自殺/自死で遺された遺族の為に

最初に伝えたいこと

中原 憬 (Kei Nakahara)

あなたは、いま、絶望という暗闇に閉じ込められているのかも知れません。
あなたは、いま、慟哭という感情の嵐に翻弄されているのかも知れません。

焼きつくような後悔があるのかも知れません。
凍りつくような虚しさがあるのかも知れません。

その出来事は、あまりに残酷で、無慈悲でした。
そんなことはあってはならなかったことなのです。何かの間違いであるはずなのです。

きっとあなたは、突然に起きた信じがたい出来事に、道を見失っていることと思います。
無理もありません。人生にこんなにひどいことが起こり得るなんて誰も思いはしないのですから。おそらく言葉に尽くせないような悲しみと苦しみに心をボロボロにしていることと思います。

いまは、激しい精神的なショックと、感情の嵐に自分の魂が奪われてしまっているような状態だと思います。果てしないと思える悲しみに、涙が止め処なく流れ落ちているのでしょう。
いま、まったく何の希望も見出せないかも知れません。
何もかも失ったと感じているのかも知れません。
ただただ、後を追って死ぬことしか思い浮かばない状態なのかも知れません。

でも、聞いてください。
必ず、あなたは立ち直ることができます。

実際、多くの遺族が同じ道を先に歩いて行きました。−−−私もその一人です。

*      *      *

もう、遠い昔、私が15歳の頃の話ですが、母が自殺しました。

最初は、起きた出来事がうまく認識できず、葬式でもほとんど泣きませんでした。
ただ、心の中が割れたガラスでいっぱいになったような痛みがありました。
やがて、自ら死を選んだ母が、切なくて、哀しくて、涙を流すことしかできなくなりました。
悲しみ、苦しみ、後悔、虚しさ、孤独、悔しさ、絶望、自分に対する怒りなど、負の感情の嵐が巻き起こり、心の中を圧倒していきました。また、身内が自殺したという現実が恐ろしく、新聞の「自」という活字にさえ怯えました。近所の人達の残酷な好奇心を避けるように、家に引きこもりがちになりました。

自分の部屋にいる間は、滂沱(ぼうだ)のごとく涙をこぼし続け、ただ泣くことしかできませんでした。親孝行をまったくしない内に、親不幸で死なせてしまった悔悟の涙を流しました。母の薄幸な人生を思い、その切なさ、つらさ、苦しみを想像して涙を流しました。

時間を戻してほしい、自分の命と引き換えに生き返らせてほしいと、数え切れないほど神に祈りました。
しかし、どれほど心から祈っても、神様は沈黙を守ったまま、何の返答もしてくれはしませんでした。
手の届かない遠くに過ぎ去ってしまった、普通に過ごせていた日々は一体何と幸せだったのだろうと思ったものです。世の中に、こんな苦しみが待ち構えていたなんて。なぜ、世の中にはこんな残酷なことが起こるのか。

ただただ、悲しく、苦しく、いたたまれない日々でした。
昼間は普通に何食わぬ顔をして、時には笑いながら過ごし、しかし、夜になると、身も世もない悲しみに煩悶し、獣のように泣いていました。泣き疲れると、死ぬことばかりを夢見ていました。

やがて、果てしなく思えた深い悲しみも、夜が明けるように少しずつ、少しずつ光が満ちてきました。そのことは、振り返ったときに初めて分かるものです。

*      *      *

いまは、きっとあなたも生きる気力も根こそぎにされるような、感情の嵐と絶望の暗闇の中にいることと思います。実に過酷な体験です。

しかし、やがて、必ず、嵐は止みます。光も差してきます。
時間の流れが、あなたを救い上げてくれるのです。

そのことが、私が、あなたに最初に伝えたいことです。







自殺/自死で遺された遺族の為に


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