほしい』と相談すると、相談員がコンピュー タで検索、ヘルパー派遣や入浴サービスなどについて、行政の制度や民間の実施団体をリストアップする 。料金や時間、問い合わせ先などもその場で分かる」(91.03.03.朝日)という、神奈川県福祉プラザの 相談コーナーの例等が典型である。提供される情報としては、福祉施設の利用案内や空き情報、ボランティ ア団体の活動内容や連絡先、といった総合的なもの(千葉県)から、高齢者向けの教養講座や県のイベン ト内容を利用できるようにする(兵庫県)といった高齢者対策に特化したものまである。また、住民がどの ように情報を入手するかという方法については、各人が自分のパソコンと県のホストコンピュータを電話回線 で結び、家にいながら自由に情報を入手できる愛媛県の例もあれば、都庁のデーベースコーナーにパソコ ン端末を置き、都民が自由にアクセスできるようにした東京都の例、県下の全88市町村社協に端末コ ンピュータを設置し、地域の社協に行くことで各人は県の情報を入手できるようにした愛知県の例等がある 。
 現実には、市役所なり県庁社協といった機関に出向きそこでコンピュータを 操作するか、担当者に調べてもらうというパターンが中心のようである。愛媛県のように、本当に自宅に いながら行政情報が手にいれられる、言い替えれば他人の目を気にしないで情報が入手できるという方向が 今後は目指されるべきではなかろうか。ただし、全ての住民がパソコンを家庭に持つわけではないので、 今後とも然るべき機関に出向くことで端末機器を持っていない者も利用できるという道は当然残されてい くべきである。その意味では、端末(情報の受けて)側をコンピュータとせずに、電話とした藤沢市の例も 注目される。といっても、役所の人間が住民の質問に応対するのではない。市のコンピュータに入力された行 政情報を24時間自動管理し、電話をかけた住民は決められたコード番号をダイヤルすることでホスト コンピュータが「情報をしゃべる」のである。
 行政機構はともすれば閉鎖的になりがちで、本来住民のものである行政情報 も、なかなか手に入りにくい現状があった。情報提供システムは、そのような現状に対して行政の持つ福 祉情報をどのように住民に伝えていくかという、「公開」の方向性をもつものである。
 一方、情報管理システムは行政が従来バラバラに利用されていた個人情報を 、コンピュータに入力することで管理し、効率化していこうとするものである。この分野で、コンピュー タ導入が進んでいる分野としては、生活保護業務の処理に関するものがあげられる。従来から、大型計算機に よって自治体が一括処理する方式は採用されていたが、最近ではさらに一歩進めて各福祉事務所レベル でパソコン、オフコンによる随時処理方式へと転換が図られだしているという。さらに、それを一歩進め て、地方自治体の福祉業務における個人情報の一元管理を図ろうとする動きもでてきた。生活保護、老人 医療、施設入所等のこれまで別々な係が別々に処理していた情報を一台のオフィスコンピュータに統合す ることで、事務合理化を図りその分の余力を福祉分野の面接相談にまわす(88.07.27日経・静岡新聞)と いう静岡県の例等がある。
 
 これらコンピュータの導入によって、事務の効率化をはかり、迅速で誤りの ない行政判断ができるというメリットは確かに大きい。しかし、一方で福祉行政の対象者=クライエントの 個人情報を行政が集中管理することに関しての問題点も指摘されることになる。いわゆるプライバシー問題 である。「電子計算機処理等に関する個人情報保護条例」を可決した横浜市議会等がその例である。全国的 にみても、88年時点で、全国民人口の40%にあたる434の地方自治体が「個人情報保護条例」を制 定している(88.05.29毎日)という。実際に保護規制の対象になっている情報は95%の自治体で福祉・年 金等電算機処理によるものに限られている。裏返せば、コンピュータ管理に対する住民の側の抵抗が根強 いということでもあろう。先にあげた、情報提供システムが住民に対する情報の公開の方向であったのに対 して、情報管理システムは住民の側の情報を行政側が一元的に管理しようとするものであり、この疑問 は当然である。より良い処遇のために情報の統合化の動きは必要ではあるが、「プライバシー侵害になら ないか」という声に答えていくことは忘れてはなるまい。
 4.保健・医療関係
 保健・医療関係の記事としては、1)各個人の定期検診や予防接種等の記録を コンピュータに入力し健康管理に役立てる「健康管理情報システム」 2)保険証のICカード化・光カ ード化 3)患者の症状を入力するとコンピュータが自動的に病名を推論し、薬の種類や量を示す「人工知能 医療システム」 4)コンピュータを利用した診断装置 5)コンピュータによる体力測定診断 に大別するこ とができるようである。
 1)と2)については、行政の所であげた情報管理システムの保健・医療版とも いえる。ただし、行政における管理システムが個人の処遇向上を間接的にはめざしながらも、直接的には職 員サイドの効率化といった側面が強調されかねないのに対して、保健・医療分野における管理システムは 、より直接処遇の向上をめざしたものでもある。保健相談センターにおいて、乳幼児から高齢者までの定 期検診や予防接種等の記録をコンピューターに入力し健康管理に役立てるという、神奈川県海老名市(91.03.10 朝日)のケースが、1)の例といえよう。2)は、まだ実験段階ではあるが、今後の動向として注目 されるべきものの一つである。特に、高齢者対策としての可能性が高い。具体的には3年前からの成人病関連 の検診情報が入力されている、兵庫県五色町の実験が有名である。(91.06.25毎日) 患者がICカー ド持参で診察を受けると、病院側は端末コンピュータから他の診療所での受診データも含めて呼び出せると いうものである。現在の一般的医療システムでは、患者が病院を勝手にかえてしまうと、過去の治療方針 やその結果を知らないまま、新規病院としては治療を始めなければいけなくない。ICカード方式は、医 療の継続性の確保という意味では画期的なシステムなのである。
 3)の人工知能医療システムと4)のコンピュータ利用の診断装置は、どちらも 福祉分野における医療というよりは、純粋に医療分野におけるコンピュータ利用とでもいうべきテーマで ある。しかし、症状を入力するとコンピュータが既知の情報に当てはめて、病名を推論するという方法は、ソ ーシャルワークにおけるインテーク段階に利用できるかも知れない。簡単な心理・社会テスト的な項目をコ ンピュータに入れておき利用できるようにする。社会的問題を抱えているクライエントの中には、誰かに 相談に乗って欲しいと漠然と感じながらも「機関」に申し込むまでの決心ができていない場合が多い。「他 人に自分の恥をさらすことに抵抗がある」人々に対して、相談することの必要性(メリット)を感じさせる ことがコンピュータ面接にはできるのではないかと思えるのである。極端にいえば、ゲーム占いでもする感覚で コンピュータの質問に答えることで、社会資源の例示等がされ機関に行くことが促されれば、正式な面接 を受け安くなるのではなかろうか。
ここにあげた例は筆者の思いつきではあるが、現にアメリカにおいてはインテ ーク段階の作業を、ある程度コンピュータに代替させるシステムが開発・試行されている。実際、インテ ーク段階においてクライエントがコンピュータのモニターに向かいながら質問にボタンで回答していく方式は クライエントにとってかなり行為的に受け入れられたことが報告されたという。(*12)
 5)のコンピュータによる体力測定診断は、測定結果をコンピュータに入力す ると、年齢や性別との関わりで、健康度等が得点化されて表示されるといった類のものであり、比較的普及 しているものである。
 5.その他
 特に、どの分野に分類するという性格のものではないが、「事件」に関する 記事が8本とまとまっている。施設における入所者からの預り金の職員による着服といった、金銭管理がずさ んなケースが一部あるため、パソコンを各施設に導入して、金銭管理を県として徹底しようとする熊本の 例(90.06.23熊本日日)等は、その好例であろう。しかし、一方で、年金福祉協会からの入金をコンピュー タ操作によって着服した銀行の支店長代理のケースや、行政が開発したコンピュータシステムのコピーを盗 みだし、コンピュータソフト会社に渡した、福祉保険年金課の係長のケース等もある。事故防止のためのコ ンピュータが逆に事件の原因や手段ともなり得ることには注意しなければならないだろう。
 
 また、障害者施設や老人ホームといった分類ではなく、「施設」におけるコ ンピュータ利用といった視点からの記事も8本ある。具体的には、企業が社会福祉施設管理システムを開発 したという類の記事が4本となっている。福祉施設経営へのコンピュータ導入を、企業側が考えていると いうことであろう。その中でも、身体障害者の雇用促進を目的に設立された姫路市のコンピュータソフト会社 が、保健・福祉関係に絞って業績をあげているという記事は面白い(86.06.24日経 他)。企業が注目し だしたとはいえ、まだまだマーケットが小さく、多くの大企業が参加しているとはいえない状況下では、こ のような企業の存在は雇用対策の側面でも、良いソフトの作成という側面でも有意義であろう。
 施設における、コンピュータの導入は、大きく分けて「事務系」と「処遇系 」の二通りの利用法が考えられる。「事務系」におけるコンピュータ利用は、給与、人事、会計といった施設 事務にコンピュータを導入することで効率化をはかろうとするものである。それに対して、「処遇系」とは ケース記録の管理や医療関係の情報等をコンピュータ化することで、クライエントの直接処遇を向上させる ものである。1988年の全国老人ホーム調査によれば、既導入ホームは22.5% であった。その内、事務系の 利用をしている施設は98.5%、 処遇系は 77.4%となっている(88.07.07共同)。表面的な数字を見ると 、処遇系の利用も結構多いようであるが、栄養管理やクライエントの預かり金管理といった利用法も含まれ ているので、本来の直接処遇に関わる利用法はずっと低い。
 6.まとめ
 本章で述べてきたことをまとめると以下のようになる。
 ・コンピュータ利用の進んでいる、福祉関係の分野としては、障害関係、老 人関係、行政関係、保健医療関係といったところである。
・障害関係の記事をさらに分類すると、概ね以下のような事実が明らかになっ た。
 ・肢体不自由関係:コンピュータ技術者としての障害者の雇用に関する試み と、コミュニケーションエイドとしてのコンピュータ利用が進んでいる。
 ・視覚障害関係:パソコンを導入することで、点訳の自動化を果たし、さら に再生産もできるという変革が可能となった。
 ・光学読み取り装置や、音声合成装置等に関する研究も進み一部実用化が始 まっている。
 ・聴覚言語障害関係:コミュニケーションエイドとしての利用と、緊急情報 伝達装置としての利用がめだつ。
 ・障害の種別を越えたところで、コンピュータ通信が、伝達装置として果た す役割も今後注目される。
 ・老人福祉分野におけるコンピュータ利用としては、第一に独居老人の緊急 通報システムがあげられる。
 ・痴呆老人の徘徊チェックシステムとしてのコンピュータ利用等もある。
 ・行政関係の記事としては、住民が行政の持つ情報を自由に手に入れられる ようにしていこうとする情報提供システムの開発が進んでいる。
 ・行政の持つ、クライエント情報を集中管理することで、処遇のレベルをあ げようという情報管理システムについての開発も進んでいる。ただし、プライバシーの侵害に対する危険性が 絶えず議論されている。
 ・保健医療分野においては、患者のデータをコンピュータに入力し、継続的 に管理していこうとする健康管理情報システムの実践が進み出している。
 ・さらに、その将来的形態としての保険証のICカード化といった実験も進 んでいる。
 ・人工知能医療システムについても範囲を限定してではあるが、研究・開発 が始まっている。
 ・施設におけるコンピュータ利用としては、会計管理や給与管理といった事 務系のシステムの導入は進んでいる。
 ・それに対して、ケース記録管理や面接システム等といった処遇系のシステ ムは、研究途上といった段階である。
 ・その他、コンピュータ化に伴う「事件」の発生にも注意が求められている 。    

 
終わりに−今後に向けて−
 コンピュータ利用に関する研究は、個々の福祉研究者レベルでは徐々におこ なわれ始めているものの、隣接領域である教育分野の蓄積や、米国のソーシャルワーク界の蓄積と比較し てみると、まだまだの段階であることが明らかになった。一方、実践の積み重ねは、新聞記事データベー スの件数を見ても分かるように、確かに各分野において行われている。しかし、年次別にみたときには必 ずしも増加傾向にあるとはいえない。このようなことからして、日本の福祉分野においては、コンピュータ 利用に関する研究・実践は、始まってはいるが、立ち上がる(急激に質量ともに充実を始める)段階にまで は至っていないといえそうである。
 とはいえ、第3章で触れたように、福祉実践のいくつかの分野に限定されて はいるものの、コンピュータの応用・開発が進みだしてはいる。
 確かに、障害者のコミュニケーションエイドとしての利用法は今後とも重要 であることは間違いない。しかし、実践事例のほとんど見つからなかった、分野でも今後コンピュータを導入 していくことは可能ではないかと思われるのである。例えば、養護施設でコンピュータ通信を利用すること で、他地域の仲間との交流をし体験の幅を広げることや、精神薄弱児・者施設でCAIを利用しての教育 を実施するなどいろいろな、可能性が考えられるのである。
 また、施設・機関における処遇系のソフト開発についても一言触れておきた い。ケース記録をコンピュータに入力することでより科学的な処遇をめざそうといった利用法は、現在複数 の所で研究・開発され、現に一部では利用されている。しかし、相当研究が進んでいる割には、普及して いないというのが現実である。それは、現場のニードで作られたというより、研究者サイドのニードで作 れたため「あれも聞きたい、これも聞きたい」と欲張ってしまい、入力すべき項目が多すぎる。そのため、 コード表を見ながら回答しなければならない、といったことになり、現場ワーカーにとっての負担が重すぎ るといったことが理由なのではなかろうか。その点を工夫し「簡単に入力できる」システムにすることで、事 務系・管理職のためだけのコンピュータから、施設指導員も利用できるコンピュータになり、処遇の向上につ ながるのではなかろうか。
 さらに言うならば、それは、将来的にはワーカーとクライエントの相互確認 的なものとなって行くべきだろう。例えばアメリカのレポートにあるように(*13)、面接を受けているク ライエントは、月一回コンピュータを使っての「クライエント評価システム」に回答し、その結果をコンピュータ 画面でワーカーとともに話し合いながら、先月の振り返りをし、今月の課題やテーマを決めていくといった使 い方である。
 最後に、コンピュータ利用といえば、「人手が要らなくなる」「早いし確か だが非人間的」といった印象がある。しかし、コンピュータを利用することで人間と人間の触れ合いが促され 、既成の壁を乗り越えることができるということこそが、今後の福祉分野におけるコンピュータ利用の大きな 役割なのではなかろうか。コミュニケーションエイドとしての福祉機器、やコンピュータ通信等はその代表例 であろう。
 その意味では、「独居老人のための、緊急通報システムの受信センターを、 地域の障害者施設が引き受け、維持の一部を入所障害者がボランティアとして引き受けている」という事 例は、今後の方向性を考えるに当たって大変示唆的である。    

 
*1:「社会福祉分野におけるコンピュータ利用の現状と可能性」   『研究報告集 第27集』p.p.33-37  平成2年12月
   大阪私立短期大学協会 Telebase Systems, Inc.の運営する、Easy Netを通して14のデータベースに アクセスして調べたもの。
*2:『情報資源管理−統合システム構築を目指して−』海老澤栄一他著 1 989年 日刊工業新聞社
*3:"ENCYCLOPEDIA OF SOCIAL WORK 18TH. ED." 1987 NASW
*4:今回の論文において触れた研究者等はいずれもデータベースが更新され た時点での職場、ステータスである。従って、当然それ以降転職、昇進がおこなわれている可能性はあ る。以下同じ。
*5:「カタカナ」や「ひらかな」でキーワードを入力し検索することになる データベースでは、このような同音異義語が検索されてしまうことも多い。
*6:大阪府立大学の太田義弘教授によるソーシャルワーク実践の評価システ ムとしてのコンピュータ利用の試み。関西学院大学の立木助教授等の援助技術演習へのコンピュータ利用 。同志社大学の岡本民夫教授の一連の論文。特別養護老人ホームるうてるホームの坪山孝施設長によ る、勤務表作成システムとしてのコンピュータ利用。等が、筆者が個人的に知っている範囲でも例示で きる。
*7:現実に、自然科学系学会の幾つかが、学会誌の論文を全文入力し検索で きるようにした、全文データベースを作成し、学術情報センターを通しての利用が可能になりだしている 。このことによって、研究者が得られる便は大きい。日本社会福祉学会等においても今後志向していくべき 方向ではなかろうか。
*8:反対に、検索漏れの可能性も当然ある。コンピュータという言葉は本文 中にでてこないが、パソコンという言葉がある場合や、ボランティアという言葉はあるが福祉という言葉の ない場合などである。必ずしも、各紙記事が時系列的に増加していないことに影響しているかも知れない 。
*9:もちろん、分類不能な記事もあれば、逆に複数の分野に重複する内容の 記事もある。あくまでも筆者の便宜的な分類になる。
 *10:ポルノを性差別の問題としてとらえれば、事情は全く異なってくる 。ただし、そのときでも「男性は云々」という議論はありえても「視覚障害者はダメ」という議論にはなるべき ではない。
*11:生活保護関連の記事は現実的には行政関連の記事であるのでここに含 めることとする。
*12:坂田周一「社会福祉におけるコンピュータ利用の動向」日本社会事業 大学編『社会福祉の開発と改革』P.322 1990年 中央法規出版
*13:Carton F. "Perk" Clerk"Computer applications in social work"   SOCIAL WORK RESEARCH & ABSTRACTS Vol.24 No.1 1988 NASW
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